JP4200479B2 - 超硬合金製圧延用複合ロール - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、靭性に優れる鋼系または鉄系材料からなる内層の外周に、高硬度の超硬合金からなる外層を形成した圧延用複合ロールに関する。
【0002】
【従来の技術】
圧延においては、肌品質の向上、耐摩耗性の向上の要求から、高硬度の材質が用いられる傾向があり、最も耐摩耗性が要求される用途においては、粉末金属系材料や硬質粒子を含有するサーメット系ロールも用いられている。その中でも超硬合金製ロールは、優れた耐摩耗性、耐クラック性を有することから、仕上スタンドを中心として多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、WC−Co−Ni−CrのWC系超硬合金で構成した線材圧延用ロールが記載されている。この線材圧延用ロールは、超硬合金単体を焼結した小型のスリーブロールであり、靭性に優れた鋼製のロール軸材に0.1/1000程度の焼嵌め率で嵌合し、そのスリーブロールの側面を固定リング、スペーサーリングなどにより押圧固定して機械的に組立てたものである。この種の超硬合金製スリーブロールの寸法は、外径が100〜500mm、回転軸方向の長さが10〜300mm程度の比較的短尺なものである。
【0004】
特許文献2には超硬合金と鋼材を金属的に接合した複合ロールが提案されている。これは鋼材からなる内層を形成するスリーブの外周に、周期律表のIVa〜VIa族元素の炭化物、窒化物および炭窒化物の硬質粒子の少なくとも1種または2種以上を60〜90重量%と、残部実質的にFe、Ni、Co、Cr、Mo及びWの少なくとも1種または2種以上の金属粉末とからなる混合粉末を焼結すると同時に拡散接合させた超硬合金製の外層を有し、外層表面に100MPa以上の円周方向の圧縮残留応力を付与した複合スリーブを、ロール軸材に嵌合固定したものである。また、特許文献3には超硬合金と鋼製の中実軸材を金属的に接合した中実構造の複合ロールも提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特公昭58−39906号公報
【特許文献2】
特開平10−5823号公報
【特許文献3】
特開平10−5824号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように超硬合金製スリーブをロール軸材に嵌合したロールの場合、固定リング、スペーサーリング、皿バネ、ナットなど多くの部材が必要で組立て構造が複雑であり、かつ高い組立て精度を要求されるので組立てに係わる工数や費用がかかるという問題がある。また、ロール胴部の長さに対して、超硬合金の占める部分つまり圧延に使用できる部分が半分以下であり効率的でない問題がある。
【0007】
さらに、超硬合金は熱伝導率が高いため、圧延使用時に超硬合金の温度が上昇しやすく、その熱が鋼製のロール軸材に伝わりやすく、ロール軸材が大きく膨張する。そこで、超硬合金の熱膨張係数は鋼より小さいので、超硬合金製スリーブには半径方向および軸方向に引張り応力が付与される。焼嵌め時の締め代が大きい場合、半径方向の引張り応力が高くなり過ぎると、超硬合金製スリーブの内面から割れを引き起こすおそれがある。また、逆にこのような割れを懸念するあまり焼嵌め時の締め代が小さい場合、圧延中に超硬合金製スリーブが滑るおそれがある。
【0008】
一方、特許文献2および特許文献3においては、従来の組立て式超硬ロールにおける固定リング、皿バネ、ナットなどが不要であり、ロール胴部長さの全表面を外層で構成するため圧延に使用できる部分を拡大できる利点を有する。
【0009】
また、超硬合金製複合ロールは、靭性の高い内層と複合化した構造であるから、ロール軸材との締結に焼嵌めやキー止めを用いることが可能なため、板圧延用ロールを含めた各種ロールへの適用が可能である。
【0010】
しかし、軸材への焼嵌めによる焼嵌め応力や、圧延の負荷による繰り返し応力がロールに作用し、ロール強度設計上、超硬合金の外層と鋼系材料等の内層との境界の接合層の強度が最もロール破壊に対して影響を与える。特に、ロール表面からの割損を防ぐため、ロール表面に圧縮残留応力を付与している場合、外層と内層との境界部にはロール半径方向に引張成分の残留応力が作用しており、さらに境界からロールが破壊するおそれが高まる。このようなロール割損を防ぐため、境界部の接合強度の増加が必要となる。
【0011】
強度の高い境界層を形成する方法として、超硬合金の外層と鉄系あるいは鋼系材質の内層との中間に、WC粒子で形成した超硬合金からなる中間層を介在させることが有効である。しかし、中間層と鉄系あるいは鋼系材質の内層との接合界面では、両者の炭素活量差により、中間層から鉄あるいは鋼層に炭素が拡散移動し、境界近傍の超硬合金層の炭素が欠乏し、η相と呼ばれる層が形成され、材料強度の低下が起こる。
【0012】
したがって、本発明は、η相の発生を抑えて強度的に信頼性の高い中間層を形成した超硬合金製圧延用複合ロールを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、超硬合金からなる外層と、鉄系または鋼系合金からなる内層との間に、少なくとも1層以上の超硬合金からなる中間層を形成した超硬合金製圧延用複合ロールであって、該中間層のWC含有量が外層のWC含有量より少なく、該中間層は超硬合金原料粉末に炭素粉末を添加した中間層形成用素材を用いて形成したことを特徴とする。
【0014】
前記本発明において、中間層形成用素材が、粉末、仮焼結体および焼結体のうちのいずれかからなることを特徴とする。また、中間層中の炭素含有量/WC含有量の重量比率が5.5%以上であることを特徴とする。さらに、中間層の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0015】
【作用】
超硬合金の外層と鉄系あるいは鋼系材料の内層との境界に介在させるWC系超硬合金からなる中間層は、十分な接合強度を確保するためにη相のないものが望ましい。η相は、WC−Co合金の2相組成領域から低炭素側にシフトすることによって、より炭素量の少ない安定層として出現する。中間層と鉄あるいは鋼系内層が拡散接合する際、炭素活量の差により、中間層側から内層側に炭素が拡散移動し、中間層側の炭素が低下することにより、特に内層との接合界面でη相が発生しやすい。
【0016】
本発明は、このような中間層の炭素低下によるη層の発生を防ぐために、超硬合金原料粉末に炭素粉末を添加した中間層形成用素材を用いて中間層を形成せしめ、すなわち予め中間層形成用素材に炭素を富化させておき、たとえ内層に炭素が拡散移動してもη相が発生しないようにするものである。
【0017】
η相発生防止のため、中間層の組成として、WC含有量に対する炭素含有量(炭素含有量/WC含有量)の重量比率を5.5%以上とすることが有効である。さらに、中間層の厚みが1mm以上であれば、内層への炭素の拡散が起きてもη相が発生しにくいので有効である。
【0018】
本発明の複合ロールの製造方法として、鋼系または鉄系材料からなる内層を用いて、真空焼結、加圧焼結ないしは熱間静水圧プレス(HIP)法により超硬合金からなる外層を接合させる。ロールの構成は、中実の複合ロールでもよく、複合スリーブロールを鋼等の軸材に焼嵌めて組み立てたものでも良い。
【0019】
【発明の実施の形態】
(実施例1)
まず、外層形成用の超硬合金原料粉末として、平均粒径が5μmのWC原料粉末、平均粒径が1μmの1種類のCo原料粉末を用意し、それぞれを重量%でWC原料粉末80%、Co原料粉末20%の割合で配合し、ボールミルで20時間湿式混合した後、乾燥し、外層形成用の超硬合金原料粉末とした。
【0020】
また、外層と内層の間に配置する中間層形成用の超硬合金原料粉末として、平均粒径が3μmのWC原料粉末、平均粒径が1μmのCo粉末を用意し、重量%でWC原料粉末30%、Co原料粉末70%の割合で配合した。
【0021】
そして、この配合した超硬合金原料粉末に、炭素粉末をWC粉末100重量部に対し1重量%の割合で添加し、それをボールミルで20時間湿式混合した後、乾燥し、中間層形成用素材とした。
【0022】
前述の外層形成用の超硬合金原料粉末を用いて、外径300mm、内径240mm、長さ500mmの超硬合金製の仮焼結体からなる中空スリーブを作製した。
【0023】
また、内径φ310mm、長さ550mmのHIP缶の中央に、内層として、外径φ220mm、内径φ160mm、長さ500mmの中空円筒状のSCM440を配置した。そして、前記超硬合金製の中空スリーブを内層の周りに挿入した。
【0024】
次いで、内層の外面と中空スリーブの外層の内面との間に形成された空隙に、前記の中間層形成用素材を充填した。その後、HIP缶を鋼の蓋で溶接密封した後、700℃にて真空ポンプで脱気処理を行なった。HIP缶にリークが生じていないことを確認した後、1350℃、1400気圧にてHIP処理を行なった。冷却後、HIP缶を加工除去し、超音波探傷検査にて、外層、中間層および内層の接合が健全であることを確認した。
【0025】
また、中間層の化学組成分析を実施し、含有する炭素の重量割合が、WCの重量割合の5.9%であることを確認した。さらに、組織観察により中間層と内層の境界接合部付近には、η相が発生していないことを確認できた。
【0026】
また、ロール直径方向に、内層、中間層および外層を含む境界接合部の抗折試験片を切り出し、JIS R1601に準拠した抗折試験を行ない、坑折強度を測定した。坑折強度は1780(MPa)であり十分な強度を得ることができた。
【0027】
(実施例2)
外径730mm、長さ2300mmの鋼で構成されるHIP缶に、外径480mm、内径300mm、長さ2500mmの中空円筒状の内層となる鍛鋼を設置し、この内層の周囲に内径490mm、厚み2mmの仕切りとなる鋼管を配置した。
【0028】
平均粒径が7μmのWC原料粉末、平均粒径が1μmのCo原料粉末を用意し、WC原料粉末85%、Co原料粉末15%の割合で配合し、ボールミルで20時間湿式混合した後、乾燥し、外層形成用の超硬合金原料粉末を作製し、これをHIP缶の内面と鋼管の外面との間の空隙に充填した。
【0029】
また、鋼管の内面と内層の外面との間の空隙に中間層形成用素材として、平均粒径3μmのWC粉末30%、平均粒径1μmのCo粉末70%の超硬合金原料粉末に、炭素粉末をWC粉末100重量部に対し1.5重量部の割合で添加したものを充填した。充填後、仕切りの鋼管を引き抜きいた後、次いでHIP缶を鋼の蓋で溶接密封し、700℃にて真空ポンプで脱気処理を行なった。HIP缶にリークが生じていないことを確認した後、1300℃、1400気圧にてHIP処理を行なった。
【0030】
実施例1同様に、外層、中間層および内層の接合が健全であり、化学分析により、中間層の炭素含有量がWC含有量の6.1%であることを確認した。また、組織観察により中間層と内層の境界接合部付近には、η相が発生していないことを確認できた。また、内層、中間層および外層を含む境界接合部の抗折試験片において、坑折強度は1630(MPa)であり十分な強度を得ることができた。
【0031】
(実施例3)
内径φ310mm、長さ550mmのHIP缶の中央に、内層として、外径φ220mm、内径φ160mm、長さ500mmの中空円筒状のSCM440を配置した。
【0032】
外層と内層の間に配置する中間層形成用の超硬合金原料粉末として、平均粒径が3μmのWC原料粉末、平均粒径が1μmのCo粉末を用意し、重量%でWC原料粉末40%、Co原料粉末60%の割合で配合した。
【0033】
そして、この配合した超硬合金原料粉末に、炭素粉末をWC原料粉末100重量部に対し2重量%の割合で添加し、それをボールミルで20時間湿式混合した後、乾燥し、中間層形成用の混合粉末とした。
【0034】
中間層形成用の混合粉末をCIPまたはプレスにて成形を行った後、真空焼結炉を用いて1000℃にて仮焼結を行ない、厚み2mmで相対密度63%の中間層形成用素材を作製した。そして、内層の外周に中間層として中間層形成用素材を配置した。中間層形成用素材は仮焼結体であるため内層の外周に容易に配置することができた。
【0035】
その後、中間層形成用素材の外面とHIP缶の内面との間に形成された空隙に、外層として重量比でWC:80%、Co:20%からなる超硬合金粉末を充填した。次いで、HIP缶を溶接密封し、真空ポンプで脱気処理した後、HIP処理を行なった。
【0036】
実施例1同様に、外層、中間層および内層の接合が健全であり、中間層の化学分析により、中間層の炭素含有量がWC含有量の6.0%であることを確認した。さらに、組織観察により中間層と内層の境界接合部付近には、η相が発生していないことを確認できた。また、内層、中間層および外層を含む境界接合部の坑折強度は十分な強度を得ることができた。
【0037】
(実施例4)
内径φ200mm、長さ2000mmのHIP缶の中央に、SCM440からなる中実状の内層を配置し、内層の外面とHIP缶の内面との間に形成された空隙に、ロール外層として重量比でWC:80%、Co:20%からなる超硬合金素材を挿入した。なお、この外層形成用超硬合金素材は、予めプレスを用いて成形し、真空焼結炉を用いて焼結しておいたものである。
【0038】
外層と内層の間に配置する中間層形成用の超硬合金原料粉末として、平均粒径が3μmのWC原料粉末、平均粒径が1μmのCo粉末を用意し、重量%でWC原料粉末50%、Co原料粉末50%の割合で配合した。
【0039】
そして、この配合した超硬合金原料粉末に、炭素粉末をWC原料粉末100重量部に対し2重量%の割合で添加し、それをボールミルで20時間湿式混合した後、乾燥し、中間層形成用の混合粉末とした。
【0040】
中間層形成用の混合粉末をCIPまたはプレスにて成形を行った後、真空焼結炉を用いて1300℃にて焼結した。このようにして、相対密度98%の焼結体からなる厚み2mmの中間層形成用素材を得た。この中間層成形素材の化学分析を行ったところ、中間層に含有する炭素が含有WC量の6.2%であることを確認した。
【0041】
そして、前述の外層形成用超硬合金素材の内面と内層の外面との間の隙間に、中間層形成用素材を挿入し、HIP缶を溶接密封し、真空ポンプで脱気処理した後、HIP処理を行なった。
【0042】
実施例1同様に、外層、中間層および内層の接合が健全であり、組織観察により中間層と内層の境界接合部付近には、η相が発生していないことを確認できた。また、内層、中間層および外層を含む境界接合部の坑折強度は十分な強度を得ることができた。
【0043】
【発明の効果】
本発明の超硬合金製圧延用複合ロールによれば、ロールの外層は耐摩耗性に優れるとともに、η相の発生を抑えて超硬合金からなる高強度の中間層を具備させ、強度的に信頼性の高い超硬合金製圧延用ロールを得ることができる。

Claims (4)

  1. 超硬合金からなる外層と、鉄系または鋼系合金からなる内層との間に、少なくとも1層以上の超硬合金からなる中間層を形成した超硬合金製圧延用複合ロールであって、該中間層のWC含有量が外層のWC含有量より少なく、該中間層は超硬合金原料粉末に炭素粉末を添加した中間層形成用素材を用いて形成したことを特徴とする超硬合金製圧延用複合ロール。
  2. 前記中間層形成用素材が、粉末、仮焼結体および焼結体のうちのいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金製圧延用複合ロール。
  3. 前記中間層中の炭素含有量/WC含有量の重量比率が5.5%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の超硬合金製圧延用複合ロール。
  4. 中間層の厚みが1mm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超硬合金製圧延用複合ロール。
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