JP3684083B2 - 乾式トナーの製造方法、及び乾式トナー - Google Patents
乾式トナーの製造方法、及び乾式トナー Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真法、静電記録法、磁気記録法、トナージェット法等を利用した記録方法に用いられる乾式トナー(以下、単にトナーとも称す)の製造方法、及び、該製造方法で得られる乾式トナーに関する。更に詳しくは、複写機、プリンター、ファクシミリ、プロッター等として利用し得る画像記録装置に用いられるトナーの懸濁重合法等による製造方法、及び、該製造方法から得られるトナーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子写真法としては、米国特許第2,297,691号明細書、特公昭42−23910号公報及び特公昭43−24748号公報等に種々の方法が提案されている。静電荷像を現像する方法は、乾式現像法と湿式現像法とがある。又、乾式現像法は、二成分現像剤を用いる方法と一成分現像剤を用いる方法とに分けられる。乾式現像法に適用するトナーは、一般に、主成分として、結着樹脂、着色剤、及びワックス類を含有してなる着色樹脂微粒子であり、通常、その粒子径は個数平均粒径で6〜15μm程度である。このような着色樹脂微粒子からなるトナーの製造方法としては、結着樹脂、染顔料及び/又は磁性体の如き着色剤、ワックス類等を溶融混練し、混練物を冷却後、粉砕し、更に粉砕物を分級してトナー粒子を得る、所謂、粉砕法による製造が一般的である。
【0003】
このような方法によって製造されるトナーは、現像される静電荷像の帯電極性に応じて、正又は負の電荷を有するように構成する必要がある。トナーに電荷を保有せしめるためには、トナーの主成分である結着樹脂の摩擦帯電性を利用することもできるが、これだけではトナーの帯電性は低いものになる。そこで、所望の摩擦帯電性をトナーに付与するために、荷電制御剤をトナー中に添加することが行われている。このような荷電制御剤を含有するトナーは、比較的高い摩擦帯電量を示す場合があるものの、一般に、高湿下においては摩擦帯電量の低下がみられ、一方、低湿下においてはトナーの帯電速度の低下がみられる。
この原因の一つとして、トナー中に含有されている荷電制御剤付近での水分の吸脱着が考えられる。即ち、高湿下では、荷電制御剤への吸着水量が増大するため摩擦帯電量が低下し、低湿下では、荷電制御剤中の吸着水量が減少するため抵抗が高くなり、帯電速度が低下するものと考えられる。
【0004】
これに対して、荷電制御剤への水分の吸着をコントロールすることにより摩擦帯電量や帯電速度の低下を抑制するために、芳香族オキシカルボン酸やアゾ染料等を利用することが考えられている。例えば、特開平4−347863号公報や特開平4−170557号公報では、芳香族オキシカルボン酸やアゾ染料を含有せしめたトナーの提案がなされている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらの化合物をトナー中に含有せしめれば、特定の処方や条件下においては確かに摩擦帯電量や帯電速度の改善がなされるが、その一方で、トナーがスリーブ等のトナー担持体に付着し易くなり、複写を続けるていくとトナー担持体を汚染するといった別の問題を生じることがわかった。
【0005】
一方、近年、電子写真画像の更なる高画質化、高解像度化の要求に伴って、トナーの小粒径化、高機能化の目的で、水系分散媒体中での重合法によるトナーの製造方法が種々提案されている。例えば、特公昭36−10231号公報、特公昭51−14895号公報、特開昭53−177735号公報、特開昭53−17736号公報、及び特開昭53−17737号公報に記載されている。上記の方法では、結着樹脂の原材料である重合性単量体中に、染料や顔料等の着色剤(例えば、磁性体、カーボンブラック)、帯電制御剤、トナー中に内包すべき物質(例えば、ワックス成分やシリコーンオイル等の離型剤等)やその他の添加剤を、必要に応じて重合開始剤や分散剤と共に溶解、或いは分散させて重合性単量体組成物を調製し、得られた重合性単量体組成物を、予め調製しておいた分散安定剤が含有されている水系分散媒体(水系連続相)に入れ、分散装置を使用して分散させて微粒子状の粒子を造粒し、その後、この造粒粒子中の重合性単量体を重合させて固化することによって、所望の粒径及び組成を有するトナー粒子を得ている。
【0006】
上記の重合法を利用したトナーの製造方法では、特性に優れた小粒径トナーが容易に得られるばかりではなく、粉砕トナーの場合と異なり、混練や粉砕といった工程が不要であるため、製造に要するエネルギーの節約、工程収率の向上、コスト削減といった効果も期待される。
しかし、水系分散媒体中に形成した造粒粒子中の重合性単量体を重合させる上記の方法では、トナーの構成材料と水系分散媒体との接触面積が大きいので、造粒粒子中に含まれていた極性基を多く含有する親水性化合物が、水系分散媒体へ溶出し、効果的にトナー粒子中に含有させることが困難になる場合があった。本発明者らの検討によれば、前記の芳香族オキシカルボン酸を含有するトナー粒子を重合法によって水系分散媒体中で製造した場合には、芳香族オキシカルボン酸の水系分散媒体中への溶出が特に著しく、これらの化合物をトナー粒子中に効率よく含有させることが困難であり、含有されたものに関しても、その高極性のためにトナー表面に析出し易く、それがトナー担持体を汚染するといった問題を生じることがわかった。
【0007】
更に、荷電制御剤への水分の吸着をコントロールすることにより摩擦帯電量の低下を抑制し得る物質としてトナーに添加させたはずの芳香族オキシカルボン酸が、トナーの製造方法に起因してトナー表面に多く存在するようになると、特に高温高湿環境下で過剰の水分がトナー表面に吸着してしまい、摩擦帯電速度の低下を引き起こすという新たな問題もあった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、トナー粒子中に芳香族オキシカルボン酸を含有させたトナーを重合法によって製造する際に、上記の如き従来技術の問題点を解消し、摩擦帯電量や摩擦帯電速度の低下を生じることなく、且つ、画像形成装置とのマッチングに優れたトナーを容易に得ることが可能な乾式トナーの製造方法を提供することにある。又、該製造方法により得られた優れた特性の乾式トナーを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。即ち、本発明は、少なくとも重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、及び下記一般式(1)で示される芳香族オキシカルボン酸を含有する重合性単量体組成物を、水溶性重合禁止剤が含有されている水系分散媒体中に分散し、該水系分散媒体中で上記重合性単量体組成物の粒子を造粒後、該重合性単量体組成物の粒子中の重合性ビニル系単量体を重合してトナー粒子を生成する乾式トナーの製造方法において、重合性ビニル系単量体100重量部に対する前記芳香族オキシカルボン酸の含有量A(重量部)と水溶性重合禁止剤の含有量B(重量部)との比(A/B)が5〜100となるように調整され、且つ、芳香族オキシカルボン酸の含有量Aが0.01〜3重量部であることを特徴とする乾式トナーの製造方法、及び該製造方法によって得られた乾式トナーである。
【0010】
【化5】
【化6】
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて本発明を詳細に説明する。
本発明のトナーの製造方法は、少なくとも重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、及び下記一般式(1)で示される芳香族オキシカルボン酸を含有する重合性単量体組成物を、水溶性重合禁止剤が含有されている水系分散媒体中に分散し、該水系分散媒体中で上記重合性単量体組成物の粒子を造粒後、該重合性単量体組成物の粒子中の重合性ビニル系単量体を重合してトナー粒子を生成する乾式トナーの製造方法において、重合性ビニル系単量体100重量部に対する前記芳香族オキシカルボン酸の含有量A(重量部)と水系分散媒体中の重合禁止剤の含有量B(重量部)との比(A/B)の値が5〜100となるように調整され、且つ、芳香族オキシカルボン酸の含有量Aが0.01〜3重量部であることを特徴する。
【0012】
本発明者らは、従来技術の問題点を解決すべく鋭意検討の結果、水系分散媒体中に形成した造粒粒子中の重合性ビニル系単量体を重合させてトナーを製造する場合に、重合性単量体組成物中に含まれる芳香族オキシカルボン酸の含有量と水系分散媒体中に含まれる水溶性重合禁止剤の含有量とを特定の割合となるように制御すれば、芳香族オキシカルボン酸が良好な状態でトナー中に含有されて、摩擦帯電量や摩擦帯電速度の低下を生じることなく、しかもトナー担持体等の汚染を生じることのないトナーを効率よく製造できることを知見して本発明に至った。
【0013】
即ち、荷電制御剤への水分の吸着をコントロールすることにより摩擦帯電量や帯電速度の低下を抑制する目的でトナー中に添加させる芳香族オキシカルボン酸は、親水性の官能基を多く有しているため、水系分散媒体中で形成した造粒粒子中の重合性単量体を重合させてトナー粒子を形成した場合に、芳香族オキシカルボン酸が水系分散媒体中へ溶出することが生じる。一般に、トナー粒子を重合法により形成する場合の重合反応はラジカル重合により行なわれるため、芳香族オキシカルボン酸が水系分散媒体へ溶出していると、重合性ビニル系単量体を重合させた場合に芳香族オキシカルボン酸へのラジカル転移が起こり、トナーを形成するための結着樹脂の一部と芳香族オキシカルボン酸が共有結合して、芳香族オキシカルボン酸がトナー表面に固定化することが考えられる。この場合、結果的に、多くの芳香族オキシカルボン酸がトナー表面に結合された状態で存在することになるので、過剰な水分がトナー表面に吸着し易くなる。従って、特に高温高湿環境下でこれらのトナーを用いて画像を形成すると、トナーの摩擦帯電量と帯電速度の低下を生じて良好な画像形成が損なわれたり、又、表面に析出した芳香族オキシカルボン酸によるトナー担持体やクリーニングブレードへの汚染に起因する問題が起こるものと考えている。
【0014】
これに対して、本発明のトナーの製造方法では、予め水系分散媒体中に水溶性重合禁止剤を含有させておくことにより、芳香族オキシカルボン酸への重合性ビニル系単量体のラジカル転移を抑制し、芳香族オキシカルボン酸がトナー表面近傍に固定化されることを未然に防止する。即ち、水系分散媒体中に水溶性重合禁止剤が含有されているので、水系分散媒体中に溶出した芳香族オキシカルボン酸の多くは、そのままの状態でトナー粒子表面に付着しているだけの状態にあるので、充分な洗浄により除去することができ、得られるトナーが、上記の如き摩擦帯電量や帯電速度の低下や、トナー担持体等への汚染といった画像形成装置とのマッチングに支障を生じることはない。
【0015】
従来、水系媒体中に水溶性重合禁止剤を含有せしめた状態で重合させるトナーの製造方法は、例えば、特開昭61−255353号公報、特開平5−61253号公報、特開平5−100484号公報及び特開平7−316209号公報に開示されているが、これらはいずれも、水系媒体中で重合法によりトナーを製造する際に発生する乳化重合的な機構による微小粒径の粒子の副生を抑制及び防止するための提案である。従って、水系媒体中で重合性ビニル系単量体を重合させてトナーを製造する場合に、芳香族オキシカルボン酸と結着樹脂の一部とによる共有結合の発生を抑制し、トナー粒子中に芳香族オキシカルボン酸を良好な状態で含有させ、その機能を充分に発揮させるために水系分散媒体中に重合禁止剤を含有させる本発明の考え方とは根本的に異なっている。
【0016】
本発明の乾式トナーの製造方法においては、重合性ビニル系単量体100重量部に対する前記芳香族オキシカルボン酸の含有量A(重量部)と水溶性重合禁止剤の含有量B(重量部)との比(A/B)の値が5〜100であって、且つ、芳香族オキシカルボン酸の含有量Aが、0.01〜3重量部の範囲内であることを満足するように調整される。即ち、本発明において使用する水溶性重合禁止剤は、水系分散媒体と該水系分散媒体中に形成した造粒粒子の界面付近に存在する重合性単量体が重合する際に、水系分散媒体中に溶出した芳香族オキシカルボン酸にラジカル転移することを抑制するために用いられるので、芳香族オキシカルボン酸と水溶性重合禁止剤の含有量の比(A/B)の値が100以下の割合で添加される。前記(A/B)の値が100を超えると水溶性重合禁止剤の添加効果が発現せず、トナーの帯電量や帯電速度の低下に起因する問題を生じる。又、場合によっては、水系分散媒体中に溶出した芳香族オキシカルボン酸によりトナーの形状コントロールが困難となる。一方、水系分散媒体に過剰の水溶性重合禁止剤が含有されると、造粒粒子中の重合性単量体の重合反応に影響が現れ、製造効率が低下したり、製造されたトナー粒子中の不純物量が多くなるため、画像形成装置とのマッチングに問題を生じるので、前記(A/B)の値を5以上とする必要がある。
【0017】
本発明のトナーの製造方法においては、トナー粒子中に芳香族オキシカルボン酸が均質に分散された状態のトナーが得られることが好ましい。このためには、重合性単量体組成物中に含有させる芳香族オキシカルボン酸の含有量が重要な要件となる。本発明においては、重合性単量体組成物中に重合性ビニル系単量体100重量部に対して、0.01〜3重量部の範囲で芳香族オキシカルボン酸を含有させてトナーを製造する。即ち、重合性単量体組成物中における芳香族オキシカルボン酸の含有量が0.01重量部未満の場合は、芳香族オキシカルボン酸を含有させることによって、トナー粒子中の荷電制御剤への水分の吸着をコントロールするという効果が充分に得られ難い。一方、芳香族オキシカルボン酸の含有量が3重量部を超えると、水相である水系分散媒体への芳香族オキシカルボン酸の溶出が著しくなるので、溶出された芳香族オキシカルボン酸への重合性ビニル系単量体のラジカル重合成長鎖のラジカル転移を防止するために多量の水溶性重合禁止剤を必要とするばかりか、水系分散媒体中の重合性単量体組成物の造粒粒子の分散状態が不安定化し、得られるトナー粒子の形状コントロールに新たな問題点を生じる。
【0018】
本発明のトナーの製造方法において用いる芳香族オキシカルボン酸は、以下の一般式(1)で示される化合物である。
【化7】
【化8】
【0019】
上記した一般式(1)で示される芳香族オキシカルボン酸の中で、本発明において特に好ましく用いられるものとしては、モノアルキル芳香族オキシカルボン酸又はジアルキル芳香族オキシカルボン酸が挙げられる。好ましい理由としては、これらの化合物が有する構造にあると考えている。即ち、これらの化合物は、共鳴構造をとり、カルボキシル基の酸素の負電荷密度が小さくなるため、荷電制御剤と相互作用を及ぼして帯電能力が高くなること、又、立体的に大きな構造を有するため水分子をブロックし易く、過剰な水分の吸着が抑制されることによるものと考えられる。
本発明のトナー製造方法に用いられる芳香族オキシカルボン酸のより具体的な化合物としては、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ヒドロキシナフトエ酸が挙げられる。又、アルキルサリチル酸としては、tert−ブチルサリチル酸、5−tert−オクチルサリチル酸が挙げられる。
【0020】
本発明のトナーの製造方法において、上記したような芳香族オキシカルボン酸と共に用いる水溶性重合禁止剤としては、用いる水系分散媒体中に可溶なものであれば公知の重合禁止剤を好適に使用することができる。具体的には、p−ペンゾキノン、クロルアニリル、アンスラキノン、フェナンスキノン、ジクロロベンゾキノン等のキノン化合物、フェノール、第3級ブチルカテコール、ハイドロキノン、カテコール、ハイドロキシモノメチルエーテル等のハイドロキシ有機化合物、ジニトロベンゼン、ジニトロトルエン、ジニトロフェノール等のニトロ化合物、ニトロソベンゼン、ニトロソナフトール等のニトロソ化合物、メチルアニリン、p−フェニレンジアミン、N,N’−テトラエチル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン等のアミノ化合物、テトラアルキルウラムジスルフィド、ジチオベンゾイルジスルフィド等の有機イオウ化合物等が挙げられる。本発明においては、これらを単独で、若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも本発明のトナーの製造方法に特に好ましく用いられる水溶性重合禁止剤としては、ハイドロキシ有機化合物やキノン化合物が挙げられる。
【0021】
更に、上記の構成に加えて、重合性単量体組成物に重合性ビニル単量体に可溶な油溶性重合禁止剤を含有させ、水系分散媒体中に含有される重合性ビニル系単量体100重量部に対する前記水溶性重合禁止剤の含有量B(重量部)と該油溶性重合禁止剤の含有量C(重量部)の比(B/C)が0.5〜50となるように調整され、且つ、油溶性重合禁止剤の含有量Cが0.0005〜0.3重量部の範囲となるように調整してトナーを製造することは本発明の好ましい実施形態の一つである。
【0022】
上記実施形態のトナーの製造方法の場合には、水系分散媒体中のみならず、重合性単量体組成物中に油溶性重合禁止剤を含有させた状態でトナーを製造する。水系分散媒体中に形成した造粒粒子中の重合性ビニル系単量体を重合させてトナーを製造する場合には、重合開始剤の均一な溶解及び分散が、得られるトナーの、着色剤や各種添加剤の分散状態やその存在量に対し、非常に重要な要素となる。重合性単量体組成物中に重合禁止剤が含有されていない場合には、重合開始剤の投入と共に実質的に重合反応が開始し、部分的に重合が進行するため均質なトナーを得ることが困難になる。特に、本発明のトナーの製造方法においては、芳香族オキシカルボン酸がトナー中に均一に分散された状態のトナーを製造することが好ましいため、このような部分的な重合の進行を抑制し、重合反応系の形成が充分になされた後に重合が開始されるように構成することが有効である。
【0023】
このためには、重合反応を行なう水系分散媒体中と重合性単量体組成物中に重合禁止剤を含有させ、更に、水系分散媒体中に含有される水溶性重合禁止剤の含有量Bと重合性単量体組成物中に含有させた油溶性重合禁止剤の含有量Cとの比(B/C)の値が0.5〜50の範囲であるように調整することが有効である。即ち、前記(B/C)の値が0.5未満の場合には、重合性単量体組成物中の油溶性重合禁止剤の含有量Cが過剰になり、重合性ビニル系単量体の重合の進行が遅れ、芳香族オキシカルボン酸の水系媒体中への溶出を招いたり、水系分散媒体中の水溶性重合禁止剤の含有量Bが不足して、水系媒体中に溶出してくる芳香族オキシカルボン酸への重合性ビニル系単量体の重合成長鎖のラジカル転移を抑制する効果が不充分となる傾向がある。
【0024】
一方、前記(B/C)の値が50を超える場合には、水系分散媒体中の水溶性重合禁止剤の含有量Bが過剰となり、重合禁止剤が重合性単量体組成物に混入するため、前述の重合性単量体組成物中の油溶性重合禁止剤が過剰な場合と同様に、トナー粒子中における芳香族オキシカルボン酸の水系分散媒体中への溶出といった問題が生じる。又、この場合は、重合性単量体組成物中の油溶性重合禁止剤の含有量Cが少な過ぎるので、重合反応系が充分に形成される前に重合反応が部分的に進行することが生じて、均質なトナー粒子が得られない場合がある。
【0025】
更に、本発明のトナーの製造方法においては、重合性単量体組成物中に含有される重合性ビニル系単量体100重量部に対する油溶性重合禁止剤の含有量Cが0.0005〜3重量部の範囲で含まれるようにすることが好ましく、このようにトナーの製造条件を構成した場合に、特に本発明の優れた効果が得られる。
本発明のトナーの製造方法によって得られるトナー中の芳香族オキシカルボン酸は、先に述べたように、トナー粒子中に均質に分散されている状態にあることが好ましい。このためには、前述したように、重合性単量体組成物に含有させる油溶性重合禁止剤の含有量Cと、水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤の含有量Bの相対的な関係が重要であるが、本発明者らの検討の結果、重合性単量体組成物中に含有させる油溶性重合禁止剤の含有量そのものも、トナー粒子中における芳香族オキシカルボン酸の分散状態に大きな影響を及ぼすことがわかった。即ち、本発明においては、重合性単量体組成物に含有させる油溶性重合禁止剤の含有量Cを0.0005〜0.3重量部の範囲にあるようにすることが好ましく、より好ましくは0.0005〜0.05重量部とする。即ち、該油溶性重合禁止剤の含有量Cが0.0005重量部未満の場合、重合反応系が充分に形成される前に重合反応が部分的に進行してしまい、均質なトナー粒子が得られない。一方、0.3重量部を超えると、重合性ビニル系単量体の重合に悪影響を及ぼすばかりか、トナー粒子の形状コントロールを困難にしたり、トナー粒子中に残留してトナーの性能低下を招くといった問題を生じるようになる。
【0026】
ところで、本発明のトナーの製造方法において、上記の構成とする場合、水系分散媒体に含有される前記水溶性重合禁止剤と、重合性単量体組成物に含有される前記油溶性重合禁止剤は、添加する目的が異なるため、夫々の目的に最適な状態で合致し得るような特性(組成)を有する重合禁止剤を選択することが好ましい。具体的には、例えば、本発明のトナーの製造方法で使用する水溶性重合禁止剤としては、水系分散媒体からなる水相中及び/又は水相近傍で、ラジカル重合の成長末端が芳香族オキシカルボン酸にラジカル転移する反応を禁止し得る特性を有する水溶性重合禁止剤を用いることが好ましく、このためには親水性官能基を有する水溶性重合禁止剤を用いるとよい。即ち、芳香族オキシカルボン酸は、親水性官能基を多く有するため、上記したような親水性官能基を有する水溶性重合禁止剤を用いれば、芳香族オキシカルボン酸の近傍に、該水溶性重合禁止剤が存在し易くなるからである。このような特性を有する水溶性重合禁止剤としては、前述したようにハイドロキシ有機化合物等が挙げられ、本発明のトナーの製造方法に好ましく用いられる。
【0027】
一方、重合性単量体組成物中に含有させる油溶性重合禁止剤としては、重合性単量体組成物中の重合性ビニル系単量体のラジカル重合反応の進行を、トナーに悪影響を及ぼさない添加量の範囲で効率よく遅らせる特性を有する油溶性重合禁止剤を用いるのが好ましい。このため、本発明においては、親水性官能基の含有率が小さく、且つ親油性の官能基の含有率が高い油溶性重合禁止剤を用いることが好ましい。このような特性を有する油溶性重合禁止剤としては、キノン化合物、第3級アルキルカテコール等があり、本発明のトナーの製造方法に好ましく用いられる。
【0028】
本発明のトナーの製造方法は、特に円形度分布が良好な小粒径トナーを製造する際に好適である。即ち、高精細画像を得るためには、より小粒径のトナーを用いることが好ましく、近年のトナーの製造では、トナーの小粒径化の傾向が著しい。先に述べたように、本発明に係る重合法によりトナーを製造すると、従来の粉砕法よりも優れた小粒径トナーが得られることが知られているが、一般にトナー粒子を小粒径化すると、必然的に微小粒径のトナーの存在率が高くなるため、トナーを均一に帯電させることが困難となり、画像カブリを生じ易くなる。又、静電潜像担持体表面やトナー担持体への付着力が高くなり、結果として転写残トナーの増加や現像効率の低下に伴うスリーブゴースト現象を招いていた。
【0029】
これに対し、本発明のトナーの製造方法によれば、トナーの円相当個数平均径d1(μm)が2〜6μmであり、且つ、該トナーの平均円形度が0.970〜0.995で、円形度標準偏差が0.040未満となるように、トナーの粒子形状を精密に制御することが容易になる。このため、本発明のトナーの製造方法により製造されたトナーは、現像性と転写性がバランスよく改善され、これと共に、転写残トナーのクリーニング性といった画像形成装置とのマッチングも著しく向上する。
即ち、トナーの円相当個数平均径d1(μm)を2〜6μmと小粒径化することにより、画像の輪郭部分、特に文字画像やラインパターンの現像での再現性が良好なものとなる。又、円形度頻度分布の平均円形度が0.970〜0.995、好ましくは0.980〜0.995に制御されたトナーが得られるようになるため、従来では困難であった小粒径を呈するトナーの転写性が大幅に改善されると共に、低電位潜像に対する現像能力も格段に向上する。特に、このような特性を有するトナーは、非磁性一成分接触現像方法に適応されるデジタル方式の微小スポット潜像を現像する場合に有効である。
【0030】
更に、トナー粒子の円形度頻度分布の円形度標準偏差を0.040未満、好ましくは0.035未満とすることにより、現像性に関わる問題を大幅に改善することができる。本発明者らは、その理由として、現像工程においてトナー担持体上にトナーの薄層を形成する際に、上記の特性を有するトナーを使用すれば、トナー層規制部材の規制力を通常よりも強くしても充分なトナーコート量を保つことが出来るため、トナー担持体に対するダメージを与えることなく、トナー担持体上のトナー帯電量を適正なものとすることが可能となるからだと考えている。
【0031】
本発明におけるトナーの円相当径、円形度及びそれらの頻度分布とは、トナー粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものであり、本発明ではフロー式粒子像測定装置FPlA−1000型(東亜医用電子社製)を用いて測定を行い、下式を用いて算出した。
【0032】
【数1】
ここで、「粒子投影面積」とは二値化されたトナー粒子像の面積であり、「粒子投影像の周囲長」とは該トナー粒子像のエッジ点を結んで得られる輪郭線の長さと定義する。
【0033】
本発明における円形度はトナー粒子の凹凸の度合いを示す指標であり、トナー粒子が完全な球形の場合に1.00を示し、表面形状が複雑になる程、円形度は小さな値となる。
【0034】
本発明において、トナーの個数基準の粒径頻度分布の平均値を意味する円相当個数平均径等d1と粒径標準偏差SDdは、粒度分布の分割点iでの粒径(中心値)をdi、頻度をfiとすると次式から算出される。
【0035】
【数2】
又、円形度頻度分布の平均値を意味する平均円形度cと円形度標準偏差SDcは、粒度分布の分割点iでの円形度(中心値)をci、頻度をfciとすると、次式から算出される。
【0036】
【数3】
【0037】
具体的な測定方法としては、容器中に予め不純固形物等を除去したイオン交換水10mlを用意し、その中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を加えた後、更に測定試料を0.02g加えて均一に分散させ、測定用の分散液とする。この際の分散手段としては、超音波分散機UH−50型(エスエムテー社製)に、振動子として5φのチタン合金チップを装着したものを用い、5分間分散処理する。分散の際には、分散液の温度が40℃以上とならないように適宜冷却する。
トナー粒子の形状測定には、上記で調製した測定用分散液を用い、前記フロー式粒子像測定装置で測定する。具体的には、測定時のトナー粒子濃度が3000〜1万個/μlとなるように測定用の分散液濃度を再調整し、トナー粒子を1000個以上計測する。計測後、このデータを用いて、トナーの円相当径や円形度頻度分布等を求める。
【0038】
本発明のトナーの製造方法では、少なくとも、重合性ビニル系単量体、着色剤、重合開始剤及び前記した特定の芳香族オキシカルボン酸、好ましい態様では、更にこれらにワックス成分を含有する重合性単量体組成物を、先に挙げたような水溶性重合禁止剤が含有されている水系分散媒体中に分散し、該水系分散媒体中で上記重合性単量体組成物の粒子を造粒し、該重合性単量体組成物の粒子中の重合性ビニル系単量体を重合してトナー粒子を生成するが、具体的には、以下に説明するような条件で行なう懸濁重合法によってトナーを得る。
【0039】
即ち、重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、重合開始剤及び芳香族オキシカルボン酸、更に、場合によってはワックス成分、必要に応じて添加するその他の添加剤よりなる重合性単量体組成物を調製し、得られた重合性単量体組成物を、予め調製しておいた重合禁止剤と分散剤を含有する水系分散媒体に投入し、ホモミキサー等の高速攪拌機によって重合性単量体組成物を分散し、造粒する。その後、得られた造粒粒子の沈降が防止される程度の撹拌を行いながら、造粒粒子中の重合性ビニル単量体の重合反応を進行させる。その際の重合温度は、重合性単量体組成物の形成材料にもよるが、40℃〜95℃程度の範囲に設定して重合を行う。又、残留した未反応の重合性ビニル系単量体や副生成物等を除去するために、反応後半及び/又は反応終了後に昇温したり、一部水系分散媒体を留去してもよい。上記のようにして重合反応を行なった後、生成したトナー粒子を洗浄・濾過により回収して、乾燥してトナー粒子を得る。
【0040】
本発明のトナーの製造方法において、水系分散媒体を調製する場合に使用する分散剤としては、公知の無機系及び有機系の分散剤を用いることができる。具体的には、無機系の分散剤としては、例えば、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ等が挙げられる。又、有機系の分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン等を用いることができる。
又、市販のノニオン、アニオン、カチオン型の界面活性剤の利用も可能である。例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム等を用いることができる。
【0041】
本発明のトナーの製造方法においては、無機系の難水溶性の分散剤が好ましく、しかも酸に可溶性である難水溶性無機分散剤を用いるとよい。又、本発明においては、難水溶性無機分散剤を用い、水系分散媒体を調製する場合に、これらの分散剤が重合性ビニル系単量体100重量部に対して、0.2〜2.0重量部となるような割合で使用することが好ましい。又、本発明においては、重合性単量体組成物100重量部に対して300〜3,000重量部の水を用いて水系分散媒体を調製することが好ましい。
【0042】
本発明において、上記したような難水溶性無機分散剤が分散された水系分散媒体を調製する場合には、市販の分散剤をそのまま用いて分散させてもよいが、細かい均一な粒度を有する分散剤粒子を得るために、水等の液媒体中で、高速撹拌下、上記したような難水溶性無機分散剤を生成させて調製してもよい。例えば、リン酸三カルシウムを分散剤として使用する場合、高速撹拌下でリン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液を混合してリン酸三カルシウムの微粒子を形成することで、好ましい分散剤を得ることができる。
【0043】
上記したような構成を有する本発明のトナーの製造方法によれば、従来、荷電制御剤が含有されたトナーにみられていた高湿下での摩擦帯電量の低下、及び低湿下での摩擦帯電速度の低下が抑制され、しかもトナー担持体の汚染の発生を有効に抑制し得るトナーが容易に得られる。
即ち、本発明によれば、芳香族オキシカルボン酸が均一に内添された状態のトナーが容易に得られるので、トナー中に含有されている荷電制御剤への水分の吸着が良好にコントロールされて、摩擦帯電量や摩擦帯電速度の低下が抑制される。更に、従来の製造方法で、芳香族オキシカルボン酸が添加されたトナーを製造した場合には、芳香族オキシカルボン酸がトナー表面に析出し易く、トナー担持体等の汚染を生じる場合があったが、上記したように、本発明によって製造されるトナーは、芳香族オキシカルボン酸がトナー中に均一に内添された状態で得られるので、トナー担持体の汚染の発生が有効に抑制される。
又、芳香族オキシカルボン酸は、その高極性のために、内添されたものがトナー表面に析出し易くトナー担持体等の汚染の原因となる場合があり、更に、離型性や定着性を向上させる等の目的で低融点のワックス成分をトナー中に含有させた場合にも、これらのワックス成分がトナー担持体等の汚染の原因となる場合があったが、トナー中に芳香族オキシカルボン酸を均一に含有させることができれば、これらのワックス成分の官能基と芳香族オキシカルボン酸とが水素結合するので、これらの添加剤の内添をより完全なものとでき、トナー担持体等への汚染をより完全に抑制でき、この場合にも、より特性に優れたトナーが得られる。
【0044】
次に、本発明のトナーの製造方法において使用する重合性単量体組成物について説明する。該重合性単量体組成物は、少なくとも、重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、及び、先に説明した芳香族オキシカルボン酸、好ましくは、これに加えてワックス成分、更に必要に応じて各種の添加物を溶解、混合して調製される。
【0045】
この際に用いる重合性ビニル系単量体としては、具体的には、スチレン;o−(m−,p−)メチルスチレン、m−(p−)エチルスチレンの如きスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸べへニル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルの如き(メタ)アクリル酸エステル系単量体;ブタジエン、イソプレン、シクロヘキセン、(メタ)アクリロニトリル、アクリル酸アミドの如きエン系単量体が好ましく用いられる。これらは、単独、又は、一般的には、出版物ポリマーハンドブック第2版III−P139〜192(John Wiley & Sons社製)に記載の理論ガラス転移温度(Tg)が、40〜75℃を示すように、上記に挙げたような重合性単量体を適宜混合して用いられる。即ち、理論ガラス転移温度が40℃未満の場合には、得られるトナーが、保存安定性や耐久安定性の面から問題が生じ易いものとなり、一方、75℃を超える場合はトナーの定着点の上昇をもたらす。特に、Tgが高い場合には、フルカラー画像を形成するためのカラートナーを製造した場合において、各色トナーの定着時の混色性が低下し、色再現性に乏しく、更にOHP画像の透明性が低下するため好ましくない。
【0046】
又、本発明のトナーの製造方法に用いる重合間始剤としては、具体的には、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1,−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルの如きアゾ系又はジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、クメンヒドロペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドの如き過酸化物系重合開始剤が用いられる。これらの重合開始剤の使用量は、目的とする重合度により変化するが、一般的には、重合性ビニル系単量体100重量部に対して5〜20重量部用いられる。重合開始剤の種類は、重合法により若干異なるが、10時間半減期温度を参考に、単独又は混合して使用される。
【0047】
重合性単量体組成物中には、重合度を制御するため、公知の架橋剤、連鎖移動剤及び重合禁止剤等を更に添加し用いてもよい。これらの添加剤は、前記重合性単量体組成物中に予め添加しておくこともできるし、又、必要に応じて、重合反応の途中で適宜に添加することもできる。
【0048】
本発明で使用する荷電制御剤としては、特に帯電スピードが速く、且つ、一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が好ましい。更に、トナー製造時に重合阻害性が無く、水系分散媒体への可溶化物のない荷電制御剤が好ましい。具体的には、ネガ系荷電制御剤として、サリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸の如き芳香族カルボン酸の金属化合物;スルホン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物;ホウ素化合物;尿素化合物;ケイ素化合物;カリークスアレーン等が挙げられる。ポジ系荷電制御剤として、四級アンモニウム塩;該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物;グアニジン化合物;イミダゾール化合物等が挙げられる。重合性単量体組成物中に含有させるこれらの荷電制御剤の添加量は、重合性ビニル単量体100重量部に対して0.5〜10重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0049】
本発明において使用し得るワックス成分としては、具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタム等の石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックス等の天然ワックス及びそれらの誘導体等が挙げられ、誘導体には酸化物や、ビニルモノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物も含まれる。又、高級脂肪族アルコール等のアルコール;ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸或いはその化合物;酸アミド、エステル、ケトン、硬化ヒマシ油及びその誘導体、植物ワックス、動物ワックスが挙げられる。これらは単独、もしくは併用して用いることができる。
これらの中でも、ポリオレフィン、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス、石油系ワックス、高級アルコール、若しくは、高級エステルを使用した場合に、現像性や転写性の改善効果が更に高くなる。尚、これらのワックス成分には、トナーの帯電性に影響を与えない範囲で酸化防止剤が添加されていてもよい。又、これらのワックス成分は、重合性ビニル系単量体100重量部に対して1〜30重量部使用するのが好ましい。
【0050】
本発明の乾式トナーの製造方法では、ワックス成分を透過電子顕微鏡(TEM)を用いたトナーの断層面観察において、該ワックス成分が結着樹脂と相溶しない状態で、実質的に球状及び/又は紡錘形で島状に分散させることが容易となる。
本発明において、上記の如きワックス成分の分散状態は以下の様に定義される。すなわち、前述のフロー式粒子像測定装置で測定されるトナーの重量基準の粒径頻度分布の平均値を意味する円相当重量平均径D4(μm)に対し、D4×0.9以上であり、D4×1.1以下の長径を有するトナーの断層面を10ヶ所選び出す。そして、各トナーの断層面の長径R(μm)と、長径Rであるトナーの断層面中に存在しているワックス成分に起因する相分離構造の中で、最も大きい長径rを計測し、r/Rの平均値を求める。r/Rの平均値が0.05≦r/Rの平均値≦0.95を満たす分散状態にある場合、ワックス成分が結着樹脂と相溶しない状態で、実質的に球形及び/又は紡錘形で島状の分散状態を有しているものとする。
【0051】
本発明の乾式トナーの製造方法では、トナーの形状がコントロールされると共に、ワックス成分を上記の如く分散させ、トナー中に内包化させることによりトナーの劣化や画像形成装置への汚染等を防止することが出来る。特にr/Rの平均値が0.25≦r/R≦0.90を満たす分散状態にある場合、良好な帯電性が維持され、ドット再現性に優れたトナー画像を長期にわたって形成し得ることが可能となるので好ましい。また、加熱時にはワックス成分が効率良く作用する為、低温定着性と耐オフセット性を満足なものとする。
【0052】
本発明において、トナーの断層面を観察する具体的方法としては、常温硬化性のエポキシ樹脂中にトナー粒子を十分分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を四三酸化ルテニウム、必要により四三酸化オスミウムを併用し染色を施した後、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用い薄片状のサンプルを切り出し透過電子顕微鏡(TEM)を用いトナーの断層形態を観察する。本発明においては、用いる低軟化点物質と外殻を構成する樹脂との若干の結晶化度の違いを利用して材料間のコントラストを付けるため四三酸化ルテニウム染色法を用いることが好ましい。代表的な一例を図1に示す。後記の実施例で得られたトナー粒子は低軟化点物質が外殻樹脂で内包化されていることが観測された。
【0053】
更に、本発明で用いるワックス成分は、示差走査熱量計により測定されるDSC曲線において、昇温時に50〜100℃の領域に最大吸熱ピークを示し、該最大吸熱ピークを含む吸熱ピークの始点のオンセット温度が40℃以上であるものを使用することが好ましく、特に、最大吸熱ピークのピーク温度とオンセット温度の温度差が、7〜50℃の範囲にあるものを使用することが好ましい。
昇温時のDSC曲線において、上記温度領域で溶融するワックス成分を用いることにより、他の添加剤の分散性を良好なものとすることができると共に、ワックス成分自身を前述の如き分散状態に容易にコントロールすることができる。これにより、得られるトナーの良好な定着性はもとより、該ワックス成分による離型効果が効果的に発現され、充分な定着領域が確保されると共に、従来から知られるワックス成分による現像性、耐ブロッキング性や画像形成装置への悪影響が排除されるので、形成されるトナーにおけるこれらの特性が格段に向上する。特に粒子形状が球形化するに従い、トナーの比表面積は減少していくので、ワックス成分の分散状態をコントロールすることは、非常に効果的なものとなる。
【0054】
DSC曲線の測定方法は、「ASTM D3418−82」に準じて行う。本発明では、ワックス成分のみを測定する場合は、1回昇温−降温させて前履歴を取った後、温度速度10℃/min.で昇温させた時に測定されるDSC曲線を用いる。又、トナー中に含まれる状態で測定される場合には、前履歴を取らず、そのまま測定されたDSC曲線を用いる。
【0055】
本発明のトナーの製造方法においては、予め、重合性単量体組成物中に以下に示す樹脂を含有せしめた後、重合性単量体組成物中の重合性ビニル単量体を重合させることによって、トナー中にこれらの樹脂を含有させることもできる。このような樹脂としては、具体的には、ポリスチレン;ポリ−p−クロルスチレン、ポリビニルトルエンの如きスチレン置換体の単重合体;スチレン−p−クロルスチレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリロニトリル−インデン共重合体の如きスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系樹脂等が挙げられる。
【0056】
本発明のトナーの製造方法で使用する着色剤としては従来公知のものをいずれも使用できる。具体的には、下記に挙げるものを使用することができる。例えば、黒色着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、以下に示すイエロー/マゼンタ/シアン着色剤を用い黒色に調色されたものが利用できる。
本発明に用いられるイエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、97、109、110、111、120、127、128、129、147、168、174、176、180、181、191等が好適に用いられる。
【0057】
本発明に用いられるマゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254等を用いることが特に好ましい。
【0058】
本発明に用いられるシアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。具体的には、例えば、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66等が特に好適である。
これらの着色剤は、単独又は混合して使用することができ、更には、固溶体の状態で用いることもできる。又、重合性単量体組成物中に含有させる着色剤の添加量としては、着色剤として磁性体を用いた場合には、重合性ビニル単量体100重量部当たり40〜150重量部添加することが好ましく、その他の着色剤を用いた場合には、重合性ビニル単量体100重量部当たり5〜20重量部添加することが好ましい。
【0059】
又、本発明においては、磁性材料を含有せしめて磁性トナーとすることもできる。この場合、磁性材料は着色剤の役割を兼ねることもできる。本発明で使用できる磁性体としては、マグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の如き酸化鉄;鉄、コバルト、ニッケルのような金属、或いはこれらの金属と、アルミニウム、コバルト、銅、鉛、マグネシウム、スズ、亜鉛、アンチモン、ベリリウム、ビスマス、カドミウム、カルシウム、マンガン、セレン、チタン、タングステン、バナジウム等の金属との合金及びその混合物が挙げられる。
更に、本発明において用いるこれらの磁性体としては、より好ましくは、表面改質された磁性体を用いる。特に、重合阻害のない表面改質剤により疎水化処理を施したものを用いることが好ましい。このような表面改質剤としては、例えばシランカップリング剤、チタンカップリング剤等を挙げることができる。
【0060】
更に、これらの磁性体としては、平均粒径が1μm以下、好ましくは0.1μm〜1μmのもを用いるとよい。磁性体としては、10Kエスルテッド印加での磁気特性として、保磁力(Hc)が20乃至300エルステッド、飽和磁化(σs)が50乃至200emu/g、残留磁化(σr)が2乃至20emu/gのものを用いることが好ましい。
【0061】
重合性単量体組成物中に添加されるその他の添加剤としては、様々な特性付与を目的として、例えば以下に示すようなものが用いられる。滑剤としては、フッ素系樹脂粉末(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、脂肪酸金属塩(ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等)が好適に用いられる。荷電制御性粒子としては、金属酸化物(酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等)、カーボンブラック等が好適に用いられる。これらの添加剤は、重合性ビニル単量体100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の範囲で用いられる。これらの添加剤は、単独又は混合して使用される。
【0062】
本発明のトナーの製造方法によって得られるトナーは、現像剤として使用する場合に、好ましくはBET法で測定した窒素吸着による比表面積が30m2/g以上である無機微粉末を、トナー粒子100重量部に対して0.5〜5重量部の範囲で含有させ、更に、トナーの凝集度が1〜20%の範囲になるようにすることが好ましい。上記したように、比表面積が制御された無機微粉末を使用して現像剤を調製することにより、トナー表面近傍に存在する芳香族オキシカルボン酸とが相互作用し、トナー粒子への水分の吸着の制御がより顕著に行われるので、摩擦帯電量や帯電速度の低下が抑制される効果が増大するからである。又、芳香族オキシカルボン酸と無機微粉末との相互作用によって、芳香族オキシカルボン酸によるトナー担持体等への汚染発生に対する防止効果が増大する。更に、トナーの凝集度を制御することによって、トナー粒子と無機微粉末の接触状態が制御され、連続複写においても上述した優れた効果が維持される。
【0063】
上記したように、本発明で使用する無機微粉末の好ましい比表面積の範囲は、30m2/g以上であるが、より好ましくは50〜400m2/gである。即ち、比表面積が30m2/g未満の無機微粉末では、トナーの凝集度を制御することが困難であり、又、芳香族オキシカルボン酸がトナー粒子表面に存在した場合において、該化合物との相互作用の部位が飽和してしまい、トナー担時体の汚染防止効果が小さくなってしまう。比表面積が400m2/gを超える場合には、連続複写時に該無機微粉末がトナー粒子表面に埋め込まれるために、トナーの凝集度が経時変化する場合がある。比表面積は、BET法に従って、比表面積測定装置オートソープ1(湯浅アイオニクス社製)を用いて試料表面に窒素ガスを吸着させ、BET多点法を用いて比表面積を算出した。
【0064】
外添する無機微粉末の添加量が0.5重量部未満の場合、トナーの凝集度を制御することが困難であり、5重量部を超えると、遊離した無機微粉末がトナー担時体等を汚染する場合がある。
【0065】
又、本発明に用いられる無機微粉体は、必要に応じ、疎水化、帯電性制御等の目的でシリコーンワニス、各種変性シリコーンワニス、シリコーンオイル、各種変性シリコーンオイル、シランカップリング剤、官能基を有するシランカップリング剤、その他有機硅素化合物、有機チタン化合物等の処理剤で、或いは、種々の処理剤で併用して処理されていることも可能であり好ましい。特に、高い帯電量を維持し、低消費量及び高転写率を達成するためには、無機微粉体は、少なくともシリコーンオイルで処理されることが好ましい。
【0066】
本発明のトナーにおいては、トナーに実質的な悪影響を与えない範囲内で更に他の添加剤、例えば、テフロン粉末、ステアリン酸亜鉛粉末、ポリフッ化ビニリデン粉末の如き滑剤粉末;酸化セリウム粉末、炭化硅素粉末、チタン酸ストロンチウム粉末等の研磨剤;例えば、酸化チタン粉末、酸化アルミニウム粉末等の流動性付与剤;ケーキング防止剤、或いは例えば、カーボンブラック粉末、酸化亜鉛粉末、酸化スズ粉末等の導電性付与剤、又、逆極性の有機微粒子及び無機微粒子を現像性向上剤として少量用いることもできる。
【0067】
本発明のトナーの製造方法によって得られるトナーは、そのままで一成分系現像剤として使用することもできるし、キャリアを用い二成分現像剤として使用することもできる。
二成分系現像剤として用いる場合、例えば、トナーと混合させる磁性キャリアとしては、鉄、銅、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム等より選ばれる元素から、単独又は複合フェライト状態で構成される。この際に使用する磁性キャリアの形状は、球状、扁平、不定形等のものがあり、更に、磁性キャリアの表面状態の微細構造(例えば、表面凹凸性)を適宜に制御したものを用いることもできる。又、表面を樹脂で被覆した樹脂被覆キャリアも好適に用いることができる。使用するキャリアの平均粒径は、好ましくは10〜100μm、より好ましくは20〜50μmである。又、これらのキャリアとトナーを混合して二成分現像剤を調製する場合の現像剤中のトナー濃度は、好ましくは2〜15重量%程度である。
【0068】
本発明において、トナーの摩擦帯電量と帯電速度は吸引法により測定した。以下、これらの測定方法を具体的に説明する。
先ず、トナー0.5gとキャリア(EFV−200/300、パウダーテック社製)9.5gとを50mlのポリエチレン容器に秤量して入れ、測定環境下に2日間放置する。その後、各環境下で容器に密栓をし、ターブラーミキサー(WAB社製)で5分間振とうしてトナーとキャリアの混合サンプルを調製する。
【0069】
本発明で用いた帯電量測定装置を図2に示す。キャリアを捕捉しトナーのみを吸引除去し得る開口径を有する500メッシュの導電性スクリーン3を底部に備えた金属製の測定容器2に、上記で用いた混合サンプル1gを秤量して入れ、金属製の蓋4をする。次に、測定容器2と絶縁部を介して接続された吸引機を用いて、風量調整弁6により真空計5が250mmH2Oとなるように吸引口7から2分間吸引する。この時、電位計9に示される電圧値V(V)とコンデンサー8の静電容量C(μF)から算出される電荷量を吸引除去したトナー量(g)で除したものを摩擦帯電量(mC/kg)とする。
又、帯電速度は、トナーとキャリアの混合サンプルを調製する際の夕ーブラーミキサーによる振とう時間に対する摩擦帯電の変化量から求めた。
【0070】
【実施例】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではない。尚、表1に各実施例及び比較例におけるトナーの製造条件を、表2に各方法で得られたトナーの性状をまとめて示した。
実施例1
高速撹拌装置TK式ホモミキサー(特殊機化工業社製)を具備した2リットル用4つ口フラスコ中に、イオン交換水300重量部と0.1M−Na3PO4水溶液250部を投入し、回転数を12,000rpmに調整し、60℃に加温せしめた。ここに1.0M−CaCl2水溶液35重量部を添加し、微小な難水溶性分散剤を含む水系分散媒体を調製した。更に、水溶性重合禁止剤としてハイドロキノン0.03重量部を添加し、本実施例で使用する水系分散媒体とした。
【0071】
一方、分散質として、下記の組成の重合性ビニル単量体を有する混合物を60℃に加温しながら、アトライター(三井金属社製)により3時間分散させた後、重合開始剤である2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3重量部を添加して重合性単量体組成物を調製した。
・スチレン単量体 80重量部
・エチルヘキシルアクリレート単量体 20重量部
・シアン着色剤(C.l.ピグメントブルー15) 7重量部
・荷電制御剤(サリチル酸のアルミニウム錯体) 2重量部
・ワックス成分(エステルワックス、融点=60℃) 5重量部
・芳香族オキシカルボン酸(ジ−tert-ブチルサリチル酸) 0.2重量部
・油溶性重合禁止剤(tert−ブチルカテコール) 0.006重量部
【0072】
次に、前記水系分散媒体中に、上記で得た重合性単量体組成物を投入し、内温60℃のN2雰囲気下で、高速撹拌装置の回転数を12,000rpmに維持しつつ15分間撹拌し、重合性単量体組成物を水系分散媒体中に分散させて粒子を造粒した。その後、撹拌装置をプロペラ撹拌羽根に換え、50rpmで撹拌しながら同温度に3時間保持した後、80℃に昇温して10時間保持して重合反応を完了させた。
【0073】
重合反応終了後、懸濁液を冷却し、次いで希塩酸を加えて難水溶性分散剤を溶解除去せしめた。更に、水洗を数回繰り返した後、乾燥させてトナー粒子を得た。このトナー粒子100重量部に対して、比表面積が300m2/gの疎水性シリカ微粒子2.0重量部を外添して本実施例のトナー(1)を得た。
【0074】
得られたトナー(1)は、円相当個数平均径d1が5.1μmで、円形度頻度分布における平均円形度cが0.985であった。又、トナー(1)中の水溶性重合禁止剤と油溶性重合禁止剤の総残存量は110ppmであった。更に、ワックス成分の分散状態をTEMで観察したところ、図1の(a)の模式図のように、ワックス成分は、重合性ビニル系単量体の重合反応によって生成された結着樹脂中に実質的に球状を呈して分散していた。
【0075】
上記で得られたトナー(1)を5重量部と樹脂コートキヤリア(平均粒径25μm)95重量部を混合して2成分系現像剤(1)を調製した。次に、常温常湿(25℃/60%Rh)と高温高湿(30℃/80%Rh)の各環境下での摩擦帯電量を測定すると共に、常温常湿での帯電速度に対する高温高湿での帯電速度の低下性を評価した。更に、コントラスト電位を250Vに設定したフルカラーデジタル複写機CLC−800(キヤノン社製)に、前記2成分系現像剤(1)を逐次補給しながら、画像面積比率が25%のテスト原稿を単色モードにより10,000枚複写する複写テストを高温高湿下で行い、複写テスト開始直後の初期画像と10,000枚後の画像のハイライト部分の再現性について画像特性を評価した。又、画像形成装置とのマッチングを検討するため、10,000枚複写後のトナー担持体と中間転写体とクリーニングブレードの表面の汚染の程度を目視にて評価した。
これらの評価結果を表3にまとめて示した。
【0076】
実施例2
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてメチルエーテルハイドロキノン0.05重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸としてジ−ter−ブチルサリチル酸0.5重量部(A/B=0.5/0.05=10)、更に油溶性重合禁止剤としてベンゾキノン0.003重量部(B/C=0.05/0.003=17)を使用した以外は実施例1と同様にしてトナー(2)を製造し、更に2成分現像剤(2)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0077】
実施例3
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてメチルエーテルハイドロキノン0.01重量部とベンゾキノン0.01重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸として5−tert−オクチルサルチル酸を1.5重量部(A/B=1.5/0.02=75)、更に油溶性重合禁止剤としてtert−ブチルカテコール0.04重量部(B/C=0.02/0.04=0.5)を使用し、ワックス成分としてポリプロピレン(融点=135℃)を用いた以外は実施例1と同様にしてトナー(3)を製造し、更に2成分現像剤(3)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0078】
実施例4
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてカテコール0.01重量部を用い、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸として5−tert−オクチルサリチル酸を0.05重量部(A/B=0.05/0.01=5)、更に油溶性重合禁止剤としてハイドロキノン0.001重量部(B/C=0.01/0.001=10)を使用し、ワックス成分の添加量を15重量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー(4)を製造し、更に2成分現像剤(4)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0079】
実施例5
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてジメチルカルバミン酸ナトリウム0.2重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸としてジ−tert−ブチルサリチル酸を2.5重量部(A/B=2.5/0.2=12.5)、更に油溶性重合禁止剤としてジチオベンゾイルスルフィド0.25重量部(B/C=0.2/0.25=0.8)を使用し、ワックス成分の添加量を20重量部に変更した以外は実施例1と同様にしてトナー(5)を 製造し、更に2成分現像剤(5)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0080】
比較例1
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてハイドロキノン0.03重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸としてジ−tert−ブチルサリチル酸4重量部を使用し(A/B=4/0.03=133)、更に油溶性重合禁止剤を未添加とした以外は実施例1と同様にしてトナー(6)を製造し、更に2成分現像剤(6)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0081】
比較例2
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてカテコール5重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸として5−tert−オクチルサリチル酸を0.1重量部(A/B=0.1/5=0.02)、更に油溶性重合禁止剤としてtert−ブチルカテコールを0.35重量部(B/C=5/0.35=14)使用した以外は実施例1と同様にしてトナーの製造を試みたが、造粒粒子形成直後に重合性単量体組成物が凝集塊となってしまい、トナー粒子は得られなかった。
【0082】
比較例3
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてメチルエーテルハイドロキノン0.002重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸としてジ−tert−ブチルサリチル酸を0.5重量部(A/B=0.5/0.002=250)、更に油溶性重合禁止剤としてメチルエーテルハイドロキノン0.03重量部(B/C=0.002/0.03=0.07)を使用した以外は実施例1と同様にしてトナー(8)を製造し、更に2成分現像剤(8)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0083】
比較例4
水系分散媒体に含有させる水溶性重合禁止剤としてカテコール0.03重量部、又、重合性単量体組成物に含有させる芳香族オキシカルボン酸として5−tert−オクチルサリチル酸を0.009重量部(A/B=0.009/0.03=0.3)、更に油溶性重合禁止剤としてカテコール0.0004重量部(B/C=0.03/0.0004=75)を使用した以外は実施倒1と同様にしてトナー(9)を製造し、更に2成分現像剤(9)を得た。これらを用いて実施例1と同様に評価し、結果を表3にまとめて示した。
【0084】
【表1】
表1:トナーの製造条件
【0085】
【表2】
表2:トナーの諸性状
【0086】
【表3】
表3:トナーの評価結果
評価は下記の基準で4段階に評価した。
A:優
B:良
C:やや劣
D:劣
【0087】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、トナー粒子中に芳香族オキシカルボン酸を内添させたトナーを重合法によって製造する場合の従来技術の問題点を解決し、摩擦帯電量や摩擦帯電速度の低下を生じることなく、且つトナー担持体等の汚染を生じることのない優れた特性を有するトナーが容易に得られるトナーの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】ワックス成分を内包化しているトナー粒子の断面の一例を示す模式図である。
【図2】本発明で使用したトナーの摩擦帯電量を測定する装置の斜視図である。
Claims (6)
- 少なくとも重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、及び下記一般式(1)で示される芳香族オキシカルボン酸を含有する重合性単量体組成物を、水溶性重合禁止剤が含有されている水系分散媒体中に分散し、該水系分散媒体中で上記重合性単量体組成物の粒子を造粒後、該重合性単量体組成物の粒子中の重合性ビニル系単量体を重合してトナー粒子を生成する乾式トナーの製造方法において、重合性ビニル系単量体100重量部に対する前記芳香族オキシカルボン酸の含有量A(重量部)と水溶性重合禁止剤の含有量B(重量部)との比(A/B)の値が5〜100となるように調整され、且つ、芳香族オキシカルボン酸の含有量Aが0.01〜3重量部であることを特徴とする乾式トナーの製造方法。
- 更に、重合性単量体組成物中に油溶性重合禁止剤が含有されており、重合性ビニル系単量体100重量部に対する水系分散媒体中の水溶性重合禁止剤の含有量B(重量部)と上記油溶性重合禁止剤の含有量C(重量部)の比(B/C)の値が0.5〜50となるように調整され、且つ、油溶性重合禁止剤の含有量Cが0.0005〜0.3重量部である請求項1に記載の乾式トナーの製造方法。
- 少なくとも重合性ビニル系単量体、着色剤、荷電制御剤、ワックス成分、及び下記一般式(1)で示される芳香族オキシカルボン酸を含有する重合性単量体組成物を、水溶性重合禁止剤が含有されている水系分散媒体中に分散し、該水系分散媒体中で上記重合性単量体組成物の粒子を造粒後、該重合性単量体組成物の粒子中の重合性ビニル系単量体を重合して得られた乾式トナーであって、トナー中の芳香族オキシカルボン酸の含有量がトナーの重量基準で0.01〜3重量%であり、トナー中における水溶性重合禁止剤の残存量がトナーの重量基準で500ppm以下であり、且つ、該トナーのフロー式粒子像測定装置で計測されるトナーの個数基準の円相当径−円形度スキャッタグラムにおいて、該トナーの円相当平均径が2〜6μm、平均円形度が0.970〜0.995、及び円形度標準偏差が0.040未満の範囲にあることを特徴とする乾式トナー。
- 平均円形度が0.980〜0.995、及び円形度標準偏差が0.035未満の範囲にあり、且つ、水溶性重合禁止剤及び油溶性重合禁止剤のトナー中における総残存量がトナーの重量基準で300ppm以下である請求項3に記載の乾式トナー。
- 透過電子顕微鏡(TEM)を用いたトナー粒子の断層面観察において、
(1)フロー式粒子像測定装置で測定されるトナーの重量基準の円相当重量平均径d4(μm)に対し、0.9≦R/d4≦1.1の関係を満たしている長径R(μm)を呈するトナー粒子の断層面を20箇所選び出し、
(2)選び出したトナー粒子の断層面中に存在するワックス成分に起因する相分離構造の中で、最も大きいものの長径rを夫々計測し、
(3)各箇所におけるr/Rの相加平均値(r/R)stが0.05≦(r/R)st≦0.95の関係を満たし、
ワックス成分が結着樹脂中に実質的に球状及び/又は紡錐形の島状に分散されている請求項3又は請求項4に記載の乾式トナー。 - r/Rの相加平均値(r/R)stが、0.25≦(r/R)st≦0.90を満たすようにワックス成分が結着樹脂中に実質的に球状及び/又は紡錘形の島状に分散されている請求項3乃至請求項5のいずれかに記載の乾式トナー。
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