JP3681544B2 - ローラミルの運転制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、複数台のローラミルを備える石炭焚火力プラントにおいて、負荷変化時に際し、自励振動を防止するための複数台のローラミル各々の運用条件設定に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石炭焚の火力プラントでは、ボイラにおいて低公害燃焼(低NOx、低灰中未燃分)や広域負荷運用が行われ、それにともない、火力プラント内に複数台備えつけられている微粉炭機(ミル)も高い粉砕性能や信頼性あるいは応答性が要求されている。
【0003】
石炭、セメント原料あるいは新素材原料などの塊状物を細かく微粉砕するミルのひとつのタイプとして、最近では、回転するテーブルと複数個のタイヤ型粉砕ローラで粉砕を行う竪型のローラミルが広く用いられており、特に先進諸国や日本国内では代表機種としての地位を固めている。
【0004】
ここで、図10に示すように、ローラミルの一般的な構成を述べる。この種のミルは、円筒型をしたハウジング6の下部にあってモータで駆動され減速機を介して低速回転する略円台状の回転テーブル2と、その回転テーブル2の外周部の上面において円周方向へ等分する位置へ油圧あるいはスプリング等で荷重を付与されて回転する複数個の粉砕ローラ1と、を備えている。
【0005】
原料供給管(センターシュート)5から、回転テーブル2の中央へ供給された原料は、回転テーブル2上において遠心力によりうず巻状の軌跡を描いて回転テーブル2の外周へ移動し、回転テーブル2の粉砕レースと粉砕ローラ1の間にかみ込まれて粉砕される。ハウジング6の下部には、ダクトを通して熱風(一次空気)8が導かれており、この熱風(一次空気)8が回転テーブル2とハウジング6の間にあるエアスロートのスロートベーン9の間を通して吹き上がっている。粉砕後の粉粒体は、エアスロートから吹き上る熱風(一次空気)8によって、ハウジング6内を上昇しながら乾燥される。
【0006】
ハウジング6の上方へ輸送された粉粒体は、粗いものから重力により落下し(一次分級)、粉砕部で再粉砕される。この一次分級部を貫通したやや細かな粉粒体は、ハウジング6の上部に設けた固定式分級機(サイクロンセパレータ)あるいは回転式分級機(ロータリーセパレータ)7で再度分級される。所定の粒径より小さな微粉は、気流により搬送され、ボイラでは微粉炭バーナへと送られる。分級機を貫通しなかった所定粒径以上の粗粉は、回転テーブル2の上へ重力の作用で落下し、ミル内へ供給されたばかりの原料といっしょに再度粉砕される。このようにして、ミル内では粉砕が繰り返され、製品微粉が生成されていく。
【0007】
ローラミルを低負荷で運用する場合や、負荷減少あるいは停止操作をする際に問題となるのはミルの振動である。この振動現象は、炭層の崩壊とローラのすべりに起因する一種の摩擦振動であり、振動のタイプとしては自励振動である。一定負荷運用時の場合、通常の石炭では、低負荷運用時(ミル内において石炭ホールドアップの少ない条件)にこの振動が発達することが多いが、石炭種によってはかなりの高負荷時にも発生することがある。
【0008】
粉砕ローラを振り子運動が可能なように支持するタイプのローラミルでは、ローラブラケットを介して、ローラピボットを支軸として、粉砕ローラが振り子運動可能なように支持される。この振り子運動の機能は大変に重要であり、粉砕ローラが鉄片など粉砕しにくい異物をかみ込んだ場合、粉砕ローラは振り子運動をすることによって衝撃を回避することができる。また、粉砕ローラや粉砕レースが摩耗変形したときには、適切な押圧位置(粉砕ローラと粉砕レースの位置関係)を自動調心的に見つけ出す作用もこの振り子運動にはある。
【0009】
一般に、高負荷で定常な粉砕条件下では、粉砕ローラはほとんど振り子運動をすることが無い。上記したように、ミルの起動時あるいは負荷上昇時などにおいて粉砕ローラが活発にかみ込む場合には、粉砕ローラはゆっくりした速度で振り子運動をするものの、この動作は自励振動の発生には直接関与しない。
【0010】
一方、激しい自励振動は、ボイラの出力低下に伴うミルの減負荷(給炭量減少)時やミルの停止過程において発生し易い。このように負荷を急減する過程では、粉砕部における炭層が少なくまた細かくなり、粉砕ローラの転動がきわめて不安定になり易い。
【0011】
図9は、高負荷一定運用時からミル停止までの過程において、給炭量が変化するときの発生パターンを模式的に描いたものである。負荷下げ開始後、減負荷過程において激しい自励振動が発生する。
【0012】
従来技術の振動対策として、粉砕部の粉層に対して、注水により粉層を湿らせる方法(エアブロー法)がある。この方法は、粒子表面に付着するごくわずかな水で粒子同士の付着力を高め、粉層を堅固で安定にし崩れにくくして、自励振動を抑制するものである。
【0013】
しかしながら、ミルの負荷を減少させる過程に対しては、この注水法を不用意に適用することはできない。注水により粉層が堅固になり、注水開始と同時に粉砕が一瞬とどこおり、ミルからの出炭が一時的に遅れる。そうすると、遅れ時間をもって、ミルからの出炭が遅れた分を補うように増加し始める。そのため、蒸気の温度や圧力が変動する。全台のミルに対して同時に注水を実施すれば、さらに時間遅れを伴う出炭の増加が生じるため、蒸気の圧力や温度特性に伴う外乱が増大し、好ましくない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
電力供給負荷の軽減により、ボイラの出力を低下させるに際し、全台のミルに対し、振動を防止するため同時に注水を行えば、ミルからの出炭が一旦減少し、その後時間遅れを経て出炭が急増し、ボイラの蒸気系の特性に外乱が生じる。例えば、再熱蒸気の温度が一度降下し、続いて過度にオーバーシュートする状態になると、蒸気温度制御用の減温スプレイ(蒸気中への水噴射)を実施することになる。
【0015】
このようになると、ボイラの効率は低下するし、また減温器が装着する蒸気連絡管に水スプレイによる過大な衝撃的熱応力を発生させて、連絡管部材の耐久性を損なうおそれがある。
【0016】
本発明の目的は、このような問題を解決し、ボイラの蒸気特性に外乱を与えないように工夫を施して、ミルの振動も確実に防止できる新規な注水法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
【0018】
送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水開始または注水停止のタイミングをずらすローラミルの運転制御装置。
【0019】
また、送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水を実施する給炭量の範囲を変化させて設定するローラミルの運転制御装置。
【0020】
また、送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水開始または注水停止に時間遅れΔtを設定し、
前記時間遅れΔtをボイラにおける負荷変化速度に応じて設定するローラミルの運転制御装置。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態について、図面を用いて以下説明する。初めに、本発明の実施形態に係るローラミルの全体構成について述べる。図1は、注水装置を備えるローラミルの全体構造を縱方向断面図として描いたものである。粉砕原料4は、原料供給管(センターシュート)5を通じて、ローラミルの上方から落下されてミル内へ供給される。この粉砕原料4は、回転テーブル2上に落下し、遠心力により外周側に運ばれ、粉砕ローラ1と回転テーブル2の連動作用によって、粉砕ローラ1によって圧縮粉砕される。
【0022】
粉砕ローラ1のシャフトは、背後からローラブラケット24により支えられる。ローラブラケット24の上部には、ローラピボット25が設けられており、このローラピボット25を支点として、粉砕ローラ1が振り子運動をできるようになっている。また、このローラピボット25は粉砕荷重27の伝達点であり、粉砕荷重27は、加圧フレーム26を通じて上方から押しつけられるようにして与えられる。
【0023】
このようにして粉砕されて生成した粉粒体は、スロートベーン9を通じて導かれる熱風(一次空気)8によりミル内を上方へと吹き上げられ、ハウジング6の上部にある回転分級機(ロータリーセパレータ)7で粗粒が分離された後に、微粉炭となってミルから排出され、ボイラの微粉炭バーナへと送られる。回転分級機(ロータリーセパレータ)7で分級された粗粉は、粉砕部において再度粉砕される。このようにして粉砕が繰り返され、粗い石炭粒子も微粉炭となり、微粉炭バーナへと送られる。
【0024】
粉砕ローラ1のかみ込み部では、ミル内に挿入されたノズル13に、注水用の水28が導かれ、ノズル13から水噴霧流14となって噴出する。この水噴霧流14は、回転テーブル2上の原料粉層3に吹きつけられる。
【0025】
この実施形態は、粉砕部における原料粉層3に注水する構成であるが、図1に示すように、給炭機(コールフィーダ)29において給炭機用ノズル32から粉砕原料4に注水したり、あるいは原料供給管(センターシュート)5においてシュート用ノズル33から水膜として粉砕原料4に注水する構成もある。ここで、注水によって、最も応答性良く振動をとめる(振動抑制の速効性にすぐれる)方法は、粉砕部の原料粉層3に注水する構成である。
【0026】
図2は、ボイラプラント内に設置されていてボイラの負荷変化に応じて稼動する6台のA〜Fミルにおいて、給炭量に対する注水の範囲を描いたものである。注水を実施する下限給炭量は、全台のミルで30%(定格給炭量を100%として)であるが、これは、給炭機が起動あるいは停止する条件に相当する。すなわち、全てのミルにおいて、起動時では給炭開始と同時に注水を開始し、停止時には給炭停止と同時に注水を停止するわけである。
【0027】
一方、注水実施の給炭量の上限については、ミルごとに異ならせてある。最も注水範囲が広いのはAミルであり、定格給炭量の69%まで注水を行う。最も注水範囲が狭いのはFミルであり、定格給炭量の59%で注水を打ち切る。各ミルごとに、給炭量の範囲についておよそ2%だけ注水の範囲をずらしてある。全台のミルがいっせいに負荷下げに入った場合、まずAミルにおいて最もはやく注水が入る。最も遅れて注水が始まるのはFミルである。
【0028】
図3は、各ミルにおける注水開始のタイミングチャートを示すものである。最初(1台目)のミルで注水が始まったあと、Δtの時間遅れで2台目のミルで注水が始まる。以降、順次同じような時間遅れΔtで、注水を開始していく。
【0029】
時間遅れΔtは、ボイラの負荷変化速度に応じて設定する。Δtは、
4秒≦Δt≦140秒 ………………(1)
の範囲から選択するが、Δt=4秒の場合はボイラの負荷変化速度がかなり大きな場合である。一方、Δt=140秒は、ボイラの負荷変化がゆっくりしているケースである。より望ましくは、時間遅れΔtは、
13秒≦Δt≦30秒 ………………(2)
の範囲から選ぶようにする。
【0030】
Δt=13秒及びΔt=30秒は、ボイラの負荷変化速度が、それぞれ、5%/分及び2%/分の場合である。これらは、ボイラの通常の負荷変化において採用されている負荷変化速度の条件である。
【0031】
ここで、(1)及び(2)式における時間遅れΔtは、全台のミルが注水している場合、注水を停止していく条件としても、ほぼそのまま適用することができる。
【0032】
図4に示すように、自励振動は、中〜低負荷領域で自励振動発生時の振幅が大きく、また発生頻度も高い。図4は、給炭負荷に対する振幅の変化をミルの振動特性としてまとめたものである。横軸の給炭量Qcは、定格給炭量Qc*で割ることにより無次元化した。また縦軸の振幅δocは、空回転時(ローラとレースがメタルタッチする)における振幅δoc*を比較基準として、こちらも無次元表記した。この自励振動の過大振幅は、粉砕部炭層への注水により急減し、自励振動は消滅する。
【0033】
図4には、プラント内の6台のミル(A〜Fミル)において、給炭量に対する注水範囲を示した。いずれのミルも、注水の下限給炭範囲は30%であるが、上限給炭範囲はミルごとに2%ずつずらしてある。Aミルでは、最も給炭負荷の高い69%まで注水が実施される。すなわちAミルでは、30〜69%の広域給炭範囲で注水が行われる。一方、Fミルでは、最も給炭負荷の低い59%で注水が打ち切られる。Fミルでは、注水を実施する給炭負荷の範囲が最も狭い。しかしながら、いずれのミルにおける注水範囲も、自励振動が最も激しくなる領域をうまくカバーしているので、自励振動を封殺することが可能である。
【0034】
図5は、回転テーブル2上における原料粉層3への注水の状況を模式的に示す。粉砕ローラのかみ込み部に設けたノズル13から、原料粉層3へ向けて水が噴霧14される。
【0035】
図6は、石炭粉層の水分に対する内部摩擦角φの変化をまとめた実験結果である。この炭層の内部摩擦角φが大きければ、炭層の流動性が悪く崩れにくいことになる。炭層を構成する乾いた粒子に、図中で白抜きの矢印で示すようにわずかに水分が付着すると、粒子同士の付着力が強くなり、炭層全体が堅固で崩れにくくなる。この実験結果では、わずかな水分添加で、内部摩擦角φが60°まで到達している。しかし、水を入れ過ぎると、粒子まわりの水が潤滑油膜のようになるため、φは急減する。本発明で対象とする水注入は、この図のように、内部摩擦角φがピークになるように水を炭層に対し作用させることである。
【0036】
図7は、ミル本体17から送炭管(フュエル・パイプ)18を通じて微粉炭が輸送され、ボイラ火炉22の内部で、石炭が燃焼する状態を模式的に描いたものである。ボイラの負荷上昇に対応して、複数台のミルを起動させていく過程では、実質的な最低給炭量で既に注水が始まるので、多少出炭に時間遅れがあっても蒸気系に対する大きな外乱にはならない。しかしながら、高負荷域から低負荷域にかけての負荷減少過程では、例えば62%給炭負荷に達した時点で全台のミルにおいていっせいに注水が始まると、粉砕が遅れるので、全ミルからの出炭量が一時的に減少する。図7において燃焼火炎21が小さくなり、蒸気温度は減少しかける。
【0037】
一方、しばらく時間が経過すると、先に減少した分を補うために、全台のミルからの出炭が急増する。図7における燃焼火炎21が、今度は大きくなって伸張し、蒸気温度も上昇する。ボイラの蒸気温度は、このように外乱を受けて偏差が拡大する。本発明の実施形態のように、各ミルに時間差を設けておけば、一度にミルからの出炭が急減したり急増したりすることは無くなる。
【0038】
図8は、全台のミルで無対策で同時に注水を行う場合と、本発明の実施形態における主蒸気温度の最大偏差ΔTを比較したものである。ここに、ΔTは主蒸気温度の最大偏差、及びΔT*は無対策すなわち全台のミルで一度に注水を行った場合の主蒸気温度の最大偏差である。この結果から明らかなように、本発明の実施形態になる注水の方が、主蒸気温度を1/3以下まで低減することができた。
【0039】
以上から、本発明の実施形態で注水を行えば、ボイラ負荷の変化に応じてミルの給炭負荷を変化させるに際し、ミルの振動を抑止するとともに、ボイラの蒸気系に対する外乱を最小に抑えるので、ボイラの運用に支障をきたすことが無い、ということが明らかになった。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。ここまで述べてきたように、本発明の実施形態は、図1に示すように、粉砕ローラ及び粉砕レースの粉砕面が、ともに略円弧とするローラミルを対象としてきた。
【0041】
しかしながら、本発明は、構造の異なるローラミルに対してもほぼそのまま適用することができる。図11が、異なるローラミルの一例である。このローラミルは、ロール10の断面形状が円台であり、ロール10が、シャフト12により片持ちばり的に支持されている。ロール10の前には、ノズル13が設けられており、送給された水15が、このノズル13を通じて、粉砕テーブル16上の炭層(図中では省略)に対して噴霧14される。先に述べた実施形態と同様に、水噴霧14の開始・停止のタイミングは、ミルごとにわずかにずらすようになっている。
【0042】
以上説明したように、本発明の実施形態は、次のような構成と、機能乃至作用を有するものを含むものである。
【0043】
ミルごとに、注水開始のタイミングを少しずつずらす。あるミルの注水開始から、次のミルの注水開始までの遅れ時間は、ボイラの負荷変化に応じて変化させる。ボイラの負荷変化速度が0.5〜7.0%/分であれば、遅れ時間Δtは、負荷変化率最大の場合に最短で約9秒、負荷変化率最低の場合に最長で約120秒となる。注水効果の応答性のばらつきを考慮して、4秒≦Δt≦140秒の範囲から遅れ時間を選定する。ボイラの負荷変化がかなりゆっくりした場合、5台のミルがあったとすれば、およそ10分間のうちに全台のミルで注水が開始されることになる。
【0044】
通常の場合、注水開始の時間遅れΔtは、13秒≦Δt≦30秒の範囲から選定する。
【0045】
また、ミルごとに注水を実施する給炭量の範囲を少しずつずらす。このずらす領域は、当然、まだ自励振動が発生しない条件内である。このようにすれば、全台のミルが同時に負荷を変化させる場合、結果的に上述したのと同様なわずかな時間遅れをもって注水が始まることになる。逆に、負荷上昇の場合には、注水停止のタイミングが、ミルごとに少しずつずれる。このようにして、ミルシステム全体におけるミルからの出炭偏差は縮小する。
【0046】
プラント内に複数台あるミルのうち、時間遅れが最短もしくは最長のミル、あるいは注水実施の給炭量の範囲が最も広いかあるいは最も狭いミルは、ボイラの最上段バーナ列に微粉炭を供給するミル以外のミルになるようにする。これは、最上段バーナの燃焼状態が、ボイラ頂部における伝熱に強くかかわるから、これを避けるためである。
【0047】
注水を行うと、回転テーブル上の炭層が湿り、粒子同士が付着し合って粉砕が遅れるため、一時的にミルからの出炭が減少する。本発明では、全台のミルに対して、一台ずつ時間遅れをもって注水を行うために、火炉内への出炭量の偏差は小さく、いわゆる「ならされた」状態になり、蒸気特性の偏差たとえば蒸気温度の上昇も、時間に対する上昇速度としてみれば小さくなる。そのため、蒸気制御系が追従しなくなるいわゆるハンチングという現象が生じることが無いので、ボイラの伝熱特性は安定した状態に保たれる。
【0048】
複数台のミルのうち、最初の一台では先行的に注水を行うために、粉砕ローラのかみ込み部の炭層はあらかじめ自励振動が起きない状態になり、振動の問題は生じない。最後に注水を行うミルでは、設定した時間遅れがあるため、自励振動が起きかける状態に近づく。しかしながら、注水を行うことによって、粉砕ローラのかみ込み部における微粉層は湿り、粒子同士の付着力が強くなるため安定になり、自励振動の「芽」は、自励振動発生の「徴候」の段階のうちに消滅し、ミルは静定状態となる。
【0049】
以上の説明では、ミル毎に注水開始または注水停止のタイミングを順次にずらすものであったが、複数のミルをグループに分けてそのグループ毎に前記タイミングをずらすものも本発明の実施形態となり得る。
【0050】
以上のように、本発明によれば、全台のミルに注水を行うに際しても、ボイラの蒸気特性に過大な外乱を決して与えることなく、また異常振動も発生することなく、安定な運用を行うことができるようになる。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、次のような効果が生じる。
(1)ボイラの負荷減少過程において、ミルからの出炭遅れが無くなるため、蒸気温度や圧力に不安定な変動が生じない。
【0052】
(2)前記(1)の効果によって、時間遅れを伴う蒸気温度上昇が無くなり、再熱器における減温用の水スプレーを減らせるので、ボイラの効率を高く保つことができる。
【0053】
(3)前記(2)の効果により、再熱蒸気連絡管などに過大な熱応力が発生せず、機器の信頼性や耐久性を持続することが可能になる。
【0054】
(4)ボイラの迅速な負荷応答が可能になるので、ボイラの運用性向上に貢献する。
【0055】
(5)時間遅れを伴うミルからの過大な出炭増加が無くなるので、排ガス中の窒素酸化物(NOx)の突発的な上昇を抑えられ、脱硝設備におけるアンモニア使用量を抑えることが可能になる。
【0056】
次は、粉砕部注水により振動が抑制されて、静粛な運用が可能になることによって生じる一般的な効果である。
(6)低負荷一定あるいは高負荷一定の定常運用時において、及びミル停止過程などのどのような運用条件下においても、自励振動を起こすこと無く、ミルを安定に操業できるようになる。
【0057】
(7)分級機の回転数や荷重油圧の減少といった粉砕能力を抑制するような運用上の制限が撤廃される。これによって、ミルの粉砕能力は向上し、ミル出口における微粉粒度が細かくなり、またエアスロートからの落下炭量が減少する。
【0058】
(8)振動を起こし易い石炭でも静粛な運用が可能になるし、燃料比が高く比較的難燃性の石炭については微粉粒度を細かくできるので、使用炭種の幅が拡大する。
【0059】
(9)前記効果(6)とも関連し、燃焼性が向上するので、排ガス中の窒素酸化物(NOx)や灰中未燃分が減少する。
【0060】
(10)自励振動を防止できるので、ミル自体や周辺機器の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るローラミルの全体構造を断面形状として示す図である。
【図2】本発明の実施形態における複数台のミルに対して、給炭量と注水実施範囲の関係を示す図である。
【図3】本実施形態の負荷変化時における注水開始のタイミングを示す図である。
【図4】ローラミルの自励振動発生と、本実施形態に係る注水範囲の関係を示した図である。
【図5】粉砕部の炭層に対して注水する状況を描いた図である。
【図6】注水と炭層の内部摩擦の関係を描いた図である。
【図7】ミルからボイラ火炉への出炭状況を描いた図である。
【図8】ボイラの蒸気特性に対する試験結果であり、従来技術と比較して、本発明の実施形態の効果を示した図である。
【図9】高負荷一定運用時からミル停止までの過程で給炭量が変化するときの自励振動の発生パターンを示した図である。
【図10】一般的なローラミルの全体構成を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係るローラミルの構造を示す図である。
【符号の説明】
1 粉砕ローラ
2 回転テーブル
3 原料粉層
4 粉砕原料
5 原料供給管(センターシュート)
6 ハウジング
7 回転分級機(ロータリーセパレータ)
8 熱風(一次空気)
9 スロートベーン
10 ロール
13 ノズル
14 水噴霧
17 ミル本体
18 送炭管(フュエルパイプ)
24 ローラブラケット
25 ローラピボット
26 加圧フレーム
27 粉砕荷重
28 水
29 給炭機(コールフィーダ)
31 石炭バンカ
32 給炭機用ノズル
33 シュート用ノズル
34 水膜
Claims (7)
- 送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水開始または注水停止のタイミングをずらす
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水を実施する給炭量の範囲を変化させて設定する
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 送給された粉砕原料を受け取りその外周に移動させる回転テーブルと、前記回転テーブルの外周部上面で円周方向に刻設された粉砕レースと、前記粉砕レースに対向して配置されて粉砕原料を粉砕する粉砕ローラと、を備え、ボイラに給炭する複数台のローラミルであって、
前記複数台のローラミルのそれぞれの前記回転テーブル上の粉砕原料に注水することによりローラミルの自励振動を抑制し、
複数台のローラミルが同時に給炭量を変化させる場合に、少なくとも1台のローラミルを他のローラミルに対して、注水開始または注水停止に時間遅れΔtを設定し、
前記時間遅れΔtをボイラにおける負荷変化速度に応じて設定する
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 請求項3に記載のローラミルの運転制御装置において、
時間遅れΔtを、4秒≦Δt≦140秒 の範囲から選定することを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 請求項2に記載のローラミルの運転制御装置において、
前記注水を実施する給炭量範囲が最も広いローラミルまたは最も狭いローラミルは、ボイラの最上段バーナ列に微粉炭を供給するローラミル以外のローラミルである
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 請求項3または4に記載のローラミルの運転制御装置において、
前記時間遅れの最短または最長のローラミルは、ボイラの最上段バーナ列に微粉炭を供給するローラミル以外のローラミルである
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。 - 請求項1ないし6のいずれか1つの請求項に記載のローラミルの運転制御装置において、
前記回転テーブル上の粉砕原料への注水に代えて、前記ローラミルへの給炭機の粉砕原料に注水する
ことを特徴とするローラミルの運転制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP19897798A JP3681544B2 (ja) | 1998-07-14 | 1998-07-14 | ローラミルの運転制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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