JP3681367B2 - 鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造 - Google Patents

鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築や土木等の分野における鉄骨柱と基礎コンクリートの接合に用いられるアンカー筋の接合金物を用いた鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、鉄骨柱と基礎コンクリートの接合すなわち鉄骨柱脚は、図8に示すように、基礎コンクリート1中にアンカーボルト51を複数本埋設し、このアンカーボルト51が挿通できるボルト孔53を有するベースプレート52を鉄骨柱2の下端に溶接で固定し、基礎コンクリート1上にベースプレート52を載置し、ボルト孔53を貫通したアンカーボルト51の上部にナット54を螺合し、さらに緩み止めのナット55を用いて、基礎コンクリート1と鉄骨柱2を接合一体化している。
【0003】
また、アンカーボルト51の定着力を基礎コンクリートに分布伝達させるため、複数本のアンカーボルト51の周辺には、立上がり主筋62とフープ筋63からなる立上がり鉄筋籠61を配置してコンクリートを打設し、アンカーボルト51の定着機能を満足させている(以上、例えば、特許文献1の従来技術の欄及び図34等参照)。
【0004】
また、上記の特許文献1には、基礎コンクリート内に下部が埋設固定される複数の立上がり主筋にねじ部のない異形棒鋼を用い、鉄骨柱の下端接合部の周囲には、凹凸を内面に設けた挿通孔を有するスリーブ金物を固着し、基礎コンクリートから突出した異形棒鋼の上部をスリーブ金物内に挿通し、スリーブ金物内に高強度モルタルを充填固化させ、鉄骨柱と基礎コンクリートを接合一体化する技術が提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−248235号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述のような従来のアンカーボルトとベースプレートによる接合構造の場合、次のような問題点がある。
【0007】
(1) 図9に示すように、地震や暴風時に発生する柱脚の曲げモーメントMに対し、片側のアンカーボルト51が引張力を受けるが、他の側のアンカーボルト51には圧縮力が伝わらず、ベースプレート52と基礎コンクリート1の接触部分で接地圧縮力が生じて釣り合う。その合力はアンカーボルト51の内側に生じ、引張力を受けるアンカーボルト51との距離はL1 である。曲げ抵抗力は、この距離L1 が大きいほど強くなることは力学上の原理である。もし圧縮側のアンカーボルト51が圧縮力を負担すれば、その距離はL2 となるが、従来のアンカーボルトの固定法は、ベースプレート52の上からナットを螺合するので圧縮力は負担できない。そのため、柱材の曲げ断面性能を十分に発揮する条件である保有耐力接合(柱材下端が曲げ降伏して塑性ヒンジが生じても、柱下端とベースプレートの溶接部、ベースプレート自体、ナットで固定したアンカーボルトなどが破断しない)が困難となる。この保有耐力接合の条件を満たすためには、ベースプレート52を大きくするか、アンカーボルト51の高強度化や多数本化などが必要であるが、材料費や形状の大きさなどコストと設計の面から困難となる。
【0008】
(2) アンカーボルト51のねじ部は、断面積にして軸部の70%〜90%程度である。従って、図10に示すように、アンカーボルト51が大きい引張力を受けると、ねじ溝部が降伏して伸び、これが永久歪みとなる。地震は交番荷重であるから、左右のアンカーボルト51は交互に引張力を受けるので、左右のアンカーボルト51のねじ溝部の伸び歪みのため、基礎コンクリート1とベースプレート52との間にがたが生じ、固定ではなく載置状態となる。
【0009】
(3) 地震時の波動は柱脚を通じて上部架構に慣性力を与え、その上部架構の反力は柱脚を通じて基礎・地盤へと逸散する。従って、柱脚は地震動の通過点であるため、この部分に弛み・がたが生じると、地震エネルギーは柱脚で吸収されずに、上部架構に伝わり、揺れが大きくなる。なお、ダブルナットを用いてナットの弛み止めを施しても、ナット下部のねじ部の伸び歪みの発生は避けられず、その構造物の足元の性能は劣化する。
【0010】
(4) 図8に示すように、鉄骨柱2の外周にアンカーボルト51を配置するため、ベースプレート52が大きくなり、さらにアンカーボルト51の周囲に立上がり鉄筋籠61を設けるため、基礎コンクリート1の立上がり基礎部分1Aが大きくなる。そのため、基礎コンクリートを多量に必要とする。また、建物の外周では、鉄骨柱2の仕上面から柱脚部が外方に出るので、建物外周での仕上方法に大きな制約があった。
【0011】
(5) また、工事現場では、立上がり鉄筋籠61の組立作業、基礎梁の配筋、アンカーボルト51の据え付け等の作業が錯綜し、作業の工数が増え、作業能率が低下し、作業コストが増加する。また、アンカーボルト51をベースプレート52のボルト孔53に挿通させるためには、厳しい精度管理が必要である。
【0012】
また、前述の特許文献1の異形棒鋼とスリーブ金物と高強度モルタルによる接合構造の場合、上記のアンカーボルトとベースプレートによる接合構造の問題点を解決することができるが、より簡単な構造の接合金物で異形棒鋼と鉄骨柱を強固に固定できる接合構造が望まれている。
【0013】
さらに、立上がり主筋である異形棒鋼にはフープ筋を籠状に配置する必要がある。通常、鉄筋同士は、コンクリート打設の衝撃や流動する生コンクリートの圧力などで配筋が乱れたり移動しないように、針金などで結束したり、溶接で固定する方法が採られているが、針金などによる結束方法では、鉄筋同士は一点で接触し、滑りやすく、剛に固定することができない。溶接による方法では、鉄筋と鉄筋の側面を跨ぐブリッジ状の溶接となり、溶接部が割れやすく、またアークストライクにより鉄筋にノッチが生じるなど、鉄筋の材質を傷めるなどの問題がある。また、近年、鉄筋の組立を工場等で行い、プレハブ化した鉄筋を運搬して据え付ける省力化工法が行われているが、この場合、プレハブ鉄筋が運搬・据付け時に変形したり結束点がずれないように、形状を保持するための補助材が必要となり、この補助材はコンクリート打設前に撤去する必要があるため、コストが増加し、作業性が低下する。
【0014】
本発明は、前述のような問題点を解消すべくなされたもので、鉄骨柱と基礎コンクリートの接合部において、地震動等によって接合部に弛みが生じることがなく、耐力が低下しない接合部を得ることができ、基礎コンクリートを小さくすることができ、作業工数の低減等を図ることができ、しかも、比較的簡単な構造の接合金物で基礎コンクリートの立上がり主筋である異形棒鋼と鉄骨柱を強固に固定でき、さらに、基礎コンクリートの鉄筋同士を比較的簡単な部材と簡易な方法で剛に接合することができるアンカー筋の接合金物を用いた接合構造提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1は、鉄骨柱の下端接合部における周囲に周方向に間隔をおいて複数固定され、基礎コンクリート内に下部が埋設固定された異形棒鋼からなるアンカー筋の上部が挿入され、内部に充填されるグラウト材(高強度モルタル等)により前記アンカー筋の上部を固着するスリーブ状の接合金物を用いた鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造であり、上下端が開口すると共に側面に上下方向に連続するスリット状の開放部が形成された断面略U字状の筒状体の内面に凹凸が設けられ、前記開放部を挟んで左右一対の脚部は、先端部に鉄骨柱の側面に当接する当接面が形成され、かつ、外面に上下方向に連続する溶接(隅肉溶接等)用の凹状溝が設けられた接合金物が冷間成形角形鋼管からなる鉄骨柱の各角部に配置され、角部の塑性域を挟むように配置された左右一対の脚部がその外面の凹状溝の溶接で鉄骨柱に固定されていることを特徴とする鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造である。
【0017】
本発明は、鉄骨柱が冷間成形角形鋼管のように角部に塑性域(溶接部の割れや脆性破壊が発生しやすい)がある場合に適用されるものであり、角部の塑性域を跨いで接合金物を溶接する(図3(a)参照)
【0018】
本発明の請求項2は、請求項1に記載の接合構造において、複数本のアンカー筋(異形棒鋼)とこれを取り囲むフープ筋の交差部に、複数本の結束線(針金など)を巻き付け、端部同士を捩じって縛ることにより、平板状または棒状に束ねられた結束線で鉄筋同士を固縛し、かつ、結束線束の各結束線間の隙間、結束線束と鉄筋の接触部、鉄筋同士の接触点を含む周辺部に、金属接着材(エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系の接着材あるいは瞬間接着材など)を注入し、硬化した金属接着材により、結束線同士、結束線束と鉄筋、鉄筋同士を一体化して、アンカー筋の上部を柱の接合金物内に精度良く挿入するために、鉄筋籠がコンクリートの打設による衝撃等に対して図1に示す形状を保持できるようにしたことを特徴とする鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造である。
【0019】
骨柱と基礎コンクリートの接合に際しては、基礎コンクリートの複数本のアンカー筋(異形棒鋼)とこれを取り囲むフープ筋の交差部を結束線(針金など)と金属接着剤(エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系の接着材あるいは瞬間接着材など)で固定してなる鉄筋籠を基礎面上に設置し、前記アンカー筋の上部が基礎コンクリートから突出するようにコンクリートを打設して基礎コンクリートを構築し、請求項1に記載のアンカー筋の接合金物が下端接合部における周囲の各角部に固定された鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に建て込んで前記アンカー筋の上部を前記接合金物内に挿通し、この接合金物の内部にグラウト材(高強度モルタル等)を充填して鉄骨柱と基礎コンクリートを一体化す
【0020】
請求項2において、結束線束は、交差部を一方向に跨ぐ片襷掛けで巻き付けられ(図5(a) 参照)、あるいは交差部を二方向に跨ぐ両襷掛けで巻き付けられる(図5(b) 〜(d) 参照) 。また、片襷掛けの結束線束の襷掛け方向が複数の交差部で互いに異なるようにしてもよい。
【0021】
柱脚は、一般に軸方向力Nと曲げモーメントMとせん断力Qを同時に受ける。これらの応力は柱断面を構成する板要素の面内力として作用する。従って、以上のような本発明によれば、下部が基礎コンクリート内に埋設固定された異形棒鋼の上部が、鉄骨柱の側面に沿って固定された断面略U字状の接合金物と柱板要素で形成された閉鎖状の孔に挿通され、グラウト材により接合金物及び鉄骨柱と一体化し、接合金物の内面には突起による凹凸が設けられており、異形棒鋼の表面にも節による凹凸が設けられており、これらの間に充填され固化したグラウト材が接合金物と異形棒鋼の凹凸に噛み合うことにより固定度が高まり、異形棒鋼と接合金物及び鉄骨柱とが確実に接合一体化することにより、地震動等によって接合部に弛みが生じることがなく、耐力が低下することがない。
【0022】
接合金物を鉄骨柱の側面に沿って固定し、異形棒鋼を立上がり主筋として用いるため、ベースプレート及び二重構造の鉄筋籠が不要となり、基礎コンクリートを小さくすることができ、作業工数の低減を図ることができる。また、接合金物が鉄骨柱の側面に沿って固定されているため、柱脚の曲げ応力を直接基礎に伝えることができる。また、ベースプレートが不要となることで、定着筋に加わる応力は基礎深部に伝達できるので鉄骨柱と基礎コンクリートの連続的な接合が可能となる。また、異形棒鋼を接合金物内に隙間をおいて挿入できるため、精度管理が容易となる。
【0023】
接合金物は、断面略U字状の筒状体の開放部を挟んで左右一対の脚部の先端当接面を鉄骨柱の側面に当接させ、かつ、脚部外面の溶接用凹状溝により十分な長さの溶接脚長を確保することができるため、接合金物を鉄骨柱の側面に強固に固定することができ、比較的簡単な構造の接合金物で異形棒鋼と鉄骨柱を強固に固定できる。また、断面略U字状の筒状体と鉄骨柱の側板により異形棒鋼の挿通孔が形成されるため、接合金物を鉄骨柱の側面に近接して配置することができ、応力を効率良く伝達することができ、また基礎コンクリートをよりコンパクトにすることができる。
【0024】
異形棒鋼とそのフープ筋は、鉄筋同士を片襷掛けや両襷掛けで固縛した後、結束線間の隙間および鉄筋間の隙間に金属接着材を吐出注入させると、金属接着材が各結束線間の隙間に浸透すると共に、結束線束と鉄筋との隙間に充填され、また、鉄筋同士の接触点を中心とする周辺部に充填される。金属接着材が硬化すると、金属接着材により一体化した平板状や棒状の結束線束の剛性が向上すると共に、このような結束線束が鉄筋に強固に固定され、結束線束による固縛作用が大幅に増大し、さらに、鉄筋同士が金属接着材により強固に固定され、鉄筋同士が剛に接合される。これにより、コンクリートの打設の衝撃や生コンクリートの流れによる圧力で、配筋が乱れることがなく、信頼性の高い基礎コンクリート構造物が得られ、また、鉄筋のプレハブ化において補助材が不要となる。また、金属接着材を注入するだけの比較的簡単な部材と簡易な方法で熟練を要さずに鉄筋を傷めることなく鉄筋同士を剛に接合することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図示する実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、本発明を鉄骨柱脚に適用した例である。図1は、本発明に係る鉄骨柱脚の接合構造の一例を示したものである。図2は、本発明に係る接合金物の一例を示したものである。図3は、鉄骨柱と接合金物の配置の例を示したものである。図4、図5は、基礎コンクリートにおける異形棒鋼とフープ筋の固定方法を示したものである。
【0026】
図1において、基礎コンクリート1は、立上がり基礎部分1Aと基礎梁1Bからなり、立上がり基礎部分1Aの上に鉄骨柱2が立設されている。このような鉄骨柱脚において、本発明では、アンカー筋3にナット締め付け用のねじのない異形棒鋼を用い、この異形棒鋼3を複数本(図示例では8本)上部が立上がり基礎部分1Aの上面から所定長さだけ突出するように立上がり基礎部分1A内に埋設固定し、鉄骨柱2の下端接合部における4つの外側面には、後述するような特殊な形状の接合金物4を異形棒鋼3の数と位置に合わせて鉄骨柱2の側面に沿うように隅肉溶接5で固定しておき、異形棒鋼3の上部を接合金物4内に挿通した後、この接合金物4内に高強度モルタル等のグラウト材6を充填して異形棒鋼3の上部と接合金物4および鉄骨柱2とを固着することで、基礎コンクリート1と鉄骨柱2とを接合一体化する。
【0027】
複数本の異形棒鋼3は、基礎コンクリート1の立上がり主筋であり、これらを取り巻くフープ筋7が上下方向に間隔をおいて複数配設され、異形棒鋼3とフープ筋7により鉄筋籠が形成される。図示例の場合には、フープ筋7は平面視で八角形となる。また、各異形棒鋼3は、対応する各接合金物4の位置に合わせて配置し、組み立てることになる。なお、基礎梁1Bには、主筋8とスターラップ筋9が配筋される。
【0028】
接合金物4は、図2に示すように、内面に突起11による凹凸が形成された円筒状のスリーブ金物の側面に上下方向に連続するスリット状の開放部12を設けた上下端が開口する断面略U字状の筒状体10であり、平面視で半円状の本体10aと、開放部12を挟んで左右一対の脚部10b,10bから構成されている。
【0029】
この脚部10bの先端面は、鉄骨柱2の側面に当接する当接面13が形成されるように加工され、十分な接触面積で接合金物4を鉄骨柱2の側面に取付けることができるようにされている。また、この脚部10bの外面には、上下方向に連続する隅肉溶接用の凹状溝14が形成されている。この凹状溝14は、平面視で例えば三角形状に抉られて形成され、十分な溶接脚長Lを確保し、隅肉溶接5の十分な強度が得られるようにする。また、接合金物4の板厚tが必要隅肉サイズ(Lに相当)より小さいときは、板厚を溶接部に向かって漸増させ、T≧Lとする。当接面13と凹状溝14により接合金物4が鉄骨柱2の側面に強固に固定される。また、断面略U字状の筒状体10と鉄骨柱2の側板とにより異形棒鋼3の閉鎖状の挿通孔が形成され、異形棒鋼3を鉄骨柱2の側面に近接して配置することができる。
【0030】
また、本体10aの下部における鉄骨柱2の反対側の側面にはグラウト注入孔15が設けられている。接合金物4の上面は開放されているため、グラウト材6の充填が目視できる。また、グラウト材6は上部からも注入することができ、作業性がよい。
【0031】
このような接合金物4は、市販されている縞鋼板を縞突起が内側に位置するようにプレス成形して製造することができ、また鋼板を鍛造して成形することもでき、さらに鋳鋼製とすることもできる。突起11は、異形棒鋼3の軸方向に対して直交する凸条が好ましい。縞鋼板のように異形棒鋼3の軸方向に対して傾斜しているものでもよい。なお、この接合金物4は、図示例では、円筒状とされているが、これに限らず、その他の形状でもよい。
【0032】
従来の接合構造では、アンカーボルトのナット締め付けねじ部の伸びによって弛みが生じていたが、本実施形態では、異形棒鋼3の節(リブ)による凹凸と接合金物4の突起11による凹凸に固化したグラウト材6が噛み合い、異形棒鋼3と接合金物4が確実に固定され、伸びが生じない。そして、立上がり主筋である異形棒鋼3に伝達された荷重は基礎コンクリート1内で鉄筋籠状のフープ筋7等を介して立上がり基礎部分1A及び基礎梁1Bに確実に伝達される。従って、地震動等が生じても、接合部の弛みがなく、柱脚部の固定度が高まることで、良好なエネルギ吸収能力が得られる。
【0033】
また、異形棒鋼3とフープ筋7からなる鉄筋籠に伝達された荷重は、立上がり基礎部分1Aあるいは基礎梁1Bに伝達され、構造骨組全体が明快な力学的伝達機構となり、従来のようなアンカーボルトとその周辺に鉄筋籠を設けるといった二重構造を単純化することができ、基礎コンクリート1を小さくすることができ、また工事現場の作業を簡易化することができる。
【0034】
また、接合金物4が鉄骨柱2の側面に沿って固定されているため、柱脚の曲げ応力を直接基礎コンクリート1に伝えることができる。また、ベースプレートが不要となることで、定着筋に加わる応力は基礎深部に伝達できるので鉄骨柱2と基礎コンクリート1の連続的な接合が可能となる。また、異形棒鋼3を接合金物4内に隙間をおいて挿入できるため、精度管理が容易となる。
【0035】
接合金物4は、十分な接触面積の当接面13と十分な溶接脚長Lの凹状溝14により鉄骨柱2の側面に強固に固定することができる。また、断面略U字状の筒状体10と鉄骨柱2の側板により異形棒鋼3の挿通孔が形成されるため、接合金物4を鉄骨柱2の側面に近接して配置することができ、応力を効率良く伝達することができ、また基礎コンクリート1をよりコンパクトにすることができる。
【0036】
図3に示すように、鉄骨柱2が角形鋼管等の場合には、接合金物4を各角部に溶接で固定し、あるいは、各側板部に溶接で固定する。鉄骨柱2がH形鋼等の場合には、平行フランジの外面に溶接で固定する。
【0037】
ここで、鉄骨柱に最も多用されている冷間成形角形鋼管の場合、その角部に冷間曲げ加工のため著しく塑性化した領域E(図の斜線部分)が存在する。この塑性域Eに溶接した場合、母材の衝撃値が低く、溶接部の割れや脆性破壊が発生しやすいため、建物が地震力や風圧力のような大きな外力を受けた時に、塑性域の溶接部を起点として崩壊する危険性がある。そのため、図3(a) の角形鋼管の各角部に接合金物4を固定する場合、塑性域Eを避けて溶接する。即ち、接合金物4の開放部12が塑性域Eに位置するように左右一対の脚部10b,10bで塑性域Eを挟み、隅肉溶接5が塑性域Eにかからないようにする。図3(b) の場合は、鉄骨柱2の各側板部に固定するため、塑性域Eを避けることができる。
【0038】
次に、主筋としての異形棒鋼3とフープ筋7は、図4に示すように、複数本の針金(鈍し鉄線等の結束線)20と、エポキシ樹脂系やフェノール樹脂系の接着材あるいは瞬間接着材などの金属接着材21を用い、針金20の結束状態や金属接着材21の接着方法などを工夫することにより、異形棒鋼3とフープ筋7を剛に接合できるようにする。
【0039】
図4の例では、複数本の針金20を束ねて針金束22とし、この針金束22を異形棒鋼3とフープ筋7に対角状に襷掛けで巻き付け、端部同士を捩じって縛ることにより、捩じった部分以外で平板状あるいは棒状となった針金束22により異形棒鋼3とフープ筋7を固縛する。針金20は、2本以上を束ねて用いるのが好ましい。
【0040】
次いで、金属接着材21を針金束22および異形棒鋼3とフープ筋7との隙間に吐出注入する。金属接着材21は、図4(b) に示すように、針金20, 20間の隙間にその表面張力を利用して浸透していくと同時に、針金20と異形棒鋼3・フープ筋7との間に充填される。また、図4(c) に示すように、異形棒鋼3ととフープ筋7の接触点Pを含む周辺部を埋めるように金属接着材21が充填される。さらに、針金束22の全体を覆うように金属接着材11を塗布してもよい。また、針金束22と異形棒鋼3・フープ筋7の間の空間にも充填し、一体化した金属接着材21で結束部全体が覆われるようにしてもよい。
【0041】
接着材が硬化すると、金属接着材21により、針金束22の剛性が向上する(後に詳述)と共に、このような針金束22が異形棒鋼3・フープ筋7に強固に固定されることで、針金束22による固縛作用が大幅に増大し、さらに、異形棒鋼3とフープ筋7とが金属接着材21により強固に固定され、以上により、異形棒鋼3とフープ筋7とが剛に接合される。
【0042】
図5は、針金束22の種々の結束方法を示す正面図、裏面図、斜視図である。図5(a) は、1セットの針金束22を用いた片襷掛けの例である。図5(b) は、2セットの針金束22をそれぞれ正面・裏面ともに×字状となるように巻き付けた両襷掛けの例である。図5(c) は、1セットの針金束22を裏面では平行に正面では×字状となるように連続的に巻き付けた両襷掛けの例である。図5(d) は、2セットの針金束22を裏面では平行に巻き付け、正面でも平行となるようにそれぞれの端部を連結した両襷掛けの例である。なお、図示例は針金20が2本1組の場合であるが、3本、4本、それ以上でもよい。
【0043】
以上のような鉄筋同士の接合方法によれば、次に示す作用効果が得られる。
【0044】
(1) 束ねた針金束22を接着材21で一体化した時の強さ
図6(a) は、平板状に束ねた針金束22の例であり、針金群が接着材で一体化することで、平板に相当する曲げ強さを持ち、面内剛性が高い。一方、面外剛性は低いから、鉄筋の周面に密着しやすい。また、接着面積を大きくすることができる。以上のことから、鉄筋同士の接合を強固に行える。
【0045】
図6(b) は、棒状(ロープ状)に束ねた針金束22の例であり、針金群が接着材で一体となり、充実断面の鋼材と等価な剛性を持ち、鉄筋同士の接合を強固に行える。
【0046】
なお、接着材により針金群の剛性が高まる理由は、以下の通りである。即ち、金属接着材11のせん断剛性とせん断強さにより、針金群が一体化する。図6(c) に示すように、接着材が無いか弱いと、曲げ応力を受けた場合、2材間にずれが生じ、曲がりやすい。図6(d) に示すように、接着材11が強いと、2材が一体化し、曲がりにくい。
【0047】
以上のように、複数本の針金20を長さ方向に互いに金属接着材21で接合することにより、曲げ強さが増加し、鉄筋同士を強固に接合することができ、また、前述したように平板状とロープ状とでそれぞれ曲げ強さの特性が生まれ、適宜選択して用いることができる。
【0048】
(2) 鉄筋同士の接合メカニズム
図7(a) (両襷掛けの場合)に示すように、接着材21が針金束22を一体化し、かつ、針金束22と接する異形棒鋼3,フープ筋7と接着一体化するため、異形棒鋼3,フープ筋7の交差角θを変えようとする曲げ応力Mに対して、その側面線部分22aが図7(b) に示すような力を受けることになる。
【0049】
側面線部分22aの耐力をP1 ,P2 、鉄筋1、2間の接着材溜まりによる曲げ耐力をP3 とすると、両襷掛けの場合には、(P1 +P2 +P3 )の抵抗要素による剛な接合となる。
【0050】
片襷掛けの場合には、(P1 +P3 )が抵抗要素になるため、両襷掛けの場合よりも耐力は低下し、かつ、正の曲げと負の曲げではその耐力に差が生じるので、各交差部の結束は、互いに襷掛けの方向を変え、交差部の耐力を補うようにする。
【0051】
なお、以上は異形棒鋼3とフープ筋7の接合について説明したが、基礎梁1Bの主筋8とスターラップ筋9の接合にも適用できることは言うまでもない。
【0052】
工場や現場において、鉄筋同士を前述の結束線と金属接着剤で固定して鉄筋籠を組立て、これを基礎面上に設置し、異形棒鋼3からなるアンカー筋の上部が基礎コンクリートから突出するようにコンクリートを打設して基礎コンクリート1を構築し、予め接合金物4が溶接固定された鉄骨柱2を基礎コンクリート1上に建て込んで異形棒鋼3の上部を接合金物4内に挿通し、この接合金物4の内部にグラウト材6を充填して鉄骨柱2と基礎コンクリート1を一体化する。
【0053】
【発明の効果】
(1) 下部が基礎コンクリート内に埋設固定された異形棒鋼の上部を、鉄骨柱の側面に沿って固定された断面略U字状の接合金物と柱板要素で形成された閉鎖状の孔に挿通し、グラウト材により接合金物及び鉄骨柱と一体化するようにしたため、接合金物の内面の突起による凹凸と異形棒鋼の表面の節による凹凸に固化したグラウト材が噛み合うことにより固定度が高まり、異形棒鋼と接合金物及び鉄骨柱とが確実に接合一体化することにより、地震動等によって接合部に弛みが生じることがなく、耐力が低下することがない接合部を得ることができる。
【0054】
(2) 接合金物を鉄骨柱の側面に沿って固定し、異形棒鋼を立上がり主筋として用いるため、ベースプレート及び二重構造の鉄筋籠が不要となり、基礎コンクリートを小さくすることができ、作業工数の低減を図ることができる。コンクリート量の削減によるコストの低減及び作業コストの低減が図られる。
【0055】
(3) 接合金物が鉄骨柱の側面に沿って固定されているため、柱脚の曲げ応力を直接基礎に伝えることができる。
【0056】
(4) ベースプレートが不要となることで、定着筋に加わる応力は基礎深部に伝達できるので鉄骨柱と基礎コンクリートの連続的な接合が可能となる。
【0057】
(5) 異形棒鋼を接合金物内に隙間をおいて挿入できるため、精度管理が容易となる。
【0058】
(6) 接合金物は、断面略U字状の筒状体の開放部を挟んで左右一対の脚部の先端当接面を鉄骨柱の側面に当接させ、かつ、脚部外面の溶接用凹状溝により十分な長さの溶接脚長を確保することができるため、接合金物を鉄骨柱の側面に強固に固定することができ、比較的簡単な構造の接合金物で異形棒鋼と鉄骨柱を強固に固定できる。
【0059】
(7) 断面略U字状の筒状体と鉄骨柱の側板により異形棒鋼の挿通孔が形成されるため、接合金物を鉄骨柱の側面に近接して配置することができ、応力を効率良く伝達することができ、また基礎コンクリートをよりコンパクトにすることができる。
【0060】
(8) 鉄骨柱が冷間成形角形鋼管のように角部に塑性域がある場合、角部の塑性域を跨いで接合金物を溶接し、あるいは側板部に接合金物を溶接して角部の塑性域を避けることにより、建物が地震力や風圧力のような大きな外力を受けた時に、溶接部を起点として崩壊する危険性を無くすことができる。
【0061】
(9) 基礎コンクリートの鉄筋同士を片襷掛けや両襷掛けの結束線束で固縛した後、結束線束の各結束線間の隙間、結束線束と鉄筋の接触部、鉄筋同士の接触点を含む周辺部に、金属接着材を注入することで、金属接着材により一体化した平板状や棒状の結束線束の剛性が向上すると共に、このような結束線束が鉄筋に強固に固定され、結束線束による固縛作用が大幅に増大し、さらに、鉄筋同士が金属接着材により強固に固定され、鉄筋同士を剛に接合することができる。鉄筋同士が剛に接合されることにより、コンクリートの打設の衝撃や生コンクリートの流れによる圧力で、配筋が乱れることがなく、信頼性の高い鉄筋コンクリート構造物を得ることができる。鉄筋同士が剛に接合されることにより、鉄筋のプレハブ化において補助材が不要となり、コストの低減、作業性の向上を図ることができる。金属接着材を注入するだけの比較的簡単な部材と簡易な方法で熟練を要さずに鉄筋を傷めることなく鉄筋同士を剛に接合することができる。また、基礎コンクリートのアンカー筋の上部を柱の接合金物内に精度良く挿入することができ、アンカー筋の位置決め部材が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造の一実施形態を示したものであり、(a) は鉄骨柱の水平断面図、(b) は鉛直断面図、(c) は基礎コンクリートの水平断面図である。
【図2】本発明に係る接合金物の一例を示したものであり、(a) ,(b) は上面図、(c) は正面図、(d) は背面図、(e) は鉛直断面図である。
【図3】本発明の鉄骨柱と接合金物の配置の例を示す水平断面図及び正面図である。
【図4】本発明の基礎コンクリートにおける鉄筋接合部構造の例を示したものであり、(a) は斜視図、(b) は水平断面図、(c) は鉄筋交点部の斜視図である。
【図5】図4の鉄筋接合部構造における針金束の種々の結束方法を示す正面図、裏面図、斜視図である。
【図6】図4の鉄筋接合部構造における針金束であり、(a),(b) は、平板状および棒状の針金束を示す断面図および平面図、(c),(d) は、2材の曲がりを示す正面図である。
【図7】 (a) は、鉄筋接合部を示す正面図及び水平断面図、(b) は、その曲げ応力に対する耐力を示す正面図である。
【図8】従来の鉄骨柱脚を示したものであり、(a) は鉛直断面図、(b) は水平断面図である。
【図9】従来の鉄骨柱脚の地震や暴風時の挙動を示す正面図である。
【図10】従来の鉄骨柱脚のアンカーボルトの伸びを示す部分断面図である。
【符号の説明】
1…基礎コンクリート
1A…立上がり基礎部分
1B…基礎梁
2…鉄骨柱
3…異形棒鋼(アンカー筋、主筋)
4…接合金物
5…隅肉溶接
6…グラウト材
7…フープ筋
8…主筋
9…スターラップ筋
10…断面略U字状の筒状体
10a…本体
10b…脚部
11…突起
12…開放部
13…当接面
14…凹状溝
15…グラウト注入孔
20…針金
21…金属接着材
22…針金束

Claims (2)

  1. 鉄骨柱の下端接合部における周囲に周方向に間隔をおいて複数固定され、基礎コンクリート内に下部が埋設固定された異形棒鋼からなるアンカー筋の上部が挿入され、内部に充填されるグラウト材により前記アンカー筋の上部を固着するスリーブ状の接合金物を用いた鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造であり、上下端が開口すると共に側面に上下方向に連続するスリット状の開放部が形成された断面略U字状の筒状体の内面に凹凸が設けられ、前記開放部を挟んで左右一対の脚部は、先端部に鉄骨柱の側面に当接する当接面が形成され、かつ、外面に上下方向に連続する溶接用の凹状溝が設けられた接合金物が冷間成形角形鋼管からなる鉄骨柱の各角部に配置され、角部の塑性域を挟むように配置された左右一対の脚部がその外面の凹状溝の溶接で鉄骨柱に固定されていることを特徴とする鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造
  2. 請求項1に記載の接合構造において、複数本のアンカー筋とこれを取り囲むフープ筋の交差部に、複数本の結束線を巻き付け、端部同士を捩じって縛ることにより、平板状または棒状に束ねられた結束線で鉄筋同士を固縛し、かつ、結束線束の各結束線間の隙間、結束線束と鉄筋の接触部、鉄筋同士の接触点を含む周辺部に、金属接着材を注入し、硬化した金属接着材により、結束線同士、結束線束と鉄筋、鉄筋同士を一体化してなることを特徴とする鉄骨柱と基礎コンクリートの接合構造。
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