JP3670667B2 - 重合トナー及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【技術分野】
本発明は、重合トナーとその製造方法に関し、さらに詳しくは、電子写真法、静電記録法等によって形成される静電潜像を現像するための重合トナー及びその製造方法に関する。また、本発明は、該重合トナーを用いた画像形成方法、及び該重合トナーを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
電子写真法や静電記録法において、静電潜像を可視化する現像剤としては、トナーとキャリア粒子とからなる二成分現像剤と、実質的にトナーのみからなり、キャリア粒子を使用しない一成分現像剤とがある。一成分現像剤には、磁性粉を含有する磁性一成分現像剤と、磁性粉を含有しない非磁性一成分現像剤とがある。非磁性一成分現像剤では、トナーの流動性を高めるために、コロイダルシリカなどの流動化剤を独立して添加することが多い。トナーとしては、一般に、結着樹脂中にカーボンブラック等の着色剤やその他の添加剤を分散させ、粒状化した着色粒子が使用されている。
トナーの製造方法には、大別すると、粉砕法と重合法とがある。粉砕法では、合成樹脂と着色剤と必要に応じてその他の添加剤とを溶融混合した後、粉砕し、次いで、所望の粒径の粒子が得られるように分級してトナーを得ている。重合法では、重合性単量体に、着色剤、重合開始剤、必要に応じて架橋剤、帯電制御剤などの各種添加剤を均一に溶解ないしは分散せしめた重合性単量体組成物を調製し、次いで、分散安定剤を含有する水系分散媒体中に攪拌機を用いて分散して、重合性単量体組成物の微細な液滴粒子を形成させ、しかる後、昇温して懸濁重合することにより、所望の粒径を有するトナー(重合トナー)を得ている。
いずれの現像剤においても、実質上、トナーにより静電潜像を現像している。一般に、電子写真装置や静電記録装置等の画像形成装置においては、均一に帯電させた感光体上に像露光を行って静電潜像を形成し、この静電潜像にトナーを付着させてトナー像(可視像)とし、このトナー像を転写紙などの転写材上に転写し、次いで、未定着のトナー像を加熱、加圧、溶剤蒸気など種々の方式により、転写材上に定着させている。定着工程では、多くの場合、加熱ロール(定着ロール)と加圧ロールとの間に、トナー像を転写した転写材を通し、トナーを加熱圧着して、転写材上に融着させている。
電子写真複写機等の画像形成装置によって形成される画像には、年々、精細さの向上が求められている。従来、画像形成装置に用いられるトナーとしては、粉砕法によって得られたトナーが主流であった。粉砕法によると、粒径分布の広い着色粒子が形成されやすいので、満足できる現像特性を得るには、粉砕品を分級してある程度狭い粒径分布に調整する必要がある。しかし、分級は、それ自体が煩雑で、しかも歩留が悪く、トナーの収率が大幅に低下する。そこで、近年、粒径制御が容易で、分級などの煩雑な製造工程を経る必要のない重合トナーが注目されるようになってきている。懸濁重合法によれば、粉砕や分級を行うことなく、所望の粒径と粒径分布を有する重合トナーを得ることができる。しかしながら、従来の重合トナーは、近年の複写の高速化やフルカラー化、さらには省エネルギー化などの要求に充分に対応できないという問題があった。
近年、電子写真方式の複写機、プリンター等においては、消費電力の低減化とともに、複写や印刷の高速化が要求されている。電子写真方式の中で、特にエネルギーを消費する工程は、感光体から転写紙などの転写材上にトナーを転写した後の定着工程である。定着工程では、トナーを加熱溶融して転写材上に定着させるために、通常、150℃以上の温度に加熱した加熱ロールが使用されており、そのエネルギー源として電力が使用されている。この加熱ロール温度を下げることが、省エネルギーの観点より求められている。加熱ロール温度を下げるには、トナーを従来よりも低温で定着可能なものとする必要がある。すなわち、トナー自体の定着温度を下げることが必要である。従来よりも低温での定着が可能なトナーを使用すると、加熱ロール温度を下げることができる一方、加熱ロール温度をそれほど下げなければ、定着時間の短縮が可能なため、複写や印刷の高速化にも対応することができる。
トナーの設計において、省エネルギーや複写の高速化などの画像形成装置からの要求に応えるには、トナーを構成する結着樹脂のガラス転移温度を低下させればよい。しかしながら、ガラス転移温度が低い結着樹脂によりトナーを構成すると、保存中や輸送中、あるいは画像形成装置のトナーボックス中などで、トナー同士がブロッキングを起こして、凝集体となりやすく、いわゆる保存性の悪いトナーとなってしまう。
近年、電子写真方式により、カラー複写やカラー印刷が鮮明にできることが要求されている。例えば、複写のフルカラー化では、定着工程において、トナーを単に溶融軟化させて転写材上に融着させるだけでは不充分であり、各色のトナーを均一に溶融混合して混色することが必要である。特に、各種会議でのプレゼンテーション用OHP(オーバーヘッドプロジェクター)シートにカラー画像を使用する場合が多くなっているので、該シート上に定着したトナー像が該シートを透過してスクリーン上に鮮明な像を形成できること、すなわちOHP透過性に優れていることが要求されるようになっている。OHP透過性を満足するには、透明な合成樹脂製のOHPシート上で、トナーが均一に溶融していることが求められる。そのためには、トナーの定着温度付近での溶融粘度を従来のものに比べて低く設計することが必要である。トナーの溶融粘度を低くする手法としては、従来のトナー用結着樹脂に比べて、結着樹脂の分子量を低くしたり、ガラス転移温度を下げるなどの手法がある。しかしながら、いずれの手法を採った場合でも、トナーがブロッキングを起こしやすく、保存性の悪いトナーとなってしまう。
従来、定着性に優れた重合トナーを得る方法として、例えば、特開平3−136065号公報には、着色剤及び帯電制御剤を含む重合性単量体を、マクロモノマーの存在下に懸濁重合する方法が提案されている。マクロモノマーは、分子鎖末端に重合可能な官能基、例えば、炭素−炭素二重結合のような不飽和基を有する比較的長い線状分子である。この方法によれば、マクロモノマーが生成重合体の分子鎖中に単量体単位として組み込まれるので、該分子鎖中にマクロモノマーの長い線状分子に起因する多数の分枝が生じる。生成重合体は、その分枝の絡み合い、いわゆる物理的架橋により、見かけ上、高分子量の重合体になるので、重合トナーの耐オフセット性が改善される。一方、マクロモノマー成分による物理的架橋は、ジビニルベンゼンなどの架橋性モノマーを用いた化学的架橋とは異なり、緩い架橋構造であるから、加熱によって架橋構造がくずれやすい。したがって、この重合トナーは、加熱ロールを用いた定着時には容易に溶融するため、定着性に優れている。しかし、この重合トナーは、保存中にトナー同士の凝集が生じやすく、保存性については満足できるものでなかった。
このように、トナーの定着温度の低下や均一溶融性を向上させるための従来の手法では、得られるトナーの定着性は改善されるものの、保存性が低下するという、逆相関関係が生じてしまう。この逆相関関係を解決する手法として、ガラス転移温度の低い結着樹脂で構成したトナーを、ガラス転移温度の高いポリマーで被覆して、耐ブロッキング性を向上させることにより保存性の問題を解決する、いわゆるカプセル型トナーが提案されている。
カプセル型トナーの製造方法として、例えば、特開昭60−173552号公報には、ジェットミル装置を用いて、微小粒径を有する球状の核体粒子表面に、着色剤または磁性粒子または導電剤と結着樹脂とからなる被覆層を形成する方法が提案されている。核体粒子としては、アクリル酸エステル樹脂やスチレン系樹脂などの熱可塑性プラスチック透明樹脂が用いられている。該公報には、この方法によれば、流動性に優れ、機能性が向上した多層構成のトナーが得られると報告されている。しかし、この方法では、ガラス転移温度が低い核体粒子を使用すると、核体粒子自体が凝集を起こしやすい。また、この方法では、核体粒子に付着させる結着樹脂の膜厚が大きくなりやすい。したがって、この方法では、保存性を保持しつつ、定着性と均一溶融性を向上させたトナーを得ることが困難である。
特開平2−259657号公報には、有機溶媒中にカプセル化用重合体、帯電制御剤及び離型剤を溶解させた溶液中に、懸濁重合により調製した架橋トナー粒子を添加した後、貧溶媒を添加して、架橋トナー粒子の表面に、帯電制御剤と離型剤を含むカプセル化用重合体の被覆を形成する電子写真用トナーの製造方法が提案されている。しかし、この方法では、貧溶媒の滴下によりカプセル化用重合体の溶解度を減少させて、架橋トナー粒子の表面に析出させているため、真球粒子を得ることが困難である。この方法では、架橋トナー粒子の表面に形成されるカプセル壁は、厚さが一様でなく、しかも比較的厚いものとなる。その結果、現像性及び定着性の改善効果が充分ではない。
特開昭57−45558号公報には、重合によって形成された核体粒子を1〜40重量%のラテックス水溶液中に混合分散し、次いで、水溶性無機塩を加え、核体粒子表面に、乳化重合により得られた微小粒子による被覆層を形成する静電荷像現像用トナーの製造方法が提案されている。しかし、この方法では、微小粒子上に残存する界面活性剤や無機塩の影響により、トナーの帯電特性の環境依存性が大きく、特に高温高湿の条件下で帯電が低下するという欠点があった。
特開昭61−118758号公報には、ビニル系単量体と重合開始剤と着色剤とを含有する組成物を懸濁重合して芯粒子を得、この芯粒子の存在下に、芯粒子に含まれる樹脂と同等以上の親水性を有し、かつ、該樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体を与えるビニル系単量体を重合して、殻を形成させるトナーの製造方法が開示されている。該公報には、溶融したトナーの一部が定着ロールの表面に付着するのを防ぐために、芯粒子に、低分子量ポリエチレン、カルナウバワックス、シリコンオイル等の離型剤を添加してもよいことが示されている。しかしながら、この方法では、芯粒子に殻を形成するためのビニル系単量体を吸着させて成長させるので、芯粒子の内部にまで吸収された該ビニル系単量体が重合して、明確なコア・シェル構造を生じ難い場合が多い。したがって、この方法では、保存性が充分に改善されたトナーを得ることが難しい。また、この方法では、コア・シェル構造を明確にして保存性を改善するためには、殻の厚みを大きくしなければならなかった。
特開平7−128908号公報には、重合性単量体、着色剤、及び離型剤を含有する単量体組成物を水系媒体中で懸濁重合し直接的に得られる重合トナーの製造方法において、該離型剤を重合性単量体100重量部に対して10〜40重量部含有させ、重合工程終了後にトナー表面の離型剤を除去する工程を含むトナーの製造方法が開示されている。この方法では、単量体に極性基を持つ重合体を添加して重合すると、極性重合体が粒子表面層に集まるため、コア・シェル構造が形成される。また、トナー表面の離型剤を除去するため、現像スリーブ、感光ドラム、転写ドラム等への離型剤(ワックス)の付着による汚染を低減することができる。しかし、この方法では、トナーの保存性、定着温度などを充分に改善することができず、かぶりの発生、印字濃度の低下などが生じやすい。
【発明の開示】
本発明の目的は、低い定着温度と均一溶融性を有し、保存性(耐ブロッキング性)に優れ、さらには、かぶりの発生、印字濃度の低下などが生じにくい重合トナーとその製造方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、複写や印刷の高速化、フルカラー化、省エネルギー化に対応することができる重合トナーとその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、OHPシート上に印字し、定着した場合に、優れた透過性(OHP透過性)を示すトナー像を形成することができる重合トナーとその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、そのような優れた諸特性を有する重合トナーを用いた画像形成方法、及び該トナーを収容した画像形成装置を提供することにある。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、多価アルコールとカルボン酸とから形成された特定の多官能エステル化合物及び着色剤を含有する着色重合体粒子からなるコア粒子が、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体からなるシェルで被覆されているコア・シェル型構造の重合トナーに想到した。
この重合トナーは、多官能エステル化合物、着色剤、及びガラス転移温度が80℃以下の重合体を形成し得る重合性単量体を含有する組成物を、好ましくはマクロモノマーの存在下に、懸濁重合して着色重合体粒子を調製し、次いで、該着色重合体粒子をコア粒子として、このコア粒子の存在下に、コア粒子を構成する重合体成分よりも高いガラス転移温度を有する重合体を形成し得る重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子を被覆する重合体層からなるシェルを形成することにより、好適に製造することができる。
本発明の重合トナーは、多官能エステル化合物とガラス転移温度が低い重合体成分を含有するコア粒子により、定着温度を低くすることができ、均一溶融性も改善され、複写や印刷の高速化、フルカラー化、OHP透過性の要求に応えることができ、さらには、かぶりの発生、印字濃度の低下などが生じにくく、高画質の画像を形成することができる。一方、本発明の重合トナーは、コア粒子を薄いシェルで被覆することができるため、良好な保存性(耐ブロッキング性)を発揮し、しかも定着性や均一溶融性などの諸要求に充分に応えることができる。
本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。
かくして、本発明によれば、多官能エステル化合物及び着色剤を含有する着色重合体粒子からなるコア粒子が、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体からなるシェルで被覆されているコア・シェル型構造の重合トナーであって、
(A)多官能エステル化合物が、式(I)
【化4】
Figure 0003670667
(ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)
で表される化合物であり、
(B)コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃以下で、シェルを構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃を超え、コア粒子を構成する重合体成分とシェルを構成する重合体成分との間のガラス転移温度の差が10℃以上であり、かつ、
(C)シェルが、コア粒子の存在下に、シェル用重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子表面に形成された重合体層である
ことを特徴とするコア・シェル型構造の重合トナーが提供される。
また、本発明によれば、(1)分散剤を含有する水系分散媒体中で、式(I)
【化5】
Figure 0003670667
(ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)
で表される多官能エステル化合物、着色剤、及びガラス転移温度が80℃以下の重合体を形成し得るコア用重合性単量体を含む重合性単量体組成物を懸濁重合して、着色重合体粒子からなるコア粒子を調製し、次いで、(2)該コア粒子の存在下に、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも10℃以上高く、かつ、80℃を超えるガラス転移温度を有する重合体を形成し得るシェル用重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子を被覆する重合体層からなるシェルを形成するコア・シェル型構造の重合トナーの製造方法が提供される。
本発明によれば、静電潜像が形成された感光体表面にトナーを付着させて可視像にし、次いで、該可視像を転写材に転写する工程を含む画像形成方法において、トナーとして、前記のコア・シェル型構造の重合トナーを使用することを特徴とする画像形成方法が提供される。
本発明によれば、感光体、感光体の表面を帯電する手段、感光体の表面に静電潜像を形成する手段、トナーを収容する手段、該トナーを供給し感光体表面の静電潜像を現像してトナー像を形成する手段、及び該トナー像を感光体表面から転写材に転写する手段を含む画像形成装置において、トナーを収容する手段が、前記のコア・シェル型構造の重合トナーを収容していることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の重合トナーが適用される画像形成装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の重合トナーは、コア粒子、該コア粒子を被覆するシェルとから成るコア・シェル構造を有する重合トナーである。本発明の重合トナーは、コア粒子の存在下に、シェル用重合性単量体を重合することにより得ることができる。コア粒子は、重合体成分(結着樹脂)中に、多価アルコールとカルボン酸とから形成された多官能エステル化合物、及び着色剤を必須成分として含有するものである。シェルを構成する重合体成分のガラス転移温度は、コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高い。
多官能エステル化合物
本発明で使用する多官能エステル化合物は、多価アルコールとカルボン酸とから形成されたエステルである。
多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ペンタグリセロールなどの脂肪族アルコール;フロログルシトール、クエルシトール、イノシトールなどの脂環式アルコール;トリス(ヒドロキシメチル)ベンゼンなどの芳香族アルコール;D−エリトロース、L−アラビノース、D−マンノース、D−ガラクトース、D−フルクトース、L−ラムノース、サッカロース、マルトース、ラクトース等の糖;エリトリット、D−トレイット、L−アラビット、アドニット、キシリットなどの糖アルコール;などを挙げることができるが、本発明では、ペンタエリスリトールを好適に用いることができる。
カルボン酸としては、例えば、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、マルガリン酸、アラキジン酸、セロチン酸、メリシン酸、エリカ酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘニル酸、テトロル酸、キシメニン酸などの脂肪族カルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸などの脂環式カルボン酸;安息香酸、トレイル酸、クミン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸、トリメリト酸、ヘミメリト酸などの芳香族カルボン酸;などを挙げることができるが、本発明では、これらの中でも、炭素原子数が13〜25個の脂肪族カルボン酸が用いられる。脂肪族カルボン酸の中でも、ステアリン酸及びミリスチン酸が特に好ましい。
本発明に用いる多官能エステル化合物において、多価アルコールの各官能基(OH基)と反応してそれぞれエステル結合を形成するカルボン酸は、同じものであってもよく、あるいは互いに異なるものであってもよい。多価アルコールと反応するカルボン酸の種類が異なる場合、カルボン酸相互間の炭素原子数の最大値と最小値との差が好ましくは9以下、より好ましくは5以下とすることが望ましい。
多官能エステル化合物としては、式(I)
【化6】
Figure 0003670667
(ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)で表される化合物が用いられる。
多官能エステル化合物の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラステアレート〔式(I)中、R1、R2、R3、及びR4のいずれもがCH3(CH216基である化合物〕、ペンタエリスリトールテトラミリステート〔式(I)中、R1、R2、R3、及びR4のいずれもがCH3(CH212基である化合物〕などを挙げることができる。多官能エステル化合物は、コア用重合性単量体に容易に溶解するものが好ましい。
多官能エステル化合物は、コア粒子を構成する重合体成分または該重合体成分を形成する単量体(コア用重合性単量体)100重量部に対して、通常、0.1〜40重量部、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは3〜15重量部の割合で使用する。多官能エステル化合物の使用割合が上記範囲内にあることによって、低い定着温度と均一溶融性を有し、しかも保存性(耐ブロッキング性)に優れ、さらには、かぶりの発生、印字濃度の低下などが生じにくい重合トナーを得ることができる。多官能エステル化合物の使用割合が少なすぎると、その効果が小さく、多すぎると、コア粒子を形成することが困難となり、保存性も低下する。
着色剤
本発明で使用する着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタンホワイト、ニグロシンベース、アニリンブルー、カルコオイルブルー、クロムイエロー、ウルトラマリンブルー、オリエントオイルレッド、フタロシアニンブルー、マラカイトグリーンオクサレートなどの染顔料類;コバルト、ニッケル、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケルなどの磁性粒子;などを挙げることができる。
磁性カラートナー用着色剤としては、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド4、C.I.アシッドレッド1、C.I.ベーシックレッド1、C.I.モーダントレッド30、C.I.ダイレクトブルー1、C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー15、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー5、C.I.モーダントブルー7、C.I.ダイレクトグリーン6、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックグリーン6などが挙げられる。磁性カラートナー用顔料としては、黄鉛、カドミウムイエロ、ミネラルファーストイエロ、ネーブルイエロ、ネフトールイエロS、ハンザイエロG、パーマネントイエロNCG、タートランジンレーキ、赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、ベンジジンオレンジG、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、ウオッチングレッドカルシウム塩、エオシンレーキ、ブリリアントカーミン3B、マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、インダスレンブルーBC、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエログリーンGなどが挙げられる。
フルカラートナー用マゼンタ着色顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、41、48、49、50、51、52、53、54、55、57、58、60、63、64、68、81、83、87、88、89、90、112、114、122、123、163、202、206、207、及び209;C.I.ピグメントバイオレット19;C.I.バットレッド1、2、10、13、15、23、29、及び35;などが挙げられる。
フルカラートナー用マゼンタ染料としては、C.I.スルベントレッド1、3、8、23、24、25、27、30、49、81、82、83、84、100、109、及び121;C.I.ディスパースレッド9;C.I.ソルベントバイオレット8、13、14、21、及び27;C.I.ディスパースバイオレット1;などの油溶性染料;C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、14、15、17、18、22、23、24、27、29、32、34、35、36、37、38、39、及び40;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14、15、21、25、26、27、及び28;などの塩基性染料が挙げられる。
フルカラートナー用シアン着色顔料としては、C.I.ピグメントブルー2、3、15、16、及び17;C.I.バットブルー6;C.I.アシッドブルー45;及びフタロシアニン骨格にフタルイミドメチル基を1〜5個置換した銅フタロシアニン顔料;などが挙げられる。
フルカラートナー用イエロ着色顔料としては、C.I.ピグメントイエロ1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、15、16、17、23、65、73、83、及び138;C.I.バットイエロ1、3、及び20;などが挙げられる。
これらの染顔料類は、コア粒子を構成する重合体成分またはコア用重合性単量体100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の割合で用いられる。磁性粒子は、コア粒子を構成する重合体成分またはコア用重合性単量体100重量部に対して、通常、1〜100重量部、好ましくは5〜50重量部の割合で用いられる。
コア粒子
本発明に用いるコア粒子は、重合体成分(結着樹脂)として、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体などのビニル系単量体の(共)重合体などを含有するものである。コア粒子の重合体成分としては、重合による粒子の形成やガラス転移温度の制御が容易であることから、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン共重合体が好ましい。
本発明の重合トナーにおいて、コア粒子の体積平均粒径(dv)は、通常0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmである。コア粒子が大きすぎると、画像の解像度が低下するようになる。また、体積平均粒径(dv)/個数平均粒径(dp)は、通常、1.7以下、好ましくは1.5以下である。この比が大きすぎると、画像解像度が低下する傾向を示す。
本発明に用いるコア粒子は、その製法によって特に限定されず、乳化重合、懸濁重合、析出重合、ソープフリー重合のいずれでもよいが、コア用重合性単量体を懸濁重合する方法が、生成するコア粒子中に多官能エステル化合物及び着色剤を均一に含有させ、定着性を向上させるために好適である。
本発明に用いるコア用重合性単量体は、ガラス転移温度が、通常80℃以下、好ましくは10〜70℃、より好ましくは15〜60℃の重合体を形成し得るものである。コア用重合性単量体は、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。コア用重合性単量体からなる重合体のガラス転移温度が高すぎると、定着温度が高くなり、OHP透過性が低下し、複写や印刷の高速化に適さなくなる。
重合体のガラス転移温度(Tg)は、使用する単量体の種類と使用割合に応じて算出される計算値(計算Tgという)である。使用する単量体が1種類の場合には、該単量体から形成されるホモポリマーのTgを、本発明における重合体のTgと定義する。例えば、ポリスチレンのTgは、100℃であるから、スチレンを単独で使用する場合には、該単量体は、Tgが100℃の重合体を形成するという。使用する単量体が2種類以上であって、生成する重合体がコポリマーの場合には、使用する単量体の種類と使用割合に応じてコポリマーのTgを算出する。例えば、単量体として、スチレン78重量%とn−ブチルアクリレート22重量%を用いる場合には、この単量体比で生成するスチレン−n−ブチルアクリレート共重合体のTgは50℃であるから、この単量体は、Tgが50℃の重合体を形成するという。
また、「ガラス転移温度が80℃以下の重合体を形成し得るコア用重合性単量体」との規定は、単量体のそれぞれがTg80℃以下の重合体を形成するものでなければならないことを意味するものではない。1種類の単量体を使用する場合には、該単量体から形成されるホモポリマーのTgは、80℃以下でなければならない。しかし、2種類以上の単量体の混合物を用いる場合には、該単量体の混合物から形成されるコポリマーのTgが80℃以下であればよく、該単量体の混合物の中に、それ単独の重合体のTgが80℃を越えるものが含まれていてもよい。例えば、スチレンのホモポリマーのTgは100℃であるが、低Tgの重合体を形成する単量体(例えば、n−ブチルアクリレート)と混合して用いることにより、Tgが80℃以下のコポリマーを形成することができる場合には、スチレンをコア用重合性単量体の一種として使用することかできる。
本発明では、コア用重合性単量体として、通常、ビニル系単量体を使用する。各ビニル系単量体を、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することにより、重合体のTgを所望の範囲に調製する。
本発明で使用するビニル系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸の誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のエチレン性不飽和モノオレフィン;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル;ビニルメチルケトン、メチルイソプロペニルケトン等のビニルケトン;2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル化合物;等が挙げられる。これらのビニル系単量体は、単独で用いてもよいし、複数の単量体を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、コア用重合性単量体としては、スチレン系単量体またはアクリル酸もしくはメタクリル酸の誘導体が、好適に用いられる。
これらの中でも、コア用重合性単量体としては、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸の誘導体との組み合わせが好適に用いられる。特に好ましい具体例としては、スチレンとアクリル酸ブチル(即ち、n−ブチルアクリレート)、スチレンとアクリル酸2−エチルヘキシル(即ち、2−エチルヘキシルアクリレート)との組み合わせを挙げることができる。
ビニル系単量体からなるコア用重合性単量体と共に、任意の架橋性モノマーを併用することが、重合トナーの保存性改善のために好ましい。架橋性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、及びこれらの誘導体等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート等のジエチレン性不飽和カルボン酸エステル;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテル等のジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物;等を挙げることができる。
これらの架橋性モノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。架橋性モノマーは、コア用重合性単量体100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜2重量部の割合で用いることが望ましい。
本発明においては、マクロモノマーをコア用重合性単量体と共重合させることが、重合トナーの保存性及び定着性のバランスを向上させるために好適である。マクロモノマーを共重合させるには、多官能エステル化合物、着色剤、及びコア用重合性単量体を含有する重合性単量体組成物を、マクロモノマーの存在下に、重合して着色重合体粒子(コア粒子)を合成すればよい。実際には、マクロモノマーを重合性単量体組成物中に含ませて、懸濁重合する方法が好ましい。
マクロモノマー(マクロマーともいう)は、分子鎖の末端に重合可能な官能基(例えば、炭素−炭素二重結合のような不飽和基)を有する比較的長い線状分子である。マクロモノマーとしては、分子鎖の末端にビニル重合性官能基を有するもので、数平均分子量が、通常、1,000〜30,000のオリゴマーまたはポリマーが好ましい。数平均分子量が小さいマクロモノマーを用いると、重合トナーの表面部分が柔らかくなり、保存性が低下する傾向を示す。数平均分子量が大きいマクロモノマーを用いると、マクロモノマーの流動性が悪くなり、定着性及び保存性が低下するようになる。
マクロモノマー分子鎖の末端に有するビニル重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基などを挙げることができ、共重合のしやすさの観点からメタクリロイル基が好適である。
本発明に用いるマクロモノマーは、コア用重合性単量体を重合して得られる重合体のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有するものが好適である。コア用重合性単量体を重合して得られる重合体と、マクロモノマーとの間のTgの高低は、相対的なものである。例えば、コア用重合性単量体がTg=80℃の重合体を形成するものである場合には、マクロモノマーは、Tgが80℃を越えるものであればよい。コア用単量体がTg=50℃の重合体を形成するものである場合には、マクロモノマーは、例えば、Tg=60℃のものであってもよい。マクロモノマーのTgは、通常のDSC等の測定機器で測定される値である。
本発明に用いるマクロモノマーの具体例としては、スチレン、スチレン誘導体、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、アクリル酸ニトリル、メタクリロニトリル等を単独で、または2種以上を重合して得られる重合体;ポリシロキサン骨格を有するマクロモノマー;特開平3−203746号公報の第4頁〜第7頁に開示されているものなどを挙げることができる。
これらのマクロモノマーのうち、親水性のもの、特にメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルを単独で、またはこれらを組み合わせて重合して得られる重合体が、本発明に好適である。
マクロモノマーの使用量は、コア用重合性単量体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.03〜5重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。マクロモノマーの使用量が少ないと、保存性が低下する。マクロモノマーの量が多くなると定着性が低下するようになる。
本発明において、コア粒子は、コア用重合性単量体、マクロモノマー、及び必要に応じて架橋性モノマーを懸濁重合して得ることが好ましい。
懸濁重合は、通常、分散剤を含有する水系分散媒体中にて行う。具体的には、コア用重合性単量体(ビニル系単量体)、多官能エステル化合物、着色剤、マクロモノマー、必要に応じて選択される架橋性モノマー、ラジカル重合開始剤、その他の添加剤を混合し、ボールミル等により均一に分散させて混合液(重合性単量体組成物)を調製し、次いで、この混合液を分散剤を含有する水系分散媒体中に投入し、高剪断力を有する混合装置を用いて分散して微小な液滴に造粒した後、通常、30〜200℃の温度で懸濁重合する。
本発明で好適に用いられる分散剤は、難水溶性金属化合物のコロイドである。難水溶性金属化合物としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの粒酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルジウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩;リン酸カルシウムなどのリン酸塩;酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化第二鉄等の金属水酸化物;等を挙げることができる。これらのうち、難水溶性金属水酸化物のコロイドは、重合体粒子の粒径分布を狭くすることができ、画像の鮮明性が向上するので好適である。
難水溶性金属水酸化物のコロイドは、その製法による制限はないが、水溶性多価金属化合物の水溶液のpHを、7以上に調製することによって得られる難水溶性金属水酸化物のコロイド、特に水溶性多価金属化合物と水酸化アルカリ金属塩との水相中での反応により生成する難水溶性金属水酸化物のコロイドが好ましい。このコロイドは、水系分散液として使用される。
本発明に用いる難水溶性金属化合物のコロイドは、個数粒径分布D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.5μm以下で、かつ、D90(個数粒径分布の90%累積値)が1μm以下であることが好ましい。コロイドの粒径が大きくなると、重合の安定性が崩れ、また、重合トナーの保存性が低下する。
分散剤は、コア単量体100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部の割合で使用する。分散剤の使用割合が少なすぎると、充分な重合安定性を得ることが困難であり、重合凝集物が生成し易くなる。逆に、分散剤の使用割合が多すぎると、重合安定性の効果が飽和し、経済的でないことに加えて、水系分散媒体の粘度が上がりすぎて、混合液の小さな液滴を形成することが困難となる。
本発明においては、分散剤として、必要に応じて、水溶性高分子を用いることができる。水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ゼラチン等を例示することができる。本発明においては、界面活性剤を使用する必要はないが、重合トナーの帯電特性の環境依存性が大きくならない範囲で、重合を安定に行うために使用することができる。
ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過流酸塩;4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス−2−メチル−n−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロピオアミド、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、1,1′−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)などのアゾ化合物;などの水溶性ラジカル開始剤、メチルエチルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート等の過酸化物類などの油溶性ラジカル開始剤を例示することができる。また、これらの重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス開始剤を挙げることができる。
これらのラジカル重合開始剤の中でも、油溶性ラジカル開始剤が好ましく、10時間半減期の温度が60〜80℃、好ましくは65〜80℃で、かつ、分子量が250以下の有機過酸化物から選択される油溶性ラジカル開始剤が特に好ましい。油溶性ラジカル開始剤の中でも、特にt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートは、印字時の臭気が少ないこと、臭気などの揮発成分による環境破壊が少ないことから好適である。
重合開始剤の使用量は、水系媒体基準で、通常、0.001〜3重量%である。重合開始剤の使用量が0.001重量%未満では、重合速度が遅く、3重量%超過では、粒子径1μm未満の粒子が副生して好ましくない。
本発明においては、更に必要に応じて、分子量調製剤等の各種添加剤を、コア用重合性単量体と混合して用いることができる。
分子量調製剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタンなどのメルカプタン類;四塩化炭素、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類;などを挙げることができる。分子量調製剤は、重合開始前、あるいは重合途中に添加することができる。分子量調製剤は、コア用重合性単量体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
本発明の重合トナーでは、多官能エステル化合物が離型剤としての機能をも果たすため、必ずしもその他の離型剤を使用する必要がないが、本発明の目的を損なわない範囲内において、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリブチレンなどの低分子量ポリオレフィン類;パラフィンワックス類;などの離型剤を使用してもよい。
着色剤のコア粒子中への均一分散等を目的として、オレイン酸、ステアリン酸等の滑剤;シラン系またはチタン系カップリング剤等の分散助剤;などを使用してもよい。このような滑剤や分散剤は、着色剤の重量を基準として、通常、1/1000〜1/1程度の割合で使用される。
コア粒子を得るための重合は、重合転化率を、通常、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上とする。重合転化率が80%未満の場合には、未反応のコア用重合性単量体が多量に残存しているので、シェル用重合性単量体を添加して重合しても、シェル用重合性単量体とコア用重合性単量体との共重合体がコア粒子の表面を被覆することになるので、コア粒子とシェルとのTg差が小さくなり重合トナーの保存性が低下しやすくなる。
シェル
本発明において重合トナーは、コア粒子の存在下にシェル用重合性単量体を重合して得ることができる。
本発明において用いるシェル用重合性単量体は、コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体を形成し得るものである。シェル用重合性単量体により得られる重合体とコア粒子を構成する重合体成分のTgの高低は、相対的なものである。
シェル用重合性単量体として、例えば、スチレン、メチルメタクリレートなどのガラス転移温度が80℃を超える重合体を形成する単量体を、それそれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。シェル用重合性単量体により得られる重合体のガラス転移温度は、重合トナーの保存安定性を向上させるために、80℃超過とするが、その上限値は、通常、120℃、好ましくは115℃、より好ましくは110℃である。シェル用重合性単量体からなる重合体のガラス転移温度が低すぎると、そのガラス転移温度がコア粒子の重合体成分のガラス転移温度より高いものであっても、重合トナーの保存性が低下することがある。なお、コア粒子の重合体成分のガラス転移温度は、多くの場合、コア用重合性単量体から形成される重合体の計算Tgによって表すことができる。
コア用重合性単量体からなる重合体と、シェル用重合性単量体からなる重合体との間のガラス転移温度の差は、通常、10℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上である。
シェル用重合性単量体は、コア粒子の存在下に重合する際に、水系分散媒体中で、コア粒子の数平均粒子径よりも小さい液滴とすることが好ましい。シェル用重合性単量体の液滴の粒径が大きくなると、重合トナーの保存性が低下する傾向を示す。
シェル用重合性単量体を小さな液滴とするには、シェル用重合性単量体と水系分散媒体との混合物を、例えば、超音波乳化機などを用いて、微分散処理を行う。このようにして得られた水分散液を、コア粒子の存在する反応系へ添加することが好ましい。
シェル用重合性単量体は、20℃の水に対する溶解度により特に限定されないが、水に対する溶解度の高い単量体、具体的には20℃の水に対する溶解度が0.1重量%以上の単量体は、コア粒子表面に速やかに移行しやすくなるので、保存性のよい重合トナーを得やすい。
一方、シェル用重合性単量体として、20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満の単量体を用いた場合は、コア粒子表面への移行が遅くなるので、単量体を微小な液滴にしてから反応系に添加して重合することが好ましい。20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満の単量体を用いた場合でも、20℃の水に対する溶解度が5重量%以上の有機溶媒を反応系に加えることにより、シェル用重合性単量体がコア粒子表面に素早く移行するようになり、保存性のよい重合体粒子が得やすくなる。
20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満のシェル用重合性単量体としては、スチレン、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。20℃の水に対する溶解度が0.1重量%以上の単量体としては、メチルメタクリレート、メチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;4−ビニルピリジン等の含窒素ビニル化合物;酢酸ビニル、アクロレインなどが挙げられる。
20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満のシェル用単量体を用いた場合に好適に使用される有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル;ジメチルホルムアルデヒド等のアミドなどを挙げることができる。
有機溶媒は、分散媒体(水と有機溶媒との合計量)に対するシェル用重合性単量体の溶解度が0.1重量%以上となる量比で添加する。具体的な有機溶媒の添加量は、有機溶媒の種類やシェル用重合性単量体の種類及び量により異なるが、水系分散媒体100重量部に対して、通常、0.1〜50重量部、好ましくは0.1〜40重量部、より好ましくは0.1〜30重量部である。有機溶媒とシェル用重合性単量体とを反応系に添加する順序は、特に限定されないが、コア粒子へのシェル用重合性単量体の移行を促進し、保存性のよい重合トナーを得やすくするために、有機溶媒を先に添加し、その後シェル用重合性単量体を添加するのが好ましい。
20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満の単量体と0.1重量%以上の単量体とを併用する場合には、先ず20℃の水に対する溶解度が0.1重量%以上の単量体を添加して重合し、次いで、有機溶媒を添加した後、20℃の水に対する溶解度が0.1重量%未満の単量体を添加し重合することが好ましい。この添加方法によれば、重合トナーの定着温度を調製するために、コア粒子の存在下に重合する単量体から得られる重合体のTgや、単量体の添加量を適宜制御することができる。
シェル用重合性単量体は、帯電制御剤を混合して使用することが好ましい。シェル中に帯電制御剤を含有させると、重合トナーの帯電性を向上させることができる。帯電制御剤としては、各種の正帯電または負帯電の帯電制御剤を用いることができる。帯電制御剤の具体例としては、ニグロシンN01(オリエント化学社製)、ニグロシンEX(オリエント化学社製)、スピロンブラックTRH(保土ケ谷化学社製)、T−77(保土ケ谷化学社製)、ボントロンS−34(オリエント化学社製)、ボントロンE−84(オリエント化学社製)等を挙げることができる。帯電制御剤は、シェル用重合性単量体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
シェル用重合性単量体をコア粒子の存在下に重合する具体的な方法としては、前記コア粒子を得るために行った重合反応の反応系にシェル用重合性単量体を添加して、継続的に重合する方法、または別の反応系で得たコア粒子を仕込み、これにシェル用重合性単量体を添加して、段階的に重合する方法などを挙げることができる。
シェル用重合性単量体は、反応系中に一括して添加するか、またはプランジャポンプなどのポンプを使用して連続的もしくは継続的に添加することができる。
シェル用重合性単量体を添加する際に、水溶性のラジカル開始剤を添加することが、コア・シェル型の重合体粒子を得やすくするために好ましい。シェル用重合性単量体の添加の際に、水溶性ラジカル開始剤を添加すると、シェル用重合性単量体が移行したコア粒子の外表面近傍に水溶性ラジカル開始剤が進入し、コア粒子表面に重合体層(シェル)を形成しやすくなるからであると考えられる。
水溶性ラジカル開始剤としては、過流酸カリウム、過流酸アンモニウム等の過流酸塩;4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2−アゾビス−2−メチル−N−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチルプロプオアミド等のアゾ系開始剤;クメンパーオキシド等の油溶性開始剤とレドックス触媒の組み合わせ;などを挙げることができる。水溶性ラジカル開始剤の使用量は、水系媒体基準で、通常、0.001〜1重量%である。
重合トナー
本発明の重合トナーにおいて、コア用重合性単量体とシェル用重合性単量体との重量比は、通常、40/60〜99.9/0.1、好ましくは60/40〜99.5/0.5、より好ましくは80/20〜99/1である。シェル用重合性単量体の割合が過小であると、保存性の改善効果が小さく、逆に、過大であると、定着温度の低減やOHP透過性の改善効果が小さくなる。
本発明の重合トナーは、体積平均粒子径が、通常2〜20μm、好ましくは3〜15μmで、粒径分布(体積平均粒子径/個数平均粒子径)が、通常1.6以下、好ましくは1.5以下の粒径分布がシャープな球形の微粒子である。
本発明の重合トナーは、コア粒子、及び該コア粒子を被覆するシェルとからなるコア・シェル構造の重合体粒子である。本発明のコア・シェル構造の重合トナーにおいて、シェルの平均厚みは、通常0.001〜1μm、好ましくは0.005〜0.5μmである。シェルの厚みが大きくなると定着性が低下し、小さくなると保存性が低下する。重合トナーにおけるコア粒子の粒子径、及びシェルの厚みは、電子顕微鏡により観察できる場合は、その観察写真から無作為に選択した粒子の大きさ及び厚みを直接測ることにより得ることができる。電子顕微鏡でコア粒子の粒子径とシェルの厚みを観察することが困難な場合は、コア粒子を形成した段階で電子顕微鏡で前記と同様にその粒子径を測定するか、あるいはコールターカウンターで粒子径測定し、次に、シェルをコア粒子に被覆した後、もう一度粒子の粒子径を電子顕微鏡またはコールターカウンターで測定し、シェルを被覆する前後の粒径変化から平均厚みを求めることができる。これらの方法でシェルの厚みを測定するのが困難である場合は、コア粒子の粒子径及びシェルを形成する単量体の使用量からシェルの厚みを算定することができる。
本発明の重合トナーは、トルエン不溶解分が、通常、50重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。トルエン不溶解分が多くなると、定着性が低下する傾向を示す。トルエン不溶解分とは、重合トナーを形成する重合体成分を89メッシュの金網籠に入れ、24時間室温下でトルエンに浸漬した後、籠に残存する固形物を減圧乾燥機で乾燥させ、乾燥後の重量を測定し、重合体成分に対する重量%で表したものである。
本発明の重合トナーは、その長径rlと短径rsとの比(rl/rs)が、通常、1〜1.2、好ましくは1〜1.15の範囲である。この比が大きくなると、画像の解像度が低下し、また、画像形成装置のトナー収納部に該重合トナーを収めたときに、重合トナー同士の摩擦が大きくなるので、流動化剤などの外添剤が剥離したりして、耐久性が低下する傾向を示す。
本発明の重合トナーは、そのままで現像剤として使用することができるが、必要に応じて、流動化剤などの各種添加剤(外添剤)を加えて現像剤としてもよい。添加剤は、通常、重合トナーの表面に付着している。外添剤としては、各種の無機粒子及び有機樹脂粒子を挙げることができる。これらの中でも、シリカ粒子及び酸化チタン粒子が好ましく、疎水化処理されたシリカ粒子が特に好ましい。外添剤を重合トナーに付着させるには、通常、外添剤と重合トナーとをヘンシェルミキサーなどの混合器に仕込み、攪拌する。
本発明の重合トナーを用いると、定着温度を80〜150℃、好ましくは80〜130℃の低い温度に低減することかでき、しかも保存中に凝集せず、保存性に優れている。
画像形成装置
本発明の重合トナーが適用される画像形成装置は、感光体(感光ドラム)、感光体の表面を帯電する手段、感光体の表面に静電潜像を形成する手段、トナー(現像剤)を収容する手段、トナーを供給して感光体表面の静電潜像を現像し、トナー像を形成する手段、及び該トナー像を感光体表面から転写材に転写する手段とを有するものである。図1に、このような画像形成装置の具体例を示す。
図1に示すように、画像形成装置には、感光体としての感光ドラム1が矢印A方向に回転自在に装着してある。感光ドラム1は、導電性支持ドラム体の外周面に光導電層を設けたものである。光導電層は、例えば、有機系感光体、セレン感光体、酸化亜鉛感光体、アモルファスシリコン感光体などで構成される。
感光ドラム1の周囲には、その周方向に沿って、帯電手段としての帯電ロール2、潜像形成手段としてのレーザー光照射装置3、現像手段としての現像ロール4、転写手段としての転写ロール10、及び必要に応じてクリーニング装置(図示せず)などが配置されている。
帯電ロール2は、感光ドラム1の表面をプラスまたはマイナスに一様に帯電させるためのものである。帯電ロール2に電圧を印加して、かつ、帯電ロール2を感光ドラム1の表面に接触させることにより、感光ドラム1の表面を帯電させている。帯電ロール2は、コロナ放電による帯電手段に置き換えることも可能である。
レーザー光照射装置3は、画像信号に対応した光を感光ドラム1の表面に照射し、一様に帯電された感光ドラム1の表面に所定のパターンで光を照射して、光が照射された部分に静電潜像を形成する(反転現像の場合)か、あるいは光が照射されない部分に静電潜像を形成する(正規現像の場合)ためのものである。その他の潜像形成手段としては、LEDアレイと光学系とから構成されるものが挙げられる。
現像ロール4は、感光ドラム1の静電潜像にトナーを付着させるためのものであり、反転現像においては、光照射部にのみトナーを付着させ、正規現像においては、光非照射部にのみトナーを付着させるように、現像ロール4と感光ドラム1との間にバイアス電圧が印加される。
トナー7が収容されるケーシング9内には、現像ロール4と供給ロール6とが設けられている。現像ロール4は、感光ドラム1に一部接触するように近接して配置され、感光ドラム1と反対方向Bに回転するようになっている。供給ロール6は、現像ロール4に接触して現像ロールと同じ方向Cに回転し、現像ロール4の外周にトナーを供給するようになっている。ケーシング9内には、トナーを攪拌するための攪拌手段(攪拌翼)8が装着されている。
現像ロール4の周囲において、供給ロール6との接触点から感光ドラム1との接触点までの間の位置に、層厚規制手段としての現像ロール用ブレード5が配置してある。このブレード5は、導電性ゴムやステンレス鋼で構成されており、トナーへの電荷注入を行うため、通常、|200V|〜|600V|の電圧が印加されている。そのために、ブレード5の電気抵抗率は、10の6乗Ωcm以下であることが好ましい。
画像形成装置のケーシング9には、本発明の重合トナー7が収容されている。重合トナー7は、流動化剤などの添加剤を付着したものであってもよい。本発明の重合トナーは、コア・シェル型構造を有しており、表面層のシェルがガラス転移温度の比較的高い重合体で形成されているものであるから、表面の粘着性が低く、ケーシング9内に保存中に凝集することが抑制されている。また、本発明の重合トナーは、粒径分布が比較的シャープであるので、現像ロール4上にトナー層を形成したときに、層厚規制手段5によって実質的に単層にすることができ、それによって、画像の再現性が良好となる。
転写ロール10は、現像ロール4により形成された感光ドラム1表面のトナー像を転写材11上に転写するためのものである。転写材11としては、紙、OHPシートのような樹脂シートが挙げられる。転写手段としては、転写ロール10以外に、コロナ放電装置や転写ベルトなどを挙げることができる。
転写材11上に転写されたトナー像は、定着手段によって、転写材上に固定される。定着手段は、通常、加熱手段と圧着手段とからなる。より具体的に、定着手段は、通常、加熱ロール(定着ロール)12と加圧ロール13との組み合わせから構成されている。トナー像が転写された転写材11を加熱ロール12と加圧ロール13との間に通して、トナーを溶融させ、同時に転写材11上に圧着して固定する。
本発明の画像形成装置においては、トナーとして本発明の重合トナーを用いるので、加熱手段による加熱温度が低くても、トナーが容易に溶融し、圧着手段で軽く押し付けると、トナーが平滑な状態になって転写材表面に固定されるので、高速での印刷または複写が可能である。また、OHPシート上に定着されたトナー像は、OHP透過性に優れている。
クリーニング装置は、感光ドラム1の表面に残留した転写残りトナーを清掃するためのものであり、例えば、清掃用ブレードなどで構成される。クリーニング装置は、現像ロール4により、現像と同時にクリーニングを行う方式を採用する場合には、必ずしも設置することを要しない。
画像形成方法
本発明の画像形成方法においては、静電潜像が形成された感光体表面にトナーを付着させて可視像にし、次いで、該可視像を転写材に転写する工程を含む画像形成方法において、トナーとして本発明の重合トナーを使用する。
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
実施例及び比較例における物性の測定方法は、以下のとおりである。
(1)トナーの粒径
重合体粒子の体積平均粒径(dv)、及び粒径分布すなわち体積平均粒径と個数平均粒径(dp)との比(dv/dp)は、マルチサイザー(コールター社製)により測定した。このマルチサイザーによる測定は、アパーチャー径:50μm、媒体:イソトンII、測定粒子個数:50000個の条件で行った。
(2)シェルの厚み
シェルの厚みが厚い場合には、マルチサイザーや電子顕微鏡で測定可能であるが、本実施例ではシェル厚みを、以下の式を用いて算定した。
シェルの厚み(μm)=dr(1+s/100)1/3−dr
ただし、drは、シェル用重合性単量体添加前のコア粒子の半径(マルチサイザーで測定して得られた体積平均粒径の1/2の径)で、sは、シェル用重合性単量体の添加部数(コア用重合性単量体100重量部に対する部数)である。
(3)トナーの体積固有抵抗
トナーの体積固有抵抗は、誘電体損測定器(商品名:TRS−10型、安藤電気社製)を用い、温度30℃、周波数1kHzの条件下で測定した。
(4)トナーの定着温度
市販の非磁性一成分現像方式のプリンター(4枚機)を改造し、定着ロール部の温度を変化できるようにした。この改造プリンターで、トナーの画像評価を行った。定着率80%の温度を定着温度と評価した。定着試験は、プリンターの定着ロールの温度を変化させて、それぞれの温度での定着率を測定し、温度一定着率の関係を求めることにより行った。定着率は、改造プリンターで印刷した試験用紙における黒ベタ領域のテープ剥離操作前後の画像濃度の比率から計算した。テープ剥離前の画像濃度ID前、テープ剥離後の画像濃度をID後とすると、定着率は、次式から求められる。
定着率(%)=(ID後/ID前)×100
ここで、黒ベタ領域とは、その領域内のドットのすべてにトナーを付着させるように制御した領域のことである。テープ剥離操作とは、試験用紙の測定部分に粘着テープ(住友スリーエム社製スコッチメンディングテープ810−3−18)を貼り、一定圧力で押出して付着させ、その後、一定速度で紙に沿った方向に粘着テープを剥離する一連の操作である。また、画像濃度は、McBeth社製反射式画像濃度測定機を用いて測定した。
(5)トナーの保存性
保存性の評価は、トナー試料を密閉した容器に入れて、密閉した後、55℃に温度を制御した恒温水槽の中に沈め、一定時間経過した後に取り出して、凝集したトナーの重量を測定することによって行った。容器から取り出した試料を42メッシュの篩の上にできるだけ構造を破壊しないように移し、粉体測定機(細川ミクロン社製)のREOSTATで振動の強度を4.5に設定して、30秒間振動した後、篩上に残ったトナーの重量を測定し、凝集したトナーの重量とした。この凝集したトナーの重量と試料の重量とから、トナーの凝集率(重量%)を算出した。
トナーの保存性は、以下の4段階で評価した。
◎:凝集率が5重量%未満、
◯:凝集率が5重量%以上10重量%未満、
△:凝集率が10重量%以上50重量%未満、
×:凝集率が50重量%以上。
(6)OHP透過性
前述の改造したプリンターの定着ロールの温度を150℃に設定し、市販のOHP(内田洋行社製トランスペアレンシー)シートを用いて、印字し、トナーのOHP透過性を評価した。印字がOHPシートを透過するか否かを目視にて観察し、透過(◯)または不透過(×)を評価した。
(7)トナー帯電量
L/L(温度10℃、湿度20%RH)、及びH/H(温度35℃、湿度80%RH)の各環境下における帯電量を測定し、その環境変動の状況を評価した。
トナーの帯電量は、上記各環境下で、市販プリンター(4枚機)にトナーを入れ、1昼夜放置後、ハーフトーンの印字パターンを5枚印字し、その後、現像ロール上のトナーを吸引式帯電量測定装置に吸引して、帯電量と吸引量から単位重量当たりの帯電量を測定した。
(8)画質評価
初期から連続印字を行い、印字濃度が反射濃度計(マクベス製)で1.3以上で、かつ、非画像部のかぶりが白色度計(日本電色製)で10%以下を維持した印字枚数を数え、以下の基準で画質評価を行った。
◯:上記印字枚数が1万枚以上の場合、
△:上記印字枚数が5千枚以上1万枚未満の場合、
×:上記印字枚数が5千枚未満の場合。
[実施例1]
スチレン78部及びn−ブチルアクリレート22部からなるコア用重合性単量体(得られる共重合体の計算Tg=50℃)、カーボンブラック(デグサ社製、商品名プリンテックス150T)7部、帯電制御剤(保土ケ谷化学社製、商品名スピロンブラックTRH)1部、ジビニルベンゼン0.3部、ポリメタクリル酸エステルマクロモノマー(東亜合成化学工業社製、AA6、Tg=94℃)0.8部、ペンタエリスリトールテトラステアレート(ステアリン酸純度約60%)10部、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート4部を、高剪断力で混合可能なホモミキサー(TK式、特殊機化工社製)により、12000rpmの回転数で攪拌、混合して均一分散し、コア用重合性単量体組成物(混合液)を得た。
一方、メチルメタクリレート(計算Tg=105℃)10部と水100部を超音波乳化機にて微分散化処理して、シェル用重合性単量体の水分散液を得た。シェル用重合性単量体の液滴の粒径は、得られた液滴を1%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液中に濃度3%で加え、マイクロトラック粒径分布測定器で測定したところ、D90が1.6μmであった。
他方、イオン交換水250部に塩化マグネシウム(水溶性多価金属塩)9.8部を溶解した水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム(水酸化アルカリ金属)6.9部を溶解した水溶液を攪拌下で徐々に添加して、水酸化マグネシウムコロイド(難水溶性金属水酸化物のコロイド)分散液を調製した。生成した上記コロイドの粒径分布を、マイクロトラック粒径分布測定器(日機装社製)で測定したところ、粒径は、D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.38μmで、D90(個数粒径分布の90%累積値)が0.82μmであった。マイクロトラック粒径分布測定器による測定においては、測定レンジ=0.12〜704μm、測定時間=30秒、媒体=イオン交換水の条件で行った。
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、上記コア用重合性単量体組成物を投入し、TK式ホモミキサーを用い、12000rpmの回転数で高剪断攪拌して、コア用重合性単量体組成物の液滴を造粒した。造粒した単量体組成物の水分散液を、攪拌翼を装着した反応器に入れ、90℃で重合反応を開始させ、重合転化率がほぼ100%に達したときに、前記シェル用重合性単量体及び1%過流酸カリウム水溶液1部を添加し、5時間反応を継続した後、反応を停止して、コア・シェル型重合体粒子の水分散液を得た。
シェル用重合性単量体を添加する直前にコア粒子を取り出して測定した体積平均粒径(dv)は、5.7μmであり、体積平均粒径(dv)/個数平均粒径(dp)は、1.32であった。シェル厚みは0.09μmで、rl/rsは1.1、トルエン不溶解分は2%であった。
上記により得たコア・シェル型重合体粒子の水分散液を攪拌しながら、硫酸により系のpHを4以下にして酸洗浄(25℃、10分間)を行い、濾過により水を分離した後、新たにイオン交換水500部を加えて再スラリー化し、水洗浄を行った。その後、再度、脱水と水洗浄を数回繰り返し行って、固形分を濾過分離した後、乾燥機にて45℃で一昼夜乾燥を行い、重合体粒子(重合トナー)を得た。
上記により得られたコア・シェル型重合トナー100部に、疎水化処理したコロイダルシリカ(商品名:R−972、日本アエロジル社製)0.3部を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して非磁性一成分現像剤(単に、現像剤またはトナーという)を調製した。このようにして得られたトナーの体積固有抵抗を測定したところ、11.3logΩ・cmであった。
上記により得られたトナーを用いて定着温度を測定したところ、120℃であった。このトナーの保存性は、極めて良好であった(評価=◎)。画像評価では、画像濃度が高く、カブリ、ムラの無い解像度の極めて良好な画像が得られた。結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1において使用した、ペンタエリスリトールテトラステアレートの量を5部にかえた他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。画像評価では、画像濃度が高く、カブリ、ムラの無い、解像度の極めて良好な画像が得られた。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1において使用した、ペンタエリスリトールテトラステアレートを、融点60℃のパラフィンワックスにかえた他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表1に示す。
[比較例2]
実施例1において使用した、ペンタエリスリトールテトラステアレートを、数平均分子量2200の低分子量ポリプロピレンにかえた他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表1に示す。
【表1】
Figure 0003670667
[比較例3]
飽和ポリエステル4部、スチレン83部、ブチルアクリレート17部、カーボンブラック7部、サリチル酸金属化合物1部、及びペンタエリスリトールジベヘネートジアセテート10部をTK式ホモミキサーを用いて分散させ、これに2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)5部を添加して重合性単量体組成物を調製し、次いで、該組成物を造粒した後、温度60℃に昇温して10時間重合した。重合後、洗浄・乾燥して重合体粒子(重合トナー)を得た。この重合トナーを用いて実施例1と同様にして現像剤(トナー)を得た。結果を表2に示す。
[実施例3]
実施例1において、シェル用重合性単量体に用いたメチルメタクリレート10部を、メチルメタクリレート9部及びブチルアクリレート1部にかえた他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表2に示す。
[実施例4]
実施例1において、シェル用重合性単量体に用いたメチルメタクリレート10部のかわりにスチレン10部を用い、かつ、シェル用重合性単量体を添加する直前にメタノール20部を添加した他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表2に示す。
[実施例5]
実施例1において、コア用重合性単量体の重合開始剤として使用したt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートのかわりに2,2−アゾビスイソブチロニトリルを使用し、反応温度を75℃に変えたこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表2に示す。このトナーを用いて定着を行うと、若干の臭気が発生した。
[実施例6]
実施例1において、シェル用重合性単量体を、超音波乳化機処理を行わないで添加したこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表2に示す。
【表2】
Figure 0003670667
[実施例7]
実施例1において、コア用重合性単量体に用いたブチルアクリレートを2−エチルヘキシルアクリレートにかえた他は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表3に示す。
[実施例8]
実施例1において、カーボンブラック7部のかわりにマゼンタ顔料(ピグメントレッド122)5部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表3に示す。
[実施例9]
実施例1において、カーボンブラック7部のかわりに黄色キノフタロン顔料(ピグメントイエロ138)5部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表3に示す。
[実施例10]
実施例1において、カーボンブラック7部のかわりにシアン顔料(ピグメントブルー15:3)5部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表3に示す。
[比較例4]
カーボンブラック7部のかわりにマゼンタ顔料(ピグメントレッド122)5部を用いたこと以外は、比較例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。結果を表3に示す。
【表3】
Figure 0003670667
[実施例11]
実施例1において、ペンタエリスリトールテトラステアレートのかわりにペンタエリスリトールテトラミリステートを用いたこと以外は、実施例1と同様にして重合トナー及び現像剤(トナー)を得た。
シェル用重合性単量体を添加する直前にコア粒子を取り出して測定した体積平均粒径(dv)は、5.8μmであり、体積平均粒径(dv)/個数平均粒径(dp)は、1.22であった。シェル厚みは0.09μmで、rl/rsは1.1、トルエン不溶解分は2%であった。
得られた重合トナーに疎水化処理したコロイダルシリカを添加した非磁性一成分現像剤(トナー)の体積固有抵抗は、11.3logΩ・cmであった。このトナーを用いて定着温度を測定したところ、120℃であった。このトナーの保存性は、極めて良好であった(評価=◎)。このトナーのL/L帯電量は、−28μc/g、H/H帯電量は、−25μc/gであった。画像評価では、画像濃度が高く、カブリ、ムラの無い解像度の極めて良好な画像(画質評価=◯)が得られた。
なお、ペンタエリスリトールテトラステアレートに比べて、ペンタエリスリトールテトラミリステートは、重合性単量体に対する溶解性に優れており、室温での溶解性を高めるために予め粉砕したり溶融する必要がなかった。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、低い定着温度と均一溶融性を有し、しかも保存性に優れた重合トナー及びその製造方法が提供される。本発明の重合トナーを使用すると、複写や印刷の高速化、フルカラー化、省エネルギー化が可能である。また、本発明の重合トナーは、OHPシート上に印字し、定着した場合に、優れた透過性を示す。本発明の重合トナーは、かぶりや印字濃度の低下のない高画質の画像を形成することができる。本発明によれば、このように優れた諸特性を有する重合トナーを用いた画像形成方法、及び該重合トナーを収容した画像形成装置が提供される。

Claims (3)

  1. 多官能エステル化合物及び着色剤を含有する着色重合体粒子からなるコア粒子が、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体からなるシェルで被覆されているコア・シェル型構造の重合トナーであって、
    (A)多官能エステル化合物が、式(I)
    Figure 0003670667
    (ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)
    で表される化合物であり、
    (B)コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃以下で、シェルを構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃を超え、コア粒子を構成する重合体成分とシェルを構成する重合体成分との間のガラス転移温度の差が10℃以上であり、かつ、
    (C)シェルが、コア粒子の存在下に、シェル用重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子表面に形成された重合体層である
    ことを特徴とするコア・シェル型構造の重合トナー。
  2. (1)分散剤を含有する水系分散媒体中で、式(I)
    Figure 0003670667
    (ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)
    で表される多官能エステル化合物、着色剤、及びガラス転移温度が80℃以下の重合体を形成し得るコア用重合性単量体を含む重合性単量体組成物を懸濁重合して、着色重合体粒子からなるコア粒子を調製し、次いで、(2)該コア粒子の存在下に、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも10℃以上高く、かつ、80℃を超えるガラス転移温度を有する重合体を形成し得るシェル用重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子を被覆する重合体層からなるシェルを形成するコア・シェル型構造の重合トナーの製造方法。
  3. 静電潜像が形成された感光体表面にトナーを付着させて可視像にし、次いで、該可視像を転写材に転写する工程を含む画像形成方法において、トナーとして、式(I)
    Figure 0003670667
    (ただし、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立にアルキル基であり、アルキル基の炭素原子数は、13〜25個である。)
    で表される多官能エステル化合物及び着色剤を含有する着色重合体粒子からなるコア粒子が、該コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する重合体からなるシェルで被覆されているコア・シェル型構造の重合トナーであって、コア粒子を構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃以下で、シェルを構成する重合体成分のガラス転移温度が80℃を超え、コア粒子を構成する重合体成分とシェルを構成する重合体成分との間のガラス転移温度の差が10℃以上であり、かつ、シェルが、コア粒子の存在下に、シェル用重合性単量体を懸濁重合して、コア粒子表面に形成された重合体層であるコア・シェル型構造の重合トナーを使用することを特徴とする画像形成方法。
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