JP3663794B2 - Pid制御回路の定常偏差測定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、DCモータをPID制御する制御装置において制御系が静的状態にあるときに生じる定常偏差を測定する方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図10に示すように、DCモータMを動力源とするアクチュエータ56を利用して制御対象を制御する制御装置は、一般に、DCモータMの回転状態を検出するロータリエンコーダ等のセンサ58と、DCモータMのモータ巻線両端に正・負の電源電圧を夫々印加するための合計4個のスイッチ素子がHブリッジ状に接続され各スイッチ素子のオン・オフ状態を制御することにより電流方向及び電流量を制御可能な駆動回路(所謂Hブリッジ回路)54と、上記センサ58からの出力信号(以下、検出信号ともいう)VSと外部から入力される指令信号VRとの偏差を比例・積分・微分処理して、検出信号VSを指令信号VRに一致させるための制御信号を発生するPID制御回路50と、このPID制御回路50からの制御信号に応じて駆動回路54内の各スイッチ素子をON・OFFさせてDCモータMの回転方向及び回転速度等を制御するPWM回路52とから構成されている。
【0003】
また、こうした制御装置では、指令信号VRが一定となり検出信号VSが安定した静的状態でも、PID制御回路50を構成する回路素子のばらつき等により、指令信号VRと検出信号VSとに偏差(定常偏差)VEが生じることがある。そして、この定常偏差VEは、静的状態での制御誤差となるため、従来では、制御装置の定常偏差を測定し、その測定結果に従いPID制御回路50を調整することで、定常偏差VEをなくすようにしていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来、定常偏差VEを実際に測定する際には、PID制御回路50をアクチュエータ56を含む制御系全体を構成した測定装置内に組み込み、PID制御回路50に指令信号VRを入力してDCモータMを駆動させ、そのとき得られる検出信号VSと指令信号VRとの偏差VEを測定するようにしていた。つまり、従来では、PID制御回路50を用いた制御系全体を構築して、DCモータMを実際に駆動することにより、定常偏差VEを測定するようにしていた。
【0005】
しかしこのような従来の測定方法では、PID制御回路50に指令信号VR(一定値)を入力して制御を開始した後、制御系が静的状態となって、センサ58からの出力が安定するまで、定常偏差VEを測定することができなかった。そして、この待ち時間は、PID制御回路50、及び該回路からの制御信号に応じてDCモータMを駆動する駆動系(つまりPWM回路52及び駆動回路54)やアクチュエータ56自体の時定数で決まり、この時定数が大きい程、定常偏差の測定に時間がかかることになる。
【0006】
このため、従来では、定常偏差VEを測定しながらPID制御回路50を調整する調整作業に時間がかかるといった問題があった。
また従来の測定方法では、PID制御回路50を用いた制御系全体を構成しなければならないため、定常偏差測定用の装置が大きくなるといった問題もある。
【0007】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、DCモータをPID制御する制御装置において生じる定常偏差を、PID制御回路単体で短時間に測定できるようにすることを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の定常偏差測定方法においては、PID制御回路をその動作を表すブロック線図で記述した際に比例・積分・微分処理を行うPID動作部からの出力信号のK倍がPID動作部の入力へ負帰還されるように、PID制御回路に負帰還用の回路素子を接続するか、該回路素子と同一作用を持つ制御機能(デジタル制御系の場合)を追加し、且つ、検出信号及び指令信号として同一の信号をPID制御回路に入力する。そして、ブロック線図でPID動作部から出力される出力信号に対応したPID制御回路内の電圧を測定し、その測定した電圧値と負帰還の利得Kとの積から定常偏差を求める。
【0009】
以下、この理由について、DCモータを位置制御する制御装置を例にとり説明する。
まず、図10に示した一般的なDCモータの制御装置を位置制御系としてブロック線図で記述すると、基本的には、図2に示す如く表すことができる。
【0010】
即ち、図10に示す制御系は、PID制御回路50,PWM回路52及び駆動回路54の挙動を表す制御回路部2と、アクチュエータ56内でのDCモータMの挙動を表す制御対象部4と、センサ58の挙動を表すセンサ部6とに分けられる。
【0011】
そして、制御回路部2では、まず、指令信号VRに、制御回路部2(ここではPID制御回路50)を構成する回路素子のばらつき等によって生じるオフセットの誤差成分Voffa(理想値:0)が加算されると共に、制御回路部2(ここではPID制御回路50)内での指令信号VRに対する増幅利得の誤差成分K1(理想値:1)が乗算され、センサ出力信号(検出信号)VSとの偏差が算出されることになる。そして、この偏差は、制御回路部2内での比例・積分・微分動作を表すPID動作部{Tc(s) }に入力されて、比例・積分・微分処理(PID処理)される。また、PID処理後の信号には、制御回路部2(ここではPID制御回路50を含む駆動系全体)の回路設計上から加えられるオフセットVoffbが加算され、更に、増幅利得Aが乗算されて、制御対象4に出力されることになる。
【0012】
なお、PID動作部{Tc(s) }は、図3(a)に示す如く、偏差に比例した信号成分を処理する比例処理部{KP }と、偏差を積分処理する積分処理部{1/(s・TI )}と、偏差を微分処理する微分処理部{s・TD }とからなり、これら各部による比例・積分・微分処理後の信号を加算して出力する。
【0013】
また制御対象部4では、制御回路部2からの出力によりDCモータMが駆動されるため、DCモータMの挙動(回転角速度)を表すモータ部{Tm(s) }と、この出力(回転角速度)を回転位置に変換する積分部{1/s}とにより記述される。そして、モータ部{Tm(s) }は、図3(b)に示すようになる。
【0014】
即ち、DCモータMのモータ巻線には駆動回路54を介して駆動電圧が印加されるため、モータ部{Tm(s) }では、まず、その駆動電圧である制御回路部4からの信号から、DCモータMの回転角速度に誘起電圧定数KE を乗じた逆起電圧分が減じられる。また、モータ巻線には、巻線の抵抗RaとインダクタンスLに応じた電流が流れることから、上記のように逆起電圧分が減じられた信号には、モータ巻線の特性に対応した係数{1/Ra},{1/(1+s・τe)}が乗じられ、これがモータ電流となる。但し、τeは抵抗RaとインダクタンスLとにより決定されるモータ巻線の時定数である。
【0015】
そして、モータ電流は、トルク定数KT を乗じることにより、モータトルクに変換される。またDCモータMは、通電によりモータトルクが発生すると、モータ軸のイナーシャJによる遅れを伴って回転角速度が発生するため、モータトルクは、その遅れを表す係数{1/(s・J)}を乗じることにより回転角速度に変換される。そして、この回転角速度は、上記のように誘起電圧定数KE を乗じることにより逆起電圧に変換されると共に、上記積分部{1/s}に出力されて、回転位置に変換される。
【0016】
次に、センサ部6は、制御対象部4からの出力(つまりDCモータMの回転位置)を検出するものであるため、図3(c)に示すように所定の比例定数KS を乗じるセンサ素子部Ts(s)により表される。そして、このセンサ部6からの出力は、検出信号VSとして制御回路部2にフィードバックされる。
【0017】
このようにDCモータをPID制御する制御系をその動作を表すブロック線図で記述した場合、制御回路部2に指令信号VRを入力したときの検出信号VSは、次式(1) の如く表すことができる。
【0018】
【数1】
【0019】
そして、従来は、このように制御対象を取り付けた状態で、指令信号VRを一定にしてDCモータMを駆動し、DCモータMが静的状態となったときの検出信号VSを測定することにより、定常偏差を求めていた。
この従来の測定方法において、指令信号VRをvr0、検出信号VSをvs0、上記各オフセットの誤差成分Voffa,Voffbをvoffa0,voffb0とすると、検出信号vs0は、最終値の定理を用いて、次式(2) の如く記述できる。
【0020】
【数2】
【0021】
そして、(2) 式において、
【0022】
【数3】
【0023】
となるから、センサ信号vs0は、次式(5) のように表される。
vs0=K1・vr0+K1・Voffa0 …(5)
従って、従来の測定方法において求められる定常偏差(vs0−vr0)は、次式(6) のように表される。
【0024】
(vs0−vr0)=(K1−1)・vr0+K1・voffa0 …(6)
この結果、静的状態でのDCモータによる制御系の定常偏差は、制御系を構成するPID制御回路内の回路素子によって生じるオフセットの誤差成分Voffaと、PID制御回路内の回路素子によって生じる指令値に対する増幅利得の誤差成分K1とで決まり、DCモータを含むアクチュエータや制御系の他のパラメータは関与しないことが判る。従って、DCモータをPID制御する制御装置では、PID制御回路単体で定常偏差を測定できることになる。
【0025】
次に、本発明では、このようにPID制御回路単体で定常偏差を測定するために、図1に示す如く、PID制御回路をブロック線図で記述したときの制御回路部2において、PID動作部{Tc(s) }からの出力信号VeのK倍をPID動作部{Tc(s) }の入力へ負帰還させ、検出信号VSとして指令信号VRと同一の信号を入力して、そのときPID動作部{Tc(s) }から出力される出力信号Veを測定する。
【0026】
この測定時の出力電圧Veは、次式(7) の如く表される。
【0027】
【数4】
【0028】
そして、前述と同様に、指令信号vr0,オフセットvoffa0に対して、定常状態での出力電圧ve0を、最終値の定理を用いて表すと、次式(8) となる。
【0029】
【数5】
【0030】
そして、この(8) 式と、制御回路部2に制御対象部4及びセンサ部6を接続したときに得られる定常偏差の測定結果を表す前述の(6) 式とを比較すれば、定常偏差は、次式(9) のように求めることができる。
定常偏差=K・ve0 …(9)
そこで本発明では、上記(9) 式に従い、PID制御回路に負帰還用の回路素子を実際に取り付けて測定したPID動作部{Tc(s) }からの出力信号Veに対応する電圧値と負帰還の利得Kとの積から定常偏差を得るようにしているのである。
【0031】
従って、本発明によれば、従来のようにPID制御回路にセンサやアクチュエータを実際に取り付けて制御系を構成することなく、PID制御回路単体で定常偏差を測定することができ、しかも、この測定のためには、PID制御回路に負帰還用の回路素子を接続(デジタル制御系の場合には負帰還用の機能を追加)して、PID制御回路内の電圧を測定するだけでよいため、定常偏差測定用の装置構成を極めて簡単にすることができる。
【0032】
また、DCモータを含むアクチュエータの時定数やPID制御回路からDCモータに至る駆動系の時定数に影響されることなく定常偏差を測定することができるので、定常偏差を短時間で測定できる。そして、このように定常偏差を短時間で測定できるので、定常偏差をなくすために定常偏差を測定しながらPID制御回路の回路定数を調整する際の調整作業も効率よく行うことができるようになる。
【0033】
ここで、DCモータをPID制御する制御装置において使用されるPID制御回路としては、指令信号と検出信号とを受ける入力側に、これら各信号の偏差を比例・微分する信号処理回路を備え、制御信号を出力する出力側に、信号処理回路からの出力信号を反転入力端子に受けてこの信号を比例・積分するオペアンプからなる積分回路を備えたものが知られているが、このようなPID制御回路において、定常偏差を測定する際には、請求項2に記載のように、負帰還用の回路素子として、積分回路を構成するオペアンプの出力端子と反転入力端子との間に抵抗器R0を接続し、PID動作部からの出力信号に対応した電圧として、その抵抗器R0の両端電圧VXを測定し、負帰還の利得Kとして、信号処理回路の直流利得を決定する抵抗値RXと抵抗器R0の抵抗値との比RX/R0を用いて、この比RX/R0と測定した電圧値VXとの積VX・RX/R0から、定常偏差を求めるようにすればよい。
【0034】
つまり、後述する実施例において明らかにするが、上記のような信号処理回路と積分回路とから構成されたPID制御回路をブロック線図で記述すると、その基本構成は、図2に示した制御回路部2と同様になる。そして、積分回路の反転入力端子と出力端子との間に抵抗器R0を接続すれば、ブロック線図におけるPID動作部の出力を入力側に負帰還する回路が形成され、静的状態での負帰還の利得Kは、信号処理回路側で直流成分(換言すれば偏差の比例成分)を通過させる直流利得を決定する抵抗値RXと抵抗器R0の抵抗値との比RX/R0に対応し、しかも、PID動作部の出力は抵抗器R0の両端電圧に対応することになる。
【0035】
従って、信号処理回路と積分回路とから構成されたPID制御回路の定常偏差を測定する際には、請求項2に記載の方法を利用することにより、定常偏差を極めて簡単に、しかも短時間で測定することが可能になる。
次に、請求項3に記載の発明は、上記請求項1に記載の定常偏差測定方法を実現する装置であって、PID制御回路をその動作を表すブロック線図で記述した際に前記比例・積分・微分処理を行うPID動作部からの出力信号のK倍が該PID動作部の入力へ負帰還されるように、PID制御回路に追加される負帰還用の機能又は回路素子と、検出信号及び指令信号として同一の信号をPID制御回路に入力する信号入力手段と、PID制御回路をブロック線図で記述したときにPID動作部から出力される出力信号に対応したPID制御回路内の電圧を測定する電圧測定手段と、その電圧測定手段にて測定された電圧値と前記負帰還の利得Kとの積を演算して、その演算結果を定常偏差として出力する定常偏差演算手段とから構成される。
【0036】
従って、請求項3に記載の定常偏差測定装置によれば、請求項1に記載の測定方法を利用してPID制御回路単体で定常偏差を測定することができ、例えば、定常偏差演算手段からの出力信号を所定の表示装置に入力して定常偏差を表示するようにすれば、定常偏差が零になるようにPID制御回路を調整する作業を、その表示内容を確認しながら行うことが可能になる。また、本発明の定常偏差測定装置によれば、PID制御回路に負帰還用の回路素子を接続(デジタル制御系の場合には負帰還用の機能を追加)するだけで定常偏差を測定でき、従来のようにPID制御回路をDCモータを実際に制御する装置内に組み込む必要がないので、定常偏差測定装置の構成を簡単にし、且つ小型化することができる。
【0037】
また次に、請求項4に記載の発明は、検出信号と指令信号との偏差を比例・微分する信号処理回路と、信号処理回路からの出力信号を反転入力端子に受けてこの信号を比例・積分するオペアンプからなる積分回路と、を備えたPID制御回路の定常偏差を測定するための装置であり、請求項3に記載の装置において、負帰還用の回路素子を、PID制御回路内の積分回路を構成するオペアンプの出力端子と反転入力端子との間に接続される抵抗器R0により構成し、電圧測定手段によりその抵抗器R0の両端電圧VXを測定し、定常偏差演算手段により、信号処理回路の直流利得を決定する抵抗値RXと抵抗器R0の抵抗値との比RX/R0と、測定した電圧値VXとの積VX・RX/R0を、定常偏差として演算することを特徴とする。
【0038】
この結果、請求項4に記載の定常偏差測定装置によれば、請求項2に記載の測定方法を実現して、信号処理回路と積分回路とからなるPID制御回路の定常偏差を測定することができるようになり、請求項3に記載の装置と同様の効果を得ることができる。
【0039】
なお、定常偏差を測定するに当たって、PID制御回路に同一の検出信号VS及び指令信号VRを入力する際には、これら各信号を個々に入力するようにしてもよいが、PID制御回路におけるこれら各検出信号の入力端子を短絡し、その短絡部分に定常偏差測定用の信号を入力するようにしてもよい。そして、このようにすれば、各入力端子に対して同一の信号を簡単且つ確実に入力することが可能になる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施例を図面と共に説明する。
図4は、図10に示したDCモータの制御装置においてDCモータを位置制御するために使用されるPID制御回路10の一例を表す電気回路図である。
【0041】
図4に示す如く、本実施例のPID制御回路10は、大きく分けて、センサからの検出信号VS及び指令信号VRを受けてこれら各信号の偏差を比例・微分するための信号処理回路18と、この信号処理回路18からの出力を比例・積分するための積分回路19とから構成されている。
【0042】
そして、積分回路19は、信号処理回路18からの出力が反転入力端子に入力されると共に、この反転入力端子と出力端子とが比例・積分用のコンデンサC13及びコンデンサC12と抵抗器R12との直列回路により夫々接続され、更に、非反転入力端子に基準電圧Vref2が印加されたオペアンプOP3により構成されている。
【0043】
また信号処理回路18は、検出信号VSを入力するためのバッファを構成するオペアンプOP2と、このオペアンプOP2を介して入力された検出信号VSを比例・微分するためにオペアンプOP2の出力端子に夫々一端が接続された抵抗器R4及びコンデンサC11と抵抗器R11との直列回路からなる比例・微分回路18aと、抵抗器R1を介して反転入力端子に指令信号VRを受けると共に、反転入力端子と出力端子とが抵抗器R2を介して接続され、更に非反転入力端子に基準電圧Vref1が印加されたオペアンプOP1からなる反転増幅回路18bと、この反転増幅回路18bによる反転増幅後の指令信号と比例・微分回路18aによる比例・微分後の検出信号とがオペアンプOP3に加算して入力されるように、一端がオペアンプOP1の出力に接続され、他端が比例・微分回路18aを構成する抵抗器R4及びコンデンサC11と抵抗器R11との直列回路の他端と共にオペアンプOP3の反転入力端子に接続された抵抗器R3とから構成されている。
【0044】
なお、このように構成されたPID制御回路10は、指令信号VRが一定で、VR=VSのときに、積分回路19を構成するオペアンプOP3の反転入力端子に入力される加算信号が零となるように、通常は、反転増幅回路18b及び積分回路19を構成する各オペアンプOP1,OP3の非反転入力端子に印加される基準電圧Vref1,Vref2には、同一電圧(Vref1=Vref2)が設定され、しかも、上記各抵抗器R1〜R4の抵抗値には、次式(10)を満足する抵抗値が設定される。
【0045】
(R2/R1)・(R4/R3)=1 …(10)
そして、PID制御回路10は、検出信号VSと指令信号VRとを一致させるために、その偏差を比例・微分・積分処理した信号を生成し、これをDCモータのPID制御用の制御信号として出力するが、その動作特性は、PID制御回路10を構成する上記各回路素子により決定され、各回路素子の特性にばらつきがあると、PID制御回路10を図10に示した制御装置に組み込んでDCモータを実際に制御した際に定常偏差が生じてしまうことになる。このため、こうしたPID制御回路10では、定常偏差を発生させることのないように、例えば回路素子のトリミング等によって、その動作特性を微調整する必要があり、この調整作業の際には、定常偏差を測定する必要がある。
【0046】
そして、本実施例では、こうした調整作業等に必要な定常偏差の測定をPID制御回路10単体で行うために、積分回路19を構成するオペアンプOP3の反転入力端子と出力端子との間に接続される偏差測定用の抵抗器R0と、この抵抗器R0の両端電圧を測定する電圧計13と、PID制御回路10における検出信号VSの入力端子と指令信号VRの入力端子とを短絡させて、各端子に同一の指令信号VR(一定値)を入力する指令信号発生回路15と、電圧計13にて測定された抵抗器R0の両端電圧V(13)及び抵抗器R4と抵抗器R0との比R4/R0を用いて、次式(11)に従い定常偏差を求める演算回路17とからなる測定装置が使用される。
【0047】
定常偏差=(R4/R0)・V(13) …(11)
以下、このような測定装置を用いて定常偏差を測定できる理由について説明する。
まず、図4に示すPID制御回路10の挙動をブロック線図で記述するために、PID制御回路10の動作に影響を与えるパラメータを、τ1,τ2,Ti,Td,K1,Kとして、下記のように定義する。
【0048】
【数6】
【0049】
そして、制御対象となるアクチュエータ側での時定数により決定される制御系全体の動作周波数帯fに対し、信号処理回路18側での微分特性及び時定数を表すTd,τ1、及び、積分回路19側での積分特性及び時定数を表すTi,τ2、を夫々決定する回路素子が、
【0050】
【数7】
【0051】
の条件を満足することを前提として、PID制御回路10の挙動を近似すると、PID制御回路10は、図5に示すブロック線図で記述できる。
なお、図5において、Voff1,Voff2,Voff3は、夫々、PID制御回路10を構成する各オペアンプOP1,OP2,OP3の入力オフセット電圧を表し、iBM1 ,iBM2 は、夫々、オペアンプOP1,OP3の反転入力端子における入力バイアス電流を表す(図4参照)。
【0052】
このように図5に示したPID制御回路10のブロック線図の基本構成は、図2に示したDCモータの位置制御系のブロック線図と同じであり、異なる点は、検出信号VSと指令信号VRとの偏差をとる減算部の前に低域通過フィルタ「1/{s・(Td−τ1)+1}」のブロックが入るだけである。そして、この低域通過フィルタのブロックは、静的状態での定常偏差には影響しないので、図2に示したブロック線図で記述される基本的なPID制御回路と同様に、PID動作部{Tc(s) }の出力を入力側に負帰還させて、PID動作部{Tc(s) }からの出力Veを測定するようにすれば、定常偏差を求めることができる。
【0053】
一方、オペアンプOP3の反転入力端子と出力端子との間に定常偏差測定用の抵抗器R0を接続し、検出信号VSと指令信号VRとに同一の信号を入力するようにした場合のブロック線図は、図6に示す如くなり、定常時には、PID動作部{Tc(s) }の出力がK倍されてその入力側に負帰還されることになる。なお、このときの負帰還の利得Kは、信号処理回路18での比例利得を決定する抵抗器R4と抵抗器R0との抵抗比R4/R0である。また、図6に示すブロック線図におけるPID動作部{Tc(s) }からの出力Veは、電圧計13にて測定される抵抗器R0の両端電圧V(13)に等しい。つまり、図6のブロック図において、「PID出力(制御信号)」が図4の「OP3出力電圧」なので、図6より、
となる。
【0054】
従って、本実施例のように、PID制御回路10の積分回路19を構成するオペアンプOP3の反転入力端子と出力端子との間に抵抗器R0を接続して、PID制御回路10に検出信号VS及び指令信号VRとして同一の信号を入力し、抵抗器R0の両端電圧V(13)を測定するようにすれば、前述の(11)式を用いて、PID制御回路10を含むDCモータ制御装置全体で生じる定常偏差を求めることができるようになる。
【0055】
そして、このように定常偏差を測定する本実施例の測定装置によれば、PID制御回路10の積分回路19に抵抗器R0を接続して、検出信号VS及び指令信号VRとして同一の信号を入力するだけでよく、従来のようにPID制御回路10を含む制御系全体を構成する必要がないため、その構成を極めて簡単にすることができる。また、PID制御回路10からDCモータに至る駆動系やDCモータを含むアクチュエータの時定数に影響されることなく定常偏差を測定できるので、定常偏差の測定時間を短くできる。
【0056】
なお、本実施例では、定常偏差の測定時には、積分回路19に接続した定常偏差測定用の抵抗器R0の両端電圧を、電圧計13を用いて直接測定するものとして説明したが、例えば、指令信号VR0(一定)を入力して、PID制御回路10からの出力信号(電圧)を、抵抗器R0の抵抗値をR0(A),R0(B)というように変えて2回測定し、その測定した電圧値V(A),V(B)と各抵抗値とを用いて次式(12)
によりVref2+Voff3を求めた後、PID制御回路10からの出力信号から、所定の抵抗器R0を接続したときの抵抗器R0の両端電圧V(13)を間接的に求めるようにしてもよい。なお、(12)式は、下記の関係式から設定したものである。
【0057】
以上本発明の一実施例について説明したが、本発明は、上記実施例のPID制御回路10のみに適用可能なものではなく、DCモータ制御のためのPID制御回路であれば、図1〜図3を用いて説明した理由により、定常偏差を測定することができる。
【0058】
例えば、図7は、制御信号の出力側には前記実施例と全く同様に構成された積分回路19を備え、検出信号VSと指令信号VRとの入力側には、前記信号処理回路18とは異なる信号処理回路28を備えたPID制御回路20を表す。そして、このPID制御回路20において、信号処理回路28は、検出信号VSと指令信号VRとの偏差(VS−VR)を増幅するオペアンプOP11からなる差動増幅回路28aと、この差動増幅回路28aからの出力を比例・微分する比例・微分回路28bとから構成されている。
【0059】
また、差動増幅回路28aは、オペアンプOP11と、オペアンプOP11の反転入力端子に指令信号VRを入力する抵抗器R33と、オペアンプOP11の反転入力端子と出力端子とを接続する抵抗器R34と、オペアンプOP11の非反転入力端子にセンサからの検出信号VSを入力する抵抗器R31と、オペアンプOP11の非反転入力端子に基準電圧Vref11 を印加する抵抗器R32とから構成され、比例・微分回路28bは、オペアンプOP11の出力端子と積分回路19を構成するオペアンプOP3の反転入力端子との間に接続された抵抗器R15,及びコンデンサC21と抵抗器R21との直列回路からなる。
【0060】
そして、このように構成されたPID制御回路20においても、PID制御回路10の動作に影響を与えるパラメータを、τ1,τ2,Ti,Td,K1,Kとして、下記のように定義し、
【0061】
【数8】
【0062】
制御対象となるアクチュエータ側での時定数により決定される制御系全体の動作周波数帯fに対し、Td,τ1、及び、Ti,τ2が、夫々、前記実施例と同様の条件を満足することを前提として、PID制御回路20の挙動を近似すれば、その動作を表すブロック線図は、図8に示すように、図2に示した基本的なPID制御回路のブロック線図と同様の構成となる。
【0063】
従って、このPID制御回路20においても、図7に示すように、積分回路19を構成するオペアンプOP3の反転入力端子と出力端子との間に定常偏差測定用の抵抗器R0を接続し、検出信号VSと指令信号VRとの入力端子を短絡して、これら各入力端子に同一の信号を入力し、抵抗器R0の両端電圧を電圧計13等にて測定するようにすれば、上記実施例と同様、その測定した電圧値V(13)から定常偏差を求めることができるようになる。
【0064】
つまり、オペアンプOP3の反転入力端子と出力端子との間に定常偏差測定用の抵抗器R0を接続し、検出信号VSと指令信号VRとに同一の信号を入力するようにした場合のブロック線図は、図9に示す如くなり、定常時には、PID動作部{Tc(s) }の出力がK倍されてその入力側に負帰還されることになるため、前記実施例と同様、抵抗器R0の両端電圧V(13)と負帰還の利得Kとの積V(13)・Kを求めることにより、定常偏差を得ることができる。
【0065】
なお、このときの負帰還の利得Kは、信号処理回路28にて直流利得を決定する抵抗値と、抵抗器R0の抵抗値との比であり、前述のように「(R15/R0)・(R33/R34)・K1」となるが、PID制御回路20が、差動増幅回路28aを構成する各抵抗器R31〜R34の抵抗値が全て同じ(R31=R32=R33=R34)になるように設計されていれば、負帰還の利得Kは、抵抗器R15と抵抗器R0との抵抗比(R15/R0)となる。また、図8,図9において、Voff11は、夫々、オペアンプOP11の入力オフセット電圧を表し、iBMm,iBMpは、夫々、オペアンプOP1の反転入力端子及び非反転入力端子の入力バイアス電流を表す(図7参照)。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による定常偏差測定時のPID制御回路の動作を表すブロック線図である。
【図2】 一般的なDCモータの位置制御系の動作を表すブロック線図である。
【図3】 図2におけるPID動作部{Tc(s) },モータ部{Tm(s) }及びセンサ素子部{Ts(s) }の詳細を表す説明図である。
【図4】 実施例のPID制御回路10の構成を表す電気回路図である。
【図5】 図4に示したPID制御回路10の動作を表すブロック線図である。
【図6】 図4に示したPID制御回路10の定常偏差測定時の動作を表すブロック線図である。
【図7】 実施例のPID制御回路20の構成を表す電気回路図である。
【図8】 図7に示したPID制御回路20の動作を表すブロック線図である。
【図9】 図7に示したPID制御回路20の定常偏差測定時の動作を表すブロック線図である。
【図10】 DCモータをPID制御する制御装置全体の構成を表すブロック図である。
【符号の説明】
2…制御回路部 4…制御対象部 6…センサ部
10,20…PID制御回路 18,28…信号処理回路
19…積分回路 R0…抵抗器(定常偏差測定用) 13…電圧計
15…指令信号発生回路 17…演算回路 VS…検出信号
VR…指令信号
Claims (4)
- DCモータの回転状態を検出するセンサからの検出信号と外部から入力される指令信号との偏差を比例・積分・微分処理して各信号を一致させるための制御信号を発生するPID制御回路を備えたDCモータ用制御装置において、前記指令信号が一定で制御系が静的状態にあるときに生じる前記検出信号と前記指令信号との定常偏差を、前記PID制御回路単体で測定する定常偏差測定方法であって、
前記PID制御回路をその動作を表すブロック線図で記述した際に前記比例・積分・微分処理を行うPID動作部からの出力信号のK倍が該PID動作部の入力へ負帰還されるように、前記PID制御回路に負帰還用の回路素子を接続するか又は該回路素子と同一作用を持つ制御機能を追加すると共に、
前記検出信号及び指令信号として同一の信号を前記PID制御回路に入力して、
前記ブロック線図で前記PID動作部から出力される出力信号に対応した前記PID制御回路内の電圧を測定し、
該測定した電圧値と前記負帰還の利得Kとの積から前記定常偏差を得るようにしたことを特徴とするPID制御回路の定常偏差測定方法。 - 請求項1に記載のPID制御回路の定常偏差測定方法において、
前記PID制御回路が、前記検出信号と前記指令信号との偏差を比例・微分する信号処理回路と、該信号処理回路からの出力信号を反転入力端子に受けて該信号を比例・積分するオペアンプからなる積分回路と、を備える場合に、
前記負帰還用の回路素子として、前記積分回路を構成するオペアンプの出力端子と反転入力端子との間に抵抗器R0を接続し、
前記PID動作部からの出力信号に対応した電圧として、前記抵抗器R0の両端電圧VXを測定し、
前記負帰還の利得Kとして、前記信号処理回路の直流利得を決定する抵抗値RXと前記抵抗器R0の抵抗値との比RX/R0を用い、
該比RX/R0と前記測定した電圧値VXとの積VX・RX/R0から、前記定常偏差を得ることを特徴とするPID制御回路の定常偏差測定方法。 - DCモータの回転状態を検出するセンサからの検出信号と外部から入力される指令信号との偏差を比例・積分・微分処理して各信号を一致させるための制御信号を発生するPID制御回路を備えたDCモータ用制御装置において、前記指令信号が一定で制御系が静的状態にあるときに生じる前記検出信号と前記指令信号との定常偏差を、前記PID制御回路単体で測定する定常偏差測定装置であって、
前記PID制御回路をその動作を表すブロック線図で記述した際に前記比例・積分・微分処理を行うPID動作部からの出力信号のK倍が該PID動作部の入力へ負帰還されるように、前記PID制御回路に追加される負帰還用の機能又は回路素子と、
前記検出信号及び指令信号として同一の信号を前記PID制御回路に入力する信号入力手段と、
前記ブロック線図で前記PID動作部から出力される出力信号に対応した前記PID制御回路内の電圧を測定する電圧測定手段と、
該電圧測定手段にて測定された電圧値と前記負帰還の利得Kとの積を演算し、該演算結果を定常偏差として出力する定常偏差演算手段と、
を備えたことを特徴とするPID制御回路の定常偏差測定装置。 - 請求項3に記載のPID制御回路の定常偏差測定装置において、
前記PID制御回路は、前記検出信号と前記指令信号との偏差を比例・微分する信号処理回路と、該信号処理回路からの出力信号を反転入力端子に受けて該信号を比例・積分するオペアンプからなる積分回路と、を備え、
前記負帰還用の回路素子は、前記積分回路を構成するオペアンプの出力端子と反転入力端子との間に接続される抵抗器R0からなり、
前記電圧測定手段は、該抵抗器R0の両端電圧VXを測定し、
前記定常偏差演算手段は、前記信号処理回路の直流利得を決定する抵抗値RXと前記抵抗器R0の抵抗値との比RX/R0と、前記測定した電圧値VXとの積VX・RX/R0を、前記定常偏差として演算することを特徴とするPID制御回路の定常偏差測定装置。
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