JP3661606B2 - 車輌用間歇運転式内燃機関の運転方法 - Google Patents

車輌用間歇運転式内燃機関の運転方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌用内燃機関の運転方法に係り、特に車輌の運行中、内燃機関を一時停止させる車輌運転条件が成立している間、内燃機関を一時停止させる要領にて内燃機関を間歇運転する車輌の内燃機関の運転方法に係る。
【0002】
【従来の技術】
車輌用内燃機関に於いては、その始動時に燃料を一時的に増量することが行われている。かかる機関始動時の燃料一時増量は、従来主として機関始動に当って混合気を一時的に濃くすることにより機関の始動性をよくするために行なわれていたが、更に近年の排気浄化触媒を備えた車両に於いては、機関が停止されると排気浄化触媒が酸素を捕捉した状態となり、機関始動時にNOxの浄化機能が損なわれることに対処し、機関始動に当って排気浄化触媒へCOやHCの如き可燃成分を供給し、これによって酸素を捕捉した触媒を還元処理すべく、機関始動時に燃料を一時増量することが注目されてきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
機関の停止は、従来車、エコラン車、ハイブリッド車のいづれに於いても燃料遮断によって行われるが、機関は燃料が遮断されても、その回転が完全に停止するまでには、数回転に亙って燃料噴射なしで空転するので、機関の排気系に設けられた排気浄化触媒には酸素が送り込まれ、これによって触媒は酸素を捕捉する。このように、触媒が機関の停止に伴って酸素を捕捉した状態となる点に於いては、従来車もエコラン車やハイブリッド車も殆ど同じであるが、エコラン車やハイブリッド車は頻繁に機関の一時停止と再始動を繰り返すので、機関始動時の排気浄化触媒の還元処理を適正に行なうこと、即ちCOやHCの如き可燃成分を大気へ排出することなく触媒の還元処理を十分に行なうように燃料を一時増量することは、エコラン車やハイブリッド車に於いては従来車に於けるよりも遥かに重要である。
【0004】
更に、機関始動時の燃料一時増量に関しては、エコラン車やハイブリッド車には、また別の特異な問題が考えられる。それは、燃料を気化器やポート噴射により供給する多くのガソリン機関に於いては、供給された燃料の一部が吸気ポートの周辺に付着し、そこに燃料の液膜が形成されるという現象に関連するものである。即ち、気化器やポート噴射により燃料を供給する機関に於いては、機関の作動中吸気ポートの周辺には略一定の厚さの燃料液膜が形成され、かかる燃料液膜の形成には或るかなりの量の燃料が関与することである。
【0005】
そこで、上記の機関始動時に於ける排気浄化触媒の還元処理を十分に達成するに足りるが余って大気へ燃料の可燃成分が排出されることのないよう適切に制御された量にて機関始動時燃料増量を行なおうとすれば、上記の燃料液膜形成に要する燃料の量が考慮されなければならない。この点に関し、車輌の運行開始時にのみ機関始動が行なわれる従来車に於いては、機関始動時、上記の燃料液膜は通常消失しているが、車輌の運行中に機関が一時停止され、短時間を置いて機関が再始動されるエコラン車やハイブリッド車に於いては、機関始動時に燃料液膜は尚実質的に残留している場合が多く、しかもその残留の度合は機関停止後の経過時間の長短に応じて異なる。そのような場合に、機関再始動に当って燃料の一時増量が常時一定量にて行われると、一時増量燃料のうち燃焼室内へ持ち込まれる分量が大きく変動し、排気浄化触媒還元処理のための燃料可燃成分の供給に不足を生じたり、また逆にそれが多すぎて可燃成分が大気へ放出され、大気環境保全を損なう虞れがある。
【0006】
本発明は、機関始動時燃料増量に於ける上記の問題に対処し、これに適切に対処し得る車輌用内燃機関の運転方法を提供することを課題としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するものとして、本発明は、車輌の運行中、内燃機関を一時停止させる車輌運転条件が成立している間、内燃機関を一時停止させる車輌用内燃機関の運転方法にして、機関始動時の燃料増量を機関始動時に於ける吸気ポート周辺への燃料付着量の推定に基づいて制御し、その際、内燃機関の一回の始動から一時停止を挟んだ次回の始動までの経過時間が所定のしきい値以上でないとき、該次回の機関始動時に於ける燃料増量を所定の標準値より低減することを特徴とする内燃機関運転方法を提案するものである。
【0011】
この場合、前記の標準値よりの低減は該次回の機関始動時に於ける燃料増量の初期値を該一回の始動による機関運転の終了時の燃料増量に対応させるようなされる要領にて行なわれてよい。
【0012】
【発明の作用及び効果】
上記の如く機関始動時の燃料増量が機関始動時に於ける吸気ポート周辺への燃料付着量の推定に基づいて制御されるようになっていれば、エコラン車やハイブリッド車に於ける如く機関始動時の吸気ポート周辺の燃料液膜の状態が種々に大きく異なり、その修復に費やされる燃料の量に大きな差が生ずる可能性のある場合にも、常にそれに見合って制御された燃料量を正しく一時増量することができ、頻繁に行なわれる機関再始動の度に、COやHCの如き燃料可燃成分を大気へ放出することなく、常に機関の良好な始動性を確保し、また必要に応じて排気浄化触媒の始動時還元処理を適切に行なうことができる。この場合、特に内燃機関の一回の始動から一時停止を挟んだ次回の始動までの経過時間が所定のしきい値以上でないとき、該次回の始動に於ける前記燃料増量を所定の標準値より低減するようにすれば、始動時燃料一時増量の重なりにより吸気ポート周辺の燃料液膜形成による燃料吸収能を越えて燃料を増量することが事前に阻止される。尚、かかる吸気ポート周辺の燃料付着の推定に基づく機関始動時燃料増量の可変制御は、機関始動時燃料増量が専ら機関の始動性の確保のために行われる場合にも、大気への可燃成分の排出を可及的に減じてその目的を達成する上で有効である。
【0013】
かかる機関始動時に於ける吸気ポート周辺への燃料付着量の推定に基づいた燃料一時増量制御として、特に内燃機関の停止より次の始動までの経過時間が所定のしきい値以上でないとき、該次の機関始動時の燃料増量は、該経過時間が該しきい値以上であるときに比して低減されるようにされるときには、機関停止後あまり間を置かずに機関が最始動され、機関再始動時に吸気ポート周辺の燃料液膜が残留する度合が大きいとき、該残留度合に応じて機関始動時燃料増量を適正に減量修正することができる。かかる減量修正は、機関停止後再始動までの時間が特に小さいときには燃料増量を零とすることを含んでいてよい。
【0014】
また、機関停止より次の始動までの時間の経過と共に漸減する補正値を所定の標準値より差し引いた量が該次回の機関始動時の燃料増量とされるときには、機関停止より次の始動までの時間経過が短い程、次回の機関始動時に吸気ポート周辺にはより完全に近い燃料液膜が残留していることに対応して、不要な燃料液膜立上げ用の燃料の追加供給を抑えることができる。
【0016】
また、特にこのとき機関始動時燃料増量が機関始動時の初期値から時間の経過と共に漸減されるようにし、前記の標準値よりの低減は該次回の機関始動時に於ける燃料増量の初期値を該一回の始動による機関運転の終了時の燃料増量に対応させるようなされれば、時間的に近接して行なわれる2度の機関始動の後者に於ける燃料一時増量を前者に於けるそれに連続させる如き制御特性を得ることができる。
【0017】
【発明の実施の態様】
以下に本発明による内燃機関の運転方法を実施例について詳細に説明する。
【0018】
添付の図1は、その第一の実施例を一連の制御過程の流れとして示すフローチャートである。このフローチャートによる車輌用内燃機関の運転制御は、図には示されていない車輌のキースイッチが閉成されることにより車輌の運行が開始されると同時に開始される。
【0019】
制御が開始されると、ステップ10にて制御に必要なデータの読込みが行われる。次いで、ステップ20にて、内燃機関が運転されているか否かが判断される。機関を運転するか否かの判断は、車輌の運行開始時には勿論運転者によってなされるが、車輌の運行中に於けるその判断は、図には示されていないコンピュータを備えた車輌自動運転装置によりなされるものであり、それはこの技術分野に於いて既になされている種々の提案による車輌の運転状態に基づく制御判断の何れによってなされてもよい。そのような任意の機関運転制御により機関が運転されているか或いは一時停止されているかに応じて、このステップに於ける判断の答はイエスまたはノーになるものとする。
【0020】
また、かかるコンピュータ制御に基づく車輌或いは内燃機関の運転制御の分野に於いては周知の通り、この種のフローチャートにより表される制御は、数十マイクロセカンド程度の周期にてフローチャートを循環しつつ行われるものであり、従ってこのステップ20に於ける先の制御循環過程に於ける答がイエスであり、次の制御循環過程に於ける答がノーとなることは、数十マイクロセカンド内のほぼ瞬間的時点から始まって機関が一時停止されることであり、また逆に先の制御循環過程に於ける答がノーであり、次の制御循環過程に於ける答がイエスとなることは、その時点から一時停止中であった機関が再始動されることを意味する。
【0021】
このステップ20の答がイエスのときには、制御はステップ30へ進み、ここでフラグ1が1にセットされる。次いで制御はステップ40へ進み、フラグF5が1であるか否かが判断される。フラグF5は、この種の技術分野に於いては周知の通り制御の開始に当って0にリセットされると共に、後述のステップ170に於いて改めて0にセットされ、或いは後述のステップ240に於いて1にセットされるものである。従って、制御が開始後初めてステップ40に至ったとき、或いはステップ170からのリターンによりステップ10、20、30を経てここに至ったときには、F5は0であり、判断の答はノーであり、後述の通り機関停止時に制御がステップ180〜270を巡って循環した後に機関が始動されて最初に制御がここに至ったときには1であり、このとき答はイエスとなる。一先ず、答がイエスの場合について制御を進める。
【0022】
このとき制御はステップ50へ進み、カウント値C1が所定のしきい値C10以上であるか否かが判断される。このカウント値C1も制御開始に当って0にリセットされ、その後、後述のステップ120に於いてリセットされたり、ステップ140に於いて1ずつ増分されるものである。このステップ50の目的は、機関が始動され或いは再始動された時点より所定時間以上が経過したか否かを判断することである。答がイエスのときには、制御はステップ60へ進み、ここで内燃機関を通る空気量の積算値Qaが所定のしきい値Qao以上であるか否かが判断される。Qaも制御開始時には0にリセットされるものであり、また後述のステップ90に於いて0にリセットされ、ステップ160に於いて、このフローチャートを巡る一サイクル間に於ける内燃機関を通る空気量だけ増分されて機関始動後或いは再始動後の空気流量を積算した値を示すものである。このステップ60もまた機関が始動後或いは再始動後に所定の積算空気量以上を通すだけ運転されたか否かを判断するものである。尚、C1およびQaは、それぞれ判別の目的を達成する適当な値に達したら、それ以上は増大しないようになっていてよい。そしてステップ50および60の判断結果が何れもイエスのとき、制御はステップ70に至り、ここでフラッグF2が0にリセットされ、また後述のパラメータ値Kaも0にリセットされる。これに対しステップ50或いは60に於ける答の何れか一つでもノーであれば、制御はステップ80へ進み、フラグF2が1にセットされる。
【0023】
制御がステップ70を通った場合にも或いはステップ80を通った場合にも、制御は次いでステップ90に至り、ここでフラッグF3が0にリセットされ、また上記の空気量積算値Qaも0にリセットされる。次いで制御はステップ100へ進む。
【0024】
ステップ40の答がノーのときには、制御はステップ50〜90をバイパスして直ちにステップ100へ進む。フラグF5によるかかる制御の仕分けの理由は後程明らかとなる。
【0025】
ステップ100に於いては、フラグF2が1であるか否かが判断される。答がノーのとき、即ちステップ50に於いて機関始動後或いは再始動後の時間経過を示すカウント値C1がしきい値C10よりも大きくなるような充分な時間が経過したと判断され、またステップ60に於いて機関を通って流れた空気量の積算値Qaがしきい値Qaoより大きくなるよう充分大きな空気量が機関を通って流れるほど機関が運転されたと判断されたときには、制御はステップ110へ進む。これに対しF2が1のとき、即ちカウント値C1がしきい値C10に達していないか或いは空気量積算値Qaがしきい値Qaoに達していないかの少なくとも何れか一方のときには、制御はステップ105へ進み、ここでパラメータ値Kaが後述のステップ20にて求められた値Rにセットされる。このとき制御は次いでステップ106へ進み、ここでフラッグF2が0にリセットされる。
【0026】
尚ステップ50にて時間的なカウント値C1が所定のしきい値以上であるか否かを判断すると共に、ステップ60にて機関を通る空気量の積算値Qaが所定のしきい値以上であるか否かを判断するよう、両方の条件を重ね合わせてフラグF2を0とするか1とするか、即ち機関が始動後或いは再始動後或る所定の時間的或いは量的運転量を経過したか否かの判断を行ったのは、機関の始動または再始動からの機関の実質運転をより確実に判断するためである。
【0027】
これに次いで行われるステップ110、120、130の制御は、ステップ20に於ける判断結果がイエスとなったとき、即ち機関が始動され或いは再始動されたとき、その時点からの時間の経過を図るカウント値C1を最初に0にリセットするためのものである。こうして最初にカウント値C1を0にリセットした後、制御はステップ140へ進み、ここで制御がこの経路を通って循環する度にカウント値C1は1ずつ増分され、これによって機関が始動され或いは再始動された時点からの経過時間が計測される。
【0028】
次のステップ150にては、機関始動時或いは再始動時の燃料増量を行うための燃料増量係数Kfsが計算される。この係数Kfsの値は、所定の初期値Kfso、或いは上記のステップ105にて入力されたパラメータ値Kaが0でないときにはKfsoよりKaを差し引いた初期値、或いは更に後述のステップ230にて計算される係数値Kfrが0でないときにはKfso−Kaより更にKfrを差し引いた値を初期値とし、これより時間の経過と共に所定の係数減分ΔKfs・C1ずつ次第に低減する値とされる。この燃料増分係数Kfsは機関始動時或いは再始動時に行う燃料増量の度合を示す係数であり、この係数に正規の燃料噴射量を乗じた値が増量される燃料量である。
【0029】
次いでステップ160にて、上記の空気量積算値Qaがこの経路を一巡する間に追加された空気量だけ増分される。ここでqは単位時間当りの空気流量であり、ΔTは制御が一巡する間に経過した微少時間である。次いで制御はステップ70に至り、フラグF5およびF7が0にリセットされる。
【0030】
図2は、かかるフローチャートを巡る上記の如き制御過程の対象となる内燃機関の運転状態、上記の如き制御過程により変化するカウント値C1、空気量積算値Qa、燃料増量係数Kfsおよび以下に説明する他の一つのカウント値C2と燃料液膜係数Kfrが変化する態様の一例を示すグラフである。上記の通り時刻t1にて機関の運転が開始されると、カウント値C1は0から時間の経過と共に増加し始める。また空気量積算値Qaも0より出発して機関を流れる空気量の積算量に応じて増大していく。燃料増量係数Kfsは時点t1に於ける初期値Kfso−Ka−Kfrより出発して時間の経過と共に漸減していく。尚、他の一つの時間カウント値C2は時点t1ではまだ始まっていない。また燃料液膜係数Kfrは、吸気ポート周辺に付着した燃料液膜の厚さを示す係数であり、機関始動時に燃料噴射が開始されると、一時急激に増大するが、その後機関の運転が継続するにつれてほぼ一定の値に落ち付き、機関が運転を停止されると、そのときの値から始まって時間の経過につれて次第に低下していく。
【0031】
図2の例に於ける如く、機関が時点t1にて始動或いは再始動されて時点t2まで運転され、ここで機関が一時停止されたとする。それまで制御はステップ10よりステップ20、30を経てステップ40に至り、これより上に説明したステップ50〜90を通り、これよりステップ110に進み、最初の一回だけステップ120に進んでカウント値C1を0にリセットした後はステップ110より直ちにステップ140へ進み、これよりステップ150、160、170を通って循環し、それに応じてカウント値C1、空気量積分値Qa、燃料増量係数Kfsは、時間の経過につれて図2に示されている如く演算される。
【0032】
時点t2にて機関が一時停止されると、ステップ20の答がノーとなるので、制御はこれよりステップ180へ進み、フラグF1が1であるか否かが判断される。車輌のキースイッチが入れられたまま機関が未だ一度も始動されていないときには、フラグF1は制御開始時に0にリセットされたままであるので、このときには制御はステップ180より直ちにステップ10へ戻り、読込みデータを更新しつつ機関の始動を待つ。しかし今、時点t2にてステップ180に至ったときには、フラグF1は1にセットされているので、制御はステップ190へ進み、ステップ200および210と共にカウント値C2を最初に0にリセットする制御が行われる。そしてその後、制御はこの経路を通って循環し、それにつれてステップ220にてカウント値C2を1ずつ増分し、この経路を通る制御の経過時間の計測が行われる。こうしてカウント値C2は図2に示されている如く時点t2より漸増していく。
【0033】
次いでステップ230にて、吸気ポート周辺に付着した燃料液膜の厚さを表す燃料液膜係数Kfrが、Kfroをその初期値とし、これより時間の経過と共に漸減する値としてKfr=Kfro−ΔKfr・C2として計算される。その状態が図2に示されている。
【0034】
次いでステップ240にて、制御がこの経路を通ったこと、即ち機関が停止状態にあることを示すよう、フラグF5が1にセットされる。その後ステップ20にてフラグF7が1であるか否かが判断される。制御がステップ180よりイエスへ進む経路を通って初めてここに至ったときにはF7は0にリセットされているので、制御はステップ260へ進み、燃料増量係数Kfsに対する減分量を示すΔKfs・C1が燃料増量係数Kfsの初期値Kfsoに達したか否かが判断される。答がノーのときには制御はステップ270へ進み、ΔKfs・C1がパラメータ値Rとして記録され、答がイエスのときには制御はステップ280へ進み、パラメータ値Rは0にリセットされる。このパラメータ値Rは、前述のステップ105にてパラメータ値Kaに変換され、ステップ150に於ける燃料増量係数Kfsの算出に用いられる。図2に示す例に於いては、時点t2にては燃料増量係数Kfsは既に0に達しており、即ちΔKfs・C1は初期値Kfsoを越えているので、ステップ260の答はイエスであり、パラメータ値Rは0にリセットされる。
【0035】
機関一時停止状態にて更に時間が経過し、時点t3にて機関が再始動されると、ステップ20に於ける答はノーよりイエスに転じる。これより制御は再度ステップ30を経てステップ40に至るが、このときフラグF5は1にセットされているので、制御はステップ50へ進み、ここでカウント値C1が所定のしきい値C10より大きいか否かが判断される。図2に示す例では、時点t3にてはカウント値C1はしきい値C10を越えているので、答はイエスとなる。次いでステップ60にて空気量積算値Qaが所定値Qaoより大きいか否かが判断される。図2の例では、Qaもまたしきい値Qaoを越えているので、答はイエスとなり、制御はステップ70へ進み、フラグF2およびパラメータ値Qaがいずれも0にリセットされる。従ってこのときには制御はステップ100より直ちにステップ110へ進み、ステップ105はバイパスされるので、パラメータ値Kaはステップ70にて0にリセットされたまま保持される。また図2の例では、時点t3に於いては、先にステップ230にて計算された燃料液膜係数Kfrも0となっているので、ステップ150に於ける燃料増量係数Kfsの計算は、規定の初期値Kfsoをそのまま初期値とし、これより時間の経過と共に漸減する値として計算される。
【0036】
こうして、図2に示す如く、機関が始動され、その始動初期に於ける燃料増量の影響が消滅するに至る期間に亙って機関が運転され(C1>C10、Qa>Qao)、また機関が停止されたときには、吸気ポート周辺の燃料液膜が消滅するに至る期間に亙って機関が停止される(Kfr=0)ときには、機関再始動時の燃料増量は正規の初期値Kfsoから時間の経過と共に漸減する正規の要領にて行われて、正規の始動時燃料増量によって機関の始動性を良好にし、また燃料可燃成分を大気へ放出することなく排気浄化触媒の機関始動時還元処理を適正に行なってエコラン車やハイブリッド車の機関間歇運転による運行を続けることができる。尚、図1および2について上に説明した実施例に於いては、機関始動時の燃料増量は、或る初期値より始まって時間の経過と共に漸減されているが、機関停止と機関始動との間に十分な時間を置いてその切換えが行なわれるときには、燃料増量の時間的変化は特に漸減的変化でなくてもよく、燃料増量は或る一定期間に亙って一定の追加率にて行なわれてもよい。
【0037】
図3は他の一つの車輌運転状態の例を示す図2と同様の図である。この例では、時点t1にて始動された機関は、極く短時間運転された後、時点t2にて一時停止され、その後時点t3にて再始動されており、t1〜t2間に於ける機関の運転時間が短く、またそれに続くt2〜t3間の機関一時停止期間もさほど大きくないことから、時点t1にてカウントを開始したカウント値C1は時点t3にてしきい値C10に達しておらず、また同じく時点t1にて積算を開始した空気量積算値Qaもしきい値Qaoに達していない。このように機関が始動後短時間の運転にて停止されると、吸気ポート周辺には厚い燃料液膜が残留した状態となり、その消滅にはそれだけ長い時間がかかるが、そのような状況にて、更に後の機関始動が早々に行なわれ、機関始動時燃料増量が通常通り行なわれると、機関始動時の燃料増量が多過となる虞れがある。
【0038】
しかし、このような場合には、時点t3にてステップ20の判断結果がノーよりイエスに転じ、制御がステップ30、40を経てステップ50に至ったとき、ステップ50の答がノーとなること、或いはステップ60の答がノーとなることのいずれによっても、制御はステップ80へ進み、フラグF2が1にセットされる。これによって制御はステップ100にてイエスの側へ進み、ステップ105にてパラメータ値KaにRが入力される。このRの値は、それに先立つ機関一時停止時の最後の瞬間にそのときのカウント値C1に基づいて計算されたΔKfs・C1の値である。この値がステップ150に於ける燃料増量係数Kfsの計算に於いて正規の初期値Kfsoより差し引かれるので、時点t3にて行われる機関の再始動に当っては、燃料増量係数Kfsは、図3に示す如く、時点t2にて機関が停止された時点に於ける燃料増量係数Kfsの値をそのまま引き継いだ値から出発して時間の経過と共に漸減する値とされる。
【0039】
尚、図1の実施例では、ステップ150に於けるKfsの計算では、上記のKaと共に更にステップ230にて計算された燃料液膜残留係数KfrがKfsoより差し引かれているが、図1のフローチャートは本発明により可能な幾つかの手段を総合的に組み込んだものであり、ステップ150に於けるKfsの計算についは、KaまたはKfrのいづれか一方を省略する実施例があってよいものである。
【0040】
このように機関が始動後短時間にて停止され、また時間的に近接して再始動されるとき、後の機関始動に於ける燃料増量が先の機関始動時に於ける燃料増量の影響を反映して低減されることにより、後の機関始動時の燃料増量を適正化することができる。
【0041】
図4は機関運転状態の更に他の一つの例を示す図2又は図3と同様の図である。この例は、機関が始動後、吸気ポート周辺に一時急激に厚くなるまで形成された燃料液膜が機関の運転により落ち付いた後に停止されたが、その後、極く短時間の停止期間をおいて再始動された場合である。この場合、時点t1にて始動された機関は時点t2まで運転されたところで一時停止され、程なく時点t3にて再始動されている。このような場合、時点t2にて機関が停止された際、吸気ポート周辺の燃料液膜は図3の場合よりも薄くなっているが、機関停止の時点t2よりあまり時間を置かずして時点t3にて機関が再始動されると、燃料液膜係数Kfrはまだかなり高い値に留まっており、このとき始動時燃料増量が普通に行なわれると、始動時燃料増量の多過を来す。
【0042】
これに対処して、図1の実施例に於いては、機関が停止されると、その時点よりカウント値C2がカウントされ、このカウント値の増大に応じて、ステップ230にて燃料液膜係数Kfrが、所定の初期値Kfroよりカウント数C2の値に応じてΔKfr・C2ずつ漸減する値として計算され、この係数の大きさに応じて次の機関始動時にステップ150にて計算される燃料増量係数Kfsを減量修正するようになっている。かかる構成により、ステップ230に於ける燃料液膜係数Kfrの計算値が0となる時間経過を待たずして機関の再始動が行われるときには、それに応じた機関始動時の燃料増量の低減補正が行われる。
【0043】
図5は本発明による機関運転方法の他の一つの実施例を示す図1と同様のフローチャートである。図5に示すフローチャートに於いて、図1に於けるフローチャートのステップに対応するステップは、図1に於けると同じステップ番号を付されており、図1に於けると同様の制御作用をなす。この実施例に於いては、ステップ235にてカウント値C2が所定のしきい値C20より大きいか否かが判断される。そして、それが値C20に満たないほど機関停止後機関再始動までの時間が短いときには、ステップ236にてフラグF8を0にリセットする代わりに、ステップ237にてフラグF8を1にセットすることが行なわれる。
【0044】
かかるフラグF8の値はステップ107にて判断され、それが0のときには制御は、ステップ120〜151を通り、燃料増量係数Kfsがカウント値C1およびパラメータ値Kaに応じて計算されるが、フラグF8が1のときには、制御はステップ115へ進み、ステップ120〜151をバイパスしつつ燃料増量係数Kfsを0とすること、即ち燃料増量を行わないこととする制御が行われる。
【0045】
かかる機関始動時燃料増量制御の修正により、機関始動後、時を経ずして機関の停止と再始動が行われたり、機関停止後、時を経ずして機関の再始動が行われたとき、通常の機関始動時燃料増量が行われることにより、排気浄化触媒の還元処理用燃料の供給多過によりCOやHCの如き燃料可燃成分が大気へ放出されることを回避しつつ、排気浄化触媒の還元処理に必要な機関始動時燃料増量を確実に行なうことができる。
【0046】
図1および5に示す実施例に於いては、フラグF2がステップ70に於いて0と判断されるか或いはステップ80に於いて1と判断されるかは、ステップ50に於いて機関始動後の経過時間が所定のしきい値以上であること、およびステップ60に於いて機関始動後に機関を通った空気量の積算値が所定のしきい値以上であること、のいずれもが満たされたか否かの判断となっているが、この点に関する制御判断にカウント値C1と機関を通る空気量の積算値Qaの両方を用いたのは、機関が始動後或る程度以上の実質運転を行ったか否かをより確実に判断するためである。従って、これら二つのパラメータに基づく判断は、上記の如き両者同時成立の判断とされる代わりに、いずれか少なくとも一方が成立するという判断とされてもよい。そのようにするためには図1或いは図5に於けるステップ50、60、70、80に関する制御の流れを、図6に示す如く修正すればよい。
【0047】
以上に於いては本発明を二つの実施例とその一部の修正例について詳細に説明したが、本発明がこれらの実施例にのみ限られるものではなく、本発明の範囲内にて他に種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による車輌用内燃機関運転方法の一つの実施例を示すフローチャート。
【図2】図1のフローチャートにより行われる機関運転制御の一例を示す線図。
【図3】他の一つの運転制御例を示す図2と同様の線図。
【図4】更に他の一つの運転制御例を示す図2または3と同様の線図。
【図5】本発明による車輌用内燃機関運転方法の他の一つの実施例を示すフローチャート。
【図6】図1および5に示すフローチャートの一部に関する修正例を示す部分ステップ図。

Claims (1)

  1. 車輌の運行中、内燃機関を一時停止させる車輌運転条件が成立している間、内燃機関を一時停止させる車輌用内燃機関の運転方法にして、機関始動時の燃料増量を機関始動時に於ける吸気ポート周辺への燃料付着量の推定に基づいて制御し、その際、燃料増量は機関始動開始時の初期値から時間の経過と共に低減される量とし、内燃機関の一回の始動から一時停止を挟んだ次回の始動までの経過時間が所定のしきい値以上でないとき、該次回の機関始動時に於ける燃料増量の初期値を該一回の始動による機関運転の終了時の燃料増量の値とすることを特徴とする車輌用内燃機関運転方法。
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