JP3658756B2 - 化合物半導体の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、化合物半導体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
GaN系化合物半導体層を用いた発光デバイスは、短波長の光を出射するものとして、近年注目を集めている。GaN系化合物半導体層、すなわち好適にはGaNエピタキシャル層を形成するための基板としては、これと格子定数の一致するGaN基板を用いることが好ましい。しかしながら、従来、GaN基板は、その製造が困難であると考えられていた。
【0003】
したがって、通常は、これに格子定数の近似し、化学的にも安定なサファイア基板が代用されている。サファイア基板上にGaNエピタキシャル層を成長させる方法としては、常圧MOCVD法が一般的に良く用いられる。
【0004】
この成長方法においては、水素ガスフロー中で、サファイア基板を1050℃程度に保持することによってサーマルクリーニングした後、450℃から600℃程度の温度で、GaNの低温バッファー層を基板上に成長させ、その後、1000℃以上の高温でGaNエピタキシャル層を成長させる。基板材料としては、SiCのような劈開性のある基板の利用も考えられるが、SiC基板は高価であるので、コスト高を招く。
【0005】
サファイア基板の利用には以下の問題がある。まず、サファイア基板はGaNと格子定数が近似するものの、一致してはいないため、格子不整合によって転位等の欠陥が導入される。この欠陥は半導体レーザの寿命及び電気特性を劣化させる。
【0006】
このような欠陥の影響を抑制するための研究も行われている。サファイア基板とGaNエピタキシャル層との間にバッファ層を介在させると、デバイスの電気特性が改善し、鏡面状の表面を有するGaNエピタキシャル層を成長させることができる。
【0007】
しかしながら、転位等の欠陥についてはバッファ層の介在によっても大きくは改善されない。現在市販中のデバイスにおいても、GaNエピタキシャル層中には、109/cm2程度の転位が存在する。したがって、デバイスの寿命は劣化したままである。
【0008】
最近、欠陥低減のための新たな手法が報告されている。この手法は、サファイア基板上にストライプ状のマスクを施し、その上にGaNエピタキシャル層を厚膜成長させるものである。マスクの存在によって、GaNエピタキシャル層は横方向に成長する(ラテラル成長)。同手法の報告によれば、GaNエピタキシャル層中の欠陥密度は大きく低減されるとされている。
【0009】
しかしながら、サファイア基板は、GaNエピタキシャル層と熱膨張が大きく異なるので、熱処理工程において基板にソリが発生する。また、サファイア基板は、非常に硬い材料であって劈開性がないため、そのダイシングにはコストがかかる。更に、サファイア基板は劈開面を形成することができないため、これを反射面とする半導体レーザの作製は困難である。
【0010】
そこで、原則的に最も好適であると考えられるGaN基板の利用が注目されている。GaN基板を用いれば、サファイア基板の形成時に用いた低温バッファ層を省略する事も可能となり、プロセス時間の短縮も期待できる。
【0011】
ところが、上述のように、その単結晶成長は、従来、困難であると考えられてきた。GaN単結晶基板の気相合成及び平衡状態における超高圧下の合成は可能であると言われてきたが、基板として使用できる程度の大きさのものを得ることはできなかった。
【0012】
そこで、本願発明者は、窓付のマスク層を通してGaNをラテラル成長させる方法を提案してきた(特願平9−298300号、特願平10−9008号)。具体的には、GaAs基板上に、ストライプや円形の形状をしたマスクを形成し、その上にGaNをラテラル成長させた後、GaAs基板を除去することにより、GaN基板を得る方法である。これらのGaN基板上に、更にGaNを成長させてインゴットを作製し、このインゴットからGaN基板を切り出すことにより、GaN基板を量産する方法についても既に提案した(特願平10−102546号)。これらの新しい製法により、GaN単結晶基板の商業ベースでの実現が、初めて達成されることとなった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、作製したGaN単結晶基板は表面研磨を行うことによって、基板表面に平坦性を付与する必要がある。基板表面に平坦性を付与するため、機械研磨を行うと、基板表面にダメージが導入され、研磨された表面上には多くの欠陥が存在することとなる。この表面上に、直接、高温でGaN層をエピタキシャル成長させた場合、上記欠陥を含む加工変質層がエピタキシャル層である窒化物系化合物半導体層に影響を与え、その表面状態等が劣化する。本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、GaN単結晶基板上に良好な窒化物系化合物半導体層を形成することが可能な化合物半導体の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、GaN単結晶基板上に形成された窒化物系化合物半導体層を備える化合物半導体の製造方法において、GaN単結晶基板をアンモニアガスを含む混合ガス雰囲気中で加熱した後、窒化物系化合物半導体層の原材料をGaN単結晶基板上に供給して窒化物系化合物半導体層を形成する工程を備え、混合ガスは、水素ガス及び窒素ガスの少なくともいずれか一方を更に含み、アンモニアの含有率は40%以上であることを特徴とする。本方法によれば、GaN基板上に良好な窒化物系化合物半導体層を形成することが可能となる。
【0015】
窒化物系化合物半導体層は、GaN、AlGaN又はInGaNであることが好ましい。
【0016】
また、加熱は900℃以上の基板温度で行われることが好ましい。加熱は15秒以上行われることが好ましい。この加熱は5分以上行われることがより好ましい。この加熱は15分以上行われることが更に好ましい。この加熱は1000℃以上の基板温度で行われることが更に好ましい。
【0017】
混合ガスは、水素ガス及び窒素ガスの少なくともいずれか一方を更に含むことが好ましい。この場合、アンモニアの含有率は5%以上であることが好ましく、40%以上であることが更に好ましい。
【0018】
加熱時において、混合ガスは流速1cm/秒以上でGaN単結晶基板の表面上を流れていることが好ましい。
【0019】
窒化物系化合物半導体層はMOCVD法又はHVPE法によって形成されることが好ましい。
【0020】
また、加熱前に、GaN単結晶基板の表面を研磨する工程を更に備えることが好ましい。研磨の前に前記GaN単結晶基板をGaNインゴットから切り出す工程と、GaNインゴットをGaN種結晶から生成する工程と、種結晶をGaN単結晶の表面を研磨して形成する工程と、GaN単結晶を製造する工程とを備え、GaN単結晶を製造する工程は、GaAs基板上に窓を有するマスク層を形成する工程と、マスク層上に気相成長法によってGaNをエピタキシャル成長させた後、GaAs基板を除去する工程とを備えることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態に係る化合物半導体の製造方法ついて添付の図面に基づき説明する。
【0022】
図1は実施の形態に係る化合物半導体の断面図である。この化合物半導体は、GaN単結晶基板1上に形成された窒化物系化合物半導体層2を備えている。この化合物半導体は、発光ダイオード又は半導体レーザ等の発光デバイスの製造中間体であり、この上に適当なpn接合、好ましくはヘテロ接合を形成し、それぞれに電流を供給するための電極を取り付けることにより、発光デバイスが完成する。
【0023】
窒化物系化合物半導体層2の構成材料としては、AlN、InN、AlxGa1-xN、InxGa1-xN、AlxIn1-xN、AlxInyGa1-x-yN(x+y<1、x>0、y>0)等があり得るが、GaN、AlGaN又はInGaNが好適なものとして列挙される。窒化物系化合物半導体層2の構成材料としては、GaNが最も好ましく、基板1に対してホモエピタキシャル成長となる。
【0024】
この化合物半導体は以下のようにして製造される。
【0025】
(A)まず、GaN単結晶基板1を製造し、製造されたGaN単結晶基板1を研磨材を用いて表面研磨し、純水等を用いて液体洗浄する(基板製造工程)。
【0026】
(B)次に、GaN単結晶基板1を所定の混合ガスG1の雰囲気内に配置し、基板温度T1で時間t1の間、加熱する(前処理工程)。
【0027】
(C)しかる後、基板温度T2の加熱状態で、窒化物系化合物半導体層2の原材料G2を当該表面に供給し、GaN単結晶基板1上に窒化物系化合物半導体層2をエピタキシャル成長させる(エピタキシャル成長工程)。
【0028】
以下、詳説する。
【0029】
(A)基板製造工程については、本願発明者は従来から提案しているが、ここでも簡単に説明する。
【0030】
GaN単結晶基板1は、これをGaNインゴットから切り出すことによって製造される。GaNインゴットは、GaNを種結晶とし、種結晶を加熱しながらGa及びNを含む原料ガスを種結晶に供給し、この上にエピタキシャル成長を行わせることによって製造される。この種結晶はGaN単結晶の表面を研磨して形成される。GaN単結晶は、GaAs基板上に窓を有するマスク層を形成する工程と、このマスク層上に気相成長法によってGaNをエピタキシャル成長させた後、GaAs基板を除去することによって製造される。なお、製造されたGaN単結晶基板1は、研磨材を用いて表面研磨され、純水等を用いて液体洗浄される。また、液体洗浄においては、適当な有機溶剤を用いてもよい。
【0031】
(B)前処理工程について詳説する。
【0032】
前処理工程に用いる混合ガスG1としては、(1)アンモニアガス(NH3)、窒素ガス(N2)、水素ガス(H2)、(2)アンモニアガス、窒素ガス、(3)アンモニアガス、水素ガスの3つの組み合わせが列挙される。窒素ガス及び水素ガスはキャリアガスである。ヘリウム(He)やアルゴン(Ar)などの不活性ガスをキャリアガスとして使用することもできる。
【0033】
基板温度T1は900℃以上が好ましい。基板温度T1が1000℃以上の場合は窒化物系化合物半導体層2の結晶状態に顕著な効果が認められる。これらの場合の、加熱時間t1は15秒以上であることが好ましい。また、上記結晶状態の観点から、加熱時間t1は5分以上であることがより好ましく、15分以上行われることが更に好ましい。但し、加熱時間t1が1時間以上の場合、表面形態の劣化が見られるので、必ずしも好ましくない。最も効果が認められるのは、アンモニアガスを40%以上含有した水素ガス中において、1000℃、5分間の加熱を行った場合である。
【0034】
前処理工程においては、混合ガスG1中のアンモニアの含有率(モル濃度、モル分圧)は、5%以上であることが好ましく、40%以上であることが更に好ましい。すなわち、混合ガスG1中のアンモニアガスの含有量が5%以上ある場合には、表面結晶性の改質効果が認められる。これは窒化反応を進行させるために、最低限必要なアンモニアガスの含有量である。アンモニアガスの含有量が40%以上ある場合には、更に顕著な効果を奏することができる。
【0035】
なお、温度T1における加熱時において、混合ガスG1は流速1cm/秒以上でGaN単結晶基板1の表面上を流れていることが好ましい。混合ガスG1は流速1cm/分以上でGaN単結晶基板1の表面上を流れていてもよい。
【0036】
(C)エピタキシャル成長工程について説明する。
【0037】
上記窒化物系化合物半導体層2のエピタキシャル成長においては、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、又はハイドライド気相エピタキシャル成長(HVPE)法を用いることが可能である。これらの方法においては、窒化物系化合物半導体層2の原材料を基板1の表面に供給する。
【0038】
窒化物系化合物半導体層2の材料としては、好適にはGaNが挙げられる。MOCVD法にてGaNを形成する場合においては、その原材料G2としては、混合ガスとしてTMG(トリメチルガリウム)及びアンモニアガスを用いる。この原材料G2は、キャリアガスとして水素ガス及び窒素ガスを含む。勿論、キャリアガスとして、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを用いてもよい。MOCVD法にてGaNを形成する場合においては、成長時の基板温度T2は1030℃程度(±20℃)に設定される。HVPE法にてGaNを形成する場合においては、金属Gaをつるぼ(ボード)内で加熱して蒸発又は昇華させながら、原料ガスとしてのアンモニアを前記Gaと共に基板表面に原材料G2として供給し、これらと共にキャリアガスとして水素ガス及び塩素ガスを基板表面に供給する。HVPE法を用いる場合には成長時の基板温度T2は1000℃程度(±20℃)に設定される。
【0039】
窒化物系化合物半導体層2の材料としては、InGaNであってもよい。MOCVD法にてInGaNを形成する場合においては、原材料G2としては、混合ガスとしてTMI(トリメチルインジウム)及びアンモニアガスを用いる。原材料G2は、キャリアガスとして水素ガス及び窒素ガスを含む。勿論、キャリアガスとしてヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを用いてもよい。InGaNをMOCVD法にて形成する場合においては、成長時の基板温度T2は800℃程度(±20℃)に設定される。
【0040】
なお、(B)前処理工程においては、当該基板表面にアンモニアを含む混合ガスG1を流し続けながら、基板温度を室温(25℃)からT1まで上昇させて、温度T1にて前処理を行い、この後、基板温度をT2に変更し、この温度T2で、(C)エピタキシャル成長工程を行うことが好ましい。
【0041】
GaN等の窒化物系化合物半導体層2を形成可能な他の方法としては、有機金属塩化物気相成長法及び分子線エピタキシー(MBE)法が列挙されるが、これらの方法においても、窒化物系化合物半導体層2の成長は窒化物系化合物半導体層2の原材料を基板1の表面に供給することによって行われる。
【0042】
上述の方法は、GaN単結晶基板1上に形成された窒化物系化合物半導体層2を備える化合物半導体の製造方法において、GaN単結晶基板1をアンモニアガスを含む混合ガスG1雰囲気中で加熱した後(B)(前処理工程)、窒化物系化合物半導体層2の原材料G2をGaN単結晶基板1上に供給して窒化物系化合物半導体層2を形成する(C)(エピタキシャル成長工程)ことを特徴とする。
【0043】
本方法によれば、GaN単結晶基板1上に良好な窒化物系化合物半導体層2を形成することが可能となる。また、逆に(B)前処理工程を行わないで、直接、基板表面上にエピタキシャル成長を行った場合には、良好な窒化物系化合物半導体層2を得ることができない。この理由は、以下のように考えられる。
【0044】
上記(A)基板製造工程において、完全な表面を有するGaN単結晶基板1を研磨工程によって創出することは大変難しい。なぜならば、研磨時に基板表面にダメージが導入されるからである。このダメージを含む加工変質層はデバイスの特性に悪影響を与える。勿論、より細かい研磨粒を使用して研磨するなどの工夫を行うことによって、導入されるダメージを最小限に抑えることも可能であるが、ダメージが導入されることにはかわりない。これらの加工変質層を除去するためには、化学研磨や、メカノケミカル研磨を用いるが必要であるが、加工変質層を完全に除去することは難しい。特に、研磨キズ部に入ったやや深い加工変質層は除去が難しい。
【0045】
この研磨表面の欠陥をなくすために、研磨時間を大きく取り、研磨傷の低減を図っても、研磨によるピットが深くなることがある。すなわち、加工変質層除去のために、長時間研磨した場合、研磨の時間経過と共に表面にピットが出現してくる。このピットの発生原因は、現在まだ明らかになっていないが、研磨条件もさることながら、基板単結晶の何らかの欠陥に起因している可能性もある。
【0046】
これらの欠陥を有するGaN単結晶基板1の表面上に、直接、すなわち、工程(B)を行わずに、高温でのエピタキシャル成長を行った場合、たとえ窒化物系化合物半導体層2がGaNであったとしても、この場合にはホモエピタキシャル成長であるにも拘わらず、これらの欠陥が増幅されることによって表面モフォロジーが悪化し、窒化物系化合物半導体層2の結晶品質が低下することが判明した。すなわち、基板表面上に、直接、エピタキシャル成長を行った場合、研磨傷に沿った凹凸部が出来る。研磨傷上へはGaNエピタキシャル層が成長しにくい。加工変質層の集合部では斑模様が見られる場合もある。この表面上にエピタキシャル成長をした場合、表面のピットは、依然としてピットのままである。また、貫通転位が基板表面に露出している場合、当該基板を用いて、その上にエピタキシャル成長をした場合、エピタキシャル成長層の結晶内にも連続して転位が続くものと考えられる。いずれにしても、GaN単結晶基板1の表面上に、直接、高温でのエピタキシャル成長を行った場合、形成されたデバイスの特性は劣化する。
【0047】
本願発明者らは、上述の前処理工程が窒化物系化合物半導体層2の成長に大きく影響することを発見した。すなわち、窒化物系化合物半導体層2の結晶状態は、GaN単結晶基板1表面の状態に影響され、GaN単結晶基板1表面の状態は、高温中で保持された場合、その雰囲気ガスに影響される。したがって、雰囲気ガスを調整することにより、良好な表面状態を得ることができれば、窒化物系化合物半導体層2の結晶状態を良好に保持することができるはずである。そこで、以下の実験を行った。
【0048】
(実験1)
まず、水素雰囲気中において、GaN単結晶基板1を1000℃に保持し、その表面状態を観察した。この場合、基板表面でGaNの還元反応が生じ、表面にGaのドロップレットが発生した。
【0049】
(実験2)
次に、アンモニアガス及び水素ガスのみを含む混合ガスG1雰囲気中で、GaN単結晶基板1を1000℃に保持し、その表面状態を観察した。この場合、表面に数nmから数十nm程度の起伏が発生し表面形態に若干の変動が生じたが、Gaのドロップレットは観察されなかった。この表面上に、窒化物系化合物半導体層2を形成した場合、上記実験1の場合よりも良好な結晶状態を得ることができた。
【0050】
実験2の前処理工程で観察された現象は、表面原子の再配列を示している。これは、GaNの水素による還元反応とアンモニアによる窒化反応とが同時に進行するために生じたものと考えられる。すなわち、エピタキシャル成長工程の直前に、アンモニアガス及び水素ガスを含む混合ガスG1中で、基板1を高温保持することにより(B)(前処理工程)、表面原子の再配列が生じ、GaN単結晶基板1表面の研磨時の加工変質層等の結晶欠陥が低減されているものと考えられる。したがって、実験2においては、この工程(B)の後に、エピタキシャル成長工程(C)を行うことにより、窒化物系化合物半導体層2の結晶性が大きく改善されたものと考えられる。
【0051】
なお、(B)前処理工程において、水素ガス以外のガスも使用可能であると考えられる。勿論、アンモニアガスの他に水素ガスを用いた場合、GaN表面の還元効果が大きいため、結晶性改善の効果が顕著であるが、アンモニアガスに加えて水素及び窒素の混合ガスを使用することもできる。更に、還元効果の殆どない窒素ガスを水素ガスの代わりに使用することも可能と考えられる。これは、同時に流すアンモニアガスの分解生成物である水素ガスが、還元効果を持つためである。また、同じ意味から、コスト高となるものの、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを使用することも可能である。
【0052】
以上、説明したように、上記方法によれば、GaN単結晶基板1上にエピタキシャル成長を行うに当たり、GaN単結晶基板1表面に、研磨加工に基づく研磨キズのような機械的、形状的な欠陥、及び加工変質層による結晶欠陥、結晶成長時の結晶欠陥に起因する表面結晶欠陥等が存在する場合においても、非常に結晶性、品質の優れた、GaNからなるホモエピタキシャル層2、又は窒化物III−V族からなるエピタキシャル層2を成長することが可能となる。これにより、従来サファイア基板上のGaN成長時になされているバッファー層の成長が不必要となるため、工程が簡略化され、エピタキシャル成長のコスト低減もされる。
【0053】
なお、前処理工程(B)後、エピタキシャル成長工程(C)までの間は、アンモニアガスを流し続けるか、窒素ガスのみを流すことにより、基板表面の還元反応を防止する必要がある。
【0054】
【実施例】
上記実施の形態に係る化合物半導体を製造した。以下の実施例においては、(A)基板製造工程は実施の形態に記載の通りのものであり、GaAs基板上に、窓を有したマスク層を形成し、当該マスク層の上に気相成長法によりGaNをエピタキシャル成長した後、GaAs基板を王水中でエッチング除去して得たGaN単結晶の表面をさらに研磨加工する事により得られるGaN単結晶基板を基板として使用する。GaN単結晶基板1は、直径1インチ、厚さ0.3mmである。この基板表面については、機械研磨、メカノケミカル研磨を施したが、ノマルスキー型顕微鏡で観察したところ、高倍率において基板表面に細かい研磨傷や欠陥が認められた。基板表面をCL(カソードルミネッセンス)により評価したところ、バンド端発光である360nmの発光波長で2次元マッピングすると、研磨傷の存在が黒い筋となって判別できた。以下の各実施例においては、(B)前処理工程及び(C)エピタキシャル成長工程のみが異なる。
【0055】
(実施例1)
上記実施の形態に係る化合物半導体をMOCVD法を用いて製造した。基板1の材料は単結晶GaN、窒化物化合物半導体2の材料は単結晶GaNである。
【0056】
図2は実験に用いるMOCVD装置を示す。この装置は、石英製のフローチャンネル10を有する横型MOCVD装置である。
【0057】
まず、(B)前処理工程を行った。GaN単結晶基板1をヒータ11が内蔵されたターンテーブル12上にセットした。ターンテーブル12を回転させながら、ヒータ11を加熱して基板温度を室温RT(25℃)から基板温度T1に昇温した。この時、チャネル10内には圧力P1で混合ガスG1を流した。実際の成長においては、室温RTからの実施温度T1までの昇温中においても混合ガスG1を流しており、昇温完了後、基板温度T1で一定時間t1保持した。
【0058】
この後、連続して(C)エピタキシャル工程を行った。この場合、ターンテーブル12を回転させながら、基板温度T2、圧力P2で混合ガスG2をチャネル10内に流した(成長時間t2)。これにより、厚さ2μmのn型GaNエピタキシャル層2を成長させた。実験においては、上記(B)前処理工程における混合ガスG1中のアンモニア(NH3)含有率(モル分圧)、キャリアガス比、保持時間t1を可変した。実験条件は以下の通りである。
【0059】
【表1】
Figure 0003658756
【0060】
(評価及び結果)
エピタキシャル層2成長後の表面形態を観察して評価した。この評価としては、サンプル表面を電子顕微鏡観察によって観察し、サンプル表面の粗れが殆ど観察できないものを良好状態(ランクA)、デバイスの基板として使用不可能な程度に表面の凹凸が著しいものを表面粗れ大の状態(ランクE)とし、これらの間の状態を3ランクに分けて相対評価し、表面粗れ中の状態を(ランクD)、表面粗れ小の状態を(ランクC)、表面の粗れが僅かに観察できる状態を良好状態(ランクB)として規定した。なお、各ランク間の中間に位置する状態は、良い状態の場合には(+)を、悪い状態の場合には(−)を付加することとした。各サンプルにおけるアンモニア含有率、キャリアガス比、1030℃(T1)における保持時間t1、評価結果は以下の通りである。
【0061】
【表2】
Figure 0003658756
【0062】
サンプルBとDの比較により、アンモニア含有率(モル分圧)は5%以上の場合、保持時間t1が0.25分以上の方が良い評価結果が得られることが分かる。サンプルE、Fの結果より、アンモニア含有率が高く、保持時間t1も長い方が、良い表面形態を生む傾向が分かる。アンモニア含有率は0.2以上、好ましくは0.5以上が望ましい。保持時間t1も5分以上、好ましくは15分以上が望ましい。しかしながら、保持時間t1が60分以上となると、若干表面形態が劣化する傾向が認められた。また、サンプルCの結果より、水素ガスを含んだ方が良い評価結果が得られることが分かる。
【0063】
サンプルD、E、F、Gについて、X線回折法による評価を行い、X線回折ピーク(GaN)の半値幅について調査した。GaN単結晶基板1の半値幅は3.0分であった。サンプルD、E、F、Gの半値幅は、いずれも2.9〜3.1分の範囲であった。したがって、窒化物系化合物半導体層2は、ほぼ基板の状態をそのまま反映したエピタキシャル結晶となっていることが判明した。
【0064】
(実施例2)
実施例2は実施例1と比較して、窒化物系化合物半導体層2の材料及び前処理の条件のみが異なり、窒化物系化合物半導体層2は同様にMOCVD法を用いて形成した。窒化物系化合物半導体層2の材料はInGaNとした。上記(B)前処理工程における保持温度T1及び保持時間t1を可変した。実験条件は以下の通りである。これにより、厚さ500nmのn型InGaN(In0.05Ga0.95N)エピタキシャル層2を成長させた。
【0065】
【表3】
Figure 0003658756
【0066】
(評価及び結果)
エピタキシャル層2成長後の表面形態を観察して評価した。評価結果は以下の通りである。
【0067】
【表4】
Figure 0003658756
【0068】
これらの結果より、800℃の保持温度T1は十分ではなく、900℃以上が好ましく、1000℃以上が更に好ましいことがわかった。これは、還元反応、窒化反応ともに、900℃以上から活発になり、表面原子の再配列も活発化するためであると考えられる。
【0069】
(実施例3)
本実施例においては、窒化物系化合物半導体層2をHVPE法を用いて製造した。基板1の材料は単結晶GaN、窒化物系化合物半導体層2の材料は単結晶GaNである。
【0070】
図3は実験に用いるHVPE装置を示す。この装置は、チャンバ20内に配置された金属原材料加熱用のボード(るつぼ)21と、チャンバ20の外周に設けられ、基板1を加熱するヒータ22と、基板1を配置する試料台23とから構成されている。
【0071】
まず、(B)前処理工程を行った。このHVPE装置の試料台23にGaN単結晶基板1をセットした。ヒータ22を加熱して基板温度を室温RT(25℃)から基板温度T1に昇温した。この時、チャンバ20内の圧力がP1となるように混合ガスG1を供給した。実際の成長においては、室温RTからの実施温度T1までの昇温中においても混合ガスG1を流しており、昇温完了後、温度T1で一定時間t1保持した。
【0072】
この後、連続して(C)エピタキシャル工程を行った。この場合、Ga金属を入れたボート21は常に850℃程度に保たれ、基板温度T2、圧力P2で混合ガスG2を供給した(成長時間t2)。これにより、厚さ1μmのn型GaNエピタキシャル層2を成長させた。上記(B)前処理工程における混合ガスG1中のアンモニア(NH3)含有率(モル分圧)、保持時間t1を可変した。実験条件は以下の通りである。
【0073】
【表5】
Figure 0003658756
【0074】
(評価及び結果)
エピタキシャル層2成長後の表面形態を観察して評価した。評価結果は以下の通りである。
【0075】
【表6】
Figure 0003658756
【0076】
1000℃の保持温度T1においては、アンモニア含有率が0.05を越えたところから表面形態の改善が見られ、0.4を越えると表面形態は更に改善された。保持時間t1は、条件によっては0.25分から効果が見られるが、長い方が効果は大きい事が分かる。本実験においては、アンモニアガスの含有率が0.5、基板温度T1が1000℃、保持時間が15分の場合、最も良好な表面が得られた。以上のようにHVPE法においても、MOCVD法の結果とほぼ同じ結果が得られた。
【0077】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、GaN単結晶基板上に良好な窒化物系化合物半導体層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】化合物半導体の断面図。
【図2】HVPE装置の構成図。
【図3】MOCVD装置の構成図。
【符号の説明】
1…GaN単結晶基板、2…窒化物系化合物半導体層。

Claims (9)

  1. GaN単結晶基板上に形成された窒化物系化合物半導体層を備える化合物半導体の製造方法において、
    前記GaN単結晶基板をアンモニアガスを含む混合ガス雰囲気中で加熱した後、前記窒化物系化合物半導体層の原材料を前記GaN単結晶基板上に供給して前記窒化物系化合物半導体層を形成する工程を備え、
    前記混合ガスは、水素ガス及び窒素ガスの少なくともいずれか一方を更に含み、
    前記アンモニアの含有率は40%以上であることを特徴とする化合物半導体の製造方法。
  2. 前記窒化物系化合物半導体層は、GaN、AlGaN又はInGaNであることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体の製造方法。
  3. 前記加熱は900℃以上の基板温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体の製造方法。
  4. 前記加熱は15秒以上行われることを特徴とする請求項3に記載の化合物半導体の製造方法。
  5. 前記加熱は5分以上行われることを特徴とする請求項3に記載の化合物半導体の製造方法。
  6. 前記加熱は15分以上行われることを特徴とする請求項3に記載の化合物半導体の製造方法。
  7. 前記加熱は1000℃以上の基板温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体の製造方法。
  8. 前記加熱時において、前記混合ガスは流速1cm/秒以上で前記GaN単結晶基板の表面上を流れていることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体の製造方法。
  9. 前記窒化物系化合物半導体層はMOCVD法又はHVPE法によって形成されることを特徴とする請求項1に記載の化合物半導体の製造方法。
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