JP3657413B2 - 人工歯及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工歯及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
永久歯が抜けたり、抜歯された後には、もはや新しい歯は生えてこない。
そこで現状では、顎骨にアルミナセラミックスやチタン等からなる歯根の代用物を埋め込み、該歯根代用物の上に目的とする歯の歯冠形状を型どった人工歯冠を結合・固定して歯の代用としている。
しかし、この方法では該歯根代用物が顎骨に直接結合・固定されているため、該人工歯にかかる繰り返し荷重(患者が繰り返しものを噛むことによって生じる)に耐えられずに該人工歯が抜けるという不具合があった。
【0003】
一方、永久歯の移植については、自己の永久歯を自己の他の部位に移し替える、すなわち自家移植において生着したという報告(動物実験及び臨床例)がある。
しかし、この方法では「智歯(親知らず)」を利用するにとどまる。
また、同種・異種移植については成功したとの報告がない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況を改善すべくなされたものであって、顎骨との直接結合を要しない人工歯及びその製造方法並びに同種・異種移植可能な人工歯及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、これまで同種・異種移植が成功していないのは、移植した永久歯に歯根膜、歯髄、神経、及び血管、就中歯根膜をうまく再生させることができなかったからであることを突き止め本発明を完成させるに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明は、歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去した同種又は異種の永久歯を利用した人工歯であって、歯根管内に抽出コラーゲンが充填された層を有すると共に該細胞成分を除去された歯根膜をその上に有する歯根の表面に抽出コラーゲンの膜を有することを特徴とする。
【0007】
ここで、『歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去』とは、人工歯の元となる同種又は異種の永久歯から抗原性を示す又は抗原性の強い該永久歯由来の細胞成分を完全に取り除くことを意味する。該細胞成分の抜けた歯根膜、すなわち該永久歯のセメント質に垂直にくい込むように存在している結合組織が残されている歯根膜は、被移植者自身の歯根膜が再生するまでの足場をその上に形成せしめられた抽出コラーゲンの膜(その形成過程において該細胞成分の抜けた歯根膜中にも浸入する)と共に提供するので歯根膜の再生に資するものとして残しておくことが肝要である。尚、該採取された永久歯には神経及び血管が付随している場合が多いが、その中の細胞成分は該歯根膜中の細胞成分の除去を行う際に付随的に除去される。細胞外成分を意識的に残した歯根膜とは異なり、この際に神経及び血管の細胞外成分は全て除去されてもよい。
【0008】
また、前記の同種又は異種の永久歯は、少なくとも歯根に相当する形状を有し、歯根管に相当する内腔をその中に有するハイドロキシアパタイトからなる成形体とその間隙に存在せしめられた抽出コラーゲンとからなる人工歯であって、該内腔に抽出コラーゲンが充填された層を有すると共に該歯根相当部分の表面に抽出コラーゲンの膜を有する人工歯であってもよい。被移植者自身の歯根膜再生に資する細胞成分の抜けた歯根膜を有さない点においてその再生の完璧さは相対的に低くなるが、その他の点、すなわち被移植者自身の歯根膜並びに神経及び血管の再生に必要な工夫を施しているから、顎骨との直接結合を要しない人工歯を提供するとの目的は十分に達成し得るからである。尚、ハイドロキシアパタイトは、現段階において所望の強度を有し、且つ、生体適合性に優れるものとして認識されている材料故選択されたものである。したがって、ハイドロキシアパタイト以上の強度を有し、且つ生体適合性を示すものであれば当然に使用し得る。
【0009】
尚、歯根管内又は該歯根管に相当する内腔に充填され、その結果形成される抽出コラーゲンの層は、移植された人工歯に対し被移植者自身の神経及び血管の再生のための足場を提供するものであり、また歯根又は歯根相当部分の表面に形成される抽出コラーゲンの膜は、移植された人工歯に対し被移植者自身の歯根膜再生のための足場を提供するものである。
したがって、該抽出コラーゲンが充填された層及び/又は該抽出コラーゲンの膜中に成長因子、例えば、b−FGF等を更に含有せしめてもよい。これらの再生速度が速められるからである。
【0010】
ここで、『抽出コラーゲン』とは、各種動物、例えばウシ、ブタ、ウサギ、ヒツジ、カンガルー、鳥等の皮膚、骨、軟骨、腱、臓器を原料とし、酸、アルカリ、酵素等を用いて可溶化されたI型コラーゲン、又はI型とIII 型の混合コラーゲンをいい、『それらの層又は膜』はコラーゲン分子が分散しているアモルファス構造のものをいう。抽出コラーゲンは、優れた生体親和性及び組織適合性を有し組織の再生を促進する、というコラーゲン本来の性質を保持しており、しかも可溶化操作にて抗原性基であるテロペプタイドが除去されているので、本発明の目的には好適な材料である。
【0011】
一方、前記の人工歯は、以下のようにして製造することができる。
同種又は異種の生体から採取した永久歯を人工歯の元として使用する場合であるが、先ず、界面活性剤(好ましくは非イオン性の界面活性剤、それも"Triton X-100"、"Lubrol PX" 、"Tween series"等に代表されるポリオキシエチレン誘導体)にて該永久歯を洗浄して該永久歯の歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去し(ここで、少なくとも歯根膜の細胞外成分は残存させる)、次いで該永久歯の歯根管内に抽出コラーゲンを充填すると共に該細胞成分を除去された歯根膜をその上に有する歯根の表面に抽出コラーゲンの膜を形成する。
【0012】
ここで、界面活性剤による該歯の洗浄は、具体的には、0.1〜3wt%の界面活性剤溶液に12〜72時間浸漬することによって行う。界面活性剤の濃度が0.1wt%未満であると前記の細胞成分の除去が不充分であるし、3wt%を越えると該界面活性剤が残存するからである。一方、浸漬時間が12時間未満では該細胞成分の除去が不充分であるし、72時間を越えると採取した永久歯由来の歯根膜の細胞外成分が破壊されるからである。尚、該歯の神経及び血管は極めて細い管である歯根管中に存在しているため、界面活性剤溶液のより早い且つ充分な浸透を図る意味で該永久歯の洗浄に先立ち、歯根管内を機械的に、例えば歯科用ブラシ等を使用して掃除しておいてもよい。更に、該神経及び血管の除去の完璧さを期す意味で、該洗浄の前及び/又は該掃除の後に超音波洗浄を行ってもよい。
【0013】
次に、抽出コラーゲンの充填層と膜の形成であるが、後者は、好ましくは0.1〜3wt%、特に1〜2wt%の抽出コラーゲンを含む約3N の塩酸溶液に前記の洗浄後の人工歯を浸漬し、これを風乾して、歯根(正確には細胞成分が除去された歯根膜)の表面に厚さが好ましくは10〜2000μm 、特に30〜100μm のコラーゲン膜を形成すればよく、一方、前者は、該コラーゲン塩酸溶液を、例えば真空にて吸引する方法(歯根管が2本ある歯)や歯冠の先端を切除して歯根管を開放孔とした後真空にて吸引する方法(歯根管が1本しかない歯)、更には注射器にて圧入する方法等を適用して歯根管内に導入し、該充填されたコラーゲン塩酸溶液を乾燥すればよい。
【0014】
また、前記の少なくとも歯根膜中の細胞成分を除去する方法としては、急速凍結法を適用して行ってもよい(界面活性剤による方法と同様、一般的にはこの操作にて採取された永久歯由来の神経及び血管の細胞成分も除去される)。
【0015】
ここで急速凍結法による採取した永久歯の凍結は、具体的には、−10〜−196℃の温度に急速に凍結し、この温度条件を1〜48時間維持することによって行う。−10℃未満の温度では細胞成分の破壊が不充分であるし、−196℃超では人工歯自体が破壊されてしまうからである。一方、維持時間については、1時間未満では細胞成分の破壊が不充分であるし、48時間超では人工歯自体が脆弱になってしまうからである。尚、この方法においても界面活性剤を用いる方法と同様に歯根管内の機械的な予備清掃を行っても良い。また、界面活性剤を用いる方法と同様の理由で急速凍結法適用の前後において超音波洗浄を行ってもよい。
【0016】
一方、歯根管に相当する内腔をその中に形成したハイドロキシアパタイトからなる成形体とその間隙に存在せしめられた抽出コラーゲンからなる人工歯を元として用いる場合には、歯根膜の細胞成分の除去、ひいては神経及び血管の除去が不要故、該内腔への抽出コラーゲンの充填と該歯の歯根に相当する部分の表面への抽出コラーゲン膜の形成のみを同種又は異種の永久歯を元にした人工歯のそれと同様に行えばよい。尚、元となるハイドロキシアパタイトからなる成形体とその間隙に存在せしめられた抽出コラーゲンからなる人工歯は、該ハイドロキシアパタイトをフィラー、該抽出コラーゲンをバインダーとして混練し(粘土状物ができる)、所望の歯根形状(歯冠に相当する部分は歯科治療において用いられている補綴物を利用すればよいので必ずしも移植前の歯の全体形状を有するものにする必要はない)に成形し(歯根管に相当する内腔は予め又は成形時にその中に形成)、次いで熱を加え該抽出コラーゲンに熱脱水架橋を施すことによって作製するか、又は歯根管に相当する内腔を有する所望の歯根形状のハイドロキシアパタイトの焼結体の歯根相当部分に該内腔に向けて微細な孔(その径は少なくとも90μm 、好ましくは300μm 程度。尚、該孔は好ましくは貫通孔)を多数形成し、次いで歯根相当部分の表面への該抽出コラーゲンの膜の形成する際に該抽出コラーゲンを該孔を介してしみ込ませることによって作成する。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例に基き本発明を詳細に説明する。
【0018】
実施例1
白色家兎の下顎切歯及びビーグル犬の下顎犬歯を歯根膜の損傷がないように抜歯し、それらをそれぞれ界面活性剤を用いた洗浄法に付した。該洗浄法の条件は下記の通りである(丸付き番号は、各操作の順番を示したもの)。
Figure 0003657413
【0019】
前記の操作後、染色(ヘマトキシリン・エオジン染色による)し、光学顕微鏡下に歯根膜中の細胞残存状態を観察した結果、該細胞成分は完全に除去されていることを確認した(神経及び血管の細胞成分も同様に完全に除去されていた)。
【0020】
前記の操作を施した別のサンプル(細胞残存状態の観察に供さなかったサンプル)を約3N の抽出コラーゲン塩酸溶液に60分浸漬すると共に注射器を用いてそれぞれの歯根管内に該抽出コラーゲン塩酸溶液を注入し、次いで140℃にて24時間熱脱水架橋を行い、同種生体由来の人工歯を得た。因に、歯根表面に形成された抽出コラーゲンの膜の厚みは、約100μm であった。
【0021】
得られた人工歯をそれぞれ別の同種生体(下顎切歯を抜歯した別の白色家兎及び下顎犬歯を抜歯したビーグル犬。尚、これらの供試体の抜歯においては歯根膜の残存がないように行った。)に埋植した。90日後、該移植された人工歯を顎骨と共に薄切して光学顕微鏡にて観察した結果、歯根膜はおろか、神経及び血管も再生していることが確認された。
【0022】
実施例2
界面活性剤を用いた洗浄法に代えて急速凍結法を適用したこと(操作▲2▼を急速凍結に変更。その条件は、−84℃での凍結を72時間継続した後、4℃で1時間解凍である。)及び操作▲4▼を行わなかったこと以外、実施例1と同様にして歯根膜中の細胞除去効果の確認試験及び被移植体の歯根膜の再生状況(神経及び血管のそれも観察)の観察試験を行った。
【0023】
結果は、両試験とも実施例1と同様であった。
【0024】
【発明の効果】
本発明の人工歯によれば、顎骨と人工歯との間に被移植体自身の歯根膜が再生されるので人工歯と顎骨との直接結合を要せず、しかもその移植供給源として同種・異種の永久歯はおろかヒドロキシアパタイトと抽出コラーゲンからなる人工物をも利用し得る。

Claims (6)

  1. 歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去した同種又は異種の永久歯の歯根管内に抽出コラーゲンが充填された層を有すると共に該細胞成分が除去された歯根膜をその上に有する歯根の表面に抽出コラーゲンの膜を有する人工歯。
  2. 前記の抽出コラーゲンが充填された層及び/又は抽出コラーゲンの膜中に成長因子を更に含む請求項1記載の人工歯。
  3. 同種又は異種の生体から採取した永久歯を界面活性剤にて洗浄して該永久歯の歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去し、次いで該永久歯の歯根管内に抽出コラーゲンを充填すると共に該細胞成分が除去された歯根膜をその上に有する歯根の表面に抽出コラーゲンの膜を形成する人工歯の製造方法。
  4. 前記の界面活性剤による採取した永久歯の洗浄が0.1〜3wt%の界面活性剤溶液に該採取した永久歯を12〜72時間浸漬することによって行われる請求項3記載の方法。
  5. 同種又は異種の生体から採取した永久歯を急速凍結して該永久歯の歯根膜並びに神経及び血管の細胞成分を除去し、次いで該永久歯の歯根管内に抽出コラーゲンを充填すると共に該細胞成分が除去された歯根膜をその上に有する歯根の表面に抽出コラーゲンの膜を形成する人工歯の製造方法。
  6. 前記の急速凍結法による採取した永久歯の凍結が該採取した永久歯を−10〜−196℃の温度に急速に凍結し、この温度条件を1〜48時間維持することによって行われる請求項5に記載の方法。
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