JP3654100B2 - 活性エネルギー線硬化型水性エマルジョン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により硬化可能な水性エマルジョンに関するものであり、本発明のエマルジョンは、塗料、コーティング剤及び印刷インキ等の被覆材、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料並びにレジスト等として有用で、さらにこれらの中でも被覆材として有用で、特にオーバープリントワニス(以下OPVという)として有用であり、これら技術分野において賞用され得るものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種産業等で使用する有機系の溶剤及び洗浄剤等が、大気中に放出されることにより、地球規模での大気汚染が進み、生物への影響が懸念されている。このため、塗料、インキ及び接着剤等の用途で使用する組成物を、従来使用されている溶剤型のものから、水性型のものへとする試みがなされている。
【0003】
又、上記用途において、そのベース重合体として使用される、活性エネルギー線で硬化可能な反応性重合体についても、水性化の検討がなされている。
例えば、界面活性剤の存在下、水中でカルボキシル基を有する重合体を製造し、得られた重合体にエポキシ基及び不飽和基を有する化合物を付加反応させ不飽和基含有重合体を製造する方法等が知られている(特開平6−211950号公報)。
【0004】
一方、OPVの用途における脱有機溶剤化方法としては、有機溶媒を含まない紫外線硬化型組成物を使用する方法が検討されている。このような、紫外線硬化型OPV組成物としては、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート及びウレタンアクリレート等のオリゴエステル(メタ)アクリレートと反応性希釈剤とからなるもの等が知られている。例えば、特開平3−292371号公報には、特定構造のアクリレートと特定軟化点の熱可塑性重合体とからなる組成物が開示されている。
これ以外の方法としては、重合体を水に懸濁又は乳化させた水性組成物等が知られている(特開昭51−17922号公報、同51−23531号公報、特開平6−211950号公報)。
【0005】
又、塗料の用途における脱有機溶剤化方法としては、前記と同様に、有機溶媒を含まない紫外線硬化型組成物を使用する方法が検討されている。紫外線硬化型塗料組成物としては、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等のオリゴエステル(メタ)アクリレートと反応性希釈剤とからなるもの等が知られている。例えば、特開平5−9247号公報には、特定構造のウレタンアクリレート及び不飽和ポリエステルとを含有する紫外線硬化性組成物が開示されている。
又、これ以外の方法としては、前記と同様に、重合体のエマルジョンからなる水性組成物の使用も検討されている(特開昭51−17922号公報、同51−23531号公報、特開平6−211950号公報)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記製造方法で得られる不飽和基含有重合体のエマルジョンを、各種用途で使用する場合は、紫外線照射により当該重合体を硬化させるために、ラジカル発生源としての光重合開始剤を配合する必要がある。
しかしながら、当該不飽和基含有重合体と光重合開始剤からなる水性エマルジョンは、硬化膜中に光重合開始剤の分解物が残存してしまうため、硬化膜の臭気や着色という問題を有するものであった。又、当該エマルジョンは、硬化膜の硬度が不十分である場合が多かった。
【0007】
一方、従来の無溶媒の紫外線硬化型OPV組成物は、基材である紙や印刷インキ等に対する硬化膜の密着性が不十分なものであった。このように密着性が低い原因は、熱乾燥や熱硬化により徐々にひずみを緩和しながら硬化して行く溶剤乾燥型の重合体を含む組成物や熱硬化型重合体を含む組成物と比較して、紫外線硬化型組成物では硬化時間が短いため、硬化時の体積収縮により生じる応力ひずみを硬化膜中に蓄積し易いことにある。紫外線硬化型組成物の密着力を改善するために、アクリルポリマー、ポリエステル及び石油樹脂等の非反応性樹脂を組成物中に混合溶解させ、硬化時の体積収縮率を低下させる方法も試みられているが、組成物の硬化性や硬化物の耐溶剤性等が低下してしまう問題を有するものであった。更に、このような無溶媒型の組成物は一般に粘度が高いため、組成物の製造時及びこの組成物の塗工時等における作業性が悪いものが多かった。
又、従来の水系OPV組成物は、乾燥塗膜が耐溶剤性、耐水性、表面光沢及び基材への密着性の点で不十分であり、特に耐水性が不足しやすいものであった。
【0008】
又、従来の無溶媒の紫外線硬化型塗料組成物においても、OPV組成物の場合と同様の理由で、組成物の硬化時間が短いため、その硬化膜が基材との密着性に不十分であるという問題を有するものであった。又、前記と同様に、このような無溶媒型の組成物は一般に粘度が高いため、組成物の製造時及びこの組成物の塗工時等における作業性が悪いものであった。
又、従来の水系塗料組成物の場合は、その乾燥塗膜が、硬度、耐溶剤性及び耐水性の点で不十分で、且つ表面光沢や基材への密着性も不十分であり、特に耐水性が不足し易いものであった。
【0009】
本発明者らは、活性エネルギー線による硬化性、特に紫外線による硬化性に優れ、その硬化膜が着色や臭気がない上、硬度、耐溶剤性及び耐水性に優れた水性エマルジョン、特にOPVの用途に適する水性エマルジョンを見出すために鋭意検討を行ったのである。
【0010】
【問題点を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々の検討を行った結果、特定構造のイミド(メタ)アクリレートを構成単量体単位とする重合体と(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物からなるエマルジョンが有効であることを見い出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
尚、本明細書においては、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。
【0011】
○(A)重合体
本発明の(A)成分の重合体は、(メタ)アクリロイル基と下記一般式(1)で表される環状イミド基を有する化合物(以下単にイミド化合物という)を構成単量体単位とするものである。
【0012】
【化3】
【0013】
〔但し、式(1)において、R1及びR2は、それぞれ独立した炭素数4以下のアルキル基、どちらか一方が水素原子で他方が炭素数4以下のアルキル基、又はそれぞれが一つとなって炭素環を形成する基である。〕
【0014】
イミド化合物は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。
R1及びR2としては、それ自身の重合性又はエチレン性不飽和基含有単量体との共重合性に優れている点で、それぞれ独立した炭素数4以下のアルキル基、又はそれぞれが一つとなって炭素環を形成する基が好ましい。さらにイミド化合物の製造が容易で、収率に優れ、又得られる共重合体が耐水性に優れたものとなる点で、それぞれが一つとなって炭素環を形成する基が好ましく、より好ましくは基−CH2CH2CH2−又は基−CH2CH2CH2CH2−が好ましく、特に好ましくは基−CH2CH2CH2CH2−である。
【0015】
本発明で使用する重合体は、上記式(1)で示したマレイミド基を有するため、活性エネルギー線により容易に硬化し、さらに紫外線により硬化させる場合でも、光重合開始剤を全く配合しないか又は少量の光重合開始剤の配合で、優れた硬化性を有し、その硬化物は優れた物性を有するものである。
【0016】
イミド化合物としては、下記一般式(2)で表されるイミド(メタ)アクリレートが好ましい。
【0017】
【化4】
【0018】
但し、式(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立した炭素数4以下のアルキル基、どちらか一方が水素原子で他方が炭素数4以下のアルキル基、又はそれぞれが一つとなって炭素環を形成する基である。又、R3は炭素数1〜6のアルキレン基で、R4は水素原子又はメチル基であり、nは1〜6の整数である。
【0019】
上記式(2)において、得られる共重合体が硬化性に優れることから、nとしては、1〜2が好ましく、より好ましくは1である。
R1及びR2としては、前記と同様のものが好ましい。
R3は炭素数1〜6のアルキレン基であり、好ましいものとしては、エチレン基及びプロピレン基等が挙げられる。
【0020】
イミド(メタ)アクリレートの好ましい例としては、下記式(3)及び式(4)で表される化合物等を挙げることができる。
【0021】
【化5】
【0022】
但し、式(3)において、R4及びR5は水素原子又はメチル基である。nは1〜6の整数である。
【0023】
【化6】
【0024】
但し、式(4)において、R4及びR5は水素原子又はメチル基であり、R6及びR7は炭素数4以下のアルキル基である。nは1〜6の整数である。
【0025】
イミド(メタ)アクリレートは、以下の文献及び特許に記載のある方法により、酸無水物、アミノアルコール及び(メタ)アクリル酸より製造することができる。
・加藤清ら、有機合成化学協会誌30(10),897,(1972)
・Javier de Abajo ら、Polymer,vol33(5),(1992)
・特開昭56−53119号公報、特開平1−242569号公報
製造原料として使用される酸無水物としては、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物及びその誘導体、ジアルキルマレイン酸無水物及びその誘導体が挙げられる。収率に優れる点から、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物及びその誘導体が好ましい。
製造原料として使用されるアミノアルコールとしては、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン等のアルカノールアミン類及び2,2’−アミノエトキシエタノール等が挙げられる。
【0026】
(A)成分としては、イミド(メタ)アクリレートの単独重合体であっても、イミド(メタ)アクリレートとこれと共重合可能なエチレン性不飽和基含有単量体(以下不飽和単量体という)との共重合体であっても良い。
【0027】
不飽和単量体としては、イミド(メタ)アクリレート以外のものであれば種々のものが使用でき、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリレートの具体的としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート及び2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びイソボロニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレート;2−メトキシエチル(メタ)アクリレート及び2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;並びにヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
得られるエマルジョンの安定性に優れることから、不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸が好ましい。
不飽和単量体を共重合する場合の好ましい共重合割合としては、全単量体中に0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0028】
(A)成分において、重合体の粒子径としては、重量平均粒径で0.01〜0.50μmが好ましく、0.05〜0.25μmがより好ましい。重量平均粒径が0.01μmに満たない場合は、高固形分のエマルジョンを製造できないことがあり、他方0.50μmを超える場合は、エマルジョンの安定性が低下することがある。
尚、本発明において、重量平均粒径とは、Σnd4/Σnd3(nは粒子個数、dは粒径を表す)で定義される。
【0029】
(A)成分は、種々の方法で製造可能であり、上記単量体を従来の乳化重合により製造したものであれば良い。
乳化重合の具体的な方法としては、使用する原料単量体を水性媒体中に乳化剤を使用して分散させ、重合開始剤の存在下に加熱攪拌する方法、及び使用する原料単量体を水性媒体中に乳化剤を使用して分散して水性乳濁液とし、当該水性乳濁液を水性媒体中に添加しつつ、重合開始剤の存在下に加熱攪拌する方法が挙げられる。又、必要に応じて、重合体の分子量を調節するために連鎖移動剤を使用することができる。
乳化重合で使用される乳化剤及び重合開始剤の種類及び割合、並びに適用される重合温度及び単量体の供給方法は、使用する単量体及び目的に応じて適宜選択すれば良い。重合温度としては、通常使用する重合開始剤に適した重合温度を採用する。
【0030】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、並びに過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド及びt-ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。これらは、重亜硫酸ナトリウム及びアスコルビン酸等の還元剤を併用し、レドックス系開始剤として使用しても良い。これらの中でも、水溶性の重合開始剤が好ましい。
【0031】
乳化剤としては、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム及びアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等の陰イオン性界面活性剤、並びにポリオキシエチレン高級アルコールエーテル及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。又、エマルジョンの安定性や、硬化塗膜の耐水性を向上させるために、ポリカルボン酸系及びポリスルホン酸系等の陰イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール等の非イオン性高分子界面活性剤、並びにアクリロイル基、アリル基及びプロペニル基等のラジカル重合性基を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。乳化剤は、2種以上を併用することもできる。
乳化剤の配合割合としては、使用する単量体100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましい。乳化剤の割合が0.05重量部に満たないと、得られるエマルジョンの安定性が低下することがあり、他方5重量部を超えると、耐水性が低下することがある。
乳化剤の添加方法としては、重合時又は重合後にその全量を添加する方法、一部を重合時に添加し、残りを重合後に添加する方法等がある。乳化剤として反応性界面活性剤を使用する場合は、重合時にその全量を添加することが好ましい。
【0032】
連鎖移動剤としては、ドデシルメルカプタン、キサントゲン酸ジスルフィド、ジアゾチオエーテル及び2−プロパノール等が挙げられる。
【0033】
○(B)二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
本発明のエマルジョンは、上記(A)の重合体と(B)二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物からなるものである。(B)成分を併用することにより、エマルジョンの硬化性及び得られる硬化物の硬度を優れたものとすることができる。
【0034】
(B)成分としては、アクリル系のモノマー及びオリゴマー等が挙げられる。アクリル系モノマーの例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びトリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の低分子量ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート又はそのアルキレンオキシド変成体;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのジ、トリ又はテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ又はヘキサアクリレート等のポリアルレキングリコールポリ(メタ)アクリレート;ポリアルレキングリコールポリ(メタ)アクリレートのアルキレンオキサイド変成体;並びにイソシアヌール酸アルキレンオキシド変成体のジ及びトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
アクリル系オリゴマーの例としては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート及びポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0036】
ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと有機ポリイソシアネート反応物に対して、さらにヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを反応させた反応物等が挙げられる。ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエチレングリコール及びポリエステルポリオール等があり、低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及び3−メチル−1,5−ペンタンジオール等が挙げられ、ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等が挙げられ、ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオール又は/及びポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0037】
ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。
【0038】
エポキシアクリレートは、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸を付加反応させたもので、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート、フェノール又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ(メタ)アクリレート及びポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、又はそのアルキレンオキシド変成体等が挙げられる。
【0040】
○その他の成分
本発明のエマルジョンには、硬化性と硬化物の密着性及び硬度を調整する目的で、さらにエチレン性不飽和基を1個有する化合物を配合することができる。
エチレン性不飽和基を1個有する化合物としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレート、又はそのハロゲン核置換体;エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びトリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のグリコールモノ(メタ)アクリレート;並びにN−ビニルピロリドン及びN−ビニルカプロラクタム等のN−ビニル化合物等が挙げられる。
【0041】
本発明のエマルジョンは、活性エネルギー線の照射により架橋硬化させるものであり、前記した通り使用する重合体がマレイミド基を有するため、活性エネルギー線により容易に硬化し、さらに紫外線により硬化させる場合でも、光重合開始剤を全く配合しないか又は少量の光重合開始剤の配合で、優れた硬化性を有するものである。
【0042】
光重合開始剤を配合する場合の種類としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びにキサントン類等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は単独で使用することも、安息香酸系、アミン系等の光重合開始促進剤と組み合わせて使用することもできる。
光重合開始剤は、エマルジョン中に0.1〜10重量%配合することが好ましい。
【0043】
又、エマルジョンには、必要に応じて硫酸バリウム、酸化珪素、タルク、クレー及び炭酸カルシウム等の充填剤、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン及びカーボンブラック等の着色用顔料、密着性付与剤及びレベリング剤等の各種添加剤、並びにハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジンン及びN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等の重合禁止剤を配合することもできる。これらを配合する場合の配合割合としては、重合体100重量部に対して、100重量部以下であることが好ましい。重合禁止剤を配合する場合の配合割合としては、エマルジョン中に10wtppm〜2重量%であることが好ましい。
【0044】
○製造方法
本発明のエマルジョンは、(A)成分の重合体と(B)成分の二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が水性媒体中に分散したものである。
本発明のエマルジョンにおける、(A)成分の割合としては、(A)及び(B)成分の合計量を基準にして、(A)成分が20〜99.9重量部であり、好ましくは20〜60重量部である。又、(B)成分の割合としては、(A)及び(B)成分の合計量を基準にして、80〜0.1重量部であり、好ましくは80〜40重量部である。(A)成分の割合が20重量部に満たない場合は、エマルジョンの安定性が低下してしまい、他方99.9重量部を超えると、硬化性及び硬化膜の硬度が低下してしまう。
【0045】
エマルジョン中における(A)及び(B)成分の割合としては、30〜70重量%が好ましく、より好ましくは40〜60重量%である。この割合が、30重量%に満たない場合は、膜厚の調整が困難になったり、基材に塗工後の乾燥に時間を要したり、乾燥が不十分になったりすることがあり、70重量%を超えるとエマルジョンが不安定になることがある。
【0046】
本発明のエマルジョンの製造方法としては、(A)成分と(B)成分を、水性媒体中で常法に従い混合すれば良く、好ましい製造方法としては、(A)成分の水性分散体中に、(B)成分を攪拌下添加混合する方法が、最終的に得られるエマルジョンの安定性に優れるため好ましい。
(A)成分として、(メタ)アクリル酸を構成単量体単位とする重合体を使用する場合には、エマルジョンのpHを調整することでエマルジョンがさらに安定になることから、アンモニア水等のアルカリ化合物を添加することが好ましい。
【0047】
本発明のエマルジョンに光重合開始剤を添加する場合の添加方法としては、光重合開始剤を、(A)成分又は(A)成分の水性分散体に添加しても、(B)成分に添加し溶解しても、エマルジョンに添加して良い。固体で特に水に対する溶解度の小さい光重合開始剤の場合、(B)成分に添加溶解することが、光重合開始剤の溶解性に優れるため好ましい。
【0048】
○用途及び使用方法
本発明のエマルジョンは、塗料、コーティング剤及び印刷インキ等の被覆材、不織布用等のバインダー、接着剤、充填剤、成形材料並びにレジスト等の種々の用途に使用でき、被覆材として好ましく使用でき、OPVにより好ましく使用できる。
【0049】
エマルジョンの硬化に使用する活性エネルギー線としては、紫外線、X線及び電子線等が挙げられ、安価な装置を使用できることから、紫外線を使用することが好ましい。紫外線により硬化させる場合の光源としては、様々なものを使用することができ、例えば高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、無電極放電ランプ及びカーボンアーク灯等が挙げられる。
【0050】
本発明のエマルジョンは、被覆材として好適に使用できる(以下被覆材組成物という)。この場合、必要に応じて、組成物に、アクリル樹脂、ケトン樹脂及び石油樹脂等の合成樹脂、無機又は有機の体質顔料、艶消し剤、サンディング助剤等の充填剤類、レベリング剤、顔料分散剤、光沢付与剤、スリップ剤、並びにチクソトロピック剤等の各種添加剤を配合しても良い。
【0051】
被覆材組成物が適用できる基材としては、自然の木材及び合成木材等の木材、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート及びポリ塩化ビニル等の成形樹脂加工品(プラスチック)、紙、金属、ガラス並びにコンクリート等が挙げられる。本発明のエマルジョンを塗料として使用する場合は、密着性に優れる。
被覆材組成物の使用方法としては、常法に従えば良く、例えば基材に対して組成物を塗装し、加熱乾燥した後、活性エネルギー線を照射する方法等が挙げられる。塗装する方法としては、ロールコーター、フローコーター、スプレー、ディッピング及び刷毛塗り等の従来公知の方法を使用すればよい。本発明の水性分散体からなる組成物は、低粘度であり、特にフローコーター、スプレー及びディッピング用の塗料組成物として好適である。基材に塗布した塗膜は、加熱により十分乾燥させることが、硬化塗膜の強度及び透明性に優れるため好ましい。活性エネルギー線の照射方法も常法に従えば良い。
【0052】
又、本発明のエマルジョンは、OPVとして好ましく使用できるものである(以下OPV用組成物という)。この場合の基材としては、セルロースを主成分とした普通紙、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート及びポリイミド等のフィルム及びシート、又はこれらで処理された紙等、並びにこれらの基材の表面が各種インキにより印刷されているもの等が挙げられる。
【0053】
OPV用組成物の使用方法としては、上記被覆材組成物と同様の方法で使用できる。OPV用組成物においては、基材への塗布方法として、直接塗装の他、印刷により塗布することができる。直接塗装の場合には、カーテンフローコート、ロールコート及びスプレーコート等が挙げられ、本発明のOPV用組成物は、低粘度の組成物であるため、スプレーコートによる塗装も可能となる。又、印刷の場合には、通常の印刷方法に従えばよく、オフセット方式、グラビアオフセット方式、グラビア方式及びフレキソ方式等が挙げられる。
【0054】
【作用】
本発明の水性エマルジョンは、活性エネルギー線の照射により、重合体中のマレイミド基同士が分子間で架橋反応を起こし、その結果に優れた硬化膜物性を発現するものである。マレイミド基を有する重合体が紫外線を照射することにより架橋反応を起こすことは、特開昭52−988号公報及び特開昭55−160010号公報等により知られているが、本発明ではさらに、(B)成分の二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を併用することにより、得られる硬化膜を硬度、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができる。
さらに、本発明のエマルジョンは、活性エネルギー線により容易に硬化し、さらに紫外線により硬化させる場合でも、光重合開始剤を全く配合しないか又は少量の光重合開始剤の配合で、優れた硬化性を有するものである。これは、マレイミド基が、紫外線照射により水素引き抜き反応を起こし、ラジカルを発生させることが「Sonny Jonssonら、ラドテック’95ヨーロッパ 予講集<アカデミックデイ>p.34」等により知られているが、本発明における重合体のマレイミド基も、光重合開始剤の配合がなくとも同様の機構でラジカルを発生し、マレイミド基同士の架橋反応と共に、(B)成分の(メタ)アクリロイル基が重合するため、光重合開始剤を全く配合しないか又は少量の光重合開始剤の配合で、優れた硬化性を有するのである。これにより、エマルジョン中の光重合開始剤の配合量を低減又は無くすことができるため、硬化膜の着色や臭気を低減することができる。
【0055】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。尚、以下において、「部」及び「%」は重量基準である。
又、使用した単量体及び光重合開始剤の略号の意味は、以下に示す通りである。
・MMA;メチルメタクリレート
・BA;ブチルアクリレート
・MAA;メタクリル酸
・TPGDA;トリプロピレングリコールジアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM220〕
・PETA;ペンタエリスリトールトリアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM305〕
・TMP(EO)TA;トリメチロールプロパンエチレンオキサイド3モル変成トリアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM350〕
・BDK;ベンジルジメチルケタール〔東亞合成(株)製アロニックスMC−101〕
【0056】
○製造例1〜同3
攪拌機、温度計、冷却器、窒素導入管及び2個の滴下ロートを備えた反応器内に、水57部及びラウリル硫酸ナトリウム0.7部を仕込んで85℃に昇温し、これに13%過硫酸アンモニウム水溶液2.4部及び11%炭酸ナトリウム水溶液3.3部を加えた。
表1に示す組成の単量体混合物100部に、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部及び水40部を加えて乳化させた。得られた水性乳濁液を、滴下ロートより3時間かけて連続的に反応器内に滴下し、85℃て乳化重合を行った。滴下終了からさらに1時間85℃で攪拌し、この後系を冷却して重合を終了させた。得られた共重合体の水性分散体に25%アンモニア水1.2部を添加して、水性分散体A−1〜A−3を得た。
得られた水性分散体の各種物性を表1に示す。尚、重量平均粒子径(以下単に粒子径という)は、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−910により測定した。又、粘度は、B型粘度計を用いて60rpmで測定した(単位はmPa・s/25℃)。
【0057】
【表1】
【0058】
1)下記式(5)で表されるイミドアクリレート
【0059】
【化7】
【0060】
2)下記式(6)で表されるイミドメタクリレート
【0061】
【化8】
【0062】
○比較製造例1
表2に示す単量体を使用すること以外は、製造例と同様にして共重合体の水性分散体を得た。得られた水性分散体の物性を製造例と同様にして測定した。それらの結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
○実施例1〜同4
表3に示す割合で、共重合体の水性分散体に二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を添加混合して、エマルジョンを得た。
得られたエマルジョンを、下記に従い評価した。それらの結果を表4に示す。
【0065】
●評価
得られたエマルジョンを、バーコーター#10を用いてボンデライト鋼板PB−144〔日本テストパネル(株)製〕上に塗布し、80℃の乾燥機中で5分間加熱して塗膜から水分を除去した。その後、以下の条件で、紫外線ランプの下に上記塗布物を4回繰り返し通過させた。
紫外線照射条件;
ランプ:120W/cm集光型高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:5m/min
得られた硬化膜について、下記(1)〜(4)の評価を行った。
【0066】
(1)耐溶剤性
アセトンを染み込ませた綿棒を使用して、荷重500g、毎秒1往復の条件で得られた硬化膜の表面をこすり、硬化膜表面に白化又は剥がれ等の異常が生じるまでの回数により、下記の3段階で評価した。
○:20往復後、硬化膜に異常なし
△:10往復以上20往復未満で硬化膜に異常発生
×:10往復未満で硬化膜に異常発生
【0067】
(2)耐水性
得られた硬化膜を、80℃の温水に1時間浸漬した後、60℃にて2時間乾燥し、その表面状態を目視により観察し、下記の3段階で評価した。
○:異常なし
△:若干の剥がれ及び/又は白化が生じた
×:明らかな剥がれ及び/又は白化が生じた
【0068】
(3)鉛筆硬度
得られた硬化膜について、JISの「手かき法K5400」に従い評価した。
【0069】
(4)臭気
硬化直後の硬化膜のにおいをかぎ、下記の3段階で評価した。
○:臭気はまったく無い、△:わずかににおう、×:臭気あり
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
○比較例1〜同3
表5に示す種類及び量の原料を使用する以外は実施例1と同様にしてエマルジョンを製造した。
得られたエマルジョンを実施例と同様にして評価を行った。それらの結果を表6に示す。
尚、比較例1では、紫外線照射は行わず、エマルジョンの乾燥後の塗膜について評価を行った。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
○実施例4、同5及び比較例4(OPV用組成物)
実施例1、同2及び比較例2のエマルジョンに100部に対し、フッ素系レベリング剤1部を添加してOPV用組成物を製造した。
得られたOPV用組成物を下記に従い評価を行った。それらの結果を表7及び同8に示す。
【0076】
●評価
ボンデライト鋼板に代え、基材としてコート紙を使用すること以外は、上記実施例1〜同3と同様の条件で硬化させた。得られた硬化膜について、下記(1)〜(3)の評価を行った。
【0077】
(1)密着性
得られた硬化膜にカッターナイフによりクロスカットを入れ、その表面に市販セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を圧着させてから剥離したときの硬化膜の状態につき、目視により下記の3段階で評価した。
○:剥がれなし
△:テープを貼った面のうち一部が剥がれる
×:テープを貼った全面が剥がれる
【0078】
(2)光沢
光沢計(日本電色工業株式会社製)を用いて60度グロスを測定した。
【0079】
(3)耐水性、耐溶剤性及び臭気
前記実施例1〜同3と同様の方法で評価した。
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
【0089】
【発明の効果】
本発明のエマルジョンは、硬化性に優れ、又得られる硬化膜は、耐水性、耐溶剤性に優れ、さらには着色及び臭気が無いため、塗料、コーティング材及び印刷インキ等の被覆材、不織布用等の接合剤、接着剤、充填剤、成形材料並びにレジスト等として、各種産業分野において有用で、被覆材として好適に使用でき、特にOPVとして有用なものであり、工業的価値がきわめて大きい。
Claims (3)
- (A)(メタ)アクリロイル基と下記一般式(1)で表される環状イミド基を有する化合物を構成単量体単位とする乳化重合により得られる重合体と(B)二個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が水性媒体中に分散したエマルジョンであって、(A)及び(B)成分の割合が、これらの合計量を基準にして、(A)成分20〜99.9重量部及び(B)成分80〜0.1重量部である活性エネルギー線硬化型水性エマルジョン。
- 請求項1又は請求項2記載の水性エマルジョンからなる活性エネルギー線硬化型オーバープリントワニス用組成物。
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