JP3651861B2 - 磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
強磁性微粉末と結合剤とを分散させてなる磁性層を非磁性支持体上に設けた磁気記録媒体において、極めて優れた電磁変換特性および耐久性をもつ磁気記録媒体に関し、とくに耐久性が大きく、ヘッド汚れが生じない磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体は、録音用テープ、ビデオテープあるいはフロッピーディスクなどとして広く用いられている。磁気記録媒体は、強磁性粉末が結合剤(バインダ)中に分散された磁性層を非磁性支持体上に積層している。
磁気記録媒体は、電磁変換特性、走行耐久性および走行性能などの諸特性において高いレベルにあることが必要とされる。すなわち、音楽録音再生用のオーディオテープにおいては、より高度の原音再生能力が要求されている。また、ビデオテープについては、原画再生能力が優れているなど電磁変換特性が優れていることが要求されている。
このような優れた電磁変換特性を有すると同時に、磁気記録媒体は良好な走行耐久性を持つことが要求されている。そして、良好な走行耐久性を得るために、一般には研磨材および潤滑剤が磁性層中に添加されている。
【0003】
磁気記録媒体の使用機器において媒体と磁気ヘッドが摺動接触するために、磁気記録媒体の結合剤中の低分子成分が磁性層表面付近に浮上して磁気ヘッドに付着する磁気ヘッド汚れが生じるという問題があった。
磁気ヘッド汚れは電磁変換特性の劣化の原因となっている。とくに、高密度記録用の機器では、磁気ヘッド回転数が上昇しており、デジタルビデオテープレコーダでは、磁気ヘッドの回転数が9600回転/分と、アナログビデオテープレコーダの民生用の1800回転/分、業務用の5000回転/分に比べて格段に高速回転数であり、磁気記録媒体と磁気ヘッドとの摺動する速度が大きくなり、磁気記録媒体に大きな耐久性が求められている。
【0004】
強磁性粉末や非磁性粉末等の粉体に結合剤が吸着するように、スルホン酸のような酸性基等の極性基を含有した結合剤が用いられるとともに、粉体の分散性を改良するために分散剤として働くフェニルホスホン酸のような酸性基を有する化合物が使用されている。
【0005】
例えば、特公平7−7500号公報には、エチレンオキサイド変性リン酸エステルと降伏点をもつポリウレタンを組み合わせることによって、リン酸エステルが強磁性粉末に吸着しエチレンオキサイド変性アルキル部分とCOOH、OH基等の極性基を有するバインダーの親和性がよく、分散性に効果があり、さらにポリウレタンが降伏点を持ち力学強度が高く耐久性に優れた磁気記録媒体が記載されているが、最近の記録密度の高い磁気記録媒体として使用するには分散性、耐久性ともに全く不十分なものである。
【0006】
また、特開平1−189025号公報、特開平3−185621号公報、特開平4−1917号公報、特開平4−263116号公報には、特定の有機リン化合物を磁性体に吸着させ表面を被覆するとともに、SO3M基 のような極性基を持つバインダーで分散することによって、分散性、耐久性を向上させることが記載されているが、バインダーの極性基の吸着力が有機リン化合物より弱いため、結合剤が吸着しにくく非吸着バインダーが磁性層表面に移動するので耐久性が不十分であり、最近の高密度記録用の磁気記録媒体には分散性、耐久性ともに問題があった。
【0007】
また、特開平4−372717号公報には、酸性基と塩基性基の両方を持つ分散剤で強磁性粉末を被覆し極性基含有バインダーで分散し、強磁性粉末の表面に酸性基が吸着し、塩基性基が外側に出て酸性基をもつバインダーと相互作用するか、あるいはNCO硬化剤と反応して結合し、耐久性を向上するというものである。ところが、分散剤の極性基が酸性基と塩基性の二つあるため塗布液中の分散剤同士の相互作用や、分散剤とバインダーの相互作用が強く、強磁性粉末、分散剤、結合剤等を分散して作製した塗布液の粘度が高くなる傾向があり塗布面の表面性を高度に平滑にするのが難しかった。
【0008】
また、特開平1−173417号公報、特開平3−80425号公報、特開平3−100918号公報、特開昭61−172213号公報には、アミノ基含有結合剤が記載されており、分散剤としては一般的、羅列的な記載があり、レシチン、リン酸エステルが例示されている。とくに、特開昭61−172213号公報ににはリン化合物であるレシチンとアミン変性塩化ビニル結合剤を併用することが記載されているが、レシチンは結合剤を可塑化し塗膜強度を低下させるという問題があり、近年の高密度記録用の磁気記録媒体には耐久性がきわめて不十分である。こうした問題点は、先に示した特公平7−7500号公報においても指摘されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本願の発明は、優れた分散性、平滑性、電磁変換特性を有する磁気記録媒体を提供することを課題とするものであり、走行耐久性に優れ、デジタルビデオテープレコーダ用の高記録密度の磁気記録媒体媒体の繰り返し走行での磁性層表面の削れや、ヘッド汚れが少なく、高温高湿下での保存性に優れた磁気記録媒体を提供することを課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、非磁性支持体上に強磁性粉末と結合剤を分散した磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層が下記の式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の有機リン化合物とアミノ基及び又は4級アンモニウム塩基含有結合剤を含む磁気記録媒体である。
【0011】
【化3】
【0012】
ただし、R:置換または未置換のアルキル基、アルケニル基、またはアリール基
、 M:水素原子またはアルカリ金属、またはアンモニウム
n=1または2
また、非磁性支持体上に非磁性粉体又は強磁性粉末と結合剤を分散した下層を設け、その上に強磁性粉末と結合剤を分散した少なくとも一層以上の磁性層を設けた磁気記録媒体において、前記磁性層または下層の少なくとも一層以上に前記の式(1)〜(3)から選ばれる有機リン化合物とアミノ基及び又は4級アンモニウム塩基含有結合剤を含む磁気記録媒体である。
【0013】
【発明の実施の形態】
すなわち、従来の磁気記録媒体では、強磁性粉末、非磁性粉末等の粉体に結合剤が吸着するようにスルホン酸基のような極性基を含有した結合剤を用いるとともに、粉体の分散性を改善するために、分散剤として働くフェニルホスホン酸等が用いられているが、結合剤の極性基と分散剤の酸性基が粉体に対して競争吸着が起こり、フェニルホスホン酸の方が酸性が強いために、結合剤が粉体と吸着しなくなり、磁性層表面に滲み出て、ヘッド汚れ等の悪影響を及ぼすマイグレーションと称される現象が生じることが知られていた。
【0014】
このような現象が、結合剤に酸性基ではなく塩基性基であるアミノ基含有バインダーを用いるとともに、フェニルホスホン酸等を分散剤とすることによって、フェニルホスホン酸は、粉体の塩基性点に吸着し、アミノ基含有バインダーは粉体の酸性点に吸着するため、両極性基は、何ら競争吸着することなく、粉体に吸着しマイグレーションを防止できることを見いだしたものである。本発明では、結合剤に塩基性の結合剤を用いるとともに、分散剤に酸性基を用いる場合について説明するが、この組み合わせとは逆に結合剤に酸性の極性基を用いるとともに、分散剤に塩基性基を有するものを用いても良い。
本発明において分散剤として用いることができる有機リン化合物は、
【0015】
【化4】
【0016】
ただし、R:置換または未置換のアルキル基、アルケニル基またはアリール基、
M:水素原子またはアルカリ金属、またはアンモニウム
n=1または2
で表される有機リン化合物である。
【0017】
また、これらの式(1)〜(3)において、Rの具体例としては、直鎖または分枝を有するアルキル基であっては、炭素原子数が1〜22個の範囲のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基およびオクタデシル基を挙げることができる。
直鎖または分枝を有するアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、アリル基およびオレイル基を挙げることができる。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ジフェニル基、ジフェニルメチル基、P−エチルフェニル基、トリル基およびキシリル基等を挙げることができる。
また、炭化水素基以外の置換基を有するアルキル基、アルケニル基およびアリール基の例としては、2−アミノエチル基、2−ブトキシエチル基およびp−フェニル基等を挙げることができる。
さらに、前記のアリール基は、インデンあるいはテトラリンのようなベンゼン環以外の環を含むものであっても良い。
前記の、式(1)〜(3)で表される有機リン化合物は、具体的には下記のものを挙げることができる。
【0018】
【化5】
【0019】
等のリン酸のモノおよびジエステル、そしてこれらの塩、
【0020】
【化6】
【0021】
等の亜リン酸のモノおよびジエステル、そしてこれらの塩、
【0022】
【化7】
【0023】
等のホスホン酸およびこれらの塩
【0024】
【化8】
【0025】
等のホスフィン酸およびこれらの塩を挙げることができる。
以上の具体例の中で、アリール基を有する有機リン化合物が好ましく、特に好ましくはフェニル基を有する有機リン化合物である。
【0026】
このような有機リン化合物は、金属表面に上記の極性基で吸着もしくは結合する性質を有しており、磁性層において上記有機リン化合物は主に強磁性粉末の表面に前記の極性基で吸着もしくは結合した状態で存在してくるものと推察される。この金属表面への吸着力は、カルボン酸やスルホン酸等の有機金属化合物に比較して、本発明に用いられる有機リン化合物は吸着力が強いため一度吸着した有機リン化合物は金属表面から脱着しがたい。したがって、本発明の強磁性粉末表面は、有機リン化合物が強く吸着するとともに、芳香族環等で被覆されたような状態になるので、強磁性粉末の樹脂成分に対する親和性が向上し、さらに強磁性粉末の分散安定性も改善されるものと推察される。
【0027】
また、強磁性粉末と結合剤が有機リン化合物の作用により強い相互作用を生じるようになるため、磁性層が形成されたときに強磁性粉末の表面からの脱着が起こらなくなり、走行性および走行耐久性が著しく向上すると考えられる。さらに、本発明に用いられる有機リン化合物は、スルホン酸等の他の有機化合物に比較して吸水性が低いため、耐水性および耐久性も良好である。
【0028】
本発明の磁性層には、前記の有機リン化合物が、強磁性粉末100重量部に対して0.03〜10重量部の範囲内の含有量で含まれている。とくにその含有量を0.04〜7重量部の範囲内に設定することにより磁性層表面の光沢度が高くなる等の現象が表れ、強磁性粉末の分散状態が良好であることがわかる。さらにその含有量を0.05〜5重量部の範囲内に設定することによって電磁変換特性が著しく改善される。含有量が0.03重量部よりも少ないと、配合の効果が有効に現れないことがあり、また10重量部よりも多く配合しても強磁性粉末の分散状態がそれ以上向上しないことがある。
【0029】
前記の有機リン化合物を磁性層に含有させて強磁性粉末の分散性を向上させる方法としては、この有機リン化合物を低沸点の有機溶媒中に溶解もしくは分散状態にし、その溶液中に強磁性粉末を投入して混合した後、有機溶剤を除去することによって有機リン化合物で前処理した強磁性粉末を調整した後に、前処理した強磁性粉末を用いて磁気記録媒体を製造する方法、および磁性層用塗布液を調整する際に、前記の有機リン化合物を直接にあるいは、好ましくは磁性層用塗布液用の溶剤の一部に溶解もしくは分散した状態で投入して混練分散を行う方法などを利用することができる。
【0030】
本発明に用いるアミノ基、4級アンモニウム基含有結合剤は、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂が最も好ましく、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、フェノキシ樹脂などの有機溶剤に対する溶解性が高く、弾性率、破断伸びが大きく力学強度の大きなものが好ましい。
アミノ基含有ポリウレタンまたはアミノ基含有塩化ビニルは、下記のアミノ基あるいは第4級アンモニウム塩基を含むものをいう。
【0031】
【化9】
【0032】
(ただし、R1、R2およびR3はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数2〜5個のアルキル基、フェニル基、炭素原子数1〜5個のアルキル基で置換されたフェニル基、炭素原子数1〜5個のヒドロキシアルキル基)
また、アミノ基をその主鎖中に主鎖を構成する単位として有してもよく、また、側鎖中に有していても良い。
側鎖中にアミノ基を有する場合は、アミノ基が側鎖として主鎖中の炭素原子に直接結合していてもよく、また、アミノ基が側鎖としてその主鎖中の炭素原子に、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、アラルキル基またはアルキルアリール基、酸素原子、カルボニル基、カルボニルオキシ基、ならびに、酸素原子、カルボニル基、およびカルボニルオキシ基が鎖中に介在する炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数6〜20のアリール基、アラルキル基またはアルキルアリール基からなる群から選ばれた基を介して結合していても良い。
【0033】
本発明のアミノ基含有ポリウレタン樹脂およびアミノ基含有塩化ビニル樹脂の代わりにアミノ基を含有していないポリウレタン樹脂および塩化ビニル樹脂とアミン化合物とを反応させることなく磁性層形成用組成物中に単に添加分散させて磁性層を形成させた場合には強磁性粉体および非磁性粉体の分散性および表面の平滑性についての若干の改良は認められるもののその分散性は経時的に低下し、本発明の課題を達し得ない。
【0034】
本発明のアミノ基含有ポリウレタン樹脂は、上記のアミノ基を有するポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのアミノ基含有ポリオールと、アミノ基を有しないポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリオールとジイソシアネートとから、それ自体公知の方法によって製造することができる。例えば、「ポリウレタン樹脂」(日刊工業新聞社刊)に記載の方法において、2価アルコールあるいは2塩基酸の一部をアミノ基含有ジオールあるいはアミノ基含有2塩基酸に変えて製造できる。
アミノ基含有ポリオールは、以下に記載するポリオールの主鎖または側鎖に上記一般式で表されるアミノ基を有するものである。
ポリエステルポリオールは、例えば、2価のアルコールと2塩基酸との重縮合、ラクトン類、例えば、カプロラクトンの開環重合などによって合成することができる。代表的な2価のアルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等のグリコール類を例示することができる。また、代表的な2塩基酸としてはアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸等を例示することができる。
また、ポリカーボネートポリオールは、例えば、下記一般式を有する多価アルコールと、
HO−R−OH
【0035】
【化10】
【0036】
ホスゲン、クロルギ酸エステル、ジアルキルカーボネートまたはジアリルカーボネートとの縮合、またはエステル交換により合成される分子量300〜20000、水酸基価200〜300のポリカーボネートポリオールあるいは該ポリカーボネートポリオールと下記一般式を有する2価カルボン酸
HOOC−R−COOH
(ここで、Rは炭素原子数3〜6個のアルキレン基、1,4−、1,3−もしくは1,2−フェニレン基または1,4−、1,3−もしくは1,2−シクロヘキシレン基を表す。)
との縮合により得られる分子量400〜30000、水酸基価5〜300のポリカーボネートポリエステルポリオールである。
ポリオールにその他のポリオール、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルエーテルポリオールやポリエステルを上記ポリオールの90重量%まで配合して併用しても良い。
【0037】
上記ポリオールと反応させてポリウレタンを形成するために用いられるポリイソシアネートとしては、特に制限はなく通常に使用されているものを用いることができる。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3−ジメチルフェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。
また、鎖延長剤としては、前記の多価アルコール、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン等を使用できる。
アミノ基あるいは4級アンモニウム塩基の好ましい量は1×10-3〜5×10-6eq/gであり、更に好ましくは1×10-4〜1×10-6eq/gである。1×10-3eq/g未満ではアミノ基含有ポリウレタンの添加の効果が得られず、5×10-6eq/gを超えると塗料粘度が高くなって作業性が著しく悪くなり取扱が困難となる。
【0038】
また、アミノ基含有ポリウレタン樹脂の平均分子量は、5000〜100,000が好ましい。更に好ましくは10000〜50,000であり、5000未満では得られる磁性塗膜が脆くなり、得られる磁性塗膜が脆くなるなど物理的強度が低下し、磁気テープ等の耐久性にも影響を与える。
100,000を超えると溶剤への溶解性が低下し、分散性が低下する。また、所定濃度における塗料粘度が高くなって作業性が著しく悪くなり取扱が困難となる。
また、OH基として分岐OH基を有することが硬化性、耐久性の面から好ましく、1分子当たり2個〜40個が好ましく、さらに好ましくは1分子当たり3個〜20個である。
【0039】
本発明のアミノ基含有ポリウレタン樹脂と併用するアミノ基含有塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂にアミン化合物を反応させることによって行うことができる。この方法では、塩化ビニル/ビニルエステル樹脂のケン化反応と同時にアミン化合物の一部が塩化ビニル成分の塩素原子と反応して側鎖に導入されて生成すると考えられる。この量は塩化ビニル1分子にアミン化合物1分子が付加するものと仮定してケルダール法による窒素原子分析値から算出したものである。
【0040】
ケン化時に用いられるアミン化合物としては脂肪族アミン、脂環族アミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン等の1級、2級、3級アミン等がある。具体的にはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン、エタノールアミン、ナフチルアミン、アニリン、o−トルイジン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジオクチルアミン、ジイソブチルアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、2−メトキシエチルアミン、ジ−2−メトキシメチルアミン、N−メチルアニリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソブチルアミン、トリデシルアミン、N−メチルブチルアミン、N−メチルフェニルアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノールアミン、ジメチルプロピルアミン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、キノリン、モルホリン、ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン等がある。
これらの製造方法は、例えば、「高分子合成実験法」(大津隆行著、化学同人社1972年発行)等に記載されているように公知であり、本発明においても利用することができる。
【0041】
また、アミノ基含有塩化ビニル系樹脂は、アミノ基含有ビニルモノマーを塩化ビニルモノマー、その他の共重合性モノマーとともに共重合することによっても得られる。
アミノ基含有ビニルモノマーとしては、上記一般式で表される1級、2級、3級の脂肪族アミノ基、脂環族アミノ基、アルカノールアミノ基、あるいは4級アンモニウム塩基を有するアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルあるいはアリルエーテル等のモノマーを用いることができる。
共重合に使用されるアミン化合物としては、アミノ基含有ポリウレタン樹脂の製造に用いるものと同様のアミン化合物を用いることができる。
【0042】
他の共重合性モノマーとしては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
また、得られた塩化ビニル共重合体をケン化して酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等をビニルアルコール成分にすることができる。
【0043】
アミノ基含有ビニル単位は、0.05〜5重量%であることが好ましく、0.05重量%未満では非磁性粉体あるいは磁性粉体の分散性を改良する効果がない。一方、5重量%を超えると塗料粘度が高くなり、またイソシアネート化合物を添加したときのポットライフが短くなる。
塩化ビニル単位は、57〜98重量%であることが好ましく、57重量%未満では得られる樹脂の塗膜の強度を低下させ、98重量%を超えると樹脂のケトン類、エステル類等の有機溶剤への溶解性を妨げる。
ビニルアルコール単位は、2〜16重量%であることが好ましく、2重量%未満では塗料を調整する際のケトン類、エステル類等の有機溶剤への可溶性、非磁性粉体、磁性粉体の分散性、本樹脂と併用されるイソシアネート化合物との反応性、他の樹脂との相溶性に対する効果が得られない。16重量%を超えると塗料の粘度が高くなりすぎ、またイソシアネート化合物を添加したときのポットライフが短くなる。
他の共重合性モノマーは、0〜26重量%を含有することができる。この範囲を超えると樹脂全体の力学物性・分散性などが低下する。
また、平均重合度は、200〜800が好ましい。更に好ましくは250〜700である。200未満では得られる磁性塗膜が脆くなるなど機械的強度が低下し、磁気テープ等の耐久性にも影響を与える。800を超えると所定濃度における塗料粘度が高くなって作業性が著しく悪くなり取扱が困難となる。
【0044】
さらに、本発明における結合剤として、上記アミノ基含有ポリウレタン系樹脂およびアミノ基含有塩化ビニル系樹脂とともに、これらの合計量の等量以下の量で、その他の結合剤を併用しても良い。併用できるその他の樹脂としては特に制限はなく、従来、磁気記録媒体用の結合剤として使用されている公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂およびこれらの混合物を使用することができる。
【0045】
具体的には、熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1000〜200000、好ましくは10000〜100000、重合度が50〜1000程度のものである。
【0046】
このようなものとしては、アクリル酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルエーテル等を構成単位として含む重合体、共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。 また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としては、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネートプレポリマーの混合物等が挙げられる。
【0047】
本発明の磁気記録媒体に使用される強磁性粉末は、強磁性酸化鉄、コバルト含有強磁性酸化鉄又は強磁性合金粉末でSBET 比表面積が40〜80m2/g 、好ましくは50〜70m2/g である。結晶子サイズは12〜25nm、好ましくは13〜22nmであり、特に好ましくは14〜20nmである。長軸長は0.05〜0.25μmであり、好ましくは0.07〜0.2μmであり、特に好ましくは0.08〜0.15μmである。強磁性金属粉末としてはFe、Ni、Fe−Co、Fe−Ni、Co−Ni、Co−Ni−Fe等が挙げられ、金属成分の20重量%以下の範囲内で、アルミニウム、ケイ素、硫黄、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、銅、亜鉛、イットリウム、モリブデン、ロジウム、パラジウム、金、錫、アンチモン、ホウ素、バリウム、タンタル、タングステン、レニウム、銀、鉛、リン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、テルル、ビスマスを含む合金を挙げることができる。また、強磁性金属粉末が少量の水、水酸化物または酸化物を含むものなどであってもよい。これらの強磁性粉末の製法は既に公知であり、本発明で用いる強磁性粉末についても公知の方法に従って製造することができる。
強磁性粉末の形状に特に制限はないが、通常は針状、粒状、サイコロ状、米粒状および板状のものなどが使用される。とくに針状の強磁性粉末を使用することが好ましい。
【0048】
本発明の磁気記録媒体は、非磁性支持体上に上記した磁性層に用いる樹脂を含む結合剤と非磁性粉末または磁性粉末からなる非磁性下層塗布層、磁性下層塗布層を有していても良い。非磁性粉末には、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物、等の無機化合物から選択することができる。無機化合物としては例えばα化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化ケイ素、酸化すず、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデンなどが単独または組合せで使用できる。特に好ましいのは二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウムであり、さらに好ましいのは二酸化チタンである。これら非磁性粉末の平均粒径は0.005〜2μmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組合せたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましいのは非磁性粉末の平均粒径は0.01〜0.2μmである。非磁性粉末のpHは6〜9の間が特に好ましい。非磁性粉末の比表面積は1〜100m2/g、好ましくは5〜50m2 /g、更に好ましくは7〜40m2 /gである。非磁性粉末の結晶子サイズは0.01μm〜2μmが好ましい。DBPを用いた吸油量は5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、更に好ましくは20〜60ml/100gである。比重は1〜12、好ましくは3〜6である。形状は針状、球状、多面体状、板状のいずれでも良い。
【0049】
これらの非磁性粉末の表面にはAl2 O3 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb2 O3 、ZnOで表面処理することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl2 O3 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、であるが、更に好ましいのはAl2 O3 、SiO2 、ZrO2 である。これらは組合せて使用しても良いし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いても良いし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0050】
下層塗布層に用いることが可能な磁性粉末としては、γ−Fe2O3、Co変性γ−Fe2O3、α−Feを主成分とする合金、CrO2等が用いられる。特に、Co変性γ−Fe2O3が好ましい。本発明の下層に用いられる強磁性粉末は上層磁性層に用いられる強磁性粉末と同様な組成、性能が好ましい。ただし、目的に応じて、上下層で性能を変化させることは公知の通りである。例えば、長波長記録特性を向上させるためには、下層磁性層のHcは上層磁性層のそれより低く設定することが望ましく、また、下層磁性層のBrを上層磁性層のそれより高くする事が有効である。それ以外にも、公知の重層構成を採る事による利点を付与させることができる。
【0051】
本発明の磁性層あるいは下層塗布層に使用されるその他の添加剤としては潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果、などをもつものが使用される。二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラフアイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコーンオイル、極性基をもつシリコーン、脂肪酸変性シリコーン、フッ素含有シリコーン、フッ素含有アルコール、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコール、アルキルリン酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエーテル、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも、また分岐していても良い一塩基性脂肪酸、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも、また分岐していても良い一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコール、炭素数12〜22の不飽和結合を含んでも、また分岐していても良いアルコキシアルコール、炭素数10〜24の不飽和結合を含んでも、また分岐していても良い一塩基性脂肪酸と炭素数2〜12の不飽和結合を含んでも、また分岐していても良い一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコールのいずれか一つとからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル、炭素数2〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、などが使用できる。これらの具体例としてはラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ステアリン酸ブチル、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチル、ステアリン酸ブトキシエチル、アンヒドロソルビタンモノステアレート、アンヒドロソルビタンジステアレート、アンヒドロソルビタントリステアレート、オレイルアルコール、ラウリルアルコールがあげられる。
【0052】
また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシドール系、アルキルフエノールエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、硫酸エステル基、リン酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコールの硫酸またはリン酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書株式会社発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0053】
本発明で使用されるこれらの潤滑剤、界面活性剤は非磁性層、磁性層でその種類、量を必要に応じ使い分けることができる。例えば、非磁性層、磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を非磁性層で多くして潤滑効果を向上させるなどが考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。また本発明で用いられる添加剤のすべてまたはその一部は、磁性層あるいは下層用の塗布液の製造時のいずれの工程で添加してもよい。例えば、混練工程前に強磁性粉末と混合する場合、強磁性粉末と結合剤と溶剤による混練工程で添加する場合、分散工程で添加する場合、分散後に添加する場合、塗布直前に添加する場合などがある。
【0054】
本発明で使用されるこれら潤滑剤としては、具体的には日本油脂社製:NAA−102、ヒマシ油硬化脂肪酸、NAA−42、カチオンSA、ナイミーンL−201、ノニオンE−208、アノンBF、アノンLG、ブチルステアレート、ブチルラウレート、エルカ酸、関東化学社製:オレイン酸、竹本油脂社製:FAL−205、FAL−123、新日本理化社製:エヌジエルブOL、信越化学社製:TA−3,ライオンアーマー社製:アーマイドP、ライオン社製、デュオミンTDO、日清製油社製:BA−41G、三洋化成社製:プロフアン2012E,ニューポールPE61,イオネットMS−400などがあげられる。
【0055】
以上の材料により調製した塗布液を非磁性支持体上に塗布して下層塗布層あるいは磁性層を形成する。
本発明に用いることのできる非磁性支持体としては二軸延伸を行ったポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリベンズオキシダゾール等の公知のものが使用できる。好ましくはポリエチレンナフタレート、芳香族ポリアミドである。これらの非磁性支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理、などを行っても良い。また本発明に用いることのできる非磁性支持体は中心線平均表面粗さがカットオフ値0.25mmにおいて0.1〜20nm、好ましくは1〜10nmの範囲という優れた平滑性を有する表面であることが好ましい。また、これらの非磁性支持体は中心線平均表面粗さが小さいだけでなく1μ以上の粗大突起がないことがこのましい。
【0056】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に磁性塗布液を所定の膜厚となるように塗布する。ここで複数の磁性層塗布液を逐次あるいは同時に重層塗布してもよく、下層塗布液と磁性層塗布液とを逐次あるいは同時に重層塗布してもよい。
上記磁性塗布液もしくは下層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。 これらについては例えば株式会社総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0057】
本発明を二層以上の構成の磁気記録媒体に適用する場合、塗布する装置、方法の例として以下のものを提案できる。
(1)磁性層塗布液の塗布で一般的に適用されるグラビア、ロール、ブレード、エクストルージョン等の塗布装置により、まず下層を塗布し、下層が未乾燥の状態のうちに特公平1-46186号公報、特開昭60-238179号公報、特開平2-265672号公報等に開示されているような支持体加圧型エクストルージョン塗布装置により、上層を塗布する。
(2)特開昭63-88080号公報、特開平2-17971号公報、特開平2-265672号公報に開示されているような塗布液通液スリットを2個有する一つの塗布ヘッドにより上下層をほぼ同時に塗布する。
(3)特開平2-174965号公報に開示されているようなバックアップロール付きのエクストルージョン塗布装置により、上下層をほぼ同時に塗布する。
【0058】
本発明で用いる非磁性支持体の磁性塗料が塗布されていない面にバックコート層(バッキング層)が設けられていてもよい。バックコート層は、非磁性支持体の磁性塗料が塗布されていない面に、研磨材、帯電防止剤などの粒状成分と結合剤とを有機溶剤に分散したバックコート層形成塗料を塗布して設けられた層である。粒状成分として各種の無機顔料やカーボンブラックを使用することができ、また結合剤としてはニトロセルロース、フェノキシ樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン等の樹脂を単独またはこれらを混合して使用することができる。
バックコート層に用いるポリウレタン樹脂として本発明のポリウレタン樹脂を用いることによって、さらに耐久性を向上することができる。
なお、非磁性支持体の磁性塗料およびバックコート層形成塗料の塗布面に接着剤層が設けられいてもよい。
【0059】
磁性層塗布液の塗布層は、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末を磁場配向処理を施した後に乾燥される。
このようにして乾燥された後、塗布層に表面平滑化処理を施す。表面平滑化処理には、たとえばスーパーカレンダーロールなどが利用される。表面平滑化処理を行うことにより、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。
カレンダー処理ロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用する。また金属ロールで処理することもできる。
【0060】
本発明の磁気記録媒体は、表面の中心線平均粗さが、カットオフ値0.25mmにおいて0.1〜4nm、好ましくは1〜3nmの範囲という極めて優れた平滑性を有する表面であることが好ましい。
その方法として、例えば上述したように特定の強磁性粉末と結合剤を選んで形成した磁性層を上記カレンダー処理を施すことにより行われる。カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を60〜100℃の範囲、好ましくは70〜100℃の範囲、特に好ましくは80〜100℃の範囲であり、圧力は100〜500kg/cmの範囲であり、好ましくは200〜450kg/cmの範囲であり、特に好ましくは300〜400kg/cmの範囲の条件で作動させることによって行われることが好ましい。得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。
【0061】
本願の有機リン化合物は磁性体あるいは非磁性粉体と溶剤中で混練、分散すると粉体表面に極めて強く吸着する。このときの粉体表面の吸着サイトは塩基性的な性質をもつ部位であると考えられる。吸着した有機リン化合物はアルキル基、アルケニル基、あるいはアリール基をもち磁性体表面の外側にこれらの有機基が向く形になり、次の工程で結合剤を添加しさらに混練分散するときに、強磁性粉末もしくは非磁性粉末の表面が親水性であるのに対し、この有機基と結合剤骨格が親和性が高く分散しやすくなる。さらに、従来技術ではこの結合剤にも磁性粉末もしくは非磁性粉末の表面に吸着できるようにSO3M基 、COOH基、リン酸基などを導入したものを用いている。このとき粉末表面の結合剤の極性基が吸着できる部位は有機リン化合物の吸着サイトと同じ塩基性点であり、競争吸着することになる。したがって、結合剤もしっかり粉体表面に吸着させるためには有機リン化合物の添加量の微妙な調整が必要であり、粉体表面の特性が少し変化しても吸着挙動に大きな変化を与え分散性が低下することがある。また有機リン化合物は結合剤の上記極性基よりも吸着しやすいので結合剤の吸着量を増やすことは困難である。
【0062】
結合剤の吸着量を増やすことは分散性の向上、分散安定性の向上につながることや、塗膜の力学強度を高めることなどが従来より知られている。本願では鋭意検討した結果、非吸着の結合剤、なかでも結合剤の比較的低分子の成分が塗布乾燥中に塗膜表面に浮上し局在することを突き止め、これが繰り返し走行のヘッド汚れの主原因になっていることや高温高湿下でテープを保存したとき粘着故障を引き起こすことを明らかにした。
【0063】
本願の結合剤の極性基は、アミノ基であるところが従来技術との大きな違いである。従来からアミノ基含有の結合剤は知られているが、SO3M基 、COOH基、リン酸基などの酸性基と同じく吸着させる粉体の表面特性、すなわち粉体表面が全体として見たとき酸性か塩基性かに応じて最適な極性基を選択していたにすぎない。
本願では同じ粉体表面の中でも酸性点と塩基性点の両方があることに着目し、有機リン化合物を塩基性点に吸着させ、粉体表面の大半を有機リン化合物の有機基で覆い結合剤主鎖との親和性を高めたうえで、粉体の酸性点に結合剤のアミノ基を吸着させる。この方法では従来技術と異なり、粉体の表面修飾剤である有機リン化合物と結合剤が競争吸着せず、両方がそれぞれの部位に吸着できるため、結合剤の吸着量を高めることができた。また結合剤の中でも比較的低分子の成分がしっかり吸着することがわかった。この結果分散性の向上もさることながら、塗膜表面への結合剤低分子成分の浮上を飛躍的に減少させることができ、ヘッド汚れなどの磁性層表面のけずれを原因とする耐久性を大きく改良できた。また同じ理由で高温高湿の保存後の粘着故障も改善できた。
【0064】
【実施例】
以下の記載の「部」は「重量部」を示し、%は重量%を示す。
実施例1〜4および比較例1〜5
強磁性合金粉末(組成:Fe 92%、Zn 4%、Ni 4%、 Hc 2000Oe、結晶子サイズ15nm、BET比表面積59m2/g、長軸径0.12μm、針状比7、σs140emu/g)100部と表1の化合物をオープンニーダーで10分間粉砕し、次いでメチルエチルケトン10部、シクロヘキサノン3部、トルエン3部を添加してさらに30分間混合、混練した。次に表1の結合剤、及びメチルエチルケトン15部、メチルイソブチルケトン10部を加えて60分間混練し、次いで
研磨剤(Al2O3 粒子サイズ0.3μm) 2部
カーボンブラック(粒子サイズ 40nm) 2部
メチルエチルケトン 250部
を加え、サンドミルで120分間分散した。これに
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製 コロネート3041) 5部(固形分)
イソアミルステレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間攪拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、磁性層塗布液を調製した。得られた磁性層塗布液を乾燥後の厚さが2.0μmになるように、厚さ6μmのアラミド支持体の表面にリバースロールを用いて塗布した。磁性層塗布液が塗布された非磁性支持体を、塗布液が未乾燥の状態で3000ガウスの磁石で磁場配向を行ない、さらに乾燥後、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組み合せによるカレンダー処理を速度100m/分、線圧300kg/cm、温度90℃で行なった後6.35mm幅に裁断しデジタルビデオテープレコーダ用のテープを作製した。得られたテ−プの特性を以下のような測定方法によって測定し、その結果を表1に示す。
【0065】
実施例5、6および比較例6
上層用磁性液の調整
実施例1と同じ磁性層塗布液を調整して用いた。
【0066】
下層用非磁性層塗布液の調整
酸化チタン(平均粒径0.035μm、結晶型ルチル、TiO2 含有量90%以上、表面処理層;アルミナ、SBET 35〜42m2/g 、真比重4.1、pH6.5〜8.0)85部 と表2の化合物をオープンニーダーで10分間粉砕混合し、次いでメチルエチルケトン10部、シクロヘキサノン3部、トルエン3部を添加してさらに30分間混合、混練した。次に表2の結合剤、及びメチルエチルケトン15部、メチルイソブチルケトン10部を加えて60分間混練し、次いで
カーボンブラック(粒子サイズ0.1μm) 2部
メチルエチルケトン 200部
を加えてサンドミルで120分間分散した。これに
ブチルステアレート 2部
ステアリン酸 1部
メチルエチルケトン 50部
を加え、さらに20分間攪拌混合したあと、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いて濾過し、非磁性層塗布液を調製した。
【0067】
得られた非磁性塗布液を2.0μmの厚さに、さらにその直後に磁性層塗布液を乾燥後の厚さが0.1μmになるように、厚さ6μmのアラミド支持体の表面にリバースロールを用いて同時重層塗布した。
磁性層塗布液が塗布された非磁性支持体を、磁性層塗布液が未乾燥の状態で3000ガウスの磁石で磁場配向を行ない、さらに乾燥後、金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロール−金属ロールの組み合せによるカレンダー処理を速度100m/分、線圧300kg/cm、温度90℃で行なった後6.35mm幅に裁断した。得られたテ−プの特性を以下の測定方法によって測定しその結果を表2に示す。
【0068】
以上のようにして得られた実施例および比較例の磁気記録媒体の特性を下記の測定方法によって測定し、その結果を表2に示す。
〔測定方法〕
▲1▼非吸着の低分子結合剤成分
硬化剤添加前の分散液を遠心分離機によって上澄み液をとり定量した。さらにGPC測定で分子量1万未満の割合をピーク面積比から求めて分散液中の低分子非吸着成分量を求めた。
▲2▼磁性層表面の結合剤削れ量
裁断したテ−プ5000m長の磁性層面を剃刀の刃で掻き取り刃に付着したもののうちテトラヒドロフランに溶解した結合剤をGPCでRI検出のチャ−トで分子量1万未満の成分をピーク面積比で相対比較した。比較例1を100として相対値で表した。
▲3▼電磁変換特性
試料テープにドラムテスターを用いて記録波長0.5μm、ヘッド速度10m/秒の条件で記録し、再生した。比較例1のテープのC/Nを0dBとしたときのテープの相対的なC/Nを評価した。
▲4▼表面粗さRa
デジタルオプチカルプロフィメ−タ−(WYKO製)を用いた光干渉法により、カットオフ0.25mmの条件で中心線平均粗さをRaとした。
▲5▼保存粘着
テープをカセットに組み込んだ状態で60℃90%RH雰囲気に4週間保存した後、テープを巻きほぐし、はりつきのあるものを「あり」、貼り付きのないものを「なし」とした。
▲6▼ヘッド汚れ
60分長のテープを松下電器製デジタルビデオテープレコーダ(NV−BJ1)を用いて40℃10%RH環境下で100回連続繰り返し走行させ、ビデオヘッドの汚れを観察し、目視でビデオヘッド汚れが観察されなかったものを「良」、汚れが目視で観察されたものを「不良」とした。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表において、
塩化ビニル系樹脂
A:塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシブチルアクリレート/アミノ基含有ビニル=88/5/5/2(モル比) 重合度=250
B:塩化ビニル/アリルグリシジルエーテル/ヒドロキシプロピルメタクリレート/4級アミノ基含有ビニル=85/10/3/2 重合度=300
C:日本ゼオン製MR110 SO3M基、エポキシ基含有 重合度=300
D:塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸/ビニルアルコール=90/5/1/4 重合度=300
E:塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール=94/4/2 重合度=300
【0072】
【発明の効果】
特定の有機リン化合物とアミノ基含有結合剤との組み合わせによって、塗膜の平滑性が向上し電磁変換特性が向上し、塗布液中の非吸着結合剤が減少し、また、磁性層表面が削れ難くなり、ヘッド汚れが少なくなり、保存粘着性も大きく改善した。
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