JP3648158B2 - 球状黒鉛鋳鉄 - Google Patents

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  • Refinement Of Pig-Iron, Manufacture Of Cast Iron, And Steel Manufacture Other Than In Revolving Furnaces (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低温脆性に優れた球状黒鉛鋳鉄に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳鉄として、黒鉛形態が球状の球状黒鉛鋳鉄が知られており、この球状黒鉛鋳鉄は、引張強さが400〜800MPaの範囲であって、引張強さが大きくなれば伸びが低く、逆に伸びを高くしようとすると引張強さが小さくなるという傾向を有している。
【0003】
近年、軽量化が強く要請されている自動車部品等の分野においては、安価で肉厚を薄くできる材料、例えば、引張強さが750MPa以上及び伸びが8%以上というように、前記両方の機械的性質を同時に兼ね備えた球状黒鉛鋳鉄が要求されている。
また、上記以外に同時に球状黒鉛鋳鉄に要求される機械的性質として、低温度域における材料の脆さを示す低温脆性があり、自動車部品等以外の分野として電力設備用部品等の分野においても、例えば−40℃付近における低温脆性に優れた材料の開発が望まれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に、鋳物材料の低温脆性を改善するための手法としては、鋳物溶湯中のSi含有率を低減することが知られている。しかしながら、球状黒鉛鋳鉄を製造する場合、Siは鋳鉄溶湯中に含有する黒鉛(C)の晶出を促すための触媒的な作用を担う成分であるために、単にSi含有率を低減しただけでは、CはFeと化学的に結合してFe3C(セメンタイト(炭化物))を形成してしまい、目的とする引張強さ、伸び等の機械的特性を同時に備えた球状黒鉛鋳鉄を製造することが困難となる。
【0005】
一方、鋳鉄溶湯中に含有する元素の組成を変化させること以外に、低温脆性を改善する手法としては、製造される部材の厚み(断面積)を増加する等の手法を挙げることができる。しかし、部材の体積・重量が増加するため、自動車部品、電機材料部品等の分野における部品軽量化の要請には答えることができなくなるといった問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽量化を図ることができるとともに、低温脆性に優れ、且つ、引張強度等の機械的性質にも優れた球状黒鉛鋳鉄を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明によれば、Cを3.1〜4.0質量%、Siを1.55以上、1.8質量%未満、Niを2.0〜4.0質量%、Mnを0.4質量%以下含有するとともに、鋳鉄溶湯を調製した後に接種剤を注湯流接種及び鋳放ししてなるものであり、且つ、試験温度が−40℃におけるUノッチシャルピー衝撃試験による衝撃値が、6J/cm2以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄が提供される。
【0008】
本発明においては、炭素当量が4.2〜4.6の範囲内であることが好ましく、引張強さが650〜850MPa、及び伸びが7.0〜14.5%であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0010】
本発明に係る球状黒鉛鋳鉄は、C、Si、Ni、Mnの含有率を所定の数値範囲内に規定するとともに、鋳鉄溶湯を調製した後に接種剤を注湯流接種及び鋳放しすることにより、これまで課題とされていた低温脆性が改善され、且つ、従来の球状黒鉛鋳鉄が有する引張強さ及び伸び等の引張特性をはじめとする機械的性質が損なわれることなく、そのまま保持されているという特徴を有している。以下、更にその詳細について説明する。
【0011】
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、Cを3.1〜4.0質量%、Siを1.55以上、1.8質量%未満、Niを2.0〜4.0質量%、Mnを0.4質量%以下含有するとともに、鋳鉄溶湯を調製した後に接種剤を注湯流接種及び鋳放ししてなるものであり、且つ、試験温度が−40℃におけるUノッチシャルピー衝撃試験による衝撃値が6J/cm2以上である。既述の如く、単にSi含有率を低減することにより球状黒鉛鋳鉄の低温脆性を改善しようとすると、黒鉛の晶出が不良となり、引張特性をはじめとする機械的性質が損なわれるおそれがある。しかしながら本発明の球状黒鉛鋳鉄は、Siの低減と同時に、Siと同じく黒鉛の晶出を促す作用特性を有するNiを上記所定量含有しているために、黒鉛が良好に晶出され、期待される機械的性質を保持しているものである。
【0012】
本発明の球状黒鉛鋳鉄はCを3.1〜4.0質量%含有し、3.2〜3.9質量%含有することが好ましく、3.4〜3.8質量%含有することが更に好ましい。3.1質量%未満では、炭化物が現れて伸びが著しく減少してしまい、4.0質量%を超えると、初晶黒鉛が浮上して介在し、引張強さの低下の原因となるために好ましくない。
【0013】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄はSiを1.55以上、1.8質量%未満有するものである。Siが1.55質量%未満では、炭化物が現れて伸びが著しく減少する
【0014】
ここで、Siの含有率を1.8質量%未満に設定した場合、炭化物が生成して伸びが減少するおそれがある。このような不具合を解消するために、所定の成分比率からなる鋳鉄溶湯を調製した後に、接種剤を注湯流接種する。このことにより、炭化物の生成が抑制されるとともに、黒鉛が晶出し、所望の伸びを有する球状黒鉛鋳鉄を得ることが可能となる。
【0015】
なお、注湯流接種に使用する接種剤としては、具体的にはFe−Si系、Ca−Si系、Ca−Si−Ba系等の接種剤を挙げることができるが、特定の接種剤に限定されるものではなく、適宜選択して使用すればよい。
【0016】
更に、本発明の球状黒鉛鋳鉄はNiを2.0〜4.0質量%含有し、2.2〜3.8質量%含有することが好ましく、2.5〜3.5%含有することが更に好ましい。2.0質量%未満では低温脆性が改善されないばかりでなく、引張強さ、及び伸び等の機械的性質も満足できる値とならず、また、4.0質量%を超えると低温脆性の改善がなされ、引張強さも確保できるが伸びが確保できなくなるために好ましくない。
【0017】
低温脆性が改善され、且つ、高強度、高靭性の機械的性質を有する本発明の球状黒鉛鋳鉄はMnを0.4質量%以下含有し、0.3質量%以下含有することが好ましく、0.2質量%以下含有することが更に好ましい。0.4質量%を超えると伸びが確保できなくなるために好ましくない。また、Mnは材料や製造工程から不可避的に混入してくるものであり、その含有量を0.05質量%未満まで低下させることは現在の技術上からは困難である。
【0018】
なお、本発明の球状黒鉛鋳鉄のその他の成分としては、特に限定されないが、P 0.05質量%以下、S 0.02質量%以下、Mg 0.02〜0.06質量%、Cu 0.2質量%未満、Cr 0.04質量%未満に調整することが好ましい。その理由は下記のとおりである。
(1)Pが0.05質量%を超えると、ステダイト相が現れて脆化する。
(2)Sが0.02質量%を超えると、Mg処理時にMgSを生成し、溶存Mg量が低下して黒鉛球状化が阻害され、ノロも増えて好ましくない。
(3)Mgが0.02質量%未満では、黒鉛を球状化することができず、引張強さは、確保できない。Mgが0.06質量%を超えると、炭化物が現れやすくなり、処理時のMg合金が高価で好ましくない。
(4)Cuが0.2%以上では、パーライト相の割合が増加していき、衝撃値が低下するようになる。
(5)Crが0.04%以上では、パーライト相の割合が増加していき、衝撃値が低下するようになる。
【0019】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄は、試験温度が−40℃におけるUノッチシャルピー衝撃試験による衝撃値が、6J/cm2以上であり、6.5J/cm2以上であることが好ましく、6.8J/cm2以上であることが更に好ましい。前記試験による衝撃値が当該数値以上に設定されているために、本発明の球状黒鉛鋳鉄は自動車部品、電力設備用部品等の分野において要求される、低温脆性に優れた材料である。
【0020】
本発明の球状黒鉛鋳鉄においては、炭素当量が4.2〜4.6の範囲内であることが好ましく、4.25〜4.55の範囲内であることが更に好ましく、4.3〜4.5の範囲内であることが特に好ましい。4.2未満では、薄肉部で炭化物が生成しやすくなるために好ましくない。一方、4.6を超えると炭化物の生成が抑制される反面、初晶黒鉛が浮上又は偏析してしまうために好ましくない。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄は炭素当量を上記数値範囲内に設定しているために、このような不具合が生ずることはない。
【0021】
本発明の球状黒鉛鋳鉄は、その引張強さが650〜850MPaであることが好ましく、700〜850MPaであることが更に好ましく、750〜850MPaであることが特に好ましい。また、伸びは7.0〜14.5%であることが好ましく、9.5〜14.5%であることが更に好ましく、12.0〜14.5%であることが特に好ましい。なお、ここで用いる球状黒鉛鋳鉄の引張強さ、及び伸びという機械的性質は、JIS Z 2201で規定されている試験法に従って求めたものである。
【0022】
上記した本発明の球状黒鉛鋳鉄は、従来公知の工程により製造することができる。
鋳鉄製造工程の一例を説明すると、材料ヤードから銑鉄、鋼屑など各種の鉄合金を、配合成分量を考慮して配合し、これを原料として電気炉(低周波炉又は高周波炉)あるいはキュポラを用いて鋳鉄溶湯が溶製される。目標組成通りに溶製された溶湯は、黒鉛球状化剤を用いて取鍋内で溶湯処理が行われる。この際、必要に応じて接種剤を取鍋内添加するか、又は注湯流接種をする。
【0023】
溶湯処理が行われた後、溶湯は取鍋から造型機により造型された鋳型に注湯されて鋳込まれ、鋳型内でそのまま凝固、冷却される。なお、このとき薄肉部における炭化物の生成を防止するとともに、黒鉛粒径を微細化してパーライト相の出現を抑制するために、接種剤を鋳型への鋳込み中の注湯流に添加する2次接種(注湯流接種)を行う。
鋳型内の物品が冷却されると、次にシェイクアウトマシンにて型ばらしが行われて物品と造型砂が分離され、物品はドラムクーラーで冷却された後、ショットブラストで物品の表面に付着した砂を除去し、鋳仕上げ工程に掛けられる。この鋳仕上げ工程において堰、ばり取りなどの仕上げが行われて製品たる鋳鉄鋳物が得られることになる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
参考例1、比較例1、2)
従来公知の鋳鉄製造工程に従って、球状黒鉛鋳鉄の溶湯を溶製した。すなわち、鋳鉄原料を配合し、高周波溶解炉にて表1に示すように成分調整した球状黒鉛鋳鉄の溶湯を溶製した。
【0025】
【表1】
Figure 0003648158
【0026】
上述した球状黒鉛鋳鉄溶湯を、図3に示す自動車足廻り部品1用の鋳型に約1400℃で注湯し、鋳型内で常温まで自然放冷(鋳放し)して自動車足廻り部品1(約3.6kg)を製造した(参考例1、比較例1、2)。
【0027】
(実体強度評価試験)
1.衝撃負荷試験
図4に示すように、上記製造工程により得られた参考例1、比較例1、2の自動車足廻り部品1を把持材2にて把持し、L=400mmの位置に、入力方向A及びBの2方向に重量470kgの重錘を高さ130mmより落下することにより衝撃負荷試験を実施した。結果を表2に示す。なお、試験は−40℃及び室温(RT)の条件下において実施し、結果は目視観察により評価した。このときの評価基準は、自動車足廻り部品1の一部にでも破壊された部分があれば「破壊」、破壊部分が生じなかった場合を「破壊せず」とした。
【0028】
【表2】
Figure 0003648158
【0029】
表2から明らかなように、参考例1の自動車足廻り部品は室温、及び−40℃条件下、並びにA、Bどちらから入力した場合においても破壊されることはなかった
【0030】
2.静負荷試験
1に示した衝撃負荷試験の場合と同様に、自動車足廻り部品1を、図5に示すように把持材2にて把持し、L=500mmの位置にはB方向、L=400mmの位置にはA方向に荷重し、自動車足廻り部品1が破壊するときの荷重値(破壊荷重、kN)を測定した。結果を表2に示す。
【0031】
表2から明らかなように、参考例1の自動車足廻り部品はA、Bどちらから入力した場合においても、比較例1、2に比して破壊され難いことが判明した
【0032】
(Uノッチシャルピー衝撃試験)
得られた参考例1、比較例1、2の自動車足廻り部品1のX部及びY部から、図6に示すUノッチ切り欠き試験片5(JIS Z 2202)を採取した。これを使用して、JIS Z 2242に基づき、−40℃及び室温(RT)の条件下においてUノッチシャルピー衝撃試験を実施した。結果を図1に示す。
【0033】
図1から明らかなように、いずれの試験温度の場合においても、参考例1は比較例1、2に比して優れた衝撃値を有していることが判明した
【0034】
(引張特性試験)
得られた参考例1、比較例1、2の自動車足廻り部品1のX部及びY部から、JIS Z 2201の4号試験片を採取し、引張特性試験(引張強度、0.2%耐力及び伸びの測定)を実施した。結果を図2に示す。
【0035】
図2から明らかなように、引張強度、0.2%耐力及び伸びのいずれの機械的性質に関しても、参考例1は比較例1、2に比して何等劣らないことが判明した
【0036】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の球状黒鉛鋳鉄は成分元素の含有率所定の数値範囲内に設定されているとともに、鋳鉄溶湯を調製した後に接種剤を注湯流接種及び鋳放ししてなるものであるため、低温脆性が改善され、且つ、従来の球状黒鉛鋳鉄が有する引張強さ及び伸び等の引張特性をはじめとする機械的性質が損なわれることなく、そのまま保持されている。従って、本発明の球状黒鉛鋳鉄は必要以上に肉厚にしなくても、優れた低温脆性を有しているために、部品の軽量化を図ることが可能となる。そして、その特性を活かし、連結金具等の電力設備用部品や、車輪支持部品等の自動車部品等に好ましく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Uノッチシャルピー衝撃試験の結果を示すグラフである。
【図2】 引張特性試験の結果を示すグラフである。
【図3】 自動車足廻り部品を示す斜視図である。
【図4】 衝撃負荷試験の実施態様を説明する斜視図である。
【図5】 静負荷試験の実施態様を説明する斜視図である。
【図6】 Uノッチ切り欠き試験片の形状及び寸法を示す説明図であり、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)はUノッチ切り欠き部の拡大図である。
【符号の説明】
1…自動車足廻り部品、2…把持材、5…Uノッチ切り欠き試験片、6…Uノッチ切り欠き部。

Claims (3)

  1. Cを3.1〜4.0質量%、Siを1.55以上、1.8質量%未満、Niを2.0〜4.0質量%、Mnを0.4質量%以下含有するとともに、鋳鉄溶湯を調製した後に接種剤を注湯流接種及び鋳放ししてなるものであり、且つ、
    試験温度が−40℃におけるUノッチシャルピー衝撃試験による衝撃値が、6J/cm2以上であることを特徴とする球状黒鉛鋳鉄。
  2. 炭素当量が4.2〜4.6の範囲内である請求項1記載の球状黒鉛鋳鉄。
  3. 引張強さが650〜850MPa、及び伸びが7.0〜14.5%である請求項1又は2に記載の球状黒鉛鋳鉄。
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