JP3645109B2 - 医療用チューブおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管用カテーテルや超音波カテーテル、内視鏡等に用いられる医療用チューブに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、医療用チューブの高機能化が著しい。高機能化されている医療用チューブは、例えば、血管の狭窄部を拡張する経皮的血管形成術に用いられる血管拡張用バルーンカテーテル、脳血管内に見られる動脈瘤や動静脈奇形腫瘍等に対して塞栓物質やコイルを注入する脳血管用カテーテル、超音波診断装置を用いて血管内の精密な観察や診断が行える超音波カテーテル、画像診断装置を用いて血管内、胆管、膵管等の精密な観察や診断が行える内視鏡等などに利用されている。
【0003】
このような高機能医療用チューブには、細く複雑な血管内を迅速かつ確実な選択性をもって挿入できる操作性及び耐久性が要求される。具体的には、血管内を挿通させるため術者がカテーテルを押し込みやすいこと(プッシャビリティ)、複雑に蛇行した血管内をあらかじめ挿入されたガイドワイヤーに沿って円滑かつ血管内壁を損傷することなく進むこと(トラッカビリティ)、カテーテルチューブ基端部にて伝えられた回転力が先端部に確実に伝達されること(トルク伝達性)、術前の取り扱い時やカテーテルの押し込み時、さらには、ガイドワイヤー抜去後にキンクしにくいこと(耐キンク性)、さらに、患者の肉体的及び精神的負担を軽減させる目的で、カテーテルを目的部位までガイドするガイディングカテーテルのサイズを細くするためや、血管壁との摩擦抵抗を低減させるため、チューブ外径がなるべく細いこと(ロープロファイル性)、さらに、ガイドワイヤーの操作性を良好にするためチューブ内腔が十分に確保されていること(薄肉性)、先端部が血管壁などに損傷を与えることが少ないこと(先端柔軟性)等が要求される。
【0004】
このように高機能医療用チューブには、細さ、トルク伝達性に加えて、硬さと柔らかさ、薄さと折れにくさという相反した特性が要求され、また、超音波カテーテル用には、チューブを部分的に硬くすることも要求される。これらの要求特性を満足するカテーテルチューブを製造するため、従来、様々な技術開発がなされている。
【0005】
例えば、特開平6−319803号公報に開示されるものがある。これに開示されているカテーテルは、先端部に近づくに従い密度が高くなる切れ目又は溝が形成された硬度調整用チューブがカテーテルチューブ内に配置されていることを特徴としたものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、切れ目を形成した硬度調整用チューブを、例えば、血管拡張用バルーンカテーテルや、薬液投与用カテーテルに使用する場合、流体が切れ目から漏れ出さないように被覆層を形成する必要が生じるため、カテーテル内径を規定した場合に外径が大きくなり、上記のロープロファイル性に関して不利である。
また溝加工については、硬度調整用チューブは、基端側で上記プッシャビリティを向上させるため硬い材料が好ましいが、チューブ構造が単層であるため、先端部で密度の高い溝加工を形成しても、実使用上操作性に必要な柔軟性を確保させることは困難であり、トラッカビリティ、先端柔軟性に関して不利である。
本発明の目的は、プッシャビリティ、トラッカビリティ、先端柔軟性とともにトルク伝達性、耐キンク性が良好である細径な医療用チューブを提供するものである。
【0007】
本発明の第1の目的は、プッシャビリティ、トラッカビリティ、トルク伝達性、耐キンク性とともに、先端柔軟性を有する医療用チューブを提供するものである。
本発明の第2の目的は、上記のような医療用チューブを確実に製造することができる医療用チューブ製造方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の目的を達成するものは、内部に形成されたルーメンと、軟質合成樹脂製内層と、該合成樹脂製内層の外面を被覆するとともに前記内層形成材料より硬質な合成樹脂材料により形成された外層とを備え、前記外層及び前記内層の材料は相溶性の良い材料により形成された前記外層及び前記内層が密着した二層構造チューブからなる医療用チューブであって、該医療用チューブは、前記外層の外面より前記ルーメン方向に延びるとともに、前記ルーメンに到達しない深さの溝を備え、かつ該溝の底部部分は、軟質合成樹脂製内層内に到達している医療用チューブである。
【0009】
そして、前記溝の底面は、丸みを帯びた形状となっていることが好ましい。また、前記溝は、螺旋状に形成されていることが好ましい。さらに、前記溝は、チューブの基端側より先端側のピッチが短いものとなっていることが好ましい。さらに、前記医療用チューブの表面には、合成樹脂被覆層を有していることが好ましい。また、前記医療用チューブは、カテーテルであってもよい。
【0010】
本発明の第2の目的を達成するものは、軟質合成樹脂を内層となるようにかつ該軟質合成樹脂よりも硬質かつ相溶性を有する合成樹脂が外層となるように共押出することにより、内層と外層を有する管状体を準備する工程と、該管状体の表面を加工して、前記外層表面側より前記内層に達し、かつ前記医療用チューブの内部ルーメンには到達しない溝をレーザ照射により形成する工程とを備える医療用チューブの製造方法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の医療用チューブを図面を用いて説明する。
図1は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した実施例の部分省略拡大正面図である。図2は、図1に示した医療用チューブの断面図である。図3は、図1に示した医療用チューブの先端部の拡大正面図である。図4は、図1に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。
【0012】
本発明の医療用チューブ1は、内部に形成されたルーメン3と、軟質合成樹脂製内層4と、合成樹脂製内層4の外面を被覆するとともに内層形成材料より硬質な材料により形成された外層5とを備える。そして、医療用チューブ1は、外層5の外面よりルーメン方向に延びるとともに、ルーメン3に到達しない深さの溝を備えている。このように、本発明の医療用チューブでは、硬質の外層に溝を形成させているため、チューブを湾曲させた場合に曲げ応力が溝部分にて分散されるので、耐キンク性に優れている。
【0013】
本発明の医療用チューブは、カテーテル、内視鏡用チューブに使用することができる。医療用チューブの全長は、用途によって相違するが、カテーテルに使用する場合には、1000〜1500mm程度が好適であり、内視鏡用に使用する場合には、1000〜2000mm程度が好適である。また、医療用チューブ1の外径も用途によって相違するが、カテーテルに使用する場合には、0.7〜2.0mm程度が好適であり、内視鏡用に使用する場合には、1.0〜3.0mm程度が好適である。医療用チューブ1の肉厚は、カテーテルに使用する場合には、0.05〜0.3mm程度が好適であり、内視鏡用に使用する場合には、0.02〜0.1mm程度が好適である。
【0014】
そこで、図1ないし図4に示す実施例を用いて説明する。この実施例は、医療用チューブをカテーテルに応用した実施例である。
医療用チューブであるカテーテル1は、カテーテル本体2とカテーテル本体2の基端に取り付けられたハブ11を備えている。カテーテルとしては、心臓血管、脳血管などの血管内に挿入される血管カテーテル、さらには、腹腔、肺などの体腔内挿入カテーテルなどが考えられる。
【0015】
カテーテル本体2は、その基端22から先端21にかけて内部にルーメン3が形成されている。このルーメン3は、薬液等の流路となるものであり、カテーテル1の血管への挿入時には、ルーメン3内にガイドワイヤーが挿通される。ハブ11は、ルーメン3内への薬液等の注入口およびガイドワイヤーの挿入口として機能し、また、血管カテーテル1を操作する際の把持部としても機能する。
【0016】
図2および図4に示すように、カテーテル本体2は、少なくともその主要部分が、軟質合成樹脂製内層4と軟質合成樹脂製内層4の外面に密着した硬質な外層5とからなる2層構造となっている。そして、カテーテル本体部2は、溝が形成された溝形成部分(先端部分)6と溝が形成されていない本体部7を備えている。
【0017】
図1ないし図4に示す実施例では、外層5の先端部には螺旋状の溝9が設けられている。溝9は、外層5の先端付近より基端側に向けて所定長にわたり、外層5の外面より内側(ルーメン方向)に延び、かつ、内層4を貫通しないように形成されている。また、溝9は、外層5の軸方向に延びている。この溝9を設けたことにより、溝形成部分6を他の部分に比べて柔軟にすることができる。
【0018】
図1ないし図4に示す実施例では、溝9のピッチは、溝形成部分6の先端側部分におけるピッチが基端側部分におけるピッチより小さくなるように形成されている。特に、この実施例では、溝9のピッチは、カテーテルの先端方向に向かって小さくなっている。このように構成することにより、カテーテル本体2の溝形成部分6の物性をなだらかに変化させることができる。なお、本発明においては、上記ピッチは、溝9の全体にわたって一定であってもよい。
【0019】
溝9の螺旋のピッチは、外層5の外径よりも小さく形成されていることが好ましく、さらに、外層の外径に対し1/5〜10倍程度が好ましい。ピッチが外層5の外径の10倍より小さいものとすれば、血管の湾曲や屈曲に対する応力の分散は十分であり、また、溝形成部分6におけるキンクの発生もない。また、外径の1/5以上であれば、外層5の先端部における強度の低下も少なく、この部分における裂けや破断等が生じることもない。
【0020】
そして、螺旋状の溝9は、上述のように、そのピッチが、溝形成部分6の先端部側では短く、基端部側では、長くなっていることが好ましい。このようにすることにより、先端部に向かって柔軟になるので、急激な物性の変化がなく、溝形成部と溝非形成部の境界部分の湾曲が自然なものとなり、カテーテルの操作性が向上する。さらに、溝9のピッチは、溝形成部分6の先端部が短く、基端部に向かって徐々に長くなることが好ましい。このようにすることにより、先端部に向かって徐々に柔軟になるので、溝形成部の湾曲がより自然なものとなり、カテーテルの操作性がより向上する。
【0021】
このように、溝9のピッチが変化する場合には、溝形成部分6の先端部の長さ(ピッチが小さい部分)は、10mm〜100mm程度、基端部の長さ(ピッチが大きい部分)は、100〜300mm程度が好適である。特に、先端部と基端部の中間部では、両者の中間のピッチを有しているか徐々にピッチが変化していることが好ましい。上記範囲内であれば、十分に柔軟でありかつ使用時にキンクすることもない。また、図3に示したカテーテルは、溝は1条の螺旋状であるが、これに限らず、溝は、2条またはそれ以上であってもよい。特に、図1ないし図4に示すように、溝のピッチを徐々に変化させることにより、先端部では螺旋溝のピッチが狭いため非常に柔軟であり、先端柔軟性、トラッカビリティに優れ、基端部では螺旋溝のピッチが広いか、または螺旋溝が形成されていないためカテーテルに必要な硬度が確保され、プッシャビリティに優れたものとなる。
溝9を設ける部分の長さは、適度な応力の分散をなすために、外層5の外径の10〜500倍程度、より好ましくは100〜500倍程度とすることが好ましい。
【0022】
また、図3ないし図4に示したカテーテルでは、溝9の先端側の始点が外層5の先端よりも若干離間した位置となっている。外層5の先端と溝9の始点との距離は、外層5の先端より1.0mm程度以内、より好ましくは0.5mm程度以内とすることが好ましい。また、溝9は、外層5の先端から設けられていてもよい。
【0023】
また、溝9の深さとしては、外層5を貫通し、軟質合成樹脂製内層4に到達していることが好ましい。このように、溝が外層5を貫通するものとすることにより、溝部分もしくは溝の底部部分が軟質合成樹脂製内層のみより形成されるものとすることとができ、溝部分を十分に柔軟なものとすることができる。さらに、溝9は、軟質合成樹脂製内層4内に到達していることが好ましい。また、軟質合成樹脂製内層4への侵入程度は、軟質合成樹脂製内層4の肉厚によっても相違するが、0〜100μm程度が好適であり、特に、20〜50μm程度である。また、軟質合成樹脂製内層4の肉厚の1/5〜1/3程度が好適である。
【0024】
また、医療用チューブ1の外径は0.6〜2.0mmが好ましい。また、肉厚は0.04〜0.5mmが好ましく、このうち外層の肉厚は、0.01〜0.25mmが好ましい。さらに、医療用チューブの全体の長さは50cm〜200cmが好ましい。
【0025】
また、医療用チューブをカテーテルに応用する場合における寸法としては、例えば、脳血管に挿入して使用される血管カテーテルの場合には、カテーテル本体2の全長は、50〜200cm程度、特に70〜150cm程度が好ましい。外径は、0.6〜2.0mm程度、より好ましくは0.7〜1.2mm程度であり、内径は、0.2〜1.6mm程度、より好ましくは0.3〜0.9mm程度である。さらに、外層5の肉厚は、0.05〜0.3mm程度、より好ましくは、0.05〜0.2mm程度である。また、軟質合成樹脂製内層4の肉厚は0.05〜0.5mm程度、より好ましくは0.08〜0.3mm程度である。
【0026】
さらに、溝の底面は、丸みを帯びた形状となっていることが好ましい。溝の底面が矩形状となっているものに比べて、溝の底面は、丸みを帯びた形状とすることにより、溝の両端部における物性の変化をある程度なだらかにすることができ、湾曲が良好なものとなる。また、螺旋状の溝の形状は、螺旋状であり、かつ溝の幅が、先端部では広く、基端部では狭くなるように形成してもよい。このようにすることにより、先端部に向かって徐々に柔軟になるので、カテーテルの先端部の湾曲がより自然なものとなり、カテーテルの操作性がより向上する。
【0027】
溝の幅は、外層5(カテーテル)の外径などを考慮して決定されるので、一律なものではないが、0.1mm〜0.5mmが好ましく、特に、0.1mm〜0.2mmが好適である。溝形成部分6における先端部は、10mm〜100mm程度が好ましく、基端部では、100mm〜300mmが好ましい。また、溝の幅を変化させる場合には、溝の幅は、外層5(カテーテル)の外径の1/10〜1/2程度が好ましい。
【0028】
外層5は、比較的剛性な合成樹脂材料で構成することが好ましい。そのような合成樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂もしくはそれらのポリオレフィン系エラストマー、フッ素系樹脂もしくはフッ素系エラストマー、メタクリル樹脂、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミドもしくはポリアミド系エラストマー、ポリカーボネート、ポリアセタール、スチレン系樹脂もしくはスチレン系エラストマー、熱可塑性ポリイミド等が使用できる。またこれらの樹脂をベースとしたポリマーアロイあるいはポリマーブレンドを用いることも可能である。また、外層5の材質は、通常、その長手方向に沿って同一とされるが、必要に応じ、部位によってその組成が異なってもよい。
【0029】
また、外層5は、金属材料により構成してもよい。金属材料としては、Cu、Ag、Au、Al、Ti、Pt、Ni、Zn、Pb等が使用される。金属により外層を形成する場合には、上記の金属により、肉薄の金属管としたものを用いてもよく、また、上述した内層の外面に上記のような金属を蒸着することにより、内層の外面に直接外層を被着させてもよい。さらに、このように金属蒸着物からなる外層を有する二層構造チューブに上述したような溝を形成し、溝部分となる外層形成金属を除去した後、外層形成金属の上にさらに、同じもしくは異なる金属をメッキし、外層の肉厚を調整してもよい。メッキに使用される金属としては、上述した外層形成用金属が好適である。
【0030】
軟質合成樹脂製内層4は、外層形成材料と比較して柔軟な合成樹脂材料で構成されている。このような合成樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリブテンエラストマー、軟質塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂もしくはそれらのポリオレフィン系エラストマー、フッ素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、スチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーの材料が使用できる。またこれらの樹脂をベースとしたポリマーアロイあるいはポリマーブレンドを用いてもよい。
【0031】
ここで、ポリアミドエラストマーとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン64、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、N−アルコキシメチル変性ナイロン、ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸縮重合体、メタキシロイルジアミン−アジピン酸縮重合体のような各種脂肪族または芳香族ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエステル、ポリエーテル等のポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体が代表的である。なお、ポリアミドエアラストマーには、上記以外に前記ポリアミドと柔軟性に富む樹脂とのポリマーアロイ(ポリマーブレンド、グラフト重合、ランダム重合等)や、前記ポリアミドを可塑剤等で軟質化したもの、さらには、これらの混合物をも含む。なお、可塑剤は、溶剤や血液等で抽出され難いものを用いることが好ましい。
【0032】
また、ポリエステルエラストマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステルと、ポリエーテルまたはポリエステルとのブロック共重合体が代表的である。なお、ポリエステルエラストマーには、上記以外に上記のポリエステルエラストマーのポリマーアロイや前記飽和ポリエステルを可塑剤等で軟質化したもの、さらには、これらの混合物をも含む。
【0033】
なお、前記エラストマーには、必要に応じ、アロイ化剤、相溶化剤、硬化剤、軟化剤、安定剤、着色剤等の各種添加物を配合してもよい。この場合、添加成分が溶剤、薬液、血液等で抽出され難いものを用いることが好ましい。また、エラストマーは、熱可塑性であることが好ましく、熱可塑性であれば、カテーテルの製造が容易である。
【0034】
軟質合成樹脂製内層4が上記エラストマーで構成されている場合は、軟質合成樹脂製内層4に密着する外層5は、軟質合成樹脂製内層4の先端部の変形を妨げることなく、この変形に従って容易に変形するため、キンクの発生が極めて確実に防止される。また、軟質合成樹脂製内層4の材質は、通常、その長手方向に沿って同一とされるが、必要に応じ、部位によってその組成が異なっていてもよい。
【0035】
さらに、二層構造チューブを共押出により形成する場合には、外層及び内層の材料は、成形性の点から上記に挙げた樹脂のうち両者の相溶性の良い材料を選択することが必要である。相溶性がよいとは、熱力学的な相互溶解性が良好であることを示すものであり、言い換えれば、硬化後両者間において分離しないことを示すものである。具体的には、外層5と内層4の材料は、系統が同じ樹脂を選択することが望ましい。例えば、外層5の材料として剛性の高い高密度ポリエチレンを、内層4の材料として柔軟な低密度ポリエチレンを選択し両者をポリオレフィン系とすること、また、外層5の材料として剛性の高いナイロン12を、内層4の材料として柔軟なポリエーテルポリアミドブロック共重合体を選択し両者をポリアミド系とすること、また、外層5の材料として剛性の高いポリエチレンテレフタレートを内層4の材料として柔軟なポリエステル系エラストマーを選択し、両者をポリエステル系とすること等が考えられる。
【0036】
また、外層もしくは内層形成材料さらには外層および内層形成材料にX線不透過物質を添加してもよい。X線不透過物質としては、例えばタングステン、硫酸バリウム、ビスマス、金、白金等の金属単体もしくは化合物による微小粒体が好ましい。X線不透過物質の粒径としては、1〜5μmが好適である。そして、合成樹脂中へのX線不透過物質添加量としては、45重量%以下であり、特に、30重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20重量%以下である。
【0037】
外層5の形成材料の硬度(曲げ弾性率、ASTM D−790、23℃)は、2000〜30000kg/cm2であることが好ましく、5000〜20000kg/cm2であることがより好ましい。曲げ弾性率が、2000kg/cm2以上であれば、押し込み性やトルク伝達性は十分であり、30000kg/cm2以下であれば、ガイドワイヤーに対する追随性も良好であり、血管内壁に与える負荷も少ない。
【0038】
また、軟質合成樹脂製内層4の形成材料の硬度(曲げ弾性率、ASTM D−790、23℃)は、100〜800kg/cm2であることが好ましく、150〜500kg/cm2であることがより好ましい。曲げ弾性率が、100kg/cm2以上であれば、ある程度の押し込み性やトルク伝達性を備え、800kg/cm2以下であれば、ガイドワイヤーに対する追随性も十分であり、血管内壁に与える負荷も少ない。
また、軟質合成樹脂製内層4と外層5に使用される形成材料の硬度(曲げ弾性率、ASTM D−790、23℃)の差は、1000〜30000kg/cm2であることが好ましく、5000〜10000kg/cm2であることがより好ましい。
【0039】
この実施例のカテーテルでは、軟質合成樹脂製内層4の外周面のほぼ全体と外層5の内周面とが密着するとともに両者は固着されている。両者の固着方法としては、例えば、上述のように共押出により成形する方法、軟質合成樹脂製内層4と外層5とを接着剤または溶剤により接着する方法、軟質合成樹脂製内層4と外層5とを融着(例えば、熱融着、高周波融着)する方法、外層5を溶剤で膨潤させて軟質合成樹脂製内層4を挿入する方法、内層構成チューブの外面に外層形成材料をディッピング法、塗布法、押出法などにより被覆する方法などが挙げられ、さらには、外層形成材料として金属を用いる場合には上述した方法が挙げられる。
【0040】
溝の形成方法としては、切削加工、レーザ加工等が挙げられるが、高精度な微細加工を行うためにはレーザ加工が好ましく、レーザ加工の中でも、ポリマー加工に好適なエキシマレーザ加工が特に好ましい。ただし、レーザ加工により溝加工を行うときには、レーザ加工性が良好な材料を選定する必要がある。
【0041】
また、金属蒸着物からなる外層を有する二層構造チューブに上述したような溝を形成し、溝部分となる外層形成金属を除去した後、外層形成金属の上にさらに、同じもしくは異なる金属を電解メッキもしくは無電解メッキにより外層の肉厚を厚くなるように調整したものでもよい。メッキに使用される金属としては、上述した外層形成用金属が好適である。
【0042】
本発明の医療用チューブでは、予め形成された内層および外層の二層構造を有するチューブを外側(硬質外層側)から溝を形成したものであるので、内層および外層を薄くでき、肉薄でかつ優れた特性を有するものとすることができる。
【0043】
そして、図5ないし図7に示すカテーテル20(医療用チューブ)のように、外層5の外表面における溝の端部も面取りされた状態としてもよい。図5は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した他の実施例の部分省略拡大正面図である。図6は、図5に示した医療用チューブの先端部の拡大正面図である。図7は、図5に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。このカテーテル20のようにすることにより、溝の端部付近における物性の変化をある程度なだらかにすることができ、溝部分における湾曲が良好なものとなり、操作性が向上する。このカテーテル20(医療用チューブ)と上述したカテーテル1(医療用チューブ)との相違点は、上述した点のみでありその他の点については、図1ないし図4に示し説明したものと同じである。
【0044】
また、図8ないし図10に示すカテーテル30(医療用チューブ)のように、外層5の外表面に、複数の環状の溝39を設けたものとしてもよい。この実施例のカテーテル30(医療用チューブ)と図1ないし図4に示し説明したカテーテル1(医療用チューブ)の相違点は、溝形態のみであり、その他の点については、図1ないし図4に示し説明したものと同じである。
【0045】
このカテーテル30では、先端部に複数の環状溝39が形成されている。複数の環状溝39は、等間隔に配置してもよいが、図8ないし図10に示すように、溝形成部分36の先端部では隣り合う溝間隔が狭く、基端部では広くなるように形成することが好ましい。このようにすることにより、先端部に向かって柔軟になるので、カテーテルの先端部の湾曲が自然なものとなり、カテーテルの操作性が向上する。特に、図9に示すように、溝間隔は、溝形成部分の基端部に向かって徐々に広くなることが好ましい。このようにすることにより、先端部では非常に柔軟であり、先端柔軟性、トラッカビリティに優れ、基端部ではカテーテルに必要な硬度が確保され、プッシャビリティに優れたものとなる。
【0046】
溝間隔は、外層5(カテーテル)の外径などを考慮して決定されるので、一律なものではないが、溝形成部分における先端部において、0.1mm〜5mm程度が好ましく、基端部では、5mm〜10mmが好ましい。また、溝の幅は、0.1mm〜0.5mmが好ましく、特に、0.1mm〜0.2mmが好適である。さらに、溝の幅は、外層5(カテーテル)の外径の1/10〜1/2程度が好ましい。
【0047】
また、溝39の深さとしては、外層5を貫通し、軟質合成樹脂製内層4に到達していることが好ましい。このように、溝が外層5を貫通するものとすることにより、溝部分が軟質合成樹脂製内層のみより形成されるものとすることができ、溝部分を十分に柔軟なものとすることができる。さらに、溝39は、軟質合成樹脂製内層4内に到達していることが好ましい。また、軟質合成樹脂製内層4への侵入程度は、軟質合成樹脂製内層4の肉厚によっても相違するが、0〜100μm程度が好適であり、特に、20〜50μm程度である。また、軟質合成樹脂製内層4の肉厚の1/5〜1/3程度が好適である。
さらに、溝の底面は、丸みを帯びた形状となっていることが好ましい。溝の底面が矩形状となっているものに比べて、溝の底面は、丸みを帯びた形状とすることにより、溝の両端部における物性の変化をある程度なだらかにすることができ、湾曲が良好なものとなる。
【0048】
さらに、図11および図12に示すように、外層5の外表面における溝の端部も面取りされた状態としてもよい。
【0049】
また、上述したような複数の螺旋状の溝を設ける場合には、上述のような溝間隔が変化する形態に限られるものではなく、溝の幅が、先端部では広く、基端部では狭くなるように形成してもよい。このようにすることにより、溝形成部分の先端部側が基端部側より柔軟になるので、カテーテルの先端部の湾曲がより自然なものとなり、カテーテルの操作性が向上する。溝の幅は、外層5(カテーテル)の外径などを考慮して決定されるので、一律なものではないが、溝形成部分における先端部における幅を1としたとき、基端部分における溝の幅は、0.1〜0.8程度であることが好ましく、特に、0.3〜0.5程度が好ましい。特には、溝の幅が、溝形成部分の先端より基端側に向かって徐々に狭くなるようにすることが好ましい。さらに、上述のような溝間隔とともに、上述したように、溝の幅も変化するものとしてもよい。
【0050】
そして、上述したすべての実施例の医療用チューブ(カテーテル)の外面(特に、血液接触面)には、抗血栓性材料もしくは血液または生理食塩水等に接触したときに摩擦係数が減少して潤滑性を呈する親水性(または水溶性)高分子物質で覆われていることが好ましい。
【0051】
さらに、本発明の医療用チューブ(カテーテル)の外面を平坦なものとするために、柔軟な発泡材料(例えば、ポリウレタンフォーム)、柔軟な多孔質材料(例えば、コラーゲン)を溝内に補填するとともにカテーテル外面を被覆してもよい。また、本発明の医療用チューブ(カテーテル)の外面のエッジをなだらかなものとするために、溶媒で低粘度に希釈した柔軟なポリマー(例えば、ポリウレタン、エチレンビニルアセテート)をディッピングにより被覆してもよい。
【0052】
また、医療用チューブ(カテーテル)の外面に、血液に接触したときに潤滑性を呈する親水性高分子化合物を被覆してもよい。
チューブの外面に潤滑性物質を被覆する方法としては、湿潤時に潤滑性を呈する親水性高分子化合物、もしくはシリコーンオイル等を外面に被覆する方法が挙げられる。
【0053】
親水性高分子化合物としては、メチルビニルエーテル無水マレイン酸無水物共重合体、またはそのエステル化合物共重合体、ポリビニルピロリドン化合物、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0054】
このような親水性高分子化合物を被覆する方法としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアルデヒド、アルコール類、ジメチルスルホキシド等の適当な溶媒に上記親水性高分子化合物を溶解させ、この溶液を浸漬、塗布、吹き付け等の方法により、チューブ外面に含浸させ、含浸した後は乾燥あるいは水洗処理等により溶媒を除去し、親水性高分子化合物を基材の高分子材料内に残留させることが挙げられる。
このような潤滑性物質を被覆することにより、溝の形成によりチューブ外面の生体管腔内面の接触面積が低減されることと合わせて、チューブの摺動性を大きく向上させることができる。
【0055】
また、医療用チューブ(カテーテル)の外面に、抗血栓性材料を被覆してもよい。抗血栓性材料としては、ヘパリン、ポリアルキルスルホン、エチルセルロース、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体(例えば、ポリHEMA[ポリヒドロキシエチルメタアクリレート])、疎水性セグメントと親水性セグメントの両者を有するブロックまたはグラフト共重合体(例えば、HEMA−スチレン−HEMAのブロック共重合体、HEMA−MMA[メチルメタアクリレート]のブロック共重合体、HEMA−LMA[ラウリルメタアクリレート]のブロック共重合体、PVP[ポリビニルピロリドン]−MMAのブロック共重合体、HEMA−MMA/AA[アクリル酸]のブロック共重合体)、さらにこれらのブロック共重合体にアミノ基を有するポリマーを混合したブレンドポリマー、および含フッ素樹脂などが使用できる。好ましくは、HEMA−スチレン−HEMAのブロック共重合体、HEMA−MMAのブロック共重合体、HEMA−MMA/AAのブロック共重合体などである。そして、上記のヘパリンを除く親水性樹脂を血液接触面に被覆した後、さらにその上にヘパリンを固定することが好ましい。この場合、ヘパリンをこの親水性樹脂の表面に固定するためには、親水性樹脂は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、チオシアネート基、酸クロリド基、アルデヒド基および炭素−炭素二重結合のうちのいずれかを有するか、もしくは容易にこれらの基に変換可能な基を有していることが好ましい。特に好ましくは、上記親水性樹脂にアミノ基を有するポリマーを混合したブレンドポリマーを用いることであり、アミノ基を有するポリマーとしては、ポリアミン、特にPEI(ポリエチレンイミン)が好ましい。
【0056】
ヘパリンの固定は、医療用チューブ(カテーテル)の血液接触面に上記の親水性樹脂を被覆し、その表面にヘパリン水溶液を接触させた後、グルタールアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ホルムアルデヒドなどのアルデヒド類、ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、エピクロルヒドリン、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどの固定化剤と接触させることにより、上記の親水性樹脂に共有結合させ固定することができる。
このような抗血栓性材料の被覆層の壁厚は、チューブの柔軟性や外径に実質的に影響を及ぼさない程度に最小限とすることが好ましい。
【0057】
次に、本発明の医療用チューブの製造法について説明する。
本発明の医療用チューブの製造方法は、軟質合成樹脂からなる内層と、該軟質合成樹脂より硬質な材料からなる外層を有する管状体を準備する工程と、該管状体の表面を加工して、前記管状体の内部ルーメンには到達しない溝を形成する工程を備えている。
【0058】
そこで、各工程について説明する。
軟質合成樹脂からなる内層と、該軟質合成樹脂より硬質な材料からなる外層を有する管状体を準備する工程は、例えば、軟質合成樹脂を内層となるようにかつこの軟質合成樹脂よりも硬質な合成樹脂が外層となるように共押出することにより形成する方法、また、軟質合成樹脂からなる内層形成用管状体を作製し、この外面に軟質合成樹脂より硬質な材料からなる外層を形成する樹脂を被覆する方法、さらには、軟質合成樹脂からなる内層形成用管状体と、軟質合成樹脂より硬質な材料からなり、収縮前の内径が内層形成用管状体より大きく収縮後に内層形成用管状体に密着する熱収縮性を備える外層形成用管状体を準備し、外層形成用管状体内に内層形成用管状体を挿入し、加熱して外層形成用管状体を収縮させることにより形成する方法などにより行うことができる。
【0059】
外層形成用合成樹脂としては、比較的剛性な合成樹脂材料が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂もしくはそれらのポリオレフィン系エラストマー、フッ素系樹脂もしくはフッ素系エラストマー、メタクリル樹脂、ポリフェニレンオキサイド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミドもしくはポリアミド系エラストマー、ポリカーボネート、ポリアセタール、スチレン系樹脂もしくはスチレン系エラストマー、熱可塑性ポリイミド等が使用できる。またこれらの樹脂をベースとしたポリマーアロイあるいはポリマーブレンドを用いることも可能である。
【0060】
また、外層5は、金属材料により構成してもよい。金属材料としては、Cu、Ag、Au、Al、Ti、Pt、Ni、Zn、Pb等が使用される。金属により外層を形成する場合には、上記の金属により、肉薄の金属管としたものを用いてもよく、また、上述した内層の外面に上記のような金属を蒸着することにより、内層の外面に直接外層を被着させてもよい。さらに、このように金属蒸着物からなる外層を有する二層構造チューブに上述したような溝を形成し、溝部分となる外層形成金属を除去した後、外層形成金属の上にさらに、同じもしくはことなる金属をメッキに、外層の肉厚を調整したものでもよい。メッキに使用される金属としては、上述した外層形成用金属が好適である。
【0061】
内層形成用樹脂としては、外層形成用樹脂と比較して柔軟な合成樹脂が用いられる。例えば、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリブテンエラストマー、軟質塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂もしくはそれらのポリオレフィン系エラストマー、フッ素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、スチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーの材料が使用できる。またこれらの樹脂をベースとしたポリマーアロイあるいはポリマーブレンドを用いてもよい。
【0062】
ここで、ポリアミドエラストマーとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン64、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン46、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、N−アルコキシメチル変性ナイロン、ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸縮重合体、メタキシロイルジアミン−アジピン酸縮重合体のような各種脂肪族または芳香族ポリアミドをハードセグメントとし、ポリエステル、ポリエーテル等のポリマーをソフトセグメントとするブロック共重合体が代表的である。なお、ポリアミドエアラストマーには、上記以外に前記ポリアミドと柔軟性に富む樹脂とのポリマーアロイ(ポリマーブレンド、グラフト重合、ランダム重合等)や、前記ポリアミドを可塑剤等で軟質化したもの、さらには、これらの混合物をも含む。なお、可塑剤は、溶剤や血液等で抽出され難いものを用いることが好ましい。
【0063】
また、ポリエステルエラストマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の飽和ポリエステルと、ポリエーテルまたはポリエステルとのブロック共重合体が代表的である。なお、ポリエステルエラストマーには、上記以外に上記のポリエステルエラストマーのポリマーアロイや前記飽和ポリエステルを可塑剤等で軟質化したもの、さらには、これらの混合物をも含む。
【0064】
なお、前記エラストマーには、必要に応じ、アロイ化剤、相溶化剤、硬化剤、軟化剤、安定剤、着色剤等の各種添加物を配合してもよい。この場合、添加成分が溶剤、薬液、血液等で抽出され難いものを用いることが好ましい。また、エラストマーは、熱可塑性であることが好ましく、熱可塑性であれば、カテーテルの製造が容易である。
【0065】
また、外層もしくは内層形成用樹脂は、X線不透過物質を含有していてもよい。X線不透過物質としては、例えばタングステン、硫酸バリウム、ビスマス、金、白金等の金属単体もしくは化合物による微小粒体が好ましい。X線不透過物質の粒径としては、1〜5μmが好適である。そして、合成樹脂中へのX線不透過物質添加量としては、45重量%以下であり、特に、30重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、20重量%以下である。
【0066】
さらに、二層構造チューブを共押出により形成する場合には、外層及び内層形成用樹脂は、成形性の点から上記に挙げた樹脂のうち両者の相溶性の良い材料を選択することが必要である。相溶性がよいとは、熱力学的な相互溶解性が良好であることを示すものであり、言い換えれば、硬化後両者間において分離しないことを示すものである。具体的には、外層5と内層4の材料は、系統が同じ樹脂を選択することが望ましい。例えば、外層5の材料として剛性の高い高密度ポリエチレンを、内層4の材料として柔軟な低密度ポリエチレンを選択し両者をポリオレフィン系とすること、また、外層5の材料として剛性の高いナイロン12を、内層4の材料として柔軟なポリエーテルポリアミドブロック共重合体を選択し両者をポリアミド系とすること、また、外層5の材料として剛性の高いポリエチレンテレフタレートを内層4の材料として柔軟なポリエステル系エラストマーを選択し、両者をポリエステル系とすること等が考えられる。
【0067】
次に、上記の管状体の表面を加工して、前記管状体の内部ルーメンには到達しない溝を形成する工程が行われる。
管状体に内部ルーメンには到達しない溝を形成させる方法としては切削加工、レーザ加工等が挙げられるが、高精度な微細加工を行うためにはレーザ加工が好ましく、レーザ加工の中でも、ポリマー加工に好適なエキシマレーザ加工が特に好ましい。ただし、レーザ加工により溝加工を行うときには、レーザ加工性が良好な材料を選定する必要がある。
【0068】
また、金属蒸着物からなる外層を有する二層構造チューブに上述したような溝を形成し、溝部分となる外層形成金属を除去した後、外層形成金属の上にさらに、同じもしくは異なる金属を電解メッキもしくは無電解メッキにより外層の肉厚を厚くなるように調整してもよい。メッキに使用される金属としては、上述した外層形成用金属が好適である。
【0069】
そして、形成される溝形状としては、上述した螺旋状であることが好ましく、このような螺旋状の溝は、図13に示すように、管状体40を周方向に回転させながら軸方向に送りつつ、レーザ照射装置41により、ある形状のビームを管状体の外面に照射させることにより形成することができる。そして、管状体の内部ルーメンには到達しない溝とするために、ビームスポットの形状、管状体表面におけるビームのエネルギー密度、単位時間当たりのビーム照射パルス数、管状体の移動速度などを調整する。また、螺旋状溝は、上述したように、医療用チューブの溝形成部分の先端側ではピッチが短く、基端側では長いものとすることが好ましい。このために、管状体の軸方向への送り速度は、図13に示す矢印方向に向かって徐々に速くすることにより、形成される溝のピッチを上記のように変化させることができる。
【0070】
また、ビームスポットの形状は、丸、楕円、三角形、四角形、平行四辺形、その他の形状いずれでもかまわないが、螺旋ピッチを変化させても溝幅が一定である丸形状が好適であり、また、ビームスポットの大きさは、0.02〜0.5mmが好ましい。また、このような、丸形状のビームスポットを用いることにより、溝の断面形状が丸みを帯びたものとなり、角張った断面形状の場合と比べて、医療用チューブの湾曲時に効果的に曲げ応力が分散され、耐キンク性に優れた特性となる。溝の深さは、外層5の肉厚を十分除去できるぐらいの深さが好ましく、具体的には最大深さで0.02〜0.2mmが好ましい。
【0071】
本発明の医療用チューブの製造方法により製造される医療用チューブの硬度の設定要素として、加工溝に関しては、螺旋溝ピッチ、溝の幅、溝パターン、溝深さ等が挙げられ、またチューブに関しては、チューブ内外層の材料、内外層の肉厚比、チューブサイズ等が挙げられる。これらのパラメーターを任意に設定することにより、さまざまな機械的物性を持つ医療用チューブを製造することが可能となる。また、螺旋ピッチは任意に設定することで機械的物性の傾斜勾配を自由に設定することが可能であり、また、一部を部分的に硬くすることも可能である。そして、本発明の医療用チューブは、チューブ外壁に螺旋溝加工を形成させたものであり、コイル形状にはなっていないため、トルク伝達性も良好である。
【0072】
【実施例】
外層形成材料として、ポリブチレンテレフタレート(ポリプラスチック株式会社,商品名ジュラネックス,グレード2002、曲げ弾性率26000kg/cm2、ASTM D−790、23℃)を用いた。
内層形成材料として、ポリエステル系エラストマー(東洋紡株式会社,商品名ペルプレン,グレードP30B−05、曲げ弾性率150kg/cm2、ASTM D−790、23℃)を用いた。
両者のペレットを多層押出成形機(KILLION(株),型式KL−075,19mm)を用いて、銅線被覆成形により、外径1.5mm、内径1.0mm(外層の肉厚、約0.07mm、内層の肉厚約0.18mm)の二層構造管状体を銅線上に作製した。なお、押出成形温度は、樹脂製造メーカーの推奨する温度にて行い、銅線は外径1.0mmのものを使用した。二層構造管状体内の銅線を抜去し、外径0.9mmの芯がねを通し、オーブン中で120℃、4時間アニーリングし成形後に生じる残留応力歪みを除去して、内部にルーメンを備える二層構造管状体を得た。
【0073】
この二層構造管状体の外壁に、エキシマレーザ(住友重機械工業(株),型式PM−848)にて螺旋溝加工を実施した。エキシマレーザの加工方法は、マスク形状を縮小投影させるマスクイメージング法を用いた。レーザ加工条件は、チューブ表面でのエネルギー密度は約9.0J/cm2とし、発振周波数を100Hzとした。レーザのビーム断面形状は丸形状とし、ビームスポットの直径は、約0.19mmとし、ビームスポットが二層構造管状体の外壁上面に接触するように配置し、外層の肉厚約0.07mmを十分除去できるように配置およびチューブの移動速度を設定した。
【0074】
そして、上記条件において、チューブの移動速度を変更することにより、螺旋溝のピッチが3.0mm(溝形成部分の長さ30mm)の医療用チューブ(実施例1)、螺旋溝のピッチが7.0mm(溝形成部分の長さ30mm)の医療用チューブ(実施例2)、螺旋溝のピッチが11.0mm(溝形成部分の長さ30mm)の医療用チューブ(実施例3)、螺旋溝のピッチが15.0mm(溝形成部分の長さ30mm)の医療用チューブ(実施例4)を作製した。
【0075】
また、上記条件において、チューブの移動速度を徐々に速くすることにより、螺旋溝のピッチが、先端部分(始端部分)3.0mmから終端部分15mmまで徐々に広くなる(溝形成部分の長さ200mm)医療用チューブ(実施例5)を作製した。
【0076】
(実験)
上記の実施例1ないし4の医療用チューブおよび溝形成を行わない以外は上記の実施例と同様に行った二層構造管状体(比較例)を、オートグラフ(島津オートグラフ,AGS−100A)を使用し、支点間距離20mm、テストスピード5mm/minの測定条件で3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。その結果は、表1に示す通りであった。
なお、ここでいう曲げ弾性率とは、通常の3点曲げ試験により求められる弾性変形領域における2点間の荷重−変位勾配と、支点間距離及び断面2次モーメントの関数として算出される曲げに対するヤング率のことである。またこのとき、チューブの断面2次モーメントはチューブ表面の螺旋溝へ媒体が充填されているものと仮定して計算した。
【0077】
【表1】
Figure 0003645109
【0078】
この結果から、螺旋ピッチを大きくするにつれて曲げ弾性率も大きくなり、螺旋ピッチ15.0mmのチューブは螺旋ピッチ3.0mmのチューブと比較して約5.5倍も硬くなることがわかった。また、螺旋ピッチ3.0mmのチューブは、未加工のチューブと比較して約1/7も柔軟になることがわかった。従って、本発明の医療用チューブにより、機械的物性をチューブ各位置により変化させることが可能であることが確認された。
【0079】
【発明の効果】
本発明の医療用チューブは、内部に形成されたルーメンと、軟質合成樹脂製内層と、該合成樹脂製内層の外面を被覆するとともに前記内層形成材料より硬質な材料により形成された外層とを備える医療用チューブであって、該医療用チューブは、前記外層の外面より前記ルーメン方向に延びるとともに、前記ルーメンに到達しない深さの溝を備えている。
【0080】
このため、プッシャビリティ、トラッカビリティ、トルク伝達性、耐キンク性とともに、先端柔軟性を有し、かつ、中間部分において、物性の急激な変化点がなく物性がなだらかに変化するため、キンクが生じにくく、チューブは良好に湾曲でき、医療用として有効である。
【0081】
また、本発明の医療用チューブの製造方法は、軟質合成樹脂からなる内層と、該軟質合成樹脂より硬質な材料からなる外層を有する管状体を準備する工程と、該管状体の表面を加工して、前記外層表面側より前記内層に達し、かつ前記医療用チューブの内部ルーメンには到達しない溝を形成する工程とを備えている。このため、上記のような医療用チューブを確実かつ容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した実施例の部分省略拡大正面図である。
【図2】図2は、図1に示した医療用チューブの断面図である。
【図3】図3は、図1に示した医療用チューブの先端部の拡大正面図である。
【図4】図4は、図1に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。
【図5】図5は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した他の実施例の部分省略拡大正面図である。
【図6】図6は、図5に示した医療用チューブの先端部の拡大正面図である。
【図7】図7は、図5に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。
【図8】図8は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した他の実施例の部分省略拡大正面図である。
【図9】図9は、図8に示した医療用チューブの先端部の拡大正面図である。
【図10】図10は、図8に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。
【図11】図11は、本発明の医療用チューブをカテーテルに応用した他の実施例の先端部の拡大正面図である。
【図12】図12は、図11に示した医療用チューブの先端部の拡大断面図である。
【図13】図13は、医療用チューブの製造方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
1 カテーテル(医療用チューブ)
2 カテーテル本体
3 ルーメン
4 軟質合成樹脂製内層
5 外層
6 溝形成部分(先端部分)
7 本体部
9 溝
11 ハブ

Claims (8)

  1. 内部に形成されたルーメンと、軟質合成樹脂製内層と、該合成樹脂製内層の外面を被覆するとともに前記内層形成材料より硬質な合成樹脂材料により形成された外層とを備え、前記外層及び前記内層の材料は相溶性の良い材料により形成された前記外層及び前記内層が密着した二層構造チューブからなる医療用チューブであって、該医療用チューブは、前記外層の外面より前記ルーメン方向に延びるとともに、前記ルーメンに到達しない深さの溝を備え、かつ該溝の底部部分は、軟質合成樹脂製内層内に到達していることを特徴とする医療用チューブ。
  2. 前記溝の底面は、丸みを帯びた形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の医療用チューブ。
  3. 前記溝は、螺旋状に形成されている請求項1または2に記載の医療用チューブ。
  4. 前記溝は、チューブの基端側より先端側のピッチが短いものとなっている請求項3に記載の医療用チューブ。
  5. 前記医療用チューブの表面には、合成樹脂被覆層を有している請求項1ないしのいずれかに記載の医療用チューブ。
  6. 前記医療用チューブは、カテーテルである請求項1ないしのいずれかに記載の医療用チューブ。
  7. 前記外層及び前記内層が密着した二層構造チューブからなる医療用チューブは、前記軟質合成樹脂を内層となるようにかつ該軟質合成樹脂よりも硬質かつ相溶性を有する合成樹脂が外層となるように共押出することにより形成されたものである請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用チューブ。
  8. 軟質合成樹脂を内層となるようにかつ該軟質合成樹脂よりも硬質かつ相溶性を有する合成樹脂が外層となるように共押出することにより、内層と外層を有する管状体を準備する工程と、該管状体の表面を加工して、前記外層表面側より前記内層に達し、かつ前記医療用チューブの内部ルーメンには到達しない溝をレーザ照射により形成する工程とを備えることを特徴とする医療用チューブの製造方法。
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