JP3644586B2 - 磁気記録媒体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンピュータ等の情報機器用記憶装置(例:内蔵型または外付け型のハードディスク)で使用される磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、コンピュータ等の情報機器用記憶装置に関して、記憶容量を高める一方で小型化が求められている。例えば、職場のみならず一般家庭へのパーソナルコンピュータの普及にともなって、より軽量かつ小型のコンピュータ本体が求められると同時に、小型でありながらより記憶容量の大きいハードディスクドライブが求められている。
【0003】
ハードディスクドライブの主要構成部品である磁気記録媒体は、情報を磁気的に記録する部品であり、非磁性基板上にCr下地膜、CoCrTa系合金磁性膜、カーボン系保護膜(C系保護膜)を成膜することにより形成されている。磁気記録密度向上の観点からカーボン系保護膜の薄膜化が急激に進み、これを実現する成膜手法として、これまでのスパッタ法からプラズマ−CVD法に代わりつつある。
【0004】
プラズマ−CVD法では、原料ガスを成膜室(真空容器)内に導入し、高周波や電子流等によってガスをプラズマ化させ、その中のイオンを基板に堆積している。しかし、ただ堆積するだけでは良質な膜が得られず、一般的には基板に100〜400Vの負の電位を印加する形をとっている。プラズマ−CVD法に適用される装置の一例を図6に示す。
【0005】
図6は、ECR−プラズマCVD装置の断面図である。ECR−プラズマCVD装置の真空容器10にはECR−プラズマを形成するキャビティ23が備えられており、キャビティ23の底にはマイクロ波電源21(周波数2.45GHz)から発せられるマイクロ波を伝送する導波管22および原料ガス(メタンガス)を供給するガス流量制御器3が設けられている。導波管22とキャビティ23の境界にはマイクロ波を透過させ、ガスを透過させない絶縁窓25が嵌めてある。また、真空容器10には内部の圧力を制御する排気装置(図示せず)が接続されている。キャビティ23の外側には電子サイクロトロン共鳴(ECR)を起こすためのコイル24が設けられている。真空容器10内には、積層基板2を直接支持する複数の導電性の支持治具42を有する導電性の基板ホルダ41が装着されている。バイアス電源5は基板ホルダ41に接続されており、支持治具42を介して積層基板2はバイアス電位とされる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、磁気記録密度を向上させるには、保護膜の薄膜化が必要不可欠である。これまでのところ、耐久性の向上には、バイアス電位として、積層基板に負電位を印加する方法が有効とされている。耐久性は印加する負電位が大きいほど向上していくが、印加する負電位が大きくなるにしたがって積層基板外周部において電界の集中が発生し、イオンが外周部に引きつけられる。これによって、積層基板(すなわち磁気記録媒体)の外周部において膜厚の増加という現象が発生し、磁気ヘッドの浮上特性および電磁変換特性の悪化を招くため、保護膜の膜厚を一定にすることが解決すべき課題としてある。このような課題を解決するための一手段として、特開平10−172140号公報では、プラズマCVDの反応圧力を3.5Pa以下にしてECR−プラズマを実施する磁気記録媒体の製造方法や、直接接触して基板を支持する支持治具の、直接プラズマに接触する表面を絶縁シールドで被覆することが開示されている。このような製造方法はたいへん優れたものではあるが、圧力を低下させると不安定になるという問題点を有しており、新たな製造方法が求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的はこのような課題を解決し、均一な膜厚を有する保護膜が施された磁気記録媒体およびその製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の第1の実施態様は、スパッタリング法を用いて、円環状の非磁性基板上にCrを含む非磁性下地層と、Coを含む磁性記録層とを積層することによって、円環状の積層基板を設ける第1の工程と、前記積層基板上にバイアスを印加するプラズマ−CVD法を用いて、前記磁性記録層を保護するための保護膜を前記積層基板上に成膜する第2の工程とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、前記第2の工程を実施する際に、前記円環状の積層基板と同心的かつ平行して、所定の電位が印加された円環状のエッジシールドが前記積層基板の両側に所定の距離離間して配置され、さらに前記エッジシールドの内径は前記積層基板の外径よりも大きく、前記プラズマ−CVD法は、イオンビーム法であり、前記エッジシールドの電位を0Vとすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法である。
【0009】
好ましくは、前記エッジシールドと前記積層基板との離間距離は、4mmから6mmの範囲内であり、また前記エッジシールドの内径と前記積層基板の外径との寸法差は1.5mmから3.0mmの範囲内である。
【0010】
好ましくは、前記第2の工程で前記保護膜が成膜された前記磁気記録媒体は、前記保護膜の半径方向の膜厚面内分布が2.0%以下である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施態様である磁気記録媒体の製造方法は、スパッタリング法を用いて、中心部に円弧状の開口部が形成された円板状(本明細書中において、円環状と称する)の非磁性基板上にCrを含む非磁性下地層とCoを含む磁性記録層とを積層することによって、円環状の積層基板を設ける第1の工程と、積層基板上にバイアスを印加するプラズマ−CVD法を用いて、磁性記録層を保護するための保護膜を積層基板上に成膜する第2の工程とを有する。さらに、第2の工程を実施する際に、円環状の積層基板と同心的かつ平行して、所定の電位が印加された円環状のエッジシールドを積層基板の両側に所定の距離離間して配置し、さらにエッジシールドの内径を積層基板の外径よりも大きくする(図1参照)。
【0015】
スパッタリング法を用いる非磁性基板上へのCrを含む非磁性下地層およびCoを含む磁性記録層の積層は、当該技術において知られている方法を用いて行うことができる。
【0016】
本発明において作成される保護膜は、主としてカーボンを含む。
【0017】
本発明におけるプラズマ−CVD法において、プラズマの発生方法として、高周波グロー放電法、ECR法などの当該技術において知られている方法を用いることができる。あるいはまた、イオンビーム法を用いることもできる。なお、本発明におけるイオンビーム法とは、発生させたプラズマから所望の電荷のイオンのみを取り出し、それをビームとして積層基板に照射するものである。また、用いられる装置は、本発明のエッジシールドを取り付けることができる限りにおいて、当該技術において知られている装置を用いることができる。
【0018】
図1に示すように、エッジシールド1は、アルミ合金製の円環状プレートからなり、成膜時に積層基板2の両側に該積層基板を挟みこむかたちで配置することによりイオンの流れを制御する。エッジシールド1の内径は積層基板2の外径よりも大きい。具体的には、例えば積層基板2の内径を20mm、外径を64mmとした場合、エッジシールド1の内径は65.5mmから67.0mmの範囲内、また外径は172mmから180mmの範囲内である。すなわち、エッジシールド1の内径と積層基板2の外径との寸法差は1.5mmから3.0mmの範囲内である。エッジシールドの外径の寸法は、積層基板2の外径よりも充分に大きいことが好ましい。さらに、エッジシールド1と積層基板2との離間距離は、4mmから6mmの範囲内とする。
【0019】
なお、エッジシールド1を形成するアルミ合金は、成膜によって付着した保護膜の剥離を防止する加工を施すことが好ましい。そのような加工は、たとえば、サンドブラストした後に、Alを溶射することによるエッジシールド表面の粗面化を含む。
【0020】
本発明による保護膜の作製時において、円環状の積層基板は、バイアスとして、アース電位に対して0〜150Vの、好ましくは60〜120Vの電位を印加される。一方、エッジシールドは、アース電位とすることが好ましい。エッジシールドの電位をアース電位とすることにより、積層基板(すなわち磁気記録媒体)に対する付着物(パーティクル)の発生を防止するのに有効である。
【0021】
このように構成されることで、プラズマ−CVD成膜中において、成膜室(真空容器)内にエッジシールドを配置することにより、積層基板バイアスにより引き寄せられるイオンが選択的に積層基板の外周部に集中するのを防ぐことにより、積層基板(すなわち磁気記録媒体)への付着物の増加を抑制しつつ、膜厚の内外周差を改善することができる。
【0022】
内径20mmおよび外径64mmのCrを含む非磁性下地層とCoを含む磁製記録層を積層したアルミ合金製基板に対する保護膜の形成を、以下のようにして行った。イオンビーム法(後述)を用いるプラズマ−CVD装置中に前記の積層基板を配置し、そしてその積層基板から5mm離隔して、前記積層基板の両側に内径66mmおよび外径176mmを有するアルミ合金製エッジシールドを、前記積層基板と平行になるように配置した。エッジシールドは、サンドブラスト後にAlを溶射することにより、その表面を粗面化したものを用いた。次に表1に示す条件にてプラズマ−CVD装置を運転し、積層基板上の保護膜(厚さ8nm)を作成した。なお、表1中の電位は、全てアース電位に対する電位である。
【0023】
また、エッジシールドを用いなかったことを除いて上記の手順を繰り返して、比較のための保護膜を作成した。
【0024】
【表1】
【0025】
つぎに、上述の製造方法によって得られる磁気記録媒体の表面の状態を光学表面分析装置(Optical Surface Analyzer、以下、OSAと呼ぶ)による光学的手法によって評価する。
【0026】
図2および図3は、OSAの測定結果として表される磁気記録媒体表面全体を示す平面図であり、図2はエッジシールドを用いない場合、図3はエッジシールドを用いた場合を示す。これらの図において、該媒体上の濃淡は、保護膜の分布を示し、色の濃い部分ほど膜厚が厚いことに相当する。エッジシールド無しの状態(図2)で保護膜の成膜を行った場合は、磁気記録媒体最外周部において膜厚が急激に増加していることが読み取れる。一方、エッジシールドを用いた場合、色の濃淡から外周部の膜厚の急激な増加が大幅に改善されていることが解る。
【0027】
図4および図5に上記の結果を数値化したものを示す。図4はエッジシールド有りの場合、図5はエッジシールド無しの場合である。これらの図の縦軸は磁気記録媒体の反射率を表しているが、これは保護膜の膜厚と相関を持ち、反射率が低いほど保護膜が厚いことを示している。横軸は磁気記録媒体中心からの距離(内側の縁から外側の縁に向けた半径方向の距離)を表す。なお、反射率の最大値および最小値は、磁気記録媒体中心からの特定の距離にある円周上における反射率の最大値および最小値をプロットしたものであり、円周方向の膜厚分布を示すものである。
【0028】
本発明に適用されるエッジシールドが無い状態では(図5参照)、外周部(40mm以上)で膜厚が大きく変動しているのに加え、反射率の最大値・最小値の幅が大きく、外周部における円周方向の分布も悪いことを示唆している。一方、本発明のエッジシールドのある状態においては(図4参照)、外周部での膜厚の変動が小さく、および磁気記録媒体中心からのいずれの距離においても、膜厚の最大値と最小値との差が小さくなっていることから、円周方向の膜厚分布も改善されていることが読みとれる。
【0029】
本測定法より反射率から膜厚を算出したことろ、エッジシールドの付加によって膜厚面内分布が2.0%から1.6%に改善されたことが解った。膜厚面内分布とは、磁気記録媒体中心からの距離に対する保護膜の膜厚の変化率を意味する。これは、図4および図5に示すようなグラフにおいて、反射率を膜厚に変換した後に1次直線によるカーブフィッティングを行い、得られる直線の傾きに相当する。
【0030】
加えて、図4および図5における最小値の曲線に見られるピークの存在は、磁気記録媒体上の付着物(パーティクル)の存在を示唆するものである。図4と図5との比較において、エッジシールドを用いた場合に、エッジシールドを用いない場合よりもパーティクルの数が少ないことがわかる。すなわち、エッジシールドという物体を成膜室に配置しても、連続成膜の過程でエッジシールドに堆積した膜が剥がれ落ち、磁気記録媒体上のパーティクルが増加する等の副次的に発生する悪影響がないことを示唆している。
【0031】
上記のように、本発明のエッジシールドを用いることにより保護膜の膜厚の変動、すなわち面内分布の差を小さくすることができた。また、磁気記録媒体上の付着物が少ないことも好適である。したがって、本発明のエッジシールドを用いることにより、保護膜で被覆される積層基板のバイアスを高くして、保護膜の耐久性を向上させることができる。
【0032】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、保護膜を形成するイオンの発生において、プラズマ−CVD法としてイオンビーム法を用いることができる。
【0033】
本発明におけるイオンビーム法においてプラズマを発生させるためのカソードとしては、タングステン合金製のフィラメントを用いることができ、ここから電子を放出してプラズマを形成する。次に、アノードに0〜200V(対アース電位)を印加して、所望のイオンを、所望の方向すなわち積層基板の方向に加速して照射する。この際に、反対電荷のイオンは積層基板と反対の方向に加速され、積層基板には到達しない。さらに、積層基板に対して0〜−150V(積層基板に照射するイオンが正に荷電している場合、対アース電位)のバイアスを印加することにより、積層基板表面に良好に保護膜を形成することができる。なお、この際にアノードおよび積層基板に高周波の直流パルスを与えることにより所望の電位を与えてもよい。アノードおよび積層基板に与える直流パルスは、独立的に制御可能であることが好ましい。
【0034】
本発明の第2の実施態様である磁気記録媒体は、磁気記録媒体外周部での膜厚の変動が小さく、かつ面内の膜厚の分布差も小さいので、コンピュータ等の情報機器用記憶装置で使用するのに適当である。また付着物(パーティクル)が少ないことも、該用途にとって適切である。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、積層基板バイアスを印加した際に生ずる磁気記録媒体外周部での保護膜の膜厚変動および面内の保護膜の膜厚の分布差を、磁気記録媒体上にパーティクルを増加させることなく減少することが可能となる。このことはさらなる積層基板への高バイアス印加を可能にし、耐久性の向上が達成可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法に適用されるエッジシールドの構成を説明するための模式的斜視図である。
【図2】従来の製造方法(エッジシールドを用いない)にもとづいて製造された磁気記録媒体のOSA測定結果として表される基板表面全体を示す平面図である。
【図3】本発明の製造方法(エッジシールドを用いる)にもとづいて製造された磁気記録媒体のOSA測定結果として表される基板表面全体を示す平面図である。
【図4】図3に示す本発明の製造方法にもとづいて製造された磁気記録媒体のOSA測定結果を数値化して表したグラフである。
【図5】図2に示す従来の製造方法にもとづいて製造された磁気記録媒体のOSA測定結果を数値化して表したグラフである。
【図6】従来の磁気記録媒体の製造方法に適用可能なECR−プラズマCVD装置の構成を説明するための模式的断面図である。
【符号の説明】
1 エッジシールド
2 積層基板
3 ガス流量制御器
5 バイアス電源
10 真空容器
21 マイクロ波電源
22 導波管
23 キャビティ
24 コイル
25 絶縁窓
41 基板ホルダ
42 支持治具
Claims (3)
- スパッタリング法を用いて、円環状の非磁性基板上にCrを含む非磁性下地層と、Coを含む磁性記録層とを積層することによって、円環状の積層基板を設ける第1の工程と、前記積層基板にバイアスを印加するプラズマ−CVD法を用いて、前記磁性記録層を保護するための保護膜を前記積層基板上に成膜する第2の工程とを有する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記第2の工程を実施する際に、前記円環状の積層基板と同心的かつ平行して、所定の電位が印加された円環状のエッジシールドが前記積層基板の両側に所定の距離離間して配置され、さらに前記エッジシールドの内径は前記積層基板の外径よりも大きく、
前記プラズマ−CVD法は、イオンビーム法であり、および
前記エッジシールドの電位を0Vとすることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。 - 前記エッジシールドと前記積層基板との離間距離は、4mmから6mmの範囲内であり、また前記エッジシールドの内径と前記積層基板の外径との寸法差は1.5mmから3.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
- 前記第2の工程で前記保護膜が成膜された前記磁気記録媒体は、前記保護膜の半径方向の膜厚面内分布が2.0%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
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