JP3634997B2 - 磁気ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は高い磁気抵抗効果を有する強磁性トンネル効果膜に関し、特に磁気ディスク装置などに用いる再生用磁気ヘッドに適した磁気抵抗効果素子に関する。
【従来の技術】
高密度磁気記録における再生用磁気ヘッドとして、磁気抵抗効果を用いた磁気ヘッドの研究が進められている。現在、磁気抵抗効果材料としては、Ni−20at%Fe合金薄膜が用いられている。しかし、Ni−20at%Fe合金薄膜を用いた磁気抵抗効果素子は、バルクハウゼンノイズなどのノイズを示すことが多く、他の磁気抵抗効果材料の研究も進められている。最近、スエザワ(Y.Suezawa)らによるプロシーディングス オブ ザ インターナショナル シンポジウム オン フィジックス オブ マグネティック マテリアルス(Proceedings of the International Symposium on Physics of Magnetic Materials),303〜306ページ(1987年)に記載の「エフェクト オブ スピン・ディペンデント トンネリング オン ザ マグネティック プロパティス オブ マルチレイヤード フェロマグネティック シンフィルムス(Effect of Spin−dependent Tunneling on the Magnetic Properties of Multilayered Ferromagnetic Thin Films)」のように、強磁性トンネル効果を示すNi/NiO/Co多層膜が報告されている。この多層膜の抵抗変化率は、室温で、1%程度である。
【発明が解決しようとする課題】
上記Ni/NiO/Co多層膜では、上記スエザワらの論文に記載のように、異なる保持力を持つNi層とCo層の間にNiO層を形成している。このような多層膜において電気抵抗の変化する原因は以下のように考えられる。Ni層とCo層の保磁力が異なるため、磁界の大きさを変化させた場合、ある磁界のところで、片方の層の磁化の向きが磁界の向きに変化する。しかし、他方の層の保磁力は磁界よりも大きいため、その層の磁化の向きは変化しない。さらに、磁界が大きくなり、両方の保磁力よりも大きくなった時、残りの層の磁化の向きも変化し、両層の磁化の向きは平行になる。すなわち、両層の保磁力の間の大きさの磁界では、両層の磁界の向きは、互いに、反平行である。また、この磁界の範囲以外では、磁化の向きは平行である。NiO層をトンネル電流が流れる場合、上記磁性層の磁化の向きが、互いに、反平行である時より、磁化の向きが平行である時の方が、コンダクタンスは高い。このため、磁界の大きさによって、素子の電気抵抗が変化するものと考えられる。
上記のような、強磁性トンネル膜を磁気ヘッドへ適用する場合を考えた場合、磁気ヘッドが低い磁界を検出する必要がある。しかし、上記多層膜の磁性層の保磁力は数十Oeであり、従って、数十Oe以下の磁界は検出できない。
本発明の目的は、上述の強磁性トンネル素子を磁気ヘッドに適用する時の問題を解消し、低い磁界を検出できる磁気抵抗効果素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、強磁性トンネル効果を示す多層膜について鋭意研究を重ねた結果、磁性膜を軟磁性材料とし、一方の磁性層に反強磁性体からのバイアス磁界を印加し、磁性層の磁化の方向を制御することができることを明らかにし、本発明を完成するに至った。
すなわち、強磁性トンネル効果膜の2層の磁性層の保磁力が大きく異ならなくても(2層の材料が同じであっても)、一方の磁性層に反強磁性体からのバイアス磁界を印加すると、両層の磁化の向きが変化する磁界を変えることができる。このため、ある磁界の範囲内では、両層の磁化の向きは反平行、その範囲以外では、両層の磁化の向きは平行となり、磁気抵抗効果を示すようになる。
また、上記強磁性トンネル効果膜の少なくとも一部を非磁性金属上に形成することにより、磁気記録媒体に対向する磁性層の面積を小さくすることができ、狭い領域の磁界を検出することが可能となる。
上述のように、強磁性トンネル効果膜の2層の磁性層の保磁力が大きく異ならなくても(2層の材料が同じであっても)、一方の磁性層に反強磁性体からのバイアス磁界を印加すると、両層の磁化の向きが変化する磁界を変えることができる。このため、ある磁界の範囲内では、両層の磁化の向きは反平行、その範囲以外では、両層の磁化の向きは平行となり、磁気抵抗効果を示すようになる。
また、上記強磁性トンネル効果膜の少なくとも一部を非磁性金属上に形成することにより、磁気記録媒体に対向する磁性層の面積を小さくすることができ、狭い領域の磁界を検出することが可能となる。
【発明の実施の形態】
以下に本発明の一実施例を挙げ、図表を参照しながらさらに具体的に説明する。
(実施例1)
強磁性トンネル効果膜の作製にはイオンビーム・スパッタリング装置を用いた。スパッタリングは以下の条件で行った。
イオンガス・・・Ar
装置内Arガス圧力・・・2.5×10−2Pa
蒸着用イオンガス加速電圧・・・1200V
蒸着用イオンガスイオン電流・・・120mA
ターゲット基板間距離・・・127mm
基板にはコーニング社製7059ガラスを用いた。
図1に、本発明の強磁性トンネル効果膜の一例を示す。本実施例における強磁性トンネル効果膜は基板11上に、膜厚100nmのFe−1.0at% C合金からなる下部磁性層12、膜厚10nmのAl2O3からなる中間層13、膜厚100nmのFe−1.0at% C合金からなる上部磁性層14、膜厚50nmのCrからなる反強磁性層15を順に形成したものである。
上記強磁性トンネル効果膜の磁化曲線をB−Hカーブトレーサを用いて4.2Kの温度で測定した。測定した磁化曲線を図2に示す。同図に示すように、下部磁性層12および上部磁性層14の保磁力は、ともに、7Oeである。しかし、上部磁性層14には反強磁性層15からのバイアス磁界が印加されており、磁化の向きが変化する磁界の大きさが、高磁界側にシフトしている。このため、負の磁界から正の磁界の方に磁界を増加する場合、7〜24Oeの磁界の範囲で下部磁性層12および上部磁性層14の磁化の向きは互いに反平行であり、それ以外の範囲では、磁化の向きは互いに平行である。また、正の磁界から負の磁界の方に磁界を減少する場合、−7〜10Oeの磁界の範囲で下部磁性層12および上部磁性層14の磁化の向きは互いに反平行であり、それ以外の範囲では、磁化の向きは互いに平行である。
上記の磁化が反平行になる磁界では、強磁性トンネル効果膜の電気抵抗は高く、磁化が平行になる磁界では、電気抵抗が低くなるものと考えられる。
そこで、上記強磁性トンネル効果膜の電気抵抗の変化を調べるために、図3のような素子を作製した。上記素子の作製プロセスを以下に述べる。まず、非磁性基板上に幅10μm、厚さ100nmのCu電極31をイオンビームスパッタリング法およびイオンミリング法で形成する。次に、Cu電極31の上に、10μm×10μm×膜厚100nmのFe−1.0at%C合金からなる下部磁性層32、10μm×10μm×膜厚10nmのAl2O3からなる中間層33、10μm×10μm×膜厚100nmのFe−1.0at%C合金からなる上部磁性層34、10μm×10μm×膜厚50nmのCrからなる反強磁性層35を順に形成する。次に、段差を樹脂で平坦化し、反強磁性層35に接触するように、Cu電極36を形成する。
ヘルムホルツコイルを用いて、Cu電極の長手方向と直角の面内方向に磁界を印加し、電気抵抗の変化を調べた。測定は、4.2Kの温度で行った。磁界と電気抵抗の変化との関係を図4に示す。同図のように、磁界の強さによって、素子の電気抵抗が変化する。最大の抵抗変化率は約3.6%であった。電気抵抗が最大になる磁界の値は、0Oeおよび16Oe程度であり、従来の強磁性トンネル効果膜よりも低い。これは、本発明の強磁性トンネル効果膜が比較的保磁力の低い磁性層のみを用いているためである。従来の強磁性トンネル効果膜は、2層の磁性層の保持力を異なる値にしなければならなかったため、素子の動作する磁界が大きくなっていた。本発明の強磁性トンネル効果膜は低い磁界で動作するため、これを用いた磁気抵抗効果素子は、従来の素子よりも磁気ヘッドに有利である。
また、本発明の強磁性トンネル効果膜は、軟磁性膜だけで構成されている。軟磁性膜は磁気異方性の分散が小さく、このため、各磁性層の微小な部分の磁化の方向が、きちんと、平行、反平行の角度を取り、中間の角度を取りにくい。強磁性トンネル効果は、各磁性層の磁化の向きのなす方向に依存するので、中間の角度を取りにくい、本発明のような、軟磁性膜のみで構成されている強磁性トンネル効果膜の抵抗変化率は比較的高いものとなる。
また、本発明のように、磁気抵抗効果膜のすくなくとも一部を非磁性金属上に形成することにより、流した電流がすべて中間層を通るようになり、効果的に磁気抵抗効果を検出することができる。また、磁気ヘッドへの応用を考えると、本発明のように、磁気抵抗効果膜のすくなくとも一部を非磁性金属上に形成することにより、磁気記録媒体に対向する磁性層の断面積を小さくすることができ、狭い領域の磁界を検出することが可能となる。これに対し、従来の強磁性トンネル素子は、Y. Suezawaらによる Proceedings of the International Symposium on physics of Magnetic Materials, 303〜306ページ(1987年)に記載の「Effect of Spin−dependent Tunneling on the Magnetic Properties of Multilayered Ferromagnetic Thin Films」のように、上部磁性層と下部磁性層が互いに直交する長方形であるため、磁気記録媒体に対向する磁性層の断面積が大きく、狭い領域の磁界を検出することが困難であった。
また、本実施例では、磁性層として、Fe−1.0at% C合金層、中間層として、Al2O3層を用いたが、磁性層として、他の磁性材料、中間層として他の絶縁材料を用いても同様の効果がある。また、反強磁性層についても、磁気抵抗効果を測定する温度以上のネール点をもつ反強磁性材料であれば、磁気抵抗効果が得られる。
また、本実施例では、上部磁性層の上に反強磁性層を形成したが、反強磁性層は下部磁性層の下に形成しても同様の効果がある。
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、磁気抵抗効果素子を作製した。磁性層として、Fe−1.0at% C合金層、中間層として、Al2O3を用いた。反強磁性層としては、Cr−1at%Ru合金、Cr−25at%Au合金を用いた。本実施例の磁気抵抗効果素子における電気抵抗変化率は、室温で、Cr−1at%Ru合金を用いた場合、1.5%、Cr−25at%Au合金を用いた場合、1.8%であった。また、電気抵抗が最大になる磁界は、実施例1の素子とほぼ同じ磁界であった。
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、磁気抵抗効果素子を作製した。磁性層として、Fe−1.0at%C合金層、中間層として、Al2O3層を用いた。反強磁性層としては、Fe−50at%Mn合金を用いた。また、Fe−1.0at%C合金層とFe−50at%Mn合金層の間には、膜厚5nmのNi−20at%Fe合金層を設けた。この理由は以下のとおりである。
Fe−50at%Mn合金層は、体心立方構造の材料の上に形成すると、α相の構造になりやすい。α相の構造のFe−Mn系合金のネール点は室温よりも低い。これに対し、Fe−50at%Mn合金層は、面心立方構造の材料の上に形成すると、γ相の構造になりやすい。γ相の構造Fe−Mn系合金のネール点は室温よりも高い。従って、室温で動作する磁気抵抗効果素子を得るため、Fe−1.0at%C合金層とFe−50at%Mn合金層の間に、面心立方構造のNi−20at%Fe合金層を設けた。
本実施例の磁気抵抗効果素子における電気抵抗変化率は、室温で、1.6%であった。また、電気抵抗が最大になる磁界は、実施例1の素子とほぼ同じ磁界であった。
【発明の効果】
以上詳細に説明したごとく、強磁性トンネル効果膜の2層の磁性層の保磁力が大きく異ならなくても(2層の材料が同じであっても)、一方の磁性層に反強磁性体からのバイアス磁界を印加すると、両層の磁化の向きが変化する磁界を変えることができ、磁気抵抗効果を示すようになる。また、上記強磁性トンネル効果膜の少なくとも一部を非磁性金属上に形成することにより、磁気記録媒体に対向する磁性層の面積を小さくすることができ、狭い領域の磁界を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の強磁性トンネル膜の断面構造の概略図。
【図2】本発明の強磁性トンネル膜の磁化曲線の図。
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の概略図。
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子に印加する磁界と抵抗変化率との関係を示すグラフの図。
【符号の説明】
11…基板、12…下部磁性層、13…中間層、14…上部磁性層、15…反強磁性層、31…Cu電極、32…下部磁性層、33…中間層、34…上部磁性層、35…反強磁性層、36…Cu電極。
Claims (4)
- 第1の金属層と強磁性トンネル効果膜と第2の金属層とを有し、該強磁性トンネル効果膜は第1の磁性層と絶縁材料からなる中間層と第2の磁性層とを有すると共に一方の磁性層にバイアス磁界を印加する反強磁性層を有し、上記中間層を通って上記第1の磁性層と上記第2の磁性層との間にトンネル電流が流れる状態で、上記一方の磁性層の磁化方向が変化する磁界の大きさが他方の磁性層の磁化方向が変化する磁界の大きさより大きくなるように構成した磁気ヘッドの製造方法であって、
基板上に、上記第1の金属層、強磁性トンネル効果膜、第2の金属層をこの順に積層して磁気ヘッドを製造するに際して、上記一方の磁性層の下に上記反強磁性層を形成したことを特徴とする磁気ヘッド製造方法。 - 上記第1の金属層及び第2の金属層として、非磁性金属層を用いることを特徴とする請求項1記載の磁気ヘッドの製造方法。
- 第1の金属層と強磁性トンネル効果膜と第2の金属層とを有し、該強磁性トンネル効果膜は第1の磁性層と絶縁材料からなる中間層と第2の磁性層とを有すると共に一方の磁性層にバイアス磁界を印加する反強磁性層を有し、上記中間層を通って上記第1の磁性層と第2の磁性層との間にトンネル電流が流れる状態で、上記磁気抵抗効果膜の電気抵抗率が、上記第1の磁性層および第2の磁性層の磁化の向きが平行の時より上記第1の磁性層および第2の磁性層の磁化の向きが反平行の時の方が高くなるように構成した磁気ヘッドの製造方法であって、
基板上に、上記第1の金属層、強磁性トンネル効果膜、第2の金属層をこの順に積層して磁気ヘッドを製造するに際して、上記一方の磁性層の下に上記反強磁性層を形成したことを特徴とする磁気ヘッドの製造方法。 - 上記第1の金属層及び第2の金属層として、非磁性金属層を用いることを特徴とする請求項3記載の磁気ヘッドの製造方法。
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