JP3634728B2 - 非水電解質電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、正極活物質を含む正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、溶媒及び溶質を備えた電解液とが外装体内に配置された非水電解質電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、コバルト酸リチウムを正極活物質とする一方、リチウムイオンを吸蔵、放出し得る炭素材料等を負極活物質とする非水電解質電池が、注目されている。
【0003】
このようにコバルト酸リチウムを正極活物質として用いた場合には、サイクル特性や負荷特性等の通常時の電池特性に優れる反面、過充電試験や高温放置試験等の異常時における電池の信頼性という面では、電池単独での対策が不十分である。そこで、異常時における電池の信頼性を向上すべく、電池外部に保護回路や保護素子等(以下、保護回路等という)を設け、これら保護回路等と電池とをパック化するという手段が採られている。このように保護回路等と電池とをパック化するという手段を用いれば、異常時における電池の信頼性は向上するものの、保護回路等は高価であるため高コスト化を招来したり、更に、電池パック内に保護回路等を配置するための余分なスペースが必要となるということから、高エネルギー密度化を図ることができないといった課題を有していた。したがって、低コストで高エネルギー密度化を図るには、異常時においても保護回路等を不要とするような電池単体での特性が必要となる。
【0004】
そこで、異常時における電池単体での信頼性を向上すべく、例えば、過充電特性や熱安定性に関しては、これらの耐性にすぐれたマンガン酸リチウムを正極活物質として用いることや、セパレータを改良することにより、一定の効果をあげているものの、過放電特性に関しては、これといった対策が採られていないのが現状である。これは、過充電特性や熱安定性に関しては、電池の安全性に直結する課題であるため、企業や大学において積極的に研究がなされているが、過放電特性は電池の安全性に直結するものではないため、企業や大学において積極的に研究が行われていないということに起因するものと考えられる。
【0005】
しかしながら、過放電異常を招くと、電池電圧の低下により、正極電位の低下や負極電位の上昇が生じ、電解液が分解して電池内で多量のガスが発生するという課題や、不可逆領域まで正極を過放電すると、正極活物質の結晶構造が変化してしまうため、再度充放電することができなくなるといった課題を生じる。即ち、過充電特性や熱安定性を向上させても、過放電特性をも向上させないと、保護回路等が必要となるため、電池の低コスト化や高エネルギー密度化を図ることができないという問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上の事情に鑑みなされたものであって、過放電特性を向上させることにより、保護回路等を不要とし、これにより、低コスト化や高エネルギー密度化を図ることができる非水電解質電池の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうちで請求項1記載の発明は、正極活物質を含む正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、溶媒及び溶質を備えた電解液とが外装体内に配置された非水電解質電池において、上記正極活物質は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、上記電解液の溶媒には、ビニレンカーボネートが添加され、且つ、上記電解液の溶質には、一般式LiPF6-X ( Cn 2n+1)X 〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たし、望ましくはX=2又は3であり、特に望ましくはX=2又は3で、且つn=2を満たす〕で示されるリチウム塩が含まれていることを特徴とする。
【0008】
上記構成の如く、電解液の溶媒にVCが添加され、且つ、電解液の溶質には、一般式LiPF6−X ( C 2n+1で示されるリチウム塩が含まれていれば、VCとLiPF6−X ( C 2n+1とから成る分解物が負極活物質上で良好な複合被膜を形成するので、過放電時にコバルトやマンガンが溶解し、これらが負極上に析出することによる負極活物質への直接的なダメージを抑制することができるので、過放電特性が向上する。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記正極活物質には、スピネル型マンガン酸リチウムが含まれていることを特徴とする。
正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いた場合には、過放電時におけるコバルト酸リチウムの可逆性が低いということに起因して、本発明をコバルト酸リチウムに適用しても飛躍的な過放電特性の向上は見られない。これに対して、正極活物質に正極電位が落ち難いマンガン酸リチウムが含まれている場合には、正極電位の低下を正極活物質への影響が少ない電位領域までに抑制することができ、且つ、前述の如く、VCとLiPF6−X ( C 2n+1とから成る良好な複合被膜により負極活物質への直接的なダメージを抑制することができるので、過放電特性が飛躍的に向上する。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記一般式LiPF6−X ( C 2n+1で表されるリチウム塩のモル濃度が、0.3mol/l以上であることを特徴とする。
上記の如く、一般式LiPF6−X ( C 2n+1で表されるリチウム塩のモル濃度を0.3mol/l以上に規制するのは、LiPF(Cのモル濃度が0.3mol/l未満であれば、過放電後の容量回復率が十分に確保されないという理由による。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1、2又は3記載の発明において、上記電解液の溶媒に対する上記VCの質量比をy(wt%)と規定した場合、当該質量比yが0<y≦5、望ましくは0<y≦3であることを特徴とする。
上記の如く、VCの添加量を規制するのは、VCの添加量が5wt%を越えると著しく電池の内部抵抗が大きくなって、通常の使用領域での電池特性は大幅に低下するという理由によるものである。特に、VCの添加量が2wt%以下であれば、電池の内部抵抗の増大が十分に抑制されるので、VCの添加量が2wt%以下であることが、特に望ましい。
【0012】
また、請求項5記載の発明は、請求項2、3又は4記載の発明において、上記正極活物質の総量に対する上記スピネル型マンガン酸リチウムの質量比をz(wt%)と規定した場合、当該質量比zが20≦zであることを特徴とする。
上記の如く、スピネル型マンガン酸リチウムの割合を規制するのは、正極活物質の総量に対するマンガン酸リチウムの割合が質量比で20wt%未満であると、過放電後の容量回復率の大幅な改善が見られないからである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の形態〜第4の形態を、以下に説明する。
(第1の形態)
本発明の第1の形態を、図1〜図4に基づいて、以下に説明する。
図1は本発明の第1の形態に係る非水電解質電池の正面図、図2は図1のA−A線矢視断面図、図3は本発明の第1の形態に係る非水電解質電池に用いられる発電要素の斜視図、図4はラミネート外装体の断面図である。
【0014】
図3に示すように、本発明の非水電解質電池は、LiCoOを主体とする正極1と、炭素材料を主体とする負極2と、これら両電極を離間するポリエチレン製のセパレータ(図3においては図示せず)とから成る発電要素4を有しており、上記正極1にはアルミニウムから成る正極タブ8が、また上記負極2にはニッケルから成る負極タブ9がそれぞれ接続されている。
【0015】
上記発電要素4は、図1及び図2に示すように、収納空間5内に配置されており、この収納空間5は、ラミネート外装体6の上下端と中央部とをそれぞれ封止部7a・7b・7cで封口することにより形成される。また、収納空間5には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に2wt%のVCを添加したものに、LiPF(CF)が1mol/lの割合で溶解された電解液が注入されている。
【0016】
上記ラミネート外装体6の具体的な構造は、図4に示すように、アルミニウム層(厚み:30μm)21の一方の面に、ウレタン系接着剤から成る接着剤層(厚み:2μm)25を介してナイロン層(厚み:25μm)22が接着され、このナイロン層22にウレタン系接着剤から成る接着剤層(厚み:2μm)26を介してポリエチレンテレフタレート層(厚み:12μm)23が接着される一方、アルミニウム層21の他方の面には、変性ポリプロピレンから成る接着剤層(厚み:2μm)27を介してポリプロピレン層(厚み:40μm)24が接着される構造である。
【0017】
ここで、前記正極タブ8と前記負極タブ9とは、上記ラミネート外装体6の封止部7aから突出している。正極タブ8は正極側の外部端子を兼用する一方、負極タブ9は負極側の外部端子を兼用している。尚、上記構造の電池の容量は600mAである。
【0018】
ここで、上記構造の電池を、以下のようにして作製した。
先ず、正極活物質としてのLiCoOと炭素導電剤とグラファイトとフッ素樹脂系結着剤とを質量比で、92:3:2:3の割合で混合して正極合剤を作製した後、この正極合剤をアルミニウムから成る帯状の正極芯体の両面に塗着し、更に圧延、乾燥することにより正極1を作製した。
【0019】
これと並行して、負極活物質としての炭素材料とスチレン系結着剤とを質量比で、98:2の割合で混合して負極合剤を作製した後、この負極合剤を銅から成る帯状の負極芯体の両面に塗着し、更に乾燥、圧延することにより負極2を作製した。
次に、これら正負極1・2に、それぞれ正極タブ8と負極タブ9とを取り付けた後、正負極1・2をセパレータを介して配置する。しかる後、正負両極1・2及びセパレータを偏平渦巻状に巻回して、図3(図3においては、セパレータは省略している)に示すような発電要素4を作製した。
【0020】
次いで、7層構造のラミネート材を用意した後、このラミネート材における両端のポリプロピレン同士を重ね合わせ、更に、重ね合わせ部をインパルス加熱法により溶着して、封止部7cを形成した。次に、この筒状のラミネート材の収納空間5内に発電要素4を挿入した。この際、筒状のラミネート材の一方の開口部から両タブ8・9が突出するように発電要素4を配置した。次に、この状態で、両タブ8・9が突出している開口部のラミネート材を溶着して封止し、封止部7aを形成した。この際、溶着は高周波誘導加熱装置を用いて行った。
【0021】
次に、この状態で、真空加熱乾燥(温度:105℃)を2時間行い、ラミネート材及び発電要素4の水分を除去した。この後、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に2wt%のVCを添加したものに、LiPF(CF)が1mol/lの割合で溶解された電解液を注入した。しかる後、上記封止部7aとは反対側のラミネート材の端部を高周波誘導溶着装置を用いて溶着し、封止部7bを形成することにより、非水電解質電池を作製した。
【0022】
(第2の形態)
正極活物質として、コバルト酸リチウムに代えてスピネル型マンガン酸リチウムを用いた他は、上記第1の形態と同様にして電池を作製した。
【0023】
(第3の形態)
正極活物質として、コバルト酸リチウムに代えてマグネシウム置換マンガン酸リチウム(結晶格子の一部をマグネシウムで置換したスピネル型マンガン酸リチウム)を用いた他は、上記第1の形態と同様にして電池を作製した。
【0024】
(第4の形態)
正極活物質として、コバルト酸リチウムに代えてアルミニウム置換マンガン酸リチウム(結晶格子の一部をアルミニウムで置換したスピネル型マンガン酸リチウム)を用いた他は、上記第1の形態と同様にして電池を作製した。
【0025】
なお、本発明に用いられる電解液の溶媒としては上記のものに限らず、例えばエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の低粘度低沸点溶媒とを適度な比率で混合した溶媒を用いることができる。
【0026】
また、電解液の溶質としては、上記LiPF(CF)の他、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C等を用いることができる。
【0027】
更に、電解液の溶質には上記LiPF(CF)等が含まれていれば良く、必ずしも電解液の溶質が全てLiPF(CF)等から構成されている必要はない。
加えて、外装体としてはアルミラミネート外装体に限定するものではなく、SUSから成る外装缶、或いはアルミニウム又はアルミニウム合金から成る外装缶でも良いことは勿論である。
【0028】
【実施例】
(第1実施例)
〔実施例1〕
実施例1としては、上記第1の形態に示す方法で作製した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池A1と称する。
【0029】
〔実施例2〜10〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(Cを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ本発明電池A2〜A10と称する。
【0030】
〔比較例1〜10〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記実施例1〜10と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池W1〜W10と称する。
【0031】
〔比較例11〜13〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF、LiBF、LiClOを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池W11〜W13と称する。
【0032】
〔比較例14〜16〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記比較例11〜13と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池W14〜W16と称する。
【0033】
〔実験〕
上記本発明電池A1〜A10及び比較電池W1〜W16を、下記の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、下記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表1に示す。
【0034】
・充電条件
充電電流500mAで電池電圧が4.2Vとなるまで定電流で充電し、電池電圧が4.2Vに到達した後は電流値が25mA以下となるまで定電圧で充電するという条件
・放電条件
放電電流500mAで電池電圧が3.0Vまで定電流で放電するという条件
尚、充電と放電との間隔(休止時間)は10分間とした。
・過放電条件
電池電圧が1.0Vとなるまで微小電流10mAで放電した後、60℃で5日間放置するという条件
【0035】
【数1】
Figure 0003634728
【0036】
【表1】
Figure 0003634728
【0037】
表1から明らかなように、溶媒にVCが添加され、且つ、溶質が、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で示されるリチウム塩から成る本発明電池A1〜A10は、同じリチウム塩を溶質とするが溶媒にVCが添加されていない比較電池W1〜W10と比べて、過放電後の容量回復率が高くなっていることが認められる。
【0038】
この原因についての詳細は明らかではないが、電池組立後の初期の充放電反応で、リチウム塩の一部とVCとが分解、反応して、負極活物質上に複合性の良質な被膜(以下複合被膜という)が形成されていることによるものと考えられる。具体的には、比較電池W1〜W10では、過放電という異常反応によって、正極の電位が強制的に低下させられ、正極活物質中からコバルトがイオンとして溶解し、それが負極活物質上に析出することによって負極の電位が上昇する。その結果、電解液の分解や活物質自体の劣化が生じるため、過放電後の再充放電では十分な放電容量が得られない。特に、コバルト析出による負極活物質のダメージは非常に大きいものとなるため、上記再充放電時の放電容量が著しく低下する。これに対して、本発明電池A1〜A10では、負極活物質上に上記複合性の被膜が析出されるので、負極活物質のダメージが大幅に軽減され、再充放電時の放電容量の低下が抑制される。尚、複合被膜は正極活物質上にも形成され、コバルトの溶解そのものを抑制している可能性もあるが、これについては現在調査中である。
【0039】
また、複合被膜は、リチウム塩の種類によって性質が異なるものと考えられ、−P( C 2n+1)−部分とVCとの分解反応による複合被膜が負極活物質との親和性やコバルトイオンの析出抑制に大きな効果があるものと考えられる。具体的には、VCが添加され且つ電解液の溶質としてLiPF、LiBF、LiClOの何れかを用いた比較電池W11〜W13では、VCは添加されていないが電解液の溶質としてLiPF、LiBF、LiClOの何れかを用いた比較電池W14〜W16と比べて、過放電後の容量回復率が殆ど変わらないことが認められる。したがって、リチウム塩としては、−P( C 2n+1)−部分を有するLiPF6−X ( C 2n+1で示されるものが含まれていることが必要であることが分かる。
【0040】
加えて、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で示されるリチウム塩の中でも、Xが2又は3の本発明電池A2、A3、A7、A8が良好であり、その中でも、nが2の本発明電池A7、A8が特に良好であることが認められる。この理由は定かではないが、リチウム塩が分解してVCと複合する形態が、nが2でXが2又は3の場合に、最も良好であるためと考えられる(即ち、主として分解に寄与している部分は−P( C 2n+1)−部分であると考えられ、その量〔Xの値〕が多すぎても、少なすぎても本来必要な複合膜が形成されないという理由によるものと考えられる)。
尚、上記実験では示していないが、コバルト酸リチウムと同じような層構造をもつニッケル酸リチウムについても同様の効果があることを、実験により確認している。
【0041】
(第2実施例)
〔実施例1〕
実施例1としては、上記第2の形態に示す方法で作製した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池B1と称する。
【0042】
〔実施例2〜10〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(Cを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ本発明電池B2〜B10と称する。
【0043】
〔比較例1〜10〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記実施例1〜10と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池X1〜X10と称する。
【0044】
〔比較例11〜13〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF、LiBF、LiClOを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池X11〜X13と称する。
【0045】
〔比較例14〜16〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記比較例11〜13と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池X14〜X16と称する。
【0046】
〔実験〕
上記本発明電池B1〜B10及び比較電池X1〜X16を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】
Figure 0003634728
【0048】
表2から明らかなように、正極活物質としてマンガン酸リチウムを用いた場合でも、溶媒にVCが添加され、且つ、溶質が、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で示されるリチウム塩を含む本発明電池B1〜B10は、同じリチウム塩を溶質とするが溶媒にVCが添加されていない比較電池X1〜X10と比べて、過放電後の容量回復率が高くなっていることが認められる。この原因は、前記第1実施例の実験で示した理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0049】
但し、マンガン酸リチウムを正極活物質として用いた場合には、コバルト酸リチウムを正極活物質として用いた場合に比べて、過放電状態での結晶格子からのマンガンイオン(コバルトイオン)の溶解がより起こり易くなって、イオンの溶解による負極活物質の劣化が一層大きくなるので、複合被膜を形成することによる改善効果も大きくなることが表1及び表2から明らかである。
【0050】
また、コバルト酸リチウムを正極活物質として用いた場合と同様に、VCが添加され且つ電解液の溶質としてLiPF、LiBF、LiClOの何れかを用いた比較電池X11〜X13では、VCは添加されていないが電解液の溶質としてLiPF、LiBF、LiClOの何れかを用いた比較電池X14〜X16と比べて、過放電後の容量回復率が殆ど変わらないことが認められる。したがって、リチウム塩としては、−P( C 2n+1)−部分を有するLiPF6−X ( C 2n+1で示されるものが含まれていることが必要であることが分かる。
【0051】
加えて、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で示されるリチウム塩の中でも、Xが2又は3の本発明電池B2、B3、B7、B8が良好であり、その中でも、nが2の本発明電池B7、B8が特に良好であることが認められる。この理由は、前記第1実施例の実験でおいて述べた理由と同様の理由によるものと考えられる。
【0052】
(第3実施例)
〔実施例1〕
実施例1としては、上記第3の形態に示す方法で作製した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池C1と称する。
【0053】
〔実施例2〜10〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(Cを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ本発明電池C2〜C10と称する。
【0054】
〔比較例1〜10〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記実施例1〜10と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池Y1〜Y10と称する。
【0055】
〔比較例11〜13〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF、LiBF、LiClOを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Y11〜Y13と称する。
【0056】
〔比較例14〜16〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記比較例11〜13と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池Y14〜Y16と称する。
【0057】
〔実験〕
上記本発明電池C1〜C10及び比較電池Y1〜Y16を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表3に示す。
【0058】
【表3】
Figure 0003634728
【0059】
表3から明らかなように、結晶格子の一部をマグネシウムで置換したスピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合にも、無置換のスピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合と同様の傾向があることが確認された。
【0060】
(第4実施例)
〔実施例1〕
実施例1としては、上記第4の形態に示す方法で作製した電池を用いた。
このようにして作製した電池を、以下、本発明電池D1と称する。
【0061】
〔実施例2〜10〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(CF、LiPF(C)、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(Cを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ本発明電池D2〜D10と称する。
【0062】
〔比較例1〜10〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記実施例1〜10と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池Z1〜Z10と称する。
【0063】
〔比較例11〜13〕
電解液の溶質として、LiPF(CF)の代わりに、それぞれLiPF、LiBF、LiClOを用いた他は、上記実施例1と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、比較電池Z11〜Z13と称する。
【0064】
〔比較例14〜16〕
VCを添加しない他は、それぞれ上記比較例11〜13と同様にして電池を作製した。
このようにして作製した電池を、以下、それぞれ比較電池Z14〜Z16と称する。
【0065】
〔実験〕
上記本発明電池D1〜D10及び比較電池Z1〜Z16を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表4に示す。
【0066】
【表4】
Figure 0003634728
【0067】
表4から明らかなように、結晶格子の一部をアルミニウムで置換したスピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合にも、無置換のスピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合と同様の傾向があることが確認された。
上記表3及び表4から明らかなように、結晶格子の一部を異種元素で置換するか否かに係わらず、スピネル型マンガン酸リチウムを用いた場合には同様の効果があることが分かる。
【0068】
尚、結晶格子内に置換可能な異種元素としては、上記マグネシウム、アルミニウムの他に、リチウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、銅、ニオブ、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、亜鉛、鉄、モリブデン、錫などがあり、その中でも特にリチウム、マグネシウム、アルミニウムが最適である。
【0069】
(第5実施例)
〔実験1〕
正極活物質材料として、マンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムとの混合物を用いる他は、前記第1実施例の実施例8に示す本発明電池A8〔ECとDECとが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に2wt%のVCを添加したものに、LiPF(Cが1mol/lの割合で溶解された電解液を有する電池〕と同様の電池を、マンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムとの混合比率を変化させて種々作製した。そして、これら電池を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表5及び図5に示す。
【0070】
【表5】
Figure 0003634728
【0071】
表5及び図5から明らかなように、正極活物質の総量に対するマンガン酸リチウムの割合が質量比で20wt%以上であれば、過放電後の容量回復率が大幅に改善することが認められた。
【0072】
このような結果となったのは、図6に示すように、スピネル型マンガン酸リチウムでは4V電圧領域以外に2.8V電圧領域でも放電曲線がプラトーとなる特性を有しているため、過放電時にリチウム過剰状態となっても正極の電位が落ち難くなっていることが要因であると思われる。即ち、混合系正極では、マンガン酸リチウムが過放電時の正極電位の低下を抑制するため、コバルト酸リチウムの可逆性が維持できる電圧領域までしか電位の低下が起こらず、その結果、コバルト酸リチウムの劣化が抑制されて、容量維持率の向上が図られるものと考えられる。より具体的にいうと、コバルト酸リチウムは、通常使用される範囲以下の電圧領域では、放電曲線がプラトーとなる箇所がないため、結晶構造が完全に壊れる領域まで、容易に過放電される危険性があるのに対して、マンガン酸リチウムは2.8V付近にプラトーとなる電位を有するため、結晶構造の変化はこの段階で一時抑制することができる。このため、過放電による結晶構造の変化を極力抑えることができるので、正極活物質の劣化が抑制される。このことは、混合系でも同様に考えることができ、マンガン酸リチウムの混合割合が多くなると、これに比例して、2.8V付近のプラトーとなる電位が増加するため、正極活物質の劣化が抑制されることになる。
【0073】
また、マンガン酸リチウムの混合量に応じて容量維持率に差異が見られる理由としては、混合系正極では過放電時にマンガン酸リチウムの方に負荷の割合が多くなるため、マンガン酸リチウムの混合量が少ない電池では劣化の程度が大きくなり過ぎることが原因と考えられる。したがって、正極活物質の総量に対するマンガン酸リチウムの割合は質量比で20wt%以上であることが望ましい。
【0074】
尚、上記効果は、リチウム塩としてLiPF(Cを用いた場合に限定するものではなく、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で表されるリチウム塩を用いた場合には、上記と同様の効果が得られることを実験により確認している。
【0075】
また、上記実験では、マンガン酸リチウムに混合する正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いたが、これに限定するものではなく、例えば、ニッケル酸リチウム、或いはコバルト酸リチウムとニッケル酸リチウムとの混合物を用いた場合であっても、上記と同様の効果が得られることを実験により確認している。
【0076】
〔実験2〕
VCの添加量を変える他は、前記第1実施例の実施例8に示す本発明電池A8と同様の電池を種々作製し、これら電池を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表6及び図7に示す。
【0077】
【表6】
Figure 0003634728
【0078】
表6及び図7から明らかなように、電解液の溶媒に対するVCの添加量が増加するに伴って、過放電後の容量回復率は高くなっている反面、VCの添加量が増加するに伴って、電池作製時の電池の内部抵抗が大きくなるということが認められる。特にVCの添加量が5wt%を越えると著しく電池の内部抵抗が大きくなる。このように電池の内部抵抗が大きくなると、通常の使用領域での電池特性は大幅に低下するので、VCの添加量は5wt%以下であることが望ましく、特に2wt%以下であることが望ましい。
【0079】
尚、上記効果は、リチウム塩としてLiPF(Cを用いた場合に限定するものではなく、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で表されるリチウム塩を用いた場合には、上記と同様の効果が得られることを実験により確認している。
【0080】
〔実験3〕
LiPF(Cのモル濃度を変化させる〔但し、電池の充放電性能を維持する目的から、LiPF(Cのモル濃度を減少させた分だけ代替品としてのLiPFを添加し、トータルのリチウム塩濃度が1mol/lとなるように調整している〕他は、前記第1実施例の実施例8に示す本発明電池A8と同様の電池を種々作製し、これら電池を、前記第1実施例の実験と同様の条件で充電、放電、及び過放電し、更に、前記数1で示す容量回復率を算出したので、その結果を下記表7及び図8に示す。
【0081】
【表7】
Figure 0003634728
【0082】
表7及び図8から明らかなように、LiPF(Cのモル濃度が減少するにしたがって、過放電後の容量回復率は低下していくが、LiPF(Cのモル濃度が0.3mol/l以上であれば、過放電後の容量回復率は十分に確保されていることが認められる。
【0083】
この要因の詳細は不明であるが、LiPF(Cのモル濃度が0.3mol/l以上であれば、LiPF(C以外のリチウム塩が混合されている場合においても、充電初期に分解したLiPF(CとVCとの複合被膜が負極活物質上に形成され、マンガン析出抑制効果が十分に発揮されていることによるものと考えられる。一方、LiPF(Cのモル濃度が0.3mol/l未満になると、その効果が大きく低減するのは、その他のリチウム塩(上記実験ではLiPF)との相互作用により、LiPF(CとVCとの複合被膜が負極活物質上に十分に形成されないという理由によるものと考えられる。したがって、LiPF(Cのモル濃度が0.3mol/l以上であることが望ましい。
【0084】
尚、上記効果は、リチウム塩としてLiPF(Cを用いた場合に限定するものではなく、一般式LiPF6−X ( C 2n+1〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たす〕で表されるリチウム塩を用いた場合には、上記と同様の効果が得られることを実験により確認している。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、過放電特性が飛躍的に向上するので、保護回路等が不要となり、これにより、非水電解質電池の低コスト化や高エネルギー密度化を図ることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の形態に係る非水電解質電池の正面図。
【図2】図1のA−A線矢視断面図。
【図3】本発明の第1の形態に係る非水電解質電池に用いられる発電要素の斜視図。
【図4】ラミネート外装体の断面図。
【図5】マンガン酸リチウムの混合量と容量回復率との関係を示すグラフ。
【図6】マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、及びマンガン酸リチウムとコバルト酸リチウムとの混合物における容量と正極電位との関係を示すグラフ。
【図7】VCの添加量と容量回復率及び内部抵抗との関係を示すグラフ。
【図8】LiPF(Cのモル濃度と容量回復率との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1:正極
2:負極
4:発電要素
5:収納空間
6:ラミネート外装体
8:正極タブ
9:負極タブ

Claims (5)

  1. 正極活物質を含む正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極活物質を含む負極と、溶媒及び溶質を備えた電解液とが外装体内に配置された非水電解質電池において、
    上記正極活物質は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含み、
    上記電解液の溶媒には、ビニレンカーボネートが添加され、且つ、上記電解液の溶質には、一般式LiPF6-X ( Cn 2n+1)X 〔尚、Xは1〜5の整数で、且つn=1又は2を満たし、望ましくはX=2又は3であり、特に望ましくはX=2又は3で、且つn=2を満たす〕で示されるリチウム塩が含まれていることを特徴とする非水電解質電池。
  2. 上記正極活物質には、スピネル型マンガン酸リチウムが含まれている、請求項1記載の非水電解質電池。
  3. 上記一般式LiPF6−X ( C 2n+1で表されるリチウム塩のモル濃度が、0.3mol/l以上である、請求項1又は2記載の非水電解質電池。
  4. 上記電解液の溶媒に対する上記ビニレンカーボネートの質量比をy(wt%)と規定した場合、当該質量比yが0<y≦5、望ましくは0<y≦3である、請求項1、2又は3記載の非水電解質電池。
  5. 上記正極活物質の総量に対する上記スピネル型マンガン酸リチウムの質量比をz(wt%)と規定した場合、当該質量比zが20≦zである、請求項2、3又は4記載の非水電解質電池。
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