JP3633699B2 - コエンドロ抽出物の使用 - Google Patents

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コエンドロ属（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ）に属する植物の全草または果実抽出物の使用、特に皮膚外用組成物およびテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性組成物に関する。
【０００２】
【従来の技術】
テストステロンから、いわゆる作用型アンドロゲンと称される５α−ジヒドロテストステロンへの変換に関与するテストステロン５α−レダクターゼ（または５α−ヒドロゲナーゼ）活性の阻害物質が、各種植物体から抽出される。そして、これらの物質の作用機序を考慮し、脂腺系の活動亢進によって生じるざ瘡、特に尋常性ざ瘡（ニキビ）や脱毛防止に該物質を使用することが提案されている（例えば、特開昭６０−１４６８２９号、同６３−８８１２１号および同６４−３１２５号公報参照）。
【０００３】
上記特開昭６０−１４６８２９号公報によれば、各種生薬エキスが雄性ラットの前立腺、睾丸から調製された５α−リダクターゼ阻害活性を有し、尋常性ざ瘡や毛髪阻害などの予防もしくは治療に有効であることが記載されている。そして、高阻害活性が、アセンヤク、ゴバイシおよびヨクイニンに認められ、中程度の阻害活性がウイキョウ等に認められている。
【０００４】
また、特開昭６３−８８１２１号公報によれば、人毛根を用いる５α−リダクターゼ阻害活性の測定法により、タデ科（Ｐｏｌｙｇｏｎａｃｅａｅ）のギシギシ（Ｒｕｍｅｘ ｊａｐｏｎｉｃｕｓ Ｈｏｕｔｔ．）に由来する抽出物が、高阻害活性を示し、養毛料、尋常性ざ瘡治療剤などに使用できることが示唆されている。
【０００５】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来技術は、それぞれ一定の目的を達成できることが記載されている。しかし、殊に、養毛剤としての実使用の現状を考慮すると、さらなる多様な起源からの高活性組成物を提供する必要性は依然として存在する。したがって、本発明の目的は、ヒトの毛髪の成長サイクルに対する作用を知る上で、より適切なアッセイ系とみなせる人毛根を用い、高い５α−リダクターゼ阻害活性をもつ組成物を提供することにある。
【０００６】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、多種多様な植物からの抽出物について、人毛根を用い５α−リダクターゼ阻害活性を評価してきたところ、特に、セリ科（Ｕｍｂｅｌｌｉｆｅｒａｅ）のコエンドロ属（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ）に属する植物の全草または果実由来の抽出物が、強力な５α−リダクターゼ阻害活性を有することを見い出した。
【０００７】
したがって、本発明によれば、コエンドロ属（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ）に属する植物の全草または果実抽出物を有効成分として含んでなる皮膚外用組成物が提供される。また、もう一つの態様の本発明によれば、コエンドロ属（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ）に属する植物の全草または果実抽出物を有効成分として含んでなるテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性組成物が提供される。
【０００８】
さらに、これらの組成物の使用を、ざ瘡、特に尋常性ざ瘡の予防または治療に向けた組成物、ならびに頭髪の育毛に向けた組成物も提供される。
【０００９】
本発明で用いるコエンドロ属に属する植物の具体的なものとしては、一般にコエンドロと称されているコリアンダー サチバム エル（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ ｓａｔｉｖｕｍ Ｌ．）を挙げることができるが、本発明の目的に沿うかぎり、それらの変種、亜種等をはじめとする他の種に属するものであってもよい。本発明に従う抽出物は、これらの植物の全草または未熟果実から有利に得られるが、成熟果実から調製してもよい。
【００１０】
抽出物は、上記全草または未熟果実を、生のまま、或いは必要により乾燥した後、そのままもしくは粉砕して溶媒抽出に供して得ることができる。使用できる溶媒としては、熱水やメタノール、エタノール、イソプロパノール、ｎ−ブタノール等の低級アルコールあるいはプロピレングリコール、１−３ブチレングリコール等の多価アルコール、あるいはこれらの含水物、あるいは炭化水素系溶媒、例えば、ｎ−ヘキサン、トルエン等が挙げられるが、メタノールまたはエタノールを使用するのが好都合である。低級アルコールを使用する場合、得られる抽出液をそのまま、本発明の組成物に含ませることができるが、抽出溶媒を留去し、必要により乾燥した後、本発明の組成物に含ませてもよい。
【００１１】
こうして得られる抽出物は、少なくともｄ−リナロール、ピネンをはじめとする精油、ペトロセリン酸、油酸をはじめとする脂肪油、その他タンパク質、糖、長鎖脂肪族アルデヒドなどを一体として含むことが確認されている。本発明で使用する抽出物は、これらのいずれの成分に由来するのか定かでないが、上述のように全体として強い５α−レダクターゼ阻害活性や、また抗真菌活性など有し、化粧料、医薬製剤の有効成分として使用できる。
【００１２】
より具体的には、上記抽出物は、皮膚手入用、化粧料、尋常性ざ瘡の予防および処置用化粧料、ならびに包括的なざ瘡の予防および処置用医薬製剤、頭髪の育毛用薬用化粧料などを包含する皮膚外用組成物の有効成分として使用できる。なお、本発明にいう「育毛」とは、発毛促進、脱毛防止、さらにはふけ、痒み抑制作用などを包含する概念で使用されている。
【００１３】
また、上記皮膚障害の他、５α−リダクターゼの作用に起因するその他の傷害もしくは疾患の予防または治療上の目的で使用する組成物の有効成分として、上記抽出物を含めることができる。この組成物は、皮膚外用に限定されるものでなく、使用目的に応じて、それ自体既知の希釈剤、賦形剤などを必要により使用し、経口用および非経口用剤型をとることができる。
【００１４】
本発明の組成物への上記抽出物の配合量は、組成物の形態または使用目的に応じて変動しうるので特定されるものでない。しかし、皮膚外用剤を例にとると、後述の実施例に記載の方法に従って得られる抽出物を使用する場合、皮膚外用剤総量中、一般に乾燥物が０．００５〜２０重量％、好ましくは０．０１〜１０重量％となるように配合される０．００５重量％未満であると、本発明でいう効果が十分に発揮されず、好ましくない。２０重量％を超えると製剤上好ましくない。本発明の皮膚外用剤は、液状、乳液、軟膏など外皮に適用できる性状のものであればいずれでもよく、前記の必須成分に加えて必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、化粧品、医薬部外品、医薬品等に一般に用いられる各種成分、水性成分、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、色剤、薬剤等を配合することができる。また、本発明の皮膚外用剤の剤型は任意であり、例えば育毛剤、トニック、ヘアークリーム、ムース、シャンプー、リンス、クリーム、乳液、化粧水、パック等の剤型をとることができる。
【００１５】
一方、本発明のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性組成物は、上記皮膚外用剤の剤型の他に、経口または非経口的投与剤として液状、シロップ状、錠剤の剤型の製剤とすることができる。特に、液状製剤とするには、生理食塩液、エタノールを希釈剤または担体として使用することができる。
【００１６】
【実施例】
次に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。本発明はこれにより限定されるものではない。配合量は重量％である。
【００１７】
（５αレダクターゼ阻害活性測定法）
５α−レダクターゼ阻害活性に関する本発明の効果は、高安らの方法（Ｓ． Ｔａｋａｙａｓｕ， Ｋ． Ａｄａｃｈｉ， Ｊ． Ｃｌｉｎ． Ｅｎｄｏｃｒｉｎｏｌ． Ｍｅｔａｂ．，３４，１０９８−１１０１（１９７２））に従って行うことができる。すなわち、人毛根を用い、テストステロンが５α−ＤＨＴに還元される量を測定し、各植物抽出物メタノールエキス乾燥物の０．１％、７０％エタノール溶液についてテストステロン−５−α−レダクターゼ阻害活性を測定し、以下の式に従つて阻害率を求めることにより評価できる。
【００１８】
【数１】

【００１９】
（トリコグラム試験）
育毛剤（すなわち、発毛促進または脱毛防止）に関する本発明の効果は、下記のトリコグラム試験を行うことにより評価することができる。
【００２０】
被検試料の使用前と使用後の抜去毛髪の毛根を顕微鏡下で観察し、毛根の形態から休止期毛根数を計数し、その割合の増減によって養毛料の養毛作用を比較する。休止期毛根とは成長の止まった毛の毛根であり、脱毛を訴える人は正常な人よりもこの休止期毛根の割合が多いことが認められている。
【００２１】
各被検試料をそれぞれ男性被験者複数名の頭皮に１日２回、１回２ｍｌずつ６ケ月間連続して塗布し、塗布直前および６ケ月間塗布終了直後に被験者１名につき１００本ずつ毛髪を抜去し、それぞれの毛根を調べる。
【００２２】
（尋常性ざ瘡（ニキビ症状）の改善効果試験）
尋常性ざ瘡に対する本発明組成物の効果は、被検試料を男子４０名女子４０名で年齢１５〜２１才を被験者とし、毎日２回、洗顔後に化粧水を少量塗布し、２週間後にそのニキビ症状の改善効果を試験し、下記基準に従つて評価できる。
【００２３】
評価基準
各症状の程度を次の４つに区分した。
【００２４】
全治：全部症状が無くなった。
【００２５】
著効：著しく効果がある。
【００２６】
有効：全て軽くなる。
【００２７】
無効：使用前後で変化無し。
【００２８】
例１：抽出物の調製
コエンドロの全草の乾燥品１００ｇを、室温（約２３℃）で７０％メタノール２ｌに２４時間浸漬による抽出を２回行い、抽出物（燥物重量１１．５ｇ）を得た。
【００２９】
比較として、ウイキョウ（Ｆｏｅｎｉｃｕｌｕｍ ｖｕｌｇａｒｅ Ｍｉｌｌｅｒ）の乾燥果実およびミシマサイコ（Ｂｕｐｌｅｕｒｕｍ ｆａｌｃａｔｕｍ Ｌｉｎｎｅ）の乾燥根をコエンドロの全草の乾燥品に代え、上記操作を繰り返えして、それぞれの抽出物を得た。
【００３０】
各抽出物の各種濃度における５α−レダクターゼ阻害活性の測定結果を下記表Ｉに示す。
【００３１】
【表１】

【００３２】
例２：トリコグラム試験に供する養毛料の調製９５％エタノール（７０重量％）に、例１従うコエンドロ全草の乾燥抽出物（０．１重量％）と硬化ヒマシ油エチレンオキシド（４０モル）付加物（０．５重量％）を添加し、撹拌溶解した。次に、イオン交換水を１００重量％になるまで添加、混合して液状の養毛料を調製した。対照として、上記養毛料にコエンドロ全草抽出物を含めない組成物も調製した。
【００３３】
上記養毛料（本発明）および組成物（対照）を用い、ボランティア１７名（男性）にトリコグラム試験を行った結果を下記表ＩＩに示す。
【００３４】
【表２】

【００３５】
例３：ニキビ症状の改善試験に供する化粧水の調製および評価
（Ａ相）
ソルビトール ３．０
グリセリン ５．０
レゾルシン ０．０２
イオン交換水 残部
（Ｂ相）
例１に従うコエンドロ全草抽出物 １．０
ポリオキシエチレン（６０）硬化ヒマシ油 ０．５
９５％エタノール ２０．３
香料 適量
Ａ相の各成分を混合溶解し、これにＢ相の混合溶液を撹拌しながら加えて均質な溶液として化粧水を調製した。
【００３６】
なお、対照として、上記化粧水の成分、としてコエンドロ全草抽出物を配合しない組成物も調製した。
【００３７】
上記化粧水（本発明）および組成物（対照）を用い、ボランティア男女各４０名にニキビ症状の改善効果試験を行った結果を下記表ＩＩＩに示す。
【００３８】
【表３】

【００３９】
例４（組成物）：クリーム
（Ａ相）
ミツロウ １０．０
パラフィンワックス ６．０
ラノリン ３．０
イソプロピールミリステート ６．０
スクワラン ８．０
流動パラフィン ２６．０
例１に従うコエンドロ全草の乾燥抽出物 ２．０
ポリオキシエチレンソルビタンステアレート ２．０
ソルビタンモノステアレート ４．２
防腐剤 適量
（Ｂ相）
プロレングリコール ２．０
ポリオキシエチレン（６０）硬化ヒマシ油 １．０
精製水 ２９．０
（調製法）
Ａ相の成分を混合し、約７５℃で加熱、溶解し、これに７５℃に加熱したＢ相の混合液を撹拌しながら加え、冷却し、４５℃まで撹拌をつずけ放置してクリームを得た。
【００４０】
例５（組成物）：ヘアートニック
（１） 硬化ヒマシ油ＥＯ（４０モル）付加物 ２．０
（２） 例１に従うコエンドロ全草の乾燥抽出物 １５．０
（３） ９５％エタノール ７０．０
（４） 香料 適量
（５） 精製水 １００に調整
（調製法）
（３）に（１）（２）（４）を添加し、撹拌溶解した後、（５）を加えてヘアートニックを得た。
【００４１】
例５（組成物）：ヘアートニック
（１） グリセリン ２．０
（２） Ｌ−メントール ０．１
（３） 例１に従うコエンドロ全草の乾燥抽出物 ５．０
（４） ９５％エタノール ６０．０
（５） 香料 適量
（６） 精製水 １００に調整
（調製法）
（４）に（１）（２）（３）（５）を添加し、撹拌溶解した後、（６）を加えてヘアートニックを得た。
【００４２】
例６（組成物）：ヘアートニック
（１） ポリエチレングリコール２００ ２．０
（２） Ｌ−メントール ０．２
（３） 例１に従うコエンドロ全草の乾燥抽出物 ５．０
（４） ９５％エタノール ５０．０
（５） 香料 適量
（６） 精製水 １００に調整

【００４３】
【発明の効果】
本発明によれば、特に尋常性ざ瘡（ニキビ）の予防または治療に有効であり、かつ頭髪の育毛に有効な組成物が提供される。組成物には、コエンドロ属（Ｃｏｒｉａｎｄｒｕｍ）に属する植物の全草または果実由来の抽出物が含められる。

Claims (4)

1. コエンドロ（ Coriandrum sativum ）の全草または果実からの抽出物を有効成分とするテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性剤。
2. 有効成分がコエンドロ（ Coriandrum sativum ）の全草からの抽出物である請求項１に記載のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性剤。
3. 請求項１または２記載のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性剤を有効成分として含んで成るざ瘡の予防または治療用の皮膚外用組成物。
4. 請求項１または２記載のテストステロン−５α−レダクターゼ阻害活性剤を有効成分として含んで成る頭髪の育毛用の皮膚外用組成物。