JP3620279B2 - 水素分離膜およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、水素分離膜およびその製造方法に関する。さらに詳しくは高品質な水素選択透過性膜を多孔体の細孔内に生成させる技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
水素の高純度精製用膜として、Pd−Ag合金膜が知られており(Sep.Sci.Technol.第22巻873〜887頁,1987年)、既に実用化もされている。
【0003】
このような水素分離用Pd系合金膜は、従来合金単独で中空状に作られており、従ってその加工性や強度上の制約から外径が1.6mmのもので膜厚が約80μm程度が限界であり、水素透過速度は膜厚に逆比例するため、水素透過速度が遅いという問題がみられた。
【0004】
その対策として、多孔質アルミナチューブ表面に化学メッキ法でPd系合金膜を形成させる方法が提案されているが(J.Memb.Sci.第56巻303〜315頁,1991年)、膜厚については4.5〜6.4μmと改善されているものの未だ厚く、しかも膜形成プロセスが複雑で工程が多いという難点が見られる。
【0005】
そこで、同じ出願人による特願平5−255004号(特開平7−136477号公報)においては、Pd系薄膜を多孔体の細孔内に形成するために、低温金属有機物化学的気相成長法(MOCVD法)が使用されている。
【0006】
このMOCVD法は、多孔質セラミックス膜の両側に圧力差を設け、気化させたPd膜源またはPd系合金膜源を多孔質セラミックス膜の細孔内に吸引しながら細孔内でPd膜化またはPd系合金膜化させることにより、水素分離膜を形成するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記した従来のMOCVD法では、多孔体の細孔内に生成されるPd(パラジウム)またはPd系合金は粒子状となりやすく、ある程度の高い気密性は有しているが欠陥が残存しやすいため、選択透過性を高くするのが困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、多孔体の細孔内に生成される水素分離膜をより均質で緻密なものとすることによって、水素透過速度を高め、かつ水素の選択透過性を高くすることの可能な水素分離膜およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の水素分離膜にあっては、
各製膜操作におけるPd膜源またはPd合金膜源の使用量を水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/2〜1/1000とし、
気化させた前記Pd膜源またはPd合金膜源を、多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる製膜操作を複数回繰り返すことによって得られたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の水素分離膜製造方法にあっては、気化させたPd膜源またはPd合金膜源を、多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる製膜操作を、複数回繰り返すことを特徴とする。
【0011】
各製膜操作におけるPd膜源またはPd合金膜源の使用量を、水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/2〜1/1000とすることも好適である。
【0012】
前記Pd膜化またはPd合金膜化を300〜600℃の反応温度で行なった後、室温まで冷却し、Pd膜源またはPd合金膜源を設置し、再度300〜600℃に昇温する製膜操作を、複数回繰り返すことも好適である。
【0013】
これにより、多孔体の細孔内にPd膜またはPd合金膜を形成させた水素分離膜が提供される。かかる水素分離膜は、多孔質セラミックス膜等の多孔体の両側に圧力差を設け、気化させたPd膜源またはPd合金膜源を多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる製膜操作を複数回繰り返すことにより形成された、均質で緻密なPd薄膜またはPd合金薄膜を有する。
【0014】
支持体として用いられる多孔体としては、特に限定されるものではなく、アルミナ,シリカ,ジルコニア等の多孔質セラミックスあるいはこれらの複合物または混合物から形成された多孔体、多孔質ガラス、金属多孔体を例示できる。
【0015】
多孔体の平均細孔径は、5〜5000nm好ましくは50〜500nmのものが用いられる。
【0016】
支持体の形状は、中空状の他にフィルム状及びシート状のものなども用いることが可能である。
【0017】
Pd膜源としては、熱分解によりPdを生成するものが用いられ、例えば酢酸パラジウム,塩化パラジウム,硝酸パラジウムなどの金属塩,金属塩以外のパラジウムアセチルアセトナート等も用いることができる。
【0018】
さらに、Ag,Au,Pt,Rh,Ru,Ir等と合金化してもよく、その場合にはそれらの金属源として、金属塩等のうち熱分解でそれぞれの金属を生成するものが使用される。その際、Pd源と熱分解温度の近いものを用いることが好ましい。
【0019】
製膜操作は、上記のような多孔体の膜の両側に圧力差を設け、気化させたPd膜源またはPd合金膜源を多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる操作を複数回繰り返す。
【0020】
この時、1回の製膜操作ではPd膜源物質またはPd合金膜源物質の使用量を、水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/2〜1/1000、好ましくは1/10〜1/100としている。
【0021】
上記の製膜操作を、使用量に応じた回数(例えば、水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/5であれば5回程度)繰り返すことにより、多孔体の細孔内に均質で緻密なPd薄膜またはPd合金薄膜の形成が完成される。
【0022】
尚、各製膜操作におけるPd膜源物質またはPd合金膜源物質の使用量は、製膜操作ごとに変更することも可能である。
【0023】
また、この水素分離膜の製造方法では、一度に1つの多孔体のみならず、複数の多孔体に対しても均質で緻密なPd薄膜またはPd合金薄膜の形成が可能となる。
【0024】
各製膜操作の間の製膜停止状態では、一旦反応容器内を室温まで降温させ、Pd膜源物質またはPd合金膜源物質を設置し、再度昇温させて反応させることが行なわれる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明を適用した水素分離膜の製造を行なう製造装置の概略構成図である。
【0027】
長さ400mm,内径85mmのステンレス管を反応器1として、その底部の細径部にOリング2によって多孔質アルミナ中空糸3(長さ400mm,外径2.0mm,内径1.7mm,平均細孔径150nm,気孔率38%)を固定し、その上端部をガラス(例えば、Na2 O−B2 O3 −SiO2 系ガラス)で封止4する。
【0028】
まず、反応器1内のガスをポンプ7により排気しながら、アルゴンガス導入管10により流量制御器11を介してArガスを3.5ml/min(STP)で流し、多孔質アルミナ中空糸3も開口端5よりポンプ6により排気する。
【0029】
そして、反応器1内を約200〜400Pa、また多孔質アルミナ中空糸3内を約100〜200Paの圧力になるように、ピラニゲージ8,9等により確認しながら制御する。
【0030】
反応器1内にはPd膜源物質14として酢酸パラジウム0.5gが本体底部15に載置され、そして反応器1全体を昇温速度10℃/minで300℃まで昇温させ、酢酸パラジウムを熱分解させてそのまま2時間の製膜を行なった。
【0031】
尚、反応器1は温度制御器付きの電気炉12により外部から加熱され、その温度はアルメル・クロメル熱電対13によって検出される。
【0032】
この製膜操作を繰り返し行ないPd薄膜を多孔質アルミナ中空糸3の細孔に形成した。製膜操作の間は、反応器1内を室温まで降温させ、次のPd膜源物質14を載置し、再度昇温させてPd膜源物質を熱分解させ製膜を行なう。
【0033】
このようにして形成されたPd薄膜の緻密化の程度は、窒素透過速度で評価し、その定量にはガスコロマトグラフを用いた。
【0034】
得られたPd薄膜の300℃での窒素透過速度は、製膜回数に対して表1に示されるような結果であった。
【0035】
【表1】
次に、比較例として、酢酸パラジウムの使用量を10gとした以外は、上記実施の形態と同じ方法で製膜操作を1回行なって得られたPd薄膜と、本発明を適用し6回の製膜操作を繰り返し行なったPd薄膜のそれぞれの窒素透過速度及び水素透過速度を測定し、水素選択性(水素分離係数)として比較した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
この表2により、本発明を適用したPd薄膜は、従来技術のものと比較して約5〜7倍も分離係数を大きくすることができた。
【0037】
尚、請求項に使用されている水素選択性とは、他のガスに対する水素の透過速度の比のことであり、他のガス(例えば窒素)の透過速度をP0 ,水素の透過速度をPH2とした場合、水素選択性αは、α=PH2/P0 で表わされる。
【0038】
従って、多孔体の細孔内に生成される水素分離膜をより均質で緻密なものとすることによって、水素透過速度を高め、かつ水素の選択透過性を高くすることの可能な水素分離膜およびその製造方法を提供された。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、多孔体の細孔内に生成される水素分離膜を、より均質で緻密なものとすることが可能となり、水素透過速度を高め、かつ水素の選択透過性を高くすることの可能な水素分離膜およびその製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る製造装置の概略構成を説明する図。
【符号の説明】
1 反応器
2 Oリング
3 多孔質アルミナ中空糸膜
4 封止
5 開口端
6,7 ポンプ
8,9 ピラニゲージ
10 アルゴンガス導入管
11 流量制御器
12 電気炉
13 アルメル・クロメル熱電対
14 Pd膜源物質
15 本体底部
Claims (4)
- 各製膜操作におけるPd膜源またはPd合金膜源の使用量を水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/2〜1/1000とし、
昇温させることによって気化させた前記Pd膜源またはPd合金膜源を、多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる製膜操作を、先の製膜操作の後に降温させて新たな前記Pd膜源またはPd合金膜源を用意して再度昇温させて次の製膜操作を行うようにして、複数回繰り返すことによって得られたことを特徴とする水素分離膜。 - 気化させたPd膜源またはPd合金膜源を、多孔体の細孔内に吸引しながら該細孔内でPd膜化またはPd合金膜化させる製膜操作を、複数回繰り返すことを特徴とする水素分離膜の製造方法。
- 各製膜操作におけるPd膜源またはPd合金膜源の使用量を、水素選択性が1000以上得られるのに要する量の1/2〜1/1000とすることを特徴とする請求項2に記載の水素分離膜の製造方法。
- 先の製膜操作を300〜600℃の反応温度で行なった後、室温まで冷却し、Pd膜源またはPd合金膜源を設置し、再度300〜600℃に昇温して次の製膜操作を行なうように、製膜操作を複数回繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の水素分離膜の製造方法。
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