JP3616509B2 - 高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステルフィラメント糸の捲取方法、更に詳しくは、粒子状の繊維伸度向上剤の添加分散により、生産性の向上したポリエステルフィラメント糸を良好な捲姿で捲き取る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維の溶融紡糸において、口金からのポリマー吐出量を多くすることは、生産性を向上させる上で、極めて有効な方法であり、昨今の繊維業界においては、製糸コストを低減させる観点から極めて望ましいこととされている。
【0003】
これまで生産性を向上させるために取られてきた典型的な手段として、紡糸引取速度を上げて、口金からの吐出量を増加させる方法が知られている。しかしながら、この方法では、引取速度が早いために、個々のフィラメントの分子配向が大きくなる結果、得られるフィラメント紡出糸の残留伸度は逆に低下してしまう。従って、当然のことながら後に続く延伸または延伸仮撚時の延伸倍率が低下するので、引取速度上昇による吐出量増加効果が、延伸工程で相殺されてしまう。
【0004】
このような問題を解決する一つの手段として、不飽和モノマーからなる附加重合体を繊維伸度向上剤としてポリエステルに添加し、紡出糸の残留伸度を高める方法が特公昭63−32885号公報(対欧州特許第47464(A1)号)で提案されている。
【0005】
この方法によると中間配向糸(POY)をはじめ、残留伸度の高い紡出糸が得られるが、本発明者らは、この特公昭63−32885号公報に開示されている残留伸度の高い紡出糸を商業ベースのワインダーに捲取る際に、新たな問題に遭遇した。
【0006】
すなわち、現実には捲取パッケージの形成は不可、つまりコマーシャルベースでの捲取は不可能である、との問題点が本発明者らにより明らかにされた。この問題点に係る現象として、フィラメント単独あるいは数本のフィラメントがトラバースプリンティング不良のため、捲端面に正常な円周捲き形態から外れた“綾はずれ”や端面がいびつになる“捲崩れ”、端面の中央部が膨らむ“バルジ悪化”、更に捲取中に糸浮きが発生し、バーストにまで及ぶ等の致命的な不良が発生したのである。
【0007】
さらに本発明者らは、これらの原因が、繊維伸度向上剤の添加分散により紡出糸が高い伸度すなわち分子配向の低い状態で、相対的により速い速度で捲取られるという従来有り得なかった厳しい捲取領域に曝されたために、紡出糸が受ける空気抗力や遠心力が飛躍的に増大したことに起因していることを見出した。つまり、飛躍的に増大した該応力によって、紡出糸が部分的に伸ばされて、トラバースプリンティング不良などが発生し、さらには紡出糸が受けた構造変化(歪み)が捲き取られた後、緩和することによってバルジが悪化するなどの致命的な捲取不良が発生していることを見出したのである。
【0008】
そのため、この問題は、繊維伸度向上剤を用いないで同一伸度の紡出糸を、低速(例えば1000〜2000m/min)で捲取る従来方法においては、何等生じ得なかった問題である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の課題は、繊維伸度向上剤を添加したポリエステルフィラメントの高速紡出糸を良好な捲き姿で捲き取ることにある。更に本発明の他の課題は、従来にない超高速での合理化されたポリエステルフィラメント糸の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らが鋭意検討した結果、上述の飛躍的に増大した空気抗力や遠心力による捲き姿の悪化を抑制する手段として、繊維伸度向上剤を添加分散した高速紡出糸を、一旦捲取ることなく引き続いてより高速で回転するローラーとの間で延伸し、更に熱固定して繊維内部の歪みを緩和してから捲取れば良いことが究明された。この延伸熱固定自体は、繊維構造の安定化手段として知られているが、繊維伸度向上剤を含有した繊維に、捲き姿の向上のために適用するのは、本発明者らによって初めて創出されたものである。
【0011】
かくして本発明によれば、
粒子状のポリメチルメタクリレート系重合体をポリエステル重量を基準として0.5〜4.0重量%分散せしめたポリエステルを紡糸口金から溶融吐出して溶融紡糸し、2500m/min〜8000m/minの引き取り速度で引き取り、その際、該口金直上にポアサイズが40μm以下のフィルターを設置し、見掛けの紡糸ドラフト率を150〜1500の範囲とし、以下に定義する残留伸度増加率(I)が50%以上であるフィラメント紡出糸を得、
該紡出糸を直接巻き取ることなく、引続き延伸熱固定して、残留伸度が60%以下のフィラメント糸として捲き取ることを特徴とする高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法が提供される。
ただし、上記(I)は以下の式に従う。
【0012】
【数2】
【0013】
ここでEIb(%)は、本発明のポリエステルフィラメント糸の残留伸度、EL0(%)は該伸度向上剤を含まない以外は本発明と同一の紡糸条件下で得られたポリエステルフィラメント糸の残留伸度である。
【0014】
【発明の実施の形態】
紡出されつつある個々のフィラメント中でポリマーの分子配合に対して“コロ”として機能する粒子状の繊維伸度向上剤をポリエステル重量を基準として0.5〜4.0重量%分散せしめたポリエステルを溶融紡糸し、2500m/min〜8000m/minの引取速度で得た、残留伸度増加率(I)が50%以上であるフィラメント紡出糸(以下、単に紡出糸と称する)を得る、という概念自体、前掲のEP47464A、明細書に開示されている。
【0015】
これに対して、本発明では上記EP明細書では未解決のまま放置されていた捲取(姿)不良の問題が、低い降伏応力の糸を極めて高速で捲取るために、従来は影響がないと考えられていた捲取り直前の空気抗力および遠心力によって生起されていることを見出した。そこで、高速で引き取られる紡出糸を一旦捲取ることなく、引続き延伸熱固定して、捲き取り前の糸の降伏応力を強化すると共に該糸の内部に存在する歪みを緩和することで、上述の問題を克服したものである。
【0016】
更に本発明は、得られるフィラメント糸の伸度を60%以下、好ましくは40%以下になるよう延伸することで、上記EP明細書では一旦捲き取った紡出糸をさらに延伸するという別延伸工程が不要であり、生産性においてもより合理化したものである。
【0017】
以下に、本発明について詳述に説明する。
本発明の高伸度ポリエステルフィラメント糸の紡糸方法については、特に限定されることはなく、任意の紡糸方法を採用できるが、粒子状の繊維伸度向上剤の添加量がポリエステルを基準として0.5から4.0wt%で、且つ引取速度が2500m/minから8000m/minの範囲に属する必要がある。
【0018】
該粒子状の繊維伸度向上剤の添加量が、0.5重量%未満では、得られる紡出糸の伸度増加率(I)が50%に到達し難く、他方4.0重量%を越えて添加しても、伸度向上効果は飛躍的に向上せず、むしろ紡糸性や捲取性が低下する。
【0019】
引取速度については、2500m/min未満では、元々残留伸度の高い紡出糸が得られるので、該向上剤を用いる意味が然程認められない。他方、紡糸引取速度が大きくなるほど、残留伸度向上効果は発揮されるが、8000m/minを越えると、前記重合体の添加が、逆に欠点として作用し、紡出未延伸糸の強伸度が低下する、いわゆる弱糸化という現象が現れてくる。
【0020】
すなわち、上述の条件を組み合わせることで、前述の残留伸度増加率(I)が50%以上であるフィラメント紡出糸が得られる。
【0021】
本発明において、重要なのは該紡出糸を、そのまま捲き取らず、引き続いて、延伸熱固定して、残留伸度が60%以下、好ましくは40%以下の延伸糸とした後、捲き取ることである。
【0022】
このためには、紡出糸の残留伸度と延伸糸の残留伸度(60%以下)との関係から、延伸倍率を設定し、それに応じた延伸速度を採用すれば良い。生産性の面から好ましい延伸速度としては、6500〜12000m/minである。
【0023】
本発明において、上述のような延伸を行う方法は、従来の直接紡糸延伸方法(SDY)に比べて、同一引取速度での延伸倍率が、非常に高いこと以外は、基本的に同じであり、任意の直接延伸方法を採用することができる。具体的には、紡出された糸条を油剤付与後集束し、引取速度2500〜8000m/minで回転している引取ローラーによって引き取る。この引取ローラー前後において、インターレースによって空気交絡させることは、糸条の集束性が向上するので望ましい態様である。
【0024】
ここで延伸倍率が1.25倍以上の場合は、該引取ローラーを、ポリエステルのガラス転移点以上に加熱して、繊維内部の非晶部の分子鎖の運動を自由にした後、残留伸度が60%以下になる延伸倍率に該引取ローラーとその下流に配した延伸ローラーとの速度比を調整し、該ローラー間にて延伸する。
【0025】
この場合、引取ローラーとしては、此れ迄第1ゴデットローラー(GR1)と称されるものを、また延伸ローラーとしては、此れ迄第2ゴデットローラー(GR2)として慣用されているものを流用できるが、必ずしもこの態様に限定されるものではない。例えば、この際の延伸は上述の1段延伸でも良いが、該ローラー間(GR1、GR2)に、さらに少なくとも一つ以上のガラス転移点以上に加熱されたローラーを配置して、多段延伸しても良い。
【0026】
また、延伸倍率が1.25倍未満の低延伸倍率の場合は、引取ローラー(GR1)を加熱せずに、室温で延伸(所謂、冷延伸)することも可能である。これは、エネルギーコストが削減される点から好ましい態様である。
【0027】
最終延伸ローラーの温度は、100℃以上から融点−40℃以下、好ましくは130℃以上融点−50℃以下で、熱固定する時間は0.01〜0.1秒で行えば良い。この際の加熱手段は最終延伸ローラーでなくとも、最終延伸ローラー前に、接触または非接触のヒーターや、加熱媒体として蒸気を用いるノズルタイプなど任意の熱固定装置を配置したものでも良い。
【0028】
この直延伸工程でもっとも重要なことは、最終延伸ローラーとして、加熱ローラー等を用いて延伸糸を熱固定することである。これは、熱固定を伴わない延伸では、糸の降伏応力を高めて、空気抗力や遠心力による繊維内部の構造変化(歪み)は抑制できるが、延伸によって新たに該構造変化が生起され、バルジなどの捲き姿悪化が解消されないためである。この熱固定自体、延伸糸の結晶化促進、さらには延伸時に付与された繊維内部の歪みの解消手段として知られている。しかしながら、本発明では、この延伸熱固定を、繊維伸度向上剤を添加した紡出糸に適用することによって、捲取直前の構造の変化によるトラバースプリンティング不良、繊維中に内在する歪みによるバルジ悪化、更には糸浮きによるバーストなどの発生を抑制するために利用するものである。
【0029】
換言すれば、この延伸熱固定の手段を捲き姿改善のために利用するという考え方は、本発明者らによって、初めて創出されたものである。
【0030】
このようにして得られた延伸糸は、繊維内部の分子配向が高いため、高い降伏応力を有し、捲取直前の空気抗力および遠心力によって引き伸ばされず、繊維内部の歪みも緩和されている。そのため、本発明の紡出糸は、最終延伸ローラーから直接または、一旦別のローラーを介した後、コマーシャルベースのワインダーによって捲き取ることが可能であり、更に得られた捲き姿は非常に良好なものである。
【0031】
本発明においてポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とする繊維形成能を有するポリエステルを指称し、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン―2,6―ナフタレンジカルボキシレート等を挙げることができる。また、これらポリエステルは第3成分として、ブタンジオールのようなアルコール成分又はイソフタル酸等のジカルボン酸を共重合させた共重合体でも良く、更にこれら各種ポリエステルの混合体でも良い。これらのうちポリエチレンテレフタレート系重合体が最適である。
【0032】
これらポリエステルには、必要に応じて艶消し剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、末端停止剤、蛍光増白剤等が含まれていても良い。また、これらのポリエステルは紡糸性および糸物性の観点から固有粘度が0.4〜1.1であることが望ましい。
【0033】
本発明に用いる粒子状の繊維伸度向上剤としては、ポリメチルメタクリレート系重合体が挙げられる。
【0034】
その中でも、熱変形温度(T)が、前掲のEP47464の実施例に上げられた「Delpet80N」のような98℃のものに対して、105〜130℃の範囲にあるものは特異な配向抑制機能を呈する。
【0035】
すなわち、これらの繊維伸度向上剤は、ポリエステルと実質的に非相溶な海/島状態、つまり、ポリエステルを海、粒子状の繊維伸度向上剤を海成分として口金孔から吐出され、紡糸ライン上で、冷却細化過程を経る際に、ポリエステルよりも先に溶融状態からガラス状態へと転移し、紡糸応力(張力)に対して伸長変形低抗体の役割を果たす。そのため、口金近傍のポリマー温度が高い状態でのブレンド系の伸長粘度に関して、従来の伸長粘度式に従わない、非線形性増加をもたらし、その結果細化を促進し、紡出糸の糸速度を最終捲取速度に到達せしめる働きをもつと考えられる。
【0036】
これら重合体の分子量は、伸長変形抵抗体としてポリエステルとは独立に、高分子量体として構造粘弾性の発現を必要とすることから少なくとも2000以上の分子量(重量平均)を有していることが好ましく、特に2000以上20万以下が好ましい。分子量が2000よりも小さいと、高分子量体としての構造粘弾性を発現しないために、応力担持体として作用し難い。一方、20万を超えると、重合体の凝集エネルギーが極めて高く、ポリエステルへの分散が極めて困難になる。更に好ましい分子量の範囲は8000以上15万以下であり、このような高分子量重合体の場合、耐熱性も向上するので、一層好ましい。
【0037】
具体例としては、分子量が8000以上20万以下であって、ASTM−D1238で規定される条件(230℃、荷重3.8kgf)において、メルトインデックス(M.I.)が0.5〜15.0g/minであるポリメチルメタクリレート系重合体ないしその誘導体である。これらの特定の物性を有する重合体は、ポリエステルの紡糸温度において、熱安定性と分散状態の安定性に優れている。
【0038】
ポリエステルへの繊維伸度向上剤の添加に当たっては、任意の方法を採用することができる。例えばポリエステルの重合末期段階で該剤混合してもよく、また、ポリエステルと前記剤とを溶融混合して、押出し冷却後、切断してチップ化してもよい。更には、サイドストリームから該剤を溶融状態でポリエステルの溶融紡糸装置に、動的および/または静的ミクスチャーを介して導入してもよい。また、両者をチップ状で混合した後、そのまま溶融紡糸してもよい。その中でも、連重直紡ラインのポリエステル配管から一部のポリマーを引き出し、それをマトリックスとして該剤を混練り分散させたものを元のニートポリマーラインへ、任意の動的および/または静的ミクスチャーを介して戻し、各配管に分配するという手法が最も好ましい。
【0039】
さらに本発明においては、紡糸段階で粒子状の繊維伸度向上剤の分散状態を制御することが好ましい。これは、該残留伸度向上剤が繊維表面に多量に存在すると、繊維表面に該剤による凹凸が形成され、該凹凸によってF/FおよびF/M摩擦が低下し、捲き姿が悪化するためである。
【0040】
好ましい該剤の分散状態は図1に示したように、フィラメントを円形断面に見立てたときの半径方向の1/3から2/3の領域を占める円環状部(B)に、その分散濃度が極大化していることである。図2は、図1の粒子の分布状態を重量%でグラフに示したものである。以上はフィラメントの断面が中実断面の場合であるが、もし、フィラメントの断面が異形、あるいは中空断面の場合は、蒸気のBの領域は図3〜4に記したようになる。
【0041】
図3−aは、一般的な中実のトライローバル断面であるが、この場合、各ローブの長手方向方向に沿って、中心点Oとローブ先端Tを結ぶ2等分線(一点鎖線で示した)の中観点Mを通る直交線(細線で示した)を引く。そして両線の交差点をO’点、細線がローブの外周点に出向う点をそれぞれM1,M2、M1〜M2間の直線距離を2Lとする。そして、該細線Lを3等分するような直交点線を引いてO’点からM1(またはM2)に向って3つの領域を仮想したとき、ローブの中心側から順次、領域A’、B’、C’とする。
【0042】
したがって、マルチローブのフィラメントにあっては、図3−bに示すように、繊維伸度向上剤の分散濃度の極大点が2山存在することになる。このことは、中空断面の場合についても言え、図4において、中空断面の内厚を2L,内厚の中間点O’とするとき、図3−aおよびbと全く同様になる。
【0043】
上述の分散状態にするには、熱変形温度(T)が前述の105〜130℃の繊維伸度向上剤を用い、40μ以下のポアサイズをもつフィルターを紡糸パック内に設置して、粗大粒子の吐出ポリマー流中への混入を抑制し、更に150〜1500の範囲のみかけの紡糸ドラフト(率)のもとに、紡出すれば良い。
【0044】
紡糸ドラフトについては、150未満だと吐出孔を通過するポリマー流は高い剪断力を受け、粒子状の繊維伸度向上剤はフィラメントの長手方向に引きちぎられ、粗大粒子の混入は抑制されるが、応力担持体としての機能が低下し、1500を越えると、吐出孔内での剪断力による引きちぎり効果が小さくなり、応力担持体としての機能は向上するが、粗大粒子が発生する。
【0045】
さらに、その他の好ましい紡糸要件としては紡糸温度(口金温度)および紡糸口金下の冷却である。
【0046】
前者については、繊維伸度向上剤が分散した溶融ポリエステルを吐出する際の口金温度を通常よりも低くすることで、口金吐出後の伸度向上剤の伸長粘度がより紡糸ライン上流で大きくなり応力担持体としての機能が発現する結果、紡糸張力を大幅に低下させながらフィラメント断面内に粒子濃度の極大点を固定する傾向を示すからである。最適な口金温度は270〜290℃である。270未満では、ポリエステルの種類にもよるが、曵糸性の問題が生じ、他方290℃を越えると、伸度向上剤である附加重合体の耐熱安定性が低下する。
【0047】
後者の口金下の冷却は、横吹き冷却の場合、その風速を0.15〜0.6m/secの範囲に維持することにより、残留伸度の向上と捲取性の向上との両立に寄与する。風速が0.15m/sec未満では、フィラメントの長手方向の斑が大きく、事後に高品位の延伸糸および加工糸を得ることができない。また、0.60m/secを超えると、ポリエステル側の伸長粘度が上昇するので、残留伸度の増加幅が小さくなる。
【0048】
以上のような紡糸条件を、本発明の延伸熱固定と組み合わせれば、更に良好な捲き姿のものが得られる。
【0049】
【実施例】
本発明で採用する物性値の測定方法について説明する。
(1)熱変形温度(T)
ASTM D−648に従う。
【0050】
(2)平均粒径(D)の測定
紡出糸をパラフィンに包埋し、厚さ7μmにフィラメントの長手方向に沿って直角に切断し、電子顕微鏡(日本電子製 JSM−840)撮影用セクションを作成し、スライドガラスの上に複数個のセクション群をのせ、トルエン中に室温下で2日間放置する。この処置により、繊維伸度向上剤として機能した粒子状の附加重合体は溶け出す。溶出後の白金を10mA×2分間スパッタ蒸着し、電子顕微鏡写真を15000倍で撮影する。撮影した溶出痕を、計測器:エリアカーブメーター(牛方商会製)を用いて200個の重合体粒溶出痕の断面積を測定し、平均粒子径Dを算出する。
【0051】
(3)平均長さ(L)および上記Dとの比(L/D)
紡出糸をパラフィンに包埋し、フィラメントの長手方向に沿って切断し、電子顕微鏡撮影用セクションを作成し、スライドガラス上に複数個のフィラメント割り断面をのせて、トルエン中に室温下で2日間放置する。上記(2)と同様の処理を行い、粒子の溶出痕を15000倍で撮影し、フィラメントの長手方向の長さ(L)を200個測定し、平均長さ(L)から、上記Dとの比L/Dを算出する。
【0052】
(4)フィラメント断面内の分散粒子分布
上記(2)と同様の処置をしてフィラメント糸全体を数箇所に分けて撮影し、20個のフィラメント断面についてフィラメントの中心からフィラメント表面に向かって半径を3等分し、同心円状に3つの領域(図1のA、BおよびCの領域)、それぞれの領域に含まれる粒子の数をその溶出痕から算出し、平均濃度との比を百分率で表す。
【0053】
(5)フィラメント表面の粒子数
紡出糸全体をその長手方向に直角に長さmmに切断し、スライドガラス上にマルチフィラメント群を複数個のせ、トルエン中に室温下2日間放置する。上記(2)と同様の処置を行い、溶出痕を15000倍で撮影し、2000μm2当たりの溶出痕数をカウントし、100μm2当たりの数を算出する。
【0054】
(6)紡出糸の複屈折率(Δn)
1―ブロモナフタレンを浸透液として用いて、偏光顕微鏡にて波長530nmの単色光を用いて、緩衝縞を測定し、下記式Δnを算出する。
Δn=530(n+θ/180)/X
n:縞数、θ:コンペンセーター回転角度、X:繊維直径
【0055】
(7)残留伸度
紡出糸を気温25℃×湿度60%の高温恒湿に保たれた部屋に1昼夜放置した後、サンプル長さ100mmを島津製作所製張試験機テンシロンにセットし、200mm/minの速度、即ちひづみ速度2min−1にて引張り破断伸度を測定する。
【0056】
(8)メルトインデックス
ASTM D−1238に従う。
【0057】
(9)みかけの紡糸ドラフト(Df)
単糸(フィラメント)吐出量g/minをポリエステルの溶融状態の密度1.2g/cm3で除して吐出体積cc/minを算出し、これを吐出孔断面積で除して吐出線速度V0 を算出する。これを捲き取り速度Vwとの比(下記式)からDfを算出する。
Df=Vw/V0
【0058】
(10)口金温度
紡糸捲取運転状態の口金に予め口金表面に加工した深さ2mmの温度検出端差込孔に検出端を差込み、口金温度を測定する。
【0059】
(11)口金下冷却風速度
風速計をハニカム構造の冷却風吹き出し口の上端面から30cmの箇所においてハニカム面に密着させた状態で風速をn=5(5回測定)で測定し平均値を算出する。
以下、実施例により本発明を説明する。
【0060】
[実施例1]
固有粘度0.64、艶消剤として酸化チタンをポリエステル重量を基準として0.3wt%を含むポリエチレンテレフタレートチップを160℃で5時間乾燥した後、直径25mの1軸フルフライト型溶融押出し機にて300℃で溶融し、熱変形温度(T)が121℃、M.Iが1.0g/10min(230℃×3.8kgf)で分子量150,000のポリメチルメタクリレート(PMMA)、および熱変形温度(T)が98℃、M.I.が2.5g/10min(230℃×3.8kgf)で分子量60,000のPMMA、さらに熱変形温度(T)が140℃、M.I.が0.6g/10min(230℃×3.8kgf)で分子量70,000のPMMA系共重合体をサイドストリームから溶融状態で、押出し機中の溶融ポリエステルへ導入し、次いで20段のスタティックミキサーを通して混合分散させた後、口金直上に設けた25μmのポアサイズをもつ金属繊維フィルターおよび直径0.4mmφ―ランド長0.8mm(L)の吐出孔を36個有する紡糸口金から、口金温度285℃にて溶融ポリマーを表1のNo.1〜14に示すような各紡速にあわせてその吐出量を変化させつつ吐出した。さらに口金下下方9cm〜100cmに設けた横吹き紡糸冷却筒から25℃の空気を0.23m/secの速度で吹きつけて吐出ポリマー流を冷却固化せしめ、OPU0.25〜0.30wt%範囲内で油剤付着処理を施した後、120de/36fの紡出糸として未延伸状態で巻取った。なお、各実験におけるドラフトは407である。
【0061】
この紡出糸の特性ならびに、繊維伸度向上剤分散状態、および捲取張力をde×0.15〜0.25の範囲内で調節し、巻き取った7kg巻きパツケージの巻き姿の結果を表1に示す。
尚、巻き姿については、◎:綾外れおよびバルジ共になし、○:綾はずれはなく、バルジはややあり、△:綾はずれおよびバルジ共にあり、×:巻き崩れ、バーストとして各記号を記した。
【0062】
【表1】
【0063】
以下、表1の結果について考察する。
実験No.1のような低速紡出糸においては、紡糸時のひずみ速度が遅いために、繊維伸度向上剤の伸長変形はポリエステルに追従し、伸長変形抵抗体として実質的に作用しないために、伸度向上効果がわずかである。一方、No.2、3、6、7、12、13については、2500〜8000m/minの引取速度において、PMMAの好ましい分散状態である断面内局在化が成されており、繊維表面の粒子数が比較的少ないため、ややバルジはあるものの綾はずれはほぼ解消されている。特に3500〜5500m/minの範囲内において、伸度向上効果は極大を示す。No.14については、紡糸ひずみ速度が著しく速いために、推定ではあるが、ポリマーとPMMAとの界面剥離により、曵糸性が損なわれる。
【0064】
No.4、5、8、9については、先ずNo.4は添加量が少ないために、残留伸度向上効果が十分でなく、またNo.9については、添加量が多いために、残留伸度向上率は293%と著しく大きいが、フィラメント表面への析出粒子も当然多くなり、正常な巻き姿を形成することができない。一方、No.5、8については、添加量が本発明の範囲内にあり、粒子の分散状態も適正である。
【0065】
No.10については、PMMAの熱変形温度が98℃と低いために、No.8と対比したとき残留伸度向上を効果的に発現する粒子径の形成が進行しにくく、繊維表面に析出する粒子数が増加している。そのため、得られた捲き姿は綾はずれおよびバルジが共に発生する粗悪なものである。一方、No.11はMMA、アクリル酸イミド付加物およびスチレンをモル比で25:45:30の割合で共重合し、高熱変形温度となしたPMMA共重合体を含有している。この場合、ポリマーとの熱変形温度差が非常に大きくて伸長変形抵抗体としての作用が大きいために、該PMMA共重合の粒子はポリエチレンテレフタレートの変形に追従し難く、粒子径が非常に大きい。そのため、捲取時にバーストによる断糸が多発し、捲き姿を評価することは不可能であった。
【0066】
次に上述の未延伸糸を、一旦捲き取ることなく、引続き延伸熱固定を行い延伸糸を得た。延伸条件は、GR1の温度を80℃に、GR2の温度は140℃に、そしてGR2と糸との接触部の長さは2mに設定し、表2のNo.15〜29に示すような各延伸倍率にあわせてその延伸速度を変化させつつ捲き取った。
【0067】
この延伸糸の残留伸度ならびに、捲取張力をde×0.15〜0.25の範囲内で調節し、巻き取った7kg巻きパツケージの巻き姿の結果を表2に示す。
尚、巻き姿については、表1の各記号と同様に記した。
【0068】
【表2】
【0069】
以下、表2について考察する。
繊維伸度向上剤の分散状態が断面局在化した未延伸糸を本発明の範囲である残留伸度60%以下に延伸した実験No.15〜18、20〜22、28、29については、綾はずれ及びバルジ共にない、良好な捲姿であった。
【0070】
実験No.19については、残留伸度が80%と延伸が不十分であり、視認されるほどの捲き姿の向上は認められなかった。実験No.23については、伸度向上剤の添加量が多く、綾はずれを解消するまでには至らなかった。熱変形温度が98℃の伸度向上剤を用いた実験No.24,25、26については、実験No.24が残留伸度83%と延伸が不十分で綾はずれが依然としてあるが、残留伸度60%以下に延伸した実験No.25、26では、ややバルジはあるものの、綾はずれが解消されるまでに捲き姿は延伸により向上している。熱変形温度が140℃の伸度向上剤を用いた実験No.27については、延伸なしでは捲取不可能であったものが、ややバルジはあるものの、綾はずれが解消されるまでに捲き姿は延伸により向上している。
【0071】
なお、未延伸段階で、伸度向上率が50%に満たなかった表1のNo.1と4、さらに単糸切れが発生した表1のNo.14については、延伸を行わなかった。
【0072】
[実施例2]
固有粘度0.62、艶消し剤として酸化チタンを0.08wt%含むポリエチレンテレフタレートの直重ポリマーを160℃×5時間乾燥し、チップ配管より計量フィードするとともに、20%PMMAの同ポリエステルマスターを同様に乾燥し、こちらも計量フィード混合することによって、ポリエステル中のPMMA添加濃度を1.0wt%とし、紡糸パック内にブレンドポリマーを導入し、表2に示す口金径(ドラフト)、フィルターを用いて5000m/minの引取速度にて120de/36dの紡出糸を、残留伸度30%となるように延伸熱固定して巻き取った。
【0073】
尚、口金温度、口金下冷却風、オイリング、延伸および巻き取りに関しては、実施例1と同様に行った。PMMA銘柄は実施例1で用いた熱変形温度121℃のPMMAを使用した。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
以下、同様に考察する。
実施例No.30、31、および32ともに、延伸により捲取性は向上している。特に伸度向上率の高いものほど紡糸での捲取性は悪化しているが、延伸によりパッケージの綾はずれを解消できるまでに捲取性は改善されている。
【0076】
【発明の効果】
繊維伸度向上剤の添加により、同一伸度を得る場合の捲取速度が向上、すなわち生産性の向上したポリエステルフィラメント紡出糸を、従来為し得なかった良好な捲姿で捲き取れる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の紡出糸を構成するフィラメント(ここでは丸断面の例)の断面方向における、繊維伸度向上剤の好ましい分散状態を示す断面図。
【図2】図1のA、BおよびCの各領域での繊維伸度向上剤の分散濃度のレベルを示すグラフ。
【図3】本発明の紡出糸を構成するフィラメントの断面が異型中実の場合に、図1の領域に担当する領域(A′、B′、C)を説明する断面図(図3−a)、および各領域(A′、B′、C′)での、本発明において好ましい繊維伸度向上剤の分散濃度(分布状態)のレベルを説明するグラフ(図3−b)。
【図4】本発明の紡出糸を構成するフィラメントの断面が中空の場合に、図1の領域Bに相当する領域(B′)を示す断面図。
【符号の説明】
r フィラメント断面における半径
A フィラメントの断面中心0から半径方向1/3に至る領域の円状部分
B フィラメントの断面中心0から外表面に向う、半径方向1/3から2/3の領域を占める円環状部
C フィラメントの断面中心0から外表面に向う、2/3から外周に至る領域を占める円環状部
Claims (5)
- 粒子状のポリメチルメタクリレート系重合体をポリエステル重量を基準として0.5〜4.0重量%分散せしめたポリエステルを紡糸口金から溶融吐出して溶融紡糸し、2500m/min〜8000m/minの引き取り速度で引き取り、その際、該口金直上にポアサイズが40μm以下のフィルターを設置し、見掛けの紡糸ドラフト率を150〜1500の範囲とし、以下に定義する残留伸度増加率(I)が50%以上であるフィラメント紡出糸を得、
該紡出糸を直接巻き取ることなく、引続き延伸熱固定して、残留伸度が60%以下のフィラメント糸として捲き取ることを特徴とする高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法。
ただし、上記(I)は以下の式に従う。
- ポリメチルメタクリレート系重合体の分子量が、少なくとも2000以上である請求項1記載の高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法。
- ポリメチルメタクリレート系重合体が、分子量8000以上20万以下であって、メルトインデックス(230℃、荷重3.8kg)が0.5〜8.0g/10分のメチルメタクリレートを主成分とするポリメチルメタクリレート系重合体である請求項2記載の高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法。
- 延伸速度が6500〜12000m/minである請求項1〜3いずれか1項記載の高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法。
- 口金下の冷却風の速度を0.15〜0.6m/sec.の範囲に調整する請求項1〜4いずれか1項記載の高伸度ポリエステルフィラメント糸の捲取方法。
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