JP3612081B2 - 導電コネクタ及び高強度ばね - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、板ばね、トーションバー、皿ばね、座金類、ジグザクばね、スナップリング、うずまきばね、輪ばね、モーターのブラシ、スライドスイッチなどに代表される高強度ばね、及び、コンセント、コンセントプラグ、ピンプラグソケット、コードプラグ、遮断器を含むスイッチ一般、機器用接続端子に代表される導電コネクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から用いられているばね材料は、金属系ばねと非金属系ばねとに大別され、金属系ばねは、さらに鋼ばねと非鉄金属ばねに分類される。
【0003】
鋼ばねは、主として車両、自動車用に用いる重ね板ばね、コイルばね、トーションバー等の大型ばね材料として用いられれており、炭素鋼をはじめSi鋼、Mn鋼、Si−Mn鋼、Si−Cr鋼、Mn−Cr鋼、Cr−V鋼等がある。
【0004】
しかしながら、これらのばね材も、近年では複雑な形状のものも多くなってプレス打ち抜きやエッチング等の必要性もでてきており、また、装飾性をもった板ばね等も試作されるようになって、従来の鋼ばねでは適応できない分野も出てきている。特に、導電性を必要とする用途や、マイクロマシンのような特殊な用途に用いるばねには、現用のばね材では限界がある。また、測定器などには、Fe−Ni合金や、Co基のばねが使われているが、いずれも高価であるという問題がある。
【0005】
非鉄金属ばねには、黄銅(真鍮,Cu−Zn合金)、洋白(Cu−Ni合金)、ベリリウム銅、チタン合金等が用いられている。これらのばね材は、主に機器用として利用され、導電率が高い銅を含有することから、電気信号を伝達するばねとして用いられる。このようなばねとしては、電気信号を伝達する複数の導電体にそれぞれジャックとソケットを導電的に装着し、ジャックをソケットに挿入することにより電気的および機械的な接続を行うようにした導電コネクタが汎用されており、最近では半導体装置のリードフレームを直接ソケットに挿入して電気的および機械的な接続を行うようにした導電コネクタも多用されている。
【0006】
これらの合金は機械的強度に優れ、導電率も30〜80%程度と良好であり、また、これらの合金表面には、ソケッティングの際の磨耗を避け、耐蝕性を向上させるために、Niメッキ、Crメッキ、Auメッキ、AgメッキあるいはSnメッキを施すことも行われている。
【0007】
しかしながら、素材が黄銅の場合には、機械的強度は高いものの時期割れを起こして粒界より破断が生じて接続不良を起こすという問題があり、ベリリウム銅やチタン銅には高価であるという問題がある。
【0008】
非鉄金属ばねの表面にメッキを施すことは、黄銅の時期割れを防ぐために有効であるが、メッキの厚さが薄い場合にはやはり時期割れ等の不良が発生する。
【0009】
一方、りん脱酸銅やりん青銅からなるばね材は、強度が不十分で肉厚を厚くしなければならないという問題がある。
【0010】
ところで、近年においては、ピンプラグの小型化が進み、肉厚の薄いものが要求されるようになってきたため、導電率と強度を兼ね備えたCu−Fe合金の使用が検討されており、リードフレームについてはこのCu−Fe合金を使用したものが提案されている。
【0011】
Cu−Fe合金は、一般的に高い導電率と機械的強度とを兼備しているが、リードフレームの場合には、ガルウィング等の曲げ加工が多く、スプリングバックが大きいと所定の形状に加工できない不都合が生じるため、これを導電コネクタの、特にばね性が要求されるめす側には適用できないという問題がある。また、ソケッティングの際の耐磨耗性も改良されていないのが現状である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況を考慮してなされてものであり、ばね性と耐磨耗性に優れ、肉厚が薄く、線径が小さくとも十分な強度を有する高強度ばね部材(導電コネクタ、及び高強度ばね)を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の導電コネクタは、Fe及びCrを総量で10〜50重量%(但し、0≦Cr/(Cr+Fe)≦20重量%)、残部Cu及びZnを総量で50〜90重量%(但し、0≦Zn/(Cu+Zn)≦50重量%)からなる合金により構成され、Feを主体とする相とCuを主体とする相とを有し、双ロールでの急冷により前記合金中の平均的な転位密度を10 5 dl/cm 2 以上にしたことを特徴とする。
本発明の高強度ばねは、Cuを10〜40重量%、残部Fe及びCrを総量で60〜90重量%(但し、0≦Cr/(Fe+Cr)≦35重量%)からなる合金により構成され、Fe相を主体とする相とCuを主体とする相とを有し、双ロールでの急冷により前記合金中の平均的な転位密度を10 5 dl/cm 2 以上にしたことを特徴とする。
【0014】
FeとCuからなる高強度ばね部材、または、FeとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材において、Fe、Cr及びZnが10重量%未満では機械的な強度が低下し、90重量%を越えるとCu相が少なくなって装飾性、加工性、エッチング性が低下する傾向にある。
【0015】
上記組成中、Crは、Feの耐蝕性を向上させる成分であり、その添加量はFeとの合計量に対し10〜20重量%の範囲が適当である。特に、磁性をもつことが不都合なコネクタの場合には、Cu相、Fe相の 2相に分離したFe層中のCrの濃度を70重量%以上に調整すると効果的である。
【0016】
また、Znは、耐蝕性を向上させるために添加する成分である。その添加量がCuとの合計量に対し70重量%を越えると脆くなるので、70重量%未満とすることが望ましく、特に、Cuとの合計量に対して 0.1〜60重量%の範囲とすることがより好ましい。
【0017】
FeとNiとCuとからなる高強度バネ部材、またはFeとNiとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材において、NiはFe相中の熱膨張係数制御や、耐食性を向上させる。その添加量がFeとの合計量の40重量%を越えるとコストが高くなり、エッチング性や装飾性などが損なわれ、導電率も低くなってしまう。Niの添加量は、好ましくはFeとの合計量に対して0.05〜40重量%である。その他の添加元素については、FeとCuからなる高強度ばね部材で説明と同様である。
【0018】
FeとNiとCuとからなる高強度バネ部材、またはFeとNiとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材における他の元素の添加理由および成分範囲は、FeとCuからなる高強度ばね部材、または、FeとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材における理由と同様である。
【0019】
FeとNiとCuとからなる高強度バネ部材、またはFeとNiとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材において、合金中の平均的な転位密度を105dl/cm2以上とすることが望ましい。これより小さいと金属内が焼きなまされた状態で強度がでないためである。
【0021】
Cu相とFe相の転位密度は、Cu相の方が高い方がよい。これは、Cu相の転位密度が低いと、Cu相の強度がFe相に比べてさらに低くなるためである。転位の集中によりCu相の強度を上げることが望ましく、特にCu相の転位密度はFe相の転位密度の 2倍以上であることが望ましい。
【0022】
なお、合金中の転位密度は、FeとCuからなる高強度ばね部材、または、FeとCuとCrおよびZnから選ばれる元素とからなる高強度ばね部材においても上記範囲であることが望ましい。
【0023】
転位密度を求めるには、電子顕微鏡によりFe相とCu相の転位を含んだ組織写真をとり、以下に説明する、Hamの方法により転位の数を調べればよい。
【0024】
すなわち、測定すべき試料を透過電子顕微鏡(TEM)により直接観察するために、まず、試料片をエッチングによって薄片化する。これをTEMで観察し、転位が容易に観察できる数万倍の写真を、例えば10枚近く撮影する。この写真に全長Lのいくつかの任意の線を引き、この線が転位線と交わる数をNとしたとき、転位密度(単位はdislocation line/cm2 )ρは、次の式により求められる。
【0025】
ρ= 2N/Lt
t:試料薄片厚み
この式により平均の転位密度が求められる。
【0026】
導電コネクタの場合、105dl/cm2以上とする。105dl/cm2未満では柔らかくなり、Fe、あるいは一部をCrで置換したFeの含有量を60重量%以上にしなければならなくなる。一方、高強度ばねの一般の場合には、平均転位密度は107dl/cm2以上が好適である。尚、上述の方法では、105dl/cm2程度まで測定可能であるが、それ以上であっても良い。
【0027】
転位密度の調整は、双ロールの冷却速度、板材の熱処理温度と時間、圧延率によって行う。特に、105 dl/cm2 以上にするには、冷却速度を 200℃/秒とし、107 dl/cm2 以上にするには冷却速度を 400℃/秒以上とする。
【0028】
本発明は、前述した高強度ばね部材の成分組成を調整し、導電コネクタあるいは高強度ばねへ適用させたものである。
【0029】
▲1▼ 導電コネクタ:コンセント、コンセントプラグ、ピンプラグ、ソケット、コードプラグ、ブレーカー、しゃ断器等
このような導電コネクタ部材、さらに接続端子部材は導電性が特に要求される用途であり、表面にはめっき等の表面処理が施されることもある。
【0030】
これらの用途に用いられる場合の好適組成はCuベースであり、Cuあるいはその一部を50重量%までZmで置換した成分を、50〜90重量%の範囲とすることが好ましい。これらの成分が50重量%未満になると導電率が低くなり過ぎるので好ましくない。残りの成分は、Fe、またはFeとCrになるが、Crが含有される場合には、さらにNiを添加したものも許容される。Niを添加する場合には、Feとの合計量に対して10重量%以下とする。Niの総量が10重量%を越えると合金中のCu相中にNiが多く固溶して導電性を低下させる。Crの添加量については、耐食性を考慮するとFeとの合計量に対して20重量%以下とすることが好ましい。なお、後述する強度改善成分を添加する場合には、合計で基材の総量の5重量%以下、好ましくは0.1〜2重量%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
▲2▼ 高強度ばね:板ばね、トーションバー、皿ばね、座金類、ジグザクばね、スナップリング、うずまきばね、コイルばね、輪ばね、モーターのブラシ、スライドスイッチ等
これらは機械的強度と高弾性率が要求される用途であり、表面には、硬化処理層が設けられることもある。
【0032】
好適組成はFeベースであり、Feあるいはその一部をCrで35重量%まで置換したものを、60〜90重量%の範囲とする。これらの成分が60重量%未満では、強度と弾性率が低くなるので好ましくない。
【0033】
なお、後述する強度改善成分を添加する場合には、合計で基材の総量の15重量%以下、好ましくは0.1 〜 5重量%の範囲とすることが好ましい。特に、コストを低く抑える必要のある板ばねやトーションバー等として用いる場合には、Fe、またはFeの一部をNi、Crで置換したものの含有量を、75〜90重量%とすることが望ましい。また、Ni、Crを添加する場合には、NiはFeとの合計量の10重量%以下、CrはFeとの合計量の20重量%以下とすることが、コストを抑える上で好ましい。
【0034】
熱膨脹係数や弾性率を制御した精密ばねに用いる場合には、Fe、Ni、Crの合計量に対してNiを30〜40重量%、Crを10重量%以下に調整することが好ましい。この範囲外では熱膨脹係数や弾性率が大きく変化するようになる。
【0035】
本発明においては、その合金強度を改善するために、V、Al、Si、W、Ta、Nb、Ti、Mn、Zr、P、C、Coの1種以上を5重量%以下、望ましくは0.01〜3重量%添加することができる。これらの添加元素は、合金の強度をより一層向上させ、かつ、Fe相とCu相の分散性をよくする作用をする。添加量が5重量%を超えると、加工がしにくくなるため好ましくない。
【0036】
上記成分中、特に、Cは高強度ばね部材の耐磨耗性に大きく影響を与える成分であって、0.01〜 3重量%の範囲で添加することができる。0.01重量%未満ではFe相の硬化の効果が現れず、 3重量%を越えると相手材をかじってしまうようになる。特に、0.1 〜 2重量%程度の添加量の範囲では、Fe3 Cが形成されて硬化の効果が顕著になり、また球状黒鉛を生成させるので摺動特性も改善され好都合である。
【0037】
これらの合金を、ばね部材に加工するには、圧延材、棒材を圧延して薄板とし、その圧延方向または引き抜き方向に部品をとるようにすることが望ましい。圧延材を利用した板状のばね部材の場合には、特に面内方向に引き抜きするように材料を組み立てることが望ましい。
【0038】
本発明のばね部材に使用する合金は、通常、上記の合金成分を溶解した溶湯を用いて溶湯急冷法により薄板状に成形される。
【0039】
すなわち、まず、双ロールにタンデッシュにより溶湯に流し込み、 100℃/秒以上の冷却速度で急冷し、その後、 500〜 900℃で時効処理を行い、内部に発生した応力を解放する。双ロールと時効処理により作製された数mm厚の板をそのまま使用する場合は、ロールより引き出した板材を引き抜き方向に引っ張り、素材内部のFe相とCu相を圧延方向に長く成長させることが望ましい。圧延直角方向のFe相あるいはCu相の結晶粒径の小さい方をa、圧延方向の結晶粒径をbとしたときのb/a(アスペクト比)は 2以上、より望ましくは 4以上とする。このようにアスペクト比の範囲を選定するのは、圧延方向のばね性を保つためで、b/aが 2より小さいと弾性変形領域が応力−歪曲線上で少なくなり、繰り返し動作により変形してしまうからである。アスペクト比を大きくするには、冷却速度を下げか、圧延率を50%以上に高くすればよい。なお、アスペクト比の上限は、30までとすることが望ましい。これは、異方性を低く抑えるためである。
【0040】
結晶粒の大きさは、平均して 100μm 以下であることが望ましい。 100μm を越えるとFe相とCu相が均一に分散せず、偏析が起きるようになる。結晶粒の大きさは、望ましくは50μm 以下がよい。
【0041】
結晶粒を微細化するためには、前述した強度改善成分を添加し、金属組織中に、微細な炭化物、窒化物、酸化物等を作らせるようにすればよい。
【0042】
これら添加元素の少ない場合には、時効処理温度を 500〜 750℃程度にすることが好ましい。
【0043】
双ロールと時効処理により引き出した材料を、さらに圧延する場合には、冷間圧延と焼鈍を繰り返して厚みを薄くしていくが、最終圧延は50%以上の圧延率をもつ強加工とすることが望ましい。これは、Fe相あるいはCu相の結晶方位を(100) あるいは(110) に比較的優先させるためである。(100) や(110) に優先方位をもっていると、プレス加工やエッチング特性がよくなる利点がある。この結晶方位は、X線回析法により簡単に調べることができる。すなわち、X線回折パターンにおける(200) 、(220) 、(111) 、(110) 、(211) の面方位に対応するピークの強度をI(200) 、I(220) 、I(111) 、I(110) 、I(211) とすると、
{I(200) +I(220) +I(110) }/{I(111) +I(211) }が0.5 よりも大きいことが望ましい。(200) 、(220) 、(110) 面の回折線が強いことは(100) 、(110) に優先方位をもつことを示している。
【0044】
なお、上記の優先方位を持たせるためには、材料に圧延率50%以上の強加工を加えた後、再結晶温度以上の焼鈍しを行い、最後に20%以下の調質圧延を行うことが望ましい。
【0045】
ばね性や耐磨耗性を向上させるには、添加元素の調整、結晶粒の形状、圧延率、結晶方位等のパルクとして調整する他に表面処理を行うことが望ましい。
【0046】
表面処理の方法としては、図1に示すように、表面のFe、Cuの組成を変化させる方法(図1はFeの表面濃度を高くしたものである)と、図2に示すように、メッキにより表面を保護する方法の 2通りがある。
【0047】
表面の濃度を変化させる方法では、FeあるいはCuの表面濃度を内部のそれより高くする。この方法は選択的にエッチングして耐磨耗性のよいFe相(CrはFe相に優先的に固溶するため実質的にはCr添加の場合Fe−Cr相となる)1をCu相2よりも相対的に表面で高めることにより実現できる。表面の濃度は内部と比較して50%以上増加させることが望ましい。Cu相は、有機系のアンモニア水中にディップすることによりエッチング除去することができる。エッチングにより表面に凹凸ができた場合はスキンパスにより、図3に示すように表面を滑らかにすることができる。
【0048】
メッキは、Fe相には付きにくいので、Fe相を選択的にエッチングしたり、金属表面にCuストライクメッキを行う必要がある。一般のメッキは 0.1μm 以上、ストライクメッキは 0.1μm 以下がよい。さらに、一般のメッキのメッキ厚は望ましくは、0.3 〜10μm とする。メッキの場合エッチングによる表面の凹凸は問題のない限り残しておいてもよい。これはアンカー効果があるためである。
図4に示すように、Fe相のエッチングはHF/H2 O2 にディップしたり、NaOHやNH4 OH液中で電解研磨することにより行うことができるが、HCl処理が最も簡単である。HCl処理の場合、 1〜36規定のものを温度で使用してもよいが、反応を促進させるため80℃まで熱してもよい。ディツプする時間は10分以内がよい。
【0049】
Ni、Sn、Au、Ag、Cr、はんだ等のメッキは通常の電気メッキで行うことができる。また、Ni−P、Ni−Bの無電解メッキで表面処理することも可能であり、はんだディップにより表面にはんだがけをするのもよい。いずれにしろ表面層のCu濃度が60%以上あるとメッキが容易である。
【0050】
金属組成は、Fe相、Cu相に分離している組織がよいが、鋳造組織が残っている場合は、板厚方向にエッチングするのに好都合である。
【0051】
図5に示すように、金属内には、微細な酸化物、炭化物、窒化物等の析出物4が分散しているとばね性も、より一層向上する。これらの析出物4が、主としてCu相とFe相の界面に濃縮すると各相の結合を助ける作用をするが、Fe相、Cu相内に存在してもよい。析出物をつくる元素は、V、Al、Si、W、Mo、Ta、Nb、Ti、Zr等であり、そのサイズは 0.3μm 以下が望ましい。これ以上のサイズになるとやや脆くなる傾向がでてくる。
【0052】
図6に示すように、表面に酸化膜5を形成して耐蝕性を向上させたりするのもよい。酸化膜5は、水蒸気、空気、炭酸ガスあるいはこれらを混合した雰囲気中で 300〜1000℃、望ましくは 500〜 800℃で熱処理することにより形成させることができる。酸化膜5しとては、α−Fe2 O3 よりも、Cux Fe3−x O4 の化学式をもつスピネル型の構造をもつ酸化膜の方がボイドも少なく望ましい。スピネル型の構造をもつ酸化膜をつくるためには、酸素の含有量を25%以下に抑えることが望ましい。Cr、Ni、その他前述した添加元素を加えた場合には、Mx Cuy Fe3−x−y O4 の膜がよい(Mは添加元素を示す)。酸化膜厚は0.01μm 〜10μm 程度が剥離しにくいので好ましい。
【0053】
α−Fe2 O3 は表面に存在してもよいがその厚さは酸化膜の厚さ全体の20%以下にすることが望ましい。これより厚いと緻密でないガサガサの膜となる。また、FeOが内部にあっても酸化膜の厚さ全体の20%以下であればかまわない。添加元素のCr、Niは酸化膜と金属界面に濃化させると密着性を向上させる効果がある。Cr、Niを酸化膜と金属界面に濃化させるには、露点を10℃以上にした雰囲気で酸化させるとよい。
【0054】
表面酸化膜の色調の変化は、前述した方法でFe相のみをエッチングしてCuを露出させついで酸化させることにより達成される。また、低温で酸化したい場合にも同様の方法をとる。熱放散や耐食性等の目的の場合にはCu相をエッチングしてから酸化をするのがよい。
【0055】
図7に示すように、表面処理により表面に硬化処理層6を形成して耐磨耗性を向上させることもできる。硬化処理法としては、窒化処理や炭化処理、硫化処理等の硬化処理が用いられる。この場合、窒化物や炭化物、硫化物をつくりやすいCr、V、Mo、Ta、Ti、W、Zr等を素材のFe相に固溶させておくと硬化処理層6を容易に形成することができる。なお、前述した前処理により表層にFe相の濃縮させておいてから窒化あるいは炭化をするとより効果的である。炭化、窒化は従来より行われている公知の方法を用いることができる。これらの硬化層の厚みは 0.1μm 〜 100μm 程度が望ましい。
【0056】
装飾性をもたせるための表面への塗料塗装は、メッキをしてもしなくても可能である。また、溶接によって本発明のばね部材を他の部材に接続しても、以上説明した性質は損なわれることがない。
【0057】
【作用】
本発明の高強度ばね部材、導電コネクタ部材および接続端子部材は、強度と導電性を兼備し、しかも低コストで提供することができる。
【0058】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
表1の試料No.1〜19に示す成分を溶解して溶湯炉に溶湯を保持し、タンデッシュを介して双ロールに溶湯を流し込み、100℃/秒以上(試料3,6,15は特に800〜2000℃/秒の高速で冷却)のスピードで冷却し、その後、500〜900℃で時効処理を行った後、試料3,10を除いて圧延率50%以上の圧延を行って圧さ1mmのCu−Fe系合金板を得、その一部について表1に示すように、酸化処理(水蒸気と炭酸ガスの混合ガス雰囲気)と表面硬化処理(0.1〜30μm厚)およびメッキ処理を施した。
なお、表1中、試料4、6、7、15〜18は、本発明の実施例、試料1〜3、5、8〜14は参考例、試料19は比較例である。
【0059】
これらの合金板を用いて冷間圧延し作成したばね部材の実験結果(アスペクト比、結晶方位、硬さ、導電率およびばね性・耐磨耗性等)を合金の化学組成とともに表示1に示す。なお、一部の部材はプレスあるいはエッチングによる加工を行っている。
【0060】
【表1】
NH3 * :有機アンモニア水
NH4 OH* :アンモニア水
NaOH* :電解研磨
Cr* :ストライクメッキ
ピン* :ピンプラグおす
ピン** :ピンプラグめす
端子* :機器接続端子めす
コード* :コードプラグおす
コード** :コードプラグめす
コンセント* :コンセントおす
コンセント** :コンセントめす
なし* :Feの表面濃度が内部に比べて50%以上有するもの
添加元素量は、経時された元素のそれぞれの%表示
転位密度は平均転位密度。平均を出しにくい場合はCu相とFe相を別々に表示、 ばね性の評価は、弾性率が15000kgf/mm2 以上のものを良好とし、それ以下のものを不良とした。また、耐磨耗性はスクラッチテストで5N以上のものを良好とし、それ以下のものを不良とした。
【0061】
表示1から分かるように、本発明の実施例(Cu−Fe合金)の場合は、すべて硬さ170HV 以上の良好な強度(硬さ)をもち、ばね性および耐磨耗性も良好な特性を示した。これに対して比較例(Cu−Zn合金を使用)の場合は、これらの特性(硬さ、ばね性および耐磨耗性)は不十分なものであった。
【0062】
本発明に係るCu−Fe合金は、硬さ170HV以上を達成でき、肉厚の薄い小型のものが可能となり、ばね性や耐磨耗性に優れ、そのため何回動作させても殆ど変形を起こさない。したがって、家庭用、工業用コンセント(雌)、同コンセント(雄)、プリント基板の接続用ソケットやピン、オーディオ、ビデオ関連のピンプラグやジャック、コード先端のプラグ、電気機器、通信機器等の機器用接続端子に代表される導電コネクタはもとより、スイッチング機能をもったブレーカー、遮断機等の導電コネクタにも利用できるばかりではなく、板ばね、トーションバー、皿ばね、座金類、ジグザクばね、スナップリング、うずまきばね、コイルばね、輪ばね等にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のばね部材のFe相の表面濃度が高い部分の金属組織を模式的に示す断面図。
【図2】本発明のばね部材の表面がメッキにより保護された部分の金属組織を模式的に示す断面図。
【図3】本発明のばね部材の表面がスキンパスにより滑らかにされた部分の金属組織を模式的に示す断面図。
【図4】本発明のばね部材のCu相の表面濃度が高い部分の金属組織を模式的に示す断面図。
【図5】本発明のばね部材の内部に析出物が分散していることを模式的に示す断面図。
【図6】本発明のばね部材の表面が酸化膜で被覆されていることを模式的に示す断面図。
【図7】本発明のばね部材の表面が硬化処理されていることを模式的に示す断面図。
【符号の説明】
1………Fe相
2………Cu相
3………メッキ相
4………析出物
5………酸化膜
6………硬化処理層
Claims (2)
- Fe及びCrを総量で10〜50重量%(但し、0≦Cr/(Cr+Fe)≦20重量%)、残部Cu及びZnを総量で50〜90重量%(但し、0≦Zn/(Cu+Zn)≦50重量%)からなる合金により構成され、
Feを主体とする相とCuを主体とする相とを有し、
双ロールでの急冷により前記合金中の平均的な転位密度を10 5 dl/cm 2 以上にしたことを特徴とする導電コネクタ。 - Cuを10〜40重量%、残部Fe及びCrを総量で60〜90重量%(但し、0≦Cr/(Fe+Cr)≦35重量%)からなる合金により構成され、
Fe相を主体とする相とCuを主体とする相とを有し、
双ロールでの急冷により前記合金中の平均的な転位密度を10 5 dl/cm 2 以上にしたことを特徴とする高強度ばね。
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