JP3610810B2 - インクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電体層を形成して、圧電体層の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電振動子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電振動子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電振動子を使用したものと、たわみ振動モードの圧電振動子を使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
前者は圧電振動子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電振動子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電振動子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0004】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電振動子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0005】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、特開平5−286131号公報に見られるように、振動板の表面全体に亙って薄膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電振動子を形成したものが提案されている。
【0006】
これによれば圧電振動子を振動板に貼付ける作業が不要となって、リソグラフィ法という精密で、かつ簡便な手法で圧電振動子を作り付けることができるばかりでなく、圧電振動子の厚みを薄くできて高速駆動が可能になるという利点がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した薄膜技術およびリソグラフィ法による製造方法では、薄膜のパターニング後に圧力発生室を形成するが、その時点で振動板に初期変形が生じるので、いわゆる腕部に応力が集中し、駆動の際の変位量が実質的に小さくなり、振動板の耐久性が低下するという問題がある。また、振動板が塑性変形し、さらなる変位効率の低下、及び耐久性の低下の虞もある。
【0008】
また、駆動時の変位量を大きくするために、いわゆる腕部の下電極を除去する場合、腕部の下電極を除去しない場合と比較して、初期変形量が2倍以上もあるため、いわゆる腕部への応力の集中がさらに大きくなり、上述した変位量の低下、変位効率の低下、及び振動板の耐久性の低下の問題がさらに大きくなると共に、振動板の塑性変形が発生する虞がさらに大きくなる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、振動板の初期変形を排除し、振動板の変形量の向上および振動板の耐久性の向上を図ったインクジェット式記録ヘッドを提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、ノズル開口に連通し異方性エッチングによって形成された圧力発生室の一部を構成して少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなる圧電体能動部とからなり、少なくとも前記下電極、前記圧電体層、前記上電極が成膜及びリソグラフィ法を用いて形成された圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動板は、前記圧力発生室内側の一部に凹部を有し、当該凹部の幅方向の幅は、前記圧電体能動部の幅の0.5〜0.7倍であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0011】
かかる第1の態様では、凹部により、前記振動板の初期変形が抑えられ、圧電体能動部の駆動による排除体積の向上および振動板の耐久性の向上を図ることができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記凹部は、前記圧電体能動部の前記上電極に対向する部分に設けられていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0013】
かかる第2の態様では、凹部は、上電極に対向する領域に設けられて、圧力発生室形成の際の振動板に生じる初期変形を抑える。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記凹部は、前記圧電体層が形成されていない部分には設けられていないことを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0015】
かかる第3の態様では、圧電体層が設けられていない領域での振動板の強度低下が防止される。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記凹部は、前記圧電体能動部の幅方向略中央部に長手方向に亘って設けられていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0017】
かかる第4の態様では、凹部は、圧力発生室形成の際に、振動板が基板から受ける、主に、圧電体能動部の幅方向の力を緩和する。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記振動板が弾性膜と素の上に設けられた下電極からなり、前記凹部の深さは、前記弾性膜の厚さの0.5倍以上で、前記下電極の一部に到達するまでの範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッドにある。
【0021】
かかる第5の態様は、効果的に圧力発生室形成の際の振動板に生じる初期変形が抑えられる。
【0024】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置にある。
【0025】
かかる第6の態様では、ヘッドの特性が向上し、信頼性を向上させたインクジェット式記録装置を実現することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す組立斜視図であり、図2は、平面図及びその1つの圧力発生室の長手方向における断面構造を示す図である。
【0028】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、150〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは180〜280μm程度、より望ましくは220μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0029】
流路形成基板10の両面には、予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.1〜2μmの弾性膜50,55が形成されている。また、流路形成基板10の一方の面には、弾性膜55をパターニングした後、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、ノズル開口11、圧力発生室12が形成されている。
【0030】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0031】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通し、後述するが、弾性膜50の一部までエッチングすることにより形成されている。なお、弾性膜50,55は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。
【0032】
一方、各圧力発生室12の一端に連通する各ノズル開口11は、圧力発生室12より幅狭で且つ浅く形成されている。すなわち、ノズル開口11は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0033】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口11の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口11は数十μmの溝幅で精度よく形成する必要がある。
【0034】
また、各圧力発生室12と後述する共通インク室31とは、後述する封止板20の各圧力発生室12の一端部に対応する位置にそれぞれ形成されたインク供給連通口21を介して連通されており、インクはこのインク供給連通口21を介して共通インク室31から供給され、各圧力発生室12に分配される。
【0035】
封止板20は、前述の各圧力発生室12に対応したインク供給連通口21が穿設された、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10−6/℃]であるガラスセラミックスからなる。なお、インク供給連通口21は、各圧力発生室12のインク供給側端部の近傍を横断する一つのスリット孔でも、あるいは複数のスリット孔であってもよい。封止板20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、封止板20は、他面で共通インク室31の一壁面を構成する。
【0036】
共通インク室形成基板30は、共通インク室31の周壁を形成するものであり、ノズル開口数、インク滴吐出周波数に応じた適正な厚みのステンレス板を打ち抜いて作製されたものである。本実施形態では、共通インク室形成基板30の厚さは、0.2mmとしている。
【0037】
インク室側板40は、ステンレス基板からなり、一方の面で共通インク室31の一壁面を構成するものである。また、インク室側板40には、他方の面の一部にハーフエッチングにより凹部40aを形成することにより薄肉壁41が形成され、さらに、外部からのインク供給を受けるインク導入口42が打抜き形成されている。なお、薄肉壁41は、インク滴吐出の際に発生するノズル開口11と反対側へ向かう圧力を吸収するためのもので、他の圧力発生室12に、共通インク室31を経由して不要な正又は負の圧力が加わるのを防止する。本実施形態では、インク導入口42と外部のインク供給手段との接続時等に必要な剛性を考慮して、インク室側板40を0.2mmとし、その一部を厚さ0.02mmの薄肉壁41としているが、ハーフエッチングによる薄肉壁41の形成を省略するために、インク室側板40の厚さを初めから0.02mmとしてもよい。
【0038】
一方、流路形成基板10の圧力発生室12とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.5μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体膜70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電振動子(圧電素子)を構成している。このように、弾性膜50の各圧力発生室12に対向する領域には、各圧力発生室12毎に独立して圧電振動子が設けられているが、本実施形態では、下電極膜60は圧電振動子の共通電極とし、上電極膜80を圧電振動子の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、本実施形態では、圧電体膜70を各圧力発生室12に対応して個別に設けたが、圧電体膜を全体に設け、上電極膜80を各圧力発生室12に対応するように個別に設けてもよい。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。
【0039】
ここで、シリコン単結晶基板からなる流路形成基板10上に、圧電体膜70等を形成するプロセスを図3を参照しながら説明する。
【0040】
図3(a)に示すように、まず、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して、流路形成基板10の両面に二酸化シリコンからなる弾性膜50,55を一度に形成する。また、本実施形態では、後述するように圧力発生室12を所定形状に形成するために、弾性膜55を弾性膜50よりも厚く形成している。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成する。下電極膜60の材料としては、Pt等が好適である。これは、スパッタリングやゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体膜70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜70の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体膜70としてPZTを用いた場合には、PbOの拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由からPtが好適である。
【0042】
次に、図3(c)に示すように、圧電体膜70を成膜する。この圧電体膜70の成膜にはスパッタリングを用いることもできるが、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体膜70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いている。圧電体膜70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。
【0043】
次に、図3(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、Al、Au、Ni、Pt等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、Ptをスパッタリングにより成膜している。
【0044】
次に、図4に示すように、下電極膜60、圧電体膜70及び上電極膜80をパターニングする。
【0045】
まず、図4(a)に示すように、下電極膜60、圧電体膜70及び上電極膜80を一緒にエッチングして下電極膜60の全体パターンをパターニングする。次いで、図4(b)に示すように、圧電体膜70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電体能動部320のパターニングを行う。次に、図4(c)に示すように、各圧力発生室12(図4では圧力発生室12は形成前であるが、破線で示す)の幅方向両側に対向した領域である圧電体能動部320の両側の振動板の腕に相当する部分の下電極膜60を除去することにより、下電極膜除去部350を形成する。このように下電極膜除去部350を設けることにより、圧電体能動部320への電圧印加による変位量の向上を図るものである。なお、かかる下電極膜除去部350は、下電極膜60の厚さ方向の一部をハーフエッチング等により除去することにより形成してもよく、また、弾性膜50の厚さ方向の一部まで除去することにより形成してもよい。勿論、下電極膜除去部350を全く設けなくてもよいことは言うまでもない。
【0046】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図5に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12等を形成する。その際、本実施形態では、振動板の圧力発生室12側の圧電体能動部320に対向する位置に、後述する凹部を形成している。
【0047】
まず、図5(a)に示すように、圧力発生室12の形成位置に対応する部分の弾性膜55をパターニングし、開口部55a及び膜厚を相対的に薄くした段差部55bを形成する。この開口部55aは、後述する凹部に対応する部分、本実施形態では、圧電体能動部320に対向する部分に設けられ、また、段差部55bは、開口部55aの周囲の圧力発生室12に対応する部分に設けられる。なお、この段差部55aは、ハーフエッチング等により形成すればよい。
【0048】
次いで、図5(b)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行う。このエッチングにより、最初に開口部55aの領域のシリコン単結晶基板が侵されて行くが、これと共に周囲の段差部55bも侵される。したがって、段差部55bは完全に除去され、段差部55bに覆われていた部分のシリコン単結晶基板が、遅れて侵されていく。その後、開口部55aの領域のシリコン単結晶基板が完全に除去されるが、段差部55bの領域のシリコン単結晶基板が完全に除去されるまで、すなわち、圧力発生室12が形成されるまでエッチングを続行する。結果的に、開口部55aの領域の弾性膜50が侵され、凹部325が形成される。
【0049】
このように形成される凹部325の深さは、段差部55bの厚さによって調節することができる。すなわち、段差部55bを厚く残すほど、凹部325は深く形成されることになる。また、本実施形態では、弾性膜55を上述のように弾性膜50よりも厚く形成しているので、凹部325の深さを下電極膜60の一部に到達する範囲で調節することができる。
【0050】
このように形成された凹部325と圧電体能動部320及び圧力発生室12との位置関係を図6に示す。なお、図6の(a)は平面図、(b)および(c)はそれぞれ、そのB−B’線断面図、C−C’線断面図である。
【0051】
図示するように、本実施形態の凹部325は、圧力発生室12に対向する領域の弾性膜50に、圧電体能動部320の幅方向略中央部に長手方向に亘って、圧電体能動部320の幅よりも狭い幅で形成されている。また、凹部325の深さは、弾性膜50の厚さの0.5倍以上になるように形成されている。
【0052】
ここで、このように凹部325を形成したときの弾性膜50及び下電極膜60の変形について説明する。図7は、弾性膜50及び下電極膜60の変形を模式的に示した図である。
【0053】
図7(a)に示すように、圧電体膜70および上電極膜80をパターニングした状態では、圧電体膜70及び下電極膜60は収縮する方向の残留応力を有し、また、弾性膜50は伸張する方向の残留応力を有している。ここで、従来通り圧力発生室12を形成すると、圧電体能動部320の曲げの中立面は下電極膜60の厚さの半分よりもかなり下側の下層部に位置するため、圧電体能動部320は、図7(b)に示すように、下に凸に変形し、大きな初期変形が生じる。
【0054】
これに対して、上述のように圧力発生室12を形成する際、振動板に凹部325を形成することにより、曲げの中立面が上方、例えば、圧電体膜70内に移動するため、圧電体能動部320は、図7(c)に示すように、圧力発生室12の略中央部での変形量が低減され、全体の初期変位量を小さく抑えることができる。
【0055】
このような凹部325の大きさは、振動板の初期変形を良好に低減するが、振動板の耐久性の低下に大きく影響しないように設計する必要があり、深さは、弾性膜50の膜厚の0.5倍以上で下電極膜60の一部に到達するまでの範囲、幅は、圧電体能動部320の幅の0.5〜0.7倍の範囲であるのが好ましい。
【0056】
何れにしても、このような凹部325の設計は、圧電体膜70、下電極膜60、及び弾性膜50に残留する内部応力、及び厚さ、並びに圧電体能動部320の幅、圧力発生室12の幅等に大きく依存するので、これらを考慮して最適値を決定する必要がある。
【0057】
このように、本発明では、圧力発生室12の形成と同時に凹部325を形成することにより、圧電体能動部320の曲げの中立面を上方に移動することができ、圧力発生室12を形成する際に起こる初期変位量を低減することができる。したがって、駆動時の排除体積を向上することができる。
【0058】
以上の説明では、圧電体能動部320の形成後に、圧力発生室12を形成するようにしたが、実際には、図2に示すように、各上電極膜80の上面の少なくとも周縁、及び圧電体膜70および下電極膜60の側面を覆うように電気絶縁性を備えた絶縁体層90を形成し、さらに、絶縁体層90の各圧電体能動部320の一端部に対応する部分の上面を覆う部分の一部にはリード電極100と接続するために上電極膜80の一部を露出させるコンタクトホール90aを形成し、このコンタクトホール90aを介して各上電極膜80に一端が接続し、また他端が接続端子部に延びるリード電極100を形成した後に、圧力発生室12を形成するようにしてもよい。ここで、リード電極100は、駆動信号を上電極膜80に確実に供給できる程度に可及的に狭い幅となるように形成するのが好ましい。
【0059】
なお、本実施形態では、コンタクトホール90aは、圧力発生室12の周壁に対向する位置に設けられているが、圧電体能動部320を圧力発生室12に対向する領域内にパターニングし、圧力発生室12に対向する位置にコンタクトホール90aを設けてもよい。
【0060】
また、以上説明した一連の膜形成及び異方性エッチングは、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。また、分割した流路形成基板10を、封止板20、共通インク室形成基板30、及びインク室側板40と順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0061】
このように構成したインクジェットヘッドは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口42からインクを取り込み、共通インク室31からノズル開口11に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない外部の駆動回路からの記録信号に従い、リード電極100を介して下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体膜70をたわみ変形させることにより、圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口11からインク滴が吐出する。
【0062】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0063】
例えば、上述した封止板20の他、共通インク室形成板30をガラスセラミックス製としてもよく、さらには、薄肉膜41を別部材としてガラスセラミックス製としてもよく、材料、構造等の変更は自由である。
【0064】
また、上述した実施形態では、ノズル開口を流路形成基板10の端面に形成しているが、面に垂直な方向に突出するノズル開口を形成してもよい。
【0065】
このように構成した実施形態の分解斜視図を図8、その流路の断面を図9にぞれぞれ示す。この実施形態では、ノズル開口11が圧電振動子とは反対のノズル基板120に穿設され、これらノズル開口11と圧力発生室12とを連通するノズル連通口22が、封止板20,共通インク室形成板30及び薄肉板41A及びインク室側板40Aを貫通するように配されている。
【0066】
なお、本実施形態は、その他、薄肉板41Aとインク室側板40Aとを別部材とし、インク室側板40に開口40bを形成した以外は、基本的に上述した実施形態と同様であり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【0067】
ここで、この実施形態においても、上述した実施形態と同様に、圧力発生室内側の振動板に凹部を設けることにより、振動板の初期変形を抑えることができる。
【0068】
また、勿論、共通インク室を流路形成基板内に形成したタイプのインクジェット式記録ヘッドにも同様に応用できる。
【0069】
また、以上説明した各実施形態は、成膜及びリソグラフィプロセスを応用することにより製造できる薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、基板を積層して圧力発生室を形成するもの、あるいはグリーンシートを貼付もしくはスクリーン印刷等により圧電体膜を形成するもの、又は結晶成長により圧電体膜を形成するもの等、各種の構造のインクジェット式記録ヘッドに本発明を採用することができる。
【0070】
さらに、上述した各実施形態では、振動板として下電極膜とは別に弾性膜を設けたが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。
【0071】
また、圧電振動子とリード電極との間に絶縁体層を設けた例を説明したが、これに限定されず、例えば、絶縁体層を設けないで、各上電極に異方性導電膜を熱溶着し、この異方性導電膜をリード電極と接続したり、その他、ワイヤボンディング等の各種ボンディング技術を用いて接続したりする構成としてもよい。
【0072】
このように、本発明は、その趣旨に反しない限り、種々の構造のインクジェット式記録ヘッドに応用することができる。また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図10は、そのインクジェット式記録の一例を示す概略図である。
【0073】
図10に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物を吐出するものとしている。
【0074】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ3に沿ってプラテン8が設けられている。このプラテン8は図示しない紙送りモータの駆動力により回転できるようになっており、給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0075】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、圧力発生室内側の振動板に凹部を形成するようにしたので、振動板の初期変形が低減され、振動板の変位量を向上することができる。また、振動板の腕部の応力集中が抑えられ、耐久性が向上するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す図であり、図1の平面図及び断面図である。
【図3】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図4】本発明の実施形態1の薄膜製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の圧力発生室及び凹部の製造工程を示す図である。
【図6】本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの要部を示す平面図及び断面図である。
【図7】振動板の変形を示す模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドを示す断面図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録装置の概略図である。
【符号の説明】
10 流路形成基板
11 ノズル開口
12 圧力発生室
50 弾性膜
60 下電極膜
70 圧電体膜
80 上電極膜
90 絶縁体層
100 リード電極
320 圧電体能動部
325 凹部
350 下電極除去部
Claims (6)
- ノズル開口に連通し異方性エッチングによって形成された圧力発生室の一部を構成して少なくとも上面が下電極として作用する振動板と、該振動板の表面に形成された圧電体層及び該圧電体層の表面に形成された上電極からなる圧電体能動部とからなり、少なくとも前記下電極、前記圧電体層、前記上電極が成膜及びリソグラフィ法を用いて形成された圧電振動子を備えるインクジェット式記録ヘッドにおいて、前記振動板は、前記圧力発生室内側の一部に凹部を有し、当該凹部の幅方向の幅は、前記圧電体能動部の幅の0.5〜0.7倍であることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1において、前記凹部は、前記圧電体能動部の前記上電極に対向する部分に設けられていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1又は2において、前記凹部は、前記圧電体層が形成されていない部分には設けられていないことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記凹部は、前記圧電体能動部の幅方向略中央部に長手方向に亘って設けられていることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記振動板が弾性膜とその上に設けられた下電極からなり、前記凹部の深さは、前記弾性膜の厚さの0.5倍以上で、前記下電極の一部に到達するまでの範囲にあることを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
- 請求項1〜5の何れかに記載のインクジェット式記録ヘッドを具備することを特徴とするインクジェット式記録装置。
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