JP3609499B2 - 電動式パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電動式パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来、電動式パワーステアリング装置において、モータ駆動回路を保護するため、駆動回路のパワー素子周辺に温度センサを設けておき、パワー素子の許容温度以上になったら駆動電流を低減するようにしたものが知られている(以下、「温度センサ方式」という。)。
【0003】
また、パワー素子のオン抵抗がチップ温度と比例関係にあることを利用し、オン抵抗が設定値を越えた場合に保護を行うようにしたものも知られている(以下、「オン抵抗検出方式」という。)。
ところが、温度センサ方式には、次の様な欠点があった。
【0004】
パワー素子の直近にはなかなかセンサを配置できないため、温度検出に応答遅れがある。このため、ラックエンドまで操舵が完了している状態の様に、駆動電流が急上昇した様な過負荷の場合のパワー素子の発熱に対して追従性が悪く、保護が不十分になるという問題があるのである。
【0005】
また、オン抵抗方式には、次の様な欠点があった。
駆動回路を構成する各パワー素子チップ毎に特性のバラツキがある。このため、設定値を高めにすると温度上昇の生じ易いチップについては保護が不十分となってしまう。そこで、設定値を低めにする必要があるのであるが、今度は、必要以上に保護動作が実施されるという誤動作の問題が出て来る。また、駆動電流が定格以下の場合には、長時間駆動され続けても異常なしと判定されてしまうため、山道走行等によって操舵が頻繁に繰り返されるような場合における駆動回路の保護が不十分となるという問題があった。
【0006】
さらに、これら従来の方式では、ある時点までは保護動作を行わず、ある時点でいきなり保護動作が行われるといった二段階の切換方式であるため、運転者に違和感を与えるという問題があった。
そこで、本発明は、電動式パワーステアリング装置のモータ駆動回路に対する保護を行うに当り、運転者に違和感を与えることなく、定格以下での連続駆動に対しても、過負荷駆動に対しても、適切な保護動作を行い得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段、発明の実施の形態及び発明の効果】
本発明の電動式パワーステアリング装置は、操舵入力に応じてアシストトルク指令値を演算する指令値演算手段と、該演算されたアシストトルク指令値に基づいてモータ駆動回路へ通電し、電動モータによる操舵アシスト力を発生させるアシスト力発生手段とを備える電動式パワーステアリング装置において、前記モータ駆動回路へのエネルギー蓄積量を演算するエネルギー蓄積量演算手段と、該演算されたエネルギー蓄積量に応じて、モータ駆動回路に入力される駆動電流を低減する保護手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
なお、駆動電流を低減させる方法としては、入力トルクと車速等から算出されたアシストトルク指令値を減少補正することによって実現してもよいし、これとは別個に駆動電流を直接低下させる指令を行う様にしてもよい。
しかしながら、制御上、指令値が錯綜するのは好ましくないので、前記保護手段を、前記演算されたエネルギー蓄積量に応じて、前記アシストトルク指令値を減少補正することによって駆動電流を低減させる手段として構成するとよい。
【0009】
この電動式パワーステアリング装置によれば、モータ駆動回路へ入力されるエネルギーの蓄積量が大きくなると、アシストトルク指令値を減少するなどして駆動電流の低減を図る。
例えば、定格以下の駆動電流で頻繁に駆動されているような場合にも、エネルギー蓄積量は増加していくので、オン抵抗方式と違って、保護の必要な状態を見逃すことがない。また、過負荷の状態であれば、エネルギー蓄積量が急激に増大するので、応答遅れなく適切な保護を与えることができる。
【0010】
しかも、アシストトルク指令値に対する減少補正の量は、エネルギー蓄積量に応じて決定されるので、エネルギー蓄積量が増大するに従って、次第に減少補正が増大するという関係になる。この結果、従来の様な切換制御ではなく、連続制御による駆動回路保護が可能となり、アシスト力が急変しないので、運転者に違和感を与えることがない。
【0011】
この電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、モータ駆動回路の許容温度に対応する許容エネルギー量に対するエネルギー蓄積量の割合に基づいてアシストトルク指令値を補正する手段として構成することができる。より具体的には、前記保護手段を、(エネルギー蓄積量)/(モータ駆動回路の許容エネルギー量)が1に近づくほど、アシストトルク指令値を小さく補正する手段として構成することができる。
【0012】
こうすることで、エネルギー蓄積量が増大するに連れてアシストトルク指令値に対する減少補正の程度をきつくすることができ、連続的な補正を適切に実施することができる。
これらの電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、エネルギー蓄積量が所定レベル以上となった場合に作動する手段として構成することができる。より具体的には、前記保護手段を、(エネルギー蓄積量)/(モータ駆動回路の許容エネルギー量)が所定値以下の場合には、アシストトルク指令値の補正を行わない手段として構成することができる。即ち、駆動回路に対する入力エネルギーが低い状態のときには補正がかからないようにするのである。
【0013】
こうすることで、長時間の連続駆動や過負荷による駆動の場合にだけアシスト力を犠牲にするだけに留まり、電動式パワーステアリング装置本来の操舵アシストの快適性を損なうことがないという効果がある。
なお、これらの電動式パワーステアリング装置において、前記エネルギー蓄積量は、所定の演算間隔毎に、モータ駆動回路への入力エネルギーから放熱等による拡散エネルギーを減じたエネルギーを演算し、この所定の演算間隔毎に演算したエネルギーを積算していくことにより得られる量とするとよい。
【0014】
この場合、入力エネルギーをPとし、モータ駆動回路へ入力される駆動電流をIとし、駆動回路の抵抗をRとし、電流Iが供給される時間をtとすると、
【0015】
【数1】
P=I Rt …(1)
の計算により入力エネルギーを求めることができる。
ここで、駆動電流Iは、そもそもアシストトルク指令値に比例するものであることを考慮すると、前記入力エネルギーを、モータ駆動回路へのアシストトルク指令値の2乗に比例する値として演算することができる。こうすれば、駆動電流自体を検出する必要がない。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を適用した電動式パワーステアリング装置の実施例について説明する。
実施例の電動式パワーステアリング装置では、図1に示すように、タイヤ1,1とタイロッド3,3を介して両端を連結されたラック軸5に、ラック歯7とスクリュー溝9とを設けてある。ラック歯7には操舵軸11の下端に設けられたピニオン歯車13を噛み合わせ、マニュアルステアリングを可能にしている。また、スクリュー溝9には、これを取り囲む様にラック軸5と同軸的にステッピングモータ15を取り付け、両者の間にボール17を介在させてアシスト用のボールスクリューを構成している。
【0017】
このステッピングモータ15は、電子制御装置(ECU)30によって駆動制御される。ECU30には、操舵軸11に取り付けられて入力トルクの大きさを検出するトルクセンサ21、ステッピングモータ15のポジションを検出するポジションセンサ23及び車速センサ25からの検出信号が入力される。ECU30は、これら検出信号に基づいて、アシストトルク指令値を演算し、この指令値に従って、ステッピングモータ15に対してバッテリ27からの駆動電力を供給する。
【0018】
トルクセンサ21は、操舵軸上部と下部とを連結するトーションバーのねじれによって生じる歪の大きさに対応するアナログ信号を出力するものである。ポジションセンサ23は、ステッピングモータ15に装着されたレゾルバであり、ステッピングモータ15の位相角に対応する波形信号を出力するものである。車速センサ25は、スピードメータケーブル用の出力軸が1回転する毎に1パルスの信号を出力するものである。
【0019】
ステッピングモータ15は、VR型の4相励磁方式のものであり、その駆動回路の概略を示すと、図2の様に構成される。
第1相と第3相、第2相と第4相がそれぞれグループに分けられている。そして、各グループについてバッテリ27の正側とを結ぶコモンラインが設けられ、そこにそれぞれ1個ずつのMOS型FET(QA,QB)が配置されている。また、各相は独立ラインでバッテリ27の負側と接続され、そこに各1個のMOS型FET(Q1〜Q4)が配置されている。なお、駆動回路内には、転流用として、ダイオードDA,DB,D1〜D4が配置されている。
【0020】
この駆動回路により、左操舵及び右操舵に対して、それぞれ定められている順番に各相を励磁し、左右へのアシスト力を発生する様になっている。
ECU30は、その果たす役割に着目してブロック図に表すと図3の様になる。
【0021】
まず、入力部40として、トルクセンサ21からの検出信号を入力し、これを入力トルクデータに換算するための入力トルク換算部41と、車速センサ25からの車速パルス信号を入力し、これを車速データに換算するための車速換算部42と、ポジションセンサ23からの波形信号を入力し、これを位相角に換算する位相角換算部43とを備えている。
【0022】
演算部50には、入力トルクデータと車速データに基づいてアシストトルク指令値を演算する指令値演算部51と、このアシストトルク指令値を補正するための指令値補正部52と、位相角の変化に基づいてステッピングモータの回転角速度を演算する角速度演算部53と、位相角に回転角速度を加味して位相角を補正する位相角補正部54と、アシストトルク指令値に基づいて駆動電流値を算出すると共に、入力トルクの正負により操舵方向を特定して励磁順を決定し、補正された位相角に基づいて励磁相を特定する励磁相&電流値演算部55とを備えている。
【0023】
指令値演算部51が実行する演算は、従来公知のものと同じであり、車速を加味しつつ、入力トルクに比例したアシストルク指令値を算出する。
角速度演算部53は、前回演算タイミングにおける位相角と今回演算された位相角との差分からモータ回転角速度を算出する。そして、位相角補正部54は、今回検出された位相角に、このモータ回転角速度を加味して、次の演算タイミングまでの位相角の変化を予測するのである。
【0024】
指令値補正部52は、本実施例の特徴部であり、下記式に基づいてアシストトルク指令値を補正する。
【0025】
【数2】
T2(n)=T1(n)×(1−E(n)/Emax) …(2)
E(n)=E(n−1)+T2(n−1) −K・△t …(3)
ここで、
T1(n):入力トルク及び車速に基づいて算出されたアシストトルク指令値
T2(n):補正後のアシストトルク指令値(最終的なアシストトルク指令値)
T2(n−1):前回の最終的なアシストトルク指令値
E(n):今回までにFETに蓄積されたエネルギー
E(n−1):前回までにFETに蓄積されたエネルギー
Emax:FETの許容温度から換算される許容エネルギー
K:単位時間当りの拡散エネルギー
△t:演算間隔
を意味する。
【0026】
(3)式は、前回までの入力エネルギーの累積値E(n−1)に、前回のアシストトルク指令値に基づいて入力されたエネルギーT2(n−1) を加えると共に、前回演算タイミングから今回演算タイミングまでの間に放熱等によって拡散していったエネルギーを減算するものである。従って、FETに蓄積されてきた熱エネルギーを表し、これをFETの質量と比熱で除算してやれば、FETの現在の温度を推定することもできる。
【0027】
このアシストトルク指令値の補正による作用・効果を、フル操舵で保持して旋回を行っている状態を例に説明する。
図4に示すように、フル操舵に伴って、ラック軸5はラックエンドまでストロークされる。この間は、エネルギーの蓄積がなく、E(n)がほぼゼロであるため、アシストトルク指令値T2(n)は演算値T1(n)と同一となる。
【0028】
ラックエンドに到達すると(時刻t1)、アシスト指令値が増加し、入力されたエネルギーが拡散エネルギーを上回り、E(n)が増加し始める。これに伴い、アシストトルク指令値T2(n)が演算値T1(n)よりも徐々に減少し始める。
【0029】
こうして、アシストトルク指令値T2(n)が減少していくと、あるところで入力エネルギーと拡散エネルギーとがバランスし(時刻t2)、E(n)がほぼ一定になる。この後は、アシストトルク指令値T2(n)は一定となる。
以上の様に、実施例によれば、FETへのエネルギー蓄積量に着目してアシストトルク指令値を減少補正するので、ラックエンドに到達してなお保舵されているような状態のとき、FETの温度上昇を抑えることができる。しかも、そのような制御を行うに当り、温度センサ方式の様な応答遅れがない。また、アシストトルク指令値の減少補正は連続的に行われるので、操舵アシスト力を急変させない。よって、運転者に違和感を与えることもない。また、既にラックエンドまで操舵されているので、後は路面からの反力に対抗できればよく、アシストトルク指令値が小さくなっても問題はない。
【0030】
次に、山道走行などの様に、曲がりくねったワインディング道路を走行するような場合について説明する。
このような道路では、図5に示すように、左右に操舵が繰り返される。そして、次第に、FETに熱エネルギーが蓄積されていく(時刻t11〜t12)。これに伴って、負荷自体としては定格以下であっても、アシストトルク指令値T2(n)は熱エネルギーの蓄積に応じて減少補正されたものとなっていく。そして、入力エネルギーと拡散エネルギーがバランスした状態になると、ほぼ一定の割合の減少補正に落ち着く(時刻t12以降)。
【0031】
このように、実施例によれば、定格以下のエネルギーによる操舵が頻繁に繰り返される場合にも、エネルギー蓄積レベルに応じて減少補正がなされ、しかも、連続的な減少補正を行うので、入熱と放熱がバランスするようなアシスト状態に収束させることができる。よって、アシスト力が全くなくなってしまうということがなく、また、運転者にアシスト力の変化をほとんど感じさせない。
【0032】
次に、第2実施例を説明する。
第2実施例は、アシストトルク指令値の補正に当り、次の様な演算処理を行う。
図6に示すように、まず、入力トルクTと車速Vとを入力し(S10)、公知の方法によりアシストトルク指令値T1(n)を算出する(S20)。
【0033】
また、上述した(3)式に従って、現在までのエネルギー蓄積量E(n)を算出する(S30)。
そして、E(n)/Emaxを算出し(S40)、この値が0.1以下であるか否かを判定する(S50)。0.1以下である場合には、補正値T2(n)として演算値T1(n)をそのまま当てはめる(S60)。一方、E(n)/Emaxが0.1を越える場合には、上述した(2)式に基づいてT2(n)を算出する(S70)。
【0034】
この様に構成することで、アシストトルク指令値に対する減少補正が、エネルギー蓄積量の小さい領域では行われないようにするのである。これにより、制御領域を、アシスト力を重視した制御領域と、FET保護とのバランスをとった制御領域とに分けることができる。
【0035】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々なる態様に変形することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の電動式パワーステアリング装置の全体を示す構成図である。
【図2】実施例におけるステッピングモータ駆動回路の回路構成図である。
【図3】実施例におけるECUの機能ブロック図である。
【図4】実施例の作用・効果を示すタイミングチャートである。
【図5】実施例の作用・効果を示すタイミングチャートである。
【図6】第2実施例におけるアシストトルク補正処理のフローチャートである。
【符号の説明】
1・・・タイヤ、3・・・タイロッド、5・・・ラック軸、7・・・ラック歯、9・・・スクリュー溝、11・・・操舵軸、13・・・ピニオン歯車、15・・・ステッピングモータ、17・・・ボール、21・・・トルクセンサ、23・・・ポジションセンサ、25・・・車速センサ、27・・・バッテリ、30・・・ECU、41・・・入力トルク換算部、42・・・車速換算部、43・・・位相角換算部、51・・・指令値演算部、52・・・指令値補正部、53・・・角速度演算部、54・・・位相角補正部、55・・・位相角&電流値演算部。

Claims (8)

  1. 操舵入力に応じてアシストトルク指令値を演算する指令値演算手段と、
    該演算されたアシストトルク指令値に基づいてモータ駆動回路へ通電し、電動モータによる操舵アシスト力を発生させるアシスト力発生手段と
    を備える電動式パワーステアリング装置において、
    前記モータ駆動回路へのエネルギー蓄積量を演算するエネルギー蓄積量演算手段と、
    該演算されたエネルギー蓄積量に応じて、モータ駆動回路に入力される駆動電流を低減する保護手段と
    を備えることを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  2. 請求項1記載の電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、前記演算されたエネルギー蓄積量に応じて、前記アシストトルク指令値を減少させることによって駆動電流を低減させる手段として構成することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  3. 請求項1又は2記載の電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、モータ駆動回路の許容温度に対応する許容エネルギー量に対するエネルギー蓄積量の割合に基づいてアシストトルク指令値を補正する手段として構成することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  4. 請求項3記載の電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、(エネルギー蓄積量)/(モータ駆動回路の許容エネルギー量)が1に近づくほど、アシストトルク指令値を小さく補正する手段として構成することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  5. 請求項1〜4のいずれか記載の電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、エネルギー蓄積量が所定レベル以上となった場合に作動する手段として構成することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  6. 請求項5記載の電動式パワーステアリング装置において、前記保護手段を、(エネルギー蓄積量)/(モータ駆動回路の許容エネルギー量)が所定値以下の場合には、アシストトルク指令値の補正を行わない手段として構成することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  7. 請求項1〜6のいずれか記載の電動式パワーステアリング装置において、前記エネルギー蓄積量所定の演算間隔毎に、モータ駆動回路への入力エネルギーから放熱等による拡散エネルギーを減じたエネルギーを演算し、この所定の演算間隔毎に演算したエネルギーを積算していくことにより得られる量であることを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
  8. 請求項7記載の電動式パワーステアリング装置において、前記入力エネルギーを、モータ駆動回路へのアシストトルク指令値の2乗に比例する値として演算することを特徴とする電動式パワーステアリング装置。
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