JP3607487B2 - 銅被覆鋼線の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼線を芯材とし、この芯材の周りを銅(銅合金を含む。以下同じ)で被覆した銅被覆鋼線の製造方法に係り、特に鋼線と銅との接合性が高い高強度の銅被覆鋼線の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄道用トロリ線等では、鋼線を芯材とし、芯材の周りを銅で被覆した銅被覆鋼線を使用した銅被覆鋼トロリ線が提案され、新幹線を代表とする高速運行電車用として使用されている(特公平2−11460号公報参照)。
この従来の銅被覆鋼トロリ線は、鋼線を銅の溶湯中に連続的に浸漬させ、鋼線の周囲に銅を凝固させて付着させた後、一定の温度範囲にて熱間圧延することで銅被覆鋼素線をつくり、更にこれを伸線加工することにより製造されている。
【0003】
この従来の銅被覆鋼トロリ線の製造方法によると、鋼線を銅の溶湯中に浸漬させて鋼線表面に銅を付着させる際、鋼線表面は銅との濡れ性を良くするため非常に平滑かつ活性な状態でなくてはならない。このため、鋼線表面の前処理は非常に厳密なる管理が必要とされている。具体的には鋼線表面の清浄化は当然として、鋼線の平均表面粗さを0.5μm以下に平滑化しなくてはならない。
【0004】
一方、一般に用いられる酸洗い、ショットブラスト、ブラシ研磨等の前処理方法では、鋼線表面の酸化皮膜等の汚れ分は除去できるものの、表面の平滑性に乏しくなり、その結果、鋼線表面に銅を均一に付着、凝固させることができず、銅と鋼芯との界面に空隙や接合不良部を残してしまう。
【0005】
このため、現在は鋼線表面を特殊な加工を施した工具ダイス(以下皮剥ダイスと称する)により連続的に皮剥しつつ、真空排気されたハウジング内に導入し、その状態を保ったまま銅の溶湯中に浸漬する方法が採られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この従来の製造方法では、設備的に溶解炉、保持炉等非常に大がかりであるため、その維持費、エネルギー費が高く、コスト高である点や、上述のように皮剥ダイスを用いていることから、この皮剥ダイスの寿命が短いという問題があった。
また従来の製造方法には、芯材として炭素含有量0.35重量%以下の強度の低い鋼線しか使用できないという重大な欠点があった。これは、炭素含有量が0.35重量%を越えるようないわゆる硬鋼線を使用した場合、製造中に皮剥ダイスの刃先が非常に欠け易くなり、均一な皮剥ができなくなるためである。均一な皮剥ができなくなると、鋼線表面に均一に銅が付着できず、銅と鋼芯間の接合性不良、伸線加工時の断線のさまざまなトラブルの原因になってしまう。更には、皮剥ダイスの寿命が非常に短くなり予定長さの製品が生産できなくなってしまう。
【0007】
このため従来の製造方法では、芯材となる鋼線の炭素含有量は0.35重量%以下に制限せざるを得ず、従って得られる銅被覆鋼トロリ線の強度も国内で標準的に使用されているトロリ線材の横断面積110mm2サイズのもので67kgf/mm2、170mm2サイズのもので66kgf/mm2程度が最高となり、今後の更なる高強度化には対応できない状況にあった。
この発明は、この様な点に鑑みなされたもので、硬鋼線材を用いた高強度トロリ線として有効な銅被覆鋼線を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意実験研究を重ねた結果、従来の銅溶湯浸漬による製造方法に代わり、金属の押し出し成形機(コンフォーム・マシン)により鋼線の周囲に銅を押出し被覆する方法により、鋼線と銅との接合性が高く、炭素含有量0.35%を越えるような硬鋼線材を使用した高強度銅被覆鋼トロリ線を安定に得ることができることを見出した。
【0009】
即ちこの発明は、押し出し成形機により鋼線の周囲に銅を押出し被覆して銅被覆鋼線を製造する方法であって、前記押し出し成形機のダイチャンバに供給する鋼線の表面を平均表面粗さで5μm以下に平滑化する工程と、前記押し出し成形機のダイチャンバ内にて前記鋼線の周囲に銅を600℃乃至800℃の温度範囲にて圧着一体化し、その後ダイスを通して銅被覆鋼線を押し出す工程とを有することを特徴とする。
【0010】
この発明によると、押し出し成形機に供給する鋼線の表面を予め平均粗さ5μm以下とする前処理を行い、且つ銅押し出し温度を600〜800℃の範囲に設定することにより、硬鋼線材を用いた高強度トロリとして有効な銅被覆鋼線を得ることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、この本発明による銅被覆鋼線の製造方法を図1及び図2を参照して具体的に説明する。図1は製造装置全体の模式的断面を示し、図2は押し出し成形機1におけるダイチャンバの模式的断面を示している。
押し出し成形機1は、周面に溝が形成されて回転駆動されるホイール11と、このホイール11に取り付けられて周囲の溝の所定長さにわたる部分を覆って金属素材の導入路13を形成するシューブロック12とを有し、シューブロック12内には押し出し成形用のダイチャンバ14を有する。
【0012】
押し出される銅2は、表面の酸化皮膜、油分等の汚れが完全に除去された状態で、成形機1の導入路13に連続的に引き込まれ、アバットメント15で方向を変えた後、ダイチャンバ14の室内に供給される。このとき、導入路13内、ダイチャンバ14室内の銅は、導入路13とシューブロック12との間で発生する摩擦熱及び高圧力により可塑流動的となるが、ダイチャンバ14室内における銅の温度、つまり押し出される銅の温度は600℃乃至800℃の温度範囲にしなければならない。
【0013】
銅押し出し温度が600℃未満である場合、可塑流動させる上での銅の変形抵抗が非常に大きくなってしまうため、ホイールにかかる負荷が非常に大きくなってしまうほか、鋼線と銅との接合性においても、拡散が不十分となり満足する接合は得られない。また、銅の圧力が過大となり鋼線が変形しやすくなり、目的とする銅被覆率の銅被覆鋼線を安定して得ることが難しくなってしまう。また、銅押し出し温度が800℃を越える場合は、銅の変形抵抗が小さくなってホイールにかかる負荷が小さくなるほか、鋼芯との接続性も良好となるが、一方で導入路13、アバットメント15、ダイチャンバ14などの銅と接する部分の工具が高温に耐えられず、工具の摩耗、損傷が激しくなってしまう。従って、銅押し出し温度は600℃乃至800℃の温度範囲に限定される。
【0014】
芯材となる鋼線3は、前処理装置4によって、表面が酸化皮膜や油分等のないように清浄化され、かつ適当な表面粗さにまで平滑化される。その後、誘導加熱装置5により表面を高温に加熱された状態で、無酸化雰囲気に保たれた保護管9を通り、ニップル16を介して成形機1のダイチャンバ14の室内に誘導される。ニップル16を介してダイチャンバ14の室内に誘導された鋼線3は、上述のように別方向から同室内に侵入して可塑流動化された銅19に包まれ、圧着されて銅被覆鋼線20となってダイス17を通って押し出され、以降、冷却槽6、引き取り機7を通って巻き取り機8により連続して巻き取られる。
【0015】
前処理装置4による鋼線3の表面の平滑化については、鋼線3の表面を平均表面粗さで5μm以下にすることが必要である。鋼線表面の平均表面粗さが5μmを越えると、ダイチャンバ14の室内において銅19が密着する際、鋼線表面の凹部が銅19の圧力でもっても圧着されずに、銅と鋼線との接合界面に空隙が残存してしまう。この接合界面に存在した空隙は、多い場合銅と鋼芯との接合不良の原因となる他、屋外等の環境下においてこの接合界面が露出した場合、雨水などが空隙部に侵入し、この空隙部から優先的に腐食が進行するという事態をもたらす。従って、銅被覆直前の鋼線3の表面は、平均表面粗さで5μm以下に平滑化することが必要である。
【0016】
以上のように、押し出し成形の場合には、鋼線の周囲に銅を高圧で圧接、圧着させ、押し出し被覆することにより、使用上十分な接合性を得ることができることから、鋼線の前処理は従来の皮剥ダイスによる方法とは異なり、通常の酸洗い、ブラスト、ブラシ研磨等を1台もしくは複数台で行うか、または組み合わせて使用し、清浄化と適当な平滑化を行うことで十分である。
従って従来のように皮剥ダイスを用いる必要がなく、このため芯材となる鋼線3を炭素量の少ない鋼種に限定する利用はなくなり、炭素含有量が0.35重量%を越えるような硬鋼線材を使用して、更なる高強度銅被覆鋼線や高強度銅被覆トロリ線を製造することができる。
また押し出し成形による製造方法で高強度銅被覆鋼トロリ線を製造する場合は、従来と同様に丸線で押し出し、その後、伸線加工を行ってトロリ線形状に仕上げることも可能であるが、ダイスを選ぶことにより、トロリ線形状に近い形状でもって押し出し、その後の伸線工程を簡略化することも可能である。
【0017】
以下、高強度銅被覆鋼線の製造実施例について、比較例と共に具体的に説明する。
材料は、被覆される銅素材として、JIS C 1020の無酸素銅線φ12mmを用い、芯材となる鋼線には、JIS G 3506に示されるSWRH62A硬鋼線(炭素含有量:0.63重量%)及びSWRH82A硬鋼線(炭素含有量:0.80重量%)の2種類を用いた。両者ともφ10mmである。
【0018】
押し出し条件の比較を行うために、芯材にSWRH62A硬鋼線(炭素含有量:0.63重量%)を用いて、各押出し条件下で押出しを行い、その押出し性と押し出された銅被覆鋼線の特性評価を行った。銅線は、表面の酸化皮膜、油分等汚れを十分に除去した後、押し出し成形機の導入路に連続的に供給した。芯材となる鋼線は、ショットブラストによって表面の酸化皮膜、油分等を除去するとともに、使用する砥粒を適当に変えてその平均表面粗さを調節した。その後、誘導加熱装置によって表面を高温に加熱させた状態でダイチャンバの室内に誘導し、ダイチャンバ室内において銅を被覆して、ダイスにより外径φ22mmの銅被覆鋼線として押し出した。
【0019】
銅の押出し温度について、500℃、550℃、580℃、600℃、700℃、800℃、820℃、850℃の8水準に振った押出しを行い、押出し時のアバットメントやダイチャンバなどの工具の摩耗程度を調べるとともに、押し出された銅被覆鋼線の押出し上がりでの銅と鋼芯との接合性、鋼芯の変形の有無について調査を行った。鋼線表面の平均表面粗さは、3μm程度に調節した。接合性については、カッターで切断した際の切断面と、長手方向への引張試験を行った際の引張破面について、10倍の拡大鏡で観察して銅と鋼芯との間に剥離がないかどうか観察を行った。これらの製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1において、工具寿命の判定基準は、○が磨耗少なく良好、×が磨耗多く不良である。接合性の判定基準は、○が剥離なく良好、△が剥離少ないが接合不十分、×が剥離大で接合なしである。実施例No.1〜3は、銅の押出し温度が600℃乃至800℃の範囲にあり、押出し時の工具の摩耗も少ない上、押し出された銅被覆鋼線において、鋼芯の変形がなく、銅と鋼芯との接合性も良好であった。銅の押し出し温度が600℃未満である比較例No.4〜6では、可塑流動させる上での銅の変形抵抗が非常に大きくなってしまい、ホイールにかかる負荷が非常に大きくなった他、銅の圧力が非常に高くなり、その結果、鋼線の変形が生じてしまった。また、銅と鋼芯との接合性についても十分とは言えなかった。銅の押し出し温度が800℃を越えた比較例No.7及びNo.8では、アバットメントやダイチャンバなどの銅と接する部分の工具において、工具の摩耗、損傷が激しくなってしまった。以上の結果から、銅押し出し温度は、600℃乃至800℃の範囲に限定される。
【0022】
次に、鋼線前処理による鋼線表面の表面粗さの影響について、それぞれ条件を振った押し出しを試みた。
実験では、銅の押出し温度を650℃の一定とし、鋼線表面の平均表面粗さの程度を1μm、3μm、5μm、7μm、10μmの5水準にショットブラストを用いて調節して行った。各条件で押し出したとき、押し出された銅被覆鋼線の銅と鋼芯の接合界面についてそれぞれ調査を行った。
調査は、前述のカッターでの切断面の観察、引張破断面の観察による接合性の評価に加え、接合界面を露出させた状態で5%の塩化ナトリウム水溶液中に浸した塩水浸漬試験と、JIS Z 2371に示す塩水噴霧試験の2種類の腐食試験を連続1000時間程行い、1000時間後の界面の腐食状況を観察した。
これらの製造条件及び評価結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
接合性の判定基準は、表1の説明と同じである。腐食判定基準は、○が接合界面の腐食による隙間が少なく良好、×が隙間多く不良、である。
図3は、表2における実施例No.1〜3の銅被覆鋼線における銅32と鋼芯31との接合界面の横断面模式図である。これらの実施例No.1〜3では、銅と鋼線との接合界面において空隙の残存はなく、銅と鋼芯との接合が十分であった。また、塩水浸漬試験並びに塩水噴霧試験においても、銅と鋼芯との接合界面から優先的に腐食が進行しているようなことはなかった。
【0025】
図4は、表2における比較例No.4,5の場合の銅被覆鋼線における銅32と鋼芯31との接合界面の横断面模式図である。これらの比較例No.4,5では鋼線表面の平均表面粗さが5μmを越えていたため、押出したままの状態では銅32と鋼芯31との接合界面において空隙33が残存していた。このため、銅と鋼芯との接合性はあまりよくなかった他、2つの腐食試験において、この接合界面に存在した空隙部から優先的に腐食が進行してしまい、銅32と鋼芯31との間に数百ミクロンから数ミリの隙間が出来ていた。
以上から、この発明の製造方法において、銅被覆直前の鋼線の表面は、平均表面粗さで5μm以下に平滑化することが必要である。
【0026】
次に、銅押し出し温度650℃、鋼線の前処理による表面平均粗さ3μmの条件で、鋼線の炭素含有量を異ならせて銅被覆鋼トロリ線の押し出しを試みた。その条件と評価結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
表3に示すように、芯材である鋼線中の炭素含有量が多い実施例No.1〜4は、鋼線自体の強度が高く、その結果、銅被覆鋼トロリ線の強度も十分高いものであった。実施例No.5,6は、鋼線の炭素含有量が少ない結果、今後の高速鉄道用の銅被覆鋼トロリ線としては、強度が十分ではない。
なお、芯材としての鋼線の炭素含有量は、0.9重量%以下とすることが好ましい。これ以上の炭素含有量とすると、靭性に悪影響が出る他、伸線性等の加工性が悪くなるためである。
【0029】
実施例においては、芯材として最も安価で強度の高い硬鋼線を使用したが、軽量化や更なる高強度化を図るために、ステンレス鋼などの合金鋼を用いることもできる。即ち、芯材が靭性及び伸線性に影響を受けない程度に、例えば、C,N,S,Si,Ni,Zr,Cr,Co,Ti,Mg,Mo,Sn,及びAl等から選ばれた一種以上を含有していても良い。
また、芯材の長手方向に垂直な面の断面形状は、例えば円、楕円又は矩形とすることもできる。
【0030】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、押し出し成形によって鋼線の周囲に銅を高圧力で押出し被覆することから、芯材となる鋼線に制限が少なく、炭素含有量が0.35重量%を越えるような硬鋼線材を使用した高強度銅被覆鋼線を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例による製造装置の模式的断面図である。
【図2】同製造装置の押し出し成形機におけるダイチャンバの模式的断面図である。
【図3】実施例による銅被覆鋼線の接合面を示す模式的断面図である。
【図4】比較例による銅被覆鋼線の接合面を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
1…押し出し成形機、2…銅 3…鋼線、4…前処理装置、5…誘導加熱装置、6…冷却槽、7…引き取り機、8…巻き取り機、9…保護管、11…ホイール、12…シューブロック、13…導入路、14…ダイチャンバ、15…アバットメント、16…ニップル、17…ダイス、19…銅、20…銅被覆鋼線。
Claims (2)
- 押し出し成形機により鋼線の周囲に銅又は銅合金を押出し被覆して銅被覆鋼線を製造する方法であって、
前記押し出し成形機のダイチャンバに供給する鋼線の表面を平均表面粗さで5μm以下に平滑化する工程と、
前記押し出し成形機のダイチャンバ内にて前記鋼線の周囲に銅又は銅合金を600℃乃至800℃の温度範囲にて圧着一体化し、その後ダイスを通して銅被覆鋼線を押し出す工程と
を有することを特徴とする銅被覆鋼線の製造方法。 - 前記銅被覆鋼線は、炭素含有量が0.35重量%を越える鋼線を用いたトロリ線であることを特徴とする請求項1記載の銅被覆鋼線の製造方法。
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JPH11208319A JPH11208319A (ja) | 1999-08-03 |
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