JP3605227B2 - 新規なトリスフェノール化合物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なトリスフェノール化合物である2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールに関する。
このようなトリスフェノール化合物は、集積回路の封止材料、積層材料、電気絶縁材料等に用いられるエポキシ樹脂の原料、エポキシ樹脂の硬化剤、感光性材料の基材、感熱記録材料に用いられる顕色剤や退色防止剤、このほか、殺菌剤、殺菌防黴剤等の添加剤としても有用である。
【0002】
【従来の技術】
ポリフェノール化合物は、従来より、集積回路の封止材料、積層材料、電気絶縁材料等に用いられるエポキシ樹脂の原料、エポキシ樹脂の硬化剤、感熱記録に用いられる顕色剤や退色防止剤、電子材料の原料等として有用に用いられており、また、酸化防止剤、殺菌剤、防菌防黴剤等の添加剤としても広く有用に用いられている。
【0003】
近年、特に、電気電子機器の部品の分野において、機器の小型化と高性能化の要請に伴って、それらに用いられる有機材料についても、従来の機械的特性や熱的特性の向上に止まらず、長期安定性、電気絶縁性、感光材料における高感度、高解像度、易現象性等、ますます諸性能の向上が求められるに至っている。
従来、ボリフェノール化合物は、例えば、Eugen Mueller 編、METHODEN DER ORGANISCHEN CHEMIE (HOUBEN−WEYL), Band VI/1c, “Phenol”, Teil 2, pp, 1021−1061, Georg Thieme Verlag Stuttgart (1976) に多数のものが記載されており、その後も、上述したような樹脂の高性能化、高機能化の要請に応えるために、新たなビスフェノール化合物が多数、提案されている。
【0004】
このような、ポリフェノール化合物のなかで、p−クレゾールにホルマリンを反応させることによって得られる、2,6−ジメチロール−4−メチルフェノールを原料の一成分とし、これに種々のフェノール化合物を反応させることによって得られる三核ポリフェノール化合物は、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有するので、分子中央のp−クレゾール核の水酸基と、分子末端の二つのフェノール核の水酸基とでは、その反応性に差があることが予想され、興味のもたれるポリフェノール化合物である。
【0005】
このような対称構造を有するポリフェノール化合物は、既に幾つかが知られている。例えば、
2,6 −ビス〔(4−ヒドロキシフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール
(Izv. Akad. Nauk Kaz. SSR. Ser. Khim., 6, 71 (1984)、東独国特許第26 6883号公報)、
2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平4−251257号公報、特開平5−323597号公報)、
2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平5−204144号公報、特開平5−323597号公報)、
2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メチル〕−4−フェニルフェノール(特開平5−204144号公報)、
【0006】
2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−エチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開昭62−10646号公報)、
2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平4−251257号公報、特開平5−323597号、特開平62−10646号公報)、
2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−4,5−ジメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平3−200251号公報、特開平5−323597号公報)、
2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−4,6−ジメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平62−10646号公報)、
2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(特開平5−204144号公報、特開平5−323597号公報、ヨーロッパ公開特許第658807号公報)、
【0007】
2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール(Angew. Makromol. Chem., 67, 175 (1978)、Weyerhaeuser Sci. Symp., 1979, 2 (Phenolic Resins) 189、Br. Polym. J., 18, 171 (1986) 、 Proc. SPIE−Int. Soc. Opt. Eng., 1086 (Adv. Resist Technol. Process, 6) 363 (1989)、特開平3−230164号公報、J. Appl. Polym. Sci., 45, 363 (1992)、米国特許第5178986号公報)
が既に知られている。
【0008】
このように、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有するトリスフェノール化合物において、分子に含まれるフェノール核上のアルキル基の数やそのサイズが大きくなるほど、トリスフェノール化合物の親油性が増大し、種々の有機溶剤に溶解しやすくなるので、種々の溶剤を用いる用途に好適に用いることができるのみならず、そのようなトリスフェノール化合物を原料として用いることによって、得られる材料が低吸水性や低吸湿性等の耐水特性において向上するほか、絶縁性や低誘電性等の電気特性も向上することが期待される。
【0009】
しかし、このように、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有するトリスフェノール化合物において、アルキル基のサイズに関しては、そのサイズが大きくなるほど、分子の親油性が増大して、上記のような性能の向上が期待されるが、実際には、アルキル基のサイズが大きくなると、フェノール核の廻りの自由体積も大きくなり、そのような空隙に水分子が侵入しやすくなるので、サイズの増大によって期待できるほどの上記性能の向上は難しい。換言すれば、フェノール核の廻りに均等にサイズの小さいアルキル基が数多く置換されているほど、上記性能が向上することが期待できる。
【0010】
また、感光性材料の分野でも、感度、解像度、現象性等の要求性能は、感光基を有する化合物との反応性や現象液との親和性等によって決まるため、アルキル置換基のサイズが小さく、且つ、フェノール核の廻りに均質に数多くアルキル置換基にて置換されたポリフェノール化合物が求められている。
【0011】
以上のような理由から、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有するトリスフェノール化合物のうち、従来、提案されているものは、フェノール核上の置換基が最もサイズの小さいメチル基であるものが殆どであり、しかも、これまでに開示されたメチル基を有するそのようなトリスフェノール化合物は、唯一の例外を除いて、原料アルキルフェノールが分子中に二つのメチル基を有するキシレノールであり、従って、分子中に合計で5つのメチル基を有するトリスフェノール化合物がメチル基数の最大のものである。そして、上記例外は、分子中にメチル基を7つ有する2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,6−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールであって、そのキノンジアジドスルホン酸ジエステルがポジ型レジスト組成物の成分として開示されている(特開平5−323597号公報)。
【0012】
しかし、上記文献には、2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,6−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールが具体的にどのような条件で製造されたかについては、何ら記載がなく、他方、本発明者らは、2,6−ジメチロール−p−クレゾールと2,3,5−トリメチルフェノールとの反応によって、慎重に繰返して、その製造を試みたが、その反応生成物は、2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,6−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールに加えて、2−〔(2−ヒドロキシ−3,4,6−トリメチルフェニル)メチル〕−6−〔(4−ヒドロキシ−2,3,6−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール、2,6−ビス〔(2−ヒドロキシ−3,4,6−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノール、更には、これらに、2,6−ジメチロール−p−クレゾールや2,3,5−トリメチルフェノールが反応して生成したオリゴマーの混合物であり、それぞれを単離することは困難であった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有するトリスフェノール化合物の上述した事情に鑑みて、種々の有機溶剤への溶解性に対する溶解性にすぐれ、種々の用途への展開が可能であるほか、これを原料として用いることによって、易硬化性や、靱性、耐衝撃性等の可撓性にすぐれる硬化性樹脂を与えることが期待され、更に、感光性材料としても有用に用いられることが期待される新規なトリスフェノール化合物を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明による新規なトリスフェノール化合物は、式(I)
【0015】
【化2】
【0016】
で表わされる2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールである。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明によるこのような新規なトリスフェノール化合物は、酸触媒の存在下、有機溶媒中、2,3,6−トリメチルフェノールと2,6−ジメチロール−p−クレゾールとを反応させることによって得ることができる。
本発明によるこのような新規なトリスフェノール化合物の製造において、2,3,6−トリメチルフェノールは、2,6−ジメチロール−p−クレゾール1モル部に対して、通常、2モル部以上、好ましくは、2〜10モル部、特に好ましくは、2.5〜5モル部の範囲で用いられる。
【0018】
反応溶媒である有機溶媒としては、原料や、反応生成物である本発明によるトリスフェノール化合物の溶解度、反応条件、製造プロセスの経済性等を考慮して、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の脂肪族ケトン類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール等の脂肪族アルコール類、これらの混合物等が好ましく用いられる。これらのなかでは、特に、脂肪族ケトン類が好ましく用いられる。
【0019】
このような有機溶媒は、通常、2,6 −ジメチロール−p−クレゾール100重量部に対して、10〜5000重量部、好ましくは、50〜1000重量部、特に好ましくは、200〜500重量部の範囲で用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明によるトリスフェノール化合物の製造において、酸触媒としては、上記有機溶媒に溶解する酸が好ましく、従って、例えば、塩酸、硫酸、無水硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、シュウ酸、ギ酸、リン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等を好ましい具体例として挙げることができる。このような酸触媒は、例えば、35%塩酸の場合は、2,6−ジメチロール−p−クレゾール100重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは、20〜100重量部の範囲で用いられる。
【0021】
反応は、通常、室温から80℃、好ましくは、40〜60℃にて、窒素気流下に攪拌しながら、2〜48時間程度、通常、20〜30時間程度行なえばよい。本発明においては、通常、反応によって生成するトリスフェノール化合物は、反応溶媒に溶解し難いために、上記反応温度条件下では、反応液中に一部が析出する。
【0022】
そこで、反応終了後、得られた反応液にアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリを加えて、酸触媒を中和し、次いで、反応混合物を冷却、濾過することによって、目的とする2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールの粗結晶を得ることができる。高純度品を得るには、極性溶媒か、又は極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒から上記粗結晶を再結晶すればよい。
【0023】
上記晶析溶媒は、晶析条件、精製効果、経済性等を考慮して、適宜に選択される。上記非極性溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素類を挙げることができ、また、上記極性溶媒としては、例えば、イソプロピルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン等のケトン類を挙げることができる。従って、極性溶媒と非極性溶媒との混合溶媒の具体例としては、例えば、トルエン−メチルエチルケトン、トルエン−ジイソプロピルケトン、トルエン−メチルイソブチルケトン、キシレン−メチルエチルケトン、キシレン−ジイソプロピルケトン、キシレン−メチルイソブチルケトン、クメン−メチルエチルケトン、クメン−ジイソプロピルケトン、クメン−メチルイソブチルケトン等を挙げることができる。
【0024】
このような晶析溶媒は、通常、反応混合物100重量部に対して、20〜1000重量部、好ましくは、100〜800重量部の範囲で加えることによって、反応液から、目的とするトリスフェノール化合物を高純度にて晶析させることができる。
このように、反応終了後、反応液からの晶析によって、本発明によるトリスフェノール化合物の高純度品を得ることができるが、用途等によっては、反応終了後、反応液を中和し、更に、必要に応じて、水を加え、攪拌した後、静置して、水層を分離する方法によって、洗浄した後、蒸留による濃縮や乾燥によって、反応物の全量を回収してもよい。
【0025】
本発明によるトリスフェノール化合物の製造原料である2,6 −ジメチロール−p−クレゾールは、既に知られている化合物であって、例えば、p−クレゾールと過剰のホルマリンとを水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒下に反応させた後、得られた反応生成物を含む反応系を中和することによって得ることができる。
【0026】
【発明の効果】
本発明による新規なトリスフェノール化合物である2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールは、分子中央のp−クレゾール核に対して、左右対称の分子構造を有し、且つ、分子内のフェノール核に合計で7つのメチル基を有し、従って、種々の有機溶媒への溶解性がすぐれるので、広範な用途に有利に用いることができる。
【0027】
更に、本発明によるトリスフェノール化合物は、これを原料として用いることによって、硬化性にすぐれ、しかも、靱性や耐衝撃性等の可撓性にもすぐれる樹脂、例えば、エポキシ樹脂を与える。また、エポキシ樹脂の硬化剤や感光性材料の基材として有用に用いることができる。
【0028】
【実施例】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定されるものではない。
【0029】
実施例1
2,3,6−トリメチルフェノール136g(1.0モル)をフラスコに仕込み、これにメチルイソブチルケトン204gを加えて溶解させた。この溶液に35%塩酸13.6gを加え、40℃にて攪拌下に2時間かけて、2,6 ジメチロール−p−クレゾール42g(0.25モル)を添加し、更に、同じ温度で22時間反応させた。
【0030】
反応終了後、得られた反応混合物に、水酸化ナトリウム水溶液を加え、中和した後、30℃まで冷却し、濾過して、目的とする2,6−ビス〔(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メチル〕−4−メチルフェノールの粗結晶76gを得た。
この粗結晶76gにメチルイソブチルケトン608gを加え、80℃まで昇温して溶解させた後、水洗し、晶析することによって、純度98.5%の白色結晶63.6gを得た。
【0031】
融点:211.9℃
赤外線吸収スペクトル(cm−1):
OH 3423,3398,1231,1093
CH3 2914,2864
芳香族水素 3008,1580,1480
質量スペクトル:
親ピーク 404
フラグメントピーク 268,253,91,77
プロトン核磁気共鳴スペクトル:
【0032】
【表1】
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