JP3603793B2 - 地中連続壁用鋼材および地中連続壁 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
この発明は、建築土木工事で主に土砂などの崩落を防ぐ土留め壁や地下構造物の壁、さらには河川の護岸壁などとして広く用いられる地中連続壁用鋼材およびこの地中連続壁鋼材からなる地中連続壁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築土木工事において、主に土砂などの崩落を防ぐ土留め壁や河川の護岸壁などに用いられる地中連続壁用鋼材として一般に鋼矢板が使用され、その一例としてウェブ部とこのウェブ部の両端に突出するフランジ部とから断面ほぼU字状に形成されたU形鋼矢板、板状に形成された直線鋼矢板、そして鋼管矢板などが一般に知られ、さらに最近では、河川の護岸壁として用いられる鋼矢板として、自然な水循環が可能なように水通し孔を多数有するものも開発されている。
【0003】
例えば特開平6−280251号公報には、図5(a)に図示するような、U形鋼矢板20のウェブ部20aにT形鋼21を溶接して形成された地中連続壁用鋼材が開示され、また特開昭62−133209号公報には、図5(b)に図示するような、直線鋼矢板22の一側部にH形鋼23を溶接して形成された地中連続壁用鋼材が開示されている。
【0004】
さらに、実開昭59−38544号公報には、図5(c)に図示するような、U形鋼矢板20のウェブ部20aに水通し孔20bが多数形成された地中連続壁用鋼材が、また実開平7−34030号公報には、図5(d)に図示するような、鋼管矢板24に水通し孔24aが多数形成された地中連続壁用鋼材がそれぞれ開示されている。
【0005】
そして、図5(e)に図示するような、H形鋼23と2本のZ形鋼矢板25とを組み合わせた地中連続壁鋼材も開発されている(British Steel General Steels Piling Handbook Sixth edition 1988)。
【0006】
これらのうち、特に図5(c),(d)に図示するものはそれぞれ、水通し孔20bと24aを多数有するため、地中に連接して打ち込まれても地下水の流れをせき止めることはないので、地下水の水位を一定に保持することができ、また河川の護岸壁用として使用された場合に、水通し孔を介して河川側と陸地側との間の自然な水循環が可能なことで、動植物の生息に適した環境を作り出すことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図5(a)に図示する地中連続壁用鋼材は、U形鋼矢板20のウェブ部20aの中央にT形鋼21のウェブ部21aの先端が溶接されているため、溶接によるひずみの矯正が必要であり、またこの矯正が不充分だと打設に不具合を生ずる等の課題があった。
【0008】
また、T形鋼21を製作する際、プレートによる製作では多くの加工手間を必要とするだけでなく、上述するようなひずみの問題もあり、またH形鋼を切断してT形鋼21を製作しようとすると、スクラップが発生する等の問題があり、さらにCT形鋼を使用すると大断面の地中連続壁用鋼材を製作できない等の課題があった。
【0009】
また、図5(b)に図示する地中連続壁用鋼材は、H形鋼22が直線鋼矢板23の上端部分にのみ取り付けられ、下端部分には特に強度が必要でないことから取り付けられていない場合、下端部分の剛性が小さいために地中に打ち込めない場合がある等の課題があった。
【0010】
さらに、図5(c),(d)に図示する地中連続壁鋼材は、多数の水通し孔20b,24aを設けたことで断面欠損による強度低下を免れないだけでなく、特に図5(d)に図示する地中連続壁鋼材の場合、鋼管で形成されていることからコスト高を免れないだけでなく、二重壁になることから水通しが悪い等の課題があった。
【0011】
そして、図5(e)に図示するZ形鋼矢板とH形鋼の組合せタイプのものは、2枚のZ形鋼矢板25をあらかじめ双方の継手を互いにかしめる等してU形に組み合わせ、これをH形鋼23のフランジ23aに溶接する等して取り付ける必要があるため、製作工程が多く製作が面倒なだけでなく製作コストの割高が免れない等の課題があり、またZ形鋼矢板25どうしの接合部およびZ形鋼矢板25とH形鋼23との溶接などによる接合部に不良カ所があると、打ち込みの際に破損するおそれがあり、強度上の課題もあった。
【0012】
この発明は以上の課題を解決するためになされたもので、剛性がきわめて大きく、水通しもよく、しかも安価に製作できる地中連続壁用鋼材を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願の請求項1記載の地中連続壁用鋼材は、ウェブ部とこのウェブ部の両端に設けられたフランジ部とこのフランジ部の一端に設けられた腕部とから断面ほぼU字状に形成されたU形鋼矢板と、このU形鋼矢板のウェブ部の外側に一方のフランジを固定して設置されたH形鋼とから形成され、前記腕部の先端に継手が非対称形に設けられ、前記U形鋼矢板の横断面形状を同一方向にそろえて結合できるようにしてあることを特徴とする。
【0015】
H形鋼はU形鋼矢板のウェブ部の外側に設置されていることで、大きな断面性能が得られる。H形鋼をU形鋼矢板のウェブ部に固定する方法としては、溶接による他ボルト等による方法でもよい。
【0016】
請求項2記載の地中連続壁用鋼材は、請求項1記載の地中連続壁用鋼材において、腕部に水通し孔が複数設けられていることを特徴とする。請求項3記載の地中連続壁は、請求項1または2記載の地中連続壁用鋼材を複数、地中に互いに隣接させて設置することにより構築されていることを特徴とする。腕部の先端に設けられた継手を互いにかみ合わせることで、隣接する地中連続壁用鋼材どうしをU形鋼矢板とH形鋼をそれぞれ同じ側に位置させて確実に接合することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1(a)〜(c)は、この発明に係る地中連続壁用鋼材および地中連続壁の一例を示し、図において地中連続壁用鋼材1はU形鋼矢板2とH形鋼3とから形成されている。
【0018】
また、地中連続壁用鋼材を複数、地中に互いに隣接させて設置することにより地中連続壁が構築されている。
U形鋼矢板2はウェブ部2aとこのウェブ部2aの両端にやや開きぎみに形成されたフランジ部2b,2bとこの両フランジ部2b,2bの一端にそれぞれ設けられた腕部2fとから断面ほぼU形状に形成されている。
【0019】
また、フランジ部2b,2bの先端に継手2cと2dが非対称形に、すなわち継手2cおよび2dの一方が外向きに、他方が内向きそれぞれ形成され、さらに図2(a)〜(c)に図示するものは、両側の腕部2fに水通し孔2gが多数形成されている。
【0020】
H形鋼3はU形鋼矢板2の外側面に、強軸X1 −X1 (断面の主軸のうち、最大値の断面二次モーメントを与える主軸)がU形鋼矢板2の強軸X2 −X2 と平行な状態に配置され、かつU形鋼矢板2のウェブ部2aの外側部に一方のフランジ部3aを添わせるとともに、フランジ部3aの幅方向の縁端部をウェブ部2aの外側部にすみ肉溶接またはフレア溶接することによりU形鋼矢板2と一体化されている。
【0021】
この場合のH形鋼3としては、U形鋼矢板2の大きさ(断面サイズ)に応じて適当な大きさ(断面サイズ)のものが使用され、その際特にH形鋼3のフランジ3aの横幅がU形鋼矢板2のウェブ部2aのそれより小さいとき、H形鋼3のフランジ部3aの縁端部は、図3(a)に図示するようにU形鋼矢板2のウェブ部2aの外側部にすみ肉溶接によって溶接され、H形鋼3のフランジ3aの横幅がU形鋼矢板2のウェブ部2aのそれより大きいときは、図3(b)に図示するようにH形鋼3のフランジ部3aの縁端部はU形鋼矢板2のウェブ部2aの外側部にフレア溶接によって溶接されている。
【0022】
こうして形成された地中連続壁用鋼材1は複数、U形鋼矢板2とH形鋼3をそれぞれ同じ側に位置させ、かつ継手2cと2dを互いにかみ合わせながら地中に打ち込まれることで土留め壁地中連続壁(土留め壁)4が構築されている。
【0023】
この地中連続壁用鋼材によれば、H形鋼3をU形鋼矢板2の外側部に溶接して固着する際、H形鋼3の一方のフランジ3aの両側縁端部の二箇所をU形鋼矢板2のウェブ2aの外側部に溶接するので、U形鋼矢板2に溶接によるひずみが発生しにくく、このため打設時の不具合や出来形不良が生じにくい。
【0024】
また、形鋼としてH形鋼を使用することで、加工手間が省けるだけでなくスクラップの発生することもなく、さらに形鋼としてCT形鋼を使用するよりもはるかに高い断面性能を持つ地中連続壁用鋼材を提供できる。
【0025】
また、部分的にH形鋼3を取り付けない場合でも、U形鋼矢板2の剛性が比較的大きいため地中への打ち込みも支障なくでき、直線鋼矢板とH形鋼とからなるタイプの問題点も解消される。
【0026】
さらに、U形鋼矢板2の継手2cと2dが非対称形に形成されていることで、地中に連接して打ち込んで地中連続壁を形成する際、U形鋼矢板2の横断面形状を同一方向にそろえてU形鋼矢板2どうしを直線状に結合できることから、継手が対称のものと比べて、鋼製連壁の幅を小さくすることができる。
【0027】
また、U形鋼矢板2のフランジ部2bと継手2cとの間およびフランジ部2bと継手2dとの間にU形鋼矢板2の幅方向に延びる腕部2fがそれぞれ形成されていることで、U形鋼矢板2の剛性が増し、その分H形鋼3の小断面化が図れる等の効果がある。
【0028】
また、油圧式圧入機やバイブロハンマーなどで地中に打設する際、腕部2fを把持して打設することができ、しかも腕部2fは打設法線方向に対して地中連続壁用鋼材どうしの継手部と同一線上に位置することにより、すなわち打設時に地中連続壁鋼材に発生する回転の中心となる継手部と平面的にずれていないため、把持部に作用する打設力によって地中連続壁用鋼材が継手部を中心に回転するのを阻止することができる。
【0029】
また、特に図2(a)〜(c)に図示するものは、腕部2fに水通し孔2gが多数形成されていることで、地中に連接して打ち込まれても地下水の流れをせき止めることはないので、地下水の水位を一定に保持することができ、また河川の護岸壁用として使用された場合に、水通し孔2gを介して河川側と陸地側との間の自然な水循環が可能なことで、動植物の生息に適した環境を作り出すことができる。その際、鋼管に水抜き孔を設けたタイプ(図5(d)参照)のように二重壁にならないので、河川側と陸地側との間の水循環が充分になされる。
【0030】
なお、H形鋼3のフランジ部3aをU形鋼矢板2のウェブ部2aの外側部に固着する方法としては、溶接による他に例えば図3(c),(d)にそれぞれ図示するように、ウェブ部2aとフランジ部3aにボルト孔2eと3bをそれぞれ形成し、このボルト孔2eと3bに固着ボルト5を挿着する方法、あるいはウェブ部2aの外側部にスタッドボルト6を突設し、これに対応させてフランジ部3aにボルト孔3bを形成し、そしてボルト孔3bにスタッドボルト6を通し、その貫通部分に固着ナット7を螺合する方法などがある。
【0031】
また、場合によっては、例えば図4(a)〜(c)に図示するように腕部がない場合もある。
【0032】
【発明の効果】
この発明は以上説明したとおりであり、U形鋼矢板とこのU形鋼矢板のウェブ部の側部に突設されたH形鋼とから形成されてなるので、きわめて高い断面性能を有し、かつきわめて安価に製作できる等の効果がある。
【0033】
また、U形鋼矢板のフランジ部と継手との間に腕部が形成され、この腕部に水抜き孔が多数設けられているので、また河川の護岸壁用として使用された場合に、水通し孔を介して河川側と陸地側との間の自然な水循環が可能なことで、動植物の生息に適した環境を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】地中連続壁用鋼材および地中連続壁の一例を示し、(a),(b)はそれぞれ地中連続壁用鋼材の横断面図、斜視図、(c)は地中連続壁の一部横断面図である。
【図2】地中連続壁用鋼材および地中連続壁の他の一例を示し、(a),(b)はそれぞれ地中連続壁用鋼材の横断面図、斜視図、(c)は地中連続壁の一部横断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、U形鋼矢板とH形鋼との接合方法を示す地中連続壁用鋼材の横断面図である。
【図4】地中連続壁用鋼材および地中連続壁の他の一例を示し、(a),(b)はそれぞれ地中連続壁用鋼材の横断面図、斜視図、(c)は地中連続壁の一部横断面図である。
【図5】地中連続壁用鋼材および地中連続壁の従来例を示し、(a),(c),(e)はその横断面図、(b),(d)はその斜視図である。
【符号の説明】
1 地中連続壁用鋼材
2 U形鋼矢板
2a ウェブ部
2b フランジ部
2c 継手
2d 継手
2e ボルト孔
2f 腕部
2g 水通し孔
3 H形鋼
3a フランジ
3b ボルト孔
4 地中連続壁(土留め壁)
5 固着ボルト
6 スタッドボルト
7 固着ナット
Claims (3)
- ウェブ部とこのウェブ部の両端に設けられたフランジ部とこのフランジ部の一端に設けられた腕部とから断面ほぼU字状に形成されたU形鋼矢板と、このU形鋼矢板のウェブ部の外側に一方のフランジを固定して設置されたH形鋼とから形成され、前記腕部の先端に継手が非対称形に設けられ、前記U形鋼矢板の横断面形状を同一方向にそろえて結合できるようにしてあることを特徴とする地中連続壁用鋼材。
- 腕部に水通し孔が複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の地中連続壁用鋼材。
- 請求項1または2記載の地中連続壁用鋼材を複数、地中に互いに隣接させて設置することにより構築されていることを特徴とする地中連続壁。
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