JP3602752B2 - プレス性の良好な電子銃電極用Fe−Cr−Ni系合金条 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,非磁性が要求される電子銃電極用合金に関わり,特に,絞り加工のためのプレス性を向上させたFe−Cr−Ni系電子銃電極用合金条に関わる。
【0002】
【従来の技術】
一般に,カラーブラウン管などに用いられる電子銃の電極には,板厚0.05から0.7mm程度の非磁性ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni系合金素材が使用される。
【0003】
図1はシャドウマスク型カラーブラウン管の断面図である。図1において、赤、緑、青の3原色を発光する蛍光皮膜2がパネル1に塗布されている。カラーブラウン管の首部に設けられた電子銃4から放射される電子ビーム3は偏向ヨーク5により偏向されかつ走査される。6はシャドウマスク、7は電磁シールドである。図2には電子銃のプレス成形部品の一例が10で示されている。赤、緑、青を発光する光ビームの何れかを通過させる透孔は10aで示されている。この電子銃部品を製作するには、Fe−Cr−Ni系合金素材をプレス加工により所定形状に絞り、引き続いてパンチング(穿孔加工)する。
【0004】
プレス絞り加工,特にバーリング成形(丸い穴を開けて穴の周縁を筒のように突き出させる加工)を容易にするため圧延加工率や焼鈍条件を検討した技術が提案されている(特願平6−257253号)。また,プレス生産性を上げるために脱脂し易い低粘度油を使用したプレス成形において,素材表面粗さにおける中心線平均粗さと最大粗さを規定することによってプレス加工性を向上させる技術(特願平8−205453号)や,バーリング加工においては,穴をプレス打ち抜きした時のバリが残存し、これがバーリング割れに関係することを見出し,打ち抜き性を確保するためにSをある程度含有させたうえで微量成分を制御することで絞り性を向上させる技術(特願平9−283039号)が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,近年コンピューター用ブラウン管における高精細化と高輝度化の進展によって電子銃のフォーカス特性への要求も厳しくなり,電極レンズ径を大きくかつ高精度に加工できる材料であって,プレス加工速度向上へも対応できることが要求されるようになり,従来のFe−Cr−Ni系材料は,絞り面(図2、10b)に割れが発生したため、これらの要請に充分に対応できるものではなかった。
本発明は,上記事情に鑑みてなされたもので,近年より一層厳しくなった絞り性,特に絞り後の表面品質に優れた電子銃電極用合金素材を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は,かかる課題に対処すべく鋭意研究を行った結果,Fe−Cr−Ni系合金素材の最終焼鈍後の集合度と,集合度の板厚方向の分布で絞り性が変わることを見出した。
詳しくは,最終焼鈍後の板厚中央部における(111)面の集合度が大きいと絞り性が悪く,さらに,材料表層部の(111)面の集合度が板厚中央部のそれよりも大きいと絞り性が劣化することを見出した。
ここで,材料板厚中央部の(111)面集合度は次式αC(111)で表され,材料表層部の(111)面集合度は次式αS(111)で表される。
【数2】
IC(hkl) : 板厚中央部の(hkl)面の回折ピークの積分強度
【数3】
IS(hkl) : 材料表層部の(hkl)面の回折ピークの積分強度
【0007】
本発明のFe-Cr-Ni系電子銃電極用合金条は、組成が、重量%で、Cr:15〜20%、Ni:9〜15%、 Si :0.005〜1.0%、Mn:0.005〜2.5%、S:0.0003〜0.0100%、Mo:2.0%以下、Al:0.001〜0.2%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、不可避的不純物の量がC:0.12%以下、P:0.03%以下、O:0.005%以下、N:0.1%以下、Ca:0.05%以下、Mg:0.02%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Zr:0.1%以下であり、JISG0555に規定されている清浄度が0.03%以下であり、最終調質状態が焼鈍であり、集合度が、材料板厚中央部における(111)面の集合度を、
【数4】
−但し、Ic ( hk 1)は(hk1)面のX線回折強度である−と表わすと、αc(111)が50%以下であり、また材料表層部の(111)面の集合度をαs(111)と表わすと、αs(111)≦αc(111)であることを特徴とする電子銃電極用Fe-Cr-Ni系合金条である。
【0008】
【発明の実態の形態】
本発明の電子銃電極用Fe-Cr−Ni系合金条における合金成分限定理由並びに(111)面集合度の限定理由を以下に説明する。
【0009】
Cr:電子銃電極としては非磁性が要求される。通常,非磁性であるためには透磁率が1.005以下であることが要求され,これを満たすためにCr含有量を15〜20%とした。なお,より好ましい範囲は15〜17%である。
Ni:Niが9%より少ないと透磁率が高くなりすぎ15%より多いと原価高となるので、Ni含有量を9〜15%とした。
これら成分の残部はFe及び不可避的不純物である。不可避的不純物の中でC,P,O,N,Ca,Mg,Ti,Nb,V,Zrは上限を以下のように規制する。
C:Cが0.12%を超えると炭化物の生成が著しく多くなり、絞り性が劣るので,C含有量は0.12%以下である。
P:Pは0.03%を超えると絞り性が著しく劣化するので,P含有量は0.03%以下である。
O(酸素):Oの含有量が多いと酸化物系介在物が多くなり絞り性が劣化するので、O含有量を0.005%以下である。
N:Nの含有量が0.1%を超えると加工性が劣化するので、N含有量は0.1%以下である。
Ca:Caは硫化物,酸化物を形成して絞り性を劣化させるので、Ca含有量は0.05%以下である。好ましい範囲は0.01%以下である。
Mg:Mgは酸化物を形成して絞り性を劣化させるので、Mg含有量は0.02%以下である。好ましい範囲は0.005%以下である。
Ti:Tiは炭化物,硫化物,酸化物,窒化物を形成して絞り性を劣化させるので、Ti含有量は0.1%以下である。好ましい範囲は0.02%以下である。
Nb:Nbは炭化物,硫化物,酸化物,窒化物を形成して絞り性を劣化させるので、Nb含有量は0.1%以下である。好ましい範囲は0.02%以下である。
V:Vは炭化物,酸化物,窒化物を形成して絞り性を劣化させる。よって,V含有量は0.1%以下である。好ましい範囲は0.02%以下である.
Zr:Zrは酸化物を形成して絞り性を劣化させるので、Zr含有量は0.1%以下である。好ましい範囲は0.02%以下である。
これらの成分は原料の厳選により、所定値以下の量に抑えるできる。
【0010】
本発明に係るFe-Cr−Ni系合金条はこれらの成分以外に、次のような成分を含有する。次に列挙する成分は非磁性及びプレス成形性を直接的もしくは間接的に改良し、あるいはプレス成形性を劣化させずにその他の要求特性を改良する成分の例である。
Si:Siは脱酸の目的で添加されるが,0.005%未満では脱酸の効果がなく,1.0%を超えると加工性が劣化する。よって,Si含有量を0.005〜1.0%とした。
Mn:Mnは脱酸の目的と,MnSを析出させる目的で添加される。0.005%未満では効果がなく,2.5%を超えると材料硬さが上昇し絞り性が劣化する。よって,Mn含有量は0.005〜2.5%とした。
S:Sは適量含有するとMnとMnSを形成し,穴をプレス打ち抜きする時のバリの発生を抑え,バーリング加工時のバーリング割れの発生を抑えることにつながる。しかしながら,S含有量が0.0003%未満ではその効果が得られず,0.0100%を超えると粗大なMnSが生成し,逆に絞り性が劣化する。従って,S含有量は0.0003〜0.0100%とした。
Mo:Moは耐食性を向上させる。但し,2.0%を超えると絞り性が劣化するので,Mo含有量は2.0%以下とした。
Al:Alは脱酸材として添加される。0.001%未満では脱酸効果が十分でなく、0.2%を超えると加工性が劣化する。よって、Al含有量は0.001〜0.2%とした。
【0011】
なお,本発明に係るFe-Cr−Ni系合金条のJISG0555に規定されている清浄度が0.03%を超えると絞り性,特に深絞り性及びバーリング加工性が劣化するので,清浄度は0.03%以下とした。この清浄度は、材料の厳選、真空溶解、脱酸などの手段により達成することができる。
【0012】
次に,本発明に係るFe-Cr−Ni系合金条の(111)面集合度の限定理由を以下に説明する。
材料板厚中央部の(111)面集合度αC(111):αC(111)が50%より大きいと,塑性異方性が大きくなって絞りにおける変形が不均一になる。よって,αC(111)を50%以下とした。
材料表層部の(111)面集合度αS(111):αS(111)がαC(111)よりも大きいと,αC(111)が同じであっても絞り性を劣化させる。よって,αS(111)≦αC(111)とした。
本発明に係るFe-Cr−Ni系合金条は、インゴットの鋳造,分塊圧延もしくは鍛造,インゴット鋳造と分塊圧延(鍛造)に代わるスラブの連続鋳造、皮剥き,熱間圧延、冷間圧延と焼鈍を繰り返し,最終板厚の圧延材を軟化して成形性を向上するための焼鈍を順次行う通常の製造方法により製造される。合金条は電子銃部品を連続プレス成形するに適した長尺材であり、その幅は特に制限がないが一般には12〜120mmである。上記の製造工程において、冷間圧延条件及び最終焼鈍条件が上記集合度にもっとも影響を与える。本発明者が工場実験を繰り返し行い、冷間圧延の加工度が35〜80%、圧延のロール径が40〜120mm、及び1パス当たりの圧下量が0.03〜0.20mmであり、さらに焼鈍後の400℃までの冷却速度を50〜100℃/秒の範囲に制御することにより最終焼鈍後の(111)面集合度を上記範囲に制御できることを見出した。
【0013】
【実施例】
次に実施例を示して本発明を説明する。表1に示す組成の合金成分となるように、工業用純鉄、電解ニッケル、電解クロム、電子銃部品のスクラップなどを真空溶解炉に装入し、各原料を溶解してインゴットに鋳造した。但し、成分Aは鋳造前にアルミニウム脱酸を行い,成分Bは脱酸を行わないで鋳造した。鋳造後,分塊圧延,皮剥き,熱間圧延及びスケール除去を通常の条件で行った後に,冷間圧延と焼鈍を繰り返し,最終焼鈍を1050℃で行い、板厚0.4mmの焼鈍材を製造した.この時,本発明の実施例においては、冷間圧延の加工度:65%、圧延のロール径:75mm、焼鈍後の1050〜400℃での平均冷却速度を80℃/秒に制御し、比較例では冷間圧延の加工度を32%とした。
(111)面の集合度は,Co管球をX線源としたX線回折結果から計算した。表1のNo.1板厚中央部のX線回折像を図3に示し、表層部のX線回折像を図4に示す。材料表層部の集合度はそのままで測定し,板厚中央部の集合度は板厚の半分を研磨で除去してから研磨面を測定した。この焼鈍材の深絞り試験を行い限界絞り比を測定した。なお,プレス時の潤滑材として水溶性ワックスを用いた。また,絞り比1.33で平板ポンチを用いて絞り,加工品に割れがあるかどうかの評価を行った。表2に表面粗さの測定結果とプレス性の評価結果を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
表2から明らかなように,本発明実施例のNo.1からNo.4は,比較例のNo.5からNo.8と比較していずれも限界絞り比が大きく優れた絞り性を示している。No5はα C(111) が50%以下であるが,α s(111) と≦α c (111) の関係を満たさないために,αC(111)がほぼ同じであるNo.1よりも限界絞り比は小さくなっていた。また、No.6とNo.7はαC(111)が50%を超えているために限界絞り比が小さくなっていた。さらに,No.8はJISG0555に規定されている清浄度が0.03%を超えたために,絞り部の割れの発生頻度が多かった。
【0017】
【発明の効果】
以上のように,本発明のFe−Cr−Ni系合金条は,絞り性を著しく向上させ厳しいプレス条件で加工されても割れの発生しにくい材料である.従って,電子銃電極用として最適な合金条を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】カラーブラウン管の断面図である。
【図2】電子銃絞り部品の縦断面図である。
【図3】板厚中央部のX線回折像である。
【図4】表層部のX線回折像である。
【符号の説明】
1 パネル
2 蛍光皮膜
3 電子ビーム
5 偏向ヨーク
6 シャドウマスク
7 電磁シールド
10 電子銃電極の絞り加工部品
Claims (1)
- 組成が、重量%で、Cr:15〜20%、Ni:9〜15%、 Si:0.005〜1.0%、Mn:0.005〜2.5%、S:0.0003〜0.0100%、Mo:2.0%以下、Al:0.001〜0.2%を含有し、残部不可避的不純物およびFeからなり、不可避的不純物の量がC:0.12%以下、P:0.03%以下、O:0.005%以下、N:0.1%以下、Ca:0.05%以下、Mg:0.02%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Zr:0.1%以下であり、JISG0555に規定されている清浄度が0.03%以下であり、最終調質状態が焼鈍であり、集合度が、材料板厚中央部における(111)面の集合度を、
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