JP2004115884A - 電子銃電極用合金 - Google Patents

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Abstract

【課題】近年より一層厳しくなった深絞り性及びバーリング性の改善要求に応えることができる電子銃電極用合金を提供することを目的としている。
【解決手段】質量パーセントで、Cr:15〜20%、Ni:9〜15%、C:0.12以下、Si:0.005〜1%、Mn:0.005〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.0003〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、以下の条件で数えられる介在物の群の個数が20個以下であることを特徴とする電子銃電極用ステンレス鋼帯、
観察断面:圧延直角方向断面、
観察視野:(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野、
対象とする介在物の形状:B系、
介在物の幅:幅50μm以上。

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は非磁性が要求される電子銃電極用合金に関わり、特に、深絞り性及びバーリング性に優れた電子銃電極用合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子管用部材、特にカラーブラウン管に用いられる電子銃の電極には、従来から非磁性のステンレス鋼帯が用いられてきており、そのような合金としては特公昭32−751や特公平4−43372に開示されたものがある。これら従来から公知の合金、特に深絞り性及びバーリング性が改良された特公平4−43372の合金は、従来のブラウン管用電子銃電極材料として十分な特性を有していた。なお、「バーリング加工」とは、板に孔をあけて孔の周縁を筒のように突出させる加工をいう。
【0003】
深絞り性及びバーリング性を向上させたステンレス鋼帯に関しては、適量のS量を含有した合金でSまたはS化合物(主としてMnS)を粒界または粒内に均一に分散させ打ち抜き性を改良したものが特願平6−336866号において開示されている。また、特公平11−106873号では、従来あまり考慮されなかったP、N、Ti、Nb、V、Zr、Ca、Mgといった微量成分に着目し特性を改善している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、近年のコンピュータ用ブラウン管における急速な高精細化と高輝度化の進展によって、さらに深絞り性とバーリング性の改良された材料が要求されるようになってきた。すなわち、電子銃のフォーカス特性をより向上させるために、電極のレンズ径をより一層大きく、かつ、高精度に加工する必要が生じてきた。その結果、深絞り性やバーリング性に対する要求は従来になく厳しいものとなり、従来の合金では、深絞り加工及びバーリング加工において要求特性への対応が困難になってきた。
本発明は、近年より一層厳しくなった深絞り性及びバーリング性の改善要求に応えることができる電子銃電極用合金を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、深絞り加工及びバーリング加工で不良になったプレス品を詳細に調べた。その結果、不良の形態として、深絞りの円筒加工面に三日月形状の割れが生じたもの(図1(a))やバーリング加工の円筒先端部が裂けて割れたもの(図1(b))の比率が高いことが判明した。その不良は、特定のプレス設備、プレス実施日、プレス作業者によらず、ランダムにある頻度で発生する傾向が認めらず、ステンレス鋼帯の製造ロットにより変動していた。
【0006】
プレス品の割れ発生部を調べるとともに、ステンレス鋼帯素材についても機械的性質や介在物を調べた。その結果、割れ発生部には特有の介在物が存在し、特定の形状のもののみが割れの起点となっていることを確認した。伸びが大きい等の機械的特性が深絞り性およびバーリング性を向上させる値であり、かつ、介在物量の指標である清浄度が低い場合においても、割れは発生していたからである。つまり、本発明者らは、深絞り加工やバーリング加工で割れの起点となる要因がある特定の形態を呈し、ある特定の大きさを有し、その多くは酸化物系の介在物であること、また、機械的特性や清浄度からの評価からでは評価できないことを見出した。
【0007】
深絞り加工における三日月状の割れは、円筒加工面に発生するが、素材的には圧延直角方向に割れる。
図2は加工部分と介在物の位置を示した模式図であるが、深絞り加工では、図2(a)のように深絞り加工円筒の深さ方向が圧延平行方向となる側面にある介在物によって割れは発生しないが、図2(b)のように深絞り加工円筒の深さ方向が圧延直角方向となる側面に存在する介在物によって割れが発生する。これは、圧延直角方向と圧延水平方向との材料の伸びを考えると圧延直角方向の伸びが悪く、介在物が起点となって割れるためである。一方、バーリング加工の場合には図2(c)のようにセンターの孔から介在物が外れる場合には、割れは発生しないが、図2(d)のようにセンターの孔の部分を横切る場合には介在物が孔の表面に現れ、バーリング加工の際に介在物が起点となってわれが発生する。
さらに、細長い硫化物系介在物は深絞り性やバーリング性に影響を与えず,割れの起点とはならない。硫化物以外の介在物でも、ある特定の大きさより小さい場合には、深絞り加工及びバーリング加工に悪い影響も良い影響も与えないものもあることを見出した。
【0008】
本発明は、上記知見によりなされたもので、
質量パーセントで、Cr:15〜20%、Ni:9〜15%、C:0.12%以下、Si:0.005〜1%、Mn:0.005〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.0003〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼帯で、以下の条件で数えられる介在物の群の個数が20個以下であることを特徴とするものである。
観察断面:圧延直角方向断面、
観察視野:(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野、
介在物形状:B系、
介在物の幅:幅50μm以上。
【0009】
なお、Mo:2%以下、Al:0.001〜0.2%、O:0.005%以下、N:0.1%以下、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Ca:0.05%以下、Mg:0.02%以下が望ましい。いずれの元素についても上限を超えると深絞り性及びバーリング性が劣化させてしまうからである。また、Alは脱酸剤として添加されるので、含有量が0.001%未満では必要な脱酸効果が得られないからである。
【0010】
【発明の実施の形態】
上記数値限定の根拠を本発明の作用とともに説明する。
(1)組成について
組成についての限定の理由は以下の通りである。
Cr:電子銃用電極としては非磁性であることが基本的に要求される。この要求に応えるためには、Cr量とNi量を適切な範囲に制御することが必要であり、非磁性の確保のためにCr量の含有量は15〜20%とした。なお、より好ましい範囲は15〜17%である。
Ni:Niは非磁性の確保には、9%以上必要であり、15%を超えるとコスト高となる。よってNiの含有量は9〜15%とした。なお、より好ましい範囲は13〜15%である。
【0011】
C:0.12%を超えるCを含有すると炭化物の生成が著しく、深絞り性及びバーリング性を劣化させるので0.12%以下とした。
Si:Siは脱酸の目的で添加されるが、0.005%未満では脱酸の効果がなく、1%を超えると加工性が劣化し、深絞り性及びバーリング性が劣るようになる。よってSiの含有量は0.005〜1%とした。Mn:Mnは脱酸の目的と、MnSを析出させることで上記した作用を奏する目的のために添加する。スラブでの残留量が0.005%よりも少ないと効果がなく、2.5%を超えて含有すると硬さの上昇が著しくなり、深絞り性及びバーリング性が劣化する。よって、Mnの含有量は0.005〜2.5%とした。
【0012】
P:Pは0.03%を超えて含有すると深絞り性及びバーリング性が劣化するので0.03%以下とした。
S:Sは適量含有するとMnとMnSを形成し、上述のように深絞り性及びバーリング性を向上させる。しかしながら、Sの含有量が0.0003%未満であるとその効果が得られず、また、0.01%を超えて含有すると熱間加工性を悪くしてしまう。よって、Sの含有量は0.0003〜0.01%とする。
【0013】
(2)介在物について
本発明では特定の形状の介在物が、深絞りの円筒加工面に生じる三日月形状の割れやバーリング加工の円筒先端部に生じる割れの起点になることを見出した。
本発明における介在物形状については、介在物は、JIS G 0555「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」に基いてA系介在物、B系介在物、C系介在物の3種類で規定する。
本発明で対象とする介在物はB系介在物とする。A系介在物は硫化物系が主体で、細長い形状を有するが、延性を持っているため、深絞り性やバーリング性に影響しない。また、C系介在物は細かい、小さいな介在物が分散した状態のもので、大きさが小さいため、深絞り性やバーリング性に影響しない。そこで本発明ではB系介在物のみを数える。
【0014】
しかしながら、B系介在物においても、すべての大きさのものが深絞り加工及びバーリング加工に悪い影響を与えるわけではない。悪い影響を与えるのは、幅の広いB系介在物である。ここで、介在物の「幅」とは圧延直角方向の寸法を、「長さ」は圧延平行方向の寸法を、「厚み」は板面に対し垂直方向の寸法を定義する。
深絞り加工及びバーリング加工に悪い影響を与える介在物の幅を50μm以上とする。介在物は幅の広いものは一般的に長いため、加工部分に入り込んでしまう確率が高いが、50μm未満のものは、長さが短い分、加工部分に入り込みにくく、また、深絞り加工やバーリング加工においても小さいため、割れの起点とはなりにくいからである。
【0015】
従って、介在物の幅を調べるために、介在物の観察断面を圧延直角方向断面とし、観察されるB系の介在物のうち、幅を50μm以上のものを数える。図3に圧延平行方向断面及び圧延直角方向断面での介在物の観察される形状を模式的に示した。幅の異なる介在物(ア)、(イ)において圧延直角方向断面では幅の異なることを識別できるが、圧延平行方向断面では識別できない。また、圧延面に平行な断面では、幅は識別できるが、後述するような幅広い視野の圧延面に平行な断面に切り出して観察することは困難である。
観察視野は圧延直角方向の断面について、(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野を観察する必要がある。
鋼帯の積算幅とは、幅方向の総和を意味し、本発明において(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野とは、たとえば、板厚が0.25mmで幅が100mmである鋼帯は、0.25mm×100mmの圧延直角断面を対象に、60断面の視野、板厚が0.5mmで幅が30mmである鋼帯は、0.5mm×30mmの圧延直角断面を対象に、200断面の視野を意味する。積算幅を6000mmとしたのは、6000mm未満では介在物群の分布を把握できず、介在物個数の測定精度が不足してしまうからである。つまり、半分の視野である(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:3000mm)に相当する面積、あるいは、1/4の視野である(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:1500mm)に相当する面積では精度が不足しまう。介在物群の個数の規定として(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:3000mm)に相当する面積で10個以下、或いは(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:1500mm)に相当する面積で5個以下の規定では不十分である。
【0016】
【実施例】
本発明について、実施例を比較例と対比しながら説明する。
表1に示す組成に調整し、厚みが150mmのスラブを周知のAOD−連続鋳造システムに製造した。本発明合金に関わる介在物はこの鋳造において造り込まれる。本実施例については、AOD精錬後における取鍋での溶湯静置時間を20分から100分の範囲とした。また、鋳造速度は60 mm/分〜80mm/分、鋳造速度の管理水準は±10mm/分で、表2に示すようにそれぞれのスラブにつき異なる条件にて鋳造した。得られたスラブを周知の方法で加工し板厚が0.25mmの鋼帯とした。即ち、まず、150mm厚みのスラブを熱間にて圧延し厚み3mmのホットコイルとした。ホットコイルを酸洗し白皮を得た。その後、冷間圧延と光輝焼鈍を繰り返し行い、仕上げ圧延で厚み0.25mmの鋼帯とした。最後に光輝焼鈍を行い製品とした。最後の光輝焼鈍では結晶粒度が粒度番号で8.0になるように焼鈍条件を設定した。
得られた鋼帯について、清浄度、介在物個数、深絞り性、バーリング性を評価した。
【0017】
【表1】
Figure 2004115884
【0018】
清浄度は、JIS G 0555「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」に準拠し測定した。
介在物個数は以下の条件で数えた。
・観察断面:圧延直角方向断面。
・観察視野:(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野。
・介在物形状:B系。
・介在物の幅:幅50μm以上。
介在物個数の測定では、周知の方法にて所定の鋼帯断面を鏡面仕上げし、200倍の光学顕微鏡で観察した。介在物の幅は、市販の接眼レンズでレンズにスケールが刻まれたものを用い測定した。
【0019】
深絞り性は、連続プレス機にて図3に示す形状を有する円柱形のキャップを作製し評価した。図3に示すように、円柱形キャップは底面と側面から成る。円柱形キャップの底面は、形状が真円、直径が20mm、厚みが0.25mmであり、それと平行に相対する反対側は開口している。円柱形キャップの側面については、円柱形キャップの高さ(絞り方向の長さ)が25mmである。円柱形キャップ側面の厚みは0.225mmである。絞り加工前の鋼帯の厚みが0.25mmなので絞り加工における加工度は10%となる。深絞り加工により得られた円柱形キャップの側面に三日月形状の割れが生じていないか倍率が20倍の光学顕微鏡で確認した。観察は円柱形キャップの外面と内面の両方を対象とした。また、円柱形キャップの底面は観察の対象から外した。深絞り性の評価では10000個の円柱形キャップを作製し、割れの生じたものを不良、割れの生じなかったものを良好と判定し不良率(%)を求めた。
【0020】
バーリング性は、まず鋼帯に孔をあけこの孔を押し広げるとともに所定の高さを有する円筒形の孔に絞り加工し評価した。円筒形の孔の形状を図4に示す。鋼帯にあける孔の直径は1mmとした。絞り加工により作製する円筒は、高さ(絞り方向の長さ)が2mm、直径が5mmとした。絞り加工におけるパンチの断面形状は真円であり、その円の中心は鋼帯にあけた孔の中心と一致するものとした。この加工では、鋼帯にあけた直径1mmの孔が、直径が5mmである円筒形の孔に押し広げられる。この円筒形の孔について、円筒の先端部分、即ち図4では厚みが0.1mmの孔縁部部分を20倍の光学顕微鏡にて観察し割れがないか確認した。バーリング性の評価では10000個の円筒形の孔を作製し、孔縁に割れの生じたものを不良、割れの生じなかったものを良好と判定し不良率(%)を求めた。
【0021】
【表2】
Figure 2004115884
【0022】
表2において本発明例番号.1〜番号.4は、深絞り性の評価で不良率が0.1%未満の低い値を示している。また、バーリング性の評価では不良率が0%となった。これに対し、比較例番号.6〜16では、静置時間が短いため、幅50μm以上の介在物個数が多く本発明の規定を外れているため、深絞り性評価試験およびバーリング性評価試験での不良率が本発明例より高かった。また、鋳造速度においては、静置時間程の影響はないものの、速度が早くなるにつれ、深絞り性評価試験およびバーリング性評価試験での不良率が高くなった。
また、発明例番号.1、4と比較例番号.5、12ついて、幅:1650mmを4箇所測定し、1650mm、3300mmに積算した結果(1650mm×2)、6600mmに積算した結果(1650mm×2)を表3に示した。
【0023】
【表3】
Figure 2004115884
【0024】
B系介在物の数が少ない番号.1いずれの測定結果においても、深絞り性およびバーリング性について良好であることを判断できる。また、
B系介在物の数の多い番号.12においてはいずれの測定結果において深絞り性およびバーリング性が良好でないことの判断ができる。しかしながら、番号.4において1650mmで5個、3300mmで10個を超える場合があり、深絞り性およびバーリング性について良好であることを判断できない。また、番号.5において1650mmで5個、3300mmで10個を下回る場合があり、深絞り性およびバーリング性について良好でないことを判断できない。
従って正しく判断するためには、積算幅として6000mmが必要である。
【0025】
【発明の効果】
本発明の採用により、電子銃電極用ステンレス鋼帯の深絞り性やバーリング性の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】深絞り加工及びバーリング加工における不良部の形状を模式的示した図である。
【図2】深絞り加工及びバーリング加工における加工部分と介在物の位置を示した模式図である。
【図3】圧延直角方向断面及び圧延平行方向に観察されるB系介在物を表す模式図である。
【図4】深絞り性評価試験にて作製した円柱形キャップの形状を表す模式図である。上段が絞り方向に対し直角方向に切った断面の形状、下段が絞り方向に対し垂直方向に切った断面の形状である。
【図5】バーリング性評価試験にて作製した円筒形の孔の形状を表す模式図である。上段が孔あけ方向に対し直角方向に円筒部を切った断面の形状、下段が孔あけ方向に対し垂直方向に切った断面の形状である。

Claims (1)

  1. 質量パーセントで、Cr:15〜20%、Ni:9〜15%、C:0.12%以下、Si:0.005〜1%、Mn:0.005〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.0003〜0.01%、残部Feおよび不可避的不純物からなり、以下の条件で数えられる介在物の群の個数が20個以下であることを特徴とする電子銃電極用ステンレス鋼帯、
    観察断面:圧延直角方向断面、
    観察視野:(鋼帯の板厚)×(鋼帯の積算幅:6000mm)に相当する面積の視野、
    対象とする介在物の形状:B系、
    介在物の幅:幅50μm以上。
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