JP3598599B2 - モータのピボットスラスト軸受システム - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、たとえばスピンドルモータなどのピボットスラスト軸受システムに利用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気ディスク装置の高速記録や記録の高密度化などの背景から高精度,高速回転のスピンドルモータが求められている。高精度,高速回転化にともなって、特にスピンドルモータの回転軸のアキシャル方向の変位を経時的におさえる必要がある。このため、回転軸は流体ラジアル軸受部で支持する方式が採用されるとともに、スラスト軸受部で支持する場合も回転軸のアキシャル方向変位を経時的におさえるため、たとえば特開平6−38442号公報のように、回転軸の回転による潤滑油の流体力により動圧を発生させ、非接触摺動状態を目指すような工夫がなされている。
【0003】
また、スピンドルモータの回転軸のアキシャル方向の変位を経時的におさえる手段として、本発明者は周期律表第IVa,Va,VIa族から選ばれた金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸を備え、前記回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して軸受材と摺動するモータの軸受システムを特願平07−052133にて開示している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
たとえば特開平6−38442号公報のように、回転軸の回転による潤滑油の流体力により安定した動圧を発生させ、非接触摺動状態を保つのは理想の潤滑状態である。しかし、固体間に介在する潤滑油膜が固体の表面粗さ程度に薄くなると、境界潤滑状態となり、摺動面各所で固体接触を起こすようになり、流体潤滑状態に比べて摩耗が増加する。
【0005】
実際の摺動面は回転軸を介してスラスト軸受部へ磁気記録媒体のような被駆動部分によるアキシャル方向荷重が付加される。このため、流体軸受であっても境界潤滑状態が混在した混合潤滑状態となっているのが通例で、実際には回転軸の回転による潤滑油の流体力により安定した動圧を発生させ、非接触摺動状態を保つ完全な流体スラスト軸受部とすることは困難である。
【0006】
特願平07−052133は、上記のスピンドルモータの例の如く回転軸が潤滑油を介して軸受部と摺動するモータの軸受システムにおいて、混合潤滑状態の摺動を経時的に安定化する技術の開示である。
しかしながら、混合潤滑状態において比摩耗量は10−11mm2/Nより小さいもののバラツキが大きく、回転軸へのTi注入量の影響,回転軸素材および軸受摺動部分の素材の硬度の影響など不明な点が多かった。
【0007】
また、注入量(dose)はビーム電流と処理時間の積にて定義され、1016〜1020dose(ions/cm2)の高濃度の元素をイオン注入する場合には、ビーム電流を大きくするか、処理時間を長くする必要がある。また、チャンバー内は真空度10−6〜10−8Torrの高真空であるため放熱効率が悪く、イオン注入部近傍は高温になる。回転軸素材に焼き入れ材を用いている場合には、イオン注入部近傍の温度上昇により焼き純され、素材の硬度低下を招く。
【0008】
たとえば、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm,長さ60mm,硬度Hv651のステンレス鋼(SUS420J2)の端面に特願平07−052133にて開示している手法にてイオンビーム(ビーム電流15mA)の連続照射を行うと、図1に示すようにイオン注入面温度は430℃に達し、図2から明らかなように硬度はHv551まで低下する。
【0009】
回転軸素材の硬度が一定の時のイオン注入表面改質の耐摩耗性効果は特願平07−052133より明らかであるが、回転軸素材の硬度が摺動特性に与える影響については不明な点が多く、イオン注入条件を設定するにあたりイオン注入面温度の限界を明確にする必要があった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、たとえば磁気ディスク装置を駆動するスピンドルモータの高精度,高速回転化、あるいは低消費電力化の要求に応えるため、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、またこのバラツキを低減して安定した混合潤滑状態を得ることを目的とする。
【0011】
本発明は、金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸を備え、前記回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して軸受材と摺動するモータのピボットスラスト軸受システムにおいて、回転軸へ注入する金属元素がチタン(Ti)であり、この注入量が2.5×1017dose(ions/cm2)以上、かつ、炭素注入量がチタン(Ti)注入量と同量もしくはこれ以上であることを特徴とするピボットスラスト軸受システムである。
【0012】
回転軸素材はビッカース硬度Hv500以上の鉄鋼材料であり、軸受摺動部分の素材はビッカース硬度Hv550以上の金属あるいはセラミックとし、特に回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)、軸受摺動部分の素材をSi6−0.75xAl0.07xOxN8−x(x≦6)組成でビッカース硬度Hv1300以上のサイアロンとする。
また、本発明のイオン注入回転軸は素材がステンレス鋼(SUS420J2)の場合、イオン注入時のイオン注入面温度は525℃以下とする。
【0013】
なお、本発明の回転軸と軸受材との間に介在する潤滑油組成物とは、鉱油系や合成油系炭化水素基油に粘度指数向上剤,極圧添加剤,酸化防止剤,流動点向上剤,消泡剤など通常の軸受油に使用される添加剤を便宜必要に応じて加えたものである。さらにグリース類や、黒鉛,MoS2,BNなど成層格子を持つ粉体、あるいはIn,Cu,Pbなどの金属薄膜との共存,併用があっても差し支えない。これら混合潤滑状態を司る潤滑油組成物の具体的組成は、対象となるモータの構造,実負荷条件により便宜決定される。
【0014】
また、軸受部を易加工の素材と組み合わせて摺動部分に限定してビッカース硬度Hv550以上の金属あるいはセラミックを配置するような複合的な軸受部構成とすることも差し支えない。
【0015】
【作用】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
まず、回転軸が潤滑油を介して軸受部と摺動するモータのピボットスラスト軸受システムにおいて、本発明の骨子となる回転軸へのチタン(Ti)注入量が摺動特性に与える影響について説明する。
【0016】
鉄鋼材料へのチタン(Ti)イオンと炭素イオンの二重注入による表面改質層の耐摩耗性効果は、特願平07−052133に開示されている。
また、本発明者の研究により、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm、端面無改質のステンレス鋼(SUS420J2)ピンと、盤状サイアロン(SIALON)とを、アキシャル方向荷重50gf,滑り速度8×10−3(m/s),PV値2.5(N/mm2・m/s)にて混合潤滑状態下で摺動させると、摩擦係数0.06であるのに対しピン端面にチタン(Ti)イオンを5×1017dose(ions/cm2)、続けて炭素イオンを1.2×1018dose(ions/cm2)注入した場合、同条件の摺動で0.02〜0.03の安定した摩擦係数が得られる。
【0017】
さらに、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm、端面無改質のステンレス鋼(SUS420J2)を回転軸とし、盤状サイアロン(SIALON)を軸受として、アキシャル方向荷重60gf,回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で300Hr駆動した結果、回転軸のアキシャル方向変位量が14.8μmであったのに対し、回転軸端面にTiイオンを5×1017dose(ions/cm2)、続けて炭素イオンを1.2×1018dose(ions/cm2)注入した場合、回転軸のアキシャル方向変位は1.4μmであった。
【0018】
以上のように、鉄鋼材料へのチタン(Ti)イオン,炭素イオンの二重注入による表面改質層は相手材との混合潤滑状態での摺動において、摩擦係数が低く安定しているため比摩耗量が小さいことがわかる。
チタン(Ti)注入量は、改質層の組成比に寄与するため摺動特性に影響をおよぼす。
【0019】
なお、ここで言うPV値とは平均摺動面圧と平均滑り速度の積で、軸受にかかる負荷を表す指標である。平均摺動面圧は、アキシャル方向荷重をHertzの接触理論式より求めた接触円面積で除した値とした。また、平均滑り速度はHertzの接触理論式より求めた接触円の円周の長さと回転数の積の1/2の値とした。
本発明において、回転軸へ注入するチタン(Ti)注入量の下限を2.5×1017dose(ions/cm2)としたのは、これ以上で同条件での摺動における回転軸のアキシャル方向変位量のバラツキが減少し、安定した低比摩耗量が得られたからである。
【0020】
次に、回転軸素材および軸受摺動部分の硬度が摺動特性に与える影響について説明する。
前述のように、混合潤滑状態下では摺動面各所で固体接触を起こしており、凝着理論によれば、この時の真実接触面積は荷重に比例し硬さに反比例する。したがって、荷重を一定とすると回転軸および軸受の硬度の増加にともない、真実接触面積が減少し見かけの接触面積に占める固体接触面積が減少するため、概して潤滑状態が相対的に流体潤滑状態側に移行し、摩擦係数が低下する。
【0021】
一方、本発明のモータのピボットスラスト軸受システム構成において、摩擦係数0.07以下にて比摩耗量10−11mm2/N以下となることを確認している。
本発明において、回転軸素材の硬度の下限をHv500とし、軸受摺動部分素材の硬度の下限をHv550とした理由は、これ以下では見かけの接触面積に占める固体接触面積が増加し、摩擦係数が0.07より大きくなることがわかったからである。
【0022】
また、本発明に適用されるサイアロン(SIALON)の硬度の下限をHv1300とした理由は、これより低い硬度のサイアロン(SIALON)が実用化されていないからである。
次に、回転軸端面へのイオン注入時のイオン注入面温度が摺動特性に与える影響について説明する。
【0023】
回転軸素材に焼き入れ材を用いている場合には、イオン注入部近傍の温度上昇により焼き純され、素材の硬度低下を招く。たとえば、ステンレス鋼(SUS420J2)の場合、図2に示すように焼き戻し温度の増加にともないビッカース硬度が低下する。前述のように、回転軸のイオン注入面近傍の温度上昇にともなう硬度低下は混合潤滑状態下において、摩擦係数が増加し摩耗の増大を招く可能性がある。
【0024】
本発明において、回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)とし、イオン注入時のイオン注入面温度の上限を525℃とした理由は、図2より明らかなように、これ以上ではイオン注入部近傍の硬度が、前述の回転軸素材硬度下限Hv500より小さくなるからである。
以上のように、本発明は金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して混合潤滑状態で軸受材と摺動する場合において、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、またこのバラツキを低減して安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0025】
【実施例】
[回転軸の摺動]
磁気ディスク装置において、高速記録や記録の高密度化などの背景から、たとえばスピンドルモータには荷重60gf,回転数5400rpm,10000Hrで回転軸のアキシャル方向の変位を40μm以下におさえることが要求される。
【0026】
端面が半径4mmに曲面加工された回転軸がサイアロン(SIALON)製の盤状スラスト軸受と荷重60gfで弾性接触している場合、Hertzの接触理論式より接触円半径は24μm,最大接触面圧は軸端面中心で45kgf/mm2,回転軸の沈み込みは0.11μm程度であると推定される。このようなスラスト軸受では軸回転による潤滑油の流体力により安定な動圧を発生させて非接触状態とすることは困難で、回転軸の摺動は混合潤滑状態である。さらに、回転数5400rpm,10000Hrで回転軸のアキシャル方向変位を40μmとすると最終摺動状態では回転軸とスラスト軸受の接触円半径540μm,摩耗体積0.02mm3,平均摺動半径200μm程度と推定されるので比摩耗量は10−11mm2/Nよりも少なくする必要がある。
【0027】
[イオン注入装置]
回転軸端面へのイオン注入は、特願平07−052133に開示されているMEVVA型イオンビーム発生装置を用い、10−6〜10−8Torrの真空中でアーク放電を起こしてチタン(Ti)あるいは炭素のカソード材料を蒸発,イオン化し、高電圧を印加したグリッド電極により加速してイオンビームとして引き出して素材へ注入した。
【0028】
(実施例1)
Ti注入量は改質層の組成比を決定するため、摺動特性に影響をおよぼす。
[試料の調整]
試料として端面が半径4mmに曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)の端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入してイオン注入回転軸とした。端面の表面粗さはRmax=0.3〜1.1μmに調整した。通常、回転軸端面の表面粗さはRmax<0.5μmに調整するのが通例である。また、素材硬度はHv651であった。
【0029】
ただし、チタン(Ti)は1×1017、2.5×1017、5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量である。
また、スラスト軸受は盤状サイアロン(SIALON)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.1μmに調整した。硬度はHv1590であった。
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
【0030】
[摺動実験]
アキシャル方向荷重60gf、回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で3300Hr駆動した場合の回転軸のアキシャル方向変位量(n=5)を図3に示す。
図3から明らかなように3300Hr経過時点のイオン注入回転軸のアキシャル方向の変位量より算出した比摩耗量は、チタン(Ti)注入量1×1017dose(ions/cm2)にて2.5×10−12mm2/N以下、2.5×1017、5×1017dose(ions/cm2)にて1×10−12mm2/N以下であり、何れも比摩耗量10−11mm2/N以下である。
【0031】
さらに、チタン(Ti)注入量2.5×1017dose(ions/cm2)を超えると、潤滑状態を左右する摺動面の表面粗さの影響が緩和され、安定して比摩耗量1×10−12mm2/N以下で推移する。
本発明のモータのピボットスラスト軸受システムにより、回転軸加工時の傷の存在などの摺動面の表面粗さの増大に起因する異常摩耗を抑制し、モータ動作の急激な変動を抑制して、高品位化する効果がある。
【0032】
(実施例2)
回転軸素材および軸受摺動部分素材の硬度は混合潤滑状態下で摩擦係数に寄与する。
[試料の調整]
端面が半径4mmの曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)の端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入して試料ピンとした。端面の表面粗さはRmax<0.15μmに調整した。また、素材硬度は熱処理によりHv500に調整した。
【0033】
ただし、チタン(Ti)は5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量である。
また、相手材は盤状サイアロン(SIALON:Hv1590),炭素工具鋼(SK2:Hv660),冷間金型用合金工具鋼(SKD11:Hv730)、ステンレス鋼(SUS304:Hv240)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.2μmに調整した。
【0034】
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
[摺動実験]
垂直荷重50gf,滑り速度8×10−3m/s,PV値2.5(N/mm2・m/s)、混合潤滑状態下で往復摺動式摩擦試験を行い、摩擦係数と軸受摺動部分素材硬度との関係を示したものが図4である。
【0035】
図4より明らかなように、回転軸素材硬度Hv500に対して、軸受摺動部分素材硬度の増加にともない摩擦係数が減少する。また、軸受摺動部分素材硬度Hv550以上にて摩擦係数0.07以下となり、比摩耗量10−11mm2/N以下を実現する。 特に、受板材にサイアロン(SIALON)を用いた場合、摩擦係数が0.021と小さく実施例1と同様の摺動実験の結果、5200Hr経過時点のイオン注入回転軸のアキシャル方向の変位量(8μm)より算出した比摩耗量は1×10−12mm2/Nであり、境界潤滑状態や固体接触状態が混在する混合潤滑状態において、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、経時的に安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0036】
(実施例3)
[試料の調整]
図5(a)に示すように、端面が半径4mmの曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)を最密状に80本束ね、ワイヤ3にて固定して回転軸束1とし、前記回転軸束1を冷却機能を有する試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に設置し、回転軸端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入して本発明にかかるイオン注入回転軸とした。
【0037】
ただし、チタン(Ti)は5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量で、ビーム電流はともに15mAである。端面の表面粗さはRmax<0.15μmに調整した。 回転軸束の中心部回転軸イおよび最外周部回転軸ロのイオン注入面素材のビッカース硬度を測定したところ両者ともHv606であり、回転軸束の径方向の硬度差は生じなかった。この現象はチャンバー内が10−6〜10−8Torrの高真空でチャンバー内空間への放熱効率が著しく小さいため回転軸束の径方向への温度勾配が小さいことに起因すると考察した。
【0038】
比較例1として、図5(b)に示すように、同形状のステンレス鋼(SUS420J2)4にシリコーンゴム製伝熱シート6を介して熱伝導性材料5を被覆装着し、さらに熱伝導性材料5をシリコーンゴム製伝熱シート6を介してネジ7にて試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に密着固定した上で同種同量のイオン注入を行った。イオン注入面素材のビッカース硬度はHv651であった。
【0039】
比較例2として、同形状のステンレス鋼(SUS420J2)を525℃以下で熱処理をした後、図5(a)に示す手法にて試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に設置し、同種同量のイオン注入を行った。イオン注入面素材のビッカース硬度はHv500であった。
また、相手材は盤状サイアロン(SIALON:Hv1590)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.1μmに調整した。
【0040】
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
[摺動実験]
垂直荷重150gf,滑り速度6.4×10−2m/s,PV値28.8(N/mm2・m/s),混合潤滑状態下で往復摺動式摩擦試験を行った結果を図6に示す。
【0041】
図6より明らかなように、初期はイオン注入面素材硬度が低いほど摩擦係数は大きい傾向にあるが、時間の経過とともに摩擦係数は減少し、すべて0.05にて安定する。
また、アキシャル方向荷重60gf,回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で300Hr駆動した場合の回転軸のアキシャル方向の変位量(0.3〜0.4μm)から算出した比摩耗量(n=3)はすべて1×10−12mm2/N以下であった。
【0042】
以上のように、回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)としイオン注入時のイオン注入面温度を525℃以下とすれば、混合潤滑状態において回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、経時的に安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0043】
【発明の効果】
以上のように本発明は、鉄鋼材料表面に直接イオン注入した回転軸が潤滑油を介して軸受材と境界潤滑状態や固体接触状態が混在する混合潤滑状態下で摺動する構成における、チタン(Ti)注入量,回転軸素材および軸受摺動部分の素材の硬度の限定、さらに回転軸素材およびイオン注入時のイオン注入面温度の限定により安定した摺動状態を実現し、さらに回転軸加工時の傷の存在などの摺動面表面粗さの増大に起因する異常摩耗を抑制し、モータ動作の急激な変動を抑制して高品位化する効果がある。
【0044】
なお、ここでは磁気ディスク装置に実装した高速回転スピンドルモータにおける実施例を説明したが、本発明のモータのピボットスラスト軸受システムは、プリンタのポリゴンミラーを駆動するスピンドルモータなど広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】イオン注入時のイオン注入面温度の測定例を示す図
【図2】SUS420J2の焼き戻し温度−硬度特性図
【図3】チタン(Ti)注入量が摩耗特性に与える影響の説明図
【図4】摺動部分素材硬度が摩擦係数に与える影響の説明図
【図5】(a)イオン注入時の第1の回転軸設置手法の説明図
(b)イオン注入時の第2の回転軸設置手法の説明図
【図6】回転軸素材をSUS420J2とした時のイオン注入時の回転軸設置手法が摩擦係数に与える影響の説明図
【符号の説明】
1 回転軸束
2 試料台
3 ワイヤ
4 回転軸
5 熱伝導性材料
6 伝熱シート
7 ネジ
【産業上の利用分野】
本発明は、たとえばスピンドルモータなどのピボットスラスト軸受システムに利用される。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気ディスク装置の高速記録や記録の高密度化などの背景から高精度,高速回転のスピンドルモータが求められている。高精度,高速回転化にともなって、特にスピンドルモータの回転軸のアキシャル方向の変位を経時的におさえる必要がある。このため、回転軸は流体ラジアル軸受部で支持する方式が採用されるとともに、スラスト軸受部で支持する場合も回転軸のアキシャル方向変位を経時的におさえるため、たとえば特開平6−38442号公報のように、回転軸の回転による潤滑油の流体力により動圧を発生させ、非接触摺動状態を目指すような工夫がなされている。
【0003】
また、スピンドルモータの回転軸のアキシャル方向の変位を経時的におさえる手段として、本発明者は周期律表第IVa,Va,VIa族から選ばれた金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸を備え、前記回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して軸受材と摺動するモータの軸受システムを特願平07−052133にて開示している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
たとえば特開平6−38442号公報のように、回転軸の回転による潤滑油の流体力により安定した動圧を発生させ、非接触摺動状態を保つのは理想の潤滑状態である。しかし、固体間に介在する潤滑油膜が固体の表面粗さ程度に薄くなると、境界潤滑状態となり、摺動面各所で固体接触を起こすようになり、流体潤滑状態に比べて摩耗が増加する。
【0005】
実際の摺動面は回転軸を介してスラスト軸受部へ磁気記録媒体のような被駆動部分によるアキシャル方向荷重が付加される。このため、流体軸受であっても境界潤滑状態が混在した混合潤滑状態となっているのが通例で、実際には回転軸の回転による潤滑油の流体力により安定した動圧を発生させ、非接触摺動状態を保つ完全な流体スラスト軸受部とすることは困難である。
【0006】
特願平07−052133は、上記のスピンドルモータの例の如く回転軸が潤滑油を介して軸受部と摺動するモータの軸受システムにおいて、混合潤滑状態の摺動を経時的に安定化する技術の開示である。
しかしながら、混合潤滑状態において比摩耗量は10−11mm2/Nより小さいもののバラツキが大きく、回転軸へのTi注入量の影響,回転軸素材および軸受摺動部分の素材の硬度の影響など不明な点が多かった。
【0007】
また、注入量(dose)はビーム電流と処理時間の積にて定義され、1016〜1020dose(ions/cm2)の高濃度の元素をイオン注入する場合には、ビーム電流を大きくするか、処理時間を長くする必要がある。また、チャンバー内は真空度10−6〜10−8Torrの高真空であるため放熱効率が悪く、イオン注入部近傍は高温になる。回転軸素材に焼き入れ材を用いている場合には、イオン注入部近傍の温度上昇により焼き純され、素材の硬度低下を招く。
【0008】
たとえば、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm,長さ60mm,硬度Hv651のステンレス鋼(SUS420J2)の端面に特願平07−052133にて開示している手法にてイオンビーム(ビーム電流15mA)の連続照射を行うと、図1に示すようにイオン注入面温度は430℃に達し、図2から明らかなように硬度はHv551まで低下する。
【0009】
回転軸素材の硬度が一定の時のイオン注入表面改質の耐摩耗性効果は特願平07−052133より明らかであるが、回転軸素材の硬度が摺動特性に与える影響については不明な点が多く、イオン注入条件を設定するにあたりイオン注入面温度の限界を明確にする必要があった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、たとえば磁気ディスク装置を駆動するスピンドルモータの高精度,高速回転化、あるいは低消費電力化の要求に応えるため、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、またこのバラツキを低減して安定した混合潤滑状態を得ることを目的とする。
【0011】
本発明は、金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸を備え、前記回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して軸受材と摺動するモータのピボットスラスト軸受システムにおいて、回転軸へ注入する金属元素がチタン(Ti)であり、この注入量が2.5×1017dose(ions/cm2)以上、かつ、炭素注入量がチタン(Ti)注入量と同量もしくはこれ以上であることを特徴とするピボットスラスト軸受システムである。
【0012】
回転軸素材はビッカース硬度Hv500以上の鉄鋼材料であり、軸受摺動部分の素材はビッカース硬度Hv550以上の金属あるいはセラミックとし、特に回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)、軸受摺動部分の素材をSi6−0.75xAl0.07xOxN8−x(x≦6)組成でビッカース硬度Hv1300以上のサイアロンとする。
また、本発明のイオン注入回転軸は素材がステンレス鋼(SUS420J2)の場合、イオン注入時のイオン注入面温度は525℃以下とする。
【0013】
なお、本発明の回転軸と軸受材との間に介在する潤滑油組成物とは、鉱油系や合成油系炭化水素基油に粘度指数向上剤,極圧添加剤,酸化防止剤,流動点向上剤,消泡剤など通常の軸受油に使用される添加剤を便宜必要に応じて加えたものである。さらにグリース類や、黒鉛,MoS2,BNなど成層格子を持つ粉体、あるいはIn,Cu,Pbなどの金属薄膜との共存,併用があっても差し支えない。これら混合潤滑状態を司る潤滑油組成物の具体的組成は、対象となるモータの構造,実負荷条件により便宜決定される。
【0014】
また、軸受部を易加工の素材と組み合わせて摺動部分に限定してビッカース硬度Hv550以上の金属あるいはセラミックを配置するような複合的な軸受部構成とすることも差し支えない。
【0015】
【作用】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
まず、回転軸が潤滑油を介して軸受部と摺動するモータのピボットスラスト軸受システムにおいて、本発明の骨子となる回転軸へのチタン(Ti)注入量が摺動特性に与える影響について説明する。
【0016】
鉄鋼材料へのチタン(Ti)イオンと炭素イオンの二重注入による表面改質層の耐摩耗性効果は、特願平07−052133に開示されている。
また、本発明者の研究により、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm、端面無改質のステンレス鋼(SUS420J2)ピンと、盤状サイアロン(SIALON)とを、アキシャル方向荷重50gf,滑り速度8×10−3(m/s),PV値2.5(N/mm2・m/s)にて混合潤滑状態下で摺動させると、摩擦係数0.06であるのに対しピン端面にチタン(Ti)イオンを5×1017dose(ions/cm2)、続けて炭素イオンを1.2×1018dose(ions/cm2)注入した場合、同条件の摺動で0.02〜0.03の安定した摩擦係数が得られる。
【0017】
さらに、端面が半径4mmに曲面加工された外径3mm、端面無改質のステンレス鋼(SUS420J2)を回転軸とし、盤状サイアロン(SIALON)を軸受として、アキシャル方向荷重60gf,回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で300Hr駆動した結果、回転軸のアキシャル方向変位量が14.8μmであったのに対し、回転軸端面にTiイオンを5×1017dose(ions/cm2)、続けて炭素イオンを1.2×1018dose(ions/cm2)注入した場合、回転軸のアキシャル方向変位は1.4μmであった。
【0018】
以上のように、鉄鋼材料へのチタン(Ti)イオン,炭素イオンの二重注入による表面改質層は相手材との混合潤滑状態での摺動において、摩擦係数が低く安定しているため比摩耗量が小さいことがわかる。
チタン(Ti)注入量は、改質層の組成比に寄与するため摺動特性に影響をおよぼす。
【0019】
なお、ここで言うPV値とは平均摺動面圧と平均滑り速度の積で、軸受にかかる負荷を表す指標である。平均摺動面圧は、アキシャル方向荷重をHertzの接触理論式より求めた接触円面積で除した値とした。また、平均滑り速度はHertzの接触理論式より求めた接触円の円周の長さと回転数の積の1/2の値とした。
本発明において、回転軸へ注入するチタン(Ti)注入量の下限を2.5×1017dose(ions/cm2)としたのは、これ以上で同条件での摺動における回転軸のアキシャル方向変位量のバラツキが減少し、安定した低比摩耗量が得られたからである。
【0020】
次に、回転軸素材および軸受摺動部分の硬度が摺動特性に与える影響について説明する。
前述のように、混合潤滑状態下では摺動面各所で固体接触を起こしており、凝着理論によれば、この時の真実接触面積は荷重に比例し硬さに反比例する。したがって、荷重を一定とすると回転軸および軸受の硬度の増加にともない、真実接触面積が減少し見かけの接触面積に占める固体接触面積が減少するため、概して潤滑状態が相対的に流体潤滑状態側に移行し、摩擦係数が低下する。
【0021】
一方、本発明のモータのピボットスラスト軸受システム構成において、摩擦係数0.07以下にて比摩耗量10−11mm2/N以下となることを確認している。
本発明において、回転軸素材の硬度の下限をHv500とし、軸受摺動部分素材の硬度の下限をHv550とした理由は、これ以下では見かけの接触面積に占める固体接触面積が増加し、摩擦係数が0.07より大きくなることがわかったからである。
【0022】
また、本発明に適用されるサイアロン(SIALON)の硬度の下限をHv1300とした理由は、これより低い硬度のサイアロン(SIALON)が実用化されていないからである。
次に、回転軸端面へのイオン注入時のイオン注入面温度が摺動特性に与える影響について説明する。
【0023】
回転軸素材に焼き入れ材を用いている場合には、イオン注入部近傍の温度上昇により焼き純され、素材の硬度低下を招く。たとえば、ステンレス鋼(SUS420J2)の場合、図2に示すように焼き戻し温度の増加にともないビッカース硬度が低下する。前述のように、回転軸のイオン注入面近傍の温度上昇にともなう硬度低下は混合潤滑状態下において、摩擦係数が増加し摩耗の増大を招く可能性がある。
【0024】
本発明において、回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)とし、イオン注入時のイオン注入面温度の上限を525℃とした理由は、図2より明らかなように、これ以上ではイオン注入部近傍の硬度が、前述の回転軸素材硬度下限Hv500より小さくなるからである。
以上のように、本発明は金属元素と炭素とを鉄鋼材料に直接イオン注入してなる回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して混合潤滑状態で軸受材と摺動する場合において、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、またこのバラツキを低減して安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0025】
【実施例】
[回転軸の摺動]
磁気ディスク装置において、高速記録や記録の高密度化などの背景から、たとえばスピンドルモータには荷重60gf,回転数5400rpm,10000Hrで回転軸のアキシャル方向の変位を40μm以下におさえることが要求される。
【0026】
端面が半径4mmに曲面加工された回転軸がサイアロン(SIALON)製の盤状スラスト軸受と荷重60gfで弾性接触している場合、Hertzの接触理論式より接触円半径は24μm,最大接触面圧は軸端面中心で45kgf/mm2,回転軸の沈み込みは0.11μm程度であると推定される。このようなスラスト軸受では軸回転による潤滑油の流体力により安定な動圧を発生させて非接触状態とすることは困難で、回転軸の摺動は混合潤滑状態である。さらに、回転数5400rpm,10000Hrで回転軸のアキシャル方向変位を40μmとすると最終摺動状態では回転軸とスラスト軸受の接触円半径540μm,摩耗体積0.02mm3,平均摺動半径200μm程度と推定されるので比摩耗量は10−11mm2/Nよりも少なくする必要がある。
【0027】
[イオン注入装置]
回転軸端面へのイオン注入は、特願平07−052133に開示されているMEVVA型イオンビーム発生装置を用い、10−6〜10−8Torrの真空中でアーク放電を起こしてチタン(Ti)あるいは炭素のカソード材料を蒸発,イオン化し、高電圧を印加したグリッド電極により加速してイオンビームとして引き出して素材へ注入した。
【0028】
(実施例1)
Ti注入量は改質層の組成比を決定するため、摺動特性に影響をおよぼす。
[試料の調整]
試料として端面が半径4mmに曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)の端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入してイオン注入回転軸とした。端面の表面粗さはRmax=0.3〜1.1μmに調整した。通常、回転軸端面の表面粗さはRmax<0.5μmに調整するのが通例である。また、素材硬度はHv651であった。
【0029】
ただし、チタン(Ti)は1×1017、2.5×1017、5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量である。
また、スラスト軸受は盤状サイアロン(SIALON)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.1μmに調整した。硬度はHv1590であった。
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
【0030】
[摺動実験]
アキシャル方向荷重60gf、回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で3300Hr駆動した場合の回転軸のアキシャル方向変位量(n=5)を図3に示す。
図3から明らかなように3300Hr経過時点のイオン注入回転軸のアキシャル方向の変位量より算出した比摩耗量は、チタン(Ti)注入量1×1017dose(ions/cm2)にて2.5×10−12mm2/N以下、2.5×1017、5×1017dose(ions/cm2)にて1×10−12mm2/N以下であり、何れも比摩耗量10−11mm2/N以下である。
【0031】
さらに、チタン(Ti)注入量2.5×1017dose(ions/cm2)を超えると、潤滑状態を左右する摺動面の表面粗さの影響が緩和され、安定して比摩耗量1×10−12mm2/N以下で推移する。
本発明のモータのピボットスラスト軸受システムにより、回転軸加工時の傷の存在などの摺動面の表面粗さの増大に起因する異常摩耗を抑制し、モータ動作の急激な変動を抑制して、高品位化する効果がある。
【0032】
(実施例2)
回転軸素材および軸受摺動部分素材の硬度は混合潤滑状態下で摩擦係数に寄与する。
[試料の調整]
端面が半径4mmの曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)の端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入して試料ピンとした。端面の表面粗さはRmax<0.15μmに調整した。また、素材硬度は熱処理によりHv500に調整した。
【0033】
ただし、チタン(Ti)は5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量である。
また、相手材は盤状サイアロン(SIALON:Hv1590),炭素工具鋼(SK2:Hv660),冷間金型用合金工具鋼(SKD11:Hv730)、ステンレス鋼(SUS304:Hv240)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.2μmに調整した。
【0034】
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
[摺動実験]
垂直荷重50gf,滑り速度8×10−3m/s,PV値2.5(N/mm2・m/s)、混合潤滑状態下で往復摺動式摩擦試験を行い、摩擦係数と軸受摺動部分素材硬度との関係を示したものが図4である。
【0035】
図4より明らかなように、回転軸素材硬度Hv500に対して、軸受摺動部分素材硬度の増加にともない摩擦係数が減少する。また、軸受摺動部分素材硬度Hv550以上にて摩擦係数0.07以下となり、比摩耗量10−11mm2/N以下を実現する。 特に、受板材にサイアロン(SIALON)を用いた場合、摩擦係数が0.021と小さく実施例1と同様の摺動実験の結果、5200Hr経過時点のイオン注入回転軸のアキシャル方向の変位量(8μm)より算出した比摩耗量は1×10−12mm2/Nであり、境界潤滑状態や固体接触状態が混在する混合潤滑状態において、回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、経時的に安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0036】
(実施例3)
[試料の調整]
図5(a)に示すように、端面が半径4mmの曲面加工された外径3mmのステンレス鋼(SUS420J2)を最密状に80本束ね、ワイヤ3にて固定して回転軸束1とし、前記回転軸束1を冷却機能を有する試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に設置し、回転軸端面にチタン(Ti)イオンと炭素イオンを二重注入して本発明にかかるイオン注入回転軸とした。
【0037】
ただし、チタン(Ti)は5×1017dose(ions/cm2)、炭素は1.2×1018dose(ions/cm2)の注入量で、ビーム電流はともに15mAである。端面の表面粗さはRmax<0.15μmに調整した。 回転軸束の中心部回転軸イおよび最外周部回転軸ロのイオン注入面素材のビッカース硬度を測定したところ両者ともHv606であり、回転軸束の径方向の硬度差は生じなかった。この現象はチャンバー内が10−6〜10−8Torrの高真空でチャンバー内空間への放熱効率が著しく小さいため回転軸束の径方向への温度勾配が小さいことに起因すると考察した。
【0038】
比較例1として、図5(b)に示すように、同形状のステンレス鋼(SUS420J2)4にシリコーンゴム製伝熱シート6を介して熱伝導性材料5を被覆装着し、さらに熱伝導性材料5をシリコーンゴム製伝熱シート6を介してネジ7にて試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に密着固定した上で同種同量のイオン注入を行った。イオン注入面素材のビッカース硬度はHv651であった。
【0039】
比較例2として、同形状のステンレス鋼(SUS420J2)を525℃以下で熱処理をした後、図5(a)に示す手法にて試料台2上の有効イオンビーム照射径(φ270mm)内に設置し、同種同量のイオン注入を行った。イオン注入面素材のビッカース硬度はHv500であった。
また、相手材は盤状サイアロン(SIALON:Hv1590)とし、摺動面の表面粗さをRmax<0.1μmに調整した。
【0040】
また、潤滑油はジ−2−エチルヘキシルセバケート(Mw426、η40 11.3cps)にステリアリン酸のブチルエステルを3重量%添加したものを用いた。
[摺動実験]
垂直荷重150gf,滑り速度6.4×10−2m/s,PV値28.8(N/mm2・m/s),混合潤滑状態下で往復摺動式摩擦試験を行った結果を図6に示す。
【0041】
図6より明らかなように、初期はイオン注入面素材硬度が低いほど摩擦係数は大きい傾向にあるが、時間の経過とともに摩擦係数は減少し、すべて0.05にて安定する。
また、アキシャル方向荷重60gf,回転数5400rpmのスピンドルモータを混合潤滑状態で300Hr駆動した場合の回転軸のアキシャル方向の変位量(0.3〜0.4μm)から算出した比摩耗量(n=3)はすべて1×10−12mm2/N以下であった。
【0042】
以上のように、回転軸素材をステンレス鋼(SUS420J2)としイオン注入時のイオン注入面温度を525℃以下とすれば、混合潤滑状態において回転軸のアキシャル方向の変位を抑制し、経時的に安定した耐摩耗性効果が発揮される。
【0043】
【発明の効果】
以上のように本発明は、鉄鋼材料表面に直接イオン注入した回転軸が潤滑油を介して軸受材と境界潤滑状態や固体接触状態が混在する混合潤滑状態下で摺動する構成における、チタン(Ti)注入量,回転軸素材および軸受摺動部分の素材の硬度の限定、さらに回転軸素材およびイオン注入時のイオン注入面温度の限定により安定した摺動状態を実現し、さらに回転軸加工時の傷の存在などの摺動面表面粗さの増大に起因する異常摩耗を抑制し、モータ動作の急激な変動を抑制して高品位化する効果がある。
【0044】
なお、ここでは磁気ディスク装置に実装した高速回転スピンドルモータにおける実施例を説明したが、本発明のモータのピボットスラスト軸受システムは、プリンタのポリゴンミラーを駆動するスピンドルモータなど広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】イオン注入時のイオン注入面温度の測定例を示す図
【図2】SUS420J2の焼き戻し温度−硬度特性図
【図3】チタン(Ti)注入量が摩耗特性に与える影響の説明図
【図4】摺動部分素材硬度が摩擦係数に与える影響の説明図
【図5】(a)イオン注入時の第1の回転軸設置手法の説明図
(b)イオン注入時の第2の回転軸設置手法の説明図
【図6】回転軸素材をSUS420J2とした時のイオン注入時の回転軸設置手法が摩擦係数に与える影響の説明図
【符号の説明】
1 回転軸束
2 試料台
3 ワイヤ
4 回転軸
5 熱伝導性材料
6 伝熱シート
7 ネジ
Claims (3)
- 回転軸素材がビッカース硬度Hv500以上の鉄鋼材料であり、回転軸と潤滑油組成物を介して摺動する軸受摺動部分の素材がビッカース硬度Hv550以上の金属あるいはセラミックで構成され、当該回転軸素材に金属元素と炭素とを直接イオン注入してなる回転軸のイオン注入面が潤滑油組成物を介して軸受剤と摺動するモータのピボットスラスト軸受システムにおいて、回転軸へ注入する金属元素がチタン(Ti)であり、この注入量が2.5×10 17 dose(ions/cm 2 )以上、かつ、炭素注入量がチタン(Ti)注入量と同量もしくはこれ以上であるモータのピボットスラスト軸受システム。
- イオン注入時の回転軸素材のイオン注入面温度が525℃以下であることを特徴とする請求項2または請求項3記載のモータのピボットスラスト軸受システム。
- 軸受摺動部分の素材がSi6−0.75xAl0.07xOxN8−x(x≦6)組成でビッカース硬度Hv1300以上のサイアロンである請求項2記載のモータのピボットスラスト軸受システム。
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