JP3705827B2 - 転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 - Google Patents
転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3705827B2 JP3705827B2 JP08561793A JP8561793A JP3705827B2 JP 3705827 B2 JP3705827 B2 JP 3705827B2 JP 08561793 A JP08561793 A JP 08561793A JP 8561793 A JP8561793 A JP 8561793A JP 3705827 B2 JP3705827 B2 JP 3705827B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- rolling
- surface shape
- molybdenum disulfide
- film
- sputtering
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Classifications
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F16—ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
- F16C—SHAFTS; FLEXIBLE SHAFTS; ELEMENTS OR CRANKSHAFT MECHANISMS; ROTARY BODIES OTHER THAN GEARING ELEMENTS; BEARINGS
- F16C33/00—Parts of bearings; Special methods for making bearings or parts thereof
- F16C33/30—Parts of ball or roller bearings
- F16C33/66—Special parts or details in view of lubrication
- F16C33/6696—Special parts or details in view of lubrication with solids as lubricant, e.g. dry coatings, powder
-
- F—MECHANICAL ENGINEERING; LIGHTING; HEATING; WEAPONS; BLASTING
- F16—ENGINEERING ELEMENTS AND UNITS; GENERAL MEASURES FOR PRODUCING AND MAINTAINING EFFECTIVE FUNCTIONING OF MACHINES OR INSTALLATIONS; THERMAL INSULATION IN GENERAL
- F16C—SHAFTS; FLEXIBLE SHAFTS; ELEMENTS OR CRANKSHAFT MECHANISMS; ROTARY BODIES OTHER THAN GEARING ELEMENTS; BEARINGS
- F16C2360/00—Engines or pumps
- F16C2360/44—Centrifugal pumps
- F16C2360/45—Turbo-molecular pumps
Landscapes
- Engineering & Computer Science (AREA)
- General Engineering & Computer Science (AREA)
- Mechanical Engineering (AREA)
- Rolling Contact Bearings (AREA)
- Physical Vapour Deposition (AREA)
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、宇宙機器や、半導体製造装置として真空中で用いられる転がり軸受や、ボールネジなどの転がり要素に適用する転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の転動部材としてのころがり軸受としては、例えば本出願人が先に提案した特開平2−245514号公報に開示されているものがある。
この従来例は、外輪と、内輪と、その外輪及び内輪間に介装された複数の転動体と、該転動体を円周方向に等分に分割保持する保持器とからなるころがり軸受において、前記外輪、内輪、転動体のうち少なくとも転動体に二硫化モリブデン(MoS2 )でなる潤滑性膜がスパッタリング手段で形成され、保持器を直鎖ポリフェニレンサルファイドをマトリックスとし少なくともフッ素樹脂を10〜60wt%含んで構成することにより、滑りを伴う転動体と保持器との双方に潤滑性が付与され、十分な潤滑性能が得られて低トルク、長寿命化を達成することができるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のころがり軸受にあっては、単に二硫化モリブデンスパッタリング法を用いて、成膜した潤滑被膜において、スパッタの成膜条件と滑り寿命及び表面形態、組成比、配向性等との関係については述べられてきたが、ころがり寿命と表面形状、組成比、配向性との関係については検討がなされていないのが現状であり、そのために最適な被膜性状が明らかでなかったことにより耐荷重性能にばらつきがあり寿命及び信頼性に問題があるという未解決の課題がある。
【0004】
すなわち、日本潤滑学会トライボロジー会議(福岡)予稿集(1991)563頁、航空宇宙研究所報告書TR−903に記載されているように、固体潤滑膜であるMoS2 スパッタ膜の摩耗寿命は、洗浄方法やイオンポンバード処理等により影響を受けることが記載されているが、それらの処理方法と被膜の表面形態や配向性については言及していない。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、耐荷重性能にばらつきがなく長寿命で且つ信頼性を向上させることができる転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る転がり軸受は、外輪と、内輪と、その外輪及び内輪間に複数の転動体を介装させて宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転がり軸受において、前記転動体をPTFE系自己潤滑保持器で保持すると共に、前記転動体の表面と、前記外輪及び内輪が転動体と接触する軌道面とに二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜を、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴としている。
また、請求項2に係るボールネジは、ネジ溝部を有するネジ軸と、前記ネジ溝部を転動するボールを収納したボールナットとを有し、宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられるボールネジにおいて、前記ネジ溝部とボールの全周に二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜は、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴としている。
さらに、請求項3に係る潤滑被膜形成方法は、相手部材が転動接触する転動面を有する宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転動部材の潤滑被膜形成方法において、前記転動部材の転動面に、逆スパッタリングを行ってクリーニングした後に、プリスパッタリングを行ってターゲットをクリーニングし、さらに正スパッタリングを行って前記転動面に二硫化モリブデン被膜を成膜し、且つ前記正スパッタリング中の転動部材の温度を50℃以下で室温を超える温度に保持するスパッタリング法により、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有し、且つ表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状とする二硫化モリブデン被膜を形成することを特徴としている。
【0007】
【作用】
請求項1に係る発明においては、転がり軸受の転動体の表面と、該転動体が接触する内輪及び外輪の転動面とに、二硫化モリブデン被膜を形成し、その二硫化モリブデンの分子量比S/Moを1.7以上2.0未満に選定して、丘状で緻密な表面形状の潤滑被膜を形成するので、耐荷重性能が向上し、被膜寿命が伸びて安定化して信頼性を向上させることができる。そして、二硫化モリブデンの分子量比S/Moを1.7未満とすると、表面形状が丘状で緻密な被膜とはならず、よれよれの短繊維状即ちウォーム(worm)状で粗となる潤滑被膜となり、耐荷重性能が低下し、寿命も短くなり、一方現在のスパッタ法では硫黄Sが飛んでしまうので、二硫化モリブデンの分子量比S/Moを丁度2.0とすることは困難であり、分子量比S/Moが限りなく2.0に近づく程丘状で緻密な潤滑被膜を形成することができる。しかも、転動体をFTFE系自己潤滑保持器で保持することにより、ころがり軸受寿命も向上させると共に、信頼性も向上させることができる。
また、請求項2に係る発明においては、ボールネジのネジ溝及びボールの全周に、丘状で緻密な二硫化モリブデン被膜を成膜して、被膜摩耗寿命を大幅に向上させて、ボールネジ全体の寿命を向上させると共に、信頼性も向上させることができる。
さらに、請求項3に係る発明においては、転動部材の転動面に形成する二硫化モリブデン被膜をスパッタリング法で成膜するので、成膜を正確に行うことができ、しかも本スパッタリング時に転動部材の温度を50℃以下に維持することにより、表面形状が丘状で緻密となる成膜を行うことができ、転動部材の温度が50℃を超えると、表面形態が崩れる影響が出始め、冷却を行わない通常のスパッタリング時のように、100℃以上となると短繊維状即ちウォーム状で粗となる。また、転動部材の温度を室温以下にすると、冷却装置が大型化し、冷却媒体も多く必要として製造コストが嵩むことにより好ましくない。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明を適用したボールネジ1及びころがり軸受10を夫々示し、ボールネジ1はステンレス鋼(SUS630)で製作されたネジ軸2のネジ溝部2aと、ステンレス鋼(SUS440C)で製作されたボールナット3に収納されたボール4の全周に分子量比S/Moを1.7以上2.0未満とした二硫化モリブデン(以下、MoS2 と称す)でなる潤滑被膜がスパッタリング処理によってコーティングされており、また、ころがり軸受10は少なくとも夫々ステンレス鋼(SUS440C)で製作された外輪11の内周側軌道面、内輪12の外周側軌道面、外輪11及び内輪12間に介装されたボール13の全周に夫々分子量比S/Moを1.7以上2.0未満としたMoS2 でなる潤滑被膜がスパッタリング処理によってコーティングされ、ボール13が保持器14で所定間隔に保持されている。
【0009】
ここで、MoS2 のスパッタリング処理は、図3に示すようにな高周波マグネトロンスパッタリング装置20を用いて行った。この高周波マグネトロンスパッタリング装置20は、電極21を備えた基台22上に被スパッタリング部材Wを置き、これにターゲットTとして例えばMoS2 を備えた電極23を対置すると共に、両電極21及び23間に例えば13.56MHzの高周波電源24を接続し、基台22及びアノード電極21に個別に冷却媒体が流通される冷却路25,26を設けた構成を有する。なお、図3において、27は真空ロータリポンプ28及びターボ分子ポンプ29を備えた排気システム、30はアルゴンボンベ、31は真空計である。
【0010】
そして、上記高周波マグネトロンスパッタリング装置に、被スパッタリング部材Wをセットした状態で、まず、圧力0.8Paの低圧アルゴン雰囲気中で、電極21をカソード、電極23をアノードとして、これら間に800Wの高周波電力を供給して低圧グロー放電を行わせて180分のイオンボンバード(逆スパッタ)を行わせて被スパッタリング部材Wのクリーニングを行い、次いで電極21及び電極23の極性を反転させると共に、ターゲットTと被スパッタリング部材Wとの間距離を70mmにセットし、0.67Paの低圧アルゴン雰囲気中で、高周波電力密度を3.30w/cm2 とし且つターゲットT及び被スパッタリング部材W間にシャッターを介挿して30分間のプリスパッタを行ってターゲットTをクリーニングしてから、シャッターを除去して10分間の本スパッタを行い、被スパッタリング部材Wに膜厚0.3〜1.0μmの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満のMoS2 被膜を成膜した。この本スパッタ時には、被スパッタリング部材Wの温度は50℃以下に制御した。
【0011】
そして、上記スパッタリング処理によって形成されるMoS2 被膜の耐久寿命を図4に示す真空中ボールオンディスク試験機で試験するために、材質がステンレス鋼(SUS440C)で、直径52mm、厚さ10mmの円板を3つ用意し、これらの内2つに夫々上記スパッタリング処理を行って分子量比S/Moが1.9及び1.7で膜厚1μmのMoS2 被膜を形成した試験片(以下、実施例1及び実施例2と称す)を形成すると共に、分子量比S/Moが1.6で且つ本スパッタ時の被スパッタリング部材Wとしての円板の温度を150℃近傍に制御してMoS2 被膜を形成した試験片(以下、比較例と称す)を形成し、これらを真空中ボールオンディスク試験機40で寿命試験を行った。
【0012】
ここで、真空中ボールオンディスク試験機40は、図4に示すように、真空度が10-4〜10-5Paに制御された真空チャンバー41内に、回転軸42が軸受43によって回転自在に支持された回転ワークテーブル44が回転自在に配設され、この回転ワークテーブル44に試験片Wを載置し、この試験片Wの上面側に試験片と同一材質の5/16インチのボール45を重り46及びバランス重り47で調節された垂直荷重9.8Nで押下するように構成され、回転軸42が磁性流体シールユニット48を介してモータ49に連結されてボール45に対する滑り速度が1.5m/sとなるように回転駆動され、そのときのボール45と試験片Wとの摩擦係数即ち接触抵抗に応じたトルクをロードセル50で検出する。
【0013】
この真空中ボールオンディスク試験機に前記実施例1、実施例2及び比較例を夫々セットして、試験を行い摩擦係数が0.2を超えるまでの総回転数を被膜寿命として測定し、その測定結果を下記表1に示す。
【0014】
【表1】
この表1から明らかなように、実施例1及び実施例2の被膜寿命が比較例に比べて格段に長く、特にMoS2 の分子量比S/Moが2.0に近い実施例1の方が被膜寿命が5.0×105 と分子量比S/Moが1.7である実施例2の2.5×105 に比べてより長くなっており、分子量比S/Moが2.0に近い程寿命が長くなることが実証された。
【0015】
また、前述したスパッタリング処理におけるイオンボンバード時間とMoS2 被膜の耐久寿命との関係を調べるために、イオンボンバード時間を20分、60分及び180分とした実施例と比較例とについて、真空中ボールオンディスク試験機によって耐久寿命試験を行った結果、図5に示すように、イオンボンバードを60分以上行った実施例のMoS2 被膜の耐久寿命は1.8〜2.6×105 revでばらつきが少ないのに対して、比較例被膜では最も長いもので6.3×104 rev程度であり、平均値で比べると、実施例被膜は比較例被膜に対して6倍以上耐久寿命が向上している。また、イオンボンバードについては20分程度では、寿命のばらつきも大きく、60分以上イオンボンバードした実施例被膜と比べて寿命が短いことから、イオンポンバード時間は60分以上が好ましい。
【0016】
さらに、実施例1、実施例2及び比較例について、その表面形態を走査型電子顕微鏡を使用して加速電圧15kV,20000倍で観察すると、実施例1及び実施例2については、図6に示すように、丘状で緻密な表面形態となっており、比較例については、図7に示すように、よれよれの短繊維状即ちウォーム(Worm)状で粗となっている。
【0017】
さらに、実施例1、実施例2及び比較例について、その被膜の結晶構造を薄膜用X線回折装置を用いて、X線の入射角を2°、X線源としてはCuKα線を使用し、管電圧40kV、管電流300mAとして回折した結果、実施例1のX線回折パターンは、図8に示すように、六方晶MoS2 の(002)、(100)、(110)で夫々回折ピークが観察され、特に(002)面が強く配向されていることが分かり、比較例のX線回折パターンは、図9に示すように、(002)面の回折ピークが小さいことが判明し、X線回折による配向性を判断するために、(002)面と(100)面とのX線強度比(面積比)(002)/(100)を各実施例1、実施例2及び比較例について求めた結果を前述した表1に示す。
【0018】
したがって、表1で明らかなように、MoS2 の分子量比S/Moが1.7以上2.0未満とすることにより、表面形態が丘状組織で且つ緻密な被膜を成膜することができると共に、被膜寿命も格段に向上させることができることが判明し、また、X線回折におけるX線強度比(002)/(100)を1.0以上として、(002)面を優先配向することにより、荷重方向に対してスリップ面が垂直になる割合が多くなり耐荷重性能が上がり被膜寿命が伸び、安定化する。
【0019】
さらに、スパッタ装置での本スパッタ時の被スパッタリング部材Wの温度を50℃以下に維持することにより、表面形態が丘状で緻密となる成膜を行うことができ、被スパッタリング部材Wの温度が50℃を越えると、表面形態が崩れる影響が出始め、冷却を行わない通常のスパッタリング時のように、100℃以上となると図7に示すようにウォーム状で粗となる。ここで、被スパッタリング部材Wの温度は、低い程(例えば室温)よいが、冷却装置が大型化し、冷却媒体も多く必要とするので、製造コストが嵩むため、50℃以下が好ましい。
【0020】
次に、上述したMoS2 被膜を成膜するスパッタリング処理によってアンギュラ玉軸受の外輪、内輪及び転動体に分子量比S/Moが1.7以上2.0未満のMoS2 でなる0.5μmの潤滑被膜を成膜し、且つ保持器としてPTFE系自己潤滑保持器を適用して、内径8mm、外径22mm、幅7mm、接触角30°のアンギュラ玉軸受を組立て、このアンギュラ玉軸受を図10に示す真空中軸受試験装置を使用して、真空中において軸受の性能評価試験を行い、特に軸受のトルク変動とそれに伴う潤滑材の挙動について調べ、MoS2 被膜の真空中での摩耗寿命を求め、さらにMoS2 被膜の摩耗寿命に及ぼす回転数、作動パターン、アキシァル荷重の影響を考察した。
【0021】
ここで、図10の真空中軸受試験装置50は、真空度3×10-5Pa以下とし、温度を常温とした真空チャンバー51内に水平方向に延長する回転軸52が軸受装置53で支持されて回転自在に配設され、この回転軸52に2組の試験軸受54a,54bが装着されていると共に、これら試験軸受54a,54bに対してスプリング55によって100Nのアキシァル荷重を作用させ、試験軸受54a,54bの外輪に外嵌した円筒体56に固着した回動アーム57の先端を微小荷重変換器58に当接され、この微小荷重変換器58で、前記回転軸42を磁性流体シールユニット59でシールして真空チャンバー51外に延長し、その端部に取付けたプーリ60をベルト61を介して駆動モータ62の回転軸に固定したプーリ63に連結することにより、500rpmで回転駆動したときの試験軸受54a,54bの外輪に生じるトルクが検出される。
【0022】
そして、試験軸受の作動パターンとしては、正逆回転で、800回転正転後30秒停止し、その後800回転逆転後30秒停止し、これを1サイクルとして繰り返した。
この結果、アキシァル荷重100N,回転数500rpmで正逆転した時の動トルクの推移は図11に示すようになり、総回転数が6.8×10revまでは、トルクか1×10-3Nm程度と低く安定した値を示し、さらに1.2×106 revまでは1〜15×10-3NM程度の大きな変動を示す、その後トルクは、1〜2×10-3Nm程度の安定した値を示す。
【0023】
次に、前記二硫化モリブデン被膜を施したアンギュラ玉軸受にPTFE計自己潤滑保持器を組込みPTFEの挙動を観察する。図11において、トルク変動の原因がMoS2 被膜による潤滑から保持器のPTFEによる潤滑へ移行するものであると考え、図11中の▲1▼,▲2▼,▲3▼及び▲4▼の矢印のところで一端試験を中断し、ボールの表面を波長分散型のEPMA分析を行ったところ、Mo,S,Fの特性X線強度の変化を総回転数を追って示すと図12に示す結果が得られた。この図12によれば、トルクが低く安定している時の潤滑の主役はMoS2 であり、MoS2 被膜が摩耗によりなくなるとPTFEの転移膜潤滑が始まる。なお、▲3▼,▲4▼で見られるMo,Sのピークは、保持器材料に含まれるMoS2 に起因している。PTFE転移膜潤滑の初期は、潤滑が不十分で大きなトルク変動を起こすが、潤滑剤がボールから軌道面に十分供給されると、トルクは低く安定した値を示す。ここで、PTFE転移膜による潤滑が始まるまでの総回転数をLC とすると、この総回転数LC はMoS2 被膜の摩耗寿命を表しており、図11の場合、総回転数LC は6.8×105 revとなることがわかる。
【0024】
また、アキシァル荷重100N,回転数100〜1000rpmで正逆転回転及び一方回転したときのMoS2 被膜の摩耗寿命を表す総回転数LC の変化を図13に示す。この図13からMoS2 被膜の摩耗寿命は回転数や作動パターンに殆ど影響されないことがわかる。
さらに、回転数100rpmの正逆回転において、アキシァル荷重を60〜500Nに変化させたときのMoS2 被膜の摩耗寿命を表す総回転数LC の変化は、図14に示すように、アキシァル荷重の増加とともに単調に減少している。ここで、総回転数LC は軸受の寿命を表しているわけではないので、それ以後はPTFE転移膜潤滑により、寿命に至るまで回転することになる。なお、最大接触面圧880MPa(ここではアキシァル荷重60Nに相当)、回転数2000rpmでの真空中での耐久試験において、1×108 rev以上の耐久寿命があることが試験によって確認されている。
【0025】
なお、外内輪、転動体、保持器材料は、上記実施例に限らず、セラミックス(例えば窒素系としてSi3 N4 ,ジルコニア,アルミナ,炭化物系として、SiC又はSUS630などのステンレス鋼であっても本願目的を達成することができる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、転がり軸受の転動体、外輪及び内輪の転動面に、夫々二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜は、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたので、真空中で使用したときの被膜磨耗寿命を大幅に向上させることができ、転がり軸受全体の寿命を向上させると共に、信頼性を向上させることができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、ボールネジのネジ溝及びボールの全周に請求項1と同様の二硫化モリブデン被膜を形成するようにしたので、被膜摩耗寿命を大幅に向上させて、ボールネジ全体の寿命を向上させると共に、信頼性を向上させることができるという効果が得られる。
さらに、請求項3に係る発明によれば、二硫化モリブデン被膜をスパッタリング法で成膜するので、二硫化モリブデン被膜の成膜を正確に行うことができ、しかも転動部材に二硫化モリブデン被膜を成膜する本スパッタリング時に転動部材の温度を50℃以下で室温を超える温度に維持することにより、製造コストが嵩むことなく表面形状が丘状で緻密となる長寿命の二硫化モリブデン被膜を形成することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したボールネジの一例を示す正面図である。
【図2】本発明を適用したアンギュラ玉軸受の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に適用し得るスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【図4】真空中ボールオンディスク試験機を示す概略構成図である。
【図5】実施例被膜及び比較例被膜のイオンボンバード時間と耐久寿命との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例におけるMoS2 薄膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例におけるMoS2 薄膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1のX線回折パターンを示すグラフである。
【図9】比較例のX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】真空中軸受試験装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】図10の試験装置を使用した試験結果を表す総回転数に対する動トルクの関係を示す特性線図である。
【図12】図11の各点でのEPMA分析結果を示す図である。
【図13】回転速度に対する総回転数の関係を示す特性線図である。
【図14】アキシァル荷重に対する総回転数の関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
1 ボールネジ
2 ネジ軸
3 ボールナット
4 ボール
10 ころがり軸受
11 外輪
12 内輪
13 ボール
14 保持器
20 スパッタリング装置
21,23 電極
24 高周波電源
27 排気システム
30 アルゴンボンベ
31 真空計
40 真空中ボールオンディスク試験機
50 真空中軸受試験装置
【産業上の利用分野】
本発明は、宇宙機器や、半導体製造装置として真空中で用いられる転がり軸受や、ボールネジなどの転がり要素に適用する転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の転動部材としてのころがり軸受としては、例えば本出願人が先に提案した特開平2−245514号公報に開示されているものがある。
この従来例は、外輪と、内輪と、その外輪及び内輪間に介装された複数の転動体と、該転動体を円周方向に等分に分割保持する保持器とからなるころがり軸受において、前記外輪、内輪、転動体のうち少なくとも転動体に二硫化モリブデン(MoS2 )でなる潤滑性膜がスパッタリング手段で形成され、保持器を直鎖ポリフェニレンサルファイドをマトリックスとし少なくともフッ素樹脂を10〜60wt%含んで構成することにより、滑りを伴う転動体と保持器との双方に潤滑性が付与され、十分な潤滑性能が得られて低トルク、長寿命化を達成することができるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のころがり軸受にあっては、単に二硫化モリブデンスパッタリング法を用いて、成膜した潤滑被膜において、スパッタの成膜条件と滑り寿命及び表面形態、組成比、配向性等との関係については述べられてきたが、ころがり寿命と表面形状、組成比、配向性との関係については検討がなされていないのが現状であり、そのために最適な被膜性状が明らかでなかったことにより耐荷重性能にばらつきがあり寿命及び信頼性に問題があるという未解決の課題がある。
【0004】
すなわち、日本潤滑学会トライボロジー会議(福岡)予稿集(1991)563頁、航空宇宙研究所報告書TR−903に記載されているように、固体潤滑膜であるMoS2 スパッタ膜の摩耗寿命は、洗浄方法やイオンポンバード処理等により影響を受けることが記載されているが、それらの処理方法と被膜の表面形態や配向性については言及していない。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来例の未解決の課題に着目してなされたものであり、耐荷重性能にばらつきがなく長寿命で且つ信頼性を向上させることができる転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る転がり軸受は、外輪と、内輪と、その外輪及び内輪間に複数の転動体を介装させて宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転がり軸受において、前記転動体をPTFE系自己潤滑保持器で保持すると共に、前記転動体の表面と、前記外輪及び内輪が転動体と接触する軌道面とに二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜を、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴としている。
また、請求項2に係るボールネジは、ネジ溝部を有するネジ軸と、前記ネジ溝部を転動するボールを収納したボールナットとを有し、宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられるボールネジにおいて、前記ネジ溝部とボールの全周に二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜は、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴としている。
さらに、請求項3に係る潤滑被膜形成方法は、相手部材が転動接触する転動面を有する宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転動部材の潤滑被膜形成方法において、前記転動部材の転動面に、逆スパッタリングを行ってクリーニングした後に、プリスパッタリングを行ってターゲットをクリーニングし、さらに正スパッタリングを行って前記転動面に二硫化モリブデン被膜を成膜し、且つ前記正スパッタリング中の転動部材の温度を50℃以下で室温を超える温度に保持するスパッタリング法により、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有し、且つ表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状とする二硫化モリブデン被膜を形成することを特徴としている。
【0007】
【作用】
請求項1に係る発明においては、転がり軸受の転動体の表面と、該転動体が接触する内輪及び外輪の転動面とに、二硫化モリブデン被膜を形成し、その二硫化モリブデンの分子量比S/Moを1.7以上2.0未満に選定して、丘状で緻密な表面形状の潤滑被膜を形成するので、耐荷重性能が向上し、被膜寿命が伸びて安定化して信頼性を向上させることができる。そして、二硫化モリブデンの分子量比S/Moを1.7未満とすると、表面形状が丘状で緻密な被膜とはならず、よれよれの短繊維状即ちウォーム(worm)状で粗となる潤滑被膜となり、耐荷重性能が低下し、寿命も短くなり、一方現在のスパッタ法では硫黄Sが飛んでしまうので、二硫化モリブデンの分子量比S/Moを丁度2.0とすることは困難であり、分子量比S/Moが限りなく2.0に近づく程丘状で緻密な潤滑被膜を形成することができる。しかも、転動体をFTFE系自己潤滑保持器で保持することにより、ころがり軸受寿命も向上させると共に、信頼性も向上させることができる。
また、請求項2に係る発明においては、ボールネジのネジ溝及びボールの全周に、丘状で緻密な二硫化モリブデン被膜を成膜して、被膜摩耗寿命を大幅に向上させて、ボールネジ全体の寿命を向上させると共に、信頼性も向上させることができる。
さらに、請求項3に係る発明においては、転動部材の転動面に形成する二硫化モリブデン被膜をスパッタリング法で成膜するので、成膜を正確に行うことができ、しかも本スパッタリング時に転動部材の温度を50℃以下に維持することにより、表面形状が丘状で緻密となる成膜を行うことができ、転動部材の温度が50℃を超えると、表面形態が崩れる影響が出始め、冷却を行わない通常のスパッタリング時のように、100℃以上となると短繊維状即ちウォーム状で粗となる。また、転動部材の温度を室温以下にすると、冷却装置が大型化し、冷却媒体も多く必要として製造コストが嵩むことにより好ましくない。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1及び図2は本発明を適用したボールネジ1及びころがり軸受10を夫々示し、ボールネジ1はステンレス鋼(SUS630)で製作されたネジ軸2のネジ溝部2aと、ステンレス鋼(SUS440C)で製作されたボールナット3に収納されたボール4の全周に分子量比S/Moを1.7以上2.0未満とした二硫化モリブデン(以下、MoS2 と称す)でなる潤滑被膜がスパッタリング処理によってコーティングされており、また、ころがり軸受10は少なくとも夫々ステンレス鋼(SUS440C)で製作された外輪11の内周側軌道面、内輪12の外周側軌道面、外輪11及び内輪12間に介装されたボール13の全周に夫々分子量比S/Moを1.7以上2.0未満としたMoS2 でなる潤滑被膜がスパッタリング処理によってコーティングされ、ボール13が保持器14で所定間隔に保持されている。
【0009】
ここで、MoS2 のスパッタリング処理は、図3に示すようにな高周波マグネトロンスパッタリング装置20を用いて行った。この高周波マグネトロンスパッタリング装置20は、電極21を備えた基台22上に被スパッタリング部材Wを置き、これにターゲットTとして例えばMoS2 を備えた電極23を対置すると共に、両電極21及び23間に例えば13.56MHzの高周波電源24を接続し、基台22及びアノード電極21に個別に冷却媒体が流通される冷却路25,26を設けた構成を有する。なお、図3において、27は真空ロータリポンプ28及びターボ分子ポンプ29を備えた排気システム、30はアルゴンボンベ、31は真空計である。
【0010】
そして、上記高周波マグネトロンスパッタリング装置に、被スパッタリング部材Wをセットした状態で、まず、圧力0.8Paの低圧アルゴン雰囲気中で、電極21をカソード、電極23をアノードとして、これら間に800Wの高周波電力を供給して低圧グロー放電を行わせて180分のイオンボンバード(逆スパッタ)を行わせて被スパッタリング部材Wのクリーニングを行い、次いで電極21及び電極23の極性を反転させると共に、ターゲットTと被スパッタリング部材Wとの間距離を70mmにセットし、0.67Paの低圧アルゴン雰囲気中で、高周波電力密度を3.30w/cm2 とし且つターゲットT及び被スパッタリング部材W間にシャッターを介挿して30分間のプリスパッタを行ってターゲットTをクリーニングしてから、シャッターを除去して10分間の本スパッタを行い、被スパッタリング部材Wに膜厚0.3〜1.0μmの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満のMoS2 被膜を成膜した。この本スパッタ時には、被スパッタリング部材Wの温度は50℃以下に制御した。
【0011】
そして、上記スパッタリング処理によって形成されるMoS2 被膜の耐久寿命を図4に示す真空中ボールオンディスク試験機で試験するために、材質がステンレス鋼(SUS440C)で、直径52mm、厚さ10mmの円板を3つ用意し、これらの内2つに夫々上記スパッタリング処理を行って分子量比S/Moが1.9及び1.7で膜厚1μmのMoS2 被膜を形成した試験片(以下、実施例1及び実施例2と称す)を形成すると共に、分子量比S/Moが1.6で且つ本スパッタ時の被スパッタリング部材Wとしての円板の温度を150℃近傍に制御してMoS2 被膜を形成した試験片(以下、比較例と称す)を形成し、これらを真空中ボールオンディスク試験機40で寿命試験を行った。
【0012】
ここで、真空中ボールオンディスク試験機40は、図4に示すように、真空度が10-4〜10-5Paに制御された真空チャンバー41内に、回転軸42が軸受43によって回転自在に支持された回転ワークテーブル44が回転自在に配設され、この回転ワークテーブル44に試験片Wを載置し、この試験片Wの上面側に試験片と同一材質の5/16インチのボール45を重り46及びバランス重り47で調節された垂直荷重9.8Nで押下するように構成され、回転軸42が磁性流体シールユニット48を介してモータ49に連結されてボール45に対する滑り速度が1.5m/sとなるように回転駆動され、そのときのボール45と試験片Wとの摩擦係数即ち接触抵抗に応じたトルクをロードセル50で検出する。
【0013】
この真空中ボールオンディスク試験機に前記実施例1、実施例2及び比較例を夫々セットして、試験を行い摩擦係数が0.2を超えるまでの総回転数を被膜寿命として測定し、その測定結果を下記表1に示す。
【0014】
【表1】
この表1から明らかなように、実施例1及び実施例2の被膜寿命が比較例に比べて格段に長く、特にMoS2 の分子量比S/Moが2.0に近い実施例1の方が被膜寿命が5.0×105 と分子量比S/Moが1.7である実施例2の2.5×105 に比べてより長くなっており、分子量比S/Moが2.0に近い程寿命が長くなることが実証された。
【0015】
また、前述したスパッタリング処理におけるイオンボンバード時間とMoS2 被膜の耐久寿命との関係を調べるために、イオンボンバード時間を20分、60分及び180分とした実施例と比較例とについて、真空中ボールオンディスク試験機によって耐久寿命試験を行った結果、図5に示すように、イオンボンバードを60分以上行った実施例のMoS2 被膜の耐久寿命は1.8〜2.6×105 revでばらつきが少ないのに対して、比較例被膜では最も長いもので6.3×104 rev程度であり、平均値で比べると、実施例被膜は比較例被膜に対して6倍以上耐久寿命が向上している。また、イオンボンバードについては20分程度では、寿命のばらつきも大きく、60分以上イオンボンバードした実施例被膜と比べて寿命が短いことから、イオンポンバード時間は60分以上が好ましい。
【0016】
さらに、実施例1、実施例2及び比較例について、その表面形態を走査型電子顕微鏡を使用して加速電圧15kV,20000倍で観察すると、実施例1及び実施例2については、図6に示すように、丘状で緻密な表面形態となっており、比較例については、図7に示すように、よれよれの短繊維状即ちウォーム(Worm)状で粗となっている。
【0017】
さらに、実施例1、実施例2及び比較例について、その被膜の結晶構造を薄膜用X線回折装置を用いて、X線の入射角を2°、X線源としてはCuKα線を使用し、管電圧40kV、管電流300mAとして回折した結果、実施例1のX線回折パターンは、図8に示すように、六方晶MoS2 の(002)、(100)、(110)で夫々回折ピークが観察され、特に(002)面が強く配向されていることが分かり、比較例のX線回折パターンは、図9に示すように、(002)面の回折ピークが小さいことが判明し、X線回折による配向性を判断するために、(002)面と(100)面とのX線強度比(面積比)(002)/(100)を各実施例1、実施例2及び比較例について求めた結果を前述した表1に示す。
【0018】
したがって、表1で明らかなように、MoS2 の分子量比S/Moが1.7以上2.0未満とすることにより、表面形態が丘状組織で且つ緻密な被膜を成膜することができると共に、被膜寿命も格段に向上させることができることが判明し、また、X線回折におけるX線強度比(002)/(100)を1.0以上として、(002)面を優先配向することにより、荷重方向に対してスリップ面が垂直になる割合が多くなり耐荷重性能が上がり被膜寿命が伸び、安定化する。
【0019】
さらに、スパッタ装置での本スパッタ時の被スパッタリング部材Wの温度を50℃以下に維持することにより、表面形態が丘状で緻密となる成膜を行うことができ、被スパッタリング部材Wの温度が50℃を越えると、表面形態が崩れる影響が出始め、冷却を行わない通常のスパッタリング時のように、100℃以上となると図7に示すようにウォーム状で粗となる。ここで、被スパッタリング部材Wの温度は、低い程(例えば室温)よいが、冷却装置が大型化し、冷却媒体も多く必要とするので、製造コストが嵩むため、50℃以下が好ましい。
【0020】
次に、上述したMoS2 被膜を成膜するスパッタリング処理によってアンギュラ玉軸受の外輪、内輪及び転動体に分子量比S/Moが1.7以上2.0未満のMoS2 でなる0.5μmの潤滑被膜を成膜し、且つ保持器としてPTFE系自己潤滑保持器を適用して、内径8mm、外径22mm、幅7mm、接触角30°のアンギュラ玉軸受を組立て、このアンギュラ玉軸受を図10に示す真空中軸受試験装置を使用して、真空中において軸受の性能評価試験を行い、特に軸受のトルク変動とそれに伴う潤滑材の挙動について調べ、MoS2 被膜の真空中での摩耗寿命を求め、さらにMoS2 被膜の摩耗寿命に及ぼす回転数、作動パターン、アキシァル荷重の影響を考察した。
【0021】
ここで、図10の真空中軸受試験装置50は、真空度3×10-5Pa以下とし、温度を常温とした真空チャンバー51内に水平方向に延長する回転軸52が軸受装置53で支持されて回転自在に配設され、この回転軸52に2組の試験軸受54a,54bが装着されていると共に、これら試験軸受54a,54bに対してスプリング55によって100Nのアキシァル荷重を作用させ、試験軸受54a,54bの外輪に外嵌した円筒体56に固着した回動アーム57の先端を微小荷重変換器58に当接され、この微小荷重変換器58で、前記回転軸42を磁性流体シールユニット59でシールして真空チャンバー51外に延長し、その端部に取付けたプーリ60をベルト61を介して駆動モータ62の回転軸に固定したプーリ63に連結することにより、500rpmで回転駆動したときの試験軸受54a,54bの外輪に生じるトルクが検出される。
【0022】
そして、試験軸受の作動パターンとしては、正逆回転で、800回転正転後30秒停止し、その後800回転逆転後30秒停止し、これを1サイクルとして繰り返した。
この結果、アキシァル荷重100N,回転数500rpmで正逆転した時の動トルクの推移は図11に示すようになり、総回転数が6.8×10revまでは、トルクか1×10-3Nm程度と低く安定した値を示し、さらに1.2×106 revまでは1〜15×10-3NM程度の大きな変動を示す、その後トルクは、1〜2×10-3Nm程度の安定した値を示す。
【0023】
次に、前記二硫化モリブデン被膜を施したアンギュラ玉軸受にPTFE計自己潤滑保持器を組込みPTFEの挙動を観察する。図11において、トルク変動の原因がMoS2 被膜による潤滑から保持器のPTFEによる潤滑へ移行するものであると考え、図11中の▲1▼,▲2▼,▲3▼及び▲4▼の矢印のところで一端試験を中断し、ボールの表面を波長分散型のEPMA分析を行ったところ、Mo,S,Fの特性X線強度の変化を総回転数を追って示すと図12に示す結果が得られた。この図12によれば、トルクが低く安定している時の潤滑の主役はMoS2 であり、MoS2 被膜が摩耗によりなくなるとPTFEの転移膜潤滑が始まる。なお、▲3▼,▲4▼で見られるMo,Sのピークは、保持器材料に含まれるMoS2 に起因している。PTFE転移膜潤滑の初期は、潤滑が不十分で大きなトルク変動を起こすが、潤滑剤がボールから軌道面に十分供給されると、トルクは低く安定した値を示す。ここで、PTFE転移膜による潤滑が始まるまでの総回転数をLC とすると、この総回転数LC はMoS2 被膜の摩耗寿命を表しており、図11の場合、総回転数LC は6.8×105 revとなることがわかる。
【0024】
また、アキシァル荷重100N,回転数100〜1000rpmで正逆転回転及び一方回転したときのMoS2 被膜の摩耗寿命を表す総回転数LC の変化を図13に示す。この図13からMoS2 被膜の摩耗寿命は回転数や作動パターンに殆ど影響されないことがわかる。
さらに、回転数100rpmの正逆回転において、アキシァル荷重を60〜500Nに変化させたときのMoS2 被膜の摩耗寿命を表す総回転数LC の変化は、図14に示すように、アキシァル荷重の増加とともに単調に減少している。ここで、総回転数LC は軸受の寿命を表しているわけではないので、それ以後はPTFE転移膜潤滑により、寿命に至るまで回転することになる。なお、最大接触面圧880MPa(ここではアキシァル荷重60Nに相当)、回転数2000rpmでの真空中での耐久試験において、1×108 rev以上の耐久寿命があることが試験によって確認されている。
【0025】
なお、外内輪、転動体、保持器材料は、上記実施例に限らず、セラミックス(例えば窒素系としてSi3 N4 ,ジルコニア,アルミナ,炭化物系として、SiC又はSUS630などのステンレス鋼であっても本願目的を達成することができる。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、転がり軸受の転動体、外輪及び内輪の転動面に、夫々二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜は、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたので、真空中で使用したときの被膜磨耗寿命を大幅に向上させることができ、転がり軸受全体の寿命を向上させると共に、信頼性を向上させることができるという効果が得られる。
また、請求項2に係る発明によれば、ボールネジのネジ溝及びボールの全周に請求項1と同様の二硫化モリブデン被膜を形成するようにしたので、被膜摩耗寿命を大幅に向上させて、ボールネジ全体の寿命を向上させると共に、信頼性を向上させることができるという効果が得られる。
さらに、請求項3に係る発明によれば、二硫化モリブデン被膜をスパッタリング法で成膜するので、二硫化モリブデン被膜の成膜を正確に行うことができ、しかも転動部材に二硫化モリブデン被膜を成膜する本スパッタリング時に転動部材の温度を50℃以下で室温を超える温度に維持することにより、製造コストが嵩むことなく表面形状が丘状で緻密となる長寿命の二硫化モリブデン被膜を形成することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したボールネジの一例を示す正面図である。
【図2】本発明を適用したアンギュラ玉軸受の一例を示す断面図である。
【図3】本発明に適用し得るスパッタリング装置の一例を示す模式図である。
【図4】真空中ボールオンディスク試験機を示す概略構成図である。
【図5】実施例被膜及び比較例被膜のイオンボンバード時間と耐久寿命との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例におけるMoS2 薄膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】比較例におけるMoS2 薄膜の表面形態を示す電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例1のX線回折パターンを示すグラフである。
【図9】比較例のX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】真空中軸受試験装置の一例を示す概略構成図である。
【図11】図10の試験装置を使用した試験結果を表す総回転数に対する動トルクの関係を示す特性線図である。
【図12】図11の各点でのEPMA分析結果を示す図である。
【図13】回転速度に対する総回転数の関係を示す特性線図である。
【図14】アキシァル荷重に対する総回転数の関係を示す特性線図である。
【符号の説明】
1 ボールネジ
2 ネジ軸
3 ボールナット
4 ボール
10 ころがり軸受
11 外輪
12 内輪
13 ボール
14 保持器
20 スパッタリング装置
21,23 電極
24 高周波電源
27 排気システム
30 アルゴンボンベ
31 真空計
40 真空中ボールオンディスク試験機
50 真空中軸受試験装置
Claims (3)
- 外輪と、内輪と、その外輪及び内輪間に複数の転動体を介装させて宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転がり軸受において、前記転動体をPTFE系自己潤滑保持器で保持すると共に、前記転動体の表面と、前記外輪及び内輪が転動体と接触する軌道面とに二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜を、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴とする転がり軸受。
- ネジ溝部を有するネジ軸と、前記ネジ溝部を転動するボールを収納したボールナットとを有し、宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられるボールネジにおいて、前記ネジ溝部とボールの全周に二硫化モリブデンをコーティングして二硫化モリブデン被膜を形成し、該二硫化モリブデン被膜は、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有すると共に、前記二硫化モリブデン被膜の表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状にしたことを特徴とするボールネジ。
- 相手部材が転動接触する転動面を有する宇宙機器、半導体製造装置として真空中で用いられる転動部材の潤滑被膜形成方法において、前記転動部材の転動面に、逆スパッタリングを行ってクリーニングした後に、プリスパッタリングを行ってターゲットをクリーニングし、さらに正スパッタリングを行って前記転動面に二硫化モリブデン被膜を成膜し、且つ前記正スパッタリング中の転動部材の温度を50℃以下で室温を超える温度に保持するスパッタリング法により、硫黄とモリブデンの分子量比S/Moが1.7以上2.0未満に選定された組成を有し、且つ表面形状を、丘状で緻密な表面形状と短繊維状で粗の表面形状との2種類に分類した場合に、丘状で緻密な表面形状とする二硫化モリブデン被膜を形成することを特徴とする潤滑被膜形成方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP08561793A JP3705827B2 (ja) | 1993-03-19 | 1993-03-19 | 転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP08561793A JP3705827B2 (ja) | 1993-03-19 | 1993-03-19 | 転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH06272715A JPH06272715A (ja) | 1994-09-27 |
JP3705827B2 true JP3705827B2 (ja) | 2005-10-12 |
Family
ID=13863812
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP08561793A Expired - Fee Related JP3705827B2 (ja) | 1993-03-19 | 1993-03-19 | 転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3705827B2 (ja) |
Families Citing this family (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4827680B2 (ja) | 2006-10-06 | 2011-11-30 | 大豊工業株式会社 | 摺動部材 |
CN102918286B (zh) * | 2010-03-09 | 2016-04-06 | 大丰工业株式会社 | 滑动部件 |
JP6311700B2 (ja) * | 2013-03-12 | 2018-04-18 | 三菱日立ツール株式会社 | 硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法 |
JP2017106559A (ja) * | 2015-12-10 | 2017-06-15 | Ntn株式会社 | 転がり軸受 |
CN111218646A (zh) * | 2020-03-04 | 2020-06-02 | 赵俊亮 | 一种耐极端环境的电机轴承制造设备及其制造方法 |
-
1993
- 1993-03-19 JP JP08561793A patent/JP3705827B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH06272715A (ja) | 1994-09-27 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JPH01279119A (ja) | 機械部材 | |
JP3705827B2 (ja) | 転がり軸受、ボールネジ及び潤滑被膜形成方法 | |
KR100281621B1 (ko) | 무리테이너형 구름 베어링 | |
Arnell et al. | The effects of speed, film thickness and substrate surface roughness on the friction and wear of soft metal films in ultrahigh vacuum | |
EP3845769B1 (en) | Double-row self-aligning roller bearing and main shaft support device for wind generation equipped with same | |
US11542985B2 (en) | Rolling bearing and wind power generation rotor shaft support device | |
WO1996019678A1 (fr) | Bille pour roulements a billes | |
Roberts | Towards an optimised sputtered MoS2 lubricant film | |
JP3379163B2 (ja) | 摺動部材 | |
JP2003156050A (ja) | スラストニードル軸受 | |
JP3770221B2 (ja) | 摺動部材 | |
Padgurskas et al. | Influence of silver surface treatment and frictional materials on the operating properties of piezo-electric actuators | |
JP4823616B2 (ja) | 摺動ユニット及び摺動方法 | |
US6007251A (en) | Bearing manufacturing method and bearing without oxide under lubricant | |
WO2020067334A1 (ja) | 転がり軸受、および風力発電用主軸支持装置 | |
Jones et al. | Sliding performance of binary metal–PTFE coatings | |
JP2008019965A (ja) | 遊星歯車装置及び転がり軸受 | |
JP3598599B2 (ja) | モータのピボットスラスト軸受システム | |
Hampson et al. | Towards the effective solid lubrication of ball bearings operating at high temperature | |
JP2004092790A (ja) | 油圧ポンプ用転がり軸受 | |
JP2002227843A (ja) | 転動体およびこれを用いた転がり軸受 | |
JP4158450B2 (ja) | 転動装置及び回転陽極x線管 | |
JP4038341B2 (ja) | 固体潤滑転がり軸受 | |
JP2007177836A (ja) | 転がり軸受 | |
JP2003073805A (ja) | 転動要素の製造方法 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20050727 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |