JP4167326B2 - アルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁 - Google Patents

アルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた寸法精度とともに耐摩耗性及び耐焼付性を有するアルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来油圧作動機器類のように漏洩のないシールを必要とする装置に使用する摺動部材には低炭素鋼、低炭素合金の鋼肌焼き鋼や、被削性を重視してJIS 構造用合金鋼SUM24L等の快削鋼等が使用されており、ブランクの切削加工(ヘッダー等、形状によっては塑性加工と切削との組合せ加工)の後、浸炭焼き入れを行って耐摩耗性を付与し、仕上げに研磨加工されている。しかし鉄鋼製スプール弁は比重が大きいために作動応答性が悪い。
【0003】
最近自動車等の軽量化を目的として、その油圧作動機器類をアルミニウム合金の鋳造品とする傾向があり、それらに使用する摺動部材もアルミニウム合金化している。アルミニウム合金としては、主としてA6061 系又はその快削材等のA6000 系のT8 処理材(520 ℃で2時間溶体化処理をした後水冷により急冷し、冷間加工し、次いで170 〜180 ℃で8時間人工時効硬化処理を行った素材)が使用されている。これらのアルミニウム合金を切削加工した後、要求精度により研磨加工をし、次いで硬質陽極酸化処理をし、さらに研磨加工で最終仕上げを行っている。なおヘッダー等の場合のように形状によってはA6000 系のO材を塑性加工し、切削によりブランク加工をし、T6 又はT7 処理を行った後で、上記と同様に研磨加工以下の工程を行っている。A6000 系アルミニウム合金は鍛造等の塑性加工性が良好であり、かつ硬質陽極酸化処理が可能であるので、スプール材に好適である。
【0004】
スプール弁の場合、材料として鉄鋼を使用した方がアルミニウム合金の場合より低コストであるが、スプール弁を受承する本体をアルミニウム鋳物とするため、本体とスプール弁との熱膨張の差が大きく、使用中に昇温すると本体の穴の内壁とスプール弁の外面との間に隙間が大きく生じて、作動油の漏れが多くなるという問題がある。
【0005】
これに対して、アルミニウム合金製スプール弁は作動油漏れが少なく、応答性が良好であるが、鉄鋼製スプール弁に比較して高価であるという問題がある。従って、アルミニウム合金製スプール弁は主として高級自動車用のオートマチックトランスミッション等に使用され、大衆車クラスの自動車には鉄鋼製スプール弁が多用されている。
【0006】
A6000 系アルミニウム合金で快削成分が添加されていない材料を切削加工してスプール弁を製造する場合、加工時に切り屑が連結して切削性が悪く、かつ切り屑を噛み込んで寸法精度が低下するとともに、切り屑を頻繁に除去する必要がある。また被削材は通常A6000 系アルミニウム合金の押出し材であるので、材料自体に残留応力があり、切削加工後に曲がり、うねり等が生じる。さらに切削加工性が悪いために、加工時の応力により曲がり、うねり等が助長される。
【0007】
このような低切削性の問題を解消するために、アルミニウム合金材として鉛等の快削元素を添加したいわゆる快削材を使用することも考えられるが、快削材は一般に高価であるばかりでなく、鉛等が公害の原因になる恐れもある。快削鋼も通常のT8 処理を行った場合には、材料自体の残留応力は同様にあり、曲がり、うねり等の原因となる。そのため、快削材を使用しなくても容易に切削加工できるとともに、高精度かつ高同軸度のスプール弁等の摺動部材を低コストで製造する技術が望まれている。
【0008】
一方、摺動部材を低摩擦化するために種々の表面処理が提案されているが、最も一般的であるのが硬質陽極酸化処理である。例えば特開平5-44865 号は、アルミニウム製バルブスプールの製造方法であって、基材の角部を円弧状にするとともに、基材表面に均一に5〜25μmの陽極酸化皮膜を形成する方法を開示している。しかしながら、硬質陽極酸化処理自体が高価であるとともに、陽極酸化皮膜では耐摩耗性が十分でなく、摩耗した陽極酸化皮膜の微粉末やゴミが摺動面に噛み込み、局部面圧が高くなって傷や焼き付きの原因となるという問題もある。このように陽極酸化皮膜はアルミニウム同士の焼き付き防止及び耐摩耗性向上のために形成されているが、実用上その目的を十分には達成していないのが実情である。
【0009】
また硬質陽極酸化処理をする場合でも、その前に寸法精度を出すために研磨加工をする必要があった。その上、硬質陽極酸化処理の場合、基材表面の場所により電流密度が異なるため、膜厚が均一にならず、処理後に再度研磨加工を施す必要があった。このように硬質陽極酸化処理の場合には十分な耐摩耗性及び耐焼付性が得られないのみならず、工程が複雑で製造コストが高くなるという問題がある。
【0010】
従って、本発明の目的は、快削材を使用しなくても容易に切削加工することができるとともに、硬質陽極酸化処理では得られないほど優れた耐摩耗性及び耐焼付性を有し、かつ良好な寸法精度を有するアルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、スプール弁の基材を快削成分無添加のアルミニウム合金製とするとともに、それに過時効処理を施し、かつ固体潤滑剤のコーティング及び焼付けにより固体潤滑膜を形成することにより、▲1▼切削加工が容易になり、▲2▼過時効処理により残留応力が除去されるので、後の焼き付き工程でも応力緩和による曲がり、うねり等が起こらず、結果として切削加工による寸法精度が向上し、▲3▼固体潤滑膜により陽極酸化皮膜より優れた耐摩耗性及び耐焼付性が得られることを発見し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明のアルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁は、アルミニウム合金からなる基材とその表面に形成された固体潤滑膜とからなり、作動温度領域において前記基材の線膨張係数は実質的に一定であり、かつ前記基材は5μm以下の寸法精度を有する。快削成分を含有しないために低コスト化が達成でき、また実質的に一定の線膨張係数及び5μm以下の寸法精度は、過時効により達成できる。特に5μm以下の寸法精度は、T8 処理・硬質陽極酸化処理では達成できないレベルである。
【0013】
固体潤滑膜は、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及び黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の固体潤滑剤粉末と、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂とからなるのが好ましく、特にフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末及びポリアミドイミドからなるのが好ましい。またA6000 系等のアルミニウム合金製基材は過時効により85Hv以上の硬度を有する。85Hv以上の硬度は実機で確認されている必要レベルであり、過時効のみで達成することができる。
【0014】
また本発明のアルミニウム合金製オートマチックトランスミッション用スプール弁は、(a) 快削成分を含有しないアルミニウム合金からなる基材を過時効処理し、(b) 所定の形状に機械加工し、次いで(c) 基材表面に固体潤滑剤をコーティングし、焼付けることにより固体潤滑膜を形成することにより製造することができ、前記過時効処理の温度は実質的に前記焼付け温度又はそれ以上であるのが好ましい。過時効により切削性が向上するので、切削加工時に切削抵抗が小さく、工具刃を被削材に押しつける曲げ応力が小さくなる。その上素材自体の残留応力が少ないために、切削精度(同軸度)が向上する。さらに過時効処理の温度を実質的に前記焼付け温度又はそれ以上とするので、焼付け時に残留応力が開放することによる曲がり等の変形を防止することができる。
【0015】
過時効処理の条件は200 ℃以上で20分〜2時間であるのが好ましく、また固体潤滑膜の焼付け条件は200 ℃以上で10分以上であるのが好ましい。また過時効処理の前に溶体化処理を行うのが好ましい。200 ℃以上の焼付け条件は、特に固体潤滑剤のバインダー樹脂としてポリアミドイミドを使用する場合に好適である。85Hv以上の硬度を達成するために、過時効+焼付けの合計時間は35〜140 分間が好ましい。
【0016】
【発明の実施の態様】
[1] スプール弁
(A) 基材
スプール弁基材に使用するアルミニウム合金は、鉛のような快削成分が無添加のアルミニウム合金であり、特にA6061 系のようなA6000 系アルミニウム合金が好ましい。A6000 系アルミニウム合金の組成はJIS により規定されている。
【0017】
(B) 固体潤滑膜
本発明に使用する固体潤滑剤組成物は、フッ素樹脂、二硫化モリブデン及び黒鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の固体潤滑剤粉末と、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂とからなる。なかでもフッ素樹脂粉末、二硫化モリブデン粉末及びポリアミドイミドからなる組成物が好ましい。
【0018】
固体潤滑膜の厚さは3〜50μmであるのが好ましい。固体潤滑膜の厚さが3μm未満であると、固体潤滑膜の耐久性が不十分である。また50μmとしてもさらなる耐摩耗性及び耐焼付性の向上は得られない。より好ましい厚さは5〜25μmである。
【0019】
[2] スプール弁の製造方法
(A) 溶体化処理
アルミニウム合金製基材に対して過時効処理を行う前に、溶体化処理を行うのが好ましい。溶体化処理の条件は、500 〜550 ℃で1〜3時間加熱保持することであり、これにより合金成分は十分に固溶する。加熱保持の後は水冷等により急冷する。
【0020】
(B) 冷間加工
溶体化処理により基材に僅かな曲がり、うねり等の変形が生じる恐れがあるので、寸法精度を確保するために矯正ロール機により曲がり、うねり等を矯正する。
【0021】
(C) 過時効処理
スプール弁には同軸度のような寸法精度は極めて重要であるが、切削抵抗と素材自体の残留応力のために、所望の同軸度を切削加工のみで得るのは極めて困難であった。本発明者は、良好な切削性及び寸法精度を確保するために、アルミニウム合金基材に対して過時効処理を行えば良いことを発見した。過時効処理の後で固体潤滑剤の焼付けを行うが、その際内部応力が残留していると加熱により開放され、曲がり、うねり等の原因になるので、過時効処理により残留応力を十分に除去しておかなければならない。特にA6000 系の標準T8 処理材には直線方向の残留応力が多いので、後の焼付け工程で曲がり、うねり等の変形が起こりやすい。従って、過時効処理温度は実質的に固体潤滑剤の焼付け温度又はそれ以上であるのが好ましい。また過時効+焼付けの合計時間を85Hv以上の硬度を確保できる範囲内とするのが好ましい。そのためには一般に過時効+焼付けの合計時間を35〜140 分間とするのが好ましい。具体的な過時効処理の条件としては、200 ℃以上で20分〜2時間であるのが好ましく、200 〜250 ℃で20〜100 分間がより好ましい。
【0022】
(D) 切削加工
過時効処理した基材をスプール弁の形状にするために、切削加工する。過時効した基材は良好な切削性を示したために、切削効率が良好であるだけでなく、切削加工時に切削抵抗が小さく、工具刃を被削材に押しつける曲げ応力が小さくなる。また素材自体の残留応力が少ないために、切削精度(同軸度)が向上する。その結果、過時効処理をしたアルミニウム合金基材自体が優れた寸法精度を有するのみならず、固体潤滑膜の焼付け後でも優れた寸法精度が維持される。また切削加工のままで十分な寸法精度が得られるので、高価な研磨加工を省略することができる。
【0023】
(E) 固体潤滑剤のコーティング及び焼付け
上記組成の固体潤滑剤を基材表面にコーティングする。固体潤滑剤中のバインダー樹脂は通常液状又は粉体状である。液状バインダー樹脂の場合には、▲1▼エポキシ樹脂のように液状のバインダー樹脂を使用するか、▲2▼ポリアミドイミドやポリイミドのように有機溶媒に溶解して液状化する。また粉体のバインダー樹脂の場合には、バインダー樹脂を微粉末として固体潤滑剤粉末と均一に混合する。液状塗料の場合には、浸漬法、スプレー法等により基材表面に塗布し、粉体の場合には粉体塗装法により基材表面に塗布する。
【0024】
固体潤滑剤コーティングの焼付けはバインダー樹脂の溶融温度又は硬化温度以上の温度で行う。例えばポリアミドイミドの場合には180 ℃以上の温度で焼付ける必要があり、好ましくは200 〜250 ℃である。焼付け時間は温度に依存するが10分以上が好ましく、20〜30分間程度で十分である。
【0025】
固体潤滑剤の焼付けにより、アルミニウム合金基材は再度加熱されることになるので、残留応力があると開放される。その結果、焼付けにより曲がり、うねり等が生じることもある。これが従来技術の問題点であったが、本発明によれば、基材に予め過時効処理を施してあるので、固体潤滑剤の焼付けによっても曲がり、うねり等が生じる恐れはない。
【0026】
【実施例】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0027】
参考例1
アルミニウム合金(JIS のA6061 )からなる直径14mmの押出し棒材を520 ℃で2時間加熱保持し、溶体化処理(水冷により急冷)を行い、次いで矯正ロールにより曲がりやうねり等の変形を除去した後、240 ℃で1時間過時効処理を行い、サンプルNo. 1を作製した。また同じ押出し棒材に対して同じ溶体化処理及び矯正加工を行った後、180 ℃で8時間時効処理(T8 処理)を行い、サンプルNo. 2を作製した。
【0028】
各サンプルを図1に示すスプール弁形状に切削加工し、図2の方法により同軸度を測定した。すなわち、サンプルの2点A、Bを支持して、端部Cに振れを与え、同軸度を測定した。図3は、サンプルNo. 1及び2における各テストピースNo. 1〜5の同軸度の変動を示す。図3から明らかなように、過時効処理したサンプルNo. 1はT8 処理材(サンプルNo. 2)と比較して、同軸度により表される寸法精度が約2倍良好になっている。
【0029】
また過時効処理材(サンプルNo. 1)及びT8 処理材(サンプルNo. 2)に対して、それぞれ残留応力、ヤング率、伸び及び引張強度を測定した。結果をそれぞれ図4〜7に示す。これらの結果から、過時効処理材(サンプルNo. 1)はT8 処理材(サンプルNo. 2)に比較して、残留応力が1/2以下であり(図4参照)、ヤング率がやや大きく(図5参照)、伸びが1/2以下であり(図6参照)、かつ引張強度が若干低下しており(図7参照)、その結果切削性が著しく向上したことが分かる。このように過時効処理材(サンプルNo. 1)は良好な被削性を有するために、切削加工時に切削抵抗が小さく、工具刃を被削材に押しつける曲げ応力が小さくなり、その上素材自体の残留応力が少ないために、切削精度(同軸度)が向上すると考えられる。
【0030】
参考例2
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の微粉末と、二硫化モリブデン微粉末と、ポリアミドイミド(重合度:92%)とから固体潤滑剤組成物を調製し、アルミニウム板の表面にコーティングし、25〜240 ℃の範囲の各温度で20分間焼付けた。得られた固体潤滑膜中のポリアミドイミドの重合度と焼付け温度との関係を図8に示す。図8から明らかなように、焼付け温度が240 ℃に達すると、ポリアミドイミドの重合度はほぼ100 %になる。その結果、固体潤滑膜の焼付け温度は240 ℃以上とするのが好ましいことが分かる。
【0031】
参考例3
参考例1と同じアルミニウム合金の押出し棒材を240 ℃で熱処理した。熱処理時間と熱処理した棒材の硬度との関係を図9に示す。図9から明らかなように、240 ℃での熱処理の場合、約40〜120 分間の間で85Hv以上の硬度が得られるが、それ未満又は超では硬度は低下した。ここで85Hvの硬度は耐久性を満たすための条件であり、実機で確認されている。240 ℃での熱処理時間は、過時効及び焼付けのための加熱時間の合計と等しいので、例えば焼付け時間を20分間とすると、この例では過時効時間は20〜100 分間となる。
【0032】
参考例4
参考例1と同様にして、アルミニウム合金(A6061 )の円柱状棒材を溶体化処理(水冷により急冷)し、次いで矯正した後、240 ℃で1時間過時効処理を行い、サンプルNo. 3(A6061-過時効材)を作製した。また同じ円柱状棒材に対して同じ溶体化処理及び矯正加工を行った後、180 ℃で8時間時効処理(T8 処理)を行い、サンプルNo. 4(A6061-T8 材-1)を作製した。各サンプルの外径は120 ℃で12.000mmであった。
【0033】
各サンプルにシース型熱電対を埋め込み、炉中で150 ℃に加熱し、降温時の外径変化を耐熱型マイクロメータにより測定した。各温度における外径の測定値をXmmとしたとき、線膨張率は(X/12)×100 %により表される。このようにして求めた線膨張率と温度との関係を図10に示す。図10から、T8 処理材(サンプルNo. 4)は約60±20℃の温度で線膨張係数が低くなることが分かった。これに対して、過時効処理材(サンプルNo. 3)は約30℃〜120 ℃の温度範囲で実質的に線膨張率が直線状に変化するので、線膨張係数が実質的に一定であることが分かる。
【0034】
実施例1、比較例1、2
参考例1と同じ過時効処理材(サンプルNo. 1)を図11に示すスプール弁形状に切削加工し、参考例2と同じ組成の固体潤滑剤組成物をコーティングし、240 ℃で20分間焼付け、実施例1のスプール弁を作製した。
【0035】
参考例1と同じT8 処理材(サンプルNo. 2)を図11に示すスプール弁形状に切削加工し、硬質陽極酸化処理をし、比較例1のスプール弁を作製した。また直径14mmの鉄鋼(JIS のSCR420)製棒材に対して、930 ℃のプロパンガス変性浸炭雰囲気ガス中で浸炭処理を行い、次いで870 ℃から油冷により焼き入れし、比較例2のスプール弁を作製した。
【0036】
各スプール弁をアルミニウム製ハウジング治具に設置し、35〜120 ℃の油温における円環隙間漏れ量を測定した。結果を図12に示す。図12から明らかなように、比較例2の浸炭・焼き入れ鉄鋼製スプール弁の場合、鉄鋼とアルミニウムとの線膨張係数の差が元々大きいので、円環隙間漏れ量は油温の上昇とともに急速に増大した。またT8 処理−硬質陽極酸化処理スプール弁(比較例1)の場合、35〜120 ℃の全油温領域で、漏れ量が過時効−固体潤滑膜スプール弁(実施例1)より著しく多く、かつ80℃以下では浸炭鉄鋼製スプール弁(比較例2)より多かった。漏れ量は作動油ポンプ負荷に直結するので、漏れ量が多くなるとエネルギーロスが増大するのみならず、スプール弁の応答性が低下する。
【0037】
実施例2,3、比較例3〜6
実施例1及び比較例1、2と同じ条件で、図1に示す形状のスプール弁及び図11に示す形状のスプール弁を作製した。各スプール弁は以下の通りである。
実施例2: A6061-過時効・固体潤滑膜 図1に示す形状のスプール弁
比較例3: A6061-T8 処理・陽極酸化皮膜 図1に示す形状のスプール弁
比較例4: 鉄鋼浸炭・焼き入れ 図1に示す形状のスプール弁
実施例3: A6061-過時効・固体潤滑膜 図11に示す形状のスプール弁
比較例5: A6061-T8 処理・陽極酸化皮膜 図11に示す形状のスプール弁
比較例6: 鉄鋼浸炭・焼き入れ 図11に示す形状のスプール弁
【0038】
各スプール弁をアルミニウム製ハウジング治具に設置し、20〜120 ℃の油温における応答時間を測定した。結果を図13に示す。図13から明らかなように、図11の形状の小型薄肉のスプール弁の場合、実施例3のスプール弁と比較例5,6のスプール弁との重量差が余り大きくないので、顕著な応答性の相違が認められなかったが、図1の形状の場合には、実施例2の過時効・固体潤滑膜A6061 製のスプール弁は、比較例4の浸炭・焼き入れした鉄鋼製のスプール弁より非常に応答性が良く、また比較例3のT8 処理及び陽極酸化処理したA6061 製のスプール弁よりも全測定温度領域において良好であった。
【0039】
実施例4、比較例7〜 13
チップオンディスクによる摩耗試験及び動摩擦試験において、ディスク側をADC 相当材とし、チップとして下記基材に下記表面処理を施したものを使用した。
実施例4:G67 基材に固体潤滑膜(PTFE+MoS2+ポリイミド)。
比較例7:G67 基材に厚さ20μmの硬質陽極酸化皮膜。
比較例8:G67 基材にNi-P10メッキ。
比較例9:ASCM16(表面処理無し)。
比較例10:H-38(表面処理無し)。
比較例11:A4032 (表面処理無し)。
比較例12:G67 基材にT8処理を施したチップ(表面処理無し)。
比較例13:A6061 基材にT6処理を施したチップ(表面処理無し)。
【0040】
試験条件は以下の通りであった。
(1) 高面圧摩耗試験
面圧:3MPa
ディスクの回転速度:12.5 m/s
試験時間:30分
摺動距離:22,500m
ATF オイル滴下量:16 ml/min
【0041】
(2) 低面圧摩耗試験
面圧:0.1 MPa
ディスクの回転速度:6.2 m/s
試験時間:120 分
摺動距離:44,600m
ATF オイル滴下量:16 ml/min
【0042】
(3) 動摩擦試験
面圧:0.1 〜5MPa
ディスクの回転速度:25.5 m/s
ATF オイル滴下量:16 ml/min
【0043】
摩耗試験結果を図14及び図15にそれぞれ示し、動摩擦試験結果を図16に示す。図14及び図15から、固体潤滑膜を有する実施例4のチップは比較例7〜11のチップと比較して摩耗量が著しく少ないことが分かる。また図16から、固体潤滑膜を有する実施例4のチップは硬質陽極酸化皮膜を有する比較例7のチップ、及び表面処理がない比較例11〜13のチップと比較して、広範な面圧範囲において動摩擦係数が小さいことが分かる。また比較例7,11〜13では焼き付けが起こり、途中で図16の試験を終了した。
【0044】
【発明の効果】
以上の通り、本発明のスプール弁は、アルミニウム合金基材に過時効処理を施した後に固体潤滑剤をコーティングし焼付けてなるので、優れた耐摩耗性及び耐焼付性を有するのみならず、過時効により残留応力がほとんど除去されているので切削性が良好であり、高価な研磨加工をしなくても5μm以下と優れた寸法精度(同軸度)を有する。そのためスプール弁等として使用する場合に漏れ量を著しく低減することができる。
【0045】
また過時効により切削性が向上しているので、アルミニウム合金は快削成分を含有しなくても良く、そのためにスプール弁のコスト低減が達成できる。例えばスプール弁の場合、鉄鋼製スプール弁より約30%もコスト低減ができる。その上鉛等の快削成分を含有しないので、公害防止にも寄与する。
【0046】
上記特徴を有する本発明のスプール弁は、高級自動車用のオートマチックトランスミッション等に使用するスプール弁等として好適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スプール弁の一例を示す概略断面図である。
【図2】 スプール弁の同軸度測定方法を示す概略図である。
【図3】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 1)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 2)について、テストピース毎の同軸度の変動を比較するグラフである。
【図4】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 1)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 2)について、残留応力を比較するグラフである。
【図5】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 1)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 2)について、ヤング率を比較するグラフである。
【図6】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 1)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 2)について、伸びを比較するグラフである。
【図7】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 1)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 2)について、引張強度を比較するグラフである。
【図8】 固体潤滑剤中のポリアミドイミドの重合度と焼付け温度との関係を示すグラフである。
【図9】 アルミニウム合金の熱処理時間と硬度との関係を示すグラフである。
【図10】 過時効処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 3)及びT8 処理したアルミニウム合金(サンプルNo. 4)について、線膨張率と温度との関係を示すグラフである。
【図11】 スプール弁の別の例を示す概略断面図である。
【図12】 過時効・固体潤滑膜スプール弁(実施例1)、T8 処理・硬質陽極酸化膜スプール弁(比較例1)、及び浸炭・焼き入れ鉄鋼製スプール弁(比較例2)について、円環隙間漏れ量と油温との関係を示すグラフである。
【図13】 過時効・固体潤滑膜スプール弁(実施例2,3)、T8 処理・硬質陽極酸化膜スプール弁(比較例3,5)、及び浸炭・焼き入れ鉄鋼製スプール弁(比較例4,6)について、種々の形状としたときの応答時間と油温との関係を示すグラフである。
【図14】 種々のチップについて、高面圧における動摩擦係数と摩耗量との関係を示すグラフである。
【図15】 種々のチップについて、低面圧における動摩擦係数と摩耗量との関係を示すグラフである。
【図16】 種々のチップについて、面圧と動摩擦係数との関係を示すグラフである。

Claims (1)

  1. アルミニウム合金からなる基材の表面に固体潤滑膜が形成されてなるオートマチックトランスミッション用スプール弁であって、前記基材は過時効処理されたものであり、前記固体潤滑膜は前記基材表面に固体潤滑剤をコーティングし、焼付けることにより形成されたものであり、前記過時効処理の温度は前記焼付けの温度以上であることを特徴とするオートマチックトランスミッション用スプール弁。
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