JP3807802B2 - リブ付オイルシール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、密封性を高めるための多数のリブを有するリブ付オイルシールに関する。
【0002】
【従来の技術】
オイルシールの密封作用の要因の一つとされるいわゆるポンピング作用は、シールの空気側へ漏洩しようとする油を、油を注入した側(油側)へ押し戻す作用である。このポンピング作用は、通常のプレーンシール(後述のリブを有しないシール)においても多少発揮することができる。しかし、このプレーンシールは、その使用に伴うシールリップの経時的な摩耗によって、上記ポンプ作用が極端に小さくなって、比較的早期に油漏れが生じるという問題があった。
【0003】
そこで、シールの空気側傾斜面に、稜線がシールリップの先端縁に対して傾斜する断面山形のリブを多数形成したリブ付オイルシール(ヘリックスシール)が提供されている(例えば実開昭62−128278号公報参照)。このリブ付オイルシールは、図8に示すように、油側90から空気側91に漏れた油を、軸の矢印X方向への回転に伴って、リブ92に沿わせて当該リブ92の近傍に生じる軸との接触圧が低い領域Zを通して、油側へ押し戻すものであり(同図矢印Y参照)、上記リブによってポンピング作用を高め、長期間に亘ってシールリップの摩耗を抑制することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記リブ付オイルシールについても、長期間の使用によってポンピング作用が低下して、油漏れが生じるおそれがある。これは、図9に示すように、軸との摺接によってシールリップの先端縁93がほぼ平坦に摩耗して、軸との接触幅Wが大きくなり、当該先端縁93と軸との接触圧が全周に亘ってほぼ均等になること、つまり、図8に示す接触圧が低い領域Zが消失すること、及びリブの摩耗に伴って、リブと軸との軸方向の接触幅Dが大幅に小さくなることに起因する。
この発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、より長期間に亘って密封性を確保することができるリブ付オイルシールを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためのこの発明のリブ付オイルシールは、内周面に、互いに反対方向に傾斜した空気側傾斜面及び油側傾斜面を有する断面くさび状で使用中に軸と摺接する環状シールリップを備え、
上記空気側傾斜面に、稜線がシールリップの先端縁に対して傾斜する断面山形で使用中に軸と摺接するリブを多数突設しているリブ付オイルシールにおいて、
上記シールリップ及びリブの少なくとも軸との接触面に、この接触面の形状に倣う硬質の固体潤滑膜を形成し、
前記摺接に伴う上記シールリップの先端縁の磨耗を上記リブの磨耗より遅延させるべく、上記リブに形成した固体潤滑膜の厚みを、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みよりも数μmから数十μm薄くしたことを特徴とするものである。
【0006】
一般にリブ付オイルシールは、リブの稜線を挟んだ一対の傾斜面の軸に対する接触圧は、軸の回転方向に対して順方向に位置する傾斜面(以下「第1傾斜面」という)よりも、逆方向に位置する傾斜面(以下「第2傾斜面」という)の方が高くなる。このため、この発明のリブ付オイルシールにおいては、長期間に亘る軸との摺接によって、上記リブの第2傾斜面に形成した固体潤滑膜は、第1傾斜面に形成した固体潤滑膜よりも早く摩耗して、第2傾斜面にリップシールの素材であるゴムが露出する。すると、このゴムが露出した部分のうちの軸との接触圧が高い部分が摩耗して、当該部分の接触圧が低くなり、空気側に漏れた油を、上記接触圧が低くなった部分を通して油側に押し戻し易くなる。また、第1傾斜面の固体潤滑膜によって、リブの第1傾斜面の摩耗が抑制されるので、リブと軸との軸方向の接触幅D(図4参照)が小さくなるのを防止することができる。さらに、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みが、リブに形成した固体潤滑膜の厚みよりも厚いので、シールリップの先端縁の摩耗をリブの摩耗よりも遅延させることができる。このため、シールリップと軸との接触幅W(図4参照)が増大することに起因して、油を押し戻し易い接触圧が低い領域が消失するのを長期間に亘って抑制することができる。したがって、上記した従来のシールの密封性が低下する要因を全て解消することができる。
【0007】
上記固体潤滑膜としては、ポリテトラフルオロエチレンからなるのが好ましく、この場合のシールリップに形成した固体潤滑膜の厚みは、5〜45μmの範囲が、リブに形成した固体潤滑膜の厚みは、3〜43μmの範囲が、リブ付オイルシールの密封性をより長期間に亘って確保する上で好ましい。
また、上記固体潤滑膜が、ポリテトラフルオロエチレンからなる場合には、上記シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みは、13〜17μmの範囲であるのが、リブに形成した固体潤滑膜の厚みは、10〜14μmの範囲であるのがさらに好ましい。これにより、リブ付オイルシールの密封性をより一層長期間に亘って確保することができる。さらにこの場合において、上記リブに形成した固体潤滑膜の厚みは、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みよりも2〜3μm薄くしているのが、リブ付オイルシールの密封性をより一層長期間に亘って確保する上で好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
図1はこの発明のリブ付オイルシールの一つの実施の形態を示す要部断面図である。このリブ付オイルシールは、環状の芯金1に環状のゴム弾性体2が加硫接着されており、このゴム弾性体2の内周シール部2aの内周面に、環状のシールリップ3と環状のダストリップ4とが形成されている。
【0009】
シールリップ3は、軸の外周面に摺接して、軸との隙間を密封するものであり、互いに反対方向に傾斜した空気側傾斜面6と油側傾斜面7とを有する断面くさび状に形成されている。図においては左側が空気側に、右側が油側にそれぞれ設定されている。
シールリップ3の空気側傾斜面6には、シールリップ3のポンピング作用を増大させるためのリブ8が、所定間隔毎に多数形成されている。各リブ8は、断面が山形に形成されており(図2参照)、その稜線8aは、シールリップ3の先端縁3aに対して所定角度β(例えば45°)傾斜している。また、各リブ8は、それぞれ螺旋形状の一部を構成しており、その空気側傾斜面6からの突出高さHは、軸径52.4mm用のもので、例えば30〜40μmに設定されおり、頂角αは90°〜100°程度に設定されている。さらに、空気側傾斜面6の母線とオイルシールの軸芯とのなす角(バレル角)γは、20°程度に設定されている。なお、上記リブ8は、一方向だけでなく双方向に傾斜させて形成する場合もある。
【0010】
上記シールリップ3の空気側傾斜面6及び油側傾斜面7、並びにリブ8のそれぞれの表面には、固体潤滑剤としてのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる第1固体潤滑膜C1並びに第2固体潤滑膜C2がそれぞれ形成されている。各固体潤滑膜C1,C2は、上記PTFEを塗布した後、焼き付けることによって形成した硬質のものである。また、上記リブ8に形成された第2固体潤滑膜C2の厚みは、上記シールリップ3に形成された第1固体潤滑膜C1の厚みよりも数μmから数十μm薄くなっている。上記第1固体潤滑膜C1の厚みは、5〜45μmの範囲が、第2固体潤滑膜C2の厚みは、3〜43μmの範囲が好ましい。
【0011】
なお、上記実施の形態においては、リブ8の稜線8aを挟んだ一対の傾斜面のうち、図2の左側の傾斜面が、軸に対する接触圧が低い第1傾斜面8bとして構成されており、同図の右側の傾斜面が、軸に対する接触圧が第1傾斜面8bよりも高い第2傾斜面8cとして設定されている。
【0012】
以上の構成のリブ付オイルシールは、第1固体潤滑膜C1及び第2固体潤滑膜C2によって、シールリップ3の弾性が高められる。また、第2固体潤滑膜C2の厚みが、第1固体潤滑膜C1の厚みよりも薄いので、固体潤滑膜を形成していない従来品に比較して、リブ8の空気側傾斜面6からの突出高さHが低くなる。このため、シールリップ3のリブ8近傍の軸に対する接触圧が低い領域Z(図3参照)が狭くなる。さらに、リブ8の空気側傾斜面6からの突出高さHが低くなることに起因して、リブ8と軸との軸方向の接触幅Dが、従来品よりも小さくなる。以上により、上記実施の形態に示すリブ付オイルシールは、その使用初期において、軸の矢印X方向への回転に伴うポンピング作用が従来品よりも低下する。但しこのポンピング作用の低下は僅かであり、実用上全く問題なく密封性を確保することができる。
【0013】
次に、上記リブ付オイルシールを長期間使用すると、図4に示すように、軸との摺接時の面圧の差によって、上記リブ8の第2傾斜面8cに形成した第2固体潤滑膜C2は、第1傾斜面8bに形成した第2固体潤滑膜C2よりも早く摩耗する。このため、第2傾斜面8cにリップシール3の素材であるゴムが露出する。
そして、第2傾斜面8cの上記ゴムが露出した部分のうちの軸との接触圧が高い部分Vが摩耗して、当該部分Vの接触圧が低くなる。このため、空気側に漏れた油を、上記接触圧が低くなった部分を通して油側に押し戻し易くなる。
また、上記第2固体潤滑膜C2によって、リブ8の第1傾斜面8bの摩耗が抑制されるので、リブ8と軸との接触幅Dが小さくなるのを防止することができる。
さらに、第1固体潤滑膜C1の厚みが、第2固体潤滑膜C2の厚みよりも厚いので、シールリップ3の先端縁3aの摩耗をリブ8の摩耗よりも遅延させることができる。このため、シールリップ3と軸との接触幅Wが増大することに起因して、油を押し戻し易い接触圧が低い領域Zが消失するのを長期間に亘って抑制することができる。したがって、従来のシールの密封性が低下する要因を全て解消して、リブ付オイルシールの長寿命化を図ることができる。
なお。図3及び図4には、説明の便宜上、各固体潤滑膜C1,C2に対応する部分を斜線で示している。
【0014】
上記リブ付オイルシールにおいて、シールリップ3に形成された第1固体潤滑膜C1厚みは、13〜17μmの範囲が、リブ8に形成された第2固体潤滑膜C2の厚みは、10〜14μmの範囲がさらに好ましい。また、この場合において、第2固体潤滑膜C2の厚みは第1固体潤滑膜C1の厚みよりも2〜3μm薄くしているのが好ましい。これは、第2固体潤滑膜C2の厚みが第1固体潤滑膜C1の厚みに対して上記2〜3μmの範囲よりもさらに薄いと、第2傾斜面8cのゴムの露出時期が早すぎるからであり、反対に第2固体潤滑膜C2と第1固体潤滑膜C1の厚みの差が、上記2〜3μmの範囲よりも小さいと、ゴムが露出し難くなるからである。なお、上記第1固体潤滑膜C1の厚みの最適値は15μmであり、第2固体潤滑膜C2の厚みの最適値は12μmである。
【0015】
【実施例】
実施例として、図1に示す形状であって、シールリップの空気側傾斜面及び油側傾斜面並びにリブのそれぞれの表面に、PTFEを吹き付けた後、これを焼き付けて固体潤滑膜を有するリブ付オイルシールを作製した。このリブ付オイルシールの詳細は以下のとおりである。
▲1▼軸径52.4mm用
▲2▼シールリップに形成した固体潤滑膜の厚み:15μm
▲3▼リブに形成した固体潤滑膜の厚み:12μm
▲4▼リブの傾斜方向:一方向
▲5▼空気側傾斜面からのリブの突出高さ:40μm
▲6▼バレル角:20°
▲7▼トリム角:45°
【0016】
比較例として、上記固体潤滑膜を形成した点以外は実施例と同じリブ付オイルシールを準備し、実施例と比較例のそれぞれについて、運転時間とポンプ量との関係についての比較試験を行った。この試験条件は以下の通りである。
▲1▼油種:ATF DII
▲2▼試験温度:80°C
▲3▼軸偏芯:0.05mmTIR以下
▲4▼組付偏芯:0.15TIR
▲5▼軸回転数:9000rpm
ここで、上記TIRとは、総偏芯量を意味する。
この比較試験結果を図5に示す。図5より、比較例は経時的にポンプ量が低下するのに対して、実施例は使用初期においてポンプ量が比較例よりも若干低下するものの、200時間経過した時点でも、ポンプ量の低下は全く認められず、比較例よりも優れたポンピング作用を発揮することが分かる。
【0017】
上記実施例と比較例のそれぞれについて、運転時間と摩擦トルクとの関係についての比較試験を行った。この試験条件は上記比較試験と同じである。
この比較試験結果を図6に示す。図6より、実施例は比較例よりも摩擦トルクが低いことが分かる。
【0018】
上記実施例と比較例のそれぞれについて、シールリップと軸との接触幅の経時的な変化について比較試験を行った。この試験条件についても、上記比較試験と同じである。
この比較試験結果を図7に示す。図7より、実施例は比較例よりもシールリップと軸との接触幅の経時的な変化も少ないことが分かる。
以上の比較試験より、この発明のリブ付オイルシールは、ポンピング性能の向上、低トルク化、及び摩耗低減を図ることができることが明らかである。また、この発明のリブ付オイルシールは、使用初期の潤滑不足によるシールリップの振動、異音の発生、負圧によるリップ吸い付き等の諸問題も解決することができるとともに、低温使用時の耐摩耗の向上、低トルク化及び長寿命化も図ることができる。
【0019】
なお、固体潤滑膜としては、二硫化モリブデン等上記PTFE以外のもので構成することが可能である。また上記固体潤滑膜は、少なくとも軸との接触面に形成されていればよい。
【0020】
【発明の効果】
以上のように、この発明のリブ付オイルシールによれば、シールリップ及びリブの少なくとも軸との接触面に、この接触面の形状に倣う硬質の固体潤滑膜を形成し、軸との摺接に伴う上記シールリップの先端縁の磨耗を上記リブの磨耗より遅延させるべく、上記リブに形成した固体潤滑膜の厚みを、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みよりも数μmから数十μm薄くして、ポンピング作用の低下を長期間に亘って防止するようにしているので、オイルシールの寿命を大幅に延ばすことができるという特有の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のリブ付オイルシールの要部断面図である。
【図2】図1のII−II線拡大断面図である。
【図3】使用初期におけるシールリップ及びリブと軸との接触状態を示す図である。
【図4】所定期間使用した状態でのシールリップ及びリブと軸との接触状態を示す図である。
【図5】運転時間とポンプ量との関係を示すグラフ図である。
【図6】運転時間と摩擦トルクとの関係を示すグラフ図である。
【図7】シールリップと軸との接触幅の経時的な変化を示すグラフ図である。
【図8】従来例の使用初期におけるシールリップ及びリブと軸との接触状態を示す図である。
【図9】従来例の所定期間使用した状態でのシールリップ及びリブと軸との接触状態を示す図である。
【符号の説明】
3 シールリップ
3a シールリップの先端縁
6 空気側傾斜面
7 油側傾斜面
8 リブ
C1 第1固体潤滑膜
C2 第2固体潤滑膜
Claims (4)
- 内周面に、互いに反対方向に傾斜した空気側傾斜面及び油側傾斜面を有する断面くさび状で使用中に軸と摺接する環状シールリップを備え、
上記空気側傾斜面に、稜線がシールリップの先端縁に対して傾斜する断面山形で使用中に軸と摺接するリブを多数突設しているリブ付オイルシールにおいて、
上記シールリップ及びリブの少なくとも軸との接触面に、この接触面の形状に倣う硬質の固体潤滑膜を形成し、
前記摺接に伴う上記シールリップの先端縁の磨耗を上記リブの磨耗より遅延させるべく、上記リブに形成した固体潤滑膜の厚みを、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みよりも数μmから数十μm薄くしたことを特徴とするリブ付オイルシール。 - 上記固体潤滑膜がポリテトラフルオロエチレンからなり、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みが、5〜45μmであり、リブに形成した固体潤滑膜の厚みが、3〜43μmである請求項1記載のリブ付オイルシール。
- 上記シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みが、13〜17μmであり、リブに形成した固体潤滑膜の厚みが、10〜14μmである請求項2記載のリブ付オイルシール。
- 上記リブに形成した固体潤滑膜の厚みを、シールリップに形成した固体潤滑膜の厚みよりも2〜3μm薄くしている請求項3記載のリブ付オイルシール。
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