JP2005232543A - ボールねじ - Google Patents
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Abstract
【課題】 耐摩耗性に優れ、なおかつ高速使用下においても長寿命であるボールねじを提供する。
【解決手段】 ボールねじにおいて、ボールは窒化処理を施されており、表面層における窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以上4.5重量%以下である。表面層は、ボール表面から3μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までである。ボール表面及びボール直径の2%の深さにおけるにおけるビッカース硬さはそれぞれ850以上及び500以上であることが望ましい。ボール直径の2%の深さにおける炭素と窒素を合計した含有量が0.5重量%以上であることも望ましい。
【選択図】図1
【解決手段】 ボールねじにおいて、ボールは窒化処理を施されており、表面層における窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以上4.5重量%以下である。表面層は、ボール表面から3μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までである。ボール表面及びボール直径の2%の深さにおけるにおけるビッカース硬さはそれぞれ850以上及び500以上であることが望ましい。ボール直径の2%の深さにおける炭素と窒素を合計した含有量が0.5重量%以上であることも望ましい。
【選択図】図1
Description
本発明は、各種の用途のボールねじに係り、特に工作機械等の高速で使用される用途に好適なボールねじに関するものである。
平面図2(a)及びその切断面個所A−Aにおける断面図2(b)にその一例を示す、直動装置の一種であるボールねじは、雄ねじ溝2が外周に形成されたねじ軸1と、雄ねじ溝と対向する雌ねじ溝4が内周に形成されたナット3と、雄ねじ溝と雌ねじ溝との間に介装された多数のボール5と、ナットに形成されて雌ねじ溝の一端から他端にボールを循環させる循環路(チューブ6やコマなど)とから構成されている。ねじ軸とナットとの相対回転時において、ボールは、雄ねじ溝雌ねじ溝双方に対して転動すると共に、循環路を通って雌ねじ溝の一端から他端に循環する。また、ボールが転動するねじ溝上の面を転動面と呼ぶ。尚、図2(a)及び2(b)において、7はフランジ、8は平面(切欠面)、9はチューブ、そして10はシールである。
ボールねじのボールは転動体として高い面圧を支承する必要があり、せん断応力が発生する部分においては高い硬度を有することが必要である。一方、ねじ溝にボールのみが装填されておりいわゆるセパレータやリテーナ等ボール同士を隔てる部分は装着されていない(以下、「総ボール仕様」と呼ぶ)ボールねじにおいては、隣接するボール同士の接触点でお互いに順回転するボールが接触することにより、ボール同士の接触点でのすべりが生じる。このようなすべりはボールの作動性を悪化させ、トルク変動の原因となるだけでなく、ボールが摩耗したり、摩擦熱でボールや雄ねじ溝および雌ねじ溝が焼き付いたりする虞もある。また、ボール同士の接触や競り合いなどにより生じたボールの傷や圧痕が、ねじ溝の転動面に傷や圧痕を形成させやすく、表面起点型の早期損傷による寿命低下が起こりやすい。
このような問題の対策として、特開平10−103445号公報には、ボール表面を浸炭窒化して、ボールの寿命の改善を図ったボールねじが開示されている。しかし浸炭窒化を行っても、熱処理条件によっては残留オーステナイト量が多くなり充分な表面硬さが得られない場合があるため、摩耗を抑制する手段としては不充分であるといえる。
特開2000−346163号公報では、前記公報と同様に浸炭窒化層を設けることにより、SUJ2製のボールを使用した場合に比べて、衝撃が加えられた際の表面損傷が低減され、寿命が延長されることを確認できるが、残留オーステナイト量が20乃至40%と多く、摩耗を充分に抑制することはできない。
摩耗を抑制する手段として従来から広く用いられている方法に、母材に鋼を用い、何らかの方法で表面に硬質皮膜を形成するという方法がある。硬質皮膜を形成する方法には、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法などがある。しかしながら、PVD法やCVD法による皮膜は摺動性に優れるものの、高い剪断応力がかかる転動部材としては、母材と皮膜との間の境界面の強度が不足するため、皮膜の脱落、剥離等が容易に生じる虞があり、信頼性に欠ける。
表面硬さが高く、耐摩耗性に優れ、なおかつ母材と硬質層との結合強度が高い表面処理方法として、窒化がある。一般的に合金鋼に窒化を行うと、その表面には図1に示すような二層構造を有する窒化層11が形成される。表面を含む層は、Fe2Nを主体とするζ相、Fe2−3Nを主体とするε相、Fe4Nを主体とするγ’相、CrN、Cr2N等の合金元素の窒化物のみからなる化合物層11であり、それよりも深い部分の層は、窒素が拡散したマトリクス相に上記の窒化物が微細に分散した層から成る拡散層12である。例えば、特開2000-199524号公報では実施例の一つとして、ボールねじのボールに窒化を施すことで摩耗を抑制し与圧抜けを押さえることが可能である、と開示されている。近年、工作機械や各種搬送装置等の高速化が求められており、ボール摩耗がより発生しやすい環境で使用されるため、特開2000−199524号公報で開示されている手法は、耐摩耗性を確保するといった観点において長寿命なボールねじを提供のに有効な手段といえる。一方、高速下で使用されることで生じる別の要求として、ボールと循環路やねじ溝との衝突が激しくなり、また、総ボール仕様のボールねじにおいてはボールどうしの衝突も激しくなるので、ボール表面の靭性が必要とされる。しかしながら、化合物層を構成する窒化物は、耐摩耗性向上には寄与するものの弾性限界が小さくセラミックスに近い性質を有し、窒化層の靭性を低下させる。特開2000−199524号公報は、窒化層の表面靭性に対する考慮が不足しているために、同公報で開示されている手法にはなお改良の余地があると言える。
特開平10−103445号公報
特開2000−346163号公報
特開2000-199524号公報
本発明は、耐摩耗性に優れ、なおかつ高速使用下においても長寿命であるボールねじを提供することを目的としている。
本願発明者らは、耐摩耗性と耐衝撃性を兼ね備えたボールを得るために、窒化を行ったボール表面の構成相に着目し、鋭意研究を行った。その結果、特に高速で使用されるボールねじのボールの場合、表面窒素濃度が6.0重量%を超えると靭性が低下し故に耐衝撃性が低下し寿命が低下する虞があり、表面窒素濃度が0.5重量%を下回ると耐摩耗性が低下して充分な寿命延長効果が得られない、ということを解明した。そして、耐摩耗性を維持したまま耐衝撃性を改善するためには、素材や窒化方法や仕上げ加工等をコントロールして表面窒素濃度を0.5重量%以上6.0重量%以下とすればよいことを解明し、以下に述べる本発明に至った。
すなわち本発明は、ボールねじにおいて、ボールに窒化処理を施し、表面層における窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以上4.5重量%以下であることを特徴とするボールねじである。本発明における表面層の好ましい範囲とは、ボール表面から3μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までの、より好ましくはボール表面から10μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までの、さらに好ましくはボール表面から10μm乃至300μmの範囲のいずれかの深さからボール表面までのボールの部分である。
窒素濃度は、電子線マイクロアナリシス(electron probe microanalysis; EPMA)によって測定された値であってよい。すなわち本発明での表面層の範囲は、ボール断面においてボール表面とボール中心とを結ぶ線に沿って走査した電子線マイクロアナライザからのシグナルより算出されるボール表面からの窒素濃度が本発明の窒素濃度の上限となった段階のシグナルに対応する深さからボール表面までの全域としてもよい。
すなわち本発明は、ボールねじにおいて、ボールに窒化処理を施し、表面層における窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以上4.5重量%以下であることを特徴とするボールねじである。本発明における表面層の好ましい範囲とは、ボール表面から3μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までの、より好ましくはボール表面から10μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までの、さらに好ましくはボール表面から10μm乃至300μmの範囲のいずれかの深さからボール表面までのボールの部分である。
窒素濃度は、電子線マイクロアナリシス(electron probe microanalysis; EPMA)によって測定された値であってよい。すなわち本発明での表面層の範囲は、ボール断面においてボール表面とボール中心とを結ぶ線に沿って走査した電子線マイクロアナライザからのシグナルより算出されるボール表面からの窒素濃度が本発明の窒素濃度の上限となった段階のシグナルに対応する深さからボール表面までの全域としてもよい。
本発明のボールの表面におけるビッカース硬さは850以上であることが望ましく、900以上であることが、より望ましい。
窒化処理は、50%N2−50%NH3混合ガス雰囲気中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間加熱するガス窒化処理か、シアン酸塩浴中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理する塩浴軟窒化処理か、CO、N2、H2を含み構成される吸熱型ガス50%とNH350%の混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理するガス軟窒化処理であるか、又は、200乃至400℃でフッ化処理後50%N2−50%NH3混合ガス中400乃至500℃で5乃至50時間処理する窒化処理であることが望ましい。
ボール直径の2%の深さ(以下「2%Da深さ」とも言う)におけるビッカース硬さが500以上であることが望ましい。ボール直径の2%の深さにおける炭素と窒素を合計した含有量が0.5重量%以上であることも望ましい。
ボールの母材の炭素と窒素を合計した含有量が、0.1重量%以上1.3重量%以下の範囲内であることが望ましい。又、ボールの母材がクロム、モリブデン、タングステン、バナジウムのうち、少なくとも一種類以上を含有していることが望ましい。又、ボールの母材に含まれる共晶炭化物の直径が10μm以下であることが望ましい。
窒化処理は、50%N2−50%NH3混合ガス雰囲気中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間加熱するガス窒化処理か、シアン酸塩浴中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理する塩浴軟窒化処理か、CO、N2、H2を含み構成される吸熱型ガス50%とNH350%の混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理するガス軟窒化処理であるか、又は、200乃至400℃でフッ化処理後50%N2−50%NH3混合ガス中400乃至500℃で5乃至50時間処理する窒化処理であることが望ましい。
ボール直径の2%の深さ(以下「2%Da深さ」とも言う)におけるビッカース硬さが500以上であることが望ましい。ボール直径の2%の深さにおける炭素と窒素を合計した含有量が0.5重量%以上であることも望ましい。
ボールの母材の炭素と窒素を合計した含有量が、0.1重量%以上1.3重量%以下の範囲内であることが望ましい。又、ボールの母材がクロム、モリブデン、タングステン、バナジウムのうち、少なくとも一種類以上を含有していることが望ましい。又、ボールの母材に含まれる共晶炭化物の直径が10μm以下であることが望ましい。
本発明のボールねじの構成によれば、充分な耐摩耗性を確保でき、なおかつ、高速回転のボールと循環路やねじ溝との衝突による窒化層の剥離を抑制することができるため、高速回転で使用されても長寿命なボールねじを得ることが可能となる。
先ず、ボールの母材としての合金鋼について説明する。
炭素(C)は、焼入れにより母材基地をマルテンサイト化して硬さを向上させるのに必要な元素である。窒素(N)も鉄の結晶格子にひずみを生じさせ硬さを向上させるのに有用な元素である。また、これらの元素はクロム(Cr)やバナシウム(V)やモリブデン(Mo)等と炭化物や窒化物を形成し、硬さや耐摩耗性の向上に寄与する。しかしながら、炭素を1.3重量%を超えて添加すると、鋼中に巨大な共晶炭化物が生成しやすくなり、転動疲労寿命を低下させる。窒素を炭素の代わりに存在させることで炭素添加量を低く抑えることができる。その結果共晶炭化物径を小さく抑えられる。これらの理由から、用いる母材が窒素を添加できる合金元素系である場合は、窒素を添加することが好ましい。ボールねじのボールとして必要な芯部硬さを確保するためには、ボールの母材は炭素と窒素を合計含有量で0.1重量%以上含有していることが好ましい。しかし窒素を製鋼時の段階で0.2重量%を超えて添加すると、凝固の際に気孔が発生して鋼塊中に多数の気孔が発生することがあるため、母材の窒素含有量を好ましくは0.2重量%以下、さらに好ましくは0.15重量%以下とする。
以上の理由から、本発明のボールねじのボールの母材における炭素と窒素の合計含有量は0.1重量%以上1.3重量%以下であることが好ましく、さらには0.5重量%以上0.9重量%以下であることが好ましい。
以上の理由から、本発明のボールねじのボールの母材における炭素と窒素の合計含有量は0.1重量%以上1.3重量%以下であることが好ましく、さらには0.5重量%以上0.9重量%以下であることが好ましい。
窒化処理は例えば500℃以上で行われることが多く、したがって、窒化処理された合金鋼は焼戻しを受けて硬さが低下してしまう。鋼中に添加されるクロム、モリブデン、タングステン、バナジウムは焼戻し軟化抵抗性を有し、さらに窒化処理中に二次硬化を起こして、芯部硬さの低下を妨げる効果がある。また、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウムはいずれも窒化処理によって硬度が高い窒化物や炭窒化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。従って、これらの元素は母材に少なくとも一種類以上添加されていることが好ましい。これらの元素の中ではクロムが比較的安価であるため、積極的に添加することが好ましい。しかしながら多量に添加すると、拡散層の厚さは減少し逆に化合物層の厚さが増加する傾向にある。そして窒化層全体としてはその厚さが減少する傾向にある。化合物層は靭性が低く、また非常に硬質であるため窒化処理後の加工の妨げとなり、除去も困難である。したがって、化合物層の厚さを極力低く抑えることが望まれ、そのためにはクロムの添加量を低く抑えておくことが好ましい。クロムの添加量は18.0重量%以下とすることが好ましく、より好ましくは7.0重量%以下である。
シリコン(Si)は、製鋼時の脱酸剤として必要な元素であり、また、焼戻し軟化抵抗性を高め、さらに窒化物を形成し得、耐摩耗性向上に寄与する。0.1重量%以上添加されることが好ましい。しかし、多量に添加すると靭性や加工性を低下させるため上限を1.5重量%とする。
マンガン(Mn)は脱酸素剤として0.1重量%以上必要である。しかし多量に添加すると鍛造性、被削性が低下するだけでなく、イオウ、リンなどの不純物と共存して耐食性を低下させるので、上限を1.5重量%とする。
なお、本発明におけるボール母材としての合金鋼には、これらの添加元素以外にも不可避の不純物として、リン(P)、イオウ(S)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、鉛(Pb)、カルシウム(Ca)、ジルコニア(Zr)、テルル(Te)、アンチモン(Sb)等が含有され得る。
鋼中に含まれる不純物について重要なものに酸化物系介在物がある。鋼中の酸素含有量が多くなると、疲労破壊の起点になる粗大な酸化物系介在物の存在量が多くなり、転動寿命は低下する。鋼中の酸素含有量を好ましくは15ppm以下、さらに好ましくは12ppm以下とする。
鋼中に粗大な共晶炭化物が含まれると靭性が低下する。粗大な共晶炭化物が窒化層中に存在した場合は、仕上げ加工中や使用中に窒化層が剥離することがある。そのため、母材の最大共晶炭化物径は10μm以下としておくことが望ましい。
次に、ボールの作製方法について述べる。
上述の母材の合金鋼に冷間引き抜きなどを施した線材に、ヘッダー等で冷間加工を施し、球体成形を行う(このように、形成されたが未だ窒化処理を施されてはいない球体を以下「素球」と呼ぶ)。また、転造などの方法で線材を加工して素球を形成してもよい。形成された素球にバリ等が見られる場合は、フラッシング等でバリ取りを行う。
次いで焼入れ・焼戻し等の熱処理を行う。焼戻しの前に、−60℃乃至−190℃程度でのサブゼロ(深冷)処理を行ってもよい。また、取り扱い上の表面キズ発生を防止するため、熱処理後にバレル、ショットピーニング或いはボールピーニング等の機械的硬化加工によって、更に硬度を高めても良い。
熱処理後の真球度あるいは直径相互差等は非常に大きいため、焼戻し後に研磨加工(粗研削加工)などを行っても良い。この加工により、窒化処理後の加工取代を少なくでき生産性を向上できるだけでなく、仕上げ加工後の窒化層厚さがより均一になるなど、品質のばらつきを少なく抑えることができる。
次いで、窒化処理を施す。この窒化処理は、例えば、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化等のいずれの方法を用いてもよい。
なお、好ましい窒化処理の一形態として、比較的低温で処理が可能なNv窒化プロセス(エア・ウォータ株式会社の商標)がある。このNv窒化プロセスは、まず、例えばNF3などのフッ素系ガスを用いてフッ化処理を施した後、窒化を行ない窒化層を形成する。フッ化処理により、窒化を阻害する被処理材表面のCr酸化物等が除去され被処理材表面を活性化するフッ化層が形成される。そのため、その後の窒化工程が400℃程度の低温で行われても、比較的均一な窒化層を形成することが可能となる。そのような低温での処理は、窒化処理に伴なう高温焼戻しによる芯部硬さの低下を回避できる効果ももたらすことになる。また、フッ化処理は比較的低温で行われるため、窒化処理による精度劣化が抑制されて仕上げ加工を容易に行うことを可能にする。
窒化処理が施された後に、目的の精度を得るための仕上げ加工を行う。表面に形成した化合物層は、この段階で除去することが望ましい。化合物層を除去して表面の窒化層を拡散層のみから構成させると、靭性が飛躍的に向上する。
本発明のボールねじのボールとして仕上げ加工されたボールの表面の窒素濃度は0.5重量%以上6.0重量%以下とされる。その結果、耐焼付き性と耐摩耗性、そして耐衝撃性に優れ、ボールねじの長寿命化に貢献する。表面硬さはHv850以上が望ましい。玉径Daの2%深さにおけるビッカース硬さはHv500以上であることが、そして、玉径Daの2%深さにおける炭素と窒素の合計含有量は0.5%以上であることが好ましい。
その他の構成部材について以下に述べる。ボール以外のねじ軸、ナット、循環路等は従来の材料を使用すればよい。ねじ軸やナットの材料としては、SCM420を浸炭または浸炭窒化したものやSAE4150を高周波焼入したものなどが挙げられる。ただし、少なくとも雄ねじ溝および雌ねじ溝の転動面の表面硬さはHv650以上とされ、そのためならばねじ溝の母材の成分や熱処理方法は問わない。例えば、コストが許すのであれば、SCM420等の従来から使用されている合金鋼にMoやVなどを添加し浸炭窒化処理を行って耐摩耗性を向上させたものでもよい。循環路の転動面は冷間圧延鋼SPCCなどを使用してよい。
[実施例1乃至19、比較例1乃至7]
表1に示す合金鋼1乃至18に冷間引き抜きなど施した線材に、ヘッダーで冷間加工を施し、球体成形を行って素球を得た。フラッシング等でバリ取りを行った。
表1に示す合金鋼1乃至18に冷間引き抜きなど施した線材に、ヘッダーで冷間加工を施し、球体成形を行って素球を得た。フラッシング等でバリ取りを行った。
次いで焼入れ温度820乃至1050℃にて素球を20乃至60分保持した後、50乃至80℃の油にて油焼入れを行った。
次に160乃至550℃で1乃至3時間焼戻しを行った。
次に160乃至550℃で1乃至3時間焼戻しを行った。
窒化処理は以下に示す何れかの方法を用いた:
窒化処理A: 50%N2−50%NH3混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間加熱するガス窒化処理、
窒化処理B: KCNO、NaCNOなどのシアン酸塩を主成分とする塩浴中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理する塩浴軟窒化処理、
窒化処理C: CO、N2、H2を主成分とする吸熱型ガス50%とNH350%の混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理するガス軟窒化処理、及び
窒化処理D: 200乃至400℃でフッ化処理後50%N2−50%NH3混合ガス中400乃至500℃で5乃至50時間処理する窒化処理。
窒化処理A: 50%N2−50%NH3混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間加熱するガス窒化処理、
窒化処理B: KCNO、NaCNOなどのシアン酸塩を主成分とする塩浴中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理する塩浴軟窒化処理、
窒化処理C: CO、N2、H2を主成分とする吸熱型ガス50%とNH350%の混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理するガス軟窒化処理、及び
窒化処理D: 200乃至400℃でフッ化処理後50%N2−50%NH3混合ガス中400乃至500℃で5乃至50時間処理する窒化処理。
表面硬さ及び2%Da深さにおける硬さの測定にはマイクロビッカース硬さ試験機を用い、測定荷重を200gとした。表面硬さはボール表面を測定し、2%Da深さにおける硬さはボール断面の表面から2%Da深さの位置で測定を行った。硬さの測定は10回行い、その平均値を算出した。
表面における窒素濃度、及び2%Da深さにおける窒素及び炭素の合計濃度は、完成品の垂直断面について、表面から芯部方向にEPMAにて線分析の定量分析を行い、最表面及び2%Da深さにおける窒素及び炭素の含有量を同定した。EPMAの測定条件は、加速電圧が15kV、ビームスポット径が1μm、試料電流が0.05μAであった。分析の対象元素はC、N、Fe、Cr、V、W、Moとした。測定は2断面について行いその平均値を測定値とした。試験結果を表2に示す。
高速の使用条件下での摩耗量及び疲労寿命を評価するために、本発明による、総ボール仕様のボールねじを作製した。作製したボールねじの仕様は以下に示す通りである。
ねじ軸径: 25mm
リード: 6mm
ねじ軸全長: 1150mm
ねじ軸材: SAE4150高周波焼入れ
ナット材: SCM420浸炭
ボール材: 表2に示す母材のボールに同表に示す窒化処理条件A乃至Dで窒化したもの
ねじ軸径: 25mm
リード: 6mm
ねじ軸全長: 1150mm
ねじ軸材: SAE4150高周波焼入れ
ナット材: SCM420浸炭
ボール材: 表2に示す母材のボールに同表に示す窒化処理条件A乃至Dで窒化したもの
以上のようにして作製したボールねじを供試体として、工作機械を想定した試験条件で疲労寿命試験を行った。試験条件の詳細を以下に示す。
荷重: 最大5000N
速度: 9m/min
ストローク: 300mm
潤滑材: 鉱油系グリース
荷重: 最大5000N
速度: 9m/min
ストローク: 300mm
潤滑材: 鉱油系グリース
ボールねじ耐久試験におけるボール摩耗量は、従来品寿命よりも短時間の一定時間試験を行ったボールの質量減少量/試験時間を求め、従来例である比較例7の値を1.00とした比で示した。耐久寿命は、ねじ軸・ナット・ボールのいずれかが表面損傷を起こすか、ナットの振動が初期値の2倍以上となるまで試験を行い、従来例である比較例7のショット数を1.0とした比で示した。また、耐久寿命が従来例である比較例7の2倍以上となった段階で試験を打ち切りとした。結果を表2に示す。表面窒素濃度と単位時間当たりの摩耗量比との関係について図3に示す。表面窒素濃度と耐久寿命の関係について図4に示す。
表面窒素濃度が0.5重量%以上である実施例1乃至19は耐摩耗性に優れている。表面窒素濃度が0.5%を下回る比較例3及び4は、従来例である比較例7のSUJ2と同様の耐摩耗性となり、充分な耐摩耗性向上の効果は得られていない。
表面窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下である各実施例では、従来例である比較例7と比較してボール摩耗を抑制できる事から、長寿命を有している。表面窒素濃度が1.0重量%以上である実施例については、寿命に特に優れていることがわかる。表面窒素濃度が1.0重量%以上4.5重量%以下である実施例においては、従来例である比較例7の耐久寿命との比が2倍以上と特に長寿命を有している。
しかしながら、表面窒素濃度が6.0重量%を超える比較例5及び比較例6では、ボール表面に形成されている窒化層の靭性が低いため、ボール同士や、ボールとねじ溝または循環路等との衝突により窒化層の剥離が生じ、従来例である比較例7と比較して却って短寿命となった。表面窒素濃度が0.5重量%を下回る比較例3及び4では、従来例である比較例7の耐久寿命とほぼ同様の結果となっており、充分な寿命延長効果を得られない。比較例2は表面窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下の範囲にあるにも関わらず充分な寿命延長効果が得られなかった例であるが、2%Da深さにおけるビッカース硬さがHv500を下回ったためである。比較例1も表面窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下の範囲にあるにも関わらず充分な寿命延長効果が得られなかった例であるが、これは素材の炭素濃度が1.3重量%を超え、粗大な共晶炭化物が多く存在したため、窒化層が比較的早期に剥離したものと考えられる。
1 ねじ軸
2 雄ねじ溝
3 ナット
4 雌ねじ溝
5 ボール
6 チューブ
7 フランジ
8 平面(切欠面)
9 チューブ押え
10 シール
11 窒化層
12 化合物層
13 拡散層
2 雄ねじ溝
3 ナット
4 雌ねじ溝
5 ボール
6 チューブ
7 フランジ
8 平面(切欠面)
9 チューブ押え
10 シール
11 窒化層
12 化合物層
13 拡散層
Claims (15)
- ボールねじにおいて、ボールは窒化処理を施こされ、ボールの表面層における窒素濃度が0.5重量%以上6.0重量%以下であることを特徴とするボールねじ。
- ボールの表面におけるビッカース硬さが850以上である、請求項1記載のボールねじ。
- 前記窒素濃度は、電子線マイクロアナリシスによって測定された測定値である、請求項1記載のボールねじ。
- 表面層は、ボール表面から3μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までのボールの部分である、請求項1記載のボールねじ。
- 表面層は、ボール表面から10μm乃至1mmの範囲のいずれかの深さからボール表面までのボールの部分である、請求項4記載のボールねじ。
- 表面層は、ボール表面から10μm乃至300μmの範囲のいずれかの深さからボール表面までのボールの部分である、請求項5記載のボールねじ。
- 窒化処理は、50%N2−50%NH3混合ガス雰囲気中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間加熱するガス窒化処理である、請求項1又は2に記載のボールねじ。
- 窒化処理は、シアン酸塩浴中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理する塩浴軟窒化処理である、請求項1又は2に記載のボールねじ。
- 窒化処理は、CO、N2、H2を含み構成される吸熱型ガス50%とNH350の混合ガス中500℃乃至570℃で1時間乃至10時間処理するガス軟窒化処理である、請求項1又は2に記載のボールねじ。
- 窒化処理は、200乃至400℃でフッ化処理後50%N2−50%NH3混合ガス中400乃至500℃で5乃至50時間処理する窒化処理である、請求項1又は2に記載のボールねじ。
- ボール直径の2%の深さにおけるビッカース硬さが500以上である、請求項1記載のボールねじ。
- ボール直径の2%の深さにおける炭素と窒素を合計した含有量が0.5重量%以上である、請求項1記載のボールねじ。
- ボールの母材の炭素と窒素を合計した含有量が、0.1重量%以上1.3重量%以下の範囲内である、請求項1記載のボールねじ。
- ボールの母材がクロム、モリブデン、タングステン、バナジウムのうち、少なくとも一種類以上を含有している、請求項1記載のボールねじ。
- ボールの母材に含まれる共晶炭化物の直径が10μm以下である、請求項1記載のボールねじ。
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