JP3598511B2 - フッ化フラーレン重合体、フッ化フラーレン重合体膜又は記録媒体の製造方法 - Google Patents

フッ化フラーレン重合体、フッ化フラーレン重合体膜又は記録媒体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フッ化フラーレン重合体(特に、フラーレンと称される球状炭素類を原料とするフッ化フラーレン重合体)、フッ化フラーレン重合体膜又はフッ化フラーレン重合体膜を表面膜として有する記録媒体(例えば、フッ化フラーレン重合体膜を磁性層上に有する磁気記録媒体)の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の結晶炭素として、球状炭素化合物であるフラーレンの存在が明らかにされ、そのマクロ量の合成法が確立されたのは1990年になってからである。
【0003】
フラーレンは炭素のみからなる一連の球状炭素化合物の総称であり、12個の5員環と12個又はそれ以上の6員環とを含んでいる。即ち、60個、70個、76個或いは84個等(炭素数は、幾何学的に球状構造を形成し得る数から選択される。)の炭素原子が球状に結合してクラスターを構成してなる球状炭素化合物であって、それぞれC60、C70、C76又はC84等のように表せる。
【0004】
例えば、C60は、図6に示すようにサッカーボールの如き球状分子構造を示し、この多面体の60個の頂点を炭素原子Cで置換した構造を有する。また、C70は、図7に示すようにいわばラグビーボールの如き分子構造を示し、また、C76又はC84も同様な構造を有する。
【0005】
ところで、グラファイトは、6員環が平面に広がり、これがπ電子の重なりにより層をなしているものである。このグラファイトは、表面のπ電子のために潤滑性を示し、一般に固体潤滑剤として知られている。しかしながら、保護膜等に使用するには強度が弱く、かつ媒体上に製膜するのは困難である。
【0006】
このため、媒体用の保護膜としては、スパッタリング法等によるアモルファス状のカーボン膜が使用されるのが一般的である。しかしながら、スパッタ法等によるカーボン膜では、潤滑性がグラファイトに比べ低く、或いは製膜効率が悪い等の問題点がある。
【0007】
60に代表されるフラーレンもグラファイトと同様に、表面がπ電子で取り囲まれているため、同様な潤滑性を示すことが期待される。更に、容易に昇華させる(550℃程度)ことができるため、抵抗加熱等の蒸着法で簡単に製膜できる特徴がある。しかしながら、フラーレン分子は図6又は図7に示したように球状分子であり、複数の分子間にはファンデルワールス力のみしか作用していないため、たとえ潤滑性を示したとしても基板からの剥離、膜の剥がれが生じ易く、良好なフラーレン潤滑性保護膜を形成することは困難である。
【0008】
これを解決するために、フラーレンを重合することによって膜の機械的性質を向上させることが可能である。但し、グラファイトと比較してフラーレン重合膜のπ電子密度は低いため、潤滑性がグラファイトに比べて低下する傾向にある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた機械的強度を示し、静電気を帯電させず、しかも潤滑性を備え、製膜性も良好であり、工業的に応用範囲の広い材料として有用なフラーレン重合体、フラーレン重合体膜はフラーレン重合体からなる表面膜を有する記録媒体の効率的な製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的を達成するために様々な角度から鋭意検討を重ねた結果、フラーレン重合膜を生成させる際にガスプラズマ(特にフッ素系ガスプラズマ)中で重合を行うことによって、フッ化フラーレン重合膜が形成され、潤滑性、機械的特性、更には電気伝導性のいずれもが優れたフラーレン重合体及びその薄膜が得られるとの結論に至り、本発明に到達したものである。
【0011】
まず、本発明の製造方法によって得られるフッ化フラーレン重合体等について述べると、これらは、
一般式A:
nm
(但し、この一般式Aにおいて、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数、mは 最大でnである整数を示す。)
なる分子式で表される球状炭素類の少なくとも1種の重合体であって、
一般式I:
(Cnmx
(但し、この一般式Iにおいて、n及びmは前記したものと同じ、xは整数を示す。 )
なる分子式で表されるフッ化フラーレン重合体、及びこのフッ化フラーレン重合体からなるフッ化フラーレン重合体膜、更にはこのフッ化フラーレン重合体からなる表面膜を有する記録媒体である。ここで、このフッ化フラーレン重合体の重合度(上記のx)は、特に10量体以上であることを意味する(以下、同様)。
【0012】
本発明は、これらのフッ化フラーレン重合体、フッ化フラーレン重合体膜又は記録媒体を製造する方法として、
一般式B:
n
(但し、この一般式Bにおいて、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数を示す 。)
で表される球状炭素類の少なくとも1種を昇華させ、フッ素含有ガスのプラズマ中で重合させて、
一般式I:
(Cnmx
(但し、この一般式Iにおいて、nは前記したものと同じ、mは最大でnである整数 、xは整数を示す。)
なる分子式で表されるフッ化フラーレン重合体を生成させる(例えばフッ化フラーレン 重合体を製膜する)工程
を有する製造方法に係るものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明においては、前記のCなる分子式で表されるフッ化フラーレン球状炭素類の複数個が少なくとも1箇所(即ち、付加による新たなC−C結合が生じる位置が1つ又はそれ以上あること:以下、同様)において互いに付加し、それらの複数の球状炭素類が重合した構造を有することが望ましい。
【0015】
このフッ化フラーレン重合体は表面膜として、例えば表面保護膜、潤滑膜又は帯電防止膜として用いられるのに好適である。
【0018】
上記の球状炭素類Cの重合構造は様々な形態をとることができる。C60の2量体の場合を例にとると、図8のようなC120 の構造、図9のようなC118 の構造、或いは図10のようなC116 の構造等が存在する。重合度が更に進んだものはこれらの結合形態が混在していると思われるが、いずれも、本発明を適用することができる。
【0019】
上記フラーレン重合体及びその薄膜において、原料として使用する球状炭素類Cの炭素数nは60又は70であることが好適である。これは、それ以外の球状炭素類では生産収量が減少し、産業上の利用価値が少なくなるためであるが、工業的価値を別にすれば、n=76又は84等の球状炭素類でも同等の性質を有するプラズマ重合体及びその薄膜を得ることが可能である。原料の入手の容易さを考慮すれば、C60が最も適している。
【0020】
また、上記のCにフッ素が付加したCも様々な形態をとることができる。C60の場合には、図11及び図12に示すように、C60のC−C間の二重結合が切れるようにフッ素が付加し、理論的には最大m=60(実際にはm=48)まで付加する。但し、重合膜の場合には、C60同士の結合に二重結合が使われるため(図8〜図10参照)、付加し得るフッ素の数mxは少なくなる(C120 、C118 、C116 ではそれぞれ、フッ素は 116個、 114個、 112個まで付加可能)が、フラーレン重合膜の潤滑性は、膜最表面に付加しているフッ素の影響が大きいため、必ずしも全ての二重結合にフッ素が付加する必要はない。
【0021】
この意味では、フッ化フラーレン重合体膜の少なくとも表面がフッ化されていればよい。
【0022】
上記のプラズマ重合の際に使用するフッ素含有ガスは、フッ素単独でもよいし、CF又はC等のフッ化炭素系のガスでも構わない。或いは、Ar/Fのように、フッ素と他のガスとの混合系でも全く問題ない。
【0023】
或いは、上記の球状炭素類Cの重合体膜をフッ素以外のガスプラズマ中で生成させ、これを上記と同様のフッ素含有ガスのプラズマで処理し、少なくとも表面をフッ化することが望ましい。
【0024】
即ち、本発明のフッ化フラーレン薄膜は、球状炭素類Cを昇華源として、フッ素系ガスプラズマでプラズマ重合することによって容易に製膜できる。或いは、球状炭素類Cを昇華源として一旦フラーレン重合体膜を製膜し、これをフッ素系ガスプラズマでフッ化することが望ましい。
【0025】
ここで、プラズマ発生の放電方式としては、公知の直流放電、低周波放電、高周波放電、マイクロ波放電等の各種の方式が採用可能であり、また電極の種類及び放電発生方式としては、内部電極方式、外部電極方式、導波管方式、容量結合型、誘導結合型、無電極発振型等から選択可能である。
【0026】
放電条件としては、直流放電では、ガス圧力、電極間距離、電圧の関係を示すパッシェンの法則が成立する範囲、また交流放電では、放電可能範囲であれば、重合に問題はない。放電電力は40〜60Wがよい。
【0027】
本発明のフッ化フラーレン重合体及びその薄膜は、上記した(C(n、x=整数、m=最大nの整数)の重合構造の存在により(望ましくはこれがアモルファス状に分布していることにより)、機械的強度が強く、導電率が高いために静電気を帯電させず、しかも潤滑性を備えた薄膜となり、工業的に応用範囲の広い材料として有用なものとなる。
【0028】
特に、本発明のフッ化フラーレン重合体及びその薄膜は、半導体素子の表面保護膜等の電子材料をはじめ、光磁気ディスク装置の光学ピックアップ側の表面保護膜等の如く、各種の記録媒体に広く応用可能であるが、この膜の潤滑性、電気伝導性等を利用するためには、磁気テープや磁気ディスク等の磁気記録媒体の表面保護膜等に応用することが好適である。
【0029】
本発明のフッ化フラーレン重合体及びその薄膜は、製膜においても非常に優れたものである。即ち、原料のフラーレンCは炭素のみからなる分子であって、分子中に双極子がないために容易に気化し(真空中で例えば 500℃で昇華可能)、C−C間二重結合の存在によって容易に重合して膜強度を向上させ、表面にはSPカーボンが存在していて付加反応性に富み、表面改質(フッ素化)も容易であり、更には、製膜時に化学的気相成長法CVDの如き廃ガスの発生がない。
【0030】
【実施例】
以下、本発明を実施例について更に詳細に説明する。
【0031】
フッ化フラーレン重合体薄膜の製膜に際して各種のプラズマ重合装置が使用可能であるが、本実施例において使用した平行平板電極式容量結合型のプラズマ装置の構成を図3について説明する。
【0032】
図3に示す平行平板電極式容量結合型のプラズマ重合装置20は、容量約20リットルの反応器1を備え、この反応器にはガス供給管2、3が設けられている。また、反応器1の底部には、油拡散ポンプ4やロータリーポンプ5、6及び液体窒素トラップ7、8等から構成される真空排気系が排気口9を介して設けられている。
【0033】
この反応器1内には、プラズマ発生用電極10、11が10cmの間隔を隔てて平行に配置され、一方の電極10はインピーダンス整合器12を介してプラズマ電源13に接続されている。また、上記の電極10からは、ガス(例えばAr又はArとフッ素系ガスとの混合ガス)がシャワー状に電極10−11間に導入されるようになっている。
【0034】
そして、電極10−11間には、フラーレン昇華用のモリブデンボート14及び試料基板15が5cmの間隔を隔てて対向して配置されており、モリブデンボート14にはフラーレン昇華用の直流電源16が接続されている。
【0035】
プラズマ電源13の出力は、交流 13.5MHzのラジオ波であり、10Wから 100Wまで変化させた。プラズマは、13.5パスカルに設定したフッ素系ガス一定流量系に発生させ、このプラズマ中にモリブデンボート14に入れたフラーレンを昇華させてプラズマ重合を行い、フッ化フラーレン重合体を基板15上に製膜した。なお、重合中の膜厚は、センサー17により連続的にモニターした。
【0036】
図4には、一例として、ポリエチレンテレフタレート等のベース15上にFe、Co、Ni等の金属又はその合金からなる磁性層18を形成し、この磁性層18上に、表面保護膜又は潤滑膜として上記のフッ化フラーレン重合体膜を厚さ6〜10nmの薄膜19として製膜した磁気テープ用等の磁気記録媒体を示す。
【0037】
この磁気記録媒体を製造するには、常法に従って、ベース15上に蒸着法又はスパッタリング法で金属磁性薄膜18を所定厚さに形成し、これを必要に応じて所定寸法に裁断後にフッ化フラーレン重合体薄膜19を製膜する。製膜に際しては、磁性層18付きのベース15を図3の重合装置内に設置する。
【0038】
本実施例に原料として用いられる球状炭素類Cは、例えば図5に示す製造装置21において、He雰囲気中でカーボングラファイト棒22、23を対向電極として用い、その間に電源24により直流アーク放電を発生せしめ、これによって装置壁面に生成するスス25の中から得ることができる。
【0039】
この場合の生成条件としては、60Vの電圧を印加し、 200Aの放電電流を発生させ、Heガス圧が 100Torrを保つようにHeガスを流し続ける。このようにして得られたスス25をベンゼン又はトルエン等の有機溶媒で抽出することによって、Cの混合物が得られる。その後、C60又はC70等の分離は、シリカゲルカラムを用い、ベンゼン又はトルエンで展開し、分離抽出液を乾燥して行う。
【0040】
図1には、上記したC60フラーレンのみからなる炭素源をプラズマ重合させ、得られたC60プラズマ重合体について、TOFMAS(Time−of−flight mass spectroscopy)と称されるレーザーデソープションイオン化によるTime−of−Flight法により測定したC60の質量分布を示す。
【0041】
これによれば、炭素のみからなるC60に対しフッ素原子が付加し、m/z(mは質量、zは電荷)値の広範囲のシーケンスにおいて炭素に付加したフッ素原子の個数が偶数のときにシャープなスペクトルを示し、その間にはフッ素原子が奇数の場合のピークが低く出ていることが分かる。
【0042】
また、図2は、このC60のプラズマ重合体(C60の多量体)のTOFMASにより測定した質量分布を示す。
【0043】
これによれば、m/z値の広範囲のシーケンスにおいて示し、図中のスペクトルの数字は多量体を構成するフラーレン分子の個数を表すが、C60の2量体〜14量体程度までの多量体が生成していることが明らかである。
【0044】
次に、下記の各例に示すように、上記の図3に示したプラズマ重合装置20を用い、スライドガラス15上にフラーレンプラズマ重合体膜を厚さ 100nmに製膜した。なお、導電率測定用として後述するように、ガラス基板15上に予め形成されている金製の櫛形電極上に、これらを覆うようにプラズマ重合膜を製膜した。
【0045】
<例1>
図3の装置において、Cガスを供給し、放電パワー10Wで発生させたCガスプラズマ中でフラーレンC60を昇華させ、基板上にフッ化フラーレン重合体薄膜を厚さ 100nmに製膜した。
【0046】
<例2>
ガスプラズマの放電パワーを20Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0047】
<例3>
ガスプラズマの放電パワーを40Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0048】
<例4>
ガスプラズマの放電パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0049】
<例5>
ガスプラズマの放電パワーを80Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0050】
<例6>
ガスプラズマの放電パワーを 100Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0051】
<例7>
CFガスプラズマを60Wの放電パワーで発生させた以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0052】
<例8>
ガスプラズマを60Wの放電パワーで発生させた以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0053】
<例9>
ArガスとFガスとの混合ガスをAr:F=1:1の分圧比で供給し、プラズマの発生パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0054】
<例10>
使用したフラーレンとして、重量比がC60:C70=5:5のC60/C70混合物を使用し、更にCガスプラズマの発生パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0055】
<例11>
使用したフラーレンをC70のみとし、更にCガスプラズマの発生パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0056】
<例12>
使用したフラーレンとして、重量比がC60:C76=5:5のC60/C76混合物を使用し、更にCガスプラズマの発生パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0057】
<例13>
使用したフラーレンとして、重量比がC60:C84=5:5のC60/C84混合物を使用し、更にCガスプラズマの発生パワーを60Wとした以外は例1と同様にして、フッ化フラーレン重合体薄膜を製膜した。
【0060】
<比較例1>
例1で述べた製造方法に代えて、プラズマを発生させないで10−3パスカルでの真空蒸着によりC60フラーレン薄膜(重合体ではない。)を製膜した。
【0061】
<比較例2>
ガスプラズマに代えて、60Wの放電パワーでArガスプラズマを発生させた以外は例1と同様にして、C60フラーレン重合体薄膜(フッ化なし)を製膜した。
【0062】
<比較例3>
ガスプラズマに代えて、60Wの放電パワーでHeガスプラズマを発生させた以外は例1と同様にして、C60フラーレン重合体薄膜(フッ化なし)を製膜した。
【0063】
上記した各例で製膜したフラーレン薄膜について、導電率、表面エネルギー及びひっかき強度測定を下記の要領でそれぞれ行った。結果を下記の表1及び表2に示す。
【0064】
導電率:
ガラス基板上に、電極の間隔dが1mm、電極長Lが11mmの金製櫛形電極を一対形成し、その基板上にフラーレン薄膜を重合させた。一対の電極間に定電圧で電流を流し、電流値(抵抗値)を測定し、下式より導電率を求めた。
σ=d/(R・L・e)
(σ:導電率
d:電極間隔
R:測定抵抗値
L:電極長
e:試料厚み)
【0065】
表面エネルギー:
ガラス基板上に製膜したフラーレン薄膜と水及びヨウ化メチレンとの接触角を測定し、表面エネルギーを算出した。
【0066】
摩擦係数:
10μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムに、斜方蒸着法によりCo−Ni系合金を被着させ、膜厚 100nmの強磁性金属薄膜を形成した後、長さ20cm、幅8mmに裁断した。摩擦係数は、この金属薄膜表面にプラズマ重合体膜を厚さ10nmで製膜したテープのステンレスガイドピンに対する値であって、シャトル回数 100回目の値を摩擦係数とした。
【0067】
ひっかき強度:
ガラス板上に製膜したフラーレン薄膜をピンセットで擦り、その傷を目視で判断し、◎、○、△、×の4段階で評価した(◎は傷なし、○は傷が若干あるが問題なし、△は傷がやや多い、×は膜剥がれが発生)。
【0068】
Figure 0003598511
【0069】
Figure 0003598511
【0070】
Figure 0003598511
【0071】
Figure 0003598511
【0072】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、フッ素系ガスプラズマで製膜したフッ化フラーレン重合体膜は、例1から6の結果において、比較例1のフラーレン蒸着膜(重合なし)や、比較例2及び比較例3のように不活性ガスプラズマで製膜したフラーレン重合体膜に比べて、表面エネルギーが大幅に低下している。これは、フッ素がフラーレン分子と付加反応を起こし、フッ化フラーレンを形成したためである。また、摩擦係数もフラーレンのフッ素付加により大きく低減している。特に、例4、5及び6のようにプラズマパワーの高い膜ではより優れた潤滑性を示した。
【0073】
導電率及びひっかき強度も、フラーレン分子の重合により、比較例1で示す蒸着膜に比べて大きく増加する傾向にある。但し、プラズマパワーを増大させると、上記したようにフッ素の付加が促進され、表面エネルギー又は摩擦係数を低下させる傾向にある(例1〜例6)が、フッ素付加によりフラーレン分子中に存在する二重結合が減少し、フラーレン重合度は却って低下するために、導電率やひっかき強度はやや減少の傾向にある。従って、表面エネルギー及び摩擦係数を低下させ、かつ優れた導電率及びひっかき強度を保つには、例3及び4のようにプラズマパワーを40Wから60W程度にするのが望ましい。
【0074】
また、例7及び8のようにフッ素系ガスの種類を変えても、或いは例9のようにフッ素系ガスとそれ以外のガスを混合して用いても、各性能は良好であり、何ら構わない。但し、混合系の場合には、単独ガスよりもフッ素化の効果は減少し易いので、フッ素系ガスの分圧又はプラズマパワーを増加させる等の方策を行うことが望ましい。
【0075】
また、例10〜13のように、昇華源としてC60にC70又はC76等の高次フラーレンを混合しても、或いは高次フラーレンを単独に使用しても、結果が良好となることが多いので、問題はない。但し、C60を単独に使用する場合に比べて、導電率や強度が低下する傾向にある。これは、C60に比べてC70又はC76等の高次フラーレンでは、フラーレン分子同士の重合が起こりにくくなることによるものであり、本発明者の実験により明らかにされている。従って、特性的にも工業的にも、C60を使用することが望ましい。
【0077】
上述したが、比較例1のような蒸着膜では、優れた導電性と強度を得ることができず、比較例2及び3のように不活性ガスプラズマ中で作成した重合体膜では優れた潤滑特性は得られない。
【0078】
以上のことから、本発明に基づいて、フッ素系ガスプラズマ中で製膜したフッ化フラーレン重合体膜、或いはフッ素ガスプラズマ処理したフッ化フラーレン重合体膜は、優れた導電性及び機械的強度を有し、かつ潤滑性も兼ね備えた薄膜が得られることが判った。
【0079】
以上、本発明の実施例を説明したが、上述した実施例は本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0080】
例えば、炭素源としてのフラーレンはC60又はC70に限ることはなく、他のフラーレンを使用できるほか、異なるフラーレンを2種又はそれ以上混合して重合させてもよく、また上述のプラズマ重合条件(プラズマ発生条件、昇華条件、使用ガス種、圧力、更には真空装置の構造等)は種々変更してよい。
【0081】
上述したプラズマ重合は、プラズマの均一性、安定性等を向上させるという見地から、キャリアガスを併用してもよい。キャリアガスとしては、プラズマ重合の際に一般に使用されているものがいずれも使用でき、アルゴン、窒素、ヘリウム等が例示される。
【0082】
放電条件は、直流放電ではガス圧力、電極間距離、電圧の関係を示すパッシェンの法則が成立する範囲、交流放電では放電可能範囲であれば重合に問題はない。ガス圧は、好ましくは20パスカル以下である。
【0084】
【発明の作用効果】
本発明は上述した如く、一般式A:Cnmで表される球状炭素類の少なくとも1種の重合体であって、一般式I:(Cnmxで表されるフッ化フラーレン重合体又はその膜をフッ素系ガスプラズマ中でのフラーレンの重合により製造しているので、フラーレン重合体又はその膜にフッ素を効果的に付加させると共に重合を十分に行え、優れた導電性及び機械的強度を有し、かつ良好な潤滑性も兼ね備えたフッ化フラーレン重合体又はその膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づいてフラーレンC60分子をプラズマ重合させて得られたフッ化フラーレン重合体のフラーレン分子のTime−of−Flight質量分析スペクトル図である。
【図2】同フッ化フラーレン重合体のTime−of−Flight質量スペクトル図である。
【図3】同フッ化フラーレン重合体膜の製造に用いるプラズマ重合装置の概略断面図である。
【図4】同フッ化フラーレン重合体膜を表面に有する磁気記録媒体の拡大断面図である。
【図5】同フッ化フラーレン重合体膜の原料としてのフラーレンを製造する装置の概略断面図である。
【図6】C60フラーレンの分子構造を示す概略図である。
【図7】C70フラーレンの分子構造を示す概略図である。
【図8】同フラーレン重合体を説明するためのC60分子の2量体(C120 )の構造を示す概略図である。
【図9】同フラーレン重合体を説明するためのC60分子の他の2量体(C118 )の構造を示す概略図である。
【図10】同フラーレン重合体を説明するためのC60分子の他の2量体(C116 )の構造を示す概略図である。
【図11】フッ化フラーレンの構造を示す概略図である。
【図12】同フッ化フラーレンの分子構造を示す概略図である。
【符号の説明】
1・・・反応器
10、11・・・プラズマ発生用電極
13・・・プラズマ電源
14・・・モリブデンボート(C60又はC70フラーレンを収容)
15・・・基板
16・・・昇華用電圧源
18・・・磁性層
19・・・フラーレン重合体膜

Claims (5)

  1. 一般式B:
    n
    (但し、この一般式Bにおいて、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数を示す 。)
    で表される球状炭素類の少なくとも1種を昇華させ、フッ素含有ガスのプラズマ中で重 合させて、
    一般式I:
    (Cnmx
    (但し、この一般式Iにおいて、nは前記したものと同じ、mは最大でnである整数 、xは整数を示す。)
    なる分子式で表されるフッ化フラーレン重合体を生成させる工程
    を有する、フッ化フラーレン重合体、フッ化フラーレン重合体膜又は記録媒体の製造方法。
  2. フッ素含有ガスのプラズマ中でフッ化フラーレン重合体を製膜する、請求項に記載した製造方法。
  3. nmなる分子式で表される球状炭素類の複数個が少なくとも1箇所において互いに付加し、それらの複数の球状炭素類が重合した構造を有するフッ化フラーレン重合体を生成させる、請求項に記載した製造方法。
  4. 表面膜としてのフッ化フラーレン重合体膜を得る、請求項に記載した製造方法。
  5. 表面保護膜、潤滑膜又は帯電防止膜としてのフッ化フラーレン重合体膜を得る、請求項に記載した製造方法。
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