JP3656973B2 - 炭素薄膜の製造方法及びその製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラーレン重合体(フラーレン分子の多量体)からなる炭素薄膜の製造方法、及びその製造装置に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
フラーレンは、C60(図27参照)やC70(図28参照)等からなる球状炭素分子の総称で、1985年に炭素のレーザーアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中に発見された(Kroto,H.W.; Heath,J.R.; O'Brien,S.C.; Curl,R.F.; Smalley,R.E. Nature 1985, 318,162. 参照)。
【0003】
ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の結晶炭素として球状炭素化合物であるフラーレンの存在が明らかにされ、マクロ量の合成法が確立されたのは1990年になってからである(Kratschmer,W.; Fostiropoulos,K.; Huffman,D.R. Chem.Phys.Lett. 1990, 170,167.及び Kratschmer,W.; Lamb,L.D.; Fostiropoulos,K.;Huffman,D.R. Nature 1990, 347,354.参照)。
【0004】
1990年に炭素電極のアーク放電法によるフラーレン(C60)の製造方法が発見されて以来、フラーレンは炭素系半導体材料等として注目されてきた。フラーレン分子は真空下或いは減圧下において容易に気化できることから、蒸着薄膜を形成し易い素材である。
【0005】
フラーレンは、炭素のみからなる一連の球状炭素化合物であり、炭素60個からなるC60及びそれ以上の偶数個の炭素からなるいわゆるHigher Fullerenes の総称であり、12個の5員環と20個又はそれ以上の6員環を含んでいる。即ち、60個、70個、76個、78個、80個、82個又は84個等(炭素原子数は幾何学的に球状構造を形成し得る数から選択される。)の炭素原子が球状に結合してクラスター(分子集合体)を構成してなる球状炭素Cn であって、それぞれ、C60、C70、C76、C78、C80、C82、C84等のように表される。
【0006】
例えばC60は、正二十面体の頂点をすべて切り落として正五角形を出した“切頭二十面体”と呼ばれる多面体構造を有し、図27に示すように、この多面体の60個の頂点をすべて炭素原子Cで置換したクラスターであり、公式サッカーボール型の分子構造を有する。同様に、図28に示すC70、またC76、C84等は、いわばラグビーボール型の分子構造を有する。
【0007】
こうしたフラーレンは、その用途等について種々研究が進められており、例えば、C60フラーレンにアルカリ金属をドープした物質が超電導性を示すことが確認されたことから、電子材料として応用が盛んに研究されている。
【0008】
但し、C60フラーレンからなる薄膜(フラーレン薄膜)は真空蒸着法で成膜可能であるが、こうした膜は、導電性がそれ程高くはなく、また機械的強度に優れないという欠点がある。
【0009】
また、フラーレンは炭素のみからなる化合物であり、しかも真空下の加熱により容易に気化させることが可能である。従って、この化合物の蒸着過程で、或いは蒸着膜の状態で、フラーレン分子同士が重合するに十分なエネルギーを与えることにより、フラーレンの重合体(又は多量体)を得ることができる。
【0010】
こうした炭素のみからなるフラーレン多量体は、上記したC60フラーレン膜の用途に加えて、更に異なる用途にも使用可能であり、例えば、炭素保護膜、炭素セパレータ膜、薄膜センサー、電池電極材料等への応用、或いはダイヤモンド膜等を得ることが可能である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
このような炭素薄膜を得るには、従来、炭化水素化合物のピロリシス(熱分解)による方法が一般的であり、こうした方法から得られる炭素膜は一般に不定形の炭素膜(アモルファスな炭素薄膜)であった。従って、炭素源である出発物質の物性を保持するような炭素薄膜の製造方法は存在しなかった。
【0012】
また、炭素源を用いた炭素薄膜の製造方法として、炭素スパッタ法も知られているが、この方法で得られる炭素薄膜の構造も不定形であり、しかもスパッタに際しては、炭素を蒸発させるための高エネルギーが必要であった。
【0013】
更に、最も大量に得ることのできるC60やC70等のフラーレン分子においては、分子内の双極子モーメントがゼロであることから、分子間の結合にはファン・デル・ワールス力しか働かず、真空蒸着法等により得られる蒸着薄膜は脆弱である。フラーレンを用いた薄膜電子デバイスを作成する上で、このような脆弱さは、デバイスの安定性等に対して問題となる。
【0014】
また、蒸着法によるフラーレン薄膜(フラーレン蒸着薄膜:以下、同様)は、フラーレン分子間に酸素分子が拡散進入することによって薄膜内に常磁性中心が発現し、この薄膜の安定性の点で問題があった。
【0015】
また、近年、フラーレンの2量体や3量体等のフラーレン重合体を作成する方法として、光誘起によるフラーレン重合体の作成方法が知られている〔(a) Rao,A.M.; Zhou,P.; Wang,K.-A.; Hager,G.T.; Holden,J.M.; Wang,Y.; Lee,W.-T.; Bi,X.-X.; Eklund,P.C.; Cornett,D.S.; Duncan,M.A.; Amster,I.J. Science 1993, 256,955. (b) Cornett,D.C.; Amster,I.J.; Duncan,M.A.; Rao,A.M.; Eklund,P.C. J.Phys.Chem.1993, 97,5036. (c) Li,J.; Ozawa,M.; Kino,N.; Yoshizawa,T.; Mituki,T.; Horiuchi,H.; Tachikawa,O.; Kishino,K.; Kitazawa,K. Chem.Phys.Lett.1994, 227,572. 参照〕。
【0016】
しかしながら、この方法では、予め作成したフラーレン蒸着薄膜に対して光照射を行ってフラーレン分子を重合させているので、フラーレン分子の重合に際して、前記フラーレン蒸着薄膜の体積収縮が起きるために、その表面に無数のひび割れ等が生じてしまい、強度や表面性等の点で問題があった。従って、光誘起によるフラーレン重合薄膜の作成方法では、大面積にわたって均一かつ表面性の優れた薄膜を作成することは極めて困難であった。
【0017】
更に、圧力や熱を加えフラーレン分子同士を衝突させることによってフラーレン重合体を作成できることが知られているが、フラーレン重合体の作成が限界であって、フラーレン重合体による薄膜(即ちフラーレン重合薄膜)の形成は困難である〔1.分子衝突法 (a)Yeretzian,C.; Hansen,K.; Diederich,F.; Whetten,R.L. Nature 1992, 359,44. (b)Whetten,R.L.; Yeretzian,C. Int.J.Mod.Phys,1992, B6,3801 (c)Hansen,K.; Yeretzian,C.; Whetten,R.L. Chem.Phys.Lett.1994, 218,462 (d)Seifelt,G.; Schmidt,R.; Int.J.Mod.Phys,1992, B6,3845. 2.イオンビーム法 (a)Seraphin,S.; Zhou,D.; Jiao,J. J.Mater.Res.1993, 8,1995. (b)Gaber,H.; Busmann,H.-G.; Hiss,R.; Hertel,I.V.; Romberg,H.; Fink,J.; Bruder,F.; Brenn,R. J.Phys.Chem,1993, 97,8244. 3.圧力法 (a)Duclos,S.J.; Brister,K.; Haddon,R.C.; Kortan,A.R.; Thiel,F.A. Nature 1991, 351,380. (b)Snoke,D.W.; Raptis,Y.S.; Syassen,K. 1 Phys.Rev.1992, B45,14419. (c)Yamazaki,H.; Yoshida,M.; Kakudate,Y.; Usuda,S.; Yokoi,H.; Fujiwara,S.; Aoki,K.; Ruoff,R.; Malhotra,R.; Lorents,D.J. J.Phys.Chem. 1993, 97,11161. (d)Rao,C.N.R.; Govindaraj,A.; Aiyer,H.N.; Seshadri,R. J.Phys.Chem. 1995,99,16814.参照〕。
【0018】
本発明の目的は、大面積にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、強度や電気伝導性等の物性に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる薄膜)の製造方法、及びその実施の際に使用できる製造装置を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、マイクロ波誘起を用いた重合法によって、大面積にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、強度や電気伝導性等の物性に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる炭素薄膜)を製造することができることを見出した。ここで、この方法で得られる炭素薄膜は、主として、原料となるフラーレン分子の電子励起状態を経て重合した炭素薄膜(特にフラーレン重合薄膜:以下、同様)である。
【0020】
即ち、本発明は、Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子を、マイクロ波誘起によって重合してフラーレン重合体を形成し、このフラーレン重合体を基体上に堆積することによって、前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成するに際し、
前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流 路を配し、この流路を前記基体の配された成膜空間に開口させ、前記フラーレン重合体 を前記マイクロ波の作用位置から離れて配置された前記基体上に導くようにした、
炭素薄膜の製造方法(以下、本発明の製造方法と称する。)に係るものである。
【0021】
本発明の製造方法によれば、Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。例えば、C60やC70等)で表されるフラーレン分子を、マイクロ波誘起によって重合してフラーレン重合体(フラーレン多量体)を形成し、このフラーレン重合体を基体(例えば、半導体基板としてのシリコン等)上に堆積させることによって、主として前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成するので、大面積(広面積)にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、特にマイクロ波誘起によって強度や電気伝導性等の物性に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる薄膜)を製造することができる。
【0022】
ここで、上記Cn (但し、nは上述したものと同様である。)で表されるフラーレン分子(原料フラーレン:以下、同様)は、例えばC60又はC70のみからなるものであってもよいし、C60及びC70の混合物からなるものであってもよい(以下、同様)。
【0023】
また、上記マイクロ波とは発振周波数が300GHz〜300MHz(法定周波数:2450±30MHz)の極超短波であり、このマイクロ波によって前記フラーレン分子(原料フラーレン)が誘起(励起、プラズマ化)されて重合してフラーレン重合体(2量体、3量体等の多量体)を形成する。
【0024】
また、本発明は、Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子の供給源と、この供給源から供給される前記フラーレン分子にマイクロ波を作用させるマイクロ波作用部と、このマイクロ波による誘起によって生成するフラーレン重合体を基体上に堆積させて前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成する成膜部とを有する、炭素薄膜の製造装置であって、
前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流 路が配され、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口され、前記フラーレン重合 体が前記マイクロ波作用部から離れて配置された前記基体上に導かれる、
炭素薄膜の製造装置(以下、本発明の製造装置と称する。)に係るものである。
【0025】
本発明の製造装置によれば、Cn (但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。例えば、C60やC70等)で表されるフラーレン分子の供給源(例えば原料フラーレンが配された容器)と、この供給源から供給される前記フラーレン分子にマイクロ波を作用させるマイクロ波作用部と、このマイクロ波による誘起によって生成するフラーレン重合体(フラーレン多量体)を基体(例えば、半導体基板としてのシリコン基板等)上に堆積させ、主として前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成する成膜部(特に、前記マイクロ波作用部の径よりも大径となされた反応室)とを有しているので、前記マイクロ波作用部にて、前記フラーレン分子を効率よく、かつ高密度に励起、重合化し、更に、重合したフラーレン分子(フラーレン重合体)を前記基体上に効率よく堆積させることができるので、大面積にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、特にマイクロ波を用いているので、強度や電気伝導性等の物性に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる薄膜)を製造することができる。
【0026】
但し、本発明の製造方法及び本発明の製造装置において、前記炭素薄膜はフラーレン重合薄膜からなる膜であって、このフラーレン重合薄膜とは、主にフラーレン重合体を主成分とする薄膜であるが、前記フラーレン重合体がアモルファス構造やダイヤモンド構造をとることもある。このダイヤモンド構造の薄膜は、キャリアガスと共に水素ガスを導入することによって得られ、更に前記基体がダイヤモンドである場合に形成され易い。
【0027】
また、本発明の製造方法及び製造装置によれば、マイクロ波によってフラーレン分子(原料フラーレン)を誘起(励起、プラズマ化)するので、フラーレンの構造を著しく破壊することなく、大面積にわたって均一かつ表面性に優れたフラーレン重合薄膜を成膜することができる。更に、このようにして得られたフラーレン重合薄膜においては、摩擦に対して破壊を受けにくい高強度かつ柔軟性に優れた物性を達成することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法において、前記フラーレン分子(原料フラーレン)を飛翔させ、このフラーレン分子をキャリアガスに連行させ、所定位置にてマイクロ波の作用によって誘起、プラズマ重合化して前記フラーレン重合体とし、フラーレン重合体を主成分とする炭素薄膜、アモルファスな炭素薄膜、或いはダイヤモンド構造の炭素薄膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)として前記基体上に堆積させることができる。
【0029】
即ち、本発明の製造装置においては、前記フラーレン分子(原料フラーレン)が前記供給源から飛翔され、このフラーレン分子がキャリアガス(例えばアルゴンガス、ヘリウムガス等)に連行され、この連行経路中の所定位置に設けられたマイクロ波の作用部でのマイクロ波の照射によって誘起、プラズマ重合化されて前記フラーレン重合体とされ、フラーレン重合体を主成分とする炭素薄膜、アモルファスな炭素薄膜、或いは、前記キャリアガスが水素を含む場合にはダイヤモンド構造の炭素薄膜(特に前記マイクロ波のパワーが大きい場合や前記基体の温度が高い場合)とされて、前記基体(例えばシリコン基板等)上に堆積される、炭素薄膜の製造装置を構成することができる。
【0030】
また、本発明の製造方法において、前記フラーレン重合体を前記所定位置から離れて配置された前記基体上に導くこと、前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行する前記キャリアガスの流路を配し、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口されていること、前記成膜空間を前記流路の径よりも大きくすることが好ましい。
【0031】
即ち、本発明の製造装置においては、前記フラーレン重合体が前記マイクロ波作用部から離れて配置された前記基体上に導かれる構成、前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行する前記キャリアガスの流路が配され、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口されている構成、前記成膜空間が前記流路の径よりも大きく形成されている構成とすることができる。
【0032】
まず、前記フラーレン重合体を前記所定位置(マイクロ波作用部)から離れて配置された前記基体上に導くことによって、前記フラーレン分子を十分に励起、重合化した後に所定の速度をもって、前記基体上に堆積させることができる。
【0033】
また、前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行する前記キャリアガスの流路を配し、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口されていることによって、前記フラーレン分子を十分に励起、重合化することができると共に、前記キャリアガスを十分に励起することができ、更に、効率よく、これらの物質を前記成膜空間に導くことができる。
【0034】
更に、前記成膜空間(反応室)を前記流路の径よりも大きくすることによって、大面積(広面積)の基体を前記成膜空間に配することができ、このような大面積の基体であっても、前記基体の表面に均一かつ表面性良く前記フラーレン重合体を堆積させることができる。
【0035】
また、本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記マイクロ波のパワーを1000W以下とすることができる。これは更に、300〜400Wとすることが好ましい。
【0036】
勿論、原料フラーレンの種類や量、反応装置のサイズ等によって異なるが、マイクロ波のパワー(強度)は、通常1kW程度までであり数百W程度で十分である。特に300〜400Wとすると、フラーレン分子を十分に重合し、電気伝導度(導電性)に優れたフラーレン重合薄膜とすることができる。マイクロ波のパワーが300Wより小さくなると、フラーレン重合薄膜の導電性が低下することがある。これは、フラーレン分子同士の重合が十分でないまま、基体上に堆積されることによるものと考えられる。
【0037】
また、本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記フラーレン分子をC60及び/又はC70からなるフラーレン分子とすることが好ましい。
【0038】
本発明においては、原料フラーレンとして、特にC60(分子構造は図27を参照)の単体を用いることが好ましいが、C70(分子構造は図28を参照)の単体、或いは、C60及びC70の混合物を使用することもできる。C60の単体を原料とした場合、作成された薄膜の導電性が高く、これは、C60分子が重合反応を起こしやすいことに起因すると考えられる。
【0039】
また、C60やC70の分子間のクロスリンク構造(多量体の構造)については詳しくは後述するが、一般に、炭素電極の直流アーク放電で得られるススからトルエン、ベンゼン、二硫化炭素等の有機溶媒で抽出されたフラーレン分子は、C60やC70の他にも、C76、C78、C80、C82、C84等のいわゆる高次フラーレンと呼ばれる球状炭素分子を少量含んでいる。本発明における原料フラーレンとしてはC60やC70の単体、或いはこれらの混合物に限定されるものではなく、前記高次フラーレンを含んでいても、或いは前記高次フラーレンからなるもののみであってもよい。
【0040】
また、本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記キャリアガスをヘリウム、アルゴン、キセノン、ラドン及び水素からなる群より選ばれた少なくとも一種のガスとすることができる。
【0041】
前記キャリアガスとしては高純度アルゴンガスを用いることが好ましいが、上記のような不活性ガス(単原子分子ガス)を使用しても構わない。このキャリアガスは、フラーレン分子を連行させ基体上に導くと共に、フラーレン分子の供給前にこのキャリアガスを流せば、前記キャリアガスがマイクロ波によって誘起(励起、プラズマ化)されて基体の表面をエッチング(ボンバード)して、その表面性を向上させ、前記炭素薄膜の接着性(密着性)を向上させることができる。
【0042】
また、フラーレン分子と共に流通するキャリアガス(例えばアルゴンガス)は、前記フラーレン分子が重合化されると同時に、励起(プラズマ化)され、基体上に堆積していくフラーレン重合薄膜の重合性を向上させる作用、前記フラーレン重合薄膜の表面性を向上させる作用も有すると考えられる。また、このキャリアガスに水素が含まれる場合、前記フラーレン重合薄膜(炭素薄膜)はダイヤモンド構造を有する薄膜になることがある。
【0043】
また、本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記基体に負極性のバイアス、或いは正極性のバイアスをかけることが好ましい。
【0044】
前記基体に、例えば、直接或いは間接的に直流電場バイアスをかけることにより、より緻密で高強度の重合膜を得ることが十分に可能であり、基体にかける(印加する)電荷は正負のどちらでもよいが、負電荷をかけて(即ち、負極性のバイアスをかけて)反応室中のプラスイオンを堆積する場合の方が成膜速度の点で効果的である。
【0045】
また、前記基体を帯電させる(即ち、直流電場バイアスをかける)と、作成された薄膜の電気伝導度が増すと共に、ダングリングボンド(ダングリングスピン)の数が減少して前記薄膜の表面エネルギーが小さくなり、表面性を適切に制御することができる。
【0046】
また、本発明の製造方法においては、前記フラーレン重合体を堆積させる前に、予め前記キャリアガスをプラズマ化して基体をエッチングすることが好ましい。
【0047】
上述したように、原料フラーレンを流通させる前に、予め前記キャリアガス(例えばアルゴンガス)をプラズマ化して基体をエッチング(ボンバード)すると、基体の表面性を向上させると共に、炭素薄膜の接着性(密着性)を向上させることができる。本発明の製造方法においては、原料フラーレンを流通させる動作(即ち、原料フラーレンが配されている容器の加熱等)を行わなければ、基体のエッチングを行うことができ、基体の表面性を向上させることができる。また、適宜、原料フラーレンを流通させる動作と、前記キャリアガスのみを流通させる動作とを交互に行ってもよい。
【0048】
本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記基体をシリコン、ガラス、透明電極(例えばITOなど)、金、白金及びアルミニウムからなる群より選ばれた基体とすることができる。
【0049】
本発明に基づいて形成される炭素薄膜は、シリコンやガラス等の単体基体、ITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極基体、シリコンやガラス等の基体上に蒸着やスパッタリング等によって形成される金、白金、アルミニウム等の金属基体等上に成膜することができる。或いは、マスクを用いて金、白金、アルミニウム等を櫛形に蒸着或いはスパッタリングした、いわゆる櫛形電極上に成膜することもできる。更に、ガラスやシリコン基体等に成膜した金属電極、或いはITOのような透明電極上にフラーレン重合体を一定或いは任意の厚さに成膜後、作製されたフラーレン重合薄膜上にマスクを配し、更に金、白金、アルミニウム等の金属、或いはITO等の透明電極を蒸着或いはスパッタリングによって成膜することにより形成された、即ち、電極で挟まれたサンドイッチ状構造物を作製することも可能である。
【0050】
また、本発明の製造方法及び本発明の製造装置においては、前記基体の温度を調節することによって、前記炭素薄膜のダングリングスピン(ダングリングボンド)の量(数)を調節することができる。
【0051】
前記ダングリングスピン(ダングリングボンド)は、前記炭素薄膜の導電性やバンド構造、或いは物性そのものの経時的安定性等に大きく影響を与えると考えられており、このダングリングスピンの量は、上述のように、フラーレン重合薄膜を成膜する基体の温度を調節することにより、ある程度減少させることができる。
【0052】
また、前記ダングリングスピンの量は、フラーレン重合薄膜の成膜後、水素のプラズマ等の雰囲気下にさらすことによって(即ち、水素雰囲気中でマイクロ波処理することによって)減少させることも可能であり、更に、フラーレン重合薄膜の成膜後、この薄膜を熱処理することにより減少させることも可能である。ダングリングスピンの量が減少すると、電気伝導性が向上することになり、また、表面性(表面の摩擦力や表面エネルギー)を向上させることになると考えられている。
【0053】
ここで、本発明に基づく炭素薄膜(フラーレン重合薄膜)の表面には、フラーレン分子の構造が部分的に残り、π電子軌道が表面に多数存在することから、二重結合性の結合が多く存在していることが本発明者により解明された。即ち、表面に存在する二重結合性の結合によって、付加反応等が生じ易く、表面状態の改質が望まれる場合がある。この炭素薄膜の表面は、様々な手法で表面修飾が可能である。
【0054】
例えば、フラーレン重合薄膜の成膜後、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、トルエン、ベンゼン、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール等の炭化水素の存在下、或いは、酸素、水素、塩素、フッ素等のガスの雰囲気下、或いは含ハロゲン炭化水素ガスの雰囲気下に、マイクロ波誘起、直流或いは交流プラズマ法等の手法を用いて、前記薄膜の表面修飾が可能である。また、成膜されたフラーレン重合薄膜を、溶液中での反応、即ち、金属錯体(キレート)反応や有機ラジカル反応等によって表面処理を施すことも可能である。
【0055】
このような表面処理を施すこと(表面修飾)は、前記薄膜を薄膜センサーや半導体基体として用いる際に、目的とする基質に対する特異性を持たせる上で特に有用である。
【0056】
以下、本発明に基づく炭素薄膜の製造の実施の際に使用可能な製造装置(本発明の製造装置の一例)を図1を参照しながら説明する。
【0057】
図1に示す製造装置は、マイクロ波誘起によるフラーレン重合薄膜の製造装置であり、例えばC60やC70等の原料フラーレンの供給源として前記フラーレン分子が配される容器(例えばモリブデンボート)8と、この容器(供給源)8から供給(飛翔)されるフラーレン分子13にマイクロ波15を作用させるマイクロ波作用部17と、マイクロ波15による誘起(励起、プラズマ化)によって生成するフラーレン重合体(フラーレン多量体)14を基体11上に堆積させてフラーレン重合体14からなる炭素薄膜を形成する反応室(成膜部)10とからなるものである。
【0058】
また、前記フラーレン分子が配される容器8が配される位置の近接には、キャリアガス(例えばアルゴンガス)が導入されるキャリアガス導入管7が設けられている。ここから導入されるキャリアガス12は、フラーレン分子13を連行させ基体上に導くといった原料フラーレンのキャリア能を有すると共に、フラーレン分子13の供給前にこのキャリアガス12を流せば、キャリアガスがマイクロ波作用部にて励起(プラズマ化)され、励起したキャリアガス12’が基体11の表面をエッチング(ボンバード)することによって、基体11の表面性を向上させて前記炭素薄膜の接着性(密着性)を向上させることができる。
【0059】
また、マイクロ波作用部17にマイクロ波を発生させるマイクロ波発生装置(マイクロ波ユニット)は、マグネトロン等の発振源からなるマイクロ波発振源1と、マイクロ波の整流能を有するアイソレータ2と、マイクロ波のパワーの検出能を有するパワーメータ3と、マイクロ波の発振数を調節しマイクロ波の整合能を有するスリースタブチューナー4と、マイクロ波を反射すると共に波長を整合することによってマイクロ波作用部でのマイクロ波を定常波とすることができる反射キャビティ5とが導波管6によって接続されている構造を有する。
【0060】
更に、フラーレン重合体14が堆積し炭素薄膜(フラーレン重合薄膜)を形成する反応室(成膜部、反応チャンバー)10は、キャリアガス12及びフラーレン分子13の流路である共振管9の径よりも大径に構成することができ、共振管9のマイクロ波作用部17にて効率よくかつ高密度に誘起(励起)されるフラーレン重合体を、図示しない支持体に設けられた基体(特にシリコン基板)11上に、効率よく、かつ均一に導き、堆積させることができる。また、反応室10には真空系(真空排気系)16が設けられており、反応室10内が所定の圧力になされている。
【0061】
ここで、前記支持体は導電物からなるものであっても、絶縁物からなるものであってもよく、また、前記支持体を加熱(例えば導電)させるための加熱手段(導電手段)が配されていてもよい。
【0062】
このような製造装置を用いた実際の炭素薄膜形成のプロセスでは、例えば、反応室10の内部をアルゴン雰囲気中0.05〜1Torr程度に保ち、容器(モリブデンボート)8を抵抗加熱手段により容器8に配されているフラーレンを気化、飛翔させ、マイクロ波作用部17にて13.56MHz程度の高周波プラズマをフラーレン分子に照射することによってフラーレン分子を重合化しフラーレン重合体を形成し、基体11上に導くことができる。
【0063】
基体11は加熱してもよいが、基体温度300℃以下でフラーレン重合体薄膜を形成することができる。基体温度が300℃を超えると前記薄膜の付着量が低下することがある(しかし、上記のバイアスをかけると付着し易くなる)。このようなマイクロ波励起による(即ち非平衡プラズマによる)薄膜形成の際の基体温度は特にコントロールしなくても、例えば100Wのマイクロ波のパワーでは100℃を超えることはほとんどない。逆に、前記基体をマイクロ波の作用部に置くと1000℃付近まで昇温することがある。
【0064】
このような本発明に基づく製造方法及び本発明の製造装置の利点は、フラーレン分子(原料フラーレン)の気化前に基体表面をプラズマ化したキャリアガス(例えばアルゴンガス)で基体表面をエッチング(ボンバード)することができるので、基体の表面性を向上させ、基体と薄膜との接合面で薄膜の密着性を良好にすることができること、また、フラーレン分子をマイクロ波作用部にて十分に重合させて大面積の基体上に導くことができるので、広範囲に均一かつ表面性の良い薄膜を形成できること、更に、マイクロ波のパワー(プラズマパワー)が任意にコントロールできること等が挙げられる。
【0065】
また、アルゴン等の単原子分子はマイクロ波誘起によってプラズマ中で寿命の長い準安定励起状態となり、この分子の緩和過程でフラーレン分子が励起されることから、フラーレン分子の重合効率が良いという利点もある。
【0066】
更に、フラーレン分子を十分に重合した後に基体上へ導き、前記基体上にフラーレン重合体を堆積することができるので、例えば、フラーレン蒸着薄膜上に光を照射して重合体を形成するといった、上述の光誘起によるフラーレン重合体からなる薄膜の作成の際に見られる体積収縮(体積歪み)による無数のひび割れ(クラックの発生)等が生じることがない。
【0067】
ここで、上記キャリアガス12としては高純度アルゴンを用いるが、不活性ガスであるヘリウム、キセノン、ラドン等を用いることも可能である。また、原料となるフラーレンは、モリブデンボートのような発熱体の中に充填し、通電加熱等の手段により飛翔させ、マイクロ波作用部17及び反応室10に導かれる。
【0068】
また、反応室10及び共振管9の部位に電磁石等で電場を作り、内部を流通するフラーレン分子、フラーレン重合体、キャリアガス等をプラズマ状態にすることで、いわゆるマイクロ波プラズマ重合体を得ることができる。
【0069】
更に、基体11に、直接或いは間接的に直流電場バイアスをかけることにより、より緻密で高強度の重合膜を得ることが十分に可能である。上述したように基体にかける(印加する)電荷は正負のどちらでもよいが、負電荷をかけて(即ち、負極性のバイアスをかけて)反応室中のプラスイオンを堆積する場合の方が成膜速度の点で効果的である。
【0070】
また、このようなマイクロ波誘起による炭素薄膜の製造装置を用い、一般に試験用に用いられているマイクロ波の帯域、2450±30MHz(300GHz〜300MHz)での連続発振によりフラーレン分子を重合させることによって、フラーレン重合体を形成し、基体上にフラーレン重合薄膜を成膜することができる。ここで、マイクロ波の強度(パワー)は1kW程度までであり、通常数百W(特に300〜400W)程度で十分である。詳しくは後述するが、このパワーが小さすぎると、フラーレン分子の重合化が不十分になることがあり、作製された薄膜の導電性が弱くなることがある。
【0071】
このようにして得られるマイクロ波誘起によるフラーレン重合薄膜は、真空蒸着法等によるフラーレン蒸着薄膜に比べて、その強度が格段に増加しており、また、緻密な構造を有すると共に、柔軟性に富んだ薄膜となる。
【0072】
更に、フラーレン蒸着薄膜では、フラーレン分子間の隙間に酸素分子や水分子等が拡散進入して、前記薄膜の物性に大きな影響を与えることがあるが、本発明に基づくマイクロ波誘起によるフラーレン重合薄膜では、真空中及び大気中での電子物性(電気伝導性やバンドギャップ等)がほとんど変化しないことから、薄膜が緻密であり、酸素分子等が薄膜の内部に拡散進入することなく、高密度かつ高純度の炭素薄膜が構成されていると考えられる。
【0073】
また、詳しくは後述するが、図2に示すように、実際にこのような方法で得られるフラーレン重合薄膜のレーザーアブレーション法に基づく飛行時間型質量分析(Time-of-Flight Mass Spectroscopy)を行うと、フラーレンの多量体が生成していることが確認される。また、フラーレン重合薄膜の電子物性は、その重合形態(表面性含む)に大きく依存しているものと思われる。このTOF−MSスペクトルは、フラーレン単体が光重合を起こさない程度の弱いレーザーパワー下で測定されたものであり、明らかに重合体の存在を確認できる。しかしながら、重合体薄膜を直接レーザーアブレーションして測定していることから、実際のポリマーの分子量分布を正しく反映したものではない。
【0074】
更に、本発明に基づく炭素薄膜(フラーレン重合薄膜)の製造に使用できる図1に示した製造装置において、基体11はマイクロ波作用部17の近接、若しくはマイクロ波作用部17のマイクロ波が作用する位置に配されていてもよい。この際、基体11の支持基板が絶縁物であれば、基体11及び基体11上に形成される前記薄膜にマイクロ波が直接作用して、前記薄膜の膜質を改質し、その物性を適宜調節することができるし、また、基体11の支持基板が導電物であれば、基体11及び基体11上に形成される前記薄膜は誘導加熱されることになる。
【0075】
また、前記の製造装置において、基体11及び基体11の支持基板(支持体)は固定式であってもよいし、基体11を搬送しながら順次炭素薄膜を形成するように構成してもよい。このように構成することで、大面積の基体に連続的に前記薄膜を成膜でき、さらに、複数の基体を連続的に成膜することもできる。また、基体11(及びその支持体)を共振管の径よりも小さくして、図示の位置とマイクロ波作用部17の位置との間で上下に移動可能となるように構成することもできる。この場合、基体11に対する前記マイクロ波のパワーを適宜調節できると共に、前記薄膜の成膜速度や膜質などを変化させることができ、例えばマイクロ波作用部17内では基体の温度上昇によってダイヤモンド状のカーボン(ダイヤモンドライクカーボン)膜を成膜できる。
【0076】
次に、本発明に基づいてフラーレン分子が重合(多量体化)するメカニズムを図3〜図26及び図29を参照しながら詳細に説明する。
【0077】
まず、本発明の製造方法におけるC60の重合プロセス、更に、C60分子間のクロスリンク構造について述べる。
【0078】
C60のシクロペンタトリエン部の1,2位、1,4位、及び1,2+1,4位のクロスリンク結合で形成される4種の2量体のエネルギー計算結果(省略)は、図3(C120 (a))に示すような〔2+2〕環状付加反応で形成される1,2−(C60)2 が安定構造であることを示唆している。この構造では、シクロブタン環の歪みが大きいものの、クロスリンク結合部位以外では本来のC60の結合交替が保存される。
【0079】
また、フラーレン重合体を溶解する溶媒が存在しないことから、重合体の実際の分子量分布を直接評価することは困難である。レーザーデソープションイオン化飛行時間型質量分析法〔Laser Desorption Ionization Time-of-Flight Mass Spectroscopy(以下、LDITOF−MSと称する。)〕による質量評価も、適当な溶媒が無いこと、C60とマトリックス分子との反応によりマトリックスアシスト法で行えないこと等の理由により、実際の重合体の質量分布を正確に評価することは困難である。
【0080】
しかし、重合構造に関しては、C60が重合を起こさない程度のレーザーパワーのアブレーションで観測したLDITOF−MSの多量体のピーク位置や2量体のプロフィールから知見を得ることができる。例えば、プラズマパワー50Wで得られたC60重合膜のLDITOF−MSは、C60分子間の重合が4個の炭素のロスを伴う過程が最も確率的に高いことを示した。また、2量体の質量領域においてC120 はマイナープロダクトであり、最も高い確率で生成するのはC116 である。これは、半経験的レベルのC120 の2量体の計算に基づいて、このC116 は図8(C116 )に示すようなD2h対称C116 であると考えられる。
【0081】
C116 はC58の再結合で得られるが、C60のイオン化状態を含む高い電子励起状態からC2 の脱離によりC58が生成することが報告されている[(a)Fieber-Erdmann, M. et al, Z.Phys. D 1993, 26, 308. (b)Petrie, S. et al, Nature 1993, 356, 426. (c)Eckhoff, W. C. ; Scuseria, G. E., Chem. Phys. Lett. 1993, 216, 399. 参照] 。
【0082】
この開殻C58分子が5員環2個が隣接する構造へ転移する以前に2分子で結合すれば、図8のC116 が得られる。しかし、本発明者は、C60のプラズマ重合の初期過程はあくまでも励起3重項メカニズムによる〔2+2〕環状付加反応であると考えている。また、最も高い確率で生成するC116 は、C60の電子励起3重項状態から〔2+2〕環状付加反応により生成した(C60)2 のシクロブタンを形成する4個のSP3 炭素原子の脱離と、2個のC58開殻分子の再結合によると考えられる。
【0083】
例えば、TOF−MS(飛行時間型質量分析:以下、同様)のイオン化ターゲット上のC60微結晶に強いパルスレーザー光を照射した場合、上記マイクロ波誘起による重合と同様に、フラーレンの電子励起状態を経る重合が起きるが、C60光重合体のピークと共にC58、C56等のイオンも観測される。しかし、C58 2+或いはC2 + 等のフラグメントイオンは観測されないことから、上記Fieber-Erdmannらの文献に述べられているようなC60 3+から直接C58 2+とC2 + へのフラグメンテーションはこの場合には考えられない。
【0084】
また、C2 F4 ガスプラズマ中でC60を気化させ成膜した場合、そのLDITOF−MSにはC60のF或いはC2 F4 のフラグメクトイオンの付加体のみが観測され、C60重合体は観測されない。
【0085】
このようにC60重合体の観測されないLDITOF−MSには、C58、C56等のイオンも観測されないという特徴がある。これらの観測結果もまた、C2 のロスがC60重合体を経てから起きることを支持している。
【0086】
上述したように、本発明の製造方法による重合体生成プロセスでは、フラーレン分子間の重合に際してC2 ユニットの損失が観測されるが、重合体形成に際するC2 のロスが〔2+2〕環状付加反応による1,2−(C60)2 (図3)から直接起きるかどうかという事が問題となる。ここで、Murry らは1,2−(C60)2 の構造緩和のプロセスを提唱している[(a)Murry, R. L. et al, Nature 1993, 366, 665. (b)stout, D. L. et al, Chem. Phys. Lett. 1993, 214, 576. Osawa, E. 参照] 。
【0087】
両者とも図3で示す1,2−(C60)2 の構造緩和の初期過程は、クロスリンク部位の最も歪みの大きい1,2−C−C結合の開裂した図4のC120 (b)の構造を経て、Stone-Wales 転移(Stone, A. J. ; Wales, D. J. Chem. Phys. Lett. 1986, 128, 501. (b)Saito, R. Chem. Phys. Lett. 1992, 195, 537.参照)によるはしご型のクロスリンクを有するC120 (c)(図5参照)からC120 (d)(図6参照)の生成であるとしている。1,2−(C60)2 (図3)からC120 (b)(図4)へはエネルギー的に不安定化するが、さらにC120 (c)(図5)からC120 (d)(図6)と転移するに連れて再度安定化する。
【0088】
マイクロ波誘起によるC60の重合において観測されるnC2 のロスが、その初期過程から得られる1,2−(C60)2 から直接起きるのか、或いは、これがある程度構造緩和した後で起きるのか明確な知見は得られていないが、観測されるC118 は図6のC120 (d)からのC2 の脱離とダングリングの再結合による図7の様な構造と考えられる。
【0089】
また、図7のC118 の梯子型クロスリンクの2個の炭素の脱離とダングリングの再結合で、図8に示したC116 が得られる。2量体のTOF−MSに奇数個のクラスターがほとんど観測されないことや構造の安定さから、1,2−(C60)2 (図3)から直接C2 のロスが起きるよりも、図6のC120 (d)を経て起きると考えた方が理にかなっているように思われる。
【0090】
また、大澤らはC120 (a)(図3)からの多段階のStone-Wales 転移による構造緩和から、D5d対称C120 構造が得られることを示している。このC120 の構造はC70分子のグラファイト構造がC120 まで延びたもので、C60重合体からナノチューブが得られることを示唆する点で興味深い。しかし、プラズマ照射による重合体形成に際しては、C60重合体のTOF−MSを見るかぎり、このような多段階の転移反応による構造緩和よりもC2 のロスを伴う構造緩和の過程が優先すると考えられる。
【0091】
一般に、π軌道とσ軌道が直交する平面共役化合物では励起一重項 1(π−π* )と励起三重項 3(π−π* )間のスピン遷移は禁制であり、振電相互作用によりσ軌道が混合する場合に許容となる。C60の場合にはπ共役系の非平面性によりπ軌道とσ軌道とがミキシングすることから 1(π−π* )− 3(π−π* )間のスピン−軌道相互作用による項間交叉が可能となり、前記三重項状態からのC60の高い光化学反応性がもたらされる。
【0092】
また、C60分子の切頭20面体という高い対称性は電子励起状態間や振動順位間の遷移に厳しい禁制則をもたらす反面、平面分子では禁制であるスピン多重度の異なる(π−π* )性の状態間の遷移を許容とする点がフラーレン、特にC60の電子励起状態の挙動の特徴である。
【0093】
本発明の製造方法は、C70分子の重合にも応用可能である。C70分子間の重合プロセスを理解することは、C60の場合より複雑である。ここで便宜的に用いるC70の炭素原子のナンバリングを図29に示す。
【0094】
C70の105本のC−C結合は、図29に示すナンバリングシステムを用いるとC(1)−C(2)、C(2)−C(4)、C(4)−C(5)、C(5)−C(6)、C(5)−C(10)、C(9)−C(10)、C(10)−C(11)、C(11)−C(12)で代表される8種類のC−C結合に分類され、このうちC(2)−C(4)、C(5)−C(6)はC60のC=C結合と同程度の二重結合性を有している。
【0095】
更に、この分子のC(9)、C(10)、C(14)、C(15)を含む6員環のπ電子は非極在化し、5員環を形成するC(9)−C(10)結合が二重結合性を帯びると同時に、C(11)−C(12)結合が単結合性となる。
【0096】
次に、C70の重合プロセスを、二重結合性のC(2)−C(4)、C(5)−C(6)、C(9)−C(10)、C(10)−C(11)について考える。C(11)−C(12)結合はほぼ単結合であるが、2つの6員環にわたる結合(6,6−ring fusion )であるので、この結合の付加反応性についても吟味する。
【0097】
まず、C70の〔2+2〕環状付加反応を考える。この5種類のC−C結合〔C(2)−C(4)、C(5)−C(6)、C(9)−C(10)、C(10)−C(11)及びC(11)−C(12)〕の〔2+2〕環状付加反応からは25種類のC70の2量体が得られるが、計算の便宜のために同じC−C結合間の9種の付加反応のみを考える。
【0098】
下記の表1にMNDO/AM−1及びPM−3レベルの2分子のC70からC140 の生成過程の反応熱(ΔHf O (r) )を示す。表中、C140 (a)(図9)と(b)(図10)、C140 (c)(図11)と(d)(図12)、C140 (e)(図13)とC140 (f)(図14)及びC140 (g)(図15)とC140 (h)(図16)はそれぞれC(2)−C(4)、C(5)−C(6)、C(9)−C(10)、C(10)−C(11)結合のanti-syn異性体のペアである。C(11)−C(12)結合間の付加反応ではD2h対称のC140 (i)(図17)のみが得られる。これらの構造は図9〜図17に示した。
【0099】
【0100】
ここで、ΔHf 0(r)AM−1及びΔHf 0(r)PM−3とは、J. J. P. Stewartによる半経験的分子軌道法であるMNDO法のパラメタリゼーションを用いる場合の反応熱の計算値である。
【0101】
また、クロスリンクのナンバーリングシステムは図29に示し、これはC70のナンバリングに準ずるものである。なお、「’」印は同じナンバリングを有する隣のC70のものである。更に、結合長とは、前述のMNDO/AM−1法に基づく反応熱の計算値から予測された前記クロスリンクを構成するシクロブタン環のC−C原子間の結合距離である。
【0102】
表1から、anti-syn異性体間のエネルギー差は認められない。また、C(2)−C(4)及びC(5)−C(6)結合間の付加反応は、C60の付加反応と同程度に発熱的であり、逆にC(11)−C(12)結合間の付加反応は大きく吸熱的である。
【0103】
ところで、C(1)−C(2)結合は明らかに単結合であるが、この結合間の環状付加反応の反応熱はAM−1及びPM−3レベルでそれぞれ+0.19及び−1.88kcal/molとなり、表1のC140 (g)とC140 (h)の反応熱とほぼ等しい。このことは、C(10)−C(11)結合間の付加反応も熱力学的に起き得ないことを示唆している。従って、C70分子間の付加重合反応はC(2)−C(4)及びC(5)−C(6)結合で優先的に起き、C(9)−C(10)結合間の重合は起きたとしてもその確率は低いものと考えられる。
【0104】
なお、単結合性であるC(11)−C(12)結合間の反応熱がC(1)−C(2)結合間の反応熱より大きく発熱的になるのは、C140 (i)のシクロブタン構造、とりわけC(11)−C(12)結合の歪みが極めて大きいことによると考えられる。また、このような〔2+2〕環状付加体に際してのクロスリンク結合に隣接するsp2 炭素の2PZ ローブの重なりの効果を評価するために、C70の2量体、C70−C60重合体及びC70H2 の生成熱の比較を行った。詳細な数値データは割愛するが、この重なりによる効果はC140 (a)〜(h)にわたってほぼ無視できると思われる。
【0105】
C70の重合膜のLDITOF−MSによる2量体付近の質量分布は、C136 、C138 等の2量体が主生成物である。次に、C60からD2h−Sym.C116 を得るプロセスと同様に、2量体(C70)2 のシクロブタンを形成する4個の炭素原子を脱離させ、残りのC68の再結合によるC136 の構造について考える。これらの構造は図18〜図26に示した。
【0106】
また、表2にC136 の生成熱(ΔHf 0 )の相対比較を示す。C136 (a)−(i)はそれぞれC140 (a)−(i)に対応しており、例えばC140 (a)でクロスリンクを形成していたC(2)、C(4)はC136 (a)では脱離している。また、C136 (a)の4本のクロスリンクに関与する炭素はC(1)、C(3)、C(5)及びC(8)であり、これらはSP2 炭素である。表1に示した2量体のうちPM−3レベルで最も安定な構造と予測されたのはC140 (c)であったことから、表2ではC140 (c)から得られるC136 (c)のΔHf 0 を比較の基準とした。
【0107】
【0108】
但し、表2中のΔHf 0 AM−1、ΔHf 0 PM−3、クロスリンク、結合長は、上記した表1と同様である。
【0109】
表2からC136 (a)及び(b)の構造が大きく安定化すること、C136 (e)、(f)及び(i)は不安定化することがわかる。また、計算した全てのC140 及びC136 構造の単位炭素原子当たりのΔHf 0 の値を評価すると、C140 からC136 構造への過程で構造緩和するのはC140 (a)及び(b)からC136 (a)及び(b)への過程のみである。
【0110】
従って、MNDO近似レベルの計算から、C70のクロスリンクにおいては、初期過程の〔2+2〕環状付加反応の部位が分子主軸が通る両端の5員環の付近に限定されるのみならず、C136 のようなπ共役系のクロスリンク構造もC(2)−C(4)結合間の環状付加反応によるC70の2量体から得られるC136 のみに限定されることが示唆されている。
【0111】
このようなマイクロ波誘起の重合法で得られるC60の重合膜の導電性は半導体的であり、暗電流の温度依存性から評価したバンドギャップは2eV程度である。大気中の酸素拡散の影響が蒸着膜に比べて少ないこともまた重合膜の特徴である。
【0112】
また、マイクロ波パワー200Wで得られるC60重合膜の暗電流は10-7〜10-8S/cm程度であるのに対し、同じマイクロ波パワーで得られるC70重合膜では10-13 S/cm以下とほぼ絶縁体である。このような重合膜の電気電導性の違いは、その重合膜の構造に起因すると考えられる。例えば、C60重合膜の場合、上の図の〔2+2〕環状付加反応による1,2−(C60)2 の2量体のクロスリンクは、2分子のC60が開殻ビラジカル状態となる1本のクロスリンクボンド同様に、導電性の向上には寄与しないと考えられる。これに対し、C116 の様な分子間クロスリンクはπ共役系を形成することから、導電性の向上に寄与すると考えられる。C118 、C114 、C112 等のクロスリンク構造についても現在検討中であるが、1,2−(C60)2 のクロスリンク部位の炭素の脱離と再結合からなる導電性に寄与するπ共役したクロスリンクであると考えられる。
【0113】
通常、導電性はフラーレン分子間の導電性のクロスリンクの数に対してリニアに増加するのではなく、ある一定の数で浸透限界を超えて大きく変化するはずである。上述したように、C70の場合にはC60に比べ〔2+2〕環状付加反応の確率が低いだけでなく、C140 からC136 の様な導電性のクロスリンク構造への構造緩和も特定の部位のみでしか起きえないと考えられる。
【0114】
従って、C60の重合膜には、導電性に寄与するクロスリンクの数が多く浸透限界を越えているが、C70の場合には低い重合の確率と導電性のクロスリンクの形成の制限から浸透限界を越えていないことが、両者の大きな導電性の違いの原因と考えられる。
【0115】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
実施例1
<原料フラーレンの作製>
直径10mm、長さ35cmのグラファイトロッドを正極とし、ヘリウム雰囲気中、100Torr下で150アンペアの直流電流によるアーク放電を行った。次いで、原料として用いたグラファイトロッドがほとんど気化してフラーレンを含むススが得られた後、用いた電極の極性を逆にして、本来の負極上に堆積したカーボンナノチューブ等の堆積物をさらに気化させ、ススとした。そして、水冷反応管内に堆積したススを掃除機で回収し、トルエンで抽出して粗製のフラーレンを得た。更に、得られた粗製フラーレンをヘキサンで洗浄乾燥後、真空昇華により精製した。
【0117】
このようにして得られたフラーレンサンプルの飛行時間型質量分析の結果、C60、C70が約9:1の割合で含まれていた。
【0118】
<薄膜の作製>
フラーレン試料を容器(モリブデンボート)8に充填し、図1のマイクロ波重合装置の所定位置に設置した。
【0119】
真空排気系16としての分子ターボポンプにより十分に脱気した後、キャリアガス導入管7よりアルゴンガスの導入を開始した。反応室内部が0.05Torrと一定になったところでマイクロ波発振源1を作動させ、チューナー4で調整を行いながら400Wのマイクロ波パワーとした。
【0120】
マイクロ波の出力が一定となったところでモリブデンボートを通電させ、徐々に電流値をあげることにより昇温してフラーレンを気化、流通させ、シリコン基板上に薄膜を形成した。
【0121】
フラーレンの気化、堆積は、基体(シリコン基板)11の横に設置した図示しない水晶膜厚センサーによりモニターした。確認のため、接触型膜厚計を用いてフラーレン重合薄膜の膜厚を測定した。電流値の測定にはナノアンメータを用いた。
【0122】
また、フラーレン重合薄膜のバンドギャップは電流値の温度依存性から決定した。フラーレン重合薄膜の質量分析は、窒素パルスレーザーによるアブレーションとイオン化により飛行時間型質量分析計により行った。
【0123】
また、タングリングスピンの測定は、窒素雰囲気中でxバンド電子スピン共鳴装置を用いて行った。標準スピンとしてDi−tert-butylnitroxide のトルエン溶液を用い、デジタルマンガンマーカーの低磁場から3番目と4番目の吸収線との相対比較法により、フラーレン重合薄膜の単位重量当たりのダングリングスピン数を求めた。以下、実施例2〜16及び比較例1〜3における前記各物性値の測定は、上述の測定方法に準じたものである。
【0124】
<薄膜の評価>
以下は、本実施例で得られたフラーレン重合薄膜の物性値である。
【0125】
膜厚(接触膜厚計) : 30nm
電気伝導度 : 1.1×10-8S/cm
バンドギャップ : 2.0eV
ダングリングスピン数 : 2.2×1018 spins/g
摩擦係数 : 5.0
【0126】
図2は、実施例1のマイクロ波パワー400Wで得られたC60及びC70の混合物の重合薄膜の飛行時間型質量分析結果である。測定に際しては、C60蒸着膜に対して重合が起きない程度まで窒素レーザーのパワーを落とした。従って、質量スペクトルに観測されているフラーレン多量体はマイクロ波誘起の多量体であり、測定に際しての窒素レーザーの照射による多量体ではない。
【0127】
図2において、質量数が720付近のピークはC60(M=720)のモノマー、M=840付近のピークはC70(M=840)のモノマーであることを示している。また、M=1400〜1500付近のピークはC60及びC70の2量体、更に、M=2000〜2200付近のピークはC60及びC70の3量体、M=2600〜2900付近のピークはC60及びC70の4量体が生成していることを示している。
【0128】
このように、本実施例で得られたフラーレン重合薄膜はC60及びC70のモノマー、及びC60及び/又はC70の多量体が生成したことが分かる。
【0129】
実施例2
実施例1で得られた組成のフラーレン(C60:C70≒9:1)をヘキサンで洗浄、乾燥した後、再度トルエンの飽和溶液とし、活性炭と粉末シリカゲルを混合しトルエンでペースト状にして耐圧カラムに充填したフラッシュカラムに吸着させた。このカラムにトルエンを5気圧の圧縮窒素を用いて導入し、C60のトルエン溶液を取り出した。溶媒トルエンを蒸留除去後、n−ヘキサンで洗浄し、乾燥した。
【0130】
このようにして得られたC60のTOF−MSではC70に相当するピークは全く観測されなかった。同試料を長さ50cmの石英ガラス管にアセチレンバーナーを用いて真空封入し、左右2個のヒーターを有する電気炉に設置した。そして、設置した石英管の試料を詰めた側のヒーターを590℃に、一方を500℃に設定し、約1週間放置した。冷却後、低温に設定した部位に昇華されたC60のサンプルを取り出した。
【0131】
次いで、実施例1と同様の装置を用い、かつ、同様の手順でシリコン基板上にフラーレン重合薄膜を形成した。以下、本実施例で得られたフラーレン重合薄膜の物性値である。
【0132】
膜厚(接触膜厚計) : 30nm
電気伝導度 : 1.2×10-7S/cm
バンドギャップ : 1.96eV
ダングリングスピン数 : 2.5×1018 spins/g
摩擦係数 : 4.6
【0133】
実施例3
実施例2と同様に製造及び精製したC60を、マイクロ波パワー250Wで重合薄膜を作成した。以下、このような条件で得られた重合薄膜の物性について記す。
【0134】
膜厚(接触膜厚計) : 37nm
電気伝導度 : 8.7×10-8S/cm
バンドギャップ : 1.87eV
ダングリングスピン数 : 1.3×1018 spins/g
摩擦係数 : 5.8
【0135】
実施例4
実施例2と同様に製造及び精製したC60を、マイクロ波パワー100Wで重合薄膜を作成した。以下、このような条件で得られた重合薄膜の物性について記す。
【0136】
膜厚(接触膜厚計) : 35nm
電気伝導度 : 3.7×10-8S/cm
バンドギャップ : 1.80eV
ダングリングスピン数 : 1.0×1018 spins/g
摩擦係数 : 6.2
【0137】
このように実施例2〜4で、マイクロ波のパワーを減じた条件では、重合薄膜の導電性は低下する傾向があった。これは、マイクロ波のパワーが不十分であったため、分子間の重合が十分でなかったことによると考えられる。
【0138】
実施例5
市販のC70サンプルをn−ヘキサンにより洗浄、乾燥後、実施例2に用いた電気炉により昇華、精製した。
【0139】
得られたC70サンプルの飛行時間型質量分析を行った結果、C70に対して不純物としてのC60が約0.01%程度含まれていた。この試料を実施例1と同様にモリブデンボートに封入し、マイクロ波パワー400Wで重合薄膜を作成した。各物性値の測定結果は以下の通りである。
【0140】
膜厚(接触膜厚計) : 40nm
電気伝導度 : 6.5×10-11 S/cm
バンドギャップ : 1.85eV
ダングリングスピン数 : 2.7×1018 spins/g
摩擦係数 : 7.0
【0141】
実施例6
実施例5で精製したC70サンプルを用いて、重合薄膜を、マイクロ波パワー250Wで作成した。薄膜の物性は以下の通りである。
【0142】
膜厚(接触膜厚計) : 32nm
電気伝導度 : 2.2×10-11 S/cm
バンドギャップ : 1.85eV
ダングリングスピン数 : 2.5×1018 spins/g
摩擦係数 : 7.5
【0143】
実施例7
実施例5で精製したC70サンプルを用いて、重合薄膜を、マイクロ波パワー100Wで作成した。薄膜の物性は以下の通りである。
【0144】
膜厚(接触膜厚計) : 34nm
電気伝導度 : 8.5×10-12 S/cm
バンドギャップ : 1.85eV
ダングリングスピン数 : 1.8×1018 spins/g
摩擦係数 : 8.0
【0145】
実施例5〜7から、C70の場合は、マイクロ波のパワーが高い場合でも、薄膜の導電性が低く、導電性はC60薄膜の導電性に比べて低い。これはC70分子がC60分子に比べ、重合反応を起こしにくいことによると考えられる。
【0146】
実施例8
実施例2で作成したC60を原料としたフラーレン重合薄膜を、真空下400℃に加熱し、この状態で8時間保存した。徐冷却後、同様に薄膜の物性を測定した。
【0147】
電気伝導度 : 2.2×10-7S/cm
バンドギャップ : 1.70eV
ダングリングスピン数 : 8.9×1017 spins/g
摩擦係数 : 4.6
【0148】
実施例9
実施例3で作成したC60を原料としたフラーレン重合薄膜を、真空下400℃に加熱し、この状態で8時間保存した。徐冷却後、同様に薄膜の物性を測定した。
【0149】
電気伝導度 : 1.1×10-7S/cm
バンドギャップ : 1.66eV
ダングリングスピン数 : 5.5×1017 spins/g
摩擦係数 : 5.8
【0150】
実施例10
実施例4で作成したC60を原料としたフラーレン重合薄膜を、真空下400℃に加熱し、この状態で8時間保存した。徐冷却後、同様に薄膜の物性を測定した。
【0151】
電気伝導度 : 7.7×10-8S/cm
バンドギャップ : 1.68eV
ダングリングスピン数 : 4.4×1017 spins/g
摩擦係数 : 6.2
【0152】
実施例8〜10から、フラーレン重合膜のダングリングスピン数は真空下、400℃に加熱し、この状態で8時間保存するといった熱処理によって効果的に減少し、薄膜の導電性の向上が認められる。薄膜の導電性の向上はダングリングボンドの加熱による再結合によると考えられる。
【0153】
実施例11
実施例2で得られたC60を原料としてフラーレン重合薄膜の作成直後に、反応室内に水素ガスを導入し、3分間100Wのマイクロ波を照射後、電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0154】
電気伝導度 : 7.4×10-8S/cm
ダングリングスピン数 : 2.7×1017 spins/g
摩擦係数 : 3.8
【0155】
実施例12
実施例3で得られたC60を原料としてフラーレン重合薄膜の作成直後に、反応室内に水素ガスを導入し、3分間100Wのマイクロ波を照射後、電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0156】
電気伝導度 : 2.8×10-8S/cm
ダングリングスピン数 : 5.2×1017 spins/g
摩擦係数 : 4.0
【0157】
実施例13
実施例4で得られたC60を原料としてフラーレン重合薄膜の作成直後に、反応室内に水素ガスを導入し、3分間100Wのマイクロ波を照射後、電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0158】
電気伝導度 : 2.0×10-11 S/cm
ダングリングスピン数 : 3.3×1017 spins/g
摩擦係数 : 4.2
【0159】
実施例11〜13において、フラーレン重合薄膜表面をマイクロ波処理した水素プラズマによって表面処理(表面修飾)することにより、明らかにダングリングスピン数は減少している。また、摩擦係数は減少する傾向にある。これは表面が炭化水素構造となっていることを示唆している。
【0160】
実施例14
実施例2のフラーレン重合薄膜の作成手順と同様の手順で、3分間、400Wのマイクロ波を照射する過程でシリコン基板上に蒸着した白金電極に−1kVの電圧を基板へのバイアスとして印加した。得られた薄膜の電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0161】
電気伝導度 : 3.2×10-6S/cm
ダングリングスピン数 : 3.9×1015 spins/g
摩擦係数 : 4.6
【0162】
実施例15
実施例3のフラーレン重合薄膜の作成手順と同様の手順で、3分間、250Wのマイクロ波を照射する過程でシリコン基板上に蒸着した白金電極に−1kVの電圧を基板へのバイアスとして印加した。得られた薄膜の電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0163】
電気伝導度 : 2.0×10-6S/cm
ダングリングスピン数 : 3.3×1015 spins/g
摩擦係数 : 3.8
【0164】
実施例16
実施例4のフラーレン重合薄膜の作成手順と同様の手順で、3分間、100Wのマイクロ波を照射する過程でシリコン基板上に蒸着した白金電極に−1kVの電圧を基板へのバイアスとして印加した。得られた薄膜の電気伝導度と単位重量当たりのダングリングスピン数及び薄膜の摩擦係数を評価した。
【0165】
電気伝導度 : 1.9×10-8S/cm
ダングリングスピン数 : 8.9×1015 spins/g
摩擦係数 : 4.5
【0166】
以上、実施例14〜16から、重合薄膜作成に関しては基板を帯電させること(特に負極性のバイアスをかけること)により、電気伝導度が増し、ダングリングスピン数が減少する傾向があることが分かる。
【0167】
比較例1
実施例1で得られたC60、C70混合原料を用いてフラーレン蒸着薄膜を作成し、同様な検討を行った。
【0168】
膜厚(接触膜厚計) : 33nm
電気伝導度 : 1.1×10-13 S/cm
バンドギャップ : 1.6eV
ダングリングスピン数 : 9.6×1016 spins/g
摩擦係数 : 7
【0169】
比較例2
実施例2で得られたC60原料を用いてフラーレン蒸着薄膜を作成し、この蒸着薄膜の物性を評価した。
【0170】
膜厚(接触膜厚計) : 41nm
電気伝導度 : 3.5×10-13 S/cm
バンドギャップ : 1.6eV
ダングリングスピン数 : 1.0×1017 spins/g
摩擦係数 : 7
【0171】
比較例1及び2から、フラーレン蒸着薄膜に比べて、本実施例のマイクロ波誘起による重合薄膜が、特に薄膜の導電性に大きく寄与していることが確認された。
【0172】
比較例3
図30に示す外部電極式容量結合型のプラズマ重合装置を用いてシリコン基板上に実施例2と同様にC60を原料としてフラーレン重合薄膜を形成した。
【0173】
このプラズマ重合装置は、容量約20リットルの反応器21を有し、この反応器21にはガス供給管22、23が設けられている。また、反応器21の底部には、油拡散ポンプ24やロータリーポンプ25、26、液体窒素トラップ27、28等からなり、真空排気系に連結された排気口29が設けられている。
【0174】
また、反応器21の上部には、プラズマ発生用電極30、30’が3.5cmの間隔を隔てて反応器21の外部に設置され、プラズマ電源31にインピーダンス整合器32を介して接続されている。また、反応器21内には、フラーレン昇華用のモリブデンボート33及び試料基板34が7cmの間隔を隔てて対向して設置されており、モリブデンボート33には直流電源35が接続されている。
【0175】
プラズマ電源31の出力は、交流13.56MHzのラジオ波で最高出力150Wである。ここでは、100Wで13.5パスカルに設定したアルゴンガスの一定流量系にてアルゴンプラズマを発生させ、このプラズマ中に、モリブデンボート33に入れたフラーレンを数100℃で昇華させてプラズマ重合を行い、基板34上にフラーレンプラズマ重合体を堆積させた。なお、重合中の膜厚は、センサー36により連続的にモニターした。キャリアガスとしてはアルゴンガス、窒素ガスを使用した。
【0176】
この薄膜の物性は次の通りであった。
【0177】
膜厚(接触膜厚計) : 30nm
電気伝導度 : 8.0×10-19 S/cm
バンドギャップ : 1.7eV
ダングリングスピン数 : 5.0×1018 spins/g
【0178】
比較例3より、外部電極式容量結合型のプラズマ重合装置を用いて形成したフラーレン重合薄膜は、比較例1及び2の蒸着薄膜よりは導電性の向上、ダングリングスピン数の減少といった点で優れているが、本実施例(例えば実施例2)と比較すれば、本実施例のマイクロ波誘起による重合薄膜の方が、上記の各物性において優れていることが分かる。
【0179】
以上、各実施例及び比較例から、マイクロ波誘起によるフラーレン重合薄膜の製造方法及び製造装置においては、フラーレンの構造を著しく破壊することなく、広面積にわたって均一かつ表面性に優れた炭素薄膜(フラーレン重合薄膜)を製造することができることが分かる。
【0180】
また、このようにして得られた炭素薄膜においては、摩擦に対して高強度、かつ柔軟性の高い薄膜が形成することができる。
【0181】
更に、前記炭素薄膜の表面を上述した種々のガスプラズマ中で修飾することや、適宜基板温度や前記薄膜温度を調節することによって、半導体的電気伝導性の保存等の前記炭素薄膜の物性を適宜調節できること等から、太陽光利用発電、薄膜ガスセンサー、光半導体触媒等としての機能性化が容易である。
【0182】
また、このフラーレン重合薄膜は、半導体素子の表面保護膜等の電子材料を始め、磁気テープや磁気ディスク等の磁気記録媒体の表面保護膜、光磁気ディスク装置の光学ピックアップ側の表面保護膜等として広範囲に使用可能である。
【0183】
【発明の作用効果】
本発明の製造方法によれば、Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。例えば、C60やC70等)で表されるフラーレン分子を、マイクロ波誘起によって重合してフラーレン重合体(フラーレン多量体)を形成し、このフラーレン重合体を基体(例えば、半導体基板としてのシリコン等)上に堆積させることによって、主として前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成するに際し、前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流路を配し、この流路を前記基体の配された成膜空間に開口させ、前記フラーレン重合体を前記マイクロ波の作用位置から離れて配置された前記基体上に導くようにしたので、大面積(広面積)にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、特にマイクロ波誘起によって強度や電気伝導度等に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる薄膜)を製造することができる。
【0184】
本発明の製造装置によれば、Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。例えば、C60やC70等)で表されるフラーレン分子の供給源と、この供給源から供給される前記フラーレン分子にマイクロ波を作用させるマイクロ波作用部と、このマイクロ波による誘起によって生成するフラーレン重合体(フラーレン多量体)を基体(例えば、半導体基板としてのシリコン等)上に堆積させ、前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成する成膜部(特に、前記マイクロ波作用部の径よりも大径となされた成膜空間)とを有し、前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流路が配され、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口され、前記フラーレン重合体が前記マイクロ波作用部から離れて配置された前記基体上に導かれるので、前記マイクロ波作用部にて、前記フラーレン分子を効率よく高密度に重合させ、更に、重合したフラーレン分子(フラーレン重合体)を前記基体上に効率よく堆積させることができるので、大面積(広面積)にわたって均一かつ優れた表面性を有し、また、マイクロ波誘起によって強度や電気伝導度等に優れた炭素薄膜(特にフラーレン重合体からなる薄膜)を製造することができる。
【0185】
また、本発明の製造方法及び製造装置によれば、マイクロ波によってフラーレン分子(原料フラーレン)を誘起(励起、プラズマ化)しているので、フラーレンの構造を著しく破壊することなく、大面積にわたって均一かつ表面性に優れたフラーレン重合薄膜を成膜することができる。更に、このようにして得られたフラーレン重合薄膜においては、摩擦に対して破壊を受けにくい高強度かつ柔軟性に優れた物性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく炭素薄膜を製造する際に使用できるマイクロ波誘起によるフラーレン重合薄膜の製造装置の要部概略図である。
【図2】本実施例1におけるフラーレン重合薄膜の飛行時間型質量分析スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明に基づくフラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の2量体構造(C120(a))を示す図である。
【図4】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造(C120(b))を示す図である。
【図5】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造(C120(c))を示す図である。
【図6】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造(C120(d))を示す図である。
【図7】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC118 分子の構造示す図である。
【図8】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC116 分子の構造示す図である。
【図9】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の2量体構造(C140(a))を示す図である。
【図10】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(b))を示す図である。
【図11】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(c))を示す図である。
【図12】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(d))を示す図である。
【図13】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(e))を示す図である。
【図14】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(f))を示す図である。
【図15】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(g))を示す図である。
【図16】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(h))を示す図である。
【図17】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C140(i):D2h対称)を示す図である。
【図18】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(a))を示す図である。
【図19】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(b))を示す図である。
【図20】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(c))を示す図である。
【図21】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(d))を示す図である。
【図22】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(e))を示す図である。
【図23】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(f))を示す図である。
【図24】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(g))を示す図である。
【図25】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(h))を示す図である。
【図26】同フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造(C136(i))を示す図である。
【図27】C60の分子構造を示す図である。
【図28】C70の分子構造を示す図である。
【図29】C70分子のナンバリングシステムを示す図である。
【図30】従来より使用されている外部電極式容量結合型プラズマ重合装置の要部概略図である。
【符号の説明】
1…マイクロ波発振源、2…アイソレータ、3…パワーメータ、
4…スリースタブチューナー、5…反射キャビティ、6…導波管、
7…キャリアガス導入管、8…供給源(容器)、9…共振管、
10…反応管(成膜部)、11…基体、12…キャリアガス、
13…フラーレン分子、14…フラーレン重合体、15…マイクロ波、
16…真空排気系、17…マイクロ波作用部
Claims (17)
- Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子を、マイクロ波誘起によって重合してフラーレン重合体を形成し、このフラーレン重合体を基体上に堆積することによって、前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成するに際し、
前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流 路を配し、この流路を前記基体の配された成膜空間に開口させ、前記フラーレン重合体 を前記マイクロ波の作用位置から離れて配置された前記基体上に導くようにした、
炭素薄膜の製造方法。 - 前記成膜空間を前記流路の径よりも大きくする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記マイクロ波のパワーを300〜400Wとする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記フラーレン分子を、C60及び/又はC70からなるフラーレン分子とする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記キャリアガスをヘリウム、アルゴン、キセノン、ラドン及び水素からなる群より選ばれた少なくとも一種のガスとする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記基体に負極性のバイアス、或いは正極性のバイアスをかける、請求項1に記載した製造方法。
- 前記フラーレン重合体を堆積させる前に、予め前記キャリアガスをプラズマ化して基体をエッチングする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記基体をシリコン、ガラス、透明電極、金、白金及びアルミニウムからなる群より選ばれた基体とする、請求項1に記載した製造方法。
- 前記基体の温度を調節することによって前記炭素薄膜のダングリングスピンの量を調節する、請求項1に記載した製造方法。
- Cn(但し、nは幾何学的に球状化合物を形成し得る整数である。)で表されるフラーレン分子の供給源と、この供給源から供給される前記フラーレン分子にマイクロ波を作用させるマイクロ波作用部と、このマイクロ波による誘起によって生成するフラーレン重合体を基体上に堆積させて前記フラーレン重合体からなる炭素薄膜を形成する成膜部とを有する、炭素薄膜の製造装置であって、
前記マイクロ波の導波管を横断して前記フラーレン分子を連行するキャリアガスの流 路が配され、この流路が前記基体の配された成膜空間に開口され、前記フラーレン重合 体が前記マイクロ波作用部から離れて配置された前記基体上に導かれる、
炭素薄膜の製造装置。 - 前記成膜空間が前記流路の径よりも大きく形成されている、請求項10に記載した製造装置。
- 前記マイクロ波のパワーが300〜400Wとされる、請求項10に記載した製造装置。
- C60及び/又はC70からなるフラーレン分子が前記供給源に配されている、請求項10に記載した製造装置。
- 前記キャリアガスがヘリウム、アルゴン、キセノン、ラドン及び水素からなる群より選ばれた少なくとも一種のガスである、請求項10に記載した製造装置。
- 前記基体に負極性のバイアス、或いは正極性のバイアスがかけられる、請求項10に記載した製造装置。
- 前記基体がシリコン、ガラス、透明電極、金、白金及びアルミニウムからなる群より選ばれた基体である、請求項10に記載した製造装置。
- 前記基体の温度が調節されることによって前記炭素薄膜のダングリングスピンの量が調節される、請求項10に記載した製造装置。
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