JP4302822B2 - 炭素系複合構造体及びその製造方法 - Google Patents

炭素系複合構造体及びその製造方法 Download PDF

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    • B82NANOTECHNOLOGY
    • B82YSPECIFIC USES OR APPLICATIONS OF NANOSTRUCTURES; MEASUREMENT OR ANALYSIS OF NANOSTRUCTURES; MANUFACTURE OR TREATMENT OF NANOSTRUCTURES
    • B82Y30/00Nanotechnology for materials or surface science, e.g. nanocomposites

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラーレン系薄膜を用いた炭素系複合構造体、及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近、炭素系薄膜の特性(導電性など)を生かすべく、基板上に炭素系薄膜と、これとは異質の薄膜とを積層したセンサーデバイスが開発されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した如き炭素系薄膜をフラーレン系薄膜と組み合わせ、各層間の密着性を改善した、電荷移動能力などの独得の光学性能を有する炭素系複合構造体、及びその製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、基体と炭素系薄膜とフラーレン系薄膜との積層体からなる炭素系複合構造体において、
前記基体が、例えば石英ガラス又はシリコンからなる単体基体、又はこの単体基体上 に金属層を形成した複合基体からなっていて、平均表面粗さ(Ra)1μm以下の平滑 な表面を有し、
この平滑な基体表面に接して、有機化合物の熱分解生成物からなる前記炭素系薄膜が 形成され、
この炭素系薄膜の表面に接して前記フラーレン系薄膜が積層されている
ことを特徴とする炭素系複合構造体に係るものである。
【0005】
また、本発明は、例えば石英ガラス又はシリコンからなる単体基体、又はこの単体基体上に金属層を形成した複合基体の表面を1μm以下の平均表面粗さ(Ra)に平滑化する工程と、この平滑な基体表面接して、炭素系薄膜を有機化合物の熱分解により形成する工程と、この炭素系薄膜の表面に接してフラーレン系薄膜を形成する工程とを行う、炭素系複合構造体の製造方法を提供するものである。
【0006】
本発明の炭素系複合構造体は、基体上に積層される炭素系薄膜とフラーレン系薄膜(特にフラーレン蒸着膜又は重合体膜であって、その詳細については後述する)とが、ともに殆ど炭素から構成されているので、互いに親和性が良好であり、そのため両膜間の密着性は高い。
【0007】
また、炭素系薄膜は、基体の表面が平均表面粗さ(Ra)1μm以下と平滑であるので、この基体表面と強く密着でき、緻密で力学的強度の大きな膜に形成され、しかもその表面は基体表面に倣って(又は追随して)平滑面に形成されるので、更にその上に積層されるフラーレン系薄膜とも、強く密着できる。
【0008】
一方、本発明の炭素系複合構造体は、炭素系薄膜が良好な導電性を有し(導電率は例えば約10-2S/cm)、この上に積層されたフラーレン系薄膜が炭素系薄膜の価電子帯よりさらに2.0eV程度低いエネルギー価電子帯のエッジを有し、ドナーアクセプターとして機能するので、光誘起により電荷移動が可能であり、太陽電池として好適な用途を有するほか、基質に対して導電性が明瞭に変化するので、ガスや圧力にする耐久性の優れたセンサーデバイスとして、重要な用途が開ける。
【0009】
このような優れた効果を有する炭素系複合構造体は、本発明の前記製造方法によって製造することができる。
【0010】
また、本発明の製造方法は、工程数の少ない実施の容易な方法であり、前記炭素系複合構造体を効率よく製造することが可能である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素系複合構造体は、図1(A)に示すように、石英ガラス等の基板1の上に、炭素系薄膜2と、フラーレン蒸着膜又はフラーレン重合体膜からなるフラーレン系薄膜3とが積層された構造が好ましい。このような構造とすると、フラーレン系薄膜3中で発生したキャリアや基板1(実際には電極から注入される)キャリアが炭素系薄膜2へ移動し易くなり、電荷移動性が向上する。
【0012】
また、特に太陽電池の用途に用いるときは、図1(B)に示す如く、基板1上に炭素系薄膜2と接する金属などの対向電極4を設け、且つフラーレン系薄膜3上にITO(インジウム酸化物にスズをドープしたもの)などの光透過性電極5を設けることが好ましい。このような構造とすると、光誘起による電荷移動が可能となり、太陽電池や発光ダイオードなどに好適な用途が開ける。
【0013】
また、特にガスや圧力のセンサーの用途に供するときは、図1(C)に示すように、炭素系薄膜2の上に一対の電極5a、5b(櫛形電極など)を取付け、さらにこれら電極5a、5bの間にフラーレン系薄膜3を形成することが好ましい(なお、フラーレン系薄膜3上に電極5a、5bを設けてもよい)。このフラーレン系薄膜3は基質を吸着すると室温でも導電性が高くなり、従って電気抵抗の測定により基質温度のセンサーとして用いることができる。
【0014】
なお、前記光透過性電極5や電極5a、5bの材料としては、一般的に前記したITO(インジウム酸化物にスズをドープしたもの)が好ましいが、これ以外にも、金、銀、白金、ニッケルなどの薄膜も使用できる。
【0015】
また、前記対向電極4の材料としては、アルミニウム、マグネシウム、インジウムなどの金属の1種又はその合金、あるいはITOなどがある。
【0016】
これらの電極は、蒸着、スパッタリング、電子銃、電解メッキなどの手法により、形成することができる。なお、光透過性電極にITO以外の材料を用いるときは、層厚をより薄くして、光透過性を確保することが重要である。
【0017】
本発明者の検討によると、炭素系薄膜2と接する基板1の表面は平滑度の高いものほど好ましく、具体的にはラフネス:平均表面粗さ(Ra)1μm以下とする。この条件を外れると、炭素系薄膜2は基板1との密着性が不十分になり、機械的強度が小さくなり易い。
【0018】
基板1としては、石英ガラスやシリコンなどからなる単体基板だけでなく、この単体基板上に金属等の導電性層を形成した複合基板も用いることができる。
【0019】
これら基板の表面を平滑にする手段としては、公知の機械的研磨加工、化学的表面加工、物理的表面加工などが挙げられる。
【0020】
本発明では、炭素系薄膜を形成するのに、炭素を含有する有機化合物の熱分解(熱CVD法)を適用する。
【0021】
この方法は、電気炉、高周波炉、あるいはその他の加熱装置を用いて有機化合物を気相で加熱分解するものであり、基板を収納した加熱装置内にガス状有機化合物をキャリアガスに随伴させて導入し、基板を通常600〜2000℃、好ましくは700〜1200℃に加熱する。このようにすると、有機化合物は熱分解して、基板上に殆ど炭素からなる炭素系薄膜を形成することができる。
【0022】
前記有機化合物の主な例を挙げると、トルエン、アニリンなどの芳香族炭化水素又はその誘導体、メタン、エタン、プロパンなどのアルカン類、アセチレン等のアルキン類、ヘキサン、オキサン等の脂肪族炭化水素、フラン、ジオキサン、チオフェン、ピリジンなどの複素環式化合物、それにフラーレン分子などの炭素化合物があり、これらは2種以上を混合して用いることもできる。ただし、これらの有機化合物を使用するにあたって特に取扱時の安全性が問題になる場合は、できるだけ毒性の低い有機化合物を選ぶに越したことはない。
【0023】
なお、前記キャリアガスとしては、窒素やアルゴンを始めとする不活性ガス、あるいはこの不活性ガスと水素ガスとの混合ガスが適当である。
【0024】
こうして形成される炭素系薄膜は、平滑な基板表面と同様、その表面が著しく細かい平滑面となり、銀白色の鏡面を呈する。言い換えれば、本発明における炭素系薄膜の密着性(さらには製膜性)は、基板の表面性に著しく左右される。
【0025】
それに、この炭素系薄膜は緻密で硬くて弾性を有する膜であり、ビッカース硬度は500以上で、そのヤング率の特性から、スピーカー等の振動板にさえ使用できるほどである。
【0026】
さらに、この炭素系薄膜は、金属的挙動を示すグラファイトと、半導体的導電性を示すアモルファスカーボンとの、言わば中間的な特性を有しており、導電性の温度依存性はきわめて小さい。しかも、膜のバンドギャップが小さいことと、膜がグラファイト様の小片を含むことから、その導電性は良好である(炭素系薄膜の導電率は10-2S/cm程度)。これに比べ、他の有機膜は単なる抵抗体としてのIV特性しか得られない。
【0027】
次に、前記炭素系薄膜に接して形成されるフラーレン系薄膜と言うのは、フラーレン蒸着膜又はフラーレン重合体膜のことを指し、膜の強度や耐久性等を考慮に入れれば、とくに後者を選択することが望ましい。フラーレン蒸着膜の導電率は約10-13 S/cm(価電子帯のレベルは炭素系薄膜より2.0eV程度低い。)、フラーレン重合体膜の導電率は約10-11 〜10-7S/cm(価電子帯のレベルはフラーレンより0.7eV程度高い。)である。但し、蒸着膜の場合には、大気中での評価中、約1日で特性は完全に失なわれ易いが、重合体化すれば、1ケ月後でも特性はほとんど変化しない。
【0028】
いずれの膜も、フラーレン分子を原料として製膜されるものであるが、何分にもこのフラーレンという物質、その開発の歴史が新しいので、以下、直ぐに製膜法(又は重合法)の説明に入るよりは、先ずはフラーレン分子そのものの発見から順を追って説明していきたい。
【0029】
フラーレンはダイヤモンドや黒鉛と同様に炭素原子のみからなる一連の炭素化合物のことである。その存在が確かめられたのは今世紀末に大分近づいてきた頃で、1985年に炭素のレーザアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中に発見された。しかし実際に製造法が確立されるにはさらに5年の歳月を待たねばならず、1990年に至って初めて炭素電極のアーク放電によるフラーレン(C60)の製造法が見い出され、それ以来、フラーレンは炭素系半導体材料等として注目される存在となっている。(Kratschmer, W.; Fostiropoulos, K.; Huffman, D.R. Chem. Phys. Lett. 1990, 170, 167. Kratschmer. W.;Lamb. L. D.; Fostiropoulos, K.; Huffman, D. R. Nature 1990, 347, 354.)
【0030】
フラーレンは、60個以上の偶数個の炭素原子が球状に結合して分子集合体を構成した球状炭素Cn (n=60、70、76、78、80、82、84・・・など)である。中でも特に代表的なのは、初めに挙げた炭素数が60のC60と70のC70である。このうちC60フラーレンは正二十面体の頂点を全て切り落として正五角形を出した切頭二十面体と呼ばれる多面体構造を有し、図2に示すようにその60個の頂点が全て炭素原子で占められた言わばサッカーボール型の分子構造を有する。それに対して、C70は図3に示すようにラグビーボール型の分子構造を有する。
【0031】
60の結晶はC60分子が面心立方構造に配置され、バンドギャップが約1.6eVであって半導体とみなせる。純粋な状態では約1014Ω/cmの電気抵抗を有する。そして、500℃で約1mmTorrの蒸気圧があり、昇華によって薄膜を蒸着することができる。C60に限らず、フラーレン分子は真空又は減圧下において容易に気化できることから、蒸着膜を形成し易い素材である。
【0032】
しかしながら、最も量産性に富むC60やC70等のフラーレン分子は双極子モーメントがゼロであることから、それから得られる蒸着膜は、分子間にファン・デル・ワールス力しか働かず、強度的に脆弱である。そのため、この蒸着膜を空気中にさらすと、フラーレン分子間の隙間に酸素や水分子等が拡散進入し易く(図34参照)、その結果、構造的に劣化するだけでなく、その電子物性に悪影響を及ぼすことがある。このようなフラーレン蒸着薄膜の脆弱さは、フラーレンを薄膜電子デバイスの製作に適用するときに、デバイスの安定性の面で問題となる。さらにフラーレン分子間へ拡散進入した酸素分子により常磁性中心が発現するので、その薄膜特性の安定性の面からも問題があった。
【0033】
このような問題点を克服するため、近年、フラーレン分子同士を重合させる、いわゆるフラーレン重合体膜の製造方法が提唱されている。その代表例として光誘起によるフラーレン重合体の製膜方法を挙げることができる。〔(a) Rao,A.M.; Zhou,P.; Wang,K.-A; Hager,G.T.; Holden,J.M.; Wang,Y.; Lee,W.-T.; Bi,X.-X.; Eklund,P.C.; Cornett,D.S.; Duncan,M.A.; Amster,I.J. Science 1993, 256,955. (b) Cornett,D.C.; Amster,I.J.; Duncan,M.A.; Rao,A.M.; Eklund.P.C. J.Phys.Chem.1993, 97,5036. (c) Li,J.; Ozawa,M.; Kino,N.; Yoshizawa,T.; Mitsuki,T.; Horiuchi,H.; Tachikawa,O.; Kishio,K.; Kitazawa,K. Chem.Phys.Lett.1994, 227,572.〕
【0034】
この方法はあらかじめ製膜したフラーレン蒸着膜に対し、蒸着後に光照射を行うものであるが、重合時に生じる体積収縮のため膜の表面に無数のヒビがはいり易く、強度の面で問題がある。しかもこの方法では、面積の広い均一な薄膜を製膜することは著しく困難である。
【0035】
その外にも、フラーレン分子に圧力や熱を加えるか、あるいはフラーレン分子同士を衝突させることによってフラーレン重合体膜を製膜できることが知られているが、これらの方法では製膜はできても薄膜を得ることは困難である。〔分子衝突法 (a)Yeretzian,C.; Hansen,K.; Diederich,F.; Whetten,R.L. Nature 1992, 359,44. (b)Whetten,R.L.; Yeretzian,C. Int.J.Mod.Phys.1992, B6,3801.(c)Hansen,K.; Yeretzian,C.; Whetten,R.L. Chem.Phys.Lett.1994, 218,462. (d)Seifert,G.; Schmidt,R. Int.J.Mod.Phys.1992,B6,3845. イオンビーム法 (a)Seraphin,S.; Zhou,D.; Jiao,J. J.Mater.Res.1993, 8,1995. (b)Gaber,H.; Busmann,H.-G.; Hiss,R.; Hertel,I.V.; Romberg,H.; Fink,J.; Bruder,F.; Brenn,R.J.Phys.Chem,1993,97,8244. 圧力法 (a)Duclos,S.J.; Brister,K.; Haddon,R.C.; Kortan,A.R.; Thiel,F.A. Nature 1991,351,380. (b)Snoke,D.W.; Raptis,Y.S.; Syassen,K. 1 Phys.Rev.1992,B45,14419. (c)Yamawaki,H.; Yoshida,M.; Kakudate,Y.; Usuda,S.; Yokoi,H.; Fujiwara,S.; Aoki,K.; Ruoff,R.; Malhotra,R.; Lorents,D.J.Phys.Chem. 1993,97,11161. (d)Rao,C.N.R.; Govindaraj,A.; Aiyer,H.N.; Seshadri,R.J.Phys.Chem. 1995,99,16814. 〕
【0036】
一方、これら従来法に替るフラーレン重合法(又は製膜方法)として注目に値いするのが、本発明者が先に提唱したプラズマ重合法やマイクロ波(プラズマ)重合法である。(たとえばTakahashi, N.; Dock, H.; Matsuzawa, N.; Ata,M.J.Appl.Phys. 1993,74,5790.) 。このような方法で得られるフラーレン重合体(図32及び図33)の膜は、フラーレン分子が電子励起状態を経て重合してできた薄膜であり、フラーレン蒸着薄膜に比較して強度が格段に増加し、緻密にしてかつ柔軟性に富む。そして真空中でも大気中でもその電子物性がほとんど変化しないことから、その緻密な薄膜構造が酸素分子等による膜内部への拡散進入を効果的に抑制しているのだと考えられる。事実、このような方法で薄膜を構成するフラーレンの多量体が生成されることは、レーザアブレーション法による飛行時間型質量分析によって知ることができる。
【0037】
プラズマ法の種類を問わず、フラーレン重合体膜の電子物性はその重合形態に大きく依存するものと思われる。実際にマイクロ波プラズマ法により得られたC60の重合体膜の質量分析結果は、以前発明者らが報告したC60のアルゴンプラズマ重合体薄膜のそれと、酷似している〔Ata,M.; Takahashi,N.; Nojima,K.J.Phys.Chem.1994,98,9960.Ata,M.; Kurihara,K.; Takahashi,J.Phys.Chem.B 1996,101,5.参照〕。
【0038】
フラーレン重合体の微細構造については、パルスレーザ励起の飛行時間型質量分析(TOF−MS)によって推定することができる。一般に高分子量のポリマーを非破壊的に測定する方法として、マトリックスアシスト法が知られている。しかし、フラーレン重合体を溶解する溶媒が存在しないことから、重合体の実際の分子量分布を直接評価することは困難である。LDITOF−MS(Laser Desorption Ionization Time-of-Flight Mass Spectroscopy) による質量評価も、適当な溶媒が無いことと、C60とマトリックス分子とが反応してしまうためマトリックスアシスト法が適用できない等の理由により、実際のフラーレン重合体の質量分布を正確に評価することは困難である。
【0039】
60重合体の構造は、C60が重合を起さない程度のレーザパワーのアブレーションで観測したLDITOF−MSの多量体のピーク位置や2量体のプロフィールから、推定することができる。たとえば50Wのプラズマパワーで得られたC60重合膜のLDITOF−MSは、C60分子間の重合が4個の炭素のロスを伴う過程が最も確率的に高いことを示している。即ち、2量体の質量領域においてC120 はマイナープロダクトであり、最も高い確率で生成するのはC116 である。
【0040】
また半経験的レベルのC60の2量体の計算によると、このC116 は図5に示すようなD2h対称C116 であると考えられる。これはC58の再結合によって得られるが、このC58はC60のイオン化状態を含む高い電子励起状態からC2 が脱離して生成されることが報告されている〔(a)Fieber-Erdmann,M.et al,Z.Phys.D1993,26,308.(b)Petrie,S.et al,Nature 1993,356,426.(c)Eckhoff,W.C.;Scuseria,G.E.; Chem.Phys.Lett.1993,216,399. 〕。
【0041】
この開殻C58分子が5員環2個が隣接する構造へ転位する以前に2分子で結合すれば、図5に示されるC116 が得られる。しかし本発明者は、C60のプラズマ重合の初期の過程ではあくまでも励起3重項メカニズムによる[ 2+2 ]環状付加反応(反応生成物は図4に示す)が生じると考えている。また、前記のように最も高い確率でC116 が生成するのは、C60の電子励起3重項状態から図4のように[ 2+2 ]環状付加反応により生成した(C602 のシクロブタンを形成する4個のSP3 炭素の脱離と、2個のC58開殻分子の再結合とによるためと考えられる。
【0042】
例えば、TOF−MSのイオン化ターゲント上のC60微結晶に強いパルスレーザ光を照射すると、マイクロ波プラズマ重合法と同様にフラーレン分子が電子励起状態を経て重合が起こるが、C60光重合体のピークとともにC58,C56等のイオンも観測される。
【0043】
しかし、C58 2+あるいはC2 + 等のフラグメントイオンは観測されないことから、前記Fieber-Erdmannらの文献に述べられているようなC60 3+から直接C58 2+とC2 + へフラグメンテーションすることは、この場合には考えられない。また、C2 4 ガスプラズマ中でC60を気化させて製膜した場合、そのLDITOF−MSにはC60のFあるいはC2 4 のフラグメントイオンの付加体のみが観測され、C60重合体は観測されない。このようにC60重合体の観測されないLDITOF−MSには、C58,C56等のイオンも観測されないという特徴がある。これらの観測結果もまた、C2 の損失がC60重合体を経てから起こることを支持している。
【0044】
では、そのC2 損失が、プラズマ重合において果して図4に示す[ 2+2 ]環状付加反応による1,2−(C602 から直接起こるのかどうかということが、次に問題となる。それを、ムーリーや大澤らは1,2−(C602 の構造緩和のプロセスを提唱して以下のように説明している〔(a)Murry,R.L.et al,Nature 1993,366,665.(b)Strout,D.L.et al,Chem.Phys.Lett. 1993,214,576.Osawa,E.私信〕。
【0045】
両者とも図4に示す1,2−(C602 の構造緩和の初期過程では、クロスリンク部位の最も歪みの大きい1,2−C−C結合の開裂した図6のC120 (b)を経て、Stone-Wales 転位(Stone,A.J.; Wales,D.J.Chem.Phys.Lett. 1986,128,501. (b)Satio, R.Chem.Phys.Lett.1992,195,537.)によるはしご型のクロスリンクを有する図7のC120 (c)から、図8のC120 (d)が生成されるとしている。図4の1,2−(C602 から図6のC120 (b)へ転位するとエネルギー的に不安定化するが、さらに図7のC120 (c)から図8のC120 (d)と転位するにつれて再度安定化する。
【0046】
このようにプラズマ誘起によるC60の重合において観測されるnC2 の損失が、その初期過程と考えられる図4の1,2−(C60)から直接起こるのか、あるいはこれがある程度構造緩和した後で起こるのか明確な知見は得られていないが、観測されるC118 は図8のC120 (d)からのC2 の脱離とダングリングの再結合によって図9の様な構造をとるものと考えられる。また、図9のC118 の梯子型クロスリンクの2個の炭素が脱離しダングリングが再結合することによって、図10に示すようなC116 が得られる。2量体のTOF−MSに奇数個のクラスターがほとんど観測されないことや構造の安定さからすると、C2 の損失が1,2−(C602 から直接起こるよりも、図8のC120 (d)を経て起こると考えた方が、理にかなっているように思われる。
【0047】
また、大澤らは前記文献にC120 (a)から多段階のStone-Wales 転位による構造緩和を経て、D5d対称C120 構造が得られることを記述している。このC120 の構造はC70分子のグラファイト構造がC120 まで延びたもので、C60重合体からナノチューブが得られることを示唆する点で興味深い。しかし、プラズマ照射による重合体の形成に際しては、C60重合体のTOF−MSを見るかぎり、このような多段階の転位反応による構造緩和よりもC2 の損失を伴う構造緩和の過程が優先すると考えられる。
【0048】
一般にπ軌道とσ軌道が直交する平面共役化合物では 1(π−π* )− 3(π−π* )間のスピン遷移は禁制であり、振電相互作用によりσ軌道が混ざる場合に許容となる。C60の場合にはπ共役系の非平面性によりπ軌道とσ軌道がミキシングすることから 1(π−π* )− 3(π−π* )間のスピン−軌道相互作用による項間交叉が可能となり、C60の高い光化学反応性がもたらされる。C60分子の切頭20面体という高い対称性は電子励起状態間や振動準位間の遷移に厳しい禁制則をもたらす反面、平面分子では禁制であるスピン多重度の異なる(π−π* )性の状態間の遷移を許容する点が、フラーレン、特にC60の電子励起状態の挙動の特徴である。
【0049】
プラズマ重合法はC70分子の重合にも適用可能である。しかし、このC70分子間の重合となると、そのメカニズムを理解することはC60の場合より容易でない。そこで、便宜上、図11に示すようなC70の炭素原子のナンバリングの助けを借りて、できるだけ分かり易く説明したい。
【0050】
70の105本のC−C結合は、C(1)−C(2),C(2)−C(4),C(4)−C(5),C(5)−C(6),C(5)−C(10),C(9)−C(10),C(10)−C(11),C(11)−C(12)で代表される8種類のC−C結合に分類され、このうちC(2)−C(4),C(5)−C(6)はC60のC=C結合と同程度の2重結合性である。この分子のC(9),C(10),C(11),C(14),C(15)を含む6員環のπ電子は非極在化し、5員環を形成するC(9)−C(10)結合が2重結合性を帯びると同時に、C(11)−C(12)結合が単結合性となる。C70の重合を2重結合性のC(2)−C(4),C(5)−C(6),C(9)−C(10),C(10)−C(11)について考える。なお、C(11)−C(12)結合はほぼ単結合であるが、2つの6員環にわたる結合(6,6-ring fusion )であるので、この結合の付加反応性についても吟味する。
【0051】
まず、C70の[ 2+2 ]環状付加反応から考える。この5種類のC−C結合の[ 2+2 ]環状付加反応からは25種類のC70の2量体が得られるが、計算の便宜のために同じC−C結合間の9種の付加反応のみを考える。表1にMNDO/AM−1および/PM−3レベルの2分子のC70からC140 の生成過程の反応熱(ΔHf 0(r))を示す。
【0052】
Figure 0004302822
表中、ΔHf 0(r)AM−1及びΔHf°(r)PM−3とは、J. J. P. Stewartによる半経験的分子起動法であるMNDO法のパラメタリゼーションを用いる場合の反応熱の計算値である。
【0053】
表中、C140 (a)と(b),C140 (c)と(d),C140 (e)と(f)およびC140 (g)と(h)はそれぞれC(2)−C(4),C(5)−C(6),C(9)−C(10)およびC(10)−C(11)結合のanti−syn異性体のペアである。C(11)−C(12)結合間の付加反応ではD2h対称のC140 (i)のみが得られる。これらの構造は図14〜22に示す。なお、図12に最も安定な[ 2+2] 環状付加反応によるC70重合体の初期構造を示す。このように[ 2+2] 環状付加構造が最も安定なことは、言い換えればC70分子モデルのC(2)−C(4)結合が最も付加反応性に富むことを意味している。
【0054】
この表1から、anti−syn異性体間のエネルギー差は認められない。C(2)−C(4)およびC(5)−C(6)結合間の付加反応はC60の付加反応と同程度に発熱的であり、逆にC(11)−C(12)結合間の付加反応は大きく吸熱的である。ところで、C(1)−C(2)結合は明らかに単結合であるが、この結合間の環状付加反応の反応熱はAM−1およびPM−3レベルでそれぞれ+0.19および−1.88kcal/molとなり、表1のC140 (g)と(h)の反応熱とほぼ等しい。このことは、C(10)−C(11)結合間の付加反応も熱力学的に起こりえないことを示唆する。従って、C70分子間の付加重合反応はC(2)−C(4)およびC(5)−C(6)結合で優先的に起こり、C(9)−C(10)結合間の重合は起こったとしてもその確率は低いものと考えられる。なお、単結合性であるC(11)−C(12)結合間の反応熱がC(1)−C(2)結合間の反応熱より大きく発熱的になるのは、C140 (i)のシクロブタン構造、とりわけC(11)−C(12)結合の歪みが極めて大きいことによると考えられる。なお、このような[ 2+2 ]環状付加に際してのクロスリンク結合に隣接するsp2 炭素の2p2 ローブの重なりの効果を評価するために、C70の2量体、C70−C60重合体およびC702 の生成熱の比較を行った。詳細な数値データは割愛するが、この重なりによる効果はC140 (a)〜(h)にわたってほぼ無視できると思われる。ただし、これはあくまでもMNDO近似レベルの計算での話である。
【0055】
70の重合膜のLDITOF−MSによる2量体付近の質量分布は、C116 ,C118 等の2量体が主生成物である。次に、C60からD2h−対称C116 を得るプロセスと同様に、2量体(C702 のシクロブタンを形成する4個の炭素原子を脱離させ、残りのC68の再結合によるC136 の構造について考える。これらの構造を図23〜31に示す。表2にC136 の生成熱(ΔHf 0 )の相対比較を示す。
【0056】
Figure 0004302822
但し、表2中のΔHf 0 AM−1、ΔHf 0 PM−3、クロスリンク、結合長は、前記表1と同様である。
【0057】
136 (a)−(i)はそれぞれC140 (a)−(i)に対応しており、たとえばC140 (a)でクロスリンクを形成していたC(2),C(4)はC136 (a)では脱離している。また、C136 (a)の4本のクロスリンクに関与する炭素はC(1),C(3),C(5)およびC(8)であり、これらはSP2 炭素である。表1に示した2量体のうちPM−3レベルで最も安定な構造と予測されたのはC140 (c)であったことから、表2ではC140 (c)から得られるC136 (c)のΔHf 0 を比較の基準とした。表2からC136 (a)および(b)の構造が大きく安定化すること、またC136 (e),(f)および(i)は不安定化することがわかる。また、全てのC140 およびC136 構造の単位炭素原子当たりのΔHf 0 の計算値を評価すると、C140 からC136 構造への過程で構造緩和するのはC140 (a)および(b)からC136 (a)および(b)への過程のみである。従って、MNDO近似レベルの計算から、C70のクロスリンクにおいては、初期過程の[ 2+2 ]環状付加反応の部位が分子主軸が通る両端の5員環の付近に限定されるのみならず、C136 のようなπ共役系のクロスリンク構造も、C(2)−C(4)結合間の環状付加反応によるC70の2量体から得られるC136 のみに限定されることが示唆される。なお、図12に示した構造の緩和過程で生成する、より安定なC136 の分子構造を図13に示す。
【0058】
このようなプラズマ等の電磁波誘起の重合法で得られるC60の重合体膜の導電性は半導体的であり、暗電流の温度依存性から評価したバンドギャップは1.5〜2eV程度である。大気中の酸素拡散の影響が蒸着膜に比べて著しく少ないこともまた重合膜の特徴である。マイクロ波パワー200Wで得られるC60重合膜の暗電流は10-7〜10-8S/cm程度であるのに対し、同じマイクロ波パワーで得られるC70重合膜では10-13 S/cm以下とほぼ絶縁体である。このような重合膜の電気電導性の違いはその重合膜の構造に起因すると考えられる。C60重合膜の場合、図4の[ 2+2] 環状付加反応による1,2−(C602 の2量体のクロスリンクは、2分子のC60が開殻ビラジカル状態となる1本のクロスリンクボンド同様に、導電性の向上には寄与しないと考えられる。これに対し、C116 の様な分子間クロスリンクはπ共役系を形成することから、導電性の向上に寄与すると考えられる。C118 ,C114 ,C112 等のクロスリンク構造についても現在検討中であるが、1,2−(C602 のクロスリンク部位の炭素の脱離と再結合からなる、導電性に寄与するπ共役したクロスリンクであると考えられる。
【0059】
通常、導電性はフラーレン分子間の導電性のクロスリンクの数に対してリニアーに増加するのではなく、ある一定の数で浸透限界を超えて大きく変化するはずである。前述したように、C70の場合にはC60に比べ[ 2+2 ]環状付加応の確率が低いのみならず、C140 からC136 の様な導電性のクロスリンク構造への構造緩和も特定の部位のみでしか起こりえないと考えられる。従ってC60の重合体膜には導電性に寄与するクロスリンクの数が多く浸透限界を越えているが、C70の場合には低い重合の確率と導電性のクロスリンクの形成の制限から浸透限界を越えていないことが、両者の大きな導電性の違いの原因と考えられる。
【0060】
以上、フラーレン分子の発見からその蒸着膜及び重合体膜、さらには重合のメカニズムについて縷々説明してきた。さて、ここから、フラーレン分子の製造方法、その蒸着膜及び重合膜の製膜法(重合法)について、適宜、図面を参照しながら具体的な説明に入る。
【0061】
まず、原料としてのフラーレン分子は、C60、C70、高次フラーレンが使用でき、これらはそれぞれ単独に、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。特に好ましいのは前述したC60フラーレンか、C70フラーレンか、又はこれらの混合物であり、これらにはさらにC70、C78、C80、C82、C84・・・・などの高次フラーレンが含まれていてもよい。
【0062】
これらのフラーレン分子は、たとえば図35に示すような装置を用いて炭素電極のアーク放電法により製造することができる。
【0063】
この装置の反応容器8内には、交流又は直流電源9に接続された一対の炭素電極、たとえばグラファイト製対向電極10a、10bが取付けられている。まず、反応容器8内を真空ポンプで排気口11bから脱気したのち、低圧の不活性ガス(ヘリウム、アルゴン等)を導入口11aから導いて、反応容器8内に満たす。
【0064】
そして、対向電極10a、10bの端部を、間隙を介して対向させ、直流電源9から所定の電流、電圧を印加し、対向電極10a、10bの端部を所定の時間だけアーク放電の状態に維持する。
【0065】
このアーク放電により対向電極10a、10bは気化し、反応容器8の内壁面に取付けられた基板12上に煤(スス)が次第に付着するようになる。この付着量が増えてきたら、反応容器8を冷却し、基板12を外に出すか、あるいは掃除機などを用いて、煤を回収する。
【0066】
この煤はC60やC70を始め種々のフラーレン分子を含有しており、条件次第では約10%以上ものフラーレン分子を含むことがある。
【0067】
60やC70などのフラーレンは、この煤からトルエンやベンゼン、二硫化炭素などのπ電子系の溶媒を用いて抽出できる。この段階を経て得られるフラーレンは粗製フラーレンと呼ばれ、さらにそれを例えばカラムクロマトグラフィーにかけると、C60及びC70をそれぞれ単体として分離精製することができる。
【0068】
このようにして得られたフラーレン分子は、フラーレン蒸着膜及びフラーレン重合体の製膜に際し、原料となるものである。その製膜法としては下記の蒸着法、光重合法、電子線重合法、X線重合法、プラズマ重合法、マイクロ波重合法及び電解重合法、などが挙げられる。
【0069】
フラーレン蒸着法:
この蒸着法は、装置として真空もしくは低圧に維持できる反応室と、この反応室内に、フラーレン分子を気化させる抵抗加熱等の加熱手段とを備えたものを使用する。フラーレン分子は加熱によって気化し、基板(すなわち前記炭素系薄膜を形成した基板、以下同様)上に蒸着膜を形成する。
【0070】
光重合法:
この重合法は、装置として反応室と、フラーレン分子を気化させる抵抗加熱等の加熱手段と、反応室の窓を通して紫外線等の光を照射する照射手段とを備えたものを使用し、フラーレンを蒸着しつつ紫外光の照射を一定時間続けることによって、基板上にフラーレン重合体膜を形成するものである。この際、フラーレン分子は光によって励起され、この励起状態を経て重合する。
【0071】
なお、上記のように蒸着の過程ではなく、いったん蒸着膜を形成したのちこれに紫外線等を照射しても重合が起るが、この場合は膜の表層のみが重合体化し、膜内部は重合しないことがあるから、注意すべきである(本発明者による実験でも、紫外線の照射でフラーレン蒸着膜の表面にヒビ割れ模様の生じ得ることが、顕微鏡で観察されている)。
【0072】
電子線重合法:
これは前記紫外線等の光に替えて電子銃から発射される電子線を使用するものである。重合の原理は前記光重合法と同様で、フラーレン分子は電子線により励起されて、この励起状態を経て重合する。
【0073】
X線重合法:
これは前記電子線に替えてX線管より発射されるX線を使用するもので、重合の原理は前記電子線と同様である。フラーレン分子はX線により励起されて、この励起状態を経て重合する。
【0074】
プラズマ重合法:
高周波プラズマ法、直流プラズマ法、ECRプラズマ法等があるが、ここでは図面を参照して、普及度の高い高周波プラズマ法について説明する。
【0075】
図36は高周波プラズマ重合装置を示すもので、真空容器13内に1対の電極14a、14bが対向配置され、これらは外部の高周波電源15に接続されており、一方の電極14b上にはフラーレン重合体膜を付着させるための基板16が、セットされている。
【0076】
また、この真空容器13内には、原料のフラーレン分子を収納するモリブデンボート等の容器17が配設され、これは外部の抵抗加熱用電源18に接続されている。
【0077】
このような構造の重合装置において、まず排気口20より脱気した真空容器13内にたとえば低圧の不活性ガス(アルゴンその他)を導入口19から供給し、器内を同ガスで満たしてから容器17に通電してこれを加熱し、中のフラーレン分子を気化させる。そして、高周波電源15から高周波電圧を印加して電極間に高周波プラズマを発生させるとともに前記フラーレンの気体中に照射すると、フラーレン分子は励起されて基板16上にπ電子骨格を保持したフラーレン重合体の膜を形成することができる。
【0078】
なお、高周波電源15は直流電源に替えてもよいし(直流プラズマ法)、またこれらの電源を駆動せずに(従ってプラズマは発生しない)容器17を加熱した場合は、フラーレンは重合しない代わりにその蒸着膜が基板16上に形成される。
【0079】
基板16の温度は、余り高くするとフラーレン重合体膜の付着量が低下するので、通常は300℃以下に保たれ、100W程度のプラズマパウワーなら、70℃を越えることは殆どない。
【0080】
マイクロ波重合法:
図37にマイクロ波重合装置を示す。これは原料供給源としてフラーレン分子を収納するモリブデンボート等の容器21と、この容器21から気化、飛翔するフラーレン分子にマイクロ波22を作用させるマイクロ波作用部23と、このマイクロ波22による誘起(励起、非平衡プラズマ化)によってフラーレン重合体を生成させ、それを気体24上に製膜する反応室25と、前記マイクロ波22を発生させるマイクロ波発生装置とからなる。
【0081】
容器21近傍の重合装置の内壁には、アルゴンガス等のキャリアガスを装置内に導入するためのガス導入管26が開口している。このキャリアガス27は、フラーレン分子28を随伴しこれを反応室25内の基体24上に導くキャリア能を有するだけでなく、次のようにして基板24の表面を改質する能力をも備えている。
【0082】
すなわち、フラーレン分子28を装置内へ供給する前に先ずキャリアガス27を導入し、それをマイクロ波作用部23にて励起させ、反応室25内の基体24の表面にボンバードさせると、励起されたキャリアガス27により基体24の表面がエッチングされて、その上に付着するフラーレン重合体膜との接着性もしくは密着性が、向上するのである。
【0083】
前記マイクロ波発生装置(マイクロ波ユニット)は、マイクロ波発振源29と、アイソレータ30と、パワーメータ31と、スリースタブチューナー32と、反射キャビティ34とを、導波管35によって接続した構造を有する。これらの構成部のうち、マイクロ波発振源29はマグネトロン等の発振源からなり、アイソレータ30はマイクロ波の整流能を有し、パワーメータ31はマイクロ波のパワーの検出能を有し、スリースタブチューナー32はマイクロ波の発振数を調節しその整合能を有する装置、そして反射キャビティ34は、マイクロ波を反射するとともに波長を整合することによって、マイクロ波作用部23でのマイクロ波を定常波にするための装置である。
【0084】
反応室25としてはキャリアガス27とフラーレン分子28の流路である共振管36より大径に構成することができ、共振管36のマイクロ波作用部23で効率よく且つ高密度に誘起されたフラーレン分子を、支持体(図示せず)に設けられたシリコンなどの基板24上に導き、そこにフラーレン重合体膜を均一に製膜させることができる。なお、反応室25には真空排気系37が設けられていて、反応室25内を所定の圧力に保持できるようになっている。
【0085】
基板24を取付ける前記支持体は導電性でも絶縁性であってもよく、また加熱手段(通電手段など)を備えていてもよい。
【0086】
このようなマイクロ波重合装置を使用するときは、まず反応室25の内部をたとえばアルゴンガスで0.05〜1Torr程度に保持し、容器21を加熱手段により加熱して中のフラーレン分子を気化させる。そして、これにマイクロ波作用部23にてたとえば13、56MHz程度の高周波プラズマを照射する。このようにすると、フラーレン分子は励起されて、基体24上にフラーレン重合体膜が形成される。
【0087】
基体24の温度は通常、300℃以下でよい。300℃を超えると、フラーレン重合体膜の付着量が低下することがある(なお、バイアスをかけると、フラーレン重合体膜が付着し易くなる)。製膜時の基体24の温度を上記通常範囲に維持するのに、特別な制御は必要としない。たとえば、マイクロ波のパワーが100W程度であれば、100℃を超えることは殆どない。ただし、基体24をマイクロ波作用部23に置くようなことをすると、1000℃付近まで昇温することがある。
【0088】
電解重合法:
図38は電解重合装置の一例を示しており、電解セル38には、ポテンシャルスタット41に接続された陽極としての電極39と陰極としての電極40とが設けられるほか、同じくポテンショスタット41に参照電極42が接続されていて、電極39と40との間に所定の電気ポテンシャルが印加されるようになっている。
【0089】
また、電解セル38には、非水溶媒43から酸素ガス等を除去するために、不活性ガス44を導入するガス導入管45が設けられている。さらに、電解セル38の下部には、同セル内の攪拌子(図示せず)を動かすための、マグネックスターラー46が取付けてある。このマグネックスターラー46には、電解中の温度を制御するため、ヒータ(図示せず)が取付けられている。
【0090】
このような構造を有する電解重合装置を稼働するには、電解セル38内に、原料となるフラーレン分子と、電解を促進させるための支持電解質と、非水溶媒43とを仕込み、ポテンショスタット41を動作させて、電極39、40間に所定の電気エネルギーを作用させる。すると、フラーレン分子の多くはアニオンラジカルとなり、フラーレン重合体が負電極40上に薄膜及び/又は沈澱物として形成される。なお、沈澱物として得られた球状フラーレン重合体は、濾過や乾燥等の手段により容易に回収することが可能であり、回収後はそれを固めたり、あるいは樹脂に練り込んだりして、薄膜に形成することができる。
【0091】
なお、電極39及び40としては、金属電極が望ましいが、他の導電性材料で形成されていてもよく、また、ガラスやシリコン等の基板上に金属などの導電性材料を蒸着したものを用いてもよい。参照電極42の材料についても、支持電解質にも依存するが、特定の金属に限定する必要はない。
【0092】
不活性ガス44による非水溶媒43中の酸素等の除去は、通常、ヘリウムガスのバブリングによって行うことができるが、ヘリウムガスの代わりに他の不活性ガス、たとえば窒素やアルゴンなどを用いてもよい。なお、酸素等の除去を徹底させるには、念のため電解前に予め脱水剤で非水溶媒(後述の第1溶媒と第2溶媒とからなる)を脱水処理しておき、さらに真空脱気を行ってそれぞれの溶媒をアンプルに保存し、真空ラインを通じて電解セル38中に導入するようにするとよい。
【0093】
いずれにせよ、非水溶媒43から酸素等を除去するのは、酸素等がフラーレン重合体膜中に取込まれるのを防ぎ、常磁性中心の発現を抑制し、以って、フラーレン重合体膜の安定性を向上させるために他ならない。
【0094】
前記支持電解質としては、例えば、テトラブチルアンモニウムパークロライド、リチウムテトラフルオロボラート(LiBF4 )、リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6 )、過酸化ナトリウム(NaClO4 )、LiCF3 SO3 、リチウムヘキサフルオロアーセナイト(LiAsF6 )などを使用することができるが、これらの支持電解質を使用した場合、得られる球状炭素重合体は電解質溶液中で沈澱することが多い。
【0095】
これに対して、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4 )又はtert−ブチルアンモニウムパークロレート塩を用いると、電解重合反応の際の温度にもよるが、電極上に薄膜として球状炭素重合体を得ることができる。
【0096】
また、前記支持電解質の選択の如何によっては、電極上に形成されるフラーレン重合体膜の物性に多少の影響が及ぶことがある。一般に、非水溶媒中にアンモニウム塩のような大きな正イオンがカウンターイオンとして存在する場合は、電極上に比較的力学的強度のもろいフラーレン重合体膜が付着する傾向があり、それに対してリチウムイオンがカウンターイオンとして存在する場合は、力学的強度の大きな、鏡面を呈するフラーレン重合体膜が得られる。
【0097】
また、本発明では、前記非水溶媒として、フラーレン分子を溶解する第1溶媒と、前記支持電解質を溶解する第2溶媒との混合溶媒を使用することが望ましい。その混合割合は、第1溶媒:第2溶媒=1:10〜10:1(容量比)が望ましい。
【0098】
第1溶媒としては、π電子系を有する極性の低い溶媒(低極性溶媒)を使用することが好ましく、例えば、二硫化炭素(CS2 )、トルエン、ベンゼン及びオルトジクロルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種の溶媒等が挙げられる。
【0099】
また、第2溶媒としては、極性が高く、誘電率の大きい溶媒を使用することが好ましく、例えば、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルアセトアミドからなる群より選ばれた少なくとも1種の有機溶媒が挙げられる。なかでも、アセトニトリルが特に好ましい。
【0100】
一般に、フラーレン分子は、二硫化炭素を始めとする低極性溶媒にしか溶解せず、n−ヘキサン等の脂肪族系溶媒に対する溶解度さえ極めて低い。当然、極性溶媒には溶解せず、このことがフラーレン分子の電解重合を行う際の最大の問題点である。
【0101】
なぜなら、通常、電解重合で用いられる支持電解質は、水などの極性溶媒にしか溶解しないからである。
【0102】
フラーレン分子の電解重合を行うには、フラーレン分子と支持電解質の両者を同時に溶解できる溶媒を選択する必要があるが、この条件を満たす溶媒は、単体では存在しない。少なくとも、上記溶解性能をそれぞれ備えた個々の溶媒からなる、混合溶媒が必要である。
【0103】
しかし、かかる混合溶媒でありさえすればどんなものでもよいかと言うと、必ずしもそうとは限らない。単に、このような混合溶媒を用いただけでは、フラーレン分子及び支持電解質のいずれか一方、あるいは両者の溶解度が十分でないことが多いのである。
【0104】
たとえば、一般に水を始めとする水系溶媒は塩である支持電解質の良好な溶媒として知られているが、フラーレン分子を溶解できる低極性溶媒とは十分溶解しないので、両者からなる混合溶媒は、好ましいとは言えない。
【0105】
本発明者の研究によれば、本発明に用いる好ましい混合溶媒としては、第1溶媒と第2溶媒とからなり、このうち第1溶媒としては低極性溶媒を用い、第2溶媒としては極性が高く、かつ誘電率の大きな有機溶媒を用いることが望ましい。
【0106】
この第2溶媒の具体例については前記のとおりであるが、中でも最も適切なのはアセトニトリルである。このアセトニトリルは、電解セル中で支持電解質の存在下に有機物のラジカルを調製する際に、よく用いられる溶媒である。
【0107】
しかし、本発明では第2溶媒としてこのアセトニトリルに特に限定する必要はなく、前記したようにジメチルホルムアミドやその他の溶媒も、本発明の目的達成に好ましいのである。
【0108】
電解重合時のポテンシャルのかけ方は、電流一定モード、電圧一定モードのいずれかを選ぶことができる。前者の場合は、電極上に高抵抗のフラーレン重合体膜が形成されると、電流値が低下し電圧が高くなる傾向となる。このような状況になると、フラーレンのポリアニオンの状況が異なるために、一定の反応を維持することが困難となる。したがって、通常は、電流値の低下こそ否めないものの、電圧一定のモードで電解重合を行うことが好ましい。
【0109】
単にポテンシャル一定の条件で電解重合を行う場合、電源としては図示したポテンシオスタットに限定する必要はなく、市販の乾電池と可変抵抗とを組み合わせた簡単なDC電源でも十分である。
【0110】
本発明者は図38のような装置を使用して種々の支持電解質の存在下にフラーレンの重合を行った。その分析によると、フラーレン分子は溶解すると、アニオンラジカル(電気的に負)となる。これが電気的に中性のフラーレン分子と反応するか、あるいはアニオンラジカル同士が反応するために、電極上にフラーレン重合体膜が形成される。この重合の過程では極めて微妙な温度制御、電解ポテンシャルの制御が要求される。既述した特定の混合溶媒を用いれば、フラーレン分子の溶解及び電荷の付与はそう難しくはないが、重合が電極表面ではなく、混合溶媒中で生じた場合は、フラーレン重合体は溶解度の低さから沈澱してくる。この沈澱物が多量であると、電極表面へは効率よく付着せず、薄膜化の効率は低くなる。一般に、反応を加速するための加熱を行わず、リチウムを支持電解質の正イオンとして反応させた場合に、強固で光沢のあるフラーレン重合体膜が得られる。
【0111】
上述したフラーレンの電解重合法は、もともと、C60フラーレンの[ 2+2 ]シクロ付加結合のみからなるフラーレン重合体膜を得ることを目的に、本発明者が開発した技術であり、このような重合体は他のプラズマ重合法などの気相反応からは得られないものである。ここで、前記のような電解重合反応が熱力学的に可能かどうか、反経験的レベルの分子軌道計算に基づく考察を行った。カウンターイオンをリチウムとすると、リチウムの原子パラメータが設定されているMNDO近似の計算結果は、C60、C60−Li、C120 −Li、C120 −L2に対して以下のような生成熱の値を予測した。
60 : 869.4181 kcal/mol
60−Li : 763.001 kcal/mol
120 −Li : 1525.716 kcal/mol
120 −Li2: 1479.057 kcal/mol
ここでC120 は図4に示したような環状付加したC60の2量体であり、リチウムイオンはクロスリンク構造のフラーレン2分子に挟まれたような形で存在する構造が最も安定な構造である。また上記化合物中リチウムを含む系の計算はすべて非制限ハートリーフォック法により行った。この計算結果から以下の様な結論が導かれる。
(1)C60はリチウムが配位することにより大きく安定化する。これはC60の最低空軌道が自由電子に比べ著しく低い位置に存在することによる。
(2)C60+C60−Li=C120 −Liの反応熱は−106.703 kcal/molと予測され、大きく安定化する。
(3)2C60−Li=C120 −Li2の反応熱は−46.945 kcal/mol と予測され、同じく発熱反応である。これらの計算結果はあくまでも真空中での始状態と終状態とのエネルギー差であり、反応のポテンシャル障壁を求めるものではない。しかしながら反応に際して立体障害等のエントロピーの寄与が少ない場合には系の自由エネルギーとよい相関性を持つことから、上記反応は容易に起こることがこの計算結果からも支持される。
【0112】
以上、各種重合法により得られたフラーレン重合体膜の表面は、フラーレンの分子構造が部分的に残存するため、多数の2重結合性の結合が存在する。そのため、様々な方法で表面修飾(表面処理)することが可能である。
【0113】
たとえば、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、ブタン、トルエン、ベンゼン、アセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノールなどの炭化水素のガスや、酸素、水素、塩素、フッ素などのガスの雰囲気の下で、フラーレン重合体膜をマイクロ波誘起、直流プラズマ、交流プラズマなどの手法を用いて表面修飾することができるし、あるいは又、溶液中で金属錯体や有機ラジカルを利用してフラーレン重合体膜を表面修飾することができる。
【0114】
このような表面修飾は、目的や用途に応じて、フラーレン重合体膜を改質したり、あるいはそれに特異性を付与するのに有効である。
【0115】
ところで、フラーレン重合体膜、とくにマイクロ波重合法で得られるフラーレン重合体膜には、ダングリングスピンの問題がある。たとえば、C60及び/又はC70を原料とし、パワーを100Wから数百Wとし、常温でマイクロ波重合を実施すると、およそ1018spings/g程度のダングリングスピンを含むフラーレン重合体膜が得られる。
【0116】
このダングリングスピンは、フラーレン重合体膜の導電性やバンド構造、あるいは物性の経時的安定性に大きな影響を及ぼす。
【0117】
このダングリングスピンが形成されるのは、理想的なクロスリンク構造が形成されなかったためと考えらえるが、その含有量は、フラーレン重合体膜を付着させるための基板の温度を調節したり、製膜後に水素プラズマ等の雰囲気にさらすことによって、ある程度減少させることが可能である。その減少の過程は、電子スピン共鳴法による吸収強度の違いから確認することができる。
【0118】
以上の方法により、本発明で基本となる基体−炭素系薄膜−フラーレン系薄膜積層体が製作できるが、本発明では目的や用途に応じて、この積層体に更なる工夫を施すことができる。たとえば、特に太陽電池の用途向けには、上記フラーレン系薄膜上に光透過性電極を形成するとよいし、また特にセンサーの用途には、上記炭素系薄膜上に櫛形電極を形成するとよい。
【0119】
次に、本発明を実施の形態の例に基づいてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0120】
例1
炭素系薄膜を形成するため、図39に示すような製膜装置を組立てた。この製膜装置は、簡易型の有機溶剤ガスバブラ50と、これにキャリアガスを供給するガスボンベ51と、有機溶剤ガスを熱分解する簡易型の電気炉52とから構成され、ガスボンベ51と有機溶剤ガスバブラ50との間の流路、及びガスボンベ51と電気炉52との間の流路には、流量調節用のニードルバルブ53が取付けられてある。
【0121】
電気炉52は炉心の直径が30mmで、電熱器52aの中に石英管52bが挿入され、この石英管52bの内部には、外部の電熱器温度コントローラ52cと接続する熱電対52dと、この直上に位置する石英(ガラス製)基板52eとがセットされ、石英基板50eの製膜温度が正確にモニターできるようにしてある。なお、石英基板50eの温度制御には、PID制御のリレー回路を連動させるようにした。このように構成された製膜装置は、1℃以内の温度誤差内で炭素系薄膜の製膜が可能である。
【0122】
まず、電気炉52の温度を800℃に設定し、石英基板52eを石英管52bに挿入したのち、この石英管52b内にガスボンベ51からアルゴンガスを導入して、同管内をアルゴンガスで満たした。このアルゴンガスの純度は99.999%である。
【0123】
石英管52b内部が完全にアルゴンガスの雰囲気となり、温度が800℃となった時点で、有機溶剤ガスバブラー50を通して、石英管52b内部に向かってトルエンガスの流入を開始した。なお、有機溶剤ガスバブラー50に導入するアルゴンガスの流速は、50ml/分に保った。
【0124】
トルエンのバブリングを30分行ってから、再度アルゴンガスだけを石英管52b内へ流入させ、電気炉52を徐冷し、4時間後にほぼ室温に冷却されたことを確認したのち、石英基板52eを石英管52bから取り出した。この石英基板52eの表面には鏡面を呈する炭素薄膜が形成されていた。
【0125】
例2
例1と同様の製膜を、今度はシリコン基板に対して行った。この際、2枚のシリコン基板を作製し、一方は研磨加工ずみ、もう一方は未研磨の基板とした。電気炉を冷却したのち、2枚のシリコン基板を取り出したところ、研磨加工したシリコン基板上には、シリコンと同様の鏡面を呈する炭素薄膜が形成され、色もシリコン基板と酷似していたのに対し、未研磨のシリコン基板の方は、表面に黒色の炭素薄膜が形成され、この薄膜は極めてもろいものであった。
【0126】
以上で、炭素薄膜の密着性又は製膜性というものが、基板表面のラフネスに大きく依存していることが明らかである。
【0127】
次に例1および2で製膜した炭素系薄膜(例2は研磨した基板上の炭素薄膜)の硬度を測定した。その結果、例1も例2も基板上の炭素薄膜はいずれもビッカース硬度が520〜540で、シリコン結晶ほどではないものの、著しく強固な炭素薄膜であることが、確認できた。
【0128】
例3
例2で研磨ずみシリコン基板上に形成した炭素薄膜の構造を明らかにするためにLascr-Desorption-Ionization Time-of-Flight法による質量分析を行った。測定にはThermoquest Vision 2000 TOF-MSモニターを用いた。アブレーションに用いたレーザは窒素レーザである。測定に先立ち、シリコン基板を5mm角に切断し、TOF-MSモニターのターゲット上に設置した。測定は炭素薄膜表面を直接パルスレーザ照射により励起し、脱離、イオン化を行うもので、観測は正イオンとした。図41、図42及び図43はそれぞれレーザ強度を強くした場合のスペクトルである。ただし、図42におけるレーザパワーは炭素の電子価状態を変えるほど強いものではない。
【0129】
図42から明らかなように炭素数20程度までのクラスターは炭素1個分の差の連続ピークとして観測され、主としてsp3の原子価状態にある成分に帰属される。図43でも炭素数30程度までのクラスターは主としてsp3の原子価状態にある成分に帰属される。一方さらにレーザーパワーを上昇させた場合に、炭素数50から150程度までのC2の差を持つ連続ピークが観測される。これは一般にsp2のグラファイト構造を有する炭素に特有のピークである。これらのことから、この炭素薄膜はランダムなsp3炭素の中に極めて小さなグラファイトの構造を有していることがわかる。
【0130】
例4
例3で得られた知見をさらに確認することを目的として炭素薄膜のX線回折を測定した。なおX線、及び後述するラマン測定に際しては、再度同じプロセスでより厚い炭素薄膜を製膜した。RIGAKU RAD III を用い、線源はCu−Kαである。図44に得られた回折を示す。同図の上の回折パターンは石英ガラス表面に形成された炭素薄膜のもので、単一のブロードな回折線がえられ、グラファイトの(002)回折線に帰属される。ガラスは通常この角度付近にブロードな吸収線を示すので、同じ測定をシリコン基板上に製膜した炭素薄膜についても行った。その結果は図44の下に示すように、ほぼ上と同様なパターンが得られた。このことから、得られた炭素薄膜は極めて微小なグラファイト構造を含有することが明らかとなった。
【0131】
また、同じ炭素薄膜の構造をさらに明らかにするため、ラマン測定を行った。その結果を図45に示す。明らかに1350cm−1付近のDisorderバンドと1600cm−1付近のグラファイトバンドが観測され、アモルファスカーボンの特徴がよく反映されたスペクトルである。
【0132】
例5
これまで述べてきたように本発明で基本となる炭素薄膜は、基板の表面のラフネスに大きく依存して形成される。そこで、平滑表面に形成される炭素薄膜そのものの表面の平滑性をチェックするために、AFM測定を行った。Nanoscope III を用い、タッピングモードの測定を行った。
【0133】
図46にタッピングモードAFMのイメージを示す。図47には図46のイメージの表面の粗さを示すイメージを示す。このイメージから、基板表面の粗さは最大でも1nm程度であり、極めて平滑であることがわかる。
【0134】
例6
また、炭素薄膜の電子的な特性を明らかにすることを目的として光電子放出スペクトルの測定を行い、価電子帯エッジレベルの評価を行った。図48に得られたスペクトルを示す。この測定から炭素薄膜のエッジレベルは、真空準位下4.6evにあることが明らかとなった。もしこの薄膜がグラファイトのような金属的な導電性を有するならば、この値はフェルミレベルとなる。
【0135】
例7
この炭素薄膜が金属的導電性を有するのかあるいは半導体的なのかを明らかにするために、液体窒素温度から常温までの温度領域で導電性の測定を行った。結果を図49に示す。この図から、炭素薄膜の導電性の温度依存性が極めて小さい特徴を有することが明らかとなった。また低温に比較して高温領域出は僅かに導電性の向上が見られることから、金属的ではないことが示された。さらに縦軸に示した導電性から明らかなように、この炭素薄膜は高い導電性を有する。
【0136】
例8
さらに石英基板上に製膜した炭素薄膜の吸収係数と導電性の関係を図50に示す。吸収スペクトルの測定はオプティカルバンドギャップの端まで正確に行うことは出来なかったが、縦軸を吸収係数の平方値とフォトンエネルギーが直線になることは、スキンデプス吸収の特徴をよく表すものである。
【0137】
例9
次に、石英基板上に白金電極をスパッタにより形成し複合基板を得、さらにその上に例1と同様にして炭素薄を製膜した。この炭素薄膜を形成した複合基板を図36に示すようなプラズマチャンバーに設置し、モリブデンボートに充填したC60を抵抗加熱により気化させながら、フラーレン重合体膜の形成を行った。この重合体膜の厚みは1000オングストロームである。図51に最表面のC60プラズマ重合体膜のタッピングモードAFM像を示す。このC60重合体膜の表面の粗さはほぼ2nm以内であった。
【0138】
例10
例9と同様にして複合基板上に炭素薄膜を製膜した。次に、この炭素薄膜上に下記のようにして電解重合によりフラーレン重合体膜を製膜した。
【0139】
まず、予備テストとして図38に示すような電解重合装置において、電極として白金電極をセットし、支持電解質にLiClO4 を、また溶媒にトルエン:アセトニトリル比1:4の混合溶媒を用い、この溶媒中にフラーレン分子(C60)を溶解させた。
【0140】
この溶液を用いて還元ポテンシャルを測定したところ、レドックスポテンシャルカーブを得、第1イオン化及び第2イオン化等のポテンシャルを決定することができた。続いて、第1イオン化ポテンシャルで低圧モードで電解を行った結果、白金電極上にフラーレン重合体膜を得ることができた。
【0141】
このフラーレン重合体膜につき、FTIR(フーリエ変換赤外スペクトル)及び核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、このフラーレン重合体膜にはC60
分子が本来の構造で存在しないことが分かった。
【0142】
次に、前記炭素薄膜を有する複合基板を前記電解重合装置の電解セル中に電極代わりに設置し、溶媒としてトルエン:アセトニトリル比1:1の混合溶媒を用い、この混合溶媒に少量のC60分子を溶解して、電解重合を行った。その結果、複合基板の炭素薄膜上に薄茶色をしたフラーレン重合体膜が製膜された。このフラーレン重合体膜は柔らかいので、AFMの測定は困難であった。
【0143】
例11
例1と同様の手順で炭素薄膜付き複合(白金スパッタ)基板を製作した。この複合基板を蒸着材に設置し、10-8Torrの圧力下でC60分子の蒸着を行った。炭素薄膜上に形成されたフラーレン蒸着膜のラフネスを調べたところ、図51に示したプラズマC60重合体膜と酷似していた。
【0144】
例12
石英基板上に金電極をスパッタにより形成し、この石英基板上に例9、10及び11と同様にしてそれぞれC60プラズマ重合体膜、C60電解重合体膜及びC60蒸着膜を製膜し、これらの薄膜の光電放出スペクトルを観測した。
【0145】
その結果を図52に示す。この図から分るように、これらのフラーレン系薄膜の価電子帯エッジレベルはそれぞれ、5.57、5.68及び6.25eVと評価できた。また、これらの薄膜の光学的バンドギャップはそれぞれ1.5、1.4、及び1.6eV程度であることから、例9、10及び11で製作した炭素接合は、価電子帯の表面レベルで最低1eV程度の差異を有することが分かった。
【0146】
例13
石英基板上に金電極をスパッタにより形成し、例1と同様にして、さらにその上に炭素薄膜を製膜した。この炭素薄膜のフェルミレベルを接触電位法で測定した結果、4.6eVと評価された。
【0147】
この測定結果は、図48に示した光電放出法による価電子帯エッジレベルと、ほぼ一致している。この炭素薄膜は、導電性の評価からバンドそのものはきわめて小さいと考えられるが、明らかにP−タイプの半導体の特徴が観測される。
【0148】
一方、フラーレン重合体膜は、その3次元的に閉じたπ電子系である超芳香族性から、電子受容性を有する。
【0149】
例9、10及び11で製膜した炭素薄膜とフラーレン系薄膜の接合構造は、光照射等により発生したキャリアーの分離に有用な構造であり、たとえばガラス基板−ITO電極−炭素薄膜−フラーレン系薄膜−アルミニウム電極のような複合構造体とすると、とくに太陽電池向けに好適である。図53にはこの構造体の光照射時のIV特性を示すが、適度な性能を有していることが分る。
【0150】
ただ、この場合に問題となるのは、ITOなど光透過性電極上に炭素薄膜を形成する際に、光透過性電極の導電性が損なわれることである。
【0151】
こうした問題を避けるためには、ガラス基板−薄い金電極−炭素薄膜−フラーレン系薄膜−アルミニウム電極のような複合構造体とするのが好ましい。このような複合構造体が太陽電池セルとして機能することは、光照射前後のI−V特性から分かるが、この種の用途に最適な複合構造体とするためには、炭素薄膜のバンドギャップ、フラーレン系薄膜の厚み、電極材料のフェルミ表面準位など、種々のファクターの吟味が必要である。
【0152】
例14
例1と同様にして製作した基板−炭素薄膜−フラーレン重合体膜からなる複合構造体の上に、さらに金の櫛形電極を形成し、ガスセンサーとしての機能をチェックした。
【0153】
その結果、水、アセトアルデヒド、フォルムアルデヒド、アンモニア、ギ酸等に対して、導電性が明瞭に変化(例えば増大)することが観測できた。これらの現象は表面平滑性炭素薄膜に直接櫛形電極を設置した場合でも同じように観測され、炭素薄膜のない電極だけを設置したものをレファレンスとした場合、明瞭な差異が認められた。
【0154】
また、例1で作成した炭素薄膜に櫛形電極を設置し、10-8Torrの真空下、300℃で3時間加熱後、冷却し、10-8Torrから10-1Torrのアルゴン雰囲気で導電性の変化を調べた。
【0155】
その結果、この圧力範囲での導電性が5桁以上変化することが認められ、圧力センサーとして機能することが示された。また、炭素薄膜の上に120オングストロームの厚みでプラズマ誘起フラーレン重合体膜を製膜した。この場合の構造は図1(C)のようになっている。
【0156】
このような構造でも同様に、圧力に対して良好な導電性の変化が見られたが、上に述べたフラーレン重合体膜がない場合との際だった特徴は、この構造では減圧、加圧のサイクルに対して導電性の再現性が非常に良いということである。このことは、フラーレン重合体膜がパッシブ層として機能していることによると考えられる。
【0157】
次に、例1と同様にして石英基板上に炭素薄膜を製膜した。その際、基板の温度を750℃、800℃、850℃と変化させて3枚の炭素薄膜を製膜し、それぞれの導電性を評価した。
【0158】
その結果、50℃の温度上昇にともない、共に約5倍の導電性の向上が見られた。これらの結果は温度の上昇に伴ってグラファイト化の程度が異なり、温度が高いほうがよりグラファイトの寄与が大きいことを示すが、これは一般によく知られた現象である。
【0159】
例15
図40に示すような製膜装置を用いて、次のようにして石英基板上に炭素薄膜を製膜した。
【0160】
すなわち、図39の装置から有機溶剤ガスバブラー50の設置を省き、石英管52b内にフラーレン分子収納用のセラミックボート52fをセットし、このボート内に昇華精製したフラーレン分子(C60)を充填した。そして、セラミックボート52fを炉心に近づけながら、アルゴンガスをガスボンベ51から石英管52b内に供給した。
【0161】
一般に、フラーレンはアルゴンガス雰囲気中で安定だと言われているが、800℃で4時間の連続運転を行った結果、石英基板52e上に例1と同様の炭素薄膜が形成された。この炭素薄膜のラマン、TOF−MS、導電性等を測定した結果、例1とほぼ同じ結果が得られた。
【0162】
なお、電気炉52を冷却したのち、セラミックボート52fの中に残っていた試料を調べたところ、フラーレンが分解して小さなグラファイト構造が生成されていることが、確認できた。
【0163】
また、例1のトルエンの代わりにエタノールを熱分解して炭素薄膜を製膜したが、例1と全く同様の炭素薄膜が得られた。このことは、製膜が炭素原料(有機化合物)の種類に依存していないことを示している。
【0164】
例16
石英基板の上に1000オングストロームの膜厚でフラーレン蒸着膜を形成した。この際膜厚モニターの設定で、膜の比重は1.6とした。この薄膜を図39の装置の石英管内に設置し、アルゴンガスを満たした後に電気炉に設置し、温度を800℃まで上昇させた。電気炉を800℃に3時間維持したのち、冷却した。
【0165】
この結果、石英基板上のフラーレン蒸着膜の上に炭素薄膜が形成されたが、この炭素薄膜は例1や例15で得られた炭素薄膜とは異なって、フラーレン蒸着膜(ひいては石英基板)との密着性が不十分であり、もろい薄膜となり易かった。
【0166】
なお、本発明の炭素系複合構造体は、既述した基本的構成を有し、かつ発明の効果を阻害しない限りにおいて、上述の各層の材質や製膜方法、その積層順などを変更してよく、積層構造に種々の変化をもたせることが可能であり使用目的に応じて各層を複数層に分割したり、各層の層厚を任意に設計することができる。
【0167】
【発明の効果】
本発明の炭素系複合構造体は基体上に積層される炭素系薄膜とフラーレン系薄膜とが、ともに殆ど炭素から構成されているので、互いに親和性が良好であり、そのため両膜間の密着性は高い。
【0168】
また、炭素系薄膜は、基体の表面が平滑であればあるほどこれと強く密着でき、緻密で力学的強度の大きな膜に形成され、しかもその表面は基体表面に倣って(又は追随して)平滑面に形成されるので、更にその上に積層され得るフラーレン系薄膜とも、強く密着できる。
【0169】
そして、本発明の炭素系複合構造体は上記積層構造を有するが故に光誘起による電荷移動が可能であり、いわゆるドナー−アクセプタヘテロ接合を形成できるだけでなく、基質に対して導電性が明瞭に変化するので、耐久性のある太陽電池やセンサーとして好適な用途を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の炭素系複合構造体の断面構造を例示するものであって、(A)は3層構造体、(B)は5層構造体、(C)は光透過性電極を取付けた4層構造体を示す。
【図2】C60の分子構造を示す模式図である。
【図3】C70の分子構造を示す模式図である。
【図4】フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の2量体構造を示す図である。
【図5】フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造を示す図である。
【図6】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造〔C120 (b)〕を示す図である。
【図7】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造〔C120 (c)〕を示す図である。
【図8】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC60分子の他の2量体構造〔C120 (d)〕を示す図である。
【図9】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC118 分子の構造示す図である。
【図10】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC116 分子の構造示す図である。
【図11】C70分子のナンバリングシステムを示す図である。
【図12】フラーレン重合体の過程で生じるものと考えられるC70分子の2量体構造を示す図である。
【図13】フラーレン重合体の過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造を示す図である。
【図14】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の2量体構造〔C140 (a)〕を示す図である。
【図15】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (b)〕を示す図である。
【図16】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (c)〕を示す図である。
【図17】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (d)〕を示す図である。
【図18】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (e)〕を示す図である。
【図19】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (f)〕を示す図である。
【図20】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (g)〕を示す図である。
【図21】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (h)〕を示す図である。
【図22】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C140 (i):D2h対称)を示す図である。
【図23】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (a)〕を示す図である。
【図24】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (b)〕を示す図である。
【図25】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (c)〕を示す図である。
【図26】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (d)〕を示す図である。
【図27】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (e)〕を示す図である。
【図28】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (f)〕を示す図である。
【図29】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (g)〕を示す図である。
【図30】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (h)〕を示す図である。
【図31】同、フラーレン重合体の生成過程で生じるものと考えられるC70分子の他の2量体構造〔C136 (i)〕を示す図である。
【図32】C60重合体の構造の一例を示す図である。
【図33】C60重合体膜の構造の一例を示す図である。
【図34】C60蒸着膜の構造を示す図である。
【図35】アーク放電によるフラーレン分子の製造装置を示す図である。
【図36】プラズマ重合法によるフラーレン重合体膜の製造装置を示す図である。
【図37】マイクロ波重合法によるフラーレン重合体膜の製造装置を示す図である。
【図38】電解重合法によるフラーレン重合体膜の製造装置を示す図である。
【図39】本発明の一実施形態で用いられる炭素薄膜の製膜装置の概略構成図である。
【図40】本発明の他の実施形態で用いられるC60蒸着膜の製膜装置の概略構成図である。
【図41】炭素薄膜の一例のスペクトルと線図である。
【図42】レーザパワーを変えたときの、炭素薄膜のスペクトルを示す線図である。
【図43】レーザパワーをさらに変えたときの炭素薄膜のスペクトル線図である。
【図44】炭素薄膜のX線回折図である。
【図45】炭素薄膜のラマン測定図である。
【図46】炭素薄膜のタッピングモードAFMのイメージを示す図である。
【図47】図46のイメージの表面粗さを示す図である。
【図48】炭素薄膜の光電子放出スペクトルを示す図である。
【図49】炭素薄膜の導電性の測定結果を示す図である。
【図50】炭素薄膜の吸収係数と導電性の関係を示す図である。
【図51】C60プラズマ重合体膜のタッピングモードAFM像を示す図である。
【図52】C60プラズマ重合体膜、C60電解重合体膜及びC60蒸着膜の光電放出スペクトルを示す図である。
【図53】本発明に基づく炭素系複合構造体の光照射時のIV特性図である。
【符号の簡単な説明】
1…基板、2…炭素系薄膜、3…フラーレン系薄膜、4…電極、
5a、5b…光透過性電極

Claims (12)

  1. 基体と炭素系薄膜とフラーレン系薄膜との積層体からなる炭素系複合構造体において、
    前記基体が平均表面粗さ(Ra)1μm以下の平滑な表面を有し、
    この平滑な基体表面に接して、有機化合物の熱分解生成物からなる前記炭素系薄膜が 形成され、
    この炭素系薄膜の表面に接して前記フラーレン系薄膜が積層されている
    ことを特徴とする炭素系複合構造体
  2. 前記基体上に、第1電極と前記炭素系薄膜と前記フラーレン系薄膜と第2電極とがこの順に積層されている、請求項1に記載の炭素系複合構造体。
  3. 前記基体及び前記第1電極が透明である、請求項に記載の炭素系複合構造体。
  4. 前記炭素系薄膜の表面に、一対の電極が互いに離間した状態で形成され、少なくとも前記一対の電極間において前記炭素系薄膜の表面に接して前記フラーレン系薄膜が形成されている、請求項1に記載の炭素系複合構造体。
  5. 前記炭素系薄膜の表面に接して形成された前記フラーレン系薄膜の表面に、一対の電極が互いに離間した状態で形成されている、請求項1に記載の炭素系複合構造体。
  6. 前記フラーレン系薄膜がフラーレン重合体膜またはフラーレン蒸着膜である、請求項1に記載の炭素系複合構造体。
  7. 前記基体が、石英ガラス又はシリコンからなる単体基体、又はこの単体基体上に金属層を形成した複合基体からなっている、請求項1に記載の炭素系複合構造体。
  8. 基体の表面を1μm以下の平均表面粗さ(Ra)に平滑化する工程と、この平滑な基体表面接して、炭素系薄膜を有機化合物の熱分解により形成する工程と、この炭素系薄膜の表面に接してフラーレン系薄膜を形成する工程とを行う、炭素系複合構造体の製造方法。
  9. 前記基体を研磨し、この研磨された平滑面に前記炭素系薄膜と前記フラーレン系薄膜とをこの順に形成する、請求項に記載の炭素系複合構造体の製造方法。
  10. 前記フラーレン系薄膜をフラーレンの重合または蒸着により形成する、請求項に記載の炭素系複合構造体の製造方法。
  11. 前記フラーレンの重合法として、プラズマ重合法、マイクロ波重合法、電解重合法、電子線重合法、X線重合法または光重合法を用いる、請求項10に記載の炭素系複合構造体の製造方法。
  12. 前記基体として、石英ガラス又はシリコンからなる単体基体、又はこの単体基体上に金属層を形成した複合基体を用いる、請求項8に記載の炭素系複合構造体の製造方法。
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