JP6725122B2 - グラフェンシートの導電性改善方法及び導電性が改善されたグラフェンシートを用いた電極構造 - Google Patents
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Description
これに対し、炭素のみで構成されたハニカム構造を有するグラフェンは、有機溶媒やエッチング液などに耐性があり、また繰り返しの曲げによっても破壊されにくい安定性を有し、高導電性、大電流密度耐性、電子とホールの高移動度、高熱伝導性、高光透過性、高いフレキシブル性等の優れた特性を有する材料であることから、透明電極用材料として期待され、大きな面を覆うシートを大量に生産する技術が開発され、今後の産業化が望まれている。
そこで、電極と発光材料のミスマッチを調整するためにホール注入層(バッファ層の役目も持たせている)を挿入して、グラフェンシート(陽極)/ホール注入・バッファ層/有機発光層/陰極を基本構造として有機EL素子を作製することが提案されており、該ホール注入・バッファ層の材料として、PEDOT:PSS(ポリチオフェン誘導体(PEDOT)に、ポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたもの)が用いられている。
現状の化学ドーピング技術は、取り扱いが難しい濃硝酸を用いたり、高価な塩化金や可燃性の高いニトロメタン溶液を用いるなど、安全性やコストに課題が残る。
こうした問題を解決するため、特許文献1では、基板上のグラフェンシートに、シランカップリング剤などの薄膜活性化層を設けることが記載されており、該薄膜活性化層とは、グラフェンシートに対してドーピングする役割を果たし、かつ、グラフェンシートの表面抵抗を下げ、光線透過率を低下させない膜と定義されている。
また、特許文献2では、トリエチルオキソニウムヘキサクロロアンチモン酸などの一電子酸化剤を含有する溶液にグラフェンシートを曝露することにより、グラフェンシートのシート抵抗を、約1/2〜約1/4に低減させることが記載されている。
また、バッファ層としてよく使われている材料であるPEDOT:PSSを、転写したグラフェンシート上に、スピンコート法などの方法により直接成膜すると、グラフェンシートが基材から剥離することがあるという問題もある。
一般的にUVオゾン処理とは、酸素存在下で試料にUV光を照射することにより、酸素がオゾンとなって被処理物の表面に残る有機物を酸化することで、水や二酸化炭素に変えて取り除くものである。
従来は、UVオゾン処理をグラフェンに適用すると、グラフェンを構成する炭素に酸素が結合して酸化グラフェンに転じ、導電性を失うと考えられていた(非特許文献3)。特許文献3には、グラフェンシートにUVオゾン処理をした際に「シート抵抗にほとんど変化はなかった」と記載されているが、該記載は、この常識に基づいてシート抵抗の増加を懸念した結果の確認であって、導電性が著しく悪化していなければ問題ないと判断した可能性がある。
前記特許文献3の記載は、処理直後にはシート抵抗が低下していたとしても、本発明者らが今回発見したリバウンド現象によりシート抵抗を測定するまでに抵抗値が上昇し、見かけ上処理前と大差のない結果が得られたとも考えられる。
[1]プラズマCVD法で作製されたグラフェンシートをUVオゾン処理することにより、該グラフェンシートのシート抵抗を引き下げた後、該グラフェンシート上に有機高分子膜(ただし、PEDOT:PSS膜を除く)を被覆することにより、引き下げられた低抵抗を安定化させる方法。
[2]前記UVオゾン処理を酸素雰囲気中で行うことを特徴とする[1]に記載の方法。
[3]前記有機高分子膜が導電性であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の方法。
[4]プラズマCVD法で作製され、UVオゾン処理されたグラフェンシートと、該グラフェンシート上に被覆された有機高分子膜(ただし、PEDOT:PSS膜を除く)との複合膜からなる電極構造。
[5]前記有機高分子膜が導電性であることを特徴とする[4]に記載の電極構造。
[プラズマCVD法によるグラフェンシートの作製]
グラフェンの作製方法は特に限定されないが、グラフェンシートの層数を制御して1〜数層のグラフェンシートの形成が可能な方法として、水素ガスを主成分とするガスを用いたプラズマCVD法による方法が好ましく用いられる(非特許文献4参照)。
すなわち、基材として、触媒金属である銅箔を用い、該銅箔に加熱を施しながら、プラズマにより生成された荷電粒子や電子のエネルギーにより炭素源となる銅箔中の炭素成分を活性化してグラフェンを生成する。炭素源としては、銅箔に含まれている炭素成分の他、反応容器内に付着した微量の炭素成分及び/またはプラズマ処理に用いるガス中に含まれる微量の炭素成分を用いる。この手法によれば、従来の熱CVD法や樹脂炭化法と比較して、より短時間でグラフェンの形成が可能である。
本発明において、透明電極に用いられるグラフェンシートは、前記のようにして銅箔上に形成されたグラフェンシートを、ガラスやプラスチックフィルムなどの透明基材上に転写して形成されたものである。
透明基材上への転写方法は、特に限定されないが、例えば、前記の銅箔上に形成されたグラフェンシートを、熱剥離シートに貼りあわせ、その後、エッチング液を用いて銅箔をエッチングし、銅箔をエッチング除去した熱剥離シート/グラフェンシートを透明基材に貼り付けた後、熱剥離シートを加熱することで除去して、透明基材上にグラフェンシートを形成する方法が好ましく用いられる。
また、透明基材としては、ガラス又はプラスチックフィルムが用いられるが、有機EL素子を用いた発光装置は、その可撓性から次世代のディスプレイとして注目されているため、透明基材として可撓性を有するプラスチックフィルムを用いることが好ましい。
プラズマCVD法で作製し、透明プラスチックフィルムに転写されたグラフェンシートとしては、200〜数kΩ/sq.程度のシート抵抗を示すものが報告されている。
本発明においては、このグラフェンシートにUVオゾン処理を施すことにより、グラフェンシートのシート抵抗を大幅に引き下げるものである。
本発明で用いるUVオゾン処理方法は、一般には試料表面に付着した有機物の汚れをオゾンの酸化作用で取り除き清浄化するために行う処理であって、後述する実施例において、UVオゾン処理用に用いた装置(日本レーザ電子株式会社、NL-UV253)の名前も「UVオゾンクリーナ」が付いている。この装置では、波長が185nmと254nmのUV光が用いられ、波長が185nmのUV光照射により、酸素分子が分解されて酸素原子が生成され、該酸素原子が雰囲気内の酸素分子と結合してオゾンが生成され、該オゾンに波長254nmのUV光が照射されると、オゾンは分解されて励起状態の活性酸素が生成される。
また、本発明におけるUVオゾン処理は、オゾン発生に必要な酸素が存在していればよく、酸素雰囲中でUV光を照射しても、あるいは、大気中でUV光を照射してもよい(後述する実施例5及び図6参照)。
また、本発明におけるUVオゾン処理は、処理時間が長すぎると、グラフェン膜にダメージを与えると考えられ(後述の実施例7及び図9参照)、用いる装置にもよるが、例えば、実施例に用いた上記の装置では、10分程度の処理が望ましい。
本発明のUVオゾン処理により得られた高い導電性(低いシート抵抗)は、時間が経つと徐々に失われて、シート抵抗の値は徐々に増加する。
本発明においては、UVオゾン処理を行ったのち、有機高分子膜を重ねて成膜することにより、高い導電性が維持できる。
本発明における有機高分子膜によるグラフェンシートのシート抵抗の安定化においては、有機高分子膜の追加に伴って可視光透過率が著しく悪化しないことが求められる。このため、有機高分子膜の材質としては、可視光透過率が高いものが好ましい。可視光透過率の高い膜であれば、導電性の膜であっても、あるいは、PMMAのような導電性のないものであってもよい。また、用いる有機高分子膜の膜厚の増加に伴い、可視光透過率は減少するため(図5参照)、有機高分子膜の膜厚は、所期の可視光透過率が得られる範囲内に設定される。
本発明における有機高分子膜の成膜方法は、特に限定されず、一例として、スピンコート法などが好ましく用いられる。
触媒金属として厚み18μm程度の銅箔を準備し、表面波プラズマCVDチャンバー中にセットした。通電加熱により銅箔の温度を上げた状態でプラズマを120秒間照射した。原料ガスには水素(500sccm)とメタン(5sccm)を使用し、合成温度は約900℃で、銅箔上に1〜3層のグラフェンシートを合成した。
次いで、銅箔上に形成されたグラフェンシートを、日東電工社製の熱剥離シート(リバアルファー)に貼りあわせ、その後、過硫酸アンモニウム(0.5mol/l)を用いて銅箔をエッチングし、流水により基板を洗浄した。
銅箔をエッチング除去した熱剥離シート/グラフェンシートを、PET基板に貼り付けた後、熱剥離シートをホットプレートで加熱することで剥離除去して、PET基板上にグラフェンシートを転写した。
実施例1で作製されたグラフェンシートを用い、UVオゾン処理によるシート抵抗の変化を調べた。
比較のために、導電性有機高分子膜として、岩通マニュファクチャリングの製品である導電塗料TC-07(非特許文献5参照)を用いてスピンコート法によりPET基材上に厚さ210nm程度に成膜したものを用意した。
上記のグラフェンシート及び導電性有機高分子膜に、日本レーザ電子株式会社、UVオゾンクリーナ、NL-UV253を用いて、10分間のUVオゾン処理を行い、UV照射前とUV照射後のシート抵抗を、4端子測定法により測定した。
図2に示すように、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板に転写したグラフェンシートにUVオゾン処理を行ったところ、初期のシート抵抗値が500Ω/sq.のグラフェンシートは、10分間のUVオゾン処理を行うことにより、300Ω/sq.以下の導電性が得られた。このように、グラフェンシートでは、UVオゾン処理により導電性が増し、シート抵抗が大幅に減少した。
一方、比較に用いた導電性有機高分子膜では、UVオゾン処理により、シート抵抗が増加した。導電性を担う導電性有機高分子膜が酸化されて導電性が損なわれ、シート抵抗が増加したものと考えられる。
実施例2のようにして得られた高い導電性は、グラフェンシートをそのまま大気中に放置した場合、時間が経つと徐々に失われてしまい、シート抵抗の値は徐々に増加することが判明した。
そこで、本実施例では、UVオゾン処理を行ったのち、導電性有機高分子膜を重ねて成膜することにより、高い導電性が維持できることを以下のようにして確認した。本実施例以降のシート抵抗の測定は、NAPSON corporationのEC-80を使用した渦電流式の非接触法で行い、各条件で5〜6回繰り返し測定を行った値の平均値を各条件におけるシート抵抗とした。
図3に示すとおり、初期の状態(As is)では、3サンプルともに500Ω/sq.程度を示した。sample 1とsample 3は、UVオゾン処理を施すことにより200Ω/sq.まで抵抗が下がった。sample 2はコントロールとして何も処理をせず、測定値のバラツキを示している。
sample 1とsample 3では、処理の約30分後にシート抵抗が30〜40Ω/sq.程度上昇している。UVオゾン処理で得られた低抵抗状態が安定なものではなく、徐々にもとの状態に戻ってしまうと考えられる。
ここでsample 1にだけ前記の導電性有機高分子(TC-07、岩通マニュファクチャリング製)を厚さ100nm程度にスピンコートした。図3に示すとおり、有機膜をつけなかったsample 3の抵抗値が徐々に上昇するのに対し、sample 1では、グラフェンの低抵抗の状態が安定化され、維持されている。
図3に示した測定を42日(6週間)にわたって行い、sample 1のシート抵抗が長期間変化しないことを確認した。図4は、その結果を示す図である。
グラフェンと有機導電膜の複合膜のモデルとして電気抵抗の並列接続を仮定すると、グラフェンシートの初期状態500Ω/sq.と膜厚100nmのTC-07の720Ω/sq.を接続した和は、295Ω/sq.となり、本実施例の結果である200Ω/sq.には届かない。並列抵抗の和として200Ω/sq.を実現するためには、グラフェンシートは277Ω/sq.以下までシート抵抗値を下げなければならないため、本実施例で得られたシート抵抗には、UVオゾン処理で達成されたグラフェンシートの低抵抗状態が関与しているといえる。
図5は、その結果を示す図であり、ガラス上にTC-07を膜厚157nmに成膜した試料は、550nm近辺の波長を有する光の透過率が、ガラスだけのものとほぼ同じであった。これに対し、TC-07の膜厚が210nm及び315nmの場合には、前記波長の光透過率に減少が見られた。なお、膜厚が157nmシート抵抗は約450Ω/sq.であった。
この結果から、本実施例で採用した導電性高分子膜の厚さ(100nm程度)では、波長550nm近辺の光の透過率は、ほとんど減少しないといえる。
前述の図3,4に示されているように、実施例3のsample 1では、導電性有機高分子膜(TC-07)を成膜することで、シート抵抗が低下すると共に、低抵抗の状態が安定化された。他方、前述の図5に示されているように、被覆される導電性有機高分子膜の膜厚が増加すると、可視光透過率が低下した。これらの結果からは、所期のシート抵抗安定性が得られる範囲で導電性有機高分子膜の膜厚を極力小さくすることが好ましいといえる。しかし、本発明では、導電性有機高分子膜が被覆されるのは、ガラスではなくグラフェンシートであり、しかも該グラフェンシートはUVオゾン処理が施されたものであるため、ガラス上に導電性有機高分子膜を被覆した場合とは可視光透過率の変化の仕方が異なる可能性が考えられた。
そこで、本実施例では、グラフェンシート上に導電性高分子膜を被覆した場合に、グラフェンシートに対するUVオゾン処理の有無により、可視光透過率がどのように変化するかを確認した。
まずグラフェンシートを転写した1枚のプラスチックフィルムを2つに切り分けて、一方にのみUVオゾン処理を10分間行った。その後、それぞれにTC-07を同じ条件(2000rpm)でスピンコートして測定用試料とした。各測定用試料におけるグラフェンシートと導電性高分子との合計膜厚は、UVオゾン処理を行わなかったものが98〜99nm、UVオゾン処理を行ったものが83〜93nmであった。
各測定用試料の可視光透過率は、ファイバマルチチャンネル分光器(FHS-UV、オーシャンオプティクス製)を使用して、透過スペクトルを8回測定し、各測定における540〜560nmの各波長における透過率の平均値を取ることで算出した。
可視光透過率は、UVオゾン処理を行わなかった試料が、平均で80.2%(±0.6%)であったのに対し、UVオゾン処理を行った試料は84.9%(±1.1%)であり、UVオゾン処理により約5ポイント(%の差分)の上昇が確認された。
この結果から、UVオゾン処理は、グラフェンシートの抵抗を下げるだけでなく、これに導電性有機高分子膜を被覆した際の可視光透過率の低下を抑制する効果も奏するものといえる。なお、有機高分子導電性膜をつけないグラフェンシートだけの可視光透過率もUVオゾン処理で僅かに変化していることがさらに精密な測定を行うことで明らかになりつつあるが、本実施例の結論を否定する変化量ではないことを補足しておく。
ここまでの実施例では、安定化層として導電性有機高分子膜(TC-07)を用いたが、膜自体に導電性があるため、非導電性の有機高分子膜による被覆によってもシート抵抗が安定化するか否かは不明であった。そこで、本実施例では、安定化層として非導電性の有機高分子膜を用いて以下の実験を行った。また、本実施例では、大気中でのUVオゾン処理の影響についても検討を行った。
それぞれの処理後、test aには導電性のないPMMA(2wt%アニソール溶液)をスピンコート(3000rpm 30sec)して約100nm厚の膜を被覆し、グラフェンシートのシート抵抗の経時変化を記録し、test bは、膜を被覆することなくシート抵抗の経時変化を記録した。
一方のサンプルtest aは、10分間の大気雰囲気でのUVオゾン処理(UV-air)で低抵抗化が生じた。その後の10分間の酸素雰囲気でのUVオゾン処理を行った後は、大気中の処理よりもさらに(16Ω/sq.程度)抵抗が減少した。この結果は、大気雰囲気でもUVオゾン処理により低抵抗化が起こることを示す。大気中の酸素がオゾン化していると思われる。
また、酸素雰囲気でのUV処理を行った後のそれぞれのシート抵抗の経時変化を見ると、PMMA層のあるtest aでは緩やかな増加に留まっている。他方、PMMA層のないtest bでは2日で初期値を越えるシート抵抗の増加が見られ、4日後には初期のシート抵抗の倍の1000Ω/sq.近くまで導電性が悪化した。これは10分間のUVオゾン処理でも安定化層なしでは大きなリバウンドが生じうることを示している。
一方のtest aでも徐々に抵抗値が増大しているが、初期値の6割程度の値(270Ω/sq.)におさまっているので、PMMA層にもシート抵抗の安定化効果があると考えられる。
グラフェンシートを転写した50×50mmのPETフィルムのシート抵抗を測定した後、酸素雰囲気中でのUVオゾン処理を10分間行い、シート抵抗を測定した。その後、低抵抗状態がリバウンドしないようplexcore(登録商標)をスピンコート(2000rpm 30sec)し、所定時間毎にシート抵抗を測定した。結果を図7に示す。初期値(As is)からUVオゾン処理を行って得られた低抵抗状態が、3日間に亘り保持されていることが判る。この結果から、plexcore(登録商標)にもシート抵抗の安定化効果があると考えられる。
先の例ではグラフェンシートを転写したプラスチック(PET)がUV光やオゾンで変質した可能性も考えられる。
そこで、本実施例においては、熱やUV光で変質しにくいガラス上にグラフェンを熱剥離転写した膜に対して、同様の実験を行った。
ガラス上に熱転写したグラフェンシートに、実施例2と同様のUVオゾン処理をした後に、導電性有機高分子膜(TC-07)を厚さ100nm程度にスピンコート(2000rpm)することで、測定用試料(sample 1,2)を作製した。各測定用試料について、各処理を行った後のシート抵抗を測定した。測定結果を図8に示す。
図8に示すように、初期状態(UVオゾン処理前)のシート抵抗は450〜500Ω/sq.であったが、UVオゾン処理により350〜400Ω/sq.に低下し、導電性有機高分子膜の被覆によりさらに200Ω/sq.程度迄低下した。sample 1はその後、後述する素子作製に利用したため、sample 2のみ測定を続けた。
図8に示したシート抵抗の変化の傾向は、図3のsample 1と類似している。しかし、ガラス上にグラフェンシートを形成した図8では、PET上にグラフェンシートを形成した図3よりもシート抵抗の低下幅が小さく、シート抵抗のばらつきも大きかった。
UVオゾン処理によってガラスは変質しないと考えられることから、前述したシート抵抗のばらつきは、グラフェンシートによるものと解される。グラフェンシートのばらつきの原因としては、シートを構成するグラフェンの結晶のサイズや形状の違いが考えられる。シートが全面単結晶状態であれば、理論的に予想された高い導電性が得られることが期待されるが、現状は多結晶状態なので、結晶間の境界で導電性の低下が生じ、シート抵抗のバラツキが起こりうる。
本発明者らがCVD法で作製し、PET上に転写した2種類のグラフェンシート、及び同様のプロセスで作製された市販のグラフェンシート(グラフェンプラットフォーム社製)を準備し、それぞれに対して5分間のUVオゾン処理とその後のシート抵抗測定とを繰り返した。UVオゾン処理の積算時間を横軸に、各条件のシート抵抗を縦軸にとって図9にまとめた。図中のエラーバーは±1σ(σは標準偏差)を表示している。サンプルの位置が毎回ずれるため、面内のバラツキが大きいと標準偏差に反映する。
図9に示すとおり、市販のグラフェンも含めた3種類の試料はいずれも、UVオゾン処理の積算時間が10〜15分迄はシート抵抗が低下し、その後は積算時間が60分迄低いシート抵抗を保つものと、ある積算時間からシート抵抗が増加するものとに分かれた。この結果から、グラフェンシートに対するUVオゾン処理の時間は、10〜15分とすることが好ましいといえる。
シート抵抗の低下だけから判断すると、本実施例の条件では15分間の処理時間が最適といえるが、15分以上ではグラフェンに大きなダメージが残ると予想される。このため、シート抵抗だけでなく均一性が要求される用途では、ダメージによる劣化が少ない10分程度の処理が好ましい。
低抵抗化及び安定化したグラフェンシートを透明電極とし、以下のようにして、図1(b)に示す有機EL素子を作製した。有機ELの透明電極では表面から電流を流すため、安定化層として導電性有機高分子膜TC-07を用いた。
その後、バッファ層としてPEDOT:PSS(ヘレウス社製、製品CLEVIOS P VP AI4083)をスピンコート法で約30nmに成膜した。その際、グラフェンシートが基材から剥離することはなかった。次いで、該バッファ層上に、黄色発光高分子であるポリフェニレンビニレン誘導体(メルク社製、製品PDY-132)のトルエン溶液をスピンコートして約50nm厚の発光層とした。
また、図10(b)は、素子の平面構造図であり、電圧降下を防いで発光が均一になるように電極を下まで伸ばしてある。
図中、7は陽極コンタクトと補助電極の役割をするものであって、導電性有機高分子膜を塗布する前のグラフェンシート上に金を真空蒸着して作製した。8は、メタルテープ製の陰極コンタクトであり、発光高分子層の上に導体を蒸着して形成した短冊状の陰極6に接続されている。
櫛状の陽極コンタクト7によりグラフェンシートに正電圧を与え、一方、陰極6には負電圧を与える。
2:グラフェンシート
3:導電性有機高分子膜
4:バッファ層(PEDOT:PSS)
5:発光層(発光高分子)
6:陰極(NaF/Al)
7:陽極コンタクト(Au)
8:陰極コンタクト
Claims (5)
- プラズマCVD法で作製されたグラフェンシートをUVオゾン処理することにより、該グラフェンシートのシート抵抗を引き下げた後、該グラフェンシート上に有機高分子膜(ただし、PEDOT:PSS膜を除く)を被覆することにより、引き下げられた低抵抗を安定化させる方法。
- 前記UVオゾン処理を酸素雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 前記有機高分子膜が導電性であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
- プラズマCVD法で作製され、UVオゾン処理されたグラフェンシートと、該グラフェンシート上に被覆された有機高分子膜(ただし、PEDOT:PSS膜を除く)との複合膜からなる電極構造。
- 前記有機高分子膜が導電性であることを特徴とする請求項4に記載の電極構造。
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