JP3598334B2 - 水晶振動子を利用した測定試薬及び測定方法 - Google Patents

水晶振動子を利用した測定試薬及び測定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水晶振動子を用いて微量成分を測定する測定試薬及び測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、医療検査・環境測定・食品検査等の領域において、微量成分を短時間で簡便に測定することが重要な課題となっており、そのような微量成分の測定方法として、免疫反応等の生物学的親和性を利用する方法が提案され、開発が進められている。
【0003】
そのような方法の中で、近年注目されているのが水晶振動子を用いた測定方法である。この測定方法によれば、水晶振動子表面に物質が吸着することにより、その吸着物質の重量に比例して水晶振動子の周波数が変化することを利用して微量成分の検出、測定をすることができる。
水晶振動子を用いた微量成分の測定方法としては、通常、予め水晶振動子表面に認識素子を吸着・固定化させ、これと被測定物質とを反応させ、反応前後の周波数変化量を求めることにより、被測定物質の認識素子との反応性及び被測定物質の質量を測定する方法が用いられている。
【0004】
抗原又は抗体を担持した不溶性担体粒子と水晶振動子とを組み合わせた抗原−抗体反応の測定方法としては、以下の方法が提案されている。
特開平3−77061号公報に記載されている方法は、抗原又は抗体と、この抗原又は抗体に対応する抗体又は抗原を担持した不溶性担体粒子とを液体媒体中で反応させ、同時に、該反応にかかわる抗原又は抗体を表面に固定化していない水晶振動子を該液体媒体中で発振させ、該反応に起因する凝集体形成による水晶振動子の発振周波数の変化を測定する方法である。
【0005】
この方法は、まず、水晶振動子を恒温キュベット中の不溶性担体粒子が分散している液体媒体に浸漬して発振させ発振周波数が安定したところで、該発振周波数F1を測定し、次に該恒温キュベット中に分析試料を一定量添加してそのまま攪拌を行い、再度発振周波数が安定したところで、発振周波数を測定し、F2とし、以上の操作における周波数変化量ΔF=F1−F2から、予め既知濃度の試料を用いて求めておいた検量線に従い、分析試料中の測定しようとする抗原又は抗体の存在及び濃度を求めることができるものであり、小型軽量化できることを特徴とするものである。
【0006】
しかしながら、特開平3−77061号公報に記載されている方法では、抗原が複数の抗体結合部位を有する高分子であることが不可欠である。
被測定物質がダイオキシン類をはじめとする環境汚染物質等のように低分子である場合や抗体結合部位を一箇所しか有さない場合には、抗体又は抗原を固定化した不溶性担体が凝集体を形成して水晶振動子に結合することはできず、同方法では測定することが困難であった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記に鑑み、測定対象が低分子物質や、抗体結合部位を一箇所しか有さない物質であっても高感度で測定を行うことができる測定試薬及び測定方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、被測定物質に対する特異的結合能を有する認識素子が不溶性担体に固定化されてなる凝集素子、上記被測定物質が高分子タンパク質に複数個結合してなる競合標準物質、及び、水晶振動子から成る測定試薬である。
【0009】
本発明の測定試薬を用いる測定方法であって、水晶振動子の周波数変化量を測定し、上記周波数変化量より測定試料中の被測定物質の量を求める測定方法もまた、本発明の1つである。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明は、水晶振動子表面に物質が吸着することにより、その吸着物質の重量に比例して水晶振動子の周波数が変化することを利用して被測定物質の質量を測定する方法を用いるものであるが、従来の方法とは異なり、被測定物質を高分子タンパク質等に複数個結合させて、これを競合標準物質とし、検体中の被測定物質と競合させる競合反応を用いることを特徴とするものである。
従って、本発明においては、従来の方法とは異なり、検体中に存在する被測定物質が多いほど、競合標準物質と凝集素子との結合が妨げられるために周波数変化量が減少する。
【0011】
本発明の測定試薬は、被測定物質に対する特異的結合能を有する認識素子が不溶性担体に固定化されてなる凝集素子、被測定物質が高分子タンパク質に複数個結合してなる競合標準物質、及び、水晶振動子からなるものである。
【0012】
本発明の測定試薬の被測定物質としては特に限定されず、例えば、ヒト血清、尿、体液、河川・湖沼の水、汚泥、焼却炉の煤塵等に含まれる微量成分等が挙げられる。
上記微量成分としては、例えば、コプラナーPCB類を含むダイオキシン類、内分泌攪乱物質に指定されたいわゆる環境ホルモン等を始めとする環境汚染物質やヒト体内中の微量ホルモン類等が挙げられる。
【0013】
本発明の測定試薬は、被測定物質が分子量100〜1000程度の低分子物質や抗体結合部位を一箇所しか有さない物質であっても高感度に測定することができる。
【0014】
上記凝集素子は、被測定物質に対する特異的結合能を有する認識素子が不溶性担体に固定化されてなるものである。
上記不溶性担体としては本発明で用いられる液体媒体に実質的に不溶性であれば特に限定されず、例えば、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸ソーダ共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体、スチレン−クロルメチルスチレン共重合体、塩素化ポリスチレン等の有機高分子物質からなる粒子;シリカ、シリカ−アルミナ等の無機酸化物微粒子;有機薄膜を被履したフェライト等の磁性金属微粒子等が挙げられる。
上記不溶性担体の粒径は、0.01〜1μmであることが好ましい。0.01μm未満であると、充分な発振周波数変化が生じにくくなり、1μmを超えると、液体媒体中に安定に分散することが困難となる。
【0015】
上記認識素子としては被測定物質と特異的に結合するものであれば特に限定されず、例えば、被測定物質と抗原抗体反応を起こす抗体、被測定物質を特異的に認識するレセプター分子等が挙げられる。
【0016】
上記抗体としては、例えば、被測定物質及びハプテン化被測定物質を抗原として、ウサギ、ヤギ、ヒツジ等の動物を免疫し、その血清からIgG画分を精製して得られるポリクローナル抗体;細胞融合法により得られるモノクローナル抗体等が挙げられる。
上記抗体として、例えば、酵素処理等により得られるF(ab´)、Fab´やFabを用いてもよく、更に遺伝子組換え技術により調製したFab´やscFv等を用いてもよい。
【0017】
上記レセプター分子としては特に限定されないが、例えば、ダイオキシン類はAh(アリルハイドロカーボン)レセプターと結合することが知られており、このようなセプターを用いることができる。
【0018】
上記認識素子としては、他に被測定物質との結合能を有するペプチドやDNA等を用いてもよく、更に、モレキュラーインプリンティング法により作製される、被測定物質と相補的な結合部位を有した高分子ポリマーを用いてもよい。
【0019】
上記不溶性担体に認識素子を固定化する方法としては特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、不溶性担体粒子にカップリング剤等を用いて化学的に吸着させる方法、不溶性担体として反応性官能基を粒子表面に有する高分子物質のラテックスを用いて化学的に吸着させる方法、疎水性相互作用等を利用した物理的に吸着させる方法等が挙げられる。
【0020】
上記競合標準物質は、被測定物質が高分子タンパク質に複数個結合したものである。
上記高分子タンパク質としては特に限定されないが、入手の容易さや経済的な面から、例えば、生化学分野等で汎用されている分子量数万以上のタンパク質である血清アルブミン、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ等の酵素等が好適に用いられる。
【0021】
上記被測定物質を高分子タンパク質に複数個結合させる方法としては、例えば、混合酸無水物法、N−ヒドロキシスクシンイミド法、同反応性架橋法、N−(m−マレイミドベンゾイルオキシ)スクシンイミド型架橋法等が挙げられる。
【0022】
本発明で用いられる水晶振動子としては、例えば、ATカット、GTカット、BTカット等が挙げられ、電極の材質としては金や銀等が適している。上記水晶振動子が液体媒体中に浸漬して用いられる場合は、片面が封止されていることが好ましい。
上記水晶振動子の発振周波数としては特に限定されず、用途に従い適宜選択すればよいが、5〜50MHzが好ましい。5MHz未満であると、感度が充分ではなく、50MHzを超えると、ノイズが生じるために実用的ではない。より好ましくは、9〜30MHzである。
【0023】
本発明の測定試薬を用いた測定方法を図1に模式的に示す。本発明の測定試薬を用いて測定を行うと、水晶振動子1表面に、凝集素子2と競合標準物質3との複合体、又は、凝集素子2と被測定物質4との複合体が吸着することにより、その吸着物質の重量に比例して水晶振動子の周波数が変化することを利用して被測定物質の質量を測定する方法を用いるものであるが、競合標準物質3と被測定物質4とが、競合的に凝集素子2に対して結合するので、検体中に存在する被測定物質が多いほど、競合標準物質と凝集素子との結合が妨げられるために周波数変化量が減少する。このため、本発明の測定試薬によれば、被測定物質4が分子量100〜1000程度の低分子物質や抗体結合部位を一箇所しか有さない物質であっても高感度に測定することができる。
【0024】
以下に、上記認識素子として抗体を用いた場合を例として掲げ、本発明の測定方法の1態様を説明する。
本発明の測定方法を実施するにあたり、まず、測定装置を組み立てることが必要であるが、本発明で用いられる測定装置としては、例えば、特開平3−77061号公報に記載されているものを用いることができる。上記測定装置において、水晶振動子チップは、発振回路、周波数カウンター及びデータ処理用のマイクロコンピューターによって構成される測定システムに接続される。
【0025】
上記測定装置の組み立てに続いて、不溶性担体粒子に抗体が固定化されてなる凝集素子を緩衝液溶液等の液体媒体中に分散させ、測定用の恒温セル中にいれて攪拌子により一定速度で攪拌しておく。ここで、本発明で用いられる液体媒体としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が好ましい。
【0026】
上記凝集素子の濃度としては特に限定されず、適宜設定することができるが、0.01〜1.0重量%であることが好ましい。0.01重量%未満であると、抗原抗体反応を充分に行わせることができず、1.0重量%であると、凝集素子が液体媒体中で安定に分散することが困難になる。
【0027】
上記攪拌子の回転速度としては、500〜1500rpmであることが好ましい。500〜1500rpmであると、抗原抗体反応を、速やかに行わせると同時に発振を安定に行わせることができる。より好ましくは、800〜1000rpmである。上記攪拌子は反応中は一定の回転速度を保つことが好ましい。
【0028】
次いで、水晶振動子を上記恒温セル中の液体媒体に浸漬して発振させる。発振周波数が安定したところで、周波数(F1)の測定行う。次いで、抗原を複数結合した高分子タンパク質及び抗原が含まれている検体の混合物を添加して、競合的免疫反応を行う。攪拌は、そのまま続け、周波数が一定に安定した値(F2)を求める。最後に、得られたF1からF2を引くことによりΔFを求める。
【0029】
このとき検体中に抗原が含まれていれば、その抗原が、競合標準物質が凝集素子に結合することを阻害し、これにより、凝集素子同士の凝集体形成が抑制される。水晶振動子の周波数は表面上に吸着する物質の重量により減少するため、検体中に抗原が含まれていれば、周波数減少量も小さくなる。
本発明では、数種類の既知濃度の被測定物質を用いて検量線を作成し、これを用いて検体中の被測定物質の濃度の算出を行う。
【0030】
上記測定装置において、一度使用した水晶振動子は、タンパク質等による汚染を洗浄除去して、再度使用してもよいが、水晶振動子は廉価であることから一測定毎に取り替えてもよい。
本発明の測定方法によれば、未知試料中の種々の物質、とりわけ環境汚染物質のような低分子物質の検出及び濃度を高感度に測定することができる。
【0031】
【実施例】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
本発明の実施例として、低分子量物質ジニトロフェノール(DNP)を被測定物質として測定を行った。
1ng/mLのDNP結合牛血清アルブミン(シグマ社製)溶液にDNP(シグマ社製)をそれぞれ0、0.01、0.1、1.0、10、100ng/mLとなるように溶解した液を調製し、これを抗原液とした。
【0033】
不溶性担体粒子として免疫試薬用ラテックス(積水化学工業社製)を用い、定法に従い抗DNPモノクローナル抗体を固定化した。
この抗DNPラテックスけん濁液(固形分0.01%)1.2mLを恒温キュベットに入れ、発振機、周波数カウンター、マイクロコンピューターに接続した水晶振動子(9MHz)を投入した。攪拌子で液体媒体を攪拌しながら発振させた。発振が安定した状態でQCMの発振周波数測定を行い、この値をF1とした。
【0034】
次に、抗原液10μLを加え、25℃でインキュベーションすることにより抗原抗体反応を行った。反応終了後、QCMの発振周波数測定を行い、この値をF2とした。F1からF2を差し引いた値をΔFとした。結果を表1及び図2に示した。
【0035】
【表1】
Figure 0003598334
【0036】
表1及び図2示した結果より、上記の方法によれば0.01〜100ng/mLの濃度のDNPを測定できることが明らかとなった。
【0037】
【発明の効果】
本発明は、上述の構成よりなるので、非常に簡単な操作で迅速かつ高精度で低分子物質の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の測定試薬を用いた測定方法を模式的に示した図である。
【図2】本発明におけるDNP濃度と周波数変化量の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 水晶振動子
2 凝集素子
3 競合標準物質
4 被測定物質

Claims (4)

  1. 被測定物質に対する特異的結合能を有する認識素子が不溶性担体に固定化されてなる凝集素子、前記被測定物質が高分子タンパク質に複数個結合してなる競合標準物質、及び、水晶振動子から成り、
    前記被測定物質は、分子量100〜1000程度の低分子物質又は抗体結合部位を一箇所しか有さない物質である
    ことを特徴とする測定試薬。
  2. 認識素子は、被測定物質を抗原として特異的に結合することができる抗体であることを特徴とする請求項1記載の測定試薬。
  3. 認識素子は、被測定物質と特異的に結合することができるレセプター分子であることを特徴とする請求項1記載の測定試薬。
  4. 請求項1、2又は3記載の測定試薬を用いる測定方法であって、水晶振動子の周波数変化量を測定し、前記周波数変化量より測定試料中の被測定物質の量を求めることを特徴とする測定方法。
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