JP3593221B2 - 摺動部品の表面処理方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、たとえば自動車に積載されエンジンにより駆動されるピストン式バキュームポンプのピストンロッドなどの、摺動部材の表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ピストン式バキュームポンプは、たとえば特開平5−106556号公報に開示されているように、ケーシング内に設けたシリンダ部にピストンを上下動自在に嵌装し、ピストンの上下に形成されたポンプ上室とポンプ下室にそれぞれ吸入弁と吐出弁を設けて、ピストンの往復運動によってポンプ上室およびポンプ下室に生じた負圧をブレーキブースタ等のアクチュエータあるいはリザーバ等に付与するように構成されている。そして上記ピストンは、ケーシングに設けた軸受に摺動自在に支持されたピストンロッドの一端部に固着され、このピストンのロッドの他端部に設けたローラが、エンジンに連動する円板カムによって駆動されて、ピストンが上下動する。
【0003】
ところで上記のピストンロッド(以下ロッドと略称する)は、ブッシュ状の軸受に対して直線状に往復摺動するため、その耐摩耗性を向上させる必要があり、従来は機械構造用合金鋼製の素材部品を浸炭焼入後、ガス軟窒化処理を施してその表面硬化をはかっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上記従来の表面硬化処理においては、ガス軟窒化の処理温度が530〜580℃と高温であるため、生成窒化物層はε相(Fe2 〜3 N)とγ′相(Fe4 N)が混在する粗大な多孔質層から成り表面粗さも大であるので、ロッドの摺動する相手部材である軸受に対する相手攻撃性が大きく該軸受の摩耗が早期に進行するとともに、上記の処理温度が高温であることにより、ロッドの浸炭硬化層が軟化してロッド自身も摩耗しやすく、さらにロッドの熱ひずみが大きいので研削加工部分をラップ仕上げなどにより再加工する必要がありロッドの加工工程が複雑で加工費がかさむなど、多くの問題点を有するものであった。
【0005】
この発明は上記従来の問題点を解決するもので、表面処理後の部品の熱歪みが小さく、部品表面処理層が緻密で表面粗さが小さく相手攻撃性が軽微であるとともに、部品自身の浸炭硬化層部の硬度低下も小さくてすむ摺動部品の表面処理方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明の摺動部品の表面処理方法は、機械構造用合金鋼製の素材部品を浸炭焼入後その摺動面部を研削加工して成る摺動部品を、フッ素を含む反応ガス雰囲気中に保持して表面層にフッ化物膜を形成した後、該摺動部品に、容積20〜30%のNH3 と残量がN2 から成るガス雰囲気中において400〜500℃の範囲内の処理温度でガス窒化処理を施して、前記摺動面部にε炭窒化物から成る窒化物層を形成することを特徴とする。
【0007】
この発明において、素材部品を形成する機械構造用合金鋼としては、JIS G 4102に規定される各種合金鋼鋼材を使用できる。
【0008】
またこの発明において、フッ素を含む反応ガスとしては、たとえばNF3 ,BF3 ,CF4 ,HF等のフッ素化合物ガスとN2 ,Ar等の不活性ガスとの混合ガスを使用でき、そのフッ素ガス濃度は1000〜100000ppm程度のものでよい。
【0009】
上記のフッ素を含む反応ガス雰囲気中での保持により、摺動部品の表面のFeO,Fe3 O4 ,Cr2 O3 等の酸化皮膜は、FeF2 ,FeF3 ,CrF3 ,CrF4 等のフッ化物膜に置換され、表面に吸着されていたO2 も除去され、このフッ化物膜は後工程のガス雰囲気中のH2 又は微量の水分によって還元あるいは破壊され、活性度の高い金属素地が形成されるので、後工程における500℃以下のガス窒化によっても、確実に窒化物層を形成できる。また研削加工時砥粒粉,酸化物粉等が埋めこまれ、局部的に活性度を減じている研削面すなわち機械的変質層に対しても、フッ素を含む反応ガスが上記と同様に作用し、このような非活性点を除去するので、500℃以下の低温度領域のガス窒化においても確実に窒化物層を形成できるのである。
【0010】
この発明において、ガス窒化処理のガス雰囲気中のNH3 の容積を20〜30%に限定したのは、20%未満では窒化物層が一般に耐摩耗性の上から必要とされる5μmよりも薄くなって耐久力が不足し、30%を越えるとε炭窒化物の形成が不十分となるからである。
【0011】
またこの発明において、ガス窒化処理温度を400〜500℃に限定したのは、400℃未満では所定の層厚(たとえば5μm)の窒化物層を形成するための処理時間がかかり、500℃を越えるとε炭窒化物の形成が困難になるからである。
【0012】
上記のガス雰囲気成分および処理温度のもとでのガス窒化処理により、摺動部品の摺動面部に形成される窒化物層は、ほぼ単相のε相に炭素を充分固溶したε炭窒化物によって構成されることになり、このε炭窒化物は小孔で緻密なポーラス質状を呈し潤滑油保持能力が高いうえ、表面粗さが小さいので相手攻撃性が軽微であり、又処理温度が低いので、摺動部品の熱歪みが小さく、部品自身の浸炭硬化層部の硬度低下も小さくてすむのである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下図面によってこの発明の一具体例を説明すると、図1はこの発明の方法の処理対象物となる摺動部品であるピストンロッド1を示し、上端部におねじ部2を連設したロッド本体3の下端部に円板状のばね受け部4を連設し、このばね受け部4の下面にローラ11取付用の取付金部5を突設して成る。12はおねじ部2へのナット締めによりロッド本体3に取付けられるピストンで、図示しないケーシングのシリンダ部内に組込まれ、13はロッド本体3部を摺動自在にガイドするケーシングの軸受で、この軸受内に嵌込まれたブッシュ13aがロッド本体3の外周面に摺接する。
【0014】
このピストンロッド1は、機械構造用合金鋼から成り、熱間鍛造後機械加工した素材部品を、浸炭焼入後、その摺動面部であるロッド本体3の外周面を研削加工して成る。
【0015】
次に図2は、前記ピストンロッド1に対して表面処理をおこなう連続式表面処理装置21を示し、連続式熱処理炉と同様な構成を有し、フッ化・窒化処理をおこなう処理室22に冷却室23を連設し、ピストンロッド1をバスケット内に多数個装入したワークWを、処理室22の入口22a側に設けた入口コンベヤ24上から、処理室22および冷却室23内を経て、冷却室23の出口23b側に設けた出口コンベヤ25上に搬送するよう、処理室22および冷却室23内に搬送用ローラ26を並設して成る。27は入口扉、28は中間扉、29は出口扉で、連続式熱処理炉と同様なエアシリンダ30,31,32により開閉駆動される。33は処理室22の天井部に設けた処理ガス入口、34は同じく処理ガス出口、35は冷却室23の天井部に設けた冷却ガス入口、36は同じく冷却ガス出口である。また図示を省略してあるが、処理室22内には電熱ヒータなどのヒータを設けてあり、処理室内雰囲気を所定の温度に保持できるようになっている。
【0016】
上記の連続式表面処理装置21を用いてピストンロッド1の表面処理をおこなうには、先ずワークWを処理室22内に搬入し、フッ素を含む反応ガスを処理ガス入口33から処理室22内に送入して、この反応ガス雰囲気中でピストンロッド1を、例えばNF3 を含む反応ガスの場合150〜350℃の温度に加熱保持して、ピストンロッド1の表面にフッ化物膜を形成させる。上記の保持時間は、ピストンロッド1の鋼種、形状、寸法、加熱温度に応じて適当な時間を選べばよく、通常は十数分乃至数十分程度でよい。
【0017】
上記工程によりピストンロッド1の表面部にはフッ化物膜が形成されるので、次に容積20〜30%のNH3 と残量がN2 ガスから成る窒化ガスを処理ガス入口33から処理室22内に送入して、処理室22内を400〜500℃に維持してガス窒化処理をおこなう。
【0018】
これによってピストンロッド1の表面部には、図3に示すようにε炭窒化物から成る窒化層7が形成されるので、次にワークWを冷却室23内に移送し、冷却ガス入口35から冷却室23内にN2 ,H2 などの冷却用ガスを送入してピストンロッド1の冷却をおこなえば、処理は完了する。
【0019】
【実施例】
次に上記連続式表面処理装置21を用いた実施例によって、この発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
実施例
機械構造用合金鋼鋼材であるSCM415を素材として用い、熱間鍛造後図1に示す形状(但しロッド本体3の直径:12mm、長さ:47mm)に切削加工した素材部品に対して、ガス浸炭法による浸炭処理およびそれに続く840℃からの焼入(但し冷却剤:コールド油)をおこない、ロッド本体3の外周面を研削加工して、該外周面部の表面粗さがRz (十点平均粗さ)=0.4μmのピストンロッド1を得た。
【0021】
次に上記のピストンロッド1を処理室22内において、濃度10000ppmのNF3 ガスを含むN2 ガス雰囲気中で、温度380°で約15分間保持したのち、処理室22内において、NH3 =25容積%、N2 =75容積%の混合ガス雰囲気中で、処理温度を480±5℃に維持し、処理時間を4時間から16時間まで4時間ずつ変化させた4種類の処理時間のガス窒化処理を施し、次いで冷却室23においてN2 ガスによる強制冷却をおこなって、4種類の表面処理品サンプルを得た。
【0022】
この各サンプルについて、ロッド本体3の外周面部の窒化物層7をX線回折法により観察したところ、窒化物層7はいずれもε炭窒化物から成り、金属顕微鏡により測定したその層厚は図4に示す通りであった。また上記外周面部の表面粗さについて測定した結果も、同図に示してある。
【0023】
図4から判るように各サンプルの窒化層7の厚さは5μm以上あり、表面粗さRz も最大0.8μmと小さく、窒化層下側の拡散層部(浸炭硬化層部)の硬度低下およびロッド本体3の熱歪みも殆どなく、各サンプルをそのままピストン式バキュームポンプの実機[但しポンプの到達真空度=120Torr(−640mmHg:16KPa),ピストン径=70mm、ピストンストローク=13mm、ピストンロッド駆動用の円板カム軸回転数=2750rpm、ロッド本体の潤滑=軸受下端部への潤滑油吹付けによる油潤滑]に組込んで連続運転試験をおこなったところ、各サンプルとも、運転時間=1500時間においてもピストンロッド1および軸受13部のブッシュ13a(青銅焼結材製でテフロンコーティングを施して成る)の摩耗は殆どなく、良好な耐摩耗特性が得られた。
【0024】
比較例
これに対して比較例として、ガス窒化処理のガス雰囲気中のNH3 の容積を15%(比較例1)および40%(比較例2)とし、その他は前記実施例と同条件で処理をおこない、またガス窒化処理温度を350℃(比較例3)および600℃(比較例4)とし、その他は前記実施例と同条件で処理をおこなったところ、比較例1のものでは窒化処理時間を16時間としても窒化物層の厚さは5μmと薄く、比較例2および比較例4のもの(但し窒化処理時間:16時間)の窒化物層はε相とγ′相の混相となってε炭窒化物層が形成されず、表面粗さもRz =1.2μmと大きく、また比較例3のものでは窒化物層の厚さを5μmとするためには48時間という長時間の窒化処理を必要とし、いずれも実施例に比べて問題点が多く実用に供し得ないものであった。
【0025】
この発明は上記具体例および実施例に限定されるものではなく、たとえば上記具体例では処理室22において摺動部品のフッ化処理(フッ化物膜形成処理)とガス窒化処理の両方をおこなうようにしたので、装置が簡潔でしかも処理途中での被処理物の搬送が不要なので能率的に処理をおこなえるという長所を有するものであるが、このフッ化処理とガス窒化処理とは別室でおこなうようにしてもよいし、さらに各処理を連続式ではなくバッチ処理式の装置によっておこなうことも可能である。
【0026】
またこの発明は、たとえばギヤやスプライン付シャフトなど、ピストン式バキュームポンプのピストンロッド以外の摺動部品の表面処理にも、適用できるものである。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したようにこの発明によれば、摺動部品の摺動面部にはε炭窒化物から成る窒化物層が形成され、このε炭窒化物は小孔で緻密なポーラス質状を呈し表面粗さが小さいので、摺動の相手部品に対する相手攻撃性が軽微であり、潤滑油保持能力が高いこともあいまって、相手部品の摩耗が低減化され、長寿命化をはかることができる。またガス窒化処理時の温度が500℃以下と低いので、摺動部品の熱歪みが小さく、表面処理後の摺動面部の再加工を必要とせず、また部品自身の硬度低下も小さくてすみ、摺動部品自身の摩耗も低減化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一具体例を示すピストンロッド(摺動部品)の正面図である。
【図2】この発明の一具体例を示す表面処理装置の略示縦断面図である。
【図3】図1のピストンロッドの表面処理後のロッド本体部の要部正面(一部縦断面)図である。
【図4】この発明の実施例における窒化処理時間と窒化物層の厚さおよび表面粗さの関係を示す線図である。
【符号の説明】
1…ピストンロッド、3…ロッド本体、7…窒化物層、21…連続式表面処理装置、22…処理室、33…処理ガス入口、34…処理ガス出口、W…ワーク。
【発明の属する技術分野】
この発明は、たとえば自動車に積載されエンジンにより駆動されるピストン式バキュームポンプのピストンロッドなどの、摺動部材の表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ピストン式バキュームポンプは、たとえば特開平5−106556号公報に開示されているように、ケーシング内に設けたシリンダ部にピストンを上下動自在に嵌装し、ピストンの上下に形成されたポンプ上室とポンプ下室にそれぞれ吸入弁と吐出弁を設けて、ピストンの往復運動によってポンプ上室およびポンプ下室に生じた負圧をブレーキブースタ等のアクチュエータあるいはリザーバ等に付与するように構成されている。そして上記ピストンは、ケーシングに設けた軸受に摺動自在に支持されたピストンロッドの一端部に固着され、このピストンのロッドの他端部に設けたローラが、エンジンに連動する円板カムによって駆動されて、ピストンが上下動する。
【0003】
ところで上記のピストンロッド(以下ロッドと略称する)は、ブッシュ状の軸受に対して直線状に往復摺動するため、その耐摩耗性を向上させる必要があり、従来は機械構造用合金鋼製の素材部品を浸炭焼入後、ガス軟窒化処理を施してその表面硬化をはかっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが上記従来の表面硬化処理においては、ガス軟窒化の処理温度が530〜580℃と高温であるため、生成窒化物層はε相(Fe2 〜3 N)とγ′相(Fe4 N)が混在する粗大な多孔質層から成り表面粗さも大であるので、ロッドの摺動する相手部材である軸受に対する相手攻撃性が大きく該軸受の摩耗が早期に進行するとともに、上記の処理温度が高温であることにより、ロッドの浸炭硬化層が軟化してロッド自身も摩耗しやすく、さらにロッドの熱ひずみが大きいので研削加工部分をラップ仕上げなどにより再加工する必要がありロッドの加工工程が複雑で加工費がかさむなど、多くの問題点を有するものであった。
【0005】
この発明は上記従来の問題点を解決するもので、表面処理後の部品の熱歪みが小さく、部品表面処理層が緻密で表面粗さが小さく相手攻撃性が軽微であるとともに、部品自身の浸炭硬化層部の硬度低下も小さくてすむ摺動部品の表面処理方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明の摺動部品の表面処理方法は、機械構造用合金鋼製の素材部品を浸炭焼入後その摺動面部を研削加工して成る摺動部品を、フッ素を含む反応ガス雰囲気中に保持して表面層にフッ化物膜を形成した後、該摺動部品に、容積20〜30%のNH3 と残量がN2 から成るガス雰囲気中において400〜500℃の範囲内の処理温度でガス窒化処理を施して、前記摺動面部にε炭窒化物から成る窒化物層を形成することを特徴とする。
【0007】
この発明において、素材部品を形成する機械構造用合金鋼としては、JIS G 4102に規定される各種合金鋼鋼材を使用できる。
【0008】
またこの発明において、フッ素を含む反応ガスとしては、たとえばNF3 ,BF3 ,CF4 ,HF等のフッ素化合物ガスとN2 ,Ar等の不活性ガスとの混合ガスを使用でき、そのフッ素ガス濃度は1000〜100000ppm程度のものでよい。
【0009】
上記のフッ素を含む反応ガス雰囲気中での保持により、摺動部品の表面のFeO,Fe3 O4 ,Cr2 O3 等の酸化皮膜は、FeF2 ,FeF3 ,CrF3 ,CrF4 等のフッ化物膜に置換され、表面に吸着されていたO2 も除去され、このフッ化物膜は後工程のガス雰囲気中のH2 又は微量の水分によって還元あるいは破壊され、活性度の高い金属素地が形成されるので、後工程における500℃以下のガス窒化によっても、確実に窒化物層を形成できる。また研削加工時砥粒粉,酸化物粉等が埋めこまれ、局部的に活性度を減じている研削面すなわち機械的変質層に対しても、フッ素を含む反応ガスが上記と同様に作用し、このような非活性点を除去するので、500℃以下の低温度領域のガス窒化においても確実に窒化物層を形成できるのである。
【0010】
この発明において、ガス窒化処理のガス雰囲気中のNH3 の容積を20〜30%に限定したのは、20%未満では窒化物層が一般に耐摩耗性の上から必要とされる5μmよりも薄くなって耐久力が不足し、30%を越えるとε炭窒化物の形成が不十分となるからである。
【0011】
またこの発明において、ガス窒化処理温度を400〜500℃に限定したのは、400℃未満では所定の層厚(たとえば5μm)の窒化物層を形成するための処理時間がかかり、500℃を越えるとε炭窒化物の形成が困難になるからである。
【0012】
上記のガス雰囲気成分および処理温度のもとでのガス窒化処理により、摺動部品の摺動面部に形成される窒化物層は、ほぼ単相のε相に炭素を充分固溶したε炭窒化物によって構成されることになり、このε炭窒化物は小孔で緻密なポーラス質状を呈し潤滑油保持能力が高いうえ、表面粗さが小さいので相手攻撃性が軽微であり、又処理温度が低いので、摺動部品の熱歪みが小さく、部品自身の浸炭硬化層部の硬度低下も小さくてすむのである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下図面によってこの発明の一具体例を説明すると、図1はこの発明の方法の処理対象物となる摺動部品であるピストンロッド1を示し、上端部におねじ部2を連設したロッド本体3の下端部に円板状のばね受け部4を連設し、このばね受け部4の下面にローラ11取付用の取付金部5を突設して成る。12はおねじ部2へのナット締めによりロッド本体3に取付けられるピストンで、図示しないケーシングのシリンダ部内に組込まれ、13はロッド本体3部を摺動自在にガイドするケーシングの軸受で、この軸受内に嵌込まれたブッシュ13aがロッド本体3の外周面に摺接する。
【0014】
このピストンロッド1は、機械構造用合金鋼から成り、熱間鍛造後機械加工した素材部品を、浸炭焼入後、その摺動面部であるロッド本体3の外周面を研削加工して成る。
【0015】
次に図2は、前記ピストンロッド1に対して表面処理をおこなう連続式表面処理装置21を示し、連続式熱処理炉と同様な構成を有し、フッ化・窒化処理をおこなう処理室22に冷却室23を連設し、ピストンロッド1をバスケット内に多数個装入したワークWを、処理室22の入口22a側に設けた入口コンベヤ24上から、処理室22および冷却室23内を経て、冷却室23の出口23b側に設けた出口コンベヤ25上に搬送するよう、処理室22および冷却室23内に搬送用ローラ26を並設して成る。27は入口扉、28は中間扉、29は出口扉で、連続式熱処理炉と同様なエアシリンダ30,31,32により開閉駆動される。33は処理室22の天井部に設けた処理ガス入口、34は同じく処理ガス出口、35は冷却室23の天井部に設けた冷却ガス入口、36は同じく冷却ガス出口である。また図示を省略してあるが、処理室22内には電熱ヒータなどのヒータを設けてあり、処理室内雰囲気を所定の温度に保持できるようになっている。
【0016】
上記の連続式表面処理装置21を用いてピストンロッド1の表面処理をおこなうには、先ずワークWを処理室22内に搬入し、フッ素を含む反応ガスを処理ガス入口33から処理室22内に送入して、この反応ガス雰囲気中でピストンロッド1を、例えばNF3 を含む反応ガスの場合150〜350℃の温度に加熱保持して、ピストンロッド1の表面にフッ化物膜を形成させる。上記の保持時間は、ピストンロッド1の鋼種、形状、寸法、加熱温度に応じて適当な時間を選べばよく、通常は十数分乃至数十分程度でよい。
【0017】
上記工程によりピストンロッド1の表面部にはフッ化物膜が形成されるので、次に容積20〜30%のNH3 と残量がN2 ガスから成る窒化ガスを処理ガス入口33から処理室22内に送入して、処理室22内を400〜500℃に維持してガス窒化処理をおこなう。
【0018】
これによってピストンロッド1の表面部には、図3に示すようにε炭窒化物から成る窒化層7が形成されるので、次にワークWを冷却室23内に移送し、冷却ガス入口35から冷却室23内にN2 ,H2 などの冷却用ガスを送入してピストンロッド1の冷却をおこなえば、処理は完了する。
【0019】
【実施例】
次に上記連続式表面処理装置21を用いた実施例によって、この発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
実施例
機械構造用合金鋼鋼材であるSCM415を素材として用い、熱間鍛造後図1に示す形状(但しロッド本体3の直径:12mm、長さ:47mm)に切削加工した素材部品に対して、ガス浸炭法による浸炭処理およびそれに続く840℃からの焼入(但し冷却剤:コールド油)をおこない、ロッド本体3の外周面を研削加工して、該外周面部の表面粗さがRz (十点平均粗さ)=0.4μmのピストンロッド1を得た。
【0021】
次に上記のピストンロッド1を処理室22内において、濃度10000ppmのNF3 ガスを含むN2 ガス雰囲気中で、温度380°で約15分間保持したのち、処理室22内において、NH3 =25容積%、N2 =75容積%の混合ガス雰囲気中で、処理温度を480±5℃に維持し、処理時間を4時間から16時間まで4時間ずつ変化させた4種類の処理時間のガス窒化処理を施し、次いで冷却室23においてN2 ガスによる強制冷却をおこなって、4種類の表面処理品サンプルを得た。
【0022】
この各サンプルについて、ロッド本体3の外周面部の窒化物層7をX線回折法により観察したところ、窒化物層7はいずれもε炭窒化物から成り、金属顕微鏡により測定したその層厚は図4に示す通りであった。また上記外周面部の表面粗さについて測定した結果も、同図に示してある。
【0023】
図4から判るように各サンプルの窒化層7の厚さは5μm以上あり、表面粗さRz も最大0.8μmと小さく、窒化層下側の拡散層部(浸炭硬化層部)の硬度低下およびロッド本体3の熱歪みも殆どなく、各サンプルをそのままピストン式バキュームポンプの実機[但しポンプの到達真空度=120Torr(−640mmHg:16KPa),ピストン径=70mm、ピストンストローク=13mm、ピストンロッド駆動用の円板カム軸回転数=2750rpm、ロッド本体の潤滑=軸受下端部への潤滑油吹付けによる油潤滑]に組込んで連続運転試験をおこなったところ、各サンプルとも、運転時間=1500時間においてもピストンロッド1および軸受13部のブッシュ13a(青銅焼結材製でテフロンコーティングを施して成る)の摩耗は殆どなく、良好な耐摩耗特性が得られた。
【0024】
比較例
これに対して比較例として、ガス窒化処理のガス雰囲気中のNH3 の容積を15%(比較例1)および40%(比較例2)とし、その他は前記実施例と同条件で処理をおこない、またガス窒化処理温度を350℃(比較例3)および600℃(比較例4)とし、その他は前記実施例と同条件で処理をおこなったところ、比較例1のものでは窒化処理時間を16時間としても窒化物層の厚さは5μmと薄く、比較例2および比較例4のもの(但し窒化処理時間:16時間)の窒化物層はε相とγ′相の混相となってε炭窒化物層が形成されず、表面粗さもRz =1.2μmと大きく、また比較例3のものでは窒化物層の厚さを5μmとするためには48時間という長時間の窒化処理を必要とし、いずれも実施例に比べて問題点が多く実用に供し得ないものであった。
【0025】
この発明は上記具体例および実施例に限定されるものではなく、たとえば上記具体例では処理室22において摺動部品のフッ化処理(フッ化物膜形成処理)とガス窒化処理の両方をおこなうようにしたので、装置が簡潔でしかも処理途中での被処理物の搬送が不要なので能率的に処理をおこなえるという長所を有するものであるが、このフッ化処理とガス窒化処理とは別室でおこなうようにしてもよいし、さらに各処理を連続式ではなくバッチ処理式の装置によっておこなうことも可能である。
【0026】
またこの発明は、たとえばギヤやスプライン付シャフトなど、ピストン式バキュームポンプのピストンロッド以外の摺動部品の表面処理にも、適用できるものである。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したようにこの発明によれば、摺動部品の摺動面部にはε炭窒化物から成る窒化物層が形成され、このε炭窒化物は小孔で緻密なポーラス質状を呈し表面粗さが小さいので、摺動の相手部品に対する相手攻撃性が軽微であり、潤滑油保持能力が高いこともあいまって、相手部品の摩耗が低減化され、長寿命化をはかることができる。またガス窒化処理時の温度が500℃以下と低いので、摺動部品の熱歪みが小さく、表面処理後の摺動面部の再加工を必要とせず、また部品自身の硬度低下も小さくてすみ、摺動部品自身の摩耗も低減化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一具体例を示すピストンロッド(摺動部品)の正面図である。
【図2】この発明の一具体例を示す表面処理装置の略示縦断面図である。
【図3】図1のピストンロッドの表面処理後のロッド本体部の要部正面(一部縦断面)図である。
【図4】この発明の実施例における窒化処理時間と窒化物層の厚さおよび表面粗さの関係を示す線図である。
【符号の説明】
1…ピストンロッド、3…ロッド本体、7…窒化物層、21…連続式表面処理装置、22…処理室、33…処理ガス入口、34…処理ガス出口、W…ワーク。
Claims (1)
- 機械構造用合金鋼製の素材部品を浸炭焼入後その摺動面部を研削加工して成る摺動部品を、フッ素を含む反応ガス雰囲気中に保持して表面層にフッ化物膜を形成した後、該摺動部品に、容積20〜30%のNH3 と残量がN2 から成るガス雰囲気中において400〜500℃の範囲内の処理温度でガス窒化処理を施して、前記摺動面部にε炭窒化物から成る窒化物層を形成することを特徴とする摺動部品の表面処理方法。
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JP27545196A JP3593221B2 (ja) | 1996-09-25 | 1996-09-25 | 摺動部品の表面処理方法 |
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