JP3591422B2 - 連続鋳造機の湯面レベル制御方法及び湯面レベル制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、連続鋳造機の鋳込み操業中に、鋳型内部の湯面レベルを予め定めた目標レベルに保つべく制御する湯面レベル制御方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
連続鋳造機の操業は、上下に開口を有する筒形の鋳型に溶融金属(溶湯)を注入(注湯)し、該鋳型の水冷された内壁に接触せしめて冷却し、その外側を凝固シェルにて被覆された鋳片となし、該鋳片を、これの外側に転接する複数対のガイドロールにより案内し、前記鋳型の下側開口部から連続的に引き抜きつつ更に冷却して、内側にまで凝固が進行した製品鋳片を得る手順にて行われる。
【0003】
このような連続鋳造機においては、鋳型上部からの溶湯の溢出、ブレークアウトの発生等、安定操業を阻害する各種の不都合を未然に防止して生産能率の向上を図ると共に、鋳型内での冷却、凝固状態を安定化させ、製品鋳片の品質向上を図るため、鋳型の内部に滞留する溶湯の表面レベル(湯面レベル)を適正レベルに維持することが重要であり、従来から、鋳型内部の湯面レベルを予め定めた目標レベルに保つための湯面レベル制御が行われている。
【0004】
この湯面レベル制御は、渦流レベル計等の適宜のレベル計により、操業中の鋳型内部の湯面レベルを検出し、この検出レベルと予め定めた目標レベルとを比較して、両者の偏差に基づく演算により鋳型への注湯のための注湯手段(スライディングゲート、ストッパ装置等)の開度変更量を求め、求められた開度変更量に対応する開度指令を前記注湯手段のアクチュエータ(油圧シリンダ等)に与え、前記鋳型への注湯量を加減することにより行われている。なお、前記開度変更量は、前記偏差を入力とするPI演算又はPID演算により求められ、制御対象を含めた制御系の安定化を図るようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、連続鋳造機の操業においては、鋳型から引き抜かれる鋳片のバルジング等、湯面レベルの変動を引き起こす周期的な外乱が存在しており、これらの外乱に起因して鋳型内部に発生する周期的なレベル変動は、前述の如く行われる一般的な湯面レベル制御により抑制することは難しい。
【0006】
鋳型内部の溶湯の表面上には、鋳型の内壁との間の潤滑性の向上を図ると共に、外気との接触による前記表面の酸化を防止することを目的として、パウダと称される潤滑剤が供給されており、前述の如く周期的なレベル変動が生じた場合、溶湯内への前記パウダの巻き込みが助長されて、この間に生成された製品鋳片に表皮下欠陥が生じ易くなるという問題があり、特に、高い製品品質が要求される連続鋳造機においては、前述の如く発生する周期的な湯面レベルの変動を抑制することが重要な課題となっている。
【0007】
また以上の如き周期的なレベル変動は、鋳型の幅に対応する特定の周期にて発生したとき、前記鋳型の幅を半波長の整数倍とする定在波として、その振幅を徐々に増しつつ継続することがあり、このような場合には、鋳型上部からの溶湯の溢出、ブレークアウトの発生等、連続鋳造機の安定操業に支障を来す重大な問題を引き起こす虞れもある。
【0008】
このような事情により従来から、周期的なレベル変動の抑制を図った湯面レベル制御方法及び湯面レベル制御装置が種々提案されている。
【0009】
特開平5-23811号公報には、注湯手段の開度変更量を、鋳型内部の湯面の検出レベルと目標レベルの偏差を入力とするPI演算により求める一方、注湯手段の開度及び鋳型内部の湯面レベルの検出値を入力とするオブザーバにより、周期的なレベル変動を引き起こす外乱を正弦波状又はランプ状に変化する流量外乱として推定し、この推定値を用いて外乱を打ち消し得る補正信号を求め、前記開度変更量に加算することによりレベル変動の抑制を図る方法が開示されている。
【0010】
また特開平10−314911号公報には、注湯手段の開度変更量を、鋳型内部の湯面の検出レベルと目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める一方、前記偏差を、特定の周波数に対応する位相進み補償器に与え、該位相進み補償器の出力を前記開度変更量に加算することによりレベル変動の抑制を図る方法が開示されている。
【0011】
ところが、前者の方法により周期的なレベル変動を抑制しようとする場合、この変動を引き起こす外乱を正弦波状に変化する流量外乱であると仮定するが、実際の外乱波形は、正弦波にひずみが加わった形態となることが多く、このような場合、十分なレベル変動抑制効果は得られない。また後者の方法においては、前記位相進み補償器が、特定の周波数以外のレベル変動に対し注湯手段の開度操作量を増すように働き、他の周波数でのレベル変動を引き起こす虞れがある。
【0012】
また特開平11-77268号公報及び1998年12月発行のNKK技報 No.164 に掲載された「連続鋳造モールド湯面レベル制御の高精度化」には、注湯手段の開度変更量を、鋳型内部の湯面の検出レベルと目標レベルとの偏差を入力とするPI演算により求める一方、鋳込み速度をスケジューリングパラメータとするゲインスケジューリングH∞制御理論により設計した補償器を備え、前記偏差を入力とする該補償器の出力を前記開度変更量に加算することによりレベル変動の抑制を図る方法が開示されている。
【0013】
更に特開平7-40022号公報には、周期的なレベル変動の周波数帯域を通過帯域とするバンドパスフィルタを重み関数として、H∞制御理論により設計された制御装置により湯面レベル制御を実行することにより、対象となる周期的なレベル変動の抑制を図る方法が開示されている。
【0014】
これらの方法は、目標値(目標レベル)を入力とし、制御量(湯面レベル)を出力とする本来の制御系の伝達関数を1に近付け、制御系の安定性を確保することと、レベル変動の原因となる外乱を入力とし、制御量(湯面レベル)を出力とする仮の制御系の伝達関数を零に近付け、前記外乱に起因する湯面レベルの変化を抑制することとを両立させようとする線形ロバスト制御の考えに基づくものであり、前記補償器又は制御装置の設計に用いた所定周波数の外乱に対しては有効である反面、前記所定周波数と異なる周波数を有する外乱に対しては殆ど効果がないという欠点を有している。
【0015】
即ち、前記特開平11-77268号公報及び特開平7-40022号公報に開示された方法においては、H∞制御理論により設計された補償器又は制御装置が、前記設計に用いた周波数の近傍のレベル変動に対して機能するのみであり、前記周波数から外れた周波数を有するレベル変動の抑制効果は殆ど期待し得ず、より優先すべき制御系の安定性が損なわれる虞れさえある。
【0016】
また、前記バルジングに起因するレベル変動は、鋳込み速度に関連する周波数を有しており、鋳込み速度が変更される連続鋳造機に適用する場合、夫々の鋳込み速度に対して設計された補償器又は制御装置を各別に用意する必要があって、制御系の構成が複雑化するという問題がある。
【0017】
一方鋳型の内部には、前述の如く、鋳型幅を半波長の整数倍とする定在波として周期的なレベル変動が生じることがあり、このようなレベル変動に対し、従来においては、湯面の検出レベルと目標レベルとの偏差を用いて注湯手段の開度変更量を求める演算器(PI演算器又はPID演算器等)のゲインを所定の周波数以上において低減せしめることにより対応しているが、この場合、外乱に起因するレベル変動に対する抑制周波数帯域が小さいため、鋳型内部の湯面レベルが目標レベルから外れた後の復帰が遅くなり、鋳型内での冷却、凝固状態を安定化させることが難しいという問題があった。
【0018】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、連続鋳造機の鋳型内部における湯面レベルの周期的な変動を、その周波数の如何に拘わらず効果的に抑制することができ、またこのために制御系全体の安定性を損なうことのない湯面レベル制御方法及び湯面レベル制御装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御方法は、連続鋳造機の操業中に鋳型の内部の湯面レベルを検出し、この検出レベルと予め定めた目標レベルとの偏差を用いて求めた開度指令に従って前記鋳型への注湯手段の開度を変更して、前記湯面レベルを前記目標レベルに保つべく制御する連続鋳造機の湯面レベル制御方法において、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を用い、前記注湯手段に必要とされる開度変更量を求める一方、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を用い、制御系の感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく、前記偏差に加える偏差補正量、及び前記開度変更量に加える開度補正量を夫々求め、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差に前記偏差補正量を加えて前記補正値とし、また前記開度変更量に前記開度補正量を加えて前記開度指令とすることを特徴とする。
【0020】
また本発明の第2発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、連続鋳造機の操業中に鋳型の内部の湯面レベルを検出し、この検出レベルと予め定めた目標レベルとの偏差を用いて求めた開度指令に従って前記鋳型への注湯手段の開度を変更して、前記湯面レベルを前記目標レベルに保つべく制御する連続鋳造機の湯面レベル制御装置において、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を入力とし、前記注湯手段の開度変更量を求める開度演算部と、前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を入力とし、制御系の感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく、前記偏差に加える偏差補正量、及び前記開度変更量に加える開度補正量を夫々求める補正量演算部と、該補正量演算部により求められた偏差補正量を前記偏差に加算して該偏差の補正値を出力する加算器と、前記補正量演算部により求められた開度補正量を前記開度演算部により求められた開度変更量に加算して前記開度指令を出力する加算器とを具備することを特徴とする。
【0021】
また本発明の第3発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、第2発明の補正量演算部が、前記開度演算部のみを備える制御系の感度関数と、前記開度演算部と前記補正量演算部とを備える制御系の感度関数と、前記所定の周波数の信号を遮断するノッチフィルタの伝達関数とを用いた評価関数を最小とすべく決定された伝達関数を有するフィルタ要素として構成してあることを特徴とする。
【0022】
また本発明の第4発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、第2発明の補正量演算部が、前記開度演算部のみを備える制御系の相補感度関数と、前記開度演算部と前記補正量演算部とを備える制御系の相補感度関数と、前記所定の周波数の信号を遮断するノッチフィルタの伝達関数とを用いた評価関数を最小とすべく決定された伝達関数を有するフィルタ要素として構成してあることを特徴とする。
【0023】
また本発明の第5発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、第3発明又は第4発明のノッチフィルタの遮断周波数、遮断周波数におけるゲイン及び遮断周波数を中心とする減衰帯域幅を変更可能に構成してあることを特徴とする。
【0024】
また本発明の第6発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、前記鋳型内部の湯面レベルの変動状態を表す変動モデルに前記検出レベル及び開度指令を適用し、湯面変動の原因となる外乱を推定する手段と、該手段による推定外乱の周波数分布を求める手段と、該手段により求められた周波数分布に基づいて前記ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインを夫々変更する手段とを備えることを特徴とする。
【0025】
更に本発明の第7発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置は、前記検出レベルの周波数分布を求める手段と、該手段により求められた周波数分布に基づいて前記ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインを夫々変更する手段とを備えることを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。図1は、本発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
図中1は、上下に開口を有する筒形の鋳型であり、該鋳型1の上方には、溶湯2を貯留するタンディッシュ20が配してある。該タンディッシュ20の底面には、注湯ノズル3が連設され、前記鋳型1の内部にまで延長されており、タンディッシュ20内の溶湯2は、前記注湯ノズル3の基部に注湯手段として構成されたスライディングゲート30を経て鋳型1内に注湯され、該鋳型1の水冷された内壁との接触により冷却されて外側から凝固し、凝固シェルにより外側を被覆された鋳片4となって鋳型1の下方に連続的に引き抜かれる。
【0028】
このような鋳片4の引き抜きは、鋳型1の下方に所定の間隔毎に並設された複数対のガイドロール5,5…により案内され、予め定めた鋳込み速度を保って行われており、この引き抜きの間に前記鋳片4は、図示しないスプレ帯から噴射される冷却水により冷却され、最内部にまで凝固が進行した段階にて所定の寸法に切断され、圧延等の後工程において用いられる製品鋳片となる。
【0029】
以上の如き連続鋳造機の操業中、鋳型1内部の溶湯2の表面レベル(湯面レベル)は、該溶湯2の表面に臨ませたレベル計6により検出されており、この検出レベルyは、レベル制御装置7に与えられている。またレベル制御装置7には、目標レベル設定器7aに設定された鋳型1内にて維持すべき溶湯2の表面レベルの目標値(目標レベルr)が与えられており、該レベル制御装置7は、前記レベル計6による検出レベルyと目標レベル設定器7aに設定された目標レベルrとの偏差を求め、この偏差を解消すべく前記スライディングゲート30の開度変更量を求め、求められた開度変更量を得るべく、前記スライディングゲート30の開閉用アクチュエータ(油圧シリンダ)31に開閉指令uを発し、この開閉指令uに応じたアクチュエータ31の動作によりスライディングゲート30の開度を変え、鋳型1への注湯量を調節する湯面レベル制御動作を行うように構成されている。
【0030】
図2は、レベル制御装置7の第1の実施の形態を示すブロック線図である。このレベル制御装置7は、入力として与えられる目標レベルrと検出レベルyとの偏差を求め、この偏差に対応する偏差信号eを出力する加算器74と、この偏差信号eと後述する偏差補正量xとを加算し、両者の加算信号Eを出力する加算器75と、この加算信号Eを入力とし、開度変更量u0 を演算する開度演算部76と、同じく前記加算信号Eを入力とし、開度演算部76により求められた開度変更量u0 に加える開度補正量v、及び前記偏差信号eに加える偏差補正量xを夫々演算する補正量演算部77と、該補正量演算部77の出力と前記開度演算部76の出力とを加算して前記開度指令uとして出力する加算器78とを備えて構成されている。
【0031】
補正量演算部77は、図示の如く、第1,第2,第3のフィルタ 77a,77b,77cを備えるフィルタ要素として構成されている。前記加算信号Eは、第1のフィルタ 77aに与えられ、該フィルタ 77aの出力qが第2,第3のフィルタ 77b,77cに並列に与えられており、第2のフィルタ 77bが前記開度補正量vを、第3のフィルタ 77cが前記偏差補正量xを夫々出力する構成となっている。
【0032】
ここで図2中に示す如く、開度演算部76の伝達関数をC0 (s)とし、補正量演算部77を構成する第1,第2,第3のフィルタ 77a,77b,77cの伝達関数を、夫々Q(s),Ma (s),Na (s)(sはラプラス演算子)とした場合、図2に示す如く、第1,第2のフィルタ 77a,77bは、前記開度演算部76の入力側のフィードバックループを、第1,第3のフィルタ 77a,77cは、前記開度演算部76と並列されたフィードフォワードループを夫々構成していることから、前記偏差信号eを入力とし、前記開度指令uを出力とする伝達関数C(s)は、下式により表される。
【0033】
C(s)=(C0 (s)+Ma (s)Q(s)) /(1−Na (s)Q(s)) …(1)
【0034】
図3は、以上の如きレベル制御装置7を用いたレベル制御系を、前記目標レベルをr、前記検出レベルをyとし、制御対象となる連続鋳造機における湯面レベル変動プロセスモデルの伝達関数をP(s)とし、また、操業中に湯面レベルの変動を引き起こす外乱をd(ノズル開度に換算したもの)として表したブロック線図である。なお、湯面レベル変動プロセスモデルの伝達関数P(s)は、次式により表される。
【0035】
P(s)=Kf ・Vf ・Ks ・exp(−Td s)/(Am s) …(2)
【0036】
この式中、Vf はタンディッシュ20の底部での溶湯の流出速度、Kf はスライディングゲート30を含む注湯ノズル3の流量係数、Ks はスライディングゲート30の動作量に対する開口面積の変化率であり、また、Am は鋳型1の水平方向断面積、Td は注湯ノズル3の内部での湯落ちに要する無駄時間である。以下の説明においては、(2)式における定数項をまとめたパラメータKp を用いる。
【0037】
Kp =Kf ・Vf ・Ks /Am …(3)
【0038】
ここで、前記補正量演算部77が働かないと仮定した場合、図3に示すブロック線図は、図4に示す如く単純なフィードバック制御系のブロック線図に簡略化される。この場合、前記偏差信号eを入力として開度演算部76において求められた開度変更量u0 が開度指令として出力され、加算器73において外乱dを加算されて湯面レベル変動プロセスモデルに与えられ、鋳型1の内部の湯面レベルが変化する。このように変化する湯面レベルは、前記レベル計6による検出レベルyとしてフィードバックされ、加算器74において目標レベルrとの偏差が求められ、この偏差に対応する偏差信号eが開度演算部76に与えられて開度変更量u0 が求められる。
【0039】
従って、PI演算器、PID演算器等、それ自体安定な演算器により開度演算部76を構成すれば、補正量演算部77が働かない状態での制御系の基本特性を安定に定めることができる。
【0040】
補正量演算部77は、以上の如く安定に構成された制御系の感度関数のゲイン、又は相補感度関数ゲインのいずれか一方が、予め定めた目標周波数において小さくなるように以下の如くに定める。
【0041】
補正量演算部77に含まれる第2のフィルタ 77b、第3のフィルタ 77cは、これらの伝達関数Ma (s),Na (s)のいずれもが、前記(2)式により表される湯面レベル変動プロセスモデルの伝達関数をP(s)に対して安定であるように、下式の如く構成する。
【0042】
P(s)=Na (s)/Ma (s) …(4)
【0042】
而して、図3に示す制御系の感度関数のゲイン又は相補感度関数ゲインの低減は、補正量演算部77に含まれる第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を以下の手順にて設定することにより実現する。
【0043】
図2に示す如く構成されたレベル制御装置7は、前述した如く、第1,第2のフィルタ 77a,77bを備えるフィードバック構造と、第1,第3のフィルタ 77a,77cを備えるフィードフォワード構造とを備えているが、この構造は、第1のフィルタ 77aが安定であれば常に安定である特性を有する。
【0044】
図3に示すブロック線図において、検出レベルyと目標レベルrとの偏差信号eを入力として求められた開度指令uに従う制御動作により、外乱dの作用下にて鋳型1の内部にて変化する湯面レベルyを出力とする一巡ループの伝達関数は、下記(5)式にて表される。
【0045】
【数1】
【0046】
前記一巡ループを安定とするには、この(5)式にて表される伝達関数の全ての零点の実部が負であることが必要である。ここで、補正量演算部77が働かないと仮定して得られた図4に示すブロック線図において、同様の一巡ループの伝達関数は、1+P(s)C0 (s)であり、これは、全ての零点の実部が負であり、しかも原点に極をもつ。
【0047】
従って、(5)式の一巡伝達関数を有する制御系、即ち、図3に示す制御系が安定であるためには、1−Na (s)Q(s)の全ての極の実部が負であるか、又は1+P(s)C0 (s)と同数の極を原点にもてばよい。ここで、前述の如くNa (s)は安定であることから、Q(s)の全ての極の実部が負であるか、又は1+P(s)C0 (s)と同数の極を原点にもてば、図3に示す制御系は常に安定となる。
【0048】
図3に示す制御系の感度関数S(s)は、前述の如く、湯面レベル制御の目標値となる目標レベルrを入力とし、前記偏差信号eを出力とする伝達関数として定義されるものであり、下式により表される。
【0049】
S(s)=e/r=1/(1+P(s)C(s)) …(6)
【0050】
また、補正量演算部77が働かないと仮定して得られた図4に示す制御系の感度関数S0 (s)は、下式により表される。
【0051】
S0 (s)=e/r=1/(1+P(s)C0 (s)) …(7)
【0052】
従って、(6)式により表される感度関数S(s)は、(5)式と(7)式とを用いて変形すると、下式により表される。
【0053】
S(s)=(1−Na (s)Q(s))S0 (s) …(8)
【0054】
また図3に示す制御系の相補感度関数T(s)は、目標レベルrを入力とし、湯面レベルyを出力とする伝達関数として定義されるものであり、下式により表される。
【0055】
T(s)=y/r=P(s)C(s)/(1+P(s)C(s)) …(9)
【0056】
また、補正量演算部77が働かないと仮定して得られた図4に示す制御系の相補感度関数T0 (s)は、下式により表される。
【0057】
T0 (s)=y/r=P(s)C0 (s)/(1+P(s)C0 (s)) …(10)
【0058】
従って、(9)式により表される相補感度関数T(s)は、(5)式と(10)式とを用いて変形すると、下式により表される。
【0059】
T(s)=(1−Ma (s)/C0 (s)Q(s))T0 (s) …(11)
【0060】
このように、図3に示す制御系においては、前記補正量演算部77の第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を適宜に調整することにより、前記(8)式により示される感度関数S(s)のゲイン、又は前記(11)式に示される相補感度関数T(s)のゲインを変更することができる。
【0061】
以上により、感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の目標周波数において小さくすることができるが、更には、前記目標周波数以外の周波数における感度関数又は相補感度関数のゲインが、補正量演算部77を備えない図4に示す制御系におけるそれらと可及的に近くなるように補正量演算部77を構成するのが望ましい。
【0062】
このような目的は、感度関数のゲインに関して、(6)式に表される感度関数S(s)と、(7)式に表される感度関数S0 (s)と、図5に示す如く、前記目標周波数において信号を遮断するノッチフィルタとしての特性を有する伝達関数Fn (s)とを用いた下記の評価関数Jを最小とするように、前記第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めることにより達成される。
【0063】
J=‖Fn (s)−S(s)/S0 (s)‖∞ …(12)
【0064】
この式により表される評価関数Jは、伝達関数S(s)/S0 (s)によってノッチフィルタ伝達関数Fn (s)を近似した誤差を、H∞ノルムで評価するものであり、Jの最小値をJmin とすると、全てのωに対して下式の関係が成り立つ。但し、jは虚数単位である。
【0065】
|Fn (jω)−S(jω)/S0 (jω)|<Jmin …(13)
【0066】
従って、Jmin が十分に小さければ、S(jω)は、全ての周波数域においてS0 (jω)/F(jω)に近付く。ここでノッチフィルタ伝達関数Fn (s)は、ω→0又はω→∞としたとき零ゲインとなるバンドパスフィルタFb (s)を用いて下式により表される。
【0067】
Fn (s)=1−Fb (s) …(14)
【0068】
これと前記(8)式に示す関係とを用いれば、(12)式に示す評価関数Jは、下式に変形される。
【0069】
J=‖−Fb (s)+Na (s)Q(s)‖∞ …(15)
【0070】
次に、補正量演算部77の第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)の決定方法を具体的に説明する。第2のフィルタ 77bの伝達関数Ma (s)と、第3のフィルタ 77cの伝達関数Na (s)とは、前述の如く、湯面レベル変動プロセスモデルの伝達関数をP(s)に対して安定であるように前記(4)式により決定し、また、前述の無駄時間伝達関数exp(−Td s)を(16)式に示す一次パデ近似により近似すると、下記の(17),(18)式により表される。
【0071】
exp(−Td s)≒(1−Td /2s)/(1+Td /2s) …(16)
Na (s)=(1−(Td /2)s)/{(1+(Td /2)s)(1+Tm s)} …(17)
Ma (s)=s/{Kp (1+Tm s)} …(18)
【0072】
またノッチフィルタ伝達関数Fn (s)は、例えば、下式に示す如くに定めることができる。
【0073】
Fn (s)={s2 +2gf (ωc /Qf )s+ωc 2 } /{s2 +2(ωc /Qf )s+ωc 2 } …(19)
【0074】
但し、ωc =2πfc 、fc は目標周波数、gf は目標周波数fc におけるFn (s)のゲイン(0<gf ≦1)であり、Qf (>1)は、目標周波数fc を中心とする減衰帯域幅である。
【0075】
従って、(15)式中に含まれるバンドパスフィルタの伝達関数Fb (s)は、下式の如くなる。
【0076】
Fb (s)=2(1−gf )(ωc /Qf )s /{s2 +2(ωc /Qf )s+ωc 2 } …(20)
【0077】
前記(15)式の評価関数Jを最小とするQ(s)を求める問題は、H∞制御理論においてモデルマッチング問題として知られており、例えば、「アドバンスト制御のためのシステム制御理論」(前田肇,杉江俊治著、朝倉書店、1990)のP124に記載された方法を用いることにより解くことができる。ここで湯落ちに要する無駄時間Td が0であるとき、評価関数Jを最小とするQ(s)は、(21)式の如くとなり、Jの最小値は0となる。
【0078】
Q(s)=Fb (s) …(21)
【0079】
また無駄時間Td が、Td >0であるとき、評価関数Jを最小とするQ(s)は、下記の(22)式の如くなり、Jの最小値はFb (2/Td )となる。
【0080】
Q(s)=(Fb (s)−Fb (2/Td ))/Na (s) …(22)
【0081】
図6は、以上の如く構成された制御系における感度関数S(s)の周波数−ゲイン特性を示す図である。この特性は、目標周波数fc を0.255 Hzとし、gf を0.4 として、またQf を10として補正量演算部77における第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めた場合の結果である。本図中には比較例として、開度演算部76のみを備える従来の制御系ににおける感度関数S0 (s)の周波数−ゲイン特性が破線により示されている。
【0082】
両特性を比較した場合、目標周波数の近傍での感度関数S(s)のゲインは、感度関数S0 (s)のゲインに対して略8dB低下している一方、他の周波数域での両者のゲイン差は、最大2dBに止まっており、目的の達成が確認できる。
【0083】
また前述した目的は、(9)式に表される相補感度関数T(s)と、(10)式に表される相補感度関数T0 (s)との比が、図3に示す関係を満足するようになすことによっても達成可能である。このためには、感度関数の場合と同様に、第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を、前記T(s)及びT0 (s)と、目標周波数において信号を遮断すべく、前記(19)式の如く設定されたノッチフィルタの伝達関数Fn (s)とを用いた下記の評価関数Jを最小とするように定めればよい。
【0084】
J=‖Fn (s)−T(s)/T0 (s)‖∞ …(23)
【0085】
この式により表される評価関数Jは、伝達関数T(s)/T0 (s)によってノッチフィルタ伝達関数Fn (s)を近似した誤差をH∞ノルムで評価するものであり、このような評価関数Jを最小とすることは、伝達関数T(s)/T0 (s)のゲイン特性をノッチフィルタ伝達関数Fn (s)の周波数ゲイン特性に近付けることと等価であり、前述した目的に対して最適である。
【0086】
前記(23)式は、前記(11)、(14)式に示す関係を用いれば、下式に変形される。
【0087】
J=‖−Fb (s)+Ma (s)/C0 (s)Q(s)‖∞ …(24)
【0088】
この評価関数Jを最小とするQ(s)は、(25)式の如くとなり、Jの最小値は0である。
【0089】
Q(s)=−Fb (s)C0 (s)/ Ma (s) …(25)
【0090】
ここで、(20)式に示すFb (s)と(18)式に示すMa (s)とを用い、更に、C0 (s)なる伝達関数を有する開度演算部76がPID演算器として構成されている場合、前記(25)式により表されるQ(s)の原点の極数は1個となり、1+P(s)C0 (s)の原点の極数よりも少ないことから、制御系の安定性は確保される。
【0091】
図7は、以上の如く構成された制御系における相補感度関数T(s)の周波数−ゲイン特性を示す図である。この特性は、目標周波数fc を1.02Hzとし、gf を0.2 として、またQf を20として補正量演算部77における第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めた場合の結果である。本図中には比較例として、PID演算器として構成された開度演算部76のみを備える場合の相補感度関数T0 (s)の周波数−ゲイン特性が破線により示されている。
【0092】
両特性の比較により、目標周波数の近傍において、相補感度関数T(s)のゲインは、相補感度関数T0 (s)のゲインに対して略14dB低下している一方、他の周波数域での両者のゲイン差は、最大2dBに止まっていることが明らかであり、目的の達成が確認できる。
【0093】
目標周波数の近傍での相補感度関数のゲイン低下は、PID演算器として構成された開度演算部76のみを備える従来の制御系において、図中に一点鎖線により示す相補感度関数T0 (s)の周波数−ゲイン特性を得るべく開度演算部76を構成することによっても達成し得る。
【0094】
しかしながらこの場合、図8に示す如く、感度関数のゲインが0dB以下となる領域が本発明におけるそれに比して大幅に狭く、制御動作中における湯面レベルの変動幅が大きくなるという問題がある。本発明においては、外乱による湯面レベル変動を小さく保ちながら、共振による湯面の波立ちを効果的に防止することが可能である。なお図8中の各特性は、図7に示す各制御系における感度関数の周波数−ゲイン特性を、図7と共通の線種によって表したものである。
【0095】
また本発明においては、抑制すべき湯面レベルの目標周波数を適宜に変更することが可能である。図9は、目標周波数の変更を可能としたレベル制御装置7の第2の実施の形態を示すブロック線図である。
【0096】
本図に示すレベル制御装置7は、図2に示すレベル制御装置7と同様に、目標レベルrと検出レベルyとを入力とし、両者の偏差に対応する偏差信号eを出力する加算器74と、この偏差信号eと偏差補正量xとを加算し、両者の加算信号Eを出力する加算器75と、この加算信号Eを入力とし、開度変更量u0 を演算する開度演算部76と、同じく加算信号Eを入力とし開度補正量v及び偏差補正量xとを演算すべく、3つのフィルタ 77a,77b,77cを備えて構成された補正量演算部77と、開度変更量u0 に開度補正量vを加算して開度指令uとして出力する加算器78とを備えて構成されている。
【0097】
図9に示すレベル制御装置7は、更に、制御条件設定器79を備えており、該制御条件設定器79において、低減すべき周期的レベル変動の周波数(目標周波数)fc 、該目標周波数fc 下でのFn (s)のゲインgf 、及び目標周波数fc を中心とする減衰帯域幅Qf を、外部から設定可能に構成してある。
【0098】
このレベル制御装置7においても、fc 、gf 及びQf を(19)式に適用して得られたノッチフィルタ伝達関数Fn (s)を用い、(12)式又は(23)式に表される評価関数Jを最小とするように第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めることにより前述した目的を達成することができる。このとき、前記制御条件設定器79に設定されたfc 、gf 及びQf を用いることにより、低減対象となる周期的レベル変動の周波数、その低減程度、及び低減すべき周波数帯域を適宜に変更することができ、鋳型1内部の周期的なレベル変動を、その変動周期の如何に拘わらず効果的に抑制することが可能となる。
【0099】
以上の如く制御条件設定器79に外部から設定される設定値のうち、低減すべき周期的レベル変動の周波数(目標周波数)fc と、この目標周波数fc 下でのノッチフィルタ伝達関数Fn (s)のゲインgf とは、操業中に実際に生じる湯面レベルの変動状態に応じて適正に自動変更することが可能である。図10は、fc 及びgf の自動変更を可能としたレベル制御装置7の第3の実施の形態を示すブロック線図、図11は、同様にfc 及びgf の自動変更を可能としたレベル制御装置7の第4の実施の形態を示すブロック線図である。
【0100】
これらの図に示すレベル制御装置7は、図9に示すレベル制御装置7と同様、目標レベルrと検出レベルyとを入力とし、両者の偏差に対応する偏差信号eを出力する加算器74と、この偏差信号eと偏差補正量xとを加算し、両者の加算信号Eを出力する加算器75と、この加算信号Eを入力とし、開度変更量u0 を演算する開度演算部76と、同じく加算信号Eを入力として開度補正量v及び偏差補正量xを演算すべく、3つのフィルタ 77a,77b,77cを備えて構成された補正量演算部77と、開度変更量u0 に開度補正量vを加算して開度指令uとして出力する加算器78とを備え、また、低減すべき周期的レベル変動の目標周波数fc 、該目標周波数fc 下でのFn (s)のゲイン(抑制ゲイン)gf 、及び前記目標周波数fc を中心とする減衰帯域幅Qf を、外部から設定可能に構成された制御条件設定器79を備えている。
【0101】
更に、図10に示すレベル制御装置7には、外乱オブザーバ8と周波数・ゲイン設定部9とが付設されている。外乱オブザーバ8は、湯面レベルの変動モデルとステップ状に変化することを仮定した外乱のダイナミクスとを用いて湯面変動の原因となる前記外乱の推定値を算出するものであり、この算出は、入力として与えられる前記検出レベルy及び開度指令uに基づいて行われる。
【0102】
例えば、湯面レベルの変動モデルが下記(26)式により表されるとき、外乱推定値は下記(27)式により算出される。
【0103】
【数2】
【0104】
【数3】
【0105】
以上の如く算出される外乱推定値は、周波数・ゲイン設定部9に与えられる。周波数・ゲイン設定部9は、フーリエ変換器90、最大振幅検出部91及びゲイン設定部92を備えている。前記外乱推定値は、前記フーリエ変換器90に入力され、該フーリエ変換器90において周波数分布が求められる。
【0106】
最大振幅検出部91は、フーリエ変換器90から与えられる外乱推定値の周波数分布を調べ、予め定めた周波数範囲における最大振幅を、これに対応する周波数と共に検出し、前記最大振幅の周波数を低減すべき周期的レベル変動の目標周波数fc として制御条件設定器79に出力し、また検出された最大振幅をゲイン設定部92に出力する。ゲイン設定部92は、最大振幅検出部91から与えられる最大振幅が大となるに従って小さくなるように前記抑制ゲインgf を設定し、この設定値を制御条件設定器79に出力する。
【0107】
レベル制御装置7においては、前記制御条件設定器79に設定されたfc 、gf 及びQf を(19)式に適用して得られたノッチフィルタ伝達関数Fn (s)を用い、(12)式又は(23)式に表される評価関数Jを最小とするように前記第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めることにより前述した目的を達成することができる。
【0108】
このとき、前記目標周波数fc 及び抑制ゲインgf 、即ち、ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインは、周波数・ゲイン設定部9の前述した動作により、湯面変動の原因となる外乱を外乱オブザーバ8により推定した結果に基づいて設定されたものであり、実操業中に発生する外乱の周波数分布に追従するように逐次変更される。前記感度関数又は相補感度関数のゲインは、外乱が制御系に与える影響を周波数毎に示すものであるから、前述した目標周波数fc 及び抑制ゲインgf の変更により、鋳型1内部の湯面レベルの変動を、長期に亘って効果的に抑制することが可能となる。
【0109】
一方、図11に示すレベル制御装置7には、周波数・ゲイン設定部9のみが付設されている。この周波数・ゲイン設定部9は、図10に示す周波数・ゲイン設定部9と同様、フーリエ変換器90、最大振幅検出部91及びゲイン設定部92を備えており、フーリエ変換器90には、前記レベル計6による検出レベルyが入力として与えられ、該フーリエ変換器90において前記検出レベルyの周波数分布が求められるようにしてある。
【0110】
最大振幅検出部91は、フーリエ変換器90から与えられる検出レベルyの周波数分布を調べ、予め定めた周波数範囲における最大振幅を、これに対応する周波数と共に検出し、検出された周波数を低減すべき周期的レベル変動の目標周波数fc として制御条件設定器79に出力し、また検出された最大振幅をゲイン設定部92に出力する。ゲイン設定部92は、最大振幅検出部91から与えられる最大振幅が大となるに従って小さくなるように前記抑制ゲインgf を設定し、この設定値を制御条件設定器79に出力する。
【0111】
レベル制御装置7においては、前記制御条件設定器79に設定されたfc 、gf 及びQf を(19)式に適用して得られたノッチフィルタ伝達関数Fn (s)を用い、(12)式又は(23)式に表される評価関数Jを最小とするように前記第1のフィルタ 77aの伝達関数Q(s)を定めることにより前述した目的を達成することができる。
【0112】
このとき、前記目標周波数fc 及び抑制ゲインgf 、即ち、ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインは、周波数・ゲイン設定部9の前述した動作により、実操業中の鋳型1内部の湯面レベルの検出結果に基づいて設定されたものであり、実操業中に発生する湯面レベルの変動に追従するように逐次変更される。湯面レベルの検出値の周波数分布は、レベル変動の原因となる外乱の周波数分布をレベル制御により整形した結果として表れるものであるから、前述した目標周波数fc 及び抑制ゲインgf の変更により、鋳型1内部の湯面レベルの変動を、長期に亘って効果的に抑制することが可能となる。
【0113】
この実施の形態においては、目標周波数fc 及び抑制ゲインgf が、鋳型1内部の湯面レベルの検出結果をそのまま用いて変更されるから、図10に示す実施の形態と比較して制御系の構成が簡素化されるという利点を有しているが、実際の湯面レベルは種々の原因による変動成分を含んでいるため、図10に示す実施の形態と比較してレベル変動の抑制効果はやや劣る。
【0114】
なお、以上の実施の形態においては、低減目標となる目標周波数を1つとしているが、評価関数Jに用いるF(s)として、2つ以上の周波数においてゲインが極大となる特性を有する伝達関数を用いること、又は前記Fb (s)として2つ以上の周波数においてゲインが極大となる特性を有する伝達関数を用い、前記(14)式に従ってFn (s)を定めることにより、夫々の周波数において制御系の感度関数のゲイン又は相補感度関数のゲインを低減することができ、異なる周波数を有する複数種の周期的レベル変動を効果的に抑制することが可能となる。また以上の実施の形態においては、開度演算部76をPI演算器又はPID演算器として構成した場合について述べたが、開度演算部76は、図3に示す制御系を安定にし、湯面レベルを目標値に一致させ得る演算器であればよく、例えば、H∞制御、最適レギュレータ等、他の手法での演算を行わせるべく構成された演算器であってもよい。
【0115】
最後に、図2に示す湯面レベル制御装置を、前述した如く、1500mm×250mm なる断面寸法を有する鋳型1と、70mmの開口径を有するスライディングゲート30とを備えるスラブ連続鋳造機に適用した場合の操業実績について説明する。
【0116】
図12は、鋳型1内部の湯面レベルとスライディングゲート30の開度(ノズル開度)との時間的な変化の様子を示す図であり、図の上半部は、湯面レベルの変化の様子を、下半部はノズル開度の変化の様子を夫々示してある。
【0117】
本図の0秒から100 秒までの間においては、補正量演算部77を動作させず、開度演算部76により演算された開度変更量u0 を開度指令uとして湯面レベル制御を行っており、この間の湯面レベルには、周波数 0.255Hzの周期的なレベル変動が、±11mmの振幅を有して発生している。
【0118】
前記連続鋳造機は、鋳型1の下方に 148mmなる間隔で並ぶガイドロール5,5…を備え、2m/min なる鋳込み速度にて操業が行われており、このときの鋳造速度が、
【0119】
2000(mm/min)/60/ 148(mm) =0.255
【0120】
となることから、前記レベル変動は、バルジング性のレベル変動であると考えられる。
【0120】
図12の 100秒から 200秒までの間には、(19)式において、ノッチフィルタの目標周波数fc を 0.255Hz、この目標周波数fc 下でのノッチフィルタゲインgf を 0.7、ノッチフィルタ減衰帯域幅Qf を10とし、制御系の感度関数のゲインを目標周波数fc において低減させるべく構成された補正量演算部77を動作させて湯面レベル制御が行われており、この間の周期的な湯面レベルの変動幅は±7mmに低減された。更に、 200秒から 300秒までの間においては、前記ノッチフィルタゲインgf を 0.4として制御を行っており、この間の湯面レベルの変動幅は±4mmに低減された。
【0121】
また図12の 300秒から 400秒までの間においては、鋳込み速度を1.55m/min に減速して操業が行われている。この場合、湯面レベルの変動周波数は 0.175Hzに変化し、その変動幅は、略14mmに達している。このような鋳込み速度の変更に対応するため、ノッチフィルタの目標周波数fc を 0.175Hzに変更した 400秒以降においては、湯面レベルの変動幅は±6mmに低減された。なお、目標周波数fc 及びゲインgf の変更は、図9に示す制御条件設定器79においてなされる。
【0122】
この図から、湯面レベルの変動周波数において制御系の感度関数のゲインを低減させる本発明方法の実施により、バルジングに起因する周期的なレベル変動を効果的に抑制することが可能であることがわかる。
【0123】
図13は、前述した連続鋳造機の操業中に、湯面レベルとノズル開度との時間的な変化の様子を示す図である。本図においては、0秒から20秒までの間に、補正量演算部77を動作させずに湯面レベル制御を行っており、この間の湯面レベルには、1.02Hzなる周波数を有する周期的なレベル変動が、時間の経過と共に振幅を徐々に増して発生している。これは、鋳型1内部の湯面の波立ちが、1500mmなる鋳型1の幅に対し、2次の固有振動として発生したものである。
【0124】
このような現象に対応するため、図13の20秒以降においては、(19)式において、ノッチフィルタの目標周波数fc を1.02Hz、この目標周波数fc 下でのノッチフィルタゲインgf を 0.2、ノッチフィルタ減衰帯域幅Qf を20とし、制御系の相補感度関数のゲインを目標周波数fc において低減させるべく構成された補正量演算部77を動作させて湯面レベル制御が行われており、この結果、湯面レベルの変動は収束し、40秒の時点において±2mmに低減された。
【0125】
また図12においては、 260秒以降において鋳型1の幅を1300mmに減じて操業が行われており、この結果、湯面レベルの周期的な変動の周波数が1.09Hzに変化し、再度振幅を増す現象が新たに発生した。
【0126】
このような現象に対応するため、図12の 280秒以降においては、ノッチフィルタの目標周波数fc を1.09Hzに変更し、更に 285秒以降においては、ノッチフィルタゲインgf を 0.1に変更してレベル制御を行った。この結果、湯面レベルの変動は収束し、 300秒の時点において±2mmに低減された。
【0127】
この図から、本発明方法は、鋳型1内部の湯面の波立ちに起因する湯面レベルの変動においても有効であり、対応する周波数において制御系の相補感度関数のゲインを低減させることにより前記レベル変動を効果的に抑制することが可能であることがわかる。
【0128】
【発明の効果】
以上詳述した如く、第1発明に係る湯面レベル制御方法及び第2発明に係る湯面レベル制御装置においては、目標レベルと検出レベルとの偏差をそのまま用いるのではなく、この補正値を用いて注湯手段の開度変更量を演算する一方、同じく前記補正値を用いて前記開度変更量の補正量と前記偏差の補正量を、制御系の感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく演算し、前者の補正量を前記開度変更量に加算して前記注湯手段への開度指令とすると共に、後者の補正量を前記偏差に加算して前述した演算に用いるようにしたから、連続鋳造機の鋳型内部における湯面レベルの周期的な変動を、その周波数の如何に拘わらず、また制御系全体の安定性を損なうことなく効果的に抑制することができ、このようなレベル変動に起因する製品鋳片の欠陥の発生を防止して、良質な製品鋳片を安定して製造することが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【0129】
また第3発明又は第4発明に係る湯面レベル制御装置においては、補正量を演算する補正量演算部をフィルタ要素とし、その伝達関数を、前記開度演算部のみを備える制御系の感度関数又は相補感度関数と、この開度演算部と共に前記補正量演算部を備える制御系の感度関数又は相補感度関数と、所定の周波数の信号を遮断するノッチフィルタの伝達関数とを用いた評価関数を最小とすべく決定したから、湯面レベルの周期的な変動を有効に抑制し得る制御系を、容易にしかも確実に構成することができる。
【0130】
また第5発明に係る湯面レベル制御装置においては、第3又は第4発明に係るノッチフィルタの遮断周波数、遮断周波数におけるゲイン及び遮断周波数を中心とする減衰帯域幅を変更可能に構成したから、湯面レベルの周期的な変動を、その周波数の如何に拘わらず、また操業中の周波数の揺らぎに拘らず確実に抑制することができる。
【0131】
更に第6発明に係る湯面レベル制御装置においては、湯面変動の原因となる外乱を推定し、この推定外乱の周波数分布を求め、この結果に基づいてノッチフィルタの遮断周波数及び遮断周波数におけるゲインを変更する構成とし、また第7発明に係る湯面レベル制御装置においては、操業中の湯面レベルの検出結果の周波数分布を求め、この結果に基づいてノッチフィルタの遮断周波数及びゲインを変更する構成としたから、鋳型内部の湯面レベルの周期的な変動を、この変動の実際の出現態様に合わせて抑制することができ、長期に亘って良好な抑制効果が得られ、湯面レベル制御を安定して行わせることが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る連続鋳造機の湯面レベル制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】レベル制御装置の第1の実施の形態を示すブロック線図である。
【図3】図2に示すレベル制御装置を備える湯面レベル制御系のブロック線図である。
【図4】補正量演算部が働かないと仮定した場合の湯面レベル制御系のブロック線図である。
【図5】図2に示すレベル制御装置の補正量演算部の伝達関数の決定に使用するノッチフィルタの周波数特性を示す図である。
【図6】図3に示す湯面レベル制御系を感度関数に関して最適化した場合の感度関数の周波数−ゲイン特性を示す図である。
【図7】図3に示す湯面レベル制御系を相補感度関数に関して最適化した場合の相補感度関数の周波数−ゲイン特性を示す図である。
【図8】図3に示す湯面レベル制御系を相補感度関数に関して最適化した場合の感度関数の周波数−ゲイン特性を示す図である。
【図9】レベル制御装置の第2の実施の形態を示すブロック線図である。
【図10】レベル制御装置の第3の実施の形態を示すブロック線図である。
【図11】レベル制御装置の第4の実施の形態を示すブロック線図である。
【図12】本発明に係るレベル制御装置を備える連続鋳造機の操業実績を示す図である。
【図13】本発明に係るレベル制御装置を備える連続鋳造機の操業実績を示す図である。
【符号の説明】
1 鋳型
2 溶湯
3 注湯ノズル
4 鋳片
5 ガイドロール
6 レベル計
7 レベル制御装置
8 外乱オブザーバ
9 周波数・ゲイン設定部
76 開度演算部
77 補正量演算部
79 制御条件設定器
90 フーリエ変換器
91 最大振幅検出部
92 ゲイン設定部
Claims (7)
- 連続鋳造機の操業中に鋳型の内部の湯面レベルを検出し、この検出レベルと予め定めた目標レベルとの偏差を用いて求めた開度指令に従って前記鋳型への注湯手段の開度を変更して、前記湯面レベルを前記目標レベルに保つべく制御する連続鋳造機の湯面レベル制御方法において、
前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を用い、前記注湯手段に必要とされる開度変更量を求める一方、
前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を用い、制御系の感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく、前記偏差に加える偏差補正量、及び前記開度変更量に加える開度補正量を夫々求め、
前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差に前記偏差補正量を加えて前記補正値とし、また前記開度変更量に前記開度補正量を加えて前記開度指令とすることを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御方法。 - 連続鋳造機の操業中に鋳型の内部の湯面レベルを検出し、この検出レベルと予め定めた目標レベルとの偏差を用いて求めた開度指令に従って前記鋳型への注湯手段の開度を変更して、前記湯面レベルを前記目標レベルに保つべく制御する連続鋳造機の湯面レベル制御装置において、
前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を入力とし、前記注湯手段の開度変更量を求める開度演算部と、
前記目標レベルと前記検出レベルとの偏差の補正値を入力とし、制御系の感度関数又は相補感度関数のゲインを所定の周波数に対して低減すべく、前記偏差に加える偏差補正量、及び前記開度変更量に加える開度補正量を夫々求める補正量演算部と、
該補正量演算部により求められた偏差補正量を前記偏差に加算して該偏差の補正値を出力する加算器と、
前記補正量演算部により求められた開度補正量を前記開度演算部により求められた開度変更量に加算して前記開度指令を出力する加算器と
を具備することを特徴とする連続鋳造機の湯面レベル制御装置。 - 前記補正量演算部は、前記開度演算部のみを備える制御系の感度関数と、前記開度演算部と前記補正量演算部とを備える制御系の感度関数と、前記所定の周波数の信号を遮断するノッチフィルタの伝達関数とを用いた評価関数を最小とすべく決定された伝達関数を有するフィルタ要素として構成してある請求項2記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
- 前記補正量演算部は、前記開度演算部のみを備える制御系の相補感度関数と、前記開度演算部と前記補正量演算部とを備える制御系の相補感度関数と、前記所定の周波数の信号を遮断するノッチフィルタの伝達関数とを用いた評価関数を最小とすべく決定された伝達関数を有するフィルタ要素として構成してある請求項2記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
- 前記ノッチフィルタの遮断周波数、遮断周波数におけるゲイン及び遮断周波数を中心とする減衰帯域幅を変更可能に構成してある請求項3又は請求項4記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
- 前記鋳型内部の湯面レベルの変動状態を表す変動モデルに前記検出レベル及び開度指令を適用し、湯面変動の原因となる外乱を推定する手段と、該手段による推定外乱の周波数分布を求める手段と、該手段により求められた周波数分布に基づいて前記ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインを夫々変更する手段とを備える請求項5記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
- 前記検出レベルの周波数分布を求める手段と、該手段により求められた周波数分布に基づいて前記ノッチフィルタの遮断周波数及びゲインを夫々変更する手段とを備える請求項5記載の連続鋳造機の湯面レベル制御装置。
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