JP3589014B2 - 鋼スラブの連続鋳造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、鋼スラブの連続鋳造方法に関し、特に鋳片の厚み中心部に見られる不純物の偏析ひいてはかような中心偏析に起因した割れの発生および鋳片コーナー部における割れの発生を効果的に防止しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
連続鋳造プロセスにより製造された鋳片は、その厚み中央部にしばしば、CやS,P等の不純物が偏析し、極端な場合には、かかる中心偏析に伴う強度の低下に起因して偏析部に割れが生じることがある。
【0003】
かような中心偏析を防止する方法として、特開昭62−158555号公報では、鋳片のクレーターエンド付近を 0.5〜2.5 mm/分で圧下すると共に、鋳片の表面温度を 900℃以下に制御する方法を提唱している。
しかしながら、上記したような 0.5mm/分以上の圧下は、連鋳機の負荷を増大させロール軸受けの寿命を低下させるばかりでなく、特に割れ感受性の高い鋼種では、上記のような圧下処理を施したとしても、不純物の偏析が免れ得ず、その結果偏析部に割れが生じる場合があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、発明者らは、中心偏析に関して数多くの解析を行った結果、その発生機構について以下の知見を得るに至った。
図1(a) に、垂直曲げ型のスラブ連鋳機を模式で示すが、かようなスラブ連鋳機において特に広幅のスラブを連鋳する場合、図1(b) に示すように、スプレー配置に起因してスラブ短辺近傍の水量密度が幅中央部に比べて低くなり、短辺近傍に凝固遅れを生じたり、また表面割れ感受性の高い鋼種では鋳片の曲げ、矯正時の割れの防止を目的に鋳片短辺近傍の冷却水をカットするため、やはり短辺近傍の凝固が遅れる傾向にある。
【0005】
このときのクレーターエンドの形状は、図2に示すようなW字状となり、スラブ幅中央部の凝固完了位置とスラブ短辺寄りの凝固遅れ部の完全凝固位置との差(これを凝固遅れ量という)はその鋳片条件によって異なるが、この凝固遅れ量が中心偏析に伴う割れと強い相関にあることが判明した。
この理由は、中心偏析が次のような機構により生じるためと考えられる。
【0006】
すなわち、中心偏析は、一般に固相率が 0.1〜0.8 付近でのロール不正やロール間バルジングに起因した溶鋼流動によって生じることが知られているが、上述したような理由により、クレーターエンドがW字状となり凝固遅れ量が大きくなると、図1(c) に示すようにクレーターエンド近傍で凝固遅れ部に強い溶鋼静圧がかかるため、ロール間バルジングが大きくなる。
このため、凝固が完了しつつある幅方向中央部が開口して空隙を生じ、その結果、そこにP,S,C等が濃化した未凝固溶鋼が吸入されて、中心偏析が生じる。
【0007】
この発明は、上記したようなクレーターエンド部における凝固遅れに起因して生じる中心偏析、ひいてはかような中心偏析に起因した割れの発生を効果的に防止し得る鋼スラブの連続鋳造方法を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、この発明は、鋼スラブを連続鋳造するに際し、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点までは鋳片の全幅にわたって弱冷却処理を施し、その後の湾曲部については、鋳片幅の 20 %以上、 80 %以下の範囲で幅方向中央部に対し強冷却処理を行うと共に、該幅方向中央部以外の幅方向両端部については冷却水をカットすることによって、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制することを特徴とする鋼スラブの連続鋳造方法である。
【0009】
この発明において、湾曲部にて中央強冷却処理を行う領域としては、鋳片の幅方向中央部における中心固相率が 0.1となる位置から 0.8となる位置までとすることが好適である。
そして、上記したようて湾曲部における中央強冷却処理により、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制すると共に、鋳片の表面温度を 900℃以下に制限することがより有利である。
【0010】
この発明が対象とする鋼のスラブ連続鋳造に使用される連続鋳造機は、鋳片の曲げ、矯正の際に鋳片の割れが懸念され、そのために鋳片の幅方向両端部の緩冷却化を余儀なくされる垂直曲げ型連鋳機において、特にその効果を発揮する。
【0011】
また、対象とする鋼種についても、特に限定されることはないが、中心偏析やそれに起因して内部割れが発生し易い、SK4やSK5などの中−高炭素鋼、合金鋼およびラインパイプ材用鋼等において、その効果が顕著である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体的に説明する。
前掲した特開昭62−158555号公報では、連続鋳造による中心偏析ひいてはこの中心偏析に起因した割れの発生は、鋳片のバルジングやロールアライメントの不整等によって生じた凝固シェルの空隙に、C,PおよびS等が濃化した未凝固溶鋼が吸入されることが原因との観点から、所定の圧下を加えると共に表面温度を900 ℃以下に規制することによって、その防止を図っている。
しかしながら、この方法では、少なくとも割れ感受性の高い鋼種については、万全な中心偏析対策とは言えなかったことは前述したとおりである。
【0013】
そこで、発明者らは、中心偏析に起因する断面割れの生じ易いS45CやS55C等の鋼種を対象として、割れの発生状況について調査したところ、図2に示したW字型クレータエンドでの凝固遅れ量を 2.5m以下まで抑制すれば、断面割れをほぼ完全に防止できることの知見を得た。
そこで次に、発明者らは、クレータエンドでの凝固遅れ量を 2.5m以下まで抑制する手段について検討したところ、鋳型から引き抜いた鋳片を冷却するに際し、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点までは鋳片の全幅にわたって弱冷却処理を施した上で、その後の湾曲部については中央強冷却処理を施すことが極めて有効であることを新たに見出したのである。
【0014】
以下、各冷却工程毎に具体的に説明する。
この発明では、まず、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点までは鋳片の全幅にわたって弱冷却処理を施す。
というのは、従来、この領域では、その後の曲げ時、さらには矯正時におけるコーナー割れの発生を防止するため、鋳片の短辺近傍については2次冷却水量を中央部に比べて著しく小さくする冷却パターンを採用していたのであるが、この短辺近傍の冷却があまりに弱いと、その後にこの発明に従い中央強冷却を施した場合にクレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制することができず、また、弱冷却であれば短辺近傍を冷却しても、曲げ時や矯正時にコーナー割れの発生はほとんど心配ないことが判明したからである。
【0015】
そこで、この発明では、かような弱冷却処理を、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点まで(好ましくは曲げ開始点わずかに過ぎた領域まで)行うことにしたのである。
ここに、かような弱冷却における冷却水量は 150〜400 l/min ・m2程度とすることが望ましい。
【0016】
次に、引き続く湾曲部では、鋳片の中央部のみを強く冷却するいわゆる中央強冷却処理を施す。強冷却を施す範囲は、鋳片の幅の20%以上の中央部であり、最大でも80%とする。
そして、この時クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量が 2.5m以下になるように調整することが重要である。
このような中央強冷却処理を施す場合、従来のように、上流側で、鋳片の短辺近傍は2次冷却水量を中央部に比べて著しく小さくするか、カットするような冷却パターンを採用していた場合には、鋳片の凝固遅れ量はむしろ増大する傾向にあるため、中心偏析に起因した割れの防止は期待できなかった。
これに対し、この発明では、上流側において、鋳片の全幅にわたって弱冷却処理が施されているので、その後の中央強冷却処理によってもクレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量はさほど大きくならず、その結果、凝固遅れ量を効果的に 2.5m以下に抑制して、中心偏析に起因した割れの発生を効果的に防止することができるのである。
【0017】
なお、凝固遅れ量は、スプレー配置、スプレーカット帯およびスプレー水量等の改善によって、適宜調整することができる。
【0018】
さらに、この発明において、上記した中央強冷却処理を施すべき領域は、湾曲部において、鋳片の幅方向中央部における中心固相率が 0.1となる位置から 0.8となる位置までとすることが好ましい。
というのは、中心固相率が 0.1以上になると、未凝固溶鋼へのC,P,S等の容質元素の濃化が著しくなり、このような濃化溶鋼が、鋳片のバルジングやロールアライメント不整等によって生じた凝固シエル内の空隙に吸入されると品質上問題となるレベルの偏析が生じ、一方中心固相率が 0.8を超えると、最早濃化溶鋼の流動が困難となり、偏析が発生しなくなるからである。
【0019】
また、中心偏析を発生させないためには、上記の範囲での凝固シエルの剛性を高めることが肝要であり、そのためには、鋳片の冷却を強化して表面温度を下げることが有利である。
ここに、その際の効果の有意な鋳片表面温度は 900℃以下である。
従って、この発明では、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点までの鋳片全幅にわたる弱冷却処理と、それに引き続く湾曲部における中央強冷却処理によって、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制すると共に、鋳片の表面温度を 900℃以下に制限することが好適である。
【0020】
さらに、この発明では、鋳片の幅方向中央部における中心固相率が 0.1となる位置から 0.8となる位置までにわたり、鋳片をその厚み方向に軽圧下することが有利である。
というのは、凝固遅れ量を 2.5m以下とすれば、偏析の軽減により、トーチ切断時の熱応力による偏析部割れの発生を回避できるとはいうものの、クレータエンドの形状がW字型である限り、図1(c) に示したような機構により、何らかの中心偏析が生じることは避け難い。
【0021】
しかしながら、凝固末期の鋳片に厚み方向の圧下を加えてやれば、濃化溶鋼をバルク溶鋼中に絞り出すことによって中心偏析自体をほとんど皆無にすることが可能となる。
なお、従来のように、W字型のクレータエンド形状を軽減することなしに、鋳片の圧下を加えた場合には、ロールアライメントの不整があるとかえって中心偏析が助長される傾向にあったが、この発明ではそのような不都合が生じるおそれもない。
ここに、上記軽圧下における圧下量は 0.5 mm/min 未満程度で十分である。
【0022】
【実施例】
図1に示したような垂直曲げ型連鋳機を用い、SK5を対象として、図3に示す冷却条件下で幅:1000mmのスラブを鋳造した。なお、図3の縦軸は鋳型直下の全面強冷却域の水量密度に対する相対値である。
なお、この垂直曲げ型連鋳機の仕様および各ゾーンの長さはそれぞれ、表1および表2に示したとおりである。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
この発明法に従い連続鋳造した場合には、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 1.7mとして、中心偏析に伴う割れの発生を完全に防止することができた。
なお、この場合に、クレータエンド近傍における鋳片の表面温度は 800℃であった。
これに対し、従来法に従って連続鋳造した場合には、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量が 3.2mとなり、切断時に20%の割合で断面割れが発生した。
【0026】
【発明の効果】
かくして、この発明に従い、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を適切に制御することによって、割れ感受性の高い鋼種を連続鋳造する場合においても、不純物の中心偏析に起因した内部割れを効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a) は鋳片の縦断面図、 (b)〜(e) はそれぞれ各冷却位置における横断面図である。
【図2】W字型クレーターエンドにおける凝固遅れ量および切断面における断面割れを示す模式図である。
【図3】鋳片の冷却時における冷却パターンを、この発明法と従来法とで比較して示したグラフである。
Claims (3)
- 鋼スラブを連続鋳造するに際し、鋳型直下の全面強冷却域を除く、少なくとも曲げ開始点までは鋳片の全幅にわたって弱冷却処理を施し、その後の湾曲部については、鋳片幅の 20 %以上、 80 %以下の範囲で幅方向中央部に対し強冷却処理を行うと共に、該幅方向中央部以外の幅方向両端部については冷却水をカットすることによって、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制することを特徴とする鋼スラブの連続鋳造方法。
- 湾曲部において中央強冷却処理を行う領域が、鋳片の幅方向中央部において中心固相率が 0.1となる位置から 0.8となる位置までである、請求項1記載の鋼スラブの連続鋳造方法。
- 湾曲部における中央強冷却処理により、クレーターエンドにおける鋳片の凝固遅れ量を 2.5m以下に抑制すると共に、鋳片の表面温度を 900℃以下に制限することを特徴とする、請求項1または2記載の鋼スラブの連続鋳造方法。
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