JP3586670B2 - 難燃性エチレン系樹脂組成物を用いた被覆電線の製造方法 - Google Patents

難燃性エチレン系樹脂組成物を用いた被覆電線の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性エチレン系樹脂組成物、それを用いた被覆電線及びその製造方法に関し、より詳しくは、良好な難燃性と高速加工性をもち、さらに優れた機械特性及び低温特性を具備した難燃性エチレン系樹脂組成物、該樹脂組成物を用いて得られる被覆電線及びその製造方法に関するものである。本発明の被覆電線は、自動車用、通信用、電力用等の電線として幅広く利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
従来、例えば自動車用、通信用、電力用に使用される電線の被覆材料としては、塩化ビニル樹脂やハロゲンを含む難燃剤を配合したエチレン系樹脂組成物が多用されてきた。しかし、近年、この塩化ビニル樹脂やハロゲンを含む難燃剤が燃焼時に有毒なハロゲン含有ガスを発生することや、環境への負荷問題から、これらの懸念のない樹脂組成物が求められるようになった。
このため、難燃剤として金属水酸化物を配合したエチレン系樹脂組成物が提案されている。しかしながら、金属水酸化物は、難燃性を付与するためには、ハロゲンを含む難燃剤に比べて多量配合しなければ効果はなく、高速加工性が得られなかった。
一方、エチレン系樹脂で絶縁層やシース層を被覆した被覆電線の製造においては、高速加工性が求められている。
【0003】
上記の問題を解決するため、本出願人は、先に、特願平10−285992号(特開平2000−95901公報)で、金属水酸化物を難燃剤として特定のエチレン系樹脂100重量部に対して、難燃性を付与するにたる有効量の10〜100重量部配合し、オルガノポリシロキサンを配合することにより、高速加工性と耐磨耗性のあるエチレン系樹脂組成物を提案したが、機械特性(引張破壊応力、引張破壊ひずみ)や低温特性(低温脆性)に更なる向上が求められていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の事情に鑑み、従来のエチレン系樹脂組成物の機械特性や低温特性を改良した、即ち、良好な難燃性と高速加工性をもち、さらに優れた機械特性及び低温特性を具備した難燃性エチレン系樹脂組成物、該樹脂組成物を絶縁被覆層及び/又はシース被覆層(いわゆる電線外被層)として被覆してなる被覆電線、及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ベース樹脂としてのエチレン系樹脂の組み合わせを鋭意研究した結果、特定の組み合わせが、他の配合剤を添加することなく、良好な難燃性と高速加工性を保持したまま、優れた機械特性や低温特性を持つ難燃性エチレン系樹脂組成物、該樹脂組成物を絶縁被覆層及び/又はシース被覆層として被覆してなる被覆電線が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ベース樹脂(A)100重量部に対して金属水酸化物(B)30〜180重量部を配合してなる難燃性エチレン系樹脂組成物において、ベース樹脂(A)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mw/Mn)が7〜20、メルトマスフローレートが0.5〜3g/10分、及び密度が0.90〜0.96g/cmの直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)95〜5重量%と、多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満、メルトマスフローレートが0.2〜10g/10分、及び密度が0.86〜0.96g/cmの直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)5〜95重量%とからなることを特徴とする難燃性エチレン系樹脂組成物を、金属導体上に、200m/分を超える線速で押出し、絶縁被覆層及び/又はシース被覆層として被覆、形成させることを特徴とする被覆電線の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)が、フィリップス系触媒で重合されたものであり、一方、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)が、チーグラー系触媒で重合されたものであることを特徴とする被覆電線の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、金属水酸化物(B)が、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アマイド、高級アルコール、硬化油、チタネートカップリング剤又はシランカップリング剤からなる群から選ばれた1種以上の表面処理剤で表面被覆された水酸化マグネシウムであることを特徴とする被覆電線の製造方法が提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物それを用いた被覆電線及び被覆電線の製造方法について、各項目毎に詳細に説明する。
【0012】
1.ベース樹脂(A)
本発明で使用されるベース樹脂(A)は、2種類の直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体からなり、すなわち、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mw/Mn)が7〜20、好ましくは10〜18、さらに好ましくは12〜17である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)と、多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満、好ましくは3〜6、さらに好ましくは3.5〜5.5である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)からなり、(A−1)と(A−2)の配合割合は、(A−1)95〜5重量%、好ましくは80〜20重量%、さらに好ましくは75〜25重量%、及び(A−2)5〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは25〜75重量%である。
【0013】
直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)の多分散度(Mw/Mn)と(A−2)の多分散度(Mw/Mn)の差は、7以上、好ましくは8以上、さらに好ましくは9以上あることが、高速加工性を得るために望ましい。
なお、本発明でいう数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、それぞれポリスチレンで換算された分子量を意味する。
数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mw/Mn)は、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)や(A−2)などの分子量分布を表すパラメーターであり、値が小さいほど分子量分布が狭く、値が大きいほど分子量分布が広くなる。最新の重合技術によって、多分散度(Mw/Mn)が2から20までの範囲の直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体が工業化装置により製造可能である。
本発明においては、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)の多分散度(Mw/Mn)は7〜20の範囲のものが好ましく、代表的にはフィリップス触媒で重合されるが、7未満のものは該触媒では重合が困難であり、かつ高速加工性が劣り、20を超えるものは重合が困難であり、かつ機械的強度、低温特性等が不十分となり好ましくない。
直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)の多分散度(Mw/Mn)は2〜7未満の範囲のものが好ましく、一般的にはチーグラー触媒で3〜7未満のものが、またカミンスキー触媒で2〜3.5のものが製造されるが、2未満のものはカミンスキー触媒を用いても製造が困難であり、かつ高速加工性も悪くなり、7を超えるものはチーグラー触媒を用いても製造が困難であり、かつ機械的強度、低温特性等が不十分となり好ましくない。
【0014】
多分散度(Mw/Mn)が7〜20である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)の配合割合が95重量%を超えると、優れた機械特性、低温特性が得られず、一方、これが5重量%未満であると、高速加工性が得られない。多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)の配合割合が95重量%を超えると、高速加工性が得られず、一方、これが5重量%未満であると、機械的強度、低温特性等が不十分となり好ましくない。
【0015】
本発明のベース樹脂(A)を構成する直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)及び(A−2)は、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンの共重合体である。エチレンと共重合されるα−オレフィンモノマーとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン等が例示でき、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1が好ましい。
また、重合反応は、通常、温度0〜250℃で、圧力が高圧(50MPa以上)、中圧(10〜50MPa)あるいは低圧(常圧〜10MPa)のいずれかの重合条件下で行われる。また、重合方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、懸濁重合法、スラリー重合法、気相重合法等のいずれの方法も使用することができる。
【0016】
多分散度(Mw/Mn)が7〜20である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)は、例えば従来から使用されているフィリップス系触媒を用いて製造することができる。フィリップス系触媒は、酸化クロムからなる主触媒とアルミニウム等の酸化物からなる触媒担体から構成される触媒である。
多分散度(Mw/Mn)が7〜20である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)は、特性的にはメルトマスフローレートが0.5〜3g/10分で、密度が0.90〜0.96g/cm、好ましくは0.90〜0.94g/cm、更に好ましくは0.90〜0.93g/cmであることが望ましい。メルトマスフローレートが0.5g/10分未満であると、高速加工性が得られず、g/10分を超えると得られる樹脂組成物の機械特性及び耐熱性が低下する。一方、密度が0.90g/cm未満では耐熱性が低下し、一方0.96g/cmを超えると難燃剤の均一な分散性が低下し難燃性、機械特性、低温脆性並びに高速加工性に影響がでることがある。
【0017】
多分散度(Mw/Mn)が7〜20である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)は具体的には、フィリップス系触媒で重合されたエチレン−ブテン−1共重合体として、GS−650(Mw/Mn=15.1、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.920g/cm、日本ユニカー製)、GFX−4355(Mw/Mn=13.2、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.945g/cm、日本ユニカー製);フィリップス系触媒で重合されたエチレン−ヘキセン−1共重合体として、GFH−4580H(Mw/Mn=14.3、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.945g/cm、日本ユニカー製)、試作品(Mw/Mn=14.3、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.920g/cm、日本ユニカー製)等を挙げることができる。
【0018】
一方、多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)は、例えば従来から使用されているチーグラー系触媒やカミンスキー触媒を用いて製造される。
チーグラー系触媒は、チタン化合物やバナジウム化合物等の遷移金属化合物からなる主触媒、有機アルミニウム等の有機金属化合物からなる助触媒及びケイ素、チタニウム、マグネシウム等の酸化物からなる触媒担体から構成される触媒である。
さらに、多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)は、近年開発されたシングルサイト触媒を使用しても製造することができる。シングルサイト触媒は、活性点が同種(シングルサイト)であることからこのように呼ばれ、別名としてメタロセンあるいは発明者の名前からカミンスキー触媒とも言われている。この触媒としては、置換シクロペンタジエニル基を持つ遷移金属化合物からなるものが例示でき、更に活性化共触媒を含有することができる。共触媒としては、高重合度又は低重合度のアルミノオキサン、特にメチルアルミノオキサンが好適である。又、いわゆる変性アルミノオキサンも共触媒として適している。
なお、シングルサイト触媒を使用して製造された直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体は、一般には多分散度(Mw/Mn)が2〜3.5であり分子量分布の幅が非常に狭いので、高速加工性の見地からはチーグラー系触媒を使用されて製造された多分散度(Mw/Mn)が3〜7未満の直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体の方が、わずかな差であるがより望ましい。
【0019】
多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)は、特性的にはメルトマスフローレートが0.2〜10g/10分、好ましくは0.5〜3g/10分で、密度が0.86〜0.96g/cm、好ましくは0.90〜0.94g/cm、更に好ましくは0.90〜0.93g/cmであることが望ましい。メルトマスフローレートが0.2g/10分未満であると、高速加工性が得られず、10g/10分を超えると得られる樹脂組成物の機械特性及び耐熱性が低下する。一方、密度が0.86g/cm未満では耐熱性が低下し、一方0.96g/cmを超えると難燃剤の均一な分散性が低下し難燃性、機械特性、低温脆性並びに高速加工性に影響がでることがある。
【0020】
多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)は具体的には、チーグラー系触媒で重合されたエチレン−ブテン−1共重合体として、GRSN−1539(Mw/Mn=4.3、メルトマスフローレート=1g/10分、密度=0.905g/cm、ダウケミカル製)、GMM−1810(Mw/Mn=5.05、メルトマスフローレート=1.0g/10分、密度=0.918g/cm、日本ユニカー製)、GMM−1820(Mw/Mn=5.08、メルトマスフローレート=2.0g/10分、密度=0.918g/cm、日本ユニカー製);チーグラー系触媒で重合されたエチレン−ヘキセン1共重合体として、DFDA−1137(Mw/Mn=4.5、メルトマスフローレート=1g/10分、密度=0.905g/cm、ダウケミカル製)、GMM−1810H(Mw/Mn=6.0、メルトマスフローレート=1.0g/10分、密度=0.918g/cm、日本ユニカー製)、GMH−2780H(Mw/Mn=5.5、メルトマスフローレート=0.8g/10分、密度=0.927g/cm、日本ユニカー製);シングルサイト触媒で重合されたエチレン−ヘキセン−1共重合体として、エスコレン350D65(Mw/Mn=3.93、メルトマスフローレート=1.03g/10分、密度=0.9214g/cm、エクソンケミカル製)、エスコレン363C80(Mw/Mn=3.90、メルトマスフローレート=2.5g/10分、密度=0.9192g/cm、エクソンケミカル製)、SP−2020(Mw/Mn=4.73、メルトマスフローレート=1.7g/10分、密度=0.9148g/cm、三井化学製);チーグラー系触媒で重合されたエチレン−オクテン−1共重合体として、モアテックV−0398CN(Mw/Mn=5.1、メルトマスフローレート=3g/10分、密度=0.901g/cm、出光石油化学製);シングルサイト系触媒で重合されたエチレン−オクテン−1共重合体として、PL−1850(Mw/Mn=3.17、メルトマスフローレート=3.0g/10分、密度=0.902g/cm、ダウケミカル製)、EG−8150(Mw/Mn=2.2、メルトマスフローレート=0.5g/10分、密度=0.865g/cm、ダウケミカル製)等を挙げることができる。
【0021】
なお、多分散度(Mw/Mn)が7〜20である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)及び多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満である直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)は、それぞれ1種あるいは2種以上混合して使用してよい。
【0022】
2.金属水酸化物(B)
本発明では、金属水酸化物(B)としては水和金属化合物も包含され、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト等が例示される。
これらの中では、融点の高い水酸化マグネシウムを好適に用いることができる。
水酸化マグネシウムとしては、海水等から製造された合成水酸化マグネシウム及び天然産ブルーサイト鉱石を粉砕して製造された水酸化マグネシウムを主成分とする天然鉱石のいずれも好適に用いることができる。
【0023】
金属水酸化物(B)の表面は、分散性や流動性を向上するために、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アマイド、高級アルコール、硬化油、チタネートカップリング剤又はシランカップリング剤等から選ばれる少なくとも1種の表面処理剤0.5〜5重量%で表面被覆されていることが望ましい。
具体的には、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸;これら高級脂肪酸のナトリウム塩、カルシウム塩マグネシウム塩;これらの高級脂肪酸のメチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル;これらの高級脂肪酸のアマイド;オクチルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール;牛脂硬化油;イソプロピル−トリ(ジオクチルホスフェート)チタネート;ビニルトリエトキシシラン等を例示することができる。表面処理法としては、湿式法、乾式のいずれも用いることができる。
金属水酸化物(B)の平均粒子径は、樹脂への分散性、難燃性の効果から40μm以下が好ましく、特に0.2〜6μmのものが好ましい。
金属水酸化物(B)の配合量は、ベース樹脂100重量部に対して、30〜180重量部、好ましくは70〜150重量部、さらに好ましくは80〜120重量部である。配合量が30重量部未満であると難燃性が不十分となり、一方180重量部を超えると良好な高速加工性が得られない。
【0024】
3.他の配合剤
本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物には、その使用目的に応じて、更に各種配合剤を配合することができる。各種配合剤としては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、加工性改良剤、充填剤、分散剤、カップリング剤、銅害防止剤、中和剤、発泡剤、核剤、気泡防止剤、着色剤、顔料、染料、カーボンブラック、水トリー防止剤、電圧安定剤、耐トラッキング剤、有機過酸化物、架橋促進剤、殺菌剤、防カビ剤等を挙げることができる。
更に、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物には、表面被覆された赤リン等のノンハロゲン難燃剤を配合することもできる。
【0025】
成形品が屋外で使用される被覆電線の用途に供される場合は、耐候剤を配合することが好ましい、特に好適な耐候剤としては、各種カーボンブラックを挙げることができ、その配合量は、ベース樹脂(A)100重量部に対して1〜5重量部程度である。
また成形時の熱暴露や経時安定性を得るために、酸化防止剤を配合することが望ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系等を挙げることができ、単独でも2種以上混合して使用してもよく、その配合量は、ベース樹脂(A)100重量部に対して、0.001〜5重量部程度である。更に本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物には、各種滑剤を配合することが望ましい。滑剤としては、脂肪酸金属塩、脂肪酸アマイドなど公知のものを1種あるいは2種以上混合して用いればよく、その配合量は、ベース樹脂(A)100重量部に対して、0.1〜3重量部程度である。
【0026】
また、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物には、その使用目的に応じて、本発明に使用する直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体以外のエチレン系樹脂やほかのポリオレフィン系樹脂またはこれらの酸変性物等を、本発明の目的を損なわない範囲で少量配合することもできる。これらの樹脂及びその酸変性物の例としては、高圧法ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン及びこれらの酸変性物が挙げられる。
【0027】
4.難燃性エチレン系樹脂組成物の調製
本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物は、各種の調製方法で準備することができる。
例えば、ベース樹脂(A)、金属水酸化物(B)、及び他の配合剤をペレット、グラニュラー、粉末などの固体状態で、または液体状態で、V型ブレンダー、タンブラー式ブレンダー、リボンブレンダー、回転翼または固定翼付きブレンダー、ヘンシェルミキサー等によって均一に混合して、いわゆるドライブレンド物またはソーキング物として調製することができる。
【0028】
また、別の調製方法として、ベース樹脂(A)、金属水酸化物(B)、及び他の配合剤を、または上記で得られたドライブレンド物あるいはソーキング物を、バンバリーミキサー、ブスコニーダー、ミキシングロール、インテンシブミキサー、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、スタティックミキサー等に投入し、ベース樹脂の溶融温度以上で、例えば、110〜220℃で溶融混練して調製できる。加熱溶融調製された樹脂組成物は、好ましくは平均粒子径3〜7mmのペレットに造粒し、成形機に供給して成形することができる。
なお、酸化防止剤、帯電防止剤など他の配合剤の微量配合成分は、予め本発明で使用する直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体またはその他のエチレン系樹脂等で高濃度マスターバッチを製造し、これをドライブレンドや加熱溶融混練して配合してもよい。
【0029】
5.被覆電線の製造
本発明の被覆電線は、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物を金属導体上に公知の方法、例えば押出成形機を使用して直接押出被覆して絶縁被覆層を成形させて製造することができる。本発明の被覆電線は、予めエチレン系樹脂などで被覆された被覆絶縁層を持つコア上に同様にして押出被覆してシース被覆層を成形させて製造することもできる。その際の線速としては、200m/分を超える速度で被覆を行うことができる。
導体には、単線、撚り線のいずれでもよい。押出成形機としては、一般に単軸スクリュウ型押出機が用いられる。この押出成形機による被覆加工の一例を示すと;まず、樹脂被覆すべき導体を押出成形機のクロスヘッドに導入し、一方、被覆用樹脂はホッパからシリンダー内に供給され、スクリュウによって前に押し運ばれながらシリンダー周囲から加えられる熱によって溶融し、クロスヘッドに送られる。クロスヘッドの先端には、所定の肉厚に被覆を施すための金型としてダイ(雌型)及びニップル(雄型)が設けられており、これらニップル、ダイの間に押出されて樹脂が被覆される。
被覆後、電子線等で樹脂成分を架橋してもよい。電線は単線で使用するほか、撚り合わせたり、テープ等で束めて使用してもよい。
【0030】
【実施例】
次に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書中で用いられた試料、物性値及び評価は、それぞれ以下の方法によるものである。
【0031】
「試料」
1.ベース樹脂(A)
1−1.多分散度(Mw/Mn)が7〜20の直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)
樹脂(A−1−1):直鎖状エチレン−ブテン−1共重合体(Mw/Mn=15.1、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.920g/cm)(フィリップス系触媒品)
樹脂(A−1−2):直鎖状エチレン−ヘキセン−1共重合体(Mw/Mn=14.3、メルトマスフローレート=0.7g/10分、密度=0.920g/cm)(フィルップス系触媒品)
【0032】
1−2.多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満の直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)
樹脂(A−2−1):直鎖状エチレン−ブテン−1共重合体(Mw/Mn=4.3、メルトマスフローレート=1g/10分、密度=0.905g/cm)(チーグラー系触媒品)
樹脂(A−2−2):直鎖状エチレン−ヘキセン−1共重合体(Mw/Mn=4.5、メルトマスフローレート=1g/10分、密度=0.905g/cm)(チーグラー系触媒品)
樹脂(A−2−3):直鎖状エチレン−オクテン−1共重合体(Mw/Mn=5.1、メルトマスフローレート=3g/10分、密度=0.901g/cm)(チーグラー系触媒品)
樹脂(A−2−4):直鎖状エチレン−オクテン−1共重合体(Mw/Mn=2.2、メルトマスフローレート=0.5g/10分、密度=0.865g/cm)(シングルサイト触媒品)
【0033】
2.金属水酸化物(B)(以下、Mg(OH)ともいう。)
Mg(OH)1:表面被覆合成水酸化マグネシウム、マグシーズ(登録商標)N−4(神島化学製)
Mg(OH)2:表面被覆天然鉱石由来水酸化マグネシウム、マグシーズ(登録商標)N−1(神島化学製)、但し、風力分級により平均粒子径を約5μmとしたもの。
【0034】
3.他の配合剤
酸化防止剤:テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、イルガノックス(登録商標)1010(チバスペシャルティケミカル製)
【0035】
「評価」
1.メルトマスフローレート(以下、MFRともいう。)
JIS K6922−2準拠して行い、温度190℃、荷重2.16kgで測定した。
【0036】
2.機械特性
2−1.引張破壊応力
JIS C3005準拠して行った。引張速度は200m/分とし、10MPa以上を合格とした。
2−2.引張破壊ひずみ
JIS C3005に準拠して行った。400%以上を合格とした。
【0037】
3.低温特性
3−1.低温脆性(F0)
低温特性は、JIS K7216の低温脆性(F0)をもって評価した。A型試験片を用いた。破壊の定義は試験片にクラックが生じることとし、−10℃以下を合格とした。
【0038】
4.難燃性
4−1.酸素指数
難燃性は、JIS K7201−1995の酸素指数をもって評価した。A−1号試験片を用いた。酸素指数22以上を合格とした。
【0039】
5.高速加工性
5−1.表面平滑性のある臨界線速
直径50mm、L/D=25の押出成形電線被覆装置で、直径0.4mmの銅導体芯線に0.625mmの被覆厚となるようにして被覆層を成形し被覆電線を製造した。線速を変化させ、製造された被覆電線の表面平滑性を表面粗さ計で測定し、表面平滑性0.5μm以下の被覆電線が成形できる最高線速を表面平滑性のある臨界線速とした。臨界線速が200m/分を超えたものを合格とした。
5−2.表面平滑性のある臨界ドローダウン性
直径50mm、L/D=25の押出成形電線被覆装置で、直径0.4mmの銅導体芯線に0.625mmの被覆厚となるようにして被覆層を成形し被覆電線を製造し、表面平滑性のある臨界線速で引き落とし加工を行い、表面平滑性が得られる外径を測定し、次式により表面平滑性のある臨界ドローダウンレシオを算出した。表面平滑性のある臨界ドローダウン性として表面平滑性のある臨界ドローダウンレシオが2%以上を合格とした。
表面平滑性のある臨界ドローダウンレシオ=(表面平滑性が得られた電線外径/ダイの口径)X100(%)
【0040】
6.総合評価
機械的特性は、引張破壊応力が10MPa以上で、引張破壊ひずみが400%以上、なおかつ低温脆性(F0)が−10℃以下のものを合格とした。
難燃性は、酸素指数が22以上のものを合格とした。
高速加工性は、表面平滑性のある臨界線速が200m/分を超え、表面平滑性のある臨界ドローダウンレシオが2%以上のものを合格とした。
なお、合格の場合を○、不合格の場合を×で表わした。
【0041】
[実施例1〜5]
ベース樹脂(A)として、直鎖状エチレン−ブテン−1共重合体(樹脂A−1−1)(Mw/Mn=15.1、MFR=0.7g/10分、密度0.920g/cm)及び直鎖状エチレン−オクテン−1共重合体(樹脂A−2−3)(Mw/Mn=5.1、MFR=3g/10分、密度0.901g/cm)を用い、表1に各々明記した構成(重量%)としたベース樹脂(A)100重量部に、金属水酸化物(B)としてMg(OH)1を100重量部、並びにその他の配合剤の酸化防止剤0.2重量部を加え、バンバリーミキサーで約210℃で6分間溶融混練し、その後平均粒子径約4mmに造粒して、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物を得、これを上記「評価」法で評価した。
ベース樹脂(A)を構成するMw/Mnの15.1の樹脂(A−1−1)とMw/Mnが5.1の樹脂(A−2−3)の構成割合をそれぞれ10〜90重量部と90〜10重量に変化させたこれらの実施例1〜5では、表1に示した結果でも明らかなように、樹脂(A−1−1)の構成配合割合が増加すと低温特性を含む機械的特性が低下することがみとめられたが、優れた機械的特性を示し、かつ、良好な高速加工性と難燃性を満足するものであった。
【0042】
[比較例1〜4]
これらの比較例1〜4では、表1に示すように1種からなるベース樹脂(A)を用いた以外は、実施例1と同様にして難燃性エチレン系樹脂組成物を調製し、同様に評価した。
結果は表1に示したが、樹脂(A−1−1)からなるベース樹脂(A)では、機械的特性、特に低温脆性が不良となり、一方Ww/Mnが4.3〜5.1のエチレン−ブテン−1共重合体(樹脂A−2−1)(Mw/Mn=4.3、MFR=1g/10分、密度0.905g/cm)、エチレン−ヘキセン−1共重合体(樹脂A−2−2)(Mw/Mn=4.5、MFR=1g/10分、密度0.905g/cm)、さらにエチレン−オクテン−1共重合体(樹脂A−2−3)(Mw/Mn=5.1、MFR=3g/10分、密度0.901g/cm)のみからなるベース樹脂(A)から調製した比較例2〜4は、機械的特性と難燃性は良かったが、高速加工性を満足するものではないことが明らかとなった。
【0043】
【表1】
Figure 0003586670
【0044】
[実施例6〜9]
表2に示すようにベース樹脂(A)を構成する樹脂の種類及びその構成を変更した以外は、実施例1と同様にして、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物を得て、実施例1と同様に評価した。
結果は、表2に示したが、シングルサイト触媒を使用して重合されたエチレン−オクテン−1共重合体(樹脂A−2−4)(Mw/Mn=2.2、MFR=0.5g/10分、密度=0.865g/cm)を用いた実施例9はすこし耐熱性に劣ったが、これをを含めて、これらの難燃性エチレン系樹脂組成物は、優れた機械的特性、良好な難燃性及び高速加工性を示した。
【0045】
[実施例10、比較例5,6]
実施例10としてMg(OH)1を表面被覆天然鉱石由来水酸化マグネシウムであるMg(OH)2に代えた以外は、また、比較例5、6として実施例1のMg(OH)1の構成配合量を15重量部と200重量部に代えた以外は、それぞれ実施例1と同様にして、難燃性エチレン系樹脂組成物を得、同様に評価した。
結果を表2に示したが、天然鉱石由来水酸化マグネシウムを用いても、良好な高速加工性が確保されることが認められた。しかし、金属水酸化物(B)の配合量が本発明の下限値未満及び上限値を超えると、下限値未満では、難燃性が不十分となり、上限値を超えると高速加工性の内、表面平滑性のある臨界線速は合格したが、表面平滑性のあるドローダウン性が不合格となり、結果として高速加工性が劣るものであり、かつ引張破壊応力も不十分で、機械特性も満たさなかった。
【0046】
【表2】
Figure 0003586670
【0047】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物は、エチレン系樹脂からなるベース樹脂(A)及び金属水酸化物(B)から構成され、ベース樹脂(A)が各々特定の多分散度(Mw/Mn)、MFR及び密度を持つ特定配合割合のエチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)及び(A−2)からなっているので、ハロゲンを含まず、より安全で環境負荷が小さい。しかも、優れた機械的特性、低温特性及び良好な高速加工性を具備している。
また、本発明の難燃性エチレン系樹脂組成物を用いた絶縁被複層及び/又はシース被覆層を持つ被覆電線は、エチレン系樹脂そのものが持つ良好な絶縁特性、電気特性を持つとともに、燃焼時に公害性のガス等を発生することなく焼却可能で、しかも、被覆加工法としては、高い線速、例えば200m/分を超える線速でケーブルに加工する製造方法を提供することができる効果がある。
製造された被覆電線は、自動車用、通信用、電力用の電線として幅広く利用することができる。

Claims (3)

  1. ベース樹脂(A)100重量部に対して金属水酸化物(B)30〜180重量部を配合してなる難燃性エチレン系樹脂組成物において、ベース樹脂(A)は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比で表される多分散度(Mw/Mn)が7〜20、メルトマスフローレートが0.5〜3g/10分、及び密度が0.90〜0.96g/cmの直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)95〜5重量%と、多分散度(Mw/Mn)が2〜7未満、メルトマスフローレートが0.2〜10g/10分、及び密度が0.86〜0.96g/cmの直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)5〜95重量%とからなることを特徴とする難燃性エチレン系樹脂組成物を、金属導体上に、200m/分を超える線速で押出し、絶縁被覆層及び/又はシース被覆層として被覆、形成させることを特徴とする被覆電線の製造方法。
  2. 直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−1)が、フィリップス系触媒で重合されたものであり、一方、直鎖状エチレン−α−オレフィン共重合体(A−2)が、チーグラー系触媒で重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の被覆電線の製造方法。
  3. 金属水酸化物(B)が、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アマイド、高級アルコール、硬化油、チタネートカップリング剤又はシランカップリング剤からなる群から選ばれた1種以上の表面処理剤で表面被覆された水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1に記載の被覆電線の製造方法。
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