JP3575537B2 - 紙塗工液及びそれを用いた塗工紙 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な紙塗工液及びその塗膜を紙基材表面に形成させた塗工紙に関するものである。さらに詳しくいえば、塗工性、特にブレードによる塗工の際のハイシェア粘度の増大に起因する高速塗工性の低下を防止し、かつ塗工後の表面特性低下の原因となる保水性の不足を十分に補うことができる高粘度の紙塗工液及びこの紙塗工液の塗膜を紙基材表面に有するインク着肉性の良好な塗工紙に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、印刷用紙には、平滑性、光沢性、印刷適性を改善するためにその表面に塗工液の塗布層が設けられている。この塗工液は通常、クレー、重質炭酸カルシウムなどの白色顔料とラテックスやデンプンなどをバインダーとして水に分散させたスラリーとして調製され、これを適当な濃度に希釈した後、調整タンクから塗工機に供給して走行中の紙に連続的に塗布し、過剰分をブレードのような塗工ヘッドで取り除いて乾燥し、所用の膜厚にすることにより紙基材表面に施されている。そして、紙から除かれた塗工液は、通常、調整タンクに戻され、新しい塗工液に混合して再使用される。
【0003】
このように、塗工液は、前記のようにして紙基材表面に塗布された後、乾燥されて塗布層が形成されるが、この塗布工程から乾燥工程に至る間に、紙基材により塗工液の水分が吸収され、クレー、重質炭酸カルシウム、ラテックス、デンプンなどの成分が紙基材内に浸入するため、平滑性の低下、層厚の不均一を生じる結果、印刷適性が低下するが、このような表面特性の低下は主として保水性の不足に起因することが知られている。
【0004】
ところで、塗工液には、通常、その粘度、流動性、保水性などの塗工特性を調整するために、カルボキシメチルセルロース(CMC)やアルギン酸ソーダのような高分子物質を少量添加しているが、保水性の低下を抑制しようとして、これらの高分子物質の量を増加すると、ハイシェア粘度と塗工液粘度のバランスが悪くなり、流動性が低下する。その結果、高速塗工が不可能となり、生産性が低下する上、得られる塗工紙の耐ピッキング性、印刷適性、平滑性などの表面特性が低下するのを免れない。
【0005】
このような欠点を克服するために、これまで、カルボキシメチルセルロースやアルギン酸ソーダの代わりに、アクリル酸−メタクリル酸共重合体を用いた紙塗工液が提案されている(特開平2−53996号公報)。このものは、それまでのカルボキシメチルセルロースやアルギン酸ソーダを用いたものに比べ、少ない量で保水性、粘度、流動性を向上させることができるが、まだ十分な保水性を得ることができず、前記した表面特性の低下を抑制することはできないし、また粘性についても必ずしも満足しうるものではなく、よりハイシェア粘度を低下させたものが望まれていた。他方、グラビア用塗工液については、着肉性をよくするため、塗工液の粘度を向上させる必要があり、前記アクリル酸−メタクリル酸共重合体の代わりに、(a)メタクリル酸単位、(b)アクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の中から選ばれた少なくとも1種及び(c)一般式
【化3】
〔式中のR′及びR″は水素原子又はメチル基、Yは一般式
−R−O(−A−O)n−X
又は
−CONHx[−A−O(−A′−O)n−X]2−x
(ただし、Rは二価の炭化水素基又はカルボニル基、A及びA′はそれぞれ炭素数2〜4の直鎖状又は枝分れ状のアルキレン基、Xは水素原子、炭素数1〜7の炭化水素基又はスルホン酸塩残基、nは1〜100の数、xは0又は1である)〕
で表わされる化合物の中から選ばれた少なくとも1種の単量体から誘導される構成単位からなる共重合体を増粘剤として、顔料、バインダーとともに含有させた増粘性紙塗工液及び塗工紙が提案されている(特開平10−237797号公報)。しかしながら、このものは、前記アクリル酸−メタクリル酸共重合体を用いたものに比べ、保水性、粘度、流動性を向上させることができるが、まだ十分な保水性及び流動性を得ることができず、前記した表面特性や高速塗工性の低下を抑制することはできないし、また粘性についても必ずしも満足しうるものではなく、より粘性を向上したものが望まれていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の紙塗工液のもつ欠点を改善し、保水性不足やハイシェア粘度の増大による高速塗工性や塗工紙の表面特性の低下を防止するとともに、粘性を向上させた紙塗工液を提供し、かつこの塗工液を塗布してグラビア網点欠落を改善し、しかも表面平滑性、印刷適性、耐ピッキング性、光沢性などの物性を向上させた塗工紙を提供することを目的としてなされたものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、保水性が良好で塗工時ブレード下でのハイシェア粘度が低く、かつ粘性が高められた紙塗工液を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも1種のアクリル酸又はメタクリル酸単位と少なくとも1種のアクリル酸又はメタクリル酸のエステル単位とその他の特定の単位からなる共重合体を増粘剤として用いることにより、その目的を達成しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、顔料及びバインダーを基本成分とする紙塗工液に対して、増粘剤として、(A)アクリル酸単位及びメタクリル酸単位の中から選ばれた少なくとも1種の構成単位、(B)アクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位の中から選ばれた少なくとも1種の構成単位、及び(C)一般式
【化4】
(式中のR1は水素原子又はメチル基、R2は二価炭化水素基、R3は炭素数8〜30の炭化水素基、nは10〜100の整数である)
で表わされる化合物の中から選ばれた少なくとも1種の単量体から誘導される構成単位からなり、質量平均分子量1,000,000〜4,000,000をもつ共重合体を配合したことを特徴とする紙塗工液、及びこの紙塗工液の塗膜を表面に形成させた紙基材からなる塗工紙を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明塗工液は、その基本成分として、顔料及びバインダーを含有するものであるが、これらの成分は、従来の塗工液で用いられているものの中から任意に選ぶことができ、特に制限はない。すなわち、顔料としては、例えば、クレー、炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムを含む)、カオリン、タルク、酸化チタン、シリカ、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、白土、レーキ、合成プラスチック顔料などが用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、通常、塗工液全量に基づき、40〜70質量%の範囲で選ばれる。
【0010】
また、バインダーとしては、従来紙塗工液に慣用されている合成若しくは天然高分子のラテックス又は溶液などが使用される。このような高分子物質としては、例えば、スチレン−ブタジエン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体、酢酸ビニル−アクリル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、ブタジエン−メチルメタクリレート系共重合体、酢酸ビニル−ブチルアクリレート系共重合体、スチレン−無水マレイン酸系共重合体、イソブテン−無水マレイン酸系共重合体、アクリル酸−メチルメタクリレート系共重合体、酸化デンプン、エステル化デンプン、エーテル化デンプン、酵素変性デンプン、カゼイン、大豆タンパクなどがある。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その配合量は、顔料100質量部当たり、通常3〜30質量部、好ましくは5〜20質量部の範囲で選ばれる。
【0011】
次に、本発明塗工液においては、増粘剤として、(A)アクリル酸単位及びメタクリル酸単位の中から選ばれた少なくとも1種の構成単位、(B)アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル単位の中から選ばれた少なくとも1種の構成単位及び(C)前記一般式(I)で表わされる化合物の中から選ばれた少なくとも1種の構成単位からなる共重合体を用いることが必要である。
【0012】
この共重合体中の(B)構成単位は、例えば一般式
【化6】
(式中のR4は水素原子又はメチル基、R5はアルキル基又はシクロアルキル基である)
で表わされる単量体から誘導される単位である。
【0013】
このR5で示されるアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基、2‐エチルヘキシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などが、またシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0014】
このような単量体の例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸オクタデシル及び対応するメタクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0015】
次に、(C)構成単位としては、一般式(I)で表わされる化合物が用いられる。この一般式中R2は、二価の炭化水素基であり、前者の場合はエーテル型、後者の場合はエステル型となる。このR2が二価の炭化水素基の場合の例としては、炭素数1〜25の直鎖状若しくは分枝状のアルキレン基、炭素数5〜25のシクロアルキレン基、炭素数6〜25のアリーレン基、アルキル置換アリーレン基、例えば、ブチルフェニレン基、オクチルフェニレン基、ノニルフェニレン基、デシルフェニレン基、ドデシルフェニレン基などがある。これらの炭化水素基中に芳香環を含む場合には、これらは不活性の置換基を有していてもよく、これらの置換基の結合位置については、特に制限はない。
また、アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ブチレン基などがあり、この中でエチレン基、プロピレン基、特にエチレン基が好ましい。
【0016】
さらに、R3で示される炭化水素基としては、脂肪族、脂環式、芳香族のいずれの炭化水素基でもよく、炭素数8〜30のもの、例えば、炭素数8〜18の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数8〜30のシクロアルキル基、フェニル基などが挙げられる。アルキル基の例としては、オクチル基、2‐エチルヘキシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などが挙げられる。R3の好ましい炭素数は8〜18の範囲である。
【0017】
次に、一般式(I)中のnは10〜100の数、好ましくは20〜50の数であり、これは平均数として示されるものである。
【0018】
本発明塗工液で増粘剤として用いる共重合体においては、(A)構成単位と(B)構成単位の含有割合が質量比で5:95ないし70:30であり、かつ(C)構成単位の含有割合が共重合体質量に基づき0.1〜50質量%の範囲にあるものが好ましい。
(A)構成単位の割合がこれよりも少ないと保水効果が不十分になるし、またこれよりも多くなると極端にB型粘度が上昇するとともに共重合体が不安定になる。ハイシェア下における流動性及び保水効果の面を考慮すると(A)構成単位と(B)構成単位の質量比は10:90ないし60:40の範囲が好ましい。
【0019】
また、(C)構成単位の割合が、共重合体質量に基づき0.1質量%未満になると十分な粘性の向上が得られないし、50質量%を越えると粘度が高くなりすぎ、流動性が低下する。粘性及び流動性のバランスの面からこの割合は1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の塗工液においては、上記の特定の増粘剤を用いたことにより、保水性、ハイシェア下での流動性及び粘性が向上している。
この保水性は、加圧脱水法を用いることによって測定することができる。この場合、例えば、リテンションメーターAA―GWR[カルテック・サイエンティフィック(Kaltec Scientific)製]などを使用し、塗工カラー10ml、圧力1.5バール、加圧時間15秒、温度20℃条件で、塗工カラーのろ紙への脱水量を測定する。測定した値が小さいほど保水性がよいことを示し、保水性良好である目安として、測定値が50g/m2以下であることが望ましく、特に、塗工紙特性の向上及び高速塗工性の面から、40g/m2以下とすることがさらに好ましい。
【0021】
また、ハイシェア下での塗工液の流動性は、ハイシェア粘度計を使用し、回転数8800rpmで、20℃におけるハイシェア粘度を測定することにより、評価することができる。そして、この値は、グラビア印刷用塗工紙の場合は、40cps以下、オフセット印刷用塗工紙の場合は30cps以下とすることが好ましい。
【0022】
他方、粘性は、塗工液のB型粘度を測定することにより評価することができる。例えば、TAPPI基準T648 Su―72に従って、回転数60rpmで、20℃におけるB型粘度を測定した場合、B型粘度が1000cps以上となることが望ましい。また、グラビア印刷用塗工紙としてインク着肉性を向上させるためにはB型粘度を2000cps以上とすることが望ましい。
【0023】
本発明塗工液の増粘剤として用いる共重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量は、保水性と粘度のバランスの点で1,000,000〜4,000,000の範囲にする必要がある。
【0024】
本発明塗工液の増粘剤として用いる共重合体は、通常のアクリル系共重合体の製造で慣用されている方法によって容易に製造することができる。
例えば、アクリル酸及びメタクリル酸の中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、前記一般式(I)で表わされる化合物の中から選ばれた少なくとも1種の単量体を共重合させることによって製造することができる。
また、アクリル酸及びメタクリル酸の中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、一般式
【化7】
(式中R1及びR2は前記と同じ意味をもつ)
で表わされる少なくとも1種の単量体を共重合させたのち、一般式
【化8】
(式中のR3、nは前記と同じ意味をもち、mは0又は1の整数である)
で表わされる基を導入するか、あるいはアクリル酸及びメタクリル酸の中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの中から選ばれた少なくとも1種の単量体と、3‐メチル‐3‐ブテン‐1‐オールとを共重合させたのち、一般式
−(CH2CH2O)n−CH2CH2−O−R3 (VI)
(式中のR3及びnは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる基を導入することによっても製造することができる。
【0025】
これらの単量体の重合方法は、特に制限はなく、溶液重合法、乳化重合法、固相重合法など任意の方法を用いることができる。この際用いる重合開始剤としては、水溶性のアゾ化合物や過酸化物、例えば、2,2‐アゾビス(2‐アミジノプロパン)ジ塩酸塩、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、又は水溶性還元剤と水溶性無機過酸化物や有機過酸化物との組合せなどが用いられる。この水溶性無機過酸化物の例としては、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。この水溶性還元剤の例としては、水に可溶な通常のラジカル酸化還元重合触媒成分として用いられる還元剤、例えばエチレンジアミン四酢酸又はそのナトリウム塩やカリウム塩、あるいはこれらと鉄、銅、クロムなどの重金属との錯化合物、スルフィン酸又はそのナトリウム塩やカリウム塩、L‐アスコルビン酸又はそのナトリウム塩やカリウム塩やカルシウム塩、ピロリン酸第一鉄、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、還元糖類などが挙げられる。一方、水溶性有機過酸化物としては、例えばクメンヒドロペルオキシド、p‐サイメンヒドロペルオキシド、tert‐ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p‐メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロキシオキシド、tert‐アルミヒドロペルオキシド、tert‐ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類などが挙げられる。
【0026】
また、乳化重合における乳化剤としては、通常アニオン性界面活性剤又はそれとノニオン性界面活性剤との組合せが用いられる。このアニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤としては、通常乳化重合に用いられるものの中から任意に選んで用いることができる。このようなアニオン性界面活性剤の例としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、脂肪酸金属塩、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩などを挙げることができる。また、ノニオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなど、ポリオキシエチレン鎖を分子中に有し、界面活性能を有する化合物及び前記化合物のポリオキシエチレン鎖がオキシエチレン、オキシプロピレンの共重合体で置換されている化合物、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0027】
この乳化重合法によれば、重合開始剤及び乳化剤を含有する水性媒体中において、少なくとも1種のアクリル酸若しくはメタクリル酸、少なくとも1種のアクリル酸若しくはメタクリル酸のエステル及び及び一般式(I)で表わされる単量体を所定の割合で混合し、通常30〜80℃の範囲の温度において重合させることにより、所望の共重合体微粒子が均質に分散したエマルションを得ることができる。この方法で得られるエマルションは、そのまま紙塗工液の調製に用いることもできるし、所望ならば塩析又は噴霧乾燥などにより共重合体を固形物として取り出し、これを用いて紙塗工液を調製して用いてもよい。
【0028】
また、一般式(I)で表わされる単量体の代りに、一般式(IV)で表わされる単量体、例えば3‐メチル‐3‐ブテン‐1‐オールを共重合させて基幹共重合体を形成させたのち、一般式(V)又は(VI)で表わされる基を導入する方法においては、この共重合体に、一般式
【化9】
又は
HO−(CH2CH2O)n−CH2CH2−O−R3 (VIII)
(式中のR3、n及びmは前記と同じ意味をもつ)
で表わされる化合物の遊離末端が水酸基と置換しうる基で閉塞されているポリオキシアルキレン化合物を反応させることによって製造することができる。一般式(VII)で表わされるポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンモノノナン酸エステル、ポリオキシエチレンモノデカン酸エステル、ポリオキシエチレンモノドデカン酸エステル、ポリオキシエチレンモノオクタデカン酸エステル、ポリオキシエチレンとノニルイソシアネートから得られるウレタン化合物、ポリオキシエチレンとデシルイソシアネートから得られるウレタン化合物、ポリオキシエチレンとドデシルイソシアネートから得られるウレタン化合物、ポリオキシエチレンとオクタデシルイソシアネートから得られるウレタン化合物などが挙げられる。また、一般式(VIII)で表わされる化合物としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンブチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの単量体は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
これらの化合物は、基幹共重合体の側鎖と反応しやすい誘導体に変えた形、例えばハロゲン化物やアルカリ塩の形で反応させることもできる。この反応は、通常、化合物中にポリオキシアルキレン鎖を導入するのに用いられている公知方法によって行うことができる。
【0030】
次に、本発明塗工液においては、増粘剤をその固形分に基づき、顔料100質量部当り、0.01〜0.5質量部の割合で配合するのが好ましい。この量が0.01質量部未満では十分な保水性、低ハイシェア粘度となるような塗工液が得られないし、0.5質量部を越えると塗工液の粘性が高くなりすぎ、ゲル化を起こす。保水性及び塗工液の粘性や流動性などの面から、この化合物の好ましい配合量は、顔料100質量部当り、0.05〜0.3質量部の範囲である。
【0031】
本発明塗工液には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ分散剤、他の増粘剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などを適宜含有させることができる。該分散剤としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、アクリル酸−マレイン酸系共重合体のナトリウム塩などが挙げられる。
【0032】
本発明塗工紙は、紙基材表面に前記紙塗工液の塗布層を、固形分付着量が2〜30g/m2となるように設けたものであって、紙基材としては、例えば上質紙、中質紙、板紙などが挙げられる。また、塗布層は、これらの紙基材の片面又は両面にブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーターなどを用いる通常の方法によって前記紙塗工液を塗工し、乾燥処理することにより形成することができる。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0034】
なお、各例中の紙塗工液及び塗工紙の物性は下記の方法に従って求めた。
(1)紙塗工液の保水性;
加圧脱水法に従い、リテンションメーターAA―GWR[カルテック・サイエンティフィック(Kaltec Scientific)製]を使用し、塗工カラー10ml、圧力1.5バール、加圧時間15秒、温度20℃条件で、塗工カラーの、ろ紙への脱水量を測定した。数値が小さいほど保水性がよいことを示す。
(2)紙塗工液のハイシェア(HS)粘度(cps);
ハイシェア粘度計[日本精機(株)製]を使用し、回転数8800rpmで、20℃におけるハイシェア粘度を測定した。
(3)紙塗工液のB型粘度(cps);
TAPPI基準T648 Su―72に従って、回転数60rpmで、20℃におけるB型粘度を測定した。
(4)塗工紙の光沢度;
JIS P8142−1965に従って測定した。
(5)塗工紙の白色度;
JIS P8123−1961に従って測定した。
(6)塗工紙の平滑度;
JIS P8119−1976に従って測定した。
(7)塗工紙のドライピック、ウェットピック;
RI印刷機(明製作所製)を用いて塗工紙の表面に印刷し、ピッキング発生状況を観察して5点法(数値が大きいほど良好)により評価した。
(8)塗工紙のインクセット;
RI印刷機(明製作所製)を用いて塗工紙の表面にセット速度20秒間隔で印刷し、そのときに転移したインクの濃度を観察して5点法(数値が大きいほど良好)により評価した。
(9)塗工紙のグラビア網点欠落;
印刷局式グラビア印刷適性試験機(熊谷理機工業製、製造番号8608189)を用いて測定した。
【0035】
実施例1
クレー70質量部、重質炭酸カルシウム30質量部、アルカリ増粘型スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス6質量部(固形分として)及び分散剤(ソマール社製、SDA−40K)0.1質量部(固形分として)を混合し、全体の固形分濃度が62質量%になるように水を加えたのち、メタクリル酸単位40質量%とアクリル酸エチル単位52.6質量%とオクタデシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのウレタン結合物7.4質量%とからなる質量平均分子量2,000,000、オキシエチレン平均付加モル数50モルのメタクリル酸−アクリル酸エチル−オクタデシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテル共重合体エマルション(固形分30質量%、20℃粘度50mPa・s、平均粒子径65nm)を共重合体に基づき、0.2質量部(固形分として)を加えて均質に混合することにより、グラビア印刷用紙塗工液を調製した。
このものの物性を表1に示す。なお、質量平均分子量はGPC法により測定したポリスチレン換算の値である。
次に、この紙塗工液を上質紙(坪量60g/m2)の片面に固形分付着量が15g/m2になるように塗布乾燥して塗工紙を作成した。この塗工紙の前記(1)〜(6)及び(9)の物性を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1において、オクタデシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのウレタン結合物に代え、オキシエチレン平均付加モル数50モルのドデシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのウレタン結合物とした以外は、すべて実施例1と同様にして紙塗工液を調製し、さらにこれを用いて塗工紙を作成した。紙塗工液及び塗工紙の物性を、それぞれ表1に示す。
【0037】
実施例3
実施例1において、単量体成分として、メタクリル酸40質量部、アクリル酸メチル52.9質量部、オキシエチレン平均付加モル数50モルのドデシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのウレタン結合物7.1質量部からなる単量体成分を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして紙塗工液を調製し、さらにこれを用いて塗工紙を作成した。紙塗工液及び塗工紙の物性を、それぞれ表1に示す。
【0038】
比較例1
実施例1において、単量体成分として、メタクリル酸40質量部、アクリル酸エチル53.1質量部、オキシエチレン平均付加モル数50モルのヘキシルポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのウレタン結合物6.9質量部からなる単量体成分を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして紙塗工液を調製し、さらにこれを用いて塗工紙を作成した。紙塗工液及び塗工紙の物性を、それぞれ表1に示す。
【0039】
比較例2
実施例1において、単量体成分として、メタクリル酸40質量部、アクリル酸エチル53.5質量部、ポリオキシエチレン(3‐メチル‐3‐ブテニル)エーテルのエチレンオキシ基50モル付加物6.5質量部からなる単量体成分を用いた以外は、すべて実施例1と同様にして紙塗工液を調製し、さらにこれを用いて塗工紙を作成した。紙塗工液及び塗工紙の物性を、それぞれ表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例4
クレー80質量部、重質炭酸カルシウム20質量部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス10質量部(固形分として)、酸化デンプン3質量部、分散剤(ソマール社製、SDA−40K)0.3質量部(固形分として)を配合し、全体の固形分濃度が64質量%になるように水を加えたのち、その中に実施例1で用いたものと同じ共重合体エマルションを共重合体に基づき0.2質量部(固形分として)を加えて均質に混合し、オフセット印刷用紙塗工液を調製した。このものの物性を表2に示す。なお、質量平均分子量はGPC法により測定したポリスチレン換算の値である。
次に、この紙塗工液を上質紙(坪量60g/m2)の片面に固形分付着量が15g/m2になるように塗布乾燥して塗工紙を作成した。この塗工紙の前記(1)〜(8)の物性を表2に示す。
【0042】
比較例3
実施例2において、共重合体エマルションとして、比較例1で用いたものと同じ共重合体エマルションを用いた以外は、実施例2と同様にして紙塗工液を調製し、これを用いて塗工紙を作成した。紙塗工液及び塗工紙の物性を、それぞれ表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
【発明の効果】
本発明の紙塗工液は、良好な保水性、ブレード下での低ハイシェア粘度及び粘性を有し、高速塗工性、グラビア網点欠落、インク着肉性が改善され、しかも表面平滑性、印刷適性、耐ピッキング性、光沢性などに優れた塗工紙を与えることができる。
Claims (4)
- 共重合体中の(A)構成単位と(B)構成単位との割合が質量比で5:95ないし70:30の範囲にある請求項1記載の紙塗工液。
- (C)構成単位の含有割合が、共重合体質量に基づき0.1〜50質量%の範囲にある請求項1又は2記載の紙塗工液。
- 紙基材表面に、請求項1記載の紙塗工液の塗膜を形成させたことを特徴とする塗工紙。
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