JP3575277B2 - 微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート - Google Patents
微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィルムまたはシート内部に微細な空洞を多量に含有する積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート、およびその製法に関し、この様にして得られたフィルムまたはシート(以下、フィルムで代表する)は熱によるカールやしわの入りにくいものであり、昇華転写記録材料、熱転写記録材料、感熱記録材料、印刷用シート等の基材として広く活用することができる。
【0002】
【従来の技術】
合成樹脂を主原料とする紙代替物である空洞含有フィルムは、天然パルプを主原料とする紙に比べて耐水性、吸湿性、寸法安定性、表面安定性、印刷物の光沢性や鮮明性、機械的強度などに優れたものであるから、近年その特徴を生かして様々の用途展開が進められている。
【0003】
空洞含有フィルムの主原料としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、あるいはポリエステル系樹脂などがあり、中でもポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル系樹脂は、耐熱性が高く且つ腰が強いといった空洞含有フィルムとしての重要な要求特性を備えているので、現状でもかなり広範囲に利用されている。
【0004】
ポリエステル系樹脂を主原料とし天然紙に似た機能を備えたフィルムを得る方法としては、
(1)フィルム内部に微細な空洞を多量に含有させる方法、
(2)通常の平坦なポリエステルフィルムを、サンドブラスト処理、ケミカルエッチング処理、マット処理(マット剤をバインダーと共に積層する方法)等によって粗面化する方法
等が挙げられる。
【0005】
このうち(1)の方法は、フィルム自体の軽量化に優れると共に適度な柔軟性を付与し得るという点で(2)の方法に比べて優れており、それにより鮮明な印刷・転写性をもたらすことができ、現在最も有効とされているものである。具体的には、ポリエステル系樹脂に対して非相溶の樹脂と原料樹脂を押出機で溶融混練し、ポリエステル中に該非相溶樹脂を分散させたフィルムを形成した後これを延伸する方法である。
【0006】
この様にフィルムに空洞を発現させることができるポリエステル系樹脂に対して非相溶の樹脂(以下、空洞発現剤と記すことがある)としては、ポリオレフィン系樹脂(例えば特開昭49−134755号公報)、ポリスチレン系樹脂(例えば、特公昭49−2016号公報、特公昭54−29550号公報等)、ポリアリレート樹脂(例えば特公昭58−28097号公報)等が多数報告されているが、空洞形成能、低密度、経済性等の観点からすれば、ポリプロピレン系樹脂やポリスチレン系樹脂を用いることが推奨される。しかしながらこの様な従来の空洞発現剤を用いたフィルムの場合、得られる空洞は厚いか/または大きいため、該フィルムを感熱記録材料等の基材に用いると熱によるカールやしわが発生する等の問題がある。例えば特開昭63−168441号公報に記載のフィルムは、空洞の大きさが最大で50〜100μmとかなり大きいため、この様なフィルムを感熱記録材料等に用いると、熱によるカールやしわが多数発生する。そこで空洞の大きさや厚さを適正化すべく、例えば特開昭63−193998号公報や特開平3−76727号公報には、空洞を小さくするために、フィルムに界面活性剤やポリアルキレングリコール等を添加する方法が開示されている。しかしながら、この様な低分子量成分を混合するとフィルムの耐熱性が低下するため、感熱転写、熱転写、昇華転写等の様に記録時に支持体に高温の熱がかかる様な条件下では、その部分にカールやしわが発生するという問題がある。この様な問題は、耐熱性を向上させるために用いられる通常の方法(例えば、延伸終了後に熱固定する等の方法)では解決することはできなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、昇華転写記録材料、熱転写記録材料、感熱記録材料等に用いた場合にも熱によるカールやしわが発生しない様な微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明の微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシートは、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を原料とする表層と、
ポリエステル系樹脂(A)と、該ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂混合物からなる中心層とを積層した微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシートにおいて、
前記フィルムまたはシート表面に垂直な任意の一方向断面の中心層部分における、空洞の平均厚さに対する空洞の平均長さの比が7.0以上、
該断面における空洞の数が30個/2500μm2以上、
全体の見掛け密度が0.6〜1.3g/cm3
である点に要旨を有するものである。
【0009】
上記熱可塑性樹脂(B)として好ましいのは、
ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B1)と、
上記ポリエステル系樹脂(A)および上記熱可塑性樹脂(B1)の両方に対して非相溶であり、且つ上記熱可塑性樹脂(B1)よりも表面張力の大きい熱可塑性樹脂(B2)を含むと共に、
上記熱可塑性樹脂(B2)は、上記熱可塑性樹脂(B1)100重量部に対して0.01〜20重量部含有するものである。
【0010】
上述した本発明のフィルムまたはシートは、2段階以上の異なる温度領域で横延伸されると共に、最終横延伸を180℃以上の温度で行ったものが好ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
上記の様に本発明の微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート(以下、再びフィルムで代表する)は、空洞含有ポリエステル系樹脂フィルムが本来具備している特性、即ち筆記性、印刷・転写性などを損なうことなく、空洞の大きさを適正化することによって熱によるカールやしわの発生を防ごうとするものであり、こうした特性が、従来材との関連において明確に現れるのは、上記で規定する如く、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を原料とする表層と、
ポリエステル系樹脂(A)と、該ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂混合物からなる中心層とを積層した微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシートにおいて、
(1)フィルムまたはシート表面に垂直な任意の一方向断面の中心層部分における、空洞の平均厚さに対する空洞の平均長さの比(以下、単に空洞の大きさと略記する場合がある)が7.0以上であり、
(2)該断面における空洞の数(以下、単に空洞数と略記する場合がある)が30個/2500μm2以上であり、
(3)見掛け密度が0.6〜1.3g/cm3
のものであり、この様な要件をすべて満足するものは、従来の空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムには見られなかったものである。
【0012】
本発明のフィルムは、上述した様にポリエチレンテレフタレート樹脂を原料とする表層と、ポリエステル系樹脂(A)と、該ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂混合物からなる中心層とを積層した微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムである。以下これら構成成分について順次説明する。
【0013】
まず、本発明において中心層で使用されるポリエステル系樹脂(A)を構成するポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸またはそのエステルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコールとを重縮合して得られるポリエステルであり、これらのポリエステルは、芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接反応させる方法の他、芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応させた後重縮合させたり、あるいは芳香族ジカルボン酸のジグリコールエステルを重縮合させる方法等によって製造することもできる。かかるポリエステルの代表的なものとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン・ブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等が例示される。これらのポリエステルは単独重合体であってもよく、あるいは第3成分を共重合せしめた共重合体であっても勿論構わないが、いずれにしても本発明においては、エチレンテレフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位あるいはエチレン−2,6−ナフタレート単位の占める比率が70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上のポリエステルが好ましい。また、表層は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を原料とする。
【0014】
次に、本発明で使用される上記ポリエステル(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)としては、要はベースとなるポリエステル(A)に対して非相溶であって、ポリエステル系樹脂中に分散状態で均一に混入し延伸時にベース樹脂との界面で剥離を起こして空洞形成源となるものであればどの様な樹脂であっても構わないが、好ましいものを例示すると、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。これらは単独で使用し得る他、必要により2種以上を複合して使用することもでき、あるいはこれらを共重合させることによってポリエステルとの間に適度な親和性を付与することも可能である。これらの中でもポリスチレン系樹脂、あるいはポリメチルペンテンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂は好ましいものとして推奨される。
【0015】
上記熱可塑性樹脂(B)の好ましい配合量は、最終的に得られるフィルムに求められる空洞形成量や延伸条件などによっても変わってくるが、通常は樹脂組成物全量中に占める比率で3重量%以上〜40重量%未満、より好ましくは5〜30重量%の範囲から選定される。3重量%未満では、延伸工程で生成する空洞量が不十分となって満足のいく軽量性や柔軟性、描画性、筆記性等が得られ難くなり、一方40重量%以上になると、延伸性が著しく低下する他、耐熱性、強度あるいは腰の強さが損なわれることがある。
【0016】
好ましくは、上記熱可塑性樹脂(B)は、
(i)ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B1)と、
(ii)上記ポリエステル系樹脂(A)および上記熱可塑性樹脂(B1)の両方に対して非相溶であり、且つ上記熱可塑性樹脂(B1)よりも表面張力(表面エネルギー)の大きい熱可塑性樹脂であって、上記熱可塑性樹脂(B1)100重量部に対して0.01〜20重量部含有される熱可塑性樹脂(B2)
を含むものである。
【0017】
即ち上記(B2)の熱可塑性樹脂は、ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂であるという点では上記(B1)と同様、空洞発現作用を有するものであるが、(B1)が主に空洞発現作用を発揮するのに対して、(B2)は(B1)に対しても非相溶の熱可塑性樹脂という性質を有し、且つ(B1)よりも表面張力が大きい(B2)を(B1)に対して特定比率で混合することにより、ポリエステルに対して非相溶の熱可塑性樹脂を原料樹脂中に微細分散させる「分散作用」を有効に発揮し、ひいては微細な空洞を均一に形成せしめる作用を有するものである。従って以下の記載では、これら(B1)と(B2)を作用面から特に区別すべく、(B1)を空洞発現剤と呼び、(B2)を分散性樹脂と呼ぶことにする。
【0018】
従来の微細空洞含有ポリエステル系樹脂フィルムにおいても、空洞発現剤を微細分散化することを目的として、2種以上の異なる空洞発現剤を多量に添加していた。しかしながらこの様な従来の方法によって得られる空洞は、厚さの割には長さの短い空洞が生成してしまう等、不適切なものが多かった。その原因を解明すべく本発明者らが鋭意検討したところ、空洞発現剤と、空洞発現剤を微細分散化すべく添加される熱可塑性樹脂の間の表面張力の大小およびこれらの混合比率が大きな影響を占めることがわかった。即ち、「空洞発現剤を2種以上混合すると、表面張力が低い樹脂はそれよりも表面張力が高い樹脂に覆われてしまい、その結果ポリエステルのほとんどは表面張力の高い空洞発現剤と界面を形成してしまうことになる。そのため、ポリエステルに対する空洞発現剤の接着性が高まって空洞発現能は著しく低下してしまい、厚さの割には長さが短いといった不適切な空洞が発現してしまう」ということがわかった。そこで本発明では分散性樹脂本来の作用である「原料樹脂中への空洞発現剤の微細分散化作用」を有効に発揮させるべく、本発明に用いられる分散性樹脂(B2)の特性を、上述の如く「空洞発現剤(B1)よりも表面張力の大きい熱可塑性樹脂」と規定すると共に、その含有量を「空洞発現剤(B1)100重量部に対して0.01〜20重量部含有するものである」と規定したのである。0.01重量部未満では、上述した空洞発現剤の微細分散化作用を有効に発揮させることができず、一方20重量部を超えると、分散性樹脂(B2)は空洞発現剤(B1)の大部分を覆ってしまうことになり、その結果厚さの割には長さの短い空洞が形成される等、不適切な大きさのものが形成されることになる。空洞発現剤(B1)に対する分散性樹脂(B2)の含有量を本発明で規定する範囲内とすれば、表面張力の高い分散性樹脂(B2)はそれよりも表面張力の低い空洞発現剤(B1)を覆ったとしても、部分的に覆ったり薄く均一に覆う程度(覆われる形状はこれらに限定されず、用いられる樹脂の種類によってこれ以外に、例えば網目状の様に覆っている部分と覆っていない部分が周期的に存在する場合、あるいはこれらの各場合の組合わせ等、様々なケースが考えられる)であるから、ポリエステルに対する接着性には実質的に影響しない程度となる。従って、分散性樹脂(B2)の微細分散効果を有効に発揮することができる様になり、空洞発現剤(B1)はポリエステル系樹脂中に微細分散化でき、従来に比べて、厚さに対して長い空洞を多数得ることができるのである。好ましくは、その下限は0.02重量部、より好ましくは0.1重量部であり、一方、その上限は好ましくは15重量部、より好ましくは10重量部である。
【0019】
この様に本発明で用いられる分散性樹脂について、その特性および含有量を上記の様に規定することにより、分散剤としての作用を如何なく発揮させることができるのである。
【0020】
上記空洞発現剤(B1)と分散性樹脂(B2)の組合わせ例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0021】
空洞発現剤(B1)として、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状オレフィンポリマー等のポリオレフィン系樹脂やシリコーン系樹脂等を用いた場合には、分散性樹脂(B2)として、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、マレイミドやカルボン酸等で変性したポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂等を用いる。あるいは、空洞発現剤(B1)としてポリスチレン系樹脂を用いた場合は、分散性樹脂(B2)として、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、マレインイミドやカルボン酸等で変性したポリオレフィン系樹脂を用いる。これら分散性樹脂(B2)は単独で使用し得る他、必要により2種以上を混合して使用することも可能である。
【0022】
これら非相溶樹脂(B1)と分散性樹脂(B2)の、ポリエステル系樹脂中への好ましい配合量は、最終的に得られるフィルムに求められる空洞形成量や延伸条件などによっても変わってくるが、通常は樹脂組成物全量中に占める比率で3〜30重量%、より好ましくは5〜25重量%の範囲から選定される。3重量%未満では、延伸工程で生成する空洞量が不十分となって満足のいく軽量性や柔軟性、描画性、筆記性等が得られ難くなり、一方30重量%を超える過多になると、延伸性が著しく低下する他、耐熱性、強度あるいは腰の強さが損なわれることがある。
【0023】
本発明のフィルムは上記構成成分を必須成分とするものであるが、フィルムに隠蔽性(非透過性あるいは白色性)を付与することを目的として、無機質もしくは有機質の微粒子を含有することも有効である。その様な微粒子としては、シリカ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機質微粉末;架橋高分子や有機質白色顔料などの有機質微粉末等が例示される。また、必要により更に他の成分として帯電防止剤、紫外線吸収材、可塑剤、着色剤等を適量含有させることも可能である。
【0024】
本発明に係る微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムは、層構造としては表層と中心層を積層した積層構造とすることが必要であり、具体的には2層以上の複層構造であれば構わない。その様な複層フィルムの製造方法は特に限定されないが、生産性を考慮すると、表層と中心層の原料は別々の押出機から押出し、1つのダイスに導いて未延伸シートを得た後、少なくとも1軸に延伸させるという、いわゆる共押出法による積層方法が最も好ましい。複層フィルムの見掛け密度、中心層部分における空洞の平均厚さに対する空洞の平均長さの比及び空洞数については、上述した要件を満足するものでなければならない。
【0025】
ここで、見掛け密度は0.6〜1.3g/cm3の範囲でなければならない。しかして見掛け密度が0.6g/cm3未満のものでは、空洞含有率が高過ぎるためフィルムが強度不足となったりフィルム表面に割れや皺等が生じ易くなって商品価値が著しく低下し、逆に1.3g/cm3を超える高密度のものでは、空洞含有率不足となり、クッション性や柔軟性など、空洞形成によって与えられる特性が有効に発揮されなくなるからである。
【0026】
また、本発明のフィルムは、該フィルム表面に対して任意の一方向断面を切り出したときの中心層部分における空洞の平均厚さをT1、該空洞の平均長さをL1とし、その直角方向に断面を切り出した時の空洞の平均厚さをT2、該空洞の平均長さをL2とした場合、L1/T1およびL2/T2の平均が7.0以上であり、好ましくは10.0以上であり、より好ましくは13.0以上である。この様に長さに比べて厚みの薄い空洞を多数生成させることにより、熱転写性やしわの問題を全て解決することができる。上記比率が7.0未満では、熱によるしわが発生する。
【0027】
更に、該断面における空洞の数は30個/2500μm2以上であり、好ましくは35個/2500μm2以上であり、より好ましくは40個/2500μm2以上である。30個未満の場合には、上記比率が7.0以上であったとしても個々の空洞がかなり大きいため、しわの原因となる。
【0028】
本発明に係る微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムに求められる諸特性は以上の通りであり、こうした要求特性を満足するフィルムは、空洞の大きさが適正化されているので熱によるカールやしわが生じない等の非常に優れた特性を具備するものである。
【0029】
上記の様な諸特性を備えた本発明フィルムの製法は特に限定されないが、該フィルムを効率よく製造するために、上記ポリエステル系樹脂、空洞発現剤および分散性樹脂の重合体混合物をフィルム状またはシート状に成形した後、2段階以上の異なる温度領域で横延伸を施すと共に、最終横延伸の温度を180℃以上の範囲で行うことが好ましい。この様な製造条件を定めた理由については、追って詳述することとし、本発明のフィルムを製造する工程を順次説明することにする。
【0030】
まず、表層に用いられるポリエチレンテレフタレート樹脂と、中心層に用いられるポリエステル系樹脂(A)とこのポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)とを含む樹脂混合物を別々の押出し機より溶融押出し、1つのダイスに導いて未延伸シートとする。樹脂混合物を押し出す方法としては、例えば各樹脂のチップの混合物を押出機内で溶融混練した後に押出しして固化する方法、予めこれら樹脂を混練機で混練したものを更に押出機で溶融押出しして固化する方法、ポリエステルの重合工程において、ポリエステル系樹脂に対して非相溶の熱可塑性樹脂を添加し、攪拌分散して得られたチップを溶融押出しして固化する方法等が挙げられる。この様にして得られた未延伸シートは、通常無配向または弱い配向状態のものであり、中心層中のポリエステル系樹脂に対して非相溶の熱可塑性樹脂は、球状もしくは楕円球状、または糸状等、様々な形状でポリエステル系樹脂中に分散することになる。
【0031】
この様にして得られた未延伸フィルムを延伸する方法としては、特に限定されないが少なくとも1軸に延伸することが必要であり、中心層では分散された該ポリエステルに非相溶の熱可塑性樹脂とポリエステルの界面で剥離が起こり、空洞が多数発生する様になる。その方法は、ロール延伸法(周速の異なる2本あるいは多本数のロール間でフィルムの走行方向に延伸する方法)、長間隙延伸法、テンター延伸法(クリップに保持して拡げていく延伸方法)、チューブラー延伸法、インフレーション延伸法(空気圧によって拡げる延伸方法)等のいずれの方法を用いることが可能であり、これら公知の延伸方法によって所定の一方向(主延伸方向)へ延伸される。いずれの方法においても、逐次2軸延伸、同時2軸延伸、1軸延伸およびこれらの組み合わせにより延伸を行う。このうち2軸延伸を用いる場合は、縦横方向の延伸を同時に行ってもよいが、より優れた延伸効果を得るためには、いずれか一方を先に延伸する逐次2軸延伸法が推奨される。その場合の縦横の延伸順序はどちらを先に行っても構わないが、機械的特性を考慮すれば、最初にフィルムの流れ方向に当たる縦方向に延伸した後、次に横方向に延伸させる逐次2軸延伸法を用いることが好ましい。以下の記載では、逐次2軸延伸法を例にとって具体的に説明するが、この方法に限定されるものではない。
【0032】
本発明のフィルムを製造するに当たっては、横延伸を施す際、2段階以上の異なる温度領域で行うと共に、最終横延伸の温度を180℃以上の範囲とすることが好ましい。この様に横延伸条件を特に規定するのは、従来の延伸温度は80〜140℃と低いため、中心層部分における空洞の変形が十分得られず、上述した本発明の規定要件を満足するほどの十分薄い空洞を得ることができにくいからである。
【0033】
ここで、従来から行われている逐次2軸延伸の方法は、まず上記未延伸シートを長手方向にロール延伸した後、幅方向にテンター延伸し、その後更に150℃以上で熱処理する方法である(特開昭63−168441号公報、特開昭63−193938号公報、特開平2−80247号公報、特開平2−284929号公報、特開平3−114817号公報、特開平4−202540号公報等)。ここでロール延伸(縦延伸)においては、空洞を多数発生させるために延伸温度を80〜100℃、延伸倍率を2.0〜5.0とし、その後テンター延伸(横延伸)を80〜140℃、延伸倍率を2.8〜5.0とすることが好ましい。しかしながら、この様な従来の製法では上述した様に横延伸時の温度が低いため、中心層部分における空洞の変形が得られ難く、例えばポリメチルペンテンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂やポリスチレン系樹脂は、ガラス転移温度が100℃以下であるため、テンター延伸の際空洞が変形してつぶれてしまう恐れがある。このことは、延伸温度をたとえ140℃まで高めたとしても十分な変形を得るには至らず、本発明の規定要件を満足するほどの十分薄い空洞を形成させることは難しい。
【0034】
上述した横延伸工程は、この様な問題を克服することができる方法として非常に有用なものである。具体的には、まず1回目の横延伸を100〜150℃で2.0〜3.0倍に延伸した後、更に2回目の横延伸を180〜230℃で1.2〜2.0倍に延伸する。ここで1回目の横延伸倍率は縦延伸の倍率よりも低くすることが必要である。1回目の延伸は、中心層部分における空洞を十分生成させた2軸延伸フィルムを得るためのものであり、2回目の延伸は、薄くて縦横のバランスのとれた空洞とするためのものであり、2回目の延伸による空洞数の増大効果はほとんど見られない。なお、1回目および2回目の横延伸倍率の合計は縦延伸倍率を超えても構わない。上記延伸を施した後、更に熱処理を行うことが好ましいが、この熱処理温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上、更により好ましくは230℃以上である。この熱処理温度が200℃未満では、熱転写記録材料等に使用する際に、フィルムに要求される好ましい熱処理条件(150℃における熱収縮率が好ましくは2%未満、より好ましくは1.7%未満、更により好ましくは1.5%未満)を得ることはできない。上記熱処理は、2〜5%の緩和処理を行ってから施しても良い。
【0035】
この様にして得られる本発明に係る微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムには、必要によりその片面もしくは両面にインキ等との濡れ性や接着性を改善するための塗布層を形成することも有効である。該塗布層の主たる構成成分としては、該フィルムとの親和性の良好なポリエステル系樹脂が好ましいが、そのほかポリウレタン系樹脂、ポリエステル・ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂など、通常のポリエステル系樹脂フィルムに対し接着性等の向上のために用いられる樹脂が適宜選択して使用される。また該塗布層の形成法としては、グラビアコート法、キスコート法、ディップコート法、スプレーコート法、カーテンコート法、エアナイフコート法、ブレードコート法、リバースロールコート法等、公知の方法が全て適用可能である。塗布する時期としては、フィルムの延伸前(即ち、延伸処理前の重合体混合物の表面に予め塗布する方法)、延伸後(即ち、1軸方向に延伸した空洞含有フィルム表面に塗布した後、更に直角方向に延伸する方法)、緩和処理後(即ち、延伸処理終了後の空洞含有フィルム表面に塗布する方法)のどの時点で行なっても構わない。
【0036】
かくして得られる微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムは、従来の空洞含有ポリエステル系樹脂フィルムに比べて空洞の大きさが適正化されたものであり、熱によるカールやしわの発生を防止することができるという優れた性能を発揮する。従ってこのフィルムは、ラベル、ステッカー、ポスター、カード、記録用紙、包装材料、ビデオプリンター受像紙、バーコードラベル、バーコードプリンター受像紙、熱転写受像紙、感熱記録紙、昇華転写用受像紙、インクジェット受像紙、オフセット印刷用紙、フォーム印刷用紙、地図、無塵紙、標示板、白板、電子白板、印画紙、化粧紙、壁紙、建材、紙幣、離型紙、折り紙、カレンダー、磁気カード、トレーシング紙、伝票、配送伝票、感圧記録紙、複写用紙、臨床検査紙、パラボラアンテナ反射板、ディスプレー反射板の基材など、様々の用途に有効に活用することができる。
【0037】
以下実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0038】
【実施例】
下記の実施例で採用した測定・評価方法は次の通りである。なお、以下の記載において、「部」とは「重量部」を、「%」とは「重量%」をそれぞれ表す。
【0039】
(1)ポリエステルの固有粘度
ポリエステルをフェノール(6部)とテトラクロロエタン(4部)の混合溶媒に溶解し、30℃で測定した。
【0040】
(2)見掛け密度
5.00cm×5.00cmの正方形に正確に切り出したフィルムの厚みを50点測定し、その平均厚みをt(μm)とする。また、上記フィルムの重さを0.1mg単位まで測定してW(g)とし、下式によって見掛け密度を算出した。
見掛け密度(g/cm3)=[w/(5×5×t)]×10000
【0041】
(3)L1およびT1
フィルム表面に垂直な(縦方向と横方向の)断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製,S−510型)で2000倍に拡大して写真撮影した後、中心層部分における空洞をトレーシングフィルムにトレースして塗りつぶした図を画像解析装置で画像処理を施した。図1は、この様にして得られた空洞の形状を示す断面図であり、図中、1は空洞発現剤、2は空洞、Lは空洞の長さ、Tは空洞の厚さをそれぞれ表す。L1およびT1は、空洞総数(面積の大きい空洞から数えて50個)におけるLおよびTの平均を算出したものである。なお、使用した画像解析装置は、セイコーエプソン(株)製のイメージスキャナー(GT−8000)であり、得られた画像をパーソナルコンピューター(マッキントッシュ製)のソフトウェアー(Adobe Photoshop TM 2.5J )に取り込んだ後、該ソフトウェアー(Ultimage TM/242.1.1 )にて画像解析を行った。
【0042】
(4)n1
上記(3)の方法で撮影した写真中央部付近の厚さ50μm×長さ50μm中に含まれる空洞の個数を数えた。
【0043】
(5)初期弾性率
ASTM D−882−81(A法)により測定した。
【0044】
なお、測定条件は、チャック間距離:40mm,幅:10mm,引っ張り速度:200mm/分における測定長に対する応力を測定し、引っ張り開始直後(実質的に正比例の部分)における値を算出した。
【0045】
(6)熱収縮率
フィルムの収縮する方向を長辺とし、幅:10mm、長さ:250mmとなる様に切断してサンプルとし、この長辺方向に200mm間隙で印を記す。このサンプルを一定張力下(5g)で固定した後の間隔Aを測定する。次に、無張力下で150℃のオーブンに30分間入れた後の間隔Bを測定し、下式に従って熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)=[(A−B)/A]×100
【0046】
(7)光線透過率
ボイック積分球式H.T.Rメーター(日本精密光学製)を用い、JIS−K6714法に準じてフィルムの光線透過率を測定した。この測定値が小さければ小さい程陰蔽性が高いことを示す。
【0047】
(8)プリンターの熱によるカールおよびしわの有無
フィルム表面に、以下の組成からなるアンカー層を設けた後、その上に以下の組成からなる受容層を設け、カラーハードコピー[セイコー電子工業(株)製、D−SCAN CH−5504)にてビデオからの画像を実際に出力した。出力されたプリント物にカールまたはしわが全く生じない場合を○、わずかに生じる場合を△、完全に生じる場合を×とした。
【0048】
アンカー層
ウレタン系ドライラミ剤[A−130 武田薬品工業(株)製] 100部硬化剤[A−3 武田薬品工業(株)製] 30部
【0049】
参考例1
下記組成からなる原料を2軸スクリュー押出機に投入し、T−ダイスより290℃で溶融押出しした後、静電気的に冷却回転ロールに密着固化させることにより約1100μmの重合体混合物からなる未延伸シートを得た。次に、該未延伸シートをロール延伸機にかけ、80℃で3.1倍に縦延伸を行った後、テンターにて125℃で2.6倍に横延伸すると共に、更にテンターにて220℃で1.4倍に横延伸した。その後、235℃で4%の緩和熱処理を施すことにより、フィルム内部に多数の空洞を含有する単層のポリエステル系樹脂フィルムを得た(厚み:約100μm)。得られたフィルムについて、上記評価項目を測定した結果を表1に示す。
【0050】
実施例1
本実施例では、以下の要領で3層構造の積層フィルムを製造した。即ち、A層として参考例1の原料を用い、B層として下記原料を用い、各原料をそれぞれ別々の2軸スクリュー押出機に投入した後混練し、T−ダイス内でB/A/Bとなる様に貼り合わせた後押出しし、静電気的に冷却ロールに密着させることにより未延伸シートを得たこと以外は参考例1と同様にして、フィルム内部に多数の空洞を含有する本発明の積層ポリエステル系樹脂フィルムを得た。この様にして得られたフィルムの厚み(μm)はB/A/B=5/90/5であった。
【0051】
[B層の原料]
ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.62) 98%
球状ゼオライト粒子[水沢化学(株)製 JC−20] 2%
【0052】
このようにして得られた3層構造の積層フィルムについて、上記評価項目を測定した結果を表1に示す。なお、表1の空洞発現剤添加量、分散性樹脂添加量、分散剤添加量、無機粒子添加量の各数値は、A層における重量%で示した。実施例2においても同様である。
【0053】
実施例2
実施例1において、A層及びB層の原料として下記原料を用いたこと以外は実施例1と同様にして本実施例のフィルムを得た。また、下記A層単独の単層フィルムも参考例1と同様にして製造(参考例2)した。これらの評価結果を表1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から以下の様に考察することができる。
【0056】
表1から以下の様に考察することができる。
実施例1〜2の本発明の積層フィルムは、中心層部分における空洞の平均厚さに対する空洞の平均長さの比、空洞数および見掛け密度が本発明の範囲内であり、軽量性、柔軟性、陰蔽性、熱収縮性等に優れると共に、熱によるカールやしわも全く見られなかった。また、参考例1の単層フィルムと実施例1の積層フィルム、参考例2の単層フィルムと実施例2の積層フィルムとをそれぞれ比較すると、積層フィルムでは単層フィルムに比べてL1/T1が大きくなっていることがわかる。
【0057】
【発明の効果】
本発明の積層フィルムは上記の様に構成されているので、従来の様なポリスチレン系樹脂やポリオレフィン系樹脂を空洞発現剤として用いたフィルムと同様の効果(すなわち、軽量性、柔軟性、陰蔽性、艶消し性、描画性等)が得られると共に、これら従来のフィルムに比べて、熱によるカールやしわが入りにくい。従って、本発明のフィルムは、昇華転写記録材料、熱転写記録材料、感熱記録材料、印刷用シートのみならず、ラベル、ポスター、記録紙、包装用材料、伝票、宅配便の配送伝票、複写用紙、感圧紙等の様な幅広い分野に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例における空洞の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
1 空洞発現剤
2 空洞
Claims (3)
- ポリエチレンテレフタレート樹脂を原料とする表層と、
ポリエステル系樹脂(A)と、該ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B)を含む樹脂混合物からなる中心層とを積層した微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシートにおいて、
前記フィルムまたはシート表面に垂直な任意の一方向断面の中心層部分における、空洞の平均厚さに対する空洞の平均長さの比が7.0以上、
該断面における空洞の数が30個/2500μm2以上、
全体の見掛け密度が0.6〜1.3g/cm3
であることを特徴とする微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート(但し、昇華転写記録材料または熱転写記録材料用微細空洞含有積層ポリエステル系樹脂フィルムまたはシートを除く)。 - 前記熱可塑性樹脂(B)は、
ポリエステル系樹脂(A)に対して非相溶の熱可塑性樹脂(B1)と、
上記ポリエステル系樹脂(A)および上記熱可塑性樹脂(B1)の両方に対して非相溶な熱可塑性樹脂(B2)を含み、
上記熱可塑性樹脂(B1)はポリメチルペンテン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状オレフィンポリマー、又はシリコーン系樹脂であり、上記熱可塑性樹脂(B2)はポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、マレイミド若しくはカルボン酸で変性したポリオレフィン系樹脂、又はマレイミド若しくはカルボン酸で変性したポリスチレン系樹脂であり;
上記熱可塑性樹脂(B2)は、上記熱可塑性樹脂(B1)100重量部に対して0.01〜20重量部含有する
ものである請求項1に記載の微細空洞含有ポリエステル系樹脂フィルムまたはシート。 - 2段階以上の異なる温度領域で横延伸されると共に、最終横延伸を180℃以上の温度で行ったものである請求項1または2に記載のフィルムまたはシート。
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