JP3572377B2 - 車両用駆動力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用の駆動力制御装置、特にトロイダル型無段変速機を備えるものに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、たとえば、特開平3−67042号公報、特開平8−144803号公報にもあるように、車輪にスリップが発生したときなど、車輪の駆動力を下げ、スリップを回避する、いわゆるトラクション制御が知られている。
【0003】
車両の加速中など路面の状況などによって駆動輪にスリップが発生することがあり、このときスリップ率に応じてエンジンの出力トルクを一時的に低減することで、スリップを回避している。出力トルクを一時的に低減するために、一部気筒に対する燃料供給をカットしたり、ステップモータなどのアクチュエータに駆動される第2スロットルバルブの開度を低減したり、また駆動輪のブレーキを働かせることで駆動輪にグリップ力を回復させたりする。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、その構成上、エンジンのトルクアップ時に、トルクシフトにより目標変速比に対して実際の変速比がダウンシフト側にずれ(つまり駆動力が目標よりも増大する)、しかもトルクアップ量が大きいほど目標変速比からのずれが大きくなる特性を有するトロイダル型無段変速機がある(図9参照)。
【0005】
こうしたトロイダル型無段変速機を備える車両に上記トラクション制御を導入する場合、路面の一部が氷結しているときなど摩擦係数が小さい路面にあっては、ブレーキ作動を伴うトラクション制御に移行することがある。
【0006】
トラクション制御によりブレーキを働かせると、見かけ上はエンジンのトルクアップ時と同じになって、実際の変速比がダウンシフト側へとずれ、変速制御ではこのずれた変速比を目標変速比に戻そうとするが、変速制御の応答性が低いため、戻すのが遅れ、結果的に変速比のハンチングが生じる。この変速比のハンチングによって車輪の駆動力(車体に加わる前後方向の加速度)が急変し、車体に加振力が加わって運転性が悪くなる。
【0007】
さらに詳述すると、上記のトロイダル型無段変速機では、入力トルクの変化に伴う変速比のずれを補償するため、エンジンの出力トルクTeから変速機への入力トルクTinを推定し、この入力トルクTinと目標変速比RTOから変速機のトルクシフトを補償するためのフィードバック補正量TS1を演算し、目標変速比RTOに対応するステップモータ制御量STP(基本制御量)にこのフィードバック補正量TS1を加算することによって、ステップモータ(変速比調整手段)の目標制御量DSRSTPを決定(DSRSTPの値が大きくなるほどアップシフト側に移行)しているのであるが(図8参照)、トラクション制御におけるブレーキが働くときにも、トラクション制御が行われないとしたときのフィードバック補正量TS1を用いたのでは、フィードバック補正量TS1が小さくなりすぎ、ステップモータの目標制御量DSRSTPが過小となってしまうのである。
【0008】
そこで本発明は、トラクション制御などの所定のブレーキ制御におけるブレーキ作動時に、ブレーキ作動量に対応してフィードバック補正量TS1、基本制御量STPまたは目標制御量DSRSTPのいずれかを増量側(要求値に戻す側)に修正することにより、所定のブレーキ制御におけるブレーキ作動時においても、変速比のハンチングを防止して運転性を向上することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、図12に示すように、トルクシフトにより変速比が目標よりもずれる(たとえばエンジンのトルクアップ時にダウンシフト側にずれる)特性を有するトロイダル型無段変速機70と、このトロイダル型無段変速機70の変速比を調整可能な手段71と、車両の運転状態に応じて目標変速比RTOを演算する手段72と、この目標変速比RTOに応じた前記変速比調整手段71への基本制御量STPを演算する手段73と、エンジン出力トルクTeに基づいて前記無段変速機70の入力トルクTinを推定する手段74と、この入力トルクTinと前記目標変速比RTOから前記トルクシフトによる変速比のずれを補償するためのフィードバック補正量TS1を演算する手段75と、このフィードバック補正量TS1で前記基本制御量STPを補正した値を前記変速比調整手段71への目標制御量DSRSTPとして演算する手段76と、この目標制御量DSRSTPを前記変速比調整手段71に与えることによって変速比を制御する手段77とを備えた車両用駆動力制御装置において、運転者の意思に関係なく所定の運転条件で駆動輪のブレーキを制御する手段78と、このブレーキ制御におけるブレーキ作動時にブレーキ作動量に対応して前記フィードバック補正量TS1、前記基本制御量STP、前記目標制御量DSRSTPの少なくとも一つを修正する手段79とを設けた。
第2の発明では、第1の発明において前記フィードバック補正量を修正するに際しては、前記ブレーキ作動時にブレーキ作動量に対応した修正量TS1Hを演算し、前記フィードバック補正量を演算する手段で演算されたフィードバック補正量TS1にこのブレーキ作動量に対応した修正量TS1Hを加算した値を改めてフィードバック補正量TS1とする。
【0010】
第3の発明では、第1の発明においてエンジンのトルクアップ時に変速比がダウンシフト側にずれるのが前記変速機70の特性であり、かつ前記目標制御量DSRSTPが大きくなるほど変速比がアップシフト側に移行する場合に、前記修正が前記フィードバック補正量TS1、前記基本制御量STP、前記目標制御量DSRSTPのいずれか一つを大きくする。
【0011】
第4の発明では、第1または第3の発明において前記ブレーキ作動量としてのブレーキ作動圧に対応して前記修正量を設定する。
【0012】
第5の発明では、第4の発明において圧力センサにより前記ブレーキ作動圧を検出する。
【0013】
第6の発明では、第4の発明において駆動輪ホイールシリンダへの増圧時間と減圧時間から前記ブレーキ作動圧を推定する。
【0014】
第7の発明では、第1から第6までのいずれか一つの発明において前記ブレーキ制御がトラクション制御である。
【0015】
第8の発明では、第1から第6までのいずれか一つの発明において前記ブレーキ制御がアンチロックブレーキ制御である。
【0016】
第9の発明では、第1から第6までのいずれか一つの発明において前記ブレーキ制御が横滑り防止制御である。
【0017】
【発明の効果】
所定の運転条件でのブレーキ制御におけるブレーキ作動時にはトルクシフトにより変速比が目標よりもずれるのであるが、第1の発明では、所定の運転条件でのブレーキ制御におけるブレーキ作動時に、ブレーキ作動量に対応してフィードバック補正量、基本制御量、目標制御量のいずれか一つが修正されることから、ブレーキ作動によりずれたと逆の側に変速比が戻される。つまり、トラクション制御などにおけるブレーキ作動により、変速機への入力トルクが見かけ上増大して、たとえばダウンシフト側に変速比がずれようとする場合にも、変速比調整手段への目標制御量を過不足なく与えることが可能となり、変速比のハンチングを防いで目標変速比へと落ち着けることができる。
【0018】
第4の発明では、ブレーキ作動圧が変化する場合でも、修正量を精度よく与えることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1において、エンジン制御コントローラ3は、TCSコントローラ4からの制御信号に基づいて車両の加速中における駆動輪のスリップ状態に応じて、例えば、一部気筒に対しての燃料噴射をカットしたり、あるいはスロットル絞り込み、点火時期のリタードなどにより、後述するブレーキ作動と合わせて、駆動力の低減制御(トラクション制御)を行う。
【0020】
このため、TCSコントローラ4には、アクセルペダルに連動するスロットルバルブの開度TVOを検出するスロットルセンサからの信号、さらにはエンジン回転数を検出する回転数センサ、車速を検出する車速センサ、エンジン冷却水温を検出する冷却水温センサなど、運転状態を検出する各種のセンサからの信号が入力し、さらには、エンジンの出力回転が自動変速機を介して伝達される後輪の回転数を検出する車輪速センサ5RR、5RL、また前輪の回転数を検出する車輪速センサ5FR、5FLからの各信号も入力する。
【0021】
TCSコントローラ4は駆動輪と従動輪との速度比に基づいて駆動輪のスリップ率を演算し、このスリップ率が第1の所定値以上のときには、スリップ率に応じたトラクション制御信号をエンジン制御コントローラ3に出力し、スリップ率がさらに大きくなって第2の所定値(第1の所定値よりも大きい)を超えると、スリップ率に応じたトラクション制御信号をTCSアクチュエータ69に出力する。
【0022】
TCSアクチュエータ69では、トラクション制御信号を受けたとき、駆動輪のホイールシリンダに油圧ブレーキブースターからの油圧を導く(駆動輪のブレーキを働かせる)とともに、駆動輪ホイールシリンダへの作動圧をスリップ率が大きくなるほど増圧する。
【0023】
こうしたトラクション制御におけるブレーキ作動により、スリップ率が第2の所定値以下になったときには駆動輪ホイールシリンダへの作動圧を徐々に低下させ、スリップ率がさらに低下して第1の所定値以下になると、エンジン制御コントローラ3を介してのトラクション制御におけるトルクダウン量を徐々に低下させることで、トラクション制御を終了する。
【0024】
一方、車両には自動変速機としてのトロイダル型無段変速機10を備える。この無段変速機10は公知であり、これを図1〜図8を参照しながら概説する(詳しくは特開平8−338490号公報参照)。
【0025】
図1に示すように、無段変速機10は変速制御コントローラ2に制御される変速比変更手段9(変速比調整手段)によって、車両の運転状態に応じた所定の変速比に設定される。
【0026】
変速制御コントローラ2は、エンジン1を制御するエンジン制御コントローラ3に接続されて、クランク角センサ8が検出したエンジン回転数Neとスロットル開度TVO及びトルクダウン量Tdwを読み込む一方、無段変速機10の入力軸回転センサ6及び出力軸回転センサ7からの入力軸回転数Nt及び出力軸回転数Noを読み込んで、変速比変更手段9へ運転状態に応じた目標変速比RTOを指令する。
【0027】
ここで、無段変速機10としては、図2、図3に示すようなハーフトロイダル型無段変速機で構成され、エンジン1に結合されるトルクコンバータ12と無段変速機10との間に前後進切換装置40を介装して、無段変速機10の入力軸16の回転方向を切り換えている。
【0028】
無段変速機10は第1トロイダル変速部18と第2トロイダル変速部20から構成されて2組の入出力ディスク18a、18b及び20a、20bを備えたものを示し、第1トロイダル変速部18の入力ディスク18aと出力ディスク18bとの間に挟持される一対のパワーローラ18cは図3に示すように、オフセットされた回転軸50bに軸支される。
【0029】
この回転軸50bは軸回りの回動を許容するトラニオン軸50aに支持されて、トラニオン軸50aはアクチュエータ50によって図中上下方向へ駆動され、トラニオン軸50aの上下方向の変位に応じてパワーローラ18cの傾斜角を変更することで変速比を連続的に変更する。なお、他のパワーローラもそれぞれ図示しない回転軸、トラニオン軸及びアクチュエータを備える。
【0030】
図3に示すように、このアクチュエータ50は変速比変更手段9としてのコントロールバルブ60に制御され、コントロールバルブ60は変速制御コントローラ2の指令に応動するステップモータ61によってスプール63を変位させて、トラニオン軸50aを上昇駆動する油室50Lと、下降駆動する油室50Hへ選択的に油圧を供給することでピストン50Pに結合されたトラニオン軸50aを上下方向に駆動してパワーローラ18cの傾斜角を変更し、トラニオン軸50aの上昇で変速比は減少してHi側へアップシフトする一方、下降すると変速比は増大してLow側へダウンシフトする。
【0031】
なお、トラニオン軸50aの図中下端には、トラニオン軸50aの変位量をコントロールバルブ60へフィードバックするプリセスカム67が配設され、プリセスカム67を介して駆動されるスリーブ64がコントロールバルブ60とスリーブ64との間で相対変位することでアクチュエータ50に供給される油圧が調整される。
【0032】
変速制御コントローラ2は、演算した目標変速比RTOに基づいてコントロールバルブ60のスプールの変位量を決定するとともに、この変位量に応じてステップモータ61を駆動して無段変速機10のパワーローラの傾斜角を変速比に応じた値に設定するものである。
【0033】
この変速制御コントローラ2で行われる制御を図4〜図7のフローチャートに示し、これらフローチャートを参照しながら説明する。なお、各フローチャートは所定時間毎、例えば10msec毎にそれぞれ実行されるものである。
【0034】
図4は車両の運転状態を検出するフローチャートで、ステップS1では、エンジン回転数Ne、スロットル開度TVO、トルクダウン量Tdw及び吸入空気量Qaをエンジン制御コントローラ3から読み込むとともに、無段変速機10から入力軸回転数Nt、出力軸回転数Noを読み込む。
【0035】
そして、ステップS2では、出力軸回転数Noに変換定数Aを乗じて車速VSPを得る。
【0036】
目標変速比RTOは、図8に示すように、図10に示した所定の車速範囲で変速比を固定する変速制御を行い、演算した車速VSPから目標入力回転数tNtを演算するとともに、この目標入力回転数tNtを車速VSPで除して目標変速比RTOを得る。
【0037】
そして、目標変速比RTOに応じてコントロールバルブ60を駆動するためのステップモータ61の制御量STP(基本制御量)を予め設定した無負荷ステップテーブルより演算する。
【0038】
図5のフローチャートは、上記ステップS1〜S2で読み込んだ運転状態に応じて変速制御を行うもので、まず、ステップS20では、トルクシフト補正量を演算するために無段変速機10へ入力されるトルクTinの推定演算を行う。この入力トルクTinは、上記ステップS1で読み込んだエンジン回転数Neとスロットル開度TVO(あるいは吸入空気量Qa)から演算されたエンジントルクTe(エンジン出力トルク)と、予め設定されたトルクコンバータ12のトルク比t(e)及び変速比に応じて変化するイナーシャIiから次式に基づいて演算する。
【0039】
Tin=Te×t(e)−Ii×dNi
なお、dNiは入力軸加速度を示す。
【0040】
ここで、イナーシャエネルギ分のトルクを無視できる場合には、Ii×dNi≒ 0とすればよく、またスロットル開度TVOに代えて吸入空気量Qaを用いるときは、次式のように表現される。
【0041】
Tin=Te(Ne,Qa)×t(e)
一方、エンジン1のトルクダウン時には、
Tin=(Te−Tdw)×t(e)
とし、エンジン制御コントローラ3から得たトルクダウン量Tdwを用いる。なお、このトルクダウン量Tdwは、内部モデル等によって推定したものであってもよい。
【0042】
ステップS21では、無段変速機10に発生するトルクシフトを補正するための必要補正量TS1の演算を行う。
【0043】
ここで、トロイダル型の無段変速機10に発生するトルクシフトは、図3に示したように、パワーローラ18cを軸支する回転軸50bの自由端には入力トルクに応じて上下方向へ加わるため、回転軸50bの弾性変形に応じてパワーローラ18cの傾斜角も変動し、さらにこの上下方向の力はトラニオン軸50aにも加わって、トラニオン軸50aは軸方向へ弾性変形するためパワーローラ18cの傾斜角は変動し、この他、パワーローラ18cを軸支するベアリングのがた等によってもパワーローラ18cの傾斜角は変動する。
【0044】
これら、変速機構の弾性変形、あるいは機構のがたによるトルクシフトは、図9に示すように、変速比と入力トルクに応じて変化し、図中変速比Rに設定された場合には入力トルクの増大に応じてパワーローラの傾斜角が減少し、変速比はlow側のR’へ向けて変動するもので、コントロールバルブのスプールの位置に対応するパワーローラの傾斜角がずれて所望の変速比から外れてしまう。
【0045】
この変速比のずれを補正するために必要な、必要補正量TS1は、入力トルクTinと目標入力回転数tNtから決定される目標変速比RTOのマップ(図8に示す補償ステップテーブルに相当)より演算する。なお、このマップは実験等により予め設定されたものである。
【0046】
上記ステップS21は図8に示す補償ループを構成するもので、演算された必要補正量TS1に無負荷ステップテーブルから求めた目標変速比RTOに対応する制御量STPを加えたものが、ステップモータ61の目標制御量DSRSTPとなる。
【0047】
ステップS22では、図6に示すフローチャートの処理を行って、ステップモータへの制御量ASTPを決定し、この制御量ASTPを図7のフローチャートによってステップモータに出力する。
【0048】
すなわち、図6において、ステップモータの単位時間当たりの制御量をDSTPとすると、ステップモータへ実際に出力する制御量ASTPは目標制御量DSRSTPとなるまで、単位時間当たりの制御量DSTPづつ増減して、コントロールバルブ60のスプール63を駆動する。
【0049】
なお、図5においてステップS50〜S53は本発明により新たに設けた部分であり、後述する。
【0050】
以上でトロイダル型無段変速機10の概説を終える。
【0051】
さて、このようなトロイダル型無段変速機を備える車両に上記のトラクション制御を導入する場合、路面の一部が氷結しているときなど摩擦係数が小さい路面にあっては、トラクション制御に移行することがある。
【0052】
トラクション制御によりブレーキを働かせると、見かけ上はエンジンのトルクアップ時と同じになって、実際の変速比がダウンシフト側へとずれ、変速制御ではこのずれた変速比を目標変速比に戻そうとするが、変速制御の応答性が低いため、戻すのが遅れ、結果的に変速比のハンチングが生じる。この変速比のハンチングによって車輪の駆動力(車体に加わる前後方向の加速度)が急変し、車体に加振力が加わって運転性が悪くなる。
【0053】
前述したように、上記のトロイダル型無段変速機10では、この変速機10への入力トルクの変化に伴う変速比のずれを補償するため、エンジンの出力トルクTeから変速機10への入力トルクTinを推定し、この入力トルクTinと目標変速比RTOから変速機10のトルクシフトを補償するための補正量TS1を演算し、目標変速比RTOに対応するステップモータ制御量STPにこの補正量TS1を加算することによって、ステップモータの目標制御量DSRSTPを決定(DSRSTPの値が大きくなるほどアップシフト側に移行)しているのであるが(図8参照)、トラクション制御におけるブレーキが働くときにも、トラクション制御が行われないとしたときの補正量TS1を用いたのでは、補正量TS1が小さくなりすぎ、ステップモータの目標制御量DSRSTPが過小となってしまうのである。
【0054】
これに対処するため本発明の第1実施形態では、トラクション制御におけるブレーキ作動時に、トルクシフトを補償するための補正量TS1をブレーキ作動圧に対応して増大側(変速比をアップシフト側に戻す側)に修正する。
【0055】
変速制御コントローラ2で行われるこの制御を図5のフローチャートに従って説明すると、同図において、ステップS50、S51、S52、S53が本発明により新たに追加した部分である。
【0056】
ステップS50ではトラクション制御におけるブレーキ作動時かどうかをみる。ブレーキ作動時であるときは、ステップS51、S52、S53に進み、駆動輪ホイールシリンダへの作動圧P(ブレーキ作動圧)と目標変速比RTOを読み込み、この作動圧Pと目標変速比RTOから、所定のマップを検索することなどにより修正量TS1Hを演算し、この修正量TS1Hを上記の補正量TS1に加算した値を改めてTS1とする。
【0057】
トラクション制御におけるブレーキ作動時には修正量TS1Hにより補正量TS1を大きくする側に修正することによって、ステップモータ61への目標制御量DSRSTPを、従来よりも大きくするのである。変速制御上、DSRTPの値が大きくなるほどアップシフト側に移行するので、この修正量TS1Hの補正量TS1への加算により、変速比が従来よりもアップシフト側に移行する。
【0058】
また、ブレーキ作動力(作動圧P)が大きくなるほど、図9において入力トルクTinの見かけ上の増大量が大きくなるので、図5にも示したように、目標変速比RTOが同じであれば、作動圧Pが大きくなるほどTS1Hの値を大きくしている。作動圧Pが同じであるときは目標変速比RTOが大きくなるほどTS1Hの値が大きくなる。なお、上記駆動輪ホイールシリンダへの作動圧Pは、たとえば駆動輪ホイールシリンダへの油圧回路に圧力センサを設けておくことで検出すればよい。
【0059】
一方、ブレーキ作動時でなければ、ステップS50よりステップS51,S52,S53の操作を飛ばしてステップS22に進む。このときは従来と同様である。
【0060】
ここで、本発明の第1実施形態の作用を説明する。
【0061】
この実施形態では、ブレーキ作動を伴うトラクション制御に移行したとき、トラクション制御におけるブレーキ作動力(駆動輪ホイールシリンダへの作動圧P)に対応して、トルクシフトを補償するための補正量TS1が増大側に修正され、ステップモータ61の目標制御量DSRSTPが大きくなることから、変速比がアップシフト側に戻される。つまり、トラクション制御におけるブレーキ作動により、入力トルクTinが見かけ上増大してダウンシフト側に変速比がずれようとする場合にも、ステップモータ61への目標制御量DSRSTPを不足なく与えることが可能となり、変速比のハンチングを防いで目標変速比へと落ち着けることができる。
【0062】
図11の波形図を参照してさらに説明すると、同図はトラクション制御における実際のブレーキ制御と正確に対応するものでなく、本発明の作用を明確にするための原理図である。
【0063】
同図において、変速比が徐々にHi側(小さくなる側)に移っている途中で駆動輪にスリップが生じ、これに合わせてt1からt2の間で、ブレーキ作動圧(駆動輪ホイールシリンダへの作動圧)が図示のように作用したとする。このブレーキ作動時にトロイダル型無段変速機10では、見かけ上変速機10への入力トルクTinが増大することになり、図9の特性によれば変速比が目標よりダウンシフト側にずれてしまう(図11破線参照)。
【0064】
これに対して本発明では、ブレーキ作動圧に対応して、トルクシフトを補償するための補正量TS1を増大側に修正する(ステップモータ61の目標制御量DSRSTPを大きくする)ことで、変速比をアップシフト側に戻すことができることから、トラクション制御におけるブレーキ作動に伴う変速比の変動を避けることができるのである。
【0065】
実施形態では修正量TS1Hにより補正量TS1を修正する場合で説明したが、ステップモータの基本制御量STPや目標制御量DSRSTPを修正してもかまわない。
【0066】
実施形態ではブレーキ作動圧を圧力センサにより検出する場合で説明したが、たとえば駆動輪ホイールシリンダへの増圧時間tinと減圧時間tdを用いて
【0067】
【数1】
【0068】
の式によりブレーキ作動圧を推定してもかまわない。ただし、Kin、Kdは定数である。
【0069】
実施形態では、トラクション制御がブレーキ作動を伴う場合について説明したが、運転者の意思に関係なくブレーキ制御を行うものには、ほかにABS(アンチロックブレーキシステム)やVDC(ビークルダイナミクスコントロール)があり、これらの場合におけるブレーキ作動時にも本発明を適用することができる。なお、VDCは滑りやすい路面での旋回や障害緊急回避時に発生する過度なオーバーステアやアンダーステア(横滑り)現象を、ブレーキやエンジン出力を自動的に制御することで軽減し、車両安定性や安全性を向上する、いわゆる横滑り防止装置である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速機を備える車両のブロック図。
【図2】トロイダル型無段変速機の概略断面図。
【図3】コントロールバルブと油圧アクチュエータの概略図。
【図4】変速制御を説明するためのフローチャート。
【図5】同じく変速制御を説明するためのフローチャート。
【図6】同じく変速制御を説明するためのフローチャート。
【図7】同じく変速制御を説明するためのフローチャート。
【図8】変速制御の概要を示すブロック図。
【図9】トルクシフトの概要を説明するための特性図。
【図10】所定の車速範囲で変速比を固定する場合の変速マップ。
【図11】第1実施形態の作用を説明するための波形図。
【図12】第1の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
2 変速制御コントローラ
3 エンジン制御コントローラ
6 入力軸回転センサ
7 出力軸回転センサ
8 クランク角センサ
9 変速比変更手段
10 トロイダル型無段変速機
61 ステップモータ
Claims (9)
- トルクシフトにより変速比が目標よりもずれる特性を有するトロイダル型無段変速機と、
このトロイダル型無段変速機の変速比を調整可能な手段と、
車両の運転状態に応じて目標変速比を演算する手段と、
この目標変速比に応じた前記変速比調整手段への基本制御量を演算する手段と、
エンジン出力トルクに基づいて前記無段変速機の入力トルクを推定する手段と、
この入力トルクと前記目標変速比から前記トルクシフトによる変速比のずれを補償するためのフィードバック補正量を演算する手段と、
このフィードバック補正量で前記基本制御量を補正した値を前記変速比調整手段への目標制御量として演算する手段と、
この目標制御量を前記変速比調整手段に与えることによって変速比を制御する手段と
を備えた車両用駆動力制御装置において、
運転者の意思に関係なく所定の運転条件で駆動輪のブレーキを制御する手段と、
このブレーキ制御におけるブレーキ作動時にブレーキ作動量に対応して前記フィードバック補正量、前記基本制御量、前記目標制御量の少なくとも一つを修正する手段と
を設けたことを特徴とする車両用駆動力制御装置。 - 前記フィードバック補正量を修正するに際しては、前記ブレーキ作動時にブレーキ作動量に対応した修正量を演算し、前記フィードバック補正量を演算する手段で演算されたフィードバック補正量にこのブレーキ作動量に対応した修正量を加算した値を改めてフィードバック補正量とすることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動力制御装置。
- エンジンのトルクアップ時に変速比がダウンシフト側にずれるのが前記変速機の特性であり、かつ前記目標制御量が大きくなるほど変速比がアップシフト側に移行する場合に、前記修正は前記フィードバック補正量、前記基本制御量、前記目標制御量のいずれか一つを大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動力制御装置。
- 前記ブレーキ作動量としてのブレーキ作動圧に対応して前記修正量を設定することを特徴とする請求項1または3に記載の車両用駆動力制御装置。
- 圧力センサにより前記ブレーキ作動圧を検出することを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動力制御装置。
- 駆動輪ホイールシリンダへの増圧時間と減圧時間から前記ブレーキ作動圧を推定することを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動力制御装置。
- 前記ブレーキ制御はトラクション制御であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の車両用駆動力制御装置。
- 前記ブレーキ制御はアンチロックブレーキ制御であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の車両用駆動力制御装置。
- 前記ブレーキ制御は横滑り防止制御であることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の車両用駆動力制御装置。
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