JP3571307B2 - コーヒー飲料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、風味、特に香りの優れたコーヒー飲料を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
コーヒーは、古くからその独特な香りを特徴とする世界中で愛されている嗜好性飲料である。コーヒーの特徴的な風味は、飲用時のアロマとフレーバーで特徴付けられるが、一般家庭や喫茶店等の調理場に漂う香りも、コーヒーの嗜好性を語る上で非常に重要である。この香りは、ドリップ法、サイフォン法、エスプレッソ法、ウォータードリップ法で抽出される抽出液そのものの香りに加え、挽き豆から発生する香りも関与しており、その焙煎豆の粉砕時や抽出時に大気中に放出される香気成分量は、コーヒーが有する全香気成分量の40〜50%にも達するとされている(R.J.Clark によるCOFFEE,Volume 2: Technology, P208, ELSEVIER APPLIED SCIENCE (1987)) 。
【0003】
一方、缶コーヒーや容器入りリキッドコーヒーは、焙煎豆を工業用のミルで粉砕した後、貯蔵用のサイロで適宜保存され、製造計画に基づき採取され、一般的にコーヒー豆1部に対して7〜16部の熱水を使用し、ペーパーフィルター、濾布、メッシュ(網)等を用いて濾過しつつドリップ抽出を行い、その抽出液を容器に詰めて提供するものである。工業的なコーヒー飲料の提供は、一般家庭や喫茶店等での提供と較べて、粉砕、抽出装置の規模が大きく、粉砕後の時間経過、抽出時間が長く、抽出時の温度が高温に維持されるため、抽出液の低沸点の香気成分が揮散し、あるいは酸化されて、得られるコーヒー飲料の味や香りが悪くなる傾向がある。さらに、コーヒーを抽出する調理場で挽き豆から発生する香りと抽出時に発生する香りは、工業的な粉砕とその後の保存、抽出工程でほとんど揮散し、再現することは非常に困難である。
【0004】
他方、近年、消費者のニーズは多様化し、市販のコーヒー飲料に対して手軽さのみならず、風味の多様性への要求も高まっているのが現状である。
【0005】
このような問題を解決し、工業的な装置において、コーヒーの香りの揮散と酸化を防ぎ、味と香りに優れたコーヒーを抽出する方法としては、コーヒー豆を低温の抽出温度で抽出し、次いで中温の抽出温度で抽出し、最後に高温の抽出温度で抽出を行う3段階抽出法が知られている(特開平10−313785号公報)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特開平10−313785号公報に記載の方法においても、挽き豆から発生する香り並びに抽出時に発生する香りは、粉砕、保存、抽出工程でかなり揮散するものと考えられる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、粉砕、抽出工程で揮散しやすい香りを保持しつつ、酸味、苦み、コクのバランスの制御が容易に行え、消費者のニーズの多様性に対応できるコーヒーを工業的に大量に生産することが可能な製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、焙煎したコーヒー豆に対して水ないし加熱水を加えて抽出し、コーヒー飲料を製造する方法であって、前記コーヒー豆を水と混合し、湿潤状態で粉砕したものを抽出器に充填し、低温の抽出温度にて抽出して第1の抽出液を製造する第1抽出工程、第1の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を中温の抽出温度にて抽出して第2の抽出液を製造する第2抽出工程、及び第2の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を高温の抽出温度にて抽出して第3の抽出液を製造する第3抽出工程を有することを特徴とする方法に関する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、焙煎したコーヒー豆に対して水ないし加熱水を加えて抽出し、コーヒー飲料を製造する方法であって、前記コーヒー豆を水と混合し、湿潤状態で粉砕したものをピストンフロー方式の抽出器に充填し、10〜30℃の抽出温度にて抽出して第1の抽出液を製造する第1抽出工程、第1の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を30〜65℃の抽出温度にて抽出して第2の抽出液を製造する第2抽出工程、及び第2の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を65℃〜100℃の抽出温度にて抽出して第3の抽出液を製造する第3抽出工程を有することを特徴とする方法に関する。
【0010】
粉砕時のコーヒー豆と水の混合比は、目的に応じて適宜設定することができるが、原料豆の乾燥重量1部に対し水1〜10部であることが好ましく、2〜5部であることがより好ましい。
【0011】
また、前記粉砕時のコーヒー豆と混合する水の温度は、低沸点の香気成分を閉じ込めることを主目的とする場合、香気成分のみならずコクを呈する成分をも引き出すことを目的とする場合等目的に応じて設定することができるが、5〜80℃であることが好ましく、5〜30℃であることがより好ましい。30℃以下では、通常粉砕時に揮散するコーヒー豆が有する香りを効率良く閉じ込め、30℃を越える温度では、コーヒー豆が有する香りから二次的な加熱により香ばしい香りを生み出すことも可能である。
【0012】
粉砕後の第1抽出工程は、低温の抽出温度で行うが、抽出温度が10〜30℃であることが好ましい。抽出温度を30℃以下にすることで、コーヒー豆が有する香りを変化させることなく溶出することが目的である。
【0013】
前記第2抽出工程は、中温の抽出温度で行うが、抽出温度が30〜65℃であることが好ましい。前記範囲内の温度は、酸味、苦み成分をバランスよく抽出し、過剰な溶出を制御するのに適した温度である。
【0014】
前記第3抽出工程は、高温の抽出温度で行うが、65℃〜100℃であることが好ましい。前記範囲内にすることで、濃厚感を与える成分を十分与えることができる。95℃以上で抽出するためには抽出器を加圧する必要が生じる。ただし、第3抽出工程は特に100℃以下に限定されるものではなく、加圧下に100℃以上、例えば130℃程度の抽出温度としてもよく、常圧のみで抽出を行う場合とは異なる独特の風味のコーヒー液を得ることもできる。
【0015】
前記抽出工程における水の使用量は、第1抽出工程では原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の水が好ましく、第2抽出工程では原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の加熱水が好ましく、及び第3抽出工程では原料豆の乾燥重量1部に対し2〜10部の加熱水が好ましい。
【0016】
加えて、前記抽出器は、汎用のものを使用することができるが、ピストンフロー方式の抽出器が好ましい。ピストンフローで抽出用水を供給することで、抽出液の温度並びに採液量を正確にコントロールすることが可能である。
【0017】
本発明に含まれる3段階の各工程において得られる第1〜第3の抽出液はそれぞれを独立したコーヒー液として利用に供することも、また任意の2工程の抽出液を任意の割合で混合してコーヒー液として利用に供することも可能である。
【0018】
本発明においては、前記第1抽出工程〜第3抽出工程にて得られた抽出液を全て混合する混合工程を設けることが好ましい。
【0019】
本発明においては、第1抽出工程〜第3抽出工程の各工程毎に独立した複数の抽出装置を設けて、各工程毎の抽出液を調製してもよいが、前記第1抽出工程〜第3抽出工程が同一の抽出装置において連続して行われることが好ましい。これにより、抽出装置を1つ設けるだけで済むため、製造コストの削減につながる。この場合は、各工程で得られた抽出液は、順次別々の容器に集められ、必要に応じて混合される。
【0020】
本発明における粉砕及び抽出は、コーヒーの香気成分が酸化を受けやすいものであることを考慮し、不活性気体中にて行うことが好ましく、工業的な抽出装置全体を不活性気体にてパージしてもよく、一旦装置全体を減圧して酸素を除去しその後不活性気体にて常圧にする方法によってもかまわない。
【0021】
[作用効果]
本発明のコーヒー飲料の製造方法によると、コーヒー豆の粉砕時に水を混合することで、一般家庭や喫茶店等でコーヒー豆からコーヒーを要時調製する際の挽き豆から発生する香りをペースト状又はスラリー状の粉砕豆に閉じ込め、次いで、抽出器に充填して低温の抽出温度で抽出液に溶出させることができる。さらに、中温での抽出温度、高温での抽出温度にて抽出することで味と香りのバランスと十分な濃厚感のある抽出液が完成する。
【0022】
また、本発明の製造方法における各抽出工程から得られた少なくとも3種の抽出液を混合工程において混合することにより、低沸点の香気成分が失われずにしかも短時間で抽出が完了し、味、香り並びにそのバランスの優れたコーヒー飲料を製造することができる。また、混合割合を適宜変更することにより、様々な嗜好に対応できるコーヒー飲料を提供することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のコーヒー飲料の製造方法について、詳細に説明する。
【0024】
コーヒー豆の種類は、特に制限されるものではなく、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等のものが挙げられる。複数の種類をブレンドした豆を用いてもよい。
【0025】
コーヒー豆の焙煎は、公知の方法及び装置で行えばよく、焙煎の程度は、目的とするコーヒー飲料に応じて適宜選択することができる。ただし、焙り豆本来の香りを十分抽出するためには、焙煎後の保存期間は短いほどよい。
【0026】
コーヒー豆の粉砕に使用される装置は、湿式粉砕が可能であれば特に制限されるものではないが、外気と接触せず、短時間で水中で粉砕できるタイプ等が好ましい。
【0027】
コーヒー豆の粉砕方法は、前記装置内にコーヒー豆と所定量の水を投入し、コーヒー豆の粉砕が絶えず水存在下で行われるように、装置に応じた方法で行えばよい。例えば、増幸産業(株)製の粉砕機(セレンディピターMKCA6−3)を用いた方法が実施例に記載されている。粉砕環境は、前記水の温度を一定に保つことができるように適宜冷却又は加温し、前記したように不活性気体中にて行うことが好ましい。
【0028】
このときのコーヒー豆の粉砕程度は、特に制限されるものではなく、以下の抽出工程に応じて適宜設定することができる。
【0029】
粉砕後のコーヒー豆は、コーヒーの抽出用に汎用されている抽出器に仕込む。この場合の抽出器は、前記したようにピストンフロー方式の抽出器が好ましい。抽出操作も、前記したように不活性気体中にて行うことが好ましい。
【0030】
本発明における第1抽出工程は、原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の水をピストンフローで送液し、10〜30℃の低温水で抽出することが好ましい。この場合、第1抽出工程での採液前に10〜30℃の水を抽出器内に加水し、10〜30℃の低温水で抽出する。30℃を越える水で粉砕した場合は、抽出器に仕込んだ後にコーヒー豆を抽出器毎冷却すればよい。抽出時間は、1〜10分間が好ましい。
【0031】
本発明における第2抽出工程は、原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の加熱水をピストンフローで送液し、30〜65℃の中温水で抽出することが好ましい。この場合、前記第1抽出工程の採液中に90〜100℃の水を加水し、混合により30〜65℃とすれば温度調節が容易である。抽出時間は、1〜10分間が好ましい。
【0032】
本発明における第3抽出工程は、原料豆の乾燥重量1部に対し2〜10部の加熱水をピストンフローで送液し、65〜100℃の高温水で抽出することが好ましい。この場合、前記第2抽出工程の採液中に90〜100℃の水を加水し、混合により65〜100℃とすれば温度調節が容易である。抽出時間は、10〜20分間が好ましい。
【0033】
前記3段階の各工程において得られる第1〜第3の抽出液は、それぞれを独立したコーヒー液として利用に供することも、任意の2工程の抽出液を任意の割合で混合してコーヒー液として利用に供することも、また、第1〜第3の抽出液を任意の割合で全て混合してコーヒー液として利用に供することもできる。
【0034】
このようにして製造されたコーヒー飲料は、コーヒー抽出液をそのままで、もしくは必要に応じてミルク成分、砂糖等を添加し、缶、PETボトル等の容器に充填し、加熱殺菌した後に市場に供給されるものである。あるいは、前記コーヒー液を常法により濃縮し、濃縮コーヒーとして市場に供給してもよい。この場合は、要時希釈してコーヒー飲料として提供される。
【0035】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0036】
[実施例1]
焙煎したコーヒー豆2.5kgとその2倍重量の10℃のイオン交換水を、一定容量で湿式粉砕可能な粉砕機(増幸産業(株)製、セレンディピターMKCA6−3)に送り込み、クリアランス2.5mm、ディスク回転数2000rpm、原料供給スピード3kg/分、水供給スピード3kg/分の条件で、コーヒー豆の粉砕が絶えず水存在下で行われた湿潤粉砕コーヒー豆を用意した。
【0037】
前記コーヒー豆を抽出器に仕込み、20℃の水をピストンフロー(層流)で送液し、10℃〜30℃の抽出液を5.0kg取り出し、第1の抽出液とした。
【0038】
次いで、第1の抽出中に98℃の水を送液し、抽出器内で温度が違う液層間で熱移行が考慮されて、30〜65℃の第2抽出液を5.0kg得た。
【0039】
さらに、第2抽出液を取り出している間にも連続して98℃の水を加水し、65〜90℃の第3抽出液を25.0kg得た。
【0040】
第1の抽出液、並びに同一条件下で抽出を行い、第1の抽出液、第2の抽出液及び第3の抽出液を合わせた濃度がコーヒー豆に対する収率22%になるように第3抽出液の採液量を調整した混合溶液それぞれを密封容器に収納した後、加熱殺菌を行い、冷却して評価試料(実施例品)とした。
【0041】
[比較例1]
焙煎したコーヒー豆2.5kgを通常の工業用ミル(日本グラニュレーター株)製、タイプGRN−202)に送り込み、粉砕コーヒー豆を用意し、実施例1と同様の方法にて抽出した第1抽出液及び混合溶液を比較試料(比較例品)とした。
【0042】
[評価試験]
(1) 官能評価
実施例及び比較例で得られた試料は、20℃で官能評価を行った。評価方法は、20人のパネラーによる香り、苦み、酸味及び濃厚感について評価した。評価結果は、◎:非常に良い、○:良好、△:普通、×:不良として表示した。
【0043】
(2) ガスクロマトグラフィー
また、前記試料の香気成分を、ガスクロマトグラフィーにより以下の条件で分析して、総ピーク面積を算出した。
【0044】
(a) 試料の採取
実施例及び比較例で得られた試料の10mlを22mlのバイアル瓶に採取し、密栓した。密栓したバイアル瓶を、Tekmar製ガスクロマトグラフィー用オートサンプラーにて80℃で20分間加温し、ガスクロマトグラフに導入し、分析を行った。
【0045】
(b) 測定条件
測定装置:日立製ガスクロマトグラフィーG−3000
カラム:ジーエルサイエンス(株)製 TC−WAX 0.53mm×30m
キャリヤーガス:ヘリウム
キャリヤーガス流量:1ml/分
カラム温度:40℃・5分→220℃(5℃/分にて昇温)
検出器:FID。
【0046】
1)評価結果−1
実施例品の第1抽出液と比較例品の第1抽出液について、官能評価とガスクロマトグラフィーの結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
表1より、湿潤粉砕コーヒー豆を使った第1抽出液(実施例品)は、通常の乾式粉砕コーヒー豆を使った第1抽出液(比較例品)に比べ、官能評価においてもガスクロマトグラフィーにおいても香りの質及び量に優れており、炒り豆本来の有する香りが十分に抽出され、保持されていることがわかる。また、実施例品が、揮発性の香りだけでなく濃厚感も良好であることは、飲用後の口内に広がる風味に寄与する成分も抽出されていることがわかる。
【0048】
2)評価結果−2
実施例品の混合溶液及び比較例品の混合溶液について、官能評価とガスクロマトグラフィーの結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
表2より、湿潤雰囲気下で粉砕したコーヒー豆を用いて、3段階の抽出工程により製造された混合溶液(実施例品)は、比較例品の混合溶液に比べ、コーヒーの香り成分を中心にコーヒー全体の風味に優れていることがわかる。本発明は、従来の抽出法に比べ、優れたコーヒーの抽出方法であることが分かる。
Claims (6)
- 焙煎したコーヒー豆に対して水ないし加熱水を加えて抽出し、コーヒー飲料を製造する方法であって、前記コーヒー豆を水と混合し、湿潤状態で粉砕したものをピストンフロー方式の抽出器に充填し、10〜30℃の抽出温度にて抽出して第1の抽出液を製造する第1抽出工程、第1の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を30〜65℃の抽出温度にて抽出して第2の抽出液を製造する第2抽出工程、及び第2の抽出液を得た後の前記コーヒー豆を65℃〜100℃の抽出温度にて抽出して第3の抽出液を製造する第3抽出工程を有するコーヒー飲料の製造方法。
- さらに前記第1〜第3の抽出液を混合してコーヒー抽出液とする混合工程を有する請求項1に記載のコーヒー飲料の製造方法。
- 前記粉砕時のコーヒー豆と水の混合比が原料豆の乾燥重量1部に対し水1〜10部である請求項1又は2に記載のコーヒー飲料の製造方法。
- 前記粉砕時のコーヒー豆と混合する水の温度が5〜80℃である請求項1〜3いずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法。
- 前記第1抽出工程は原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の水を使用し、前記第2抽出工程は原料豆の乾燥重量1部に対し2〜6部の加熱水を使用し、及び前記第3抽出工程は原料豆の乾燥重量1部に対し2〜10部の加熱水を使用する請求項1〜4いずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法。
- 前記第1抽出工程〜第3抽出工程が同一の抽出装置において連続して行われる請求項1〜5いずれかに記載のコーヒー飲料の製造方法。
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