JP3570376B2 - 耐原油タンク腐食性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、原油を輸送するタンクまたは貯蔵するタンクに用いて好適な原油タンク用鋼材に係り、とくに原油タンク内で生じる腐食を低減できる鋼材に関する。本発明では、原油を輸送するタンクまたは貯蔵するタンク内で生じる腐食に対する抵抗性を耐原油タンク腐食性と呼ぶ。なお、本発明でいう鋼材は、厚鋼板、薄鋼板、形鋼を含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
従来、原油を輸送または貯蔵するタンク(以下、原油タンクともいう)においては、原油そのものは腐食抑制作用があるため、使用される鋼材には腐食は生じないと考えられていた。
ところが、最近、原油タンク内で鋼材に激しい腐食が生じることが明らかになってきた。この原油タンクにおける腐食(以下、原油タンク腐食ともいう)は、タンク底等の、原油(液相)に接する部位(液相部という)ではお碗型の局部腐食であり、タンク天井等の、原油の気相に接する部位(気相部という)では、層状剥離性の錆を伴い、凹凸を伴った全面腐食であることに特徴がある。
【0003】
かかる原油タンク腐食の原因として、
▲1▼過剰な洗浄による原油タンク保護フィルム(原油による、タンク内の腐食を抑制する保護的なフィルム)の離脱、
▲2▼原油中の硫化物の高濃度化、
▲3▼防爆用に封入されるイナートガス(O2約5vol %、CO2 約13vol %、SO2 約0.01vol %、残部N2ガスを代表組成とするエンジンの排ガス)中の、O2、CO2 、SO2 の高濃度化、
▲4▼微生物の関与、
などの項目があげられている。しかし、いずれも推定の域を出ず、未だ明確な原因は判明していない。
【0004】
そのため、現状では、鋼材に防錆塗料を塗布して鋼材を腐食環境から遮断する方法以外に有効な方法がないと考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、防錆塗料の塗布はその塗布面積が膨大であり、また約10年に1度は塗り替えが必要であるため、多大な費用がかかるという問題があった。
一方、鋼材側からの対策は現在までのところ殆どなく、対策がとられていないに等しいが、例えば特開2000−17381号公報には、船舶外板、バラストタンク、カーゴオイルタンク、鉱炭船カーゴホールド等の使用環境で優れた耐食性を有する造船用耐食鋼が提案されている。特開2000−17381号公報に記載された造船用耐食鋼は、C:0.01〜0.25%と、Si、Mn、P、S、Alを適正量に調整したうえで含み、さらにCu:0.01〜2.00%、Mg:0.0002〜0.0150%を含有しており、このような組成の鋼とすることにより、鋼材の耐食性および耐局部腐食性が向上するとしている。しかしながら、特開2000−17381号公報に記載された鋼材でもなお、原油タンクにおける腐食に対する抵抗性が安定して十分に発揮できるとは考えがたく、更なる耐原油タンク腐食性の向上が要望されている。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、原油を輸送するタンクまたは原油を貯蔵するタンクの環境下でも優れた耐食性を有し、塗装なしで、原油タンクに用いて好適な、耐原油タンク腐食性に優れた鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、まず、原油の輸送または原油の貯蔵タンク内の腐食に関与する因子の抽出を行い、それら因子の組み合せによる実験室腐食試験を行った。その結果、実原油タンク内で生じるものと同じ形態の腐食の再現に成功し、原油タンク内で生じる原油タンク腐食の支配因子および腐食機構を明確にした。
【0008】
すなわち、実原油タンクの液相部で発生するお椀型の局部腐食を再現するため、実験室腐食試験を行ったところ、液中に含まれるO2およびH2S が特に原油タンク腐食の支配因子として働くことが明らかとなった。ただし、O2を含みかつH2S を含まない試験液(O2分圧約21%のガスを含んだ水溶液)、もしくはH2S のみを含んだ試験液(H2S 分圧 100%のガスを含んだ水溶液)中では発生せず、O2とH2S が共存し、かつ低O2分圧(O2分圧:2〜8%)、低H2S 分圧(H2S 分圧:5〜20%)の環境下で生じることがわかった。O2とH2S が共存し、試験液中の両者の含有量が高い場合は全面腐食が大きいものの局部腐食は発生しないが、低O2、低H2S 分圧の環境下では、まず鋼材表面に強固な腐食生成皮膜が形成され、この腐食生成皮膜がCl− 存在下で部分的に破壊されて、局部腐食が発生するのである。
【0009】
また、実原油タンクの気相部で発生する、層状剥離性の錆を伴い、凹凸を伴った全面腐食は、実原油タンクの気相部に封入されるイナートガス中のO2と原油中のH2S および結露した水とが関係して発生することがわかった。そして、実原油タンクの気相部で生じる腐食も、実原油タンクの液相部で生じる腐食と同様である、O2とH2S が共存し、かつ低O2分圧、低H2S 分圧の環境下で生じることが明らかになった。
【0010】
以上のことから、原油タンク内で優れた耐食性(耐原油タンク腐食性)を示す鋼材は、気相部では全面腐食を抑制する一方、液相部では、全面腐食を抑制し過ぎて局部腐食の原因となる強固な腐食生成皮膜を生じさせないため全面腐食を適度に促進させるという、相反する特性を具備する必要があることがわかる。
そこで、本発明者らは、低O2、低H2S 分圧の環境下での全面腐食および腐食生成皮膜形成に及ぼす各種合金元素の影響を調査した。その結果、Cu、Ni、Crの含有量を適正化することにより、鋼材に全面腐食に対する相反する特性を具備させることができ、耐原油タンク腐食性に優れた鋼材とすることができることを見いだした。そして、さらに鋼材の組織をベイナイト単相またはベイナイトを含む組織とすることにより、耐原油タンク腐食性をさらに向上させることができることも見いだした。
【0011】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加え完成されたものである。
すなわち、第1の本発明は、質量%で、C:0.001 〜0.20%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.50〜2.0 %、P:0.020 %以下、S:0.010 %以下、Al:0.01〜0.10%、Cu:0.5 〜1.5 %、Ni:0.5 〜3.0 %、Cr:0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐原油タンク腐食性に優れた鋼材であり、また、第1の本発明では、前記組成に加えて、組織をベイナイト単相またはベイナイトを含む組織とするのが好ましく、また、第1の本発明では、前記組成が、次(1)式
1.0≦0.3 Ni+2.0 Cr−0.5 Cu≦3.8 ………(1)
(ここに、Ni、Cr、Cu:各元素の含有量(質量%)
を満足することが好ましい。
【0012】
また、第1の本発明では、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.5 %以下、Ti:0.2 %以下、Nb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましく、また、本発明では、前記各組成に加えてさらに、質量%で、Zr:0.2 %以下、Ca:0.006 %以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することが好ましい。
【0013】
また、第2の本発明は、質量%で、C:0.001 〜0.20%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.50〜2.0 %、P:0.020 %以下、S:0.010 %以下、Al:0.01〜0.10%、Cu:0.5 〜1.5 %、Ni:0.5 〜3.0 %、Cr:0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)を含み、あるいはさらに前記(1)式を満足し、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材に、所定形状の鋼材とする熱間圧延を施したのち、0.1 〜20℃/secの冷却速度で冷却することを特徴とする、耐原油タンク腐食性にすぐれた鋼材の製造方法である。
【0014】
また、第2の本発明では、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.5 %以下、Ti:0.2 %以下、Nb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することが好ましく、また、本発明では、前記各組成に加えてさらに、質量%で、Zr:0.2 %以下、Ca:0.006 %以下のうちから選ばれた1種または2種を含有してもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、本発明鋼材の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は、単に%と記す。
C:0.001 〜0.20%
Cは、鋼材の強度を増加させる元素であり、本発明では所望の強度を得るために、0.001 %以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接熱影響部の靱性を劣化させる。このため、Cは0.001 〜0.20%の範囲に限定した。なお、強度、靱性の観点から好ましくは0.005 %〜0.15%、より好ましくは0.01〜0.1 %である。
【0016】
Si:0.1 〜0.4 %
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を増加させる元素であり、本発明では、0.1 %以上の含有を必要とするが、0.4 %を超える含有は、鋼の靱性を劣化させる。このため、Siは0.1 〜0.4 %の範囲に限定した。
Mn:0.50〜2.0 %
Mnは、鋼材の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために0.5 %以上の含有を必要とする。一方、2.0 %を超える含有は、鋼の靱性および溶接性を低下させる。このため、Mnは0.5 〜2.0 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.5 〜1.5 %であり、より好ましくは、0.8 〜1.2 %である。
【0017】
P:0.020 %以下
Pは、粒界に偏析して鋼の靱性を低下させる有害な元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.020 %を超えて含有すると靱性が顕著に劣化する。このため、Pは0.020 %以下に限定した。なお、0.005 %未満の低減は製造コストの増大を招くので、Pは0.005 〜0.020 %とするのが好ましい。
【0018】
S:0.010 %以下
Sは、非金属介在物のMnS を形成して原油タンクの環境下における耐食性(耐原油タンク腐食性)を低下させる有害な元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.010 %を超える含有は、耐食性(耐原油タンク腐食性)の顕著な低下を招く。このため、Sは0.010 %以下に限定した。なお、0.003 %未満の低減は製造コストの増大を招くので、Sは0.003 〜0.010 %とするのが好ましい。
【0019】
Al:0.01〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.10%を超えて含有すると、鋼の靱性が劣化する。このため、Alは0.01〜0.10%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.02〜0.05%である。
Cu:0.5 〜1.5 %
Cuは、全面腐食を促進する作用を有する元素であり、本発明では0.5 %以上の含有を必要とするが、1.5 %を超えて含有すると、全面腐食が強く促進され、Ni、Crによる腐食に対する保護作用を阻害し、全面腐食を増大させる。このため、Cuは0.5 〜1.5 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.8 〜1.2 %である。
【0020】
Ni:0.5 〜3.0 %
Niは、腐食に対する保護性を促進する作用を有する元素であり、本発明では0.5 %以上の含有を必要とするが、3.0 %を超えて含有すると、腐食生成皮膜が緻密化され腐食に対する保護性が強くなり過ぎて、局部腐食の発生を招く。このため、Niは0.5 〜3.0 %の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.8 〜1.5 %である。
【0021】
Cr:0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)
Crは、腐食生成皮膜の密着性を高めて、腐食に対する保護性を高める作用を有する元素であり、本発明では0.5 %以上の含有を必要とするが、2.0 %を超えて含有すると、腐食に対する保護性が強くなり過ぎ、局部腐食の発生を招く。このため、Crは0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)の範囲に限定した。
【0022】
1.0 ≦0.3 Ni+2.0 Cr−0.5 Cu≦3.8 ………(1)
Cu、Ni、Crは、それぞれの単独の作用に加えて、相互作用を有する。このため、本発明では、Cu、Ni、Crの含有量を前記(1)を満足するように調整するのが好ましい。(1)式中のA値=0.3 Ni+2.0 Cr−0.5 Cuが、1.0 未満では激しい全面腐食の発生を招き、一方、3.8 超では孔食の発生を招く。このため、A値を1.0 〜3.8 を満足するようにCu、Ni、Cr含有量を調整するのが好ましい。
【0023】
Mo:0.5 %以下、Ti:0.2 %以下、Nb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo、Ti、Nb、V、Bはいずれも、鋼材の強度を増加させる元素であり、必要に応じ選択して1種または2種以上含有することができる。しかし、Mo:0.5 %、Ti:0.2 %、Nb:0.2 %、V:0.2 %、B:0.005 %を、それぞれ超えて含有すると、靱性が劣化する。このため、Mo:0.5 %、Ti:0.2 %、Nb:0.2 %、V:0.2 %、B:0.005 %を、それぞれの上限とするのが好ましい。
【0024】
Zr:0.2 %以下、Ca:0.006 %以下のうちから選ばれた1種または2種
Zr、Caはいずれも、非金属介在物のMnS の形成を抑制する作用を有しており、必要に応じ選択して含有できる。しかし、Zr:0.2 %、Ca:0.006 %をそれぞれ超えて含有すると、靱性の低下を招く。このため、Zr:0.2 Ca:0.006 %を、それぞれ上限とするのが好ましい。
【0025】
本発明の鋼材では、上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、N:0.007 %以下、O:0.008 %以下が許容できる。
本発明の鋼材は、上記した組成を有し、さらに組織をベイナイト単相またはベイナイトを含んだ組織とすることにより、フェライト単相あるいはフェライト−パーライト複合相より耐原油タンク腐食性が顕著に向上する。
【0026】
つぎに、本発明鋼材の製造方法について説明する。
まず、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊法等の通常公知の鋳造方法で鋼素材とするのが好ましい。なお、溶鋼に、取鍋精錬、真空脱ガス等の処理を付加してもよいことはいうまでもない。
【0027】
ついで、得られた鋼素材を加熱炉に装入し加熱し、あるいは鋼素材の温度が熱間圧延可能な程度に高温である場合には加熱することなく、所望の寸法形状の鋼材に熱間圧延される。なお、結晶粒粗大化防止の観点から加熱温度は1050〜1250℃とするのが好ましい。
本発明における熱間圧延は、所望の寸法形状が得られる条件であればとくに限定されないが、圧延温度、圧下量、冷却条件を制御する、いわゆるTMCP(Thermo Mechanical Control Process )法を適用してもよいことはいうまでもない。
【0028】
なお、耐原油タンク腐食性向上の観点からは、組織をベイナイト組織とするのが好ましい。このため、熱間圧延の仕上げ圧延終了温度および熱間圧延終了後の冷却速度を適正範囲内とするのが好ましい。
熱間圧延の仕上げ圧延終了温度はAr3変態点以上とするのが好ましく、これにより熱間圧延中にフェライト相の析出を抑制することができる。
【0029】
また、熱間圧延終了後、0.1 〜20℃/sの範囲の冷却速度で800 ℃以下、好ましくは500 ℃以上の温度域まで、制御冷却するのが好ましい。これにより、ベイナイトを含んだ組織とすることができる。制御冷却速度が0.1 ℃/s未満では、冷却中にフェライトのみが析出し、ベイナイト組織が得られず耐原油タンク腐食性が低下する。一方、20℃/sを超える冷却速度では、有害なマルテンサイト相が出現し、耐原油タンク腐食性が低下する。
【0030】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法により鋼素材(スラブ)とした。これらスラブを、1200℃に加熱し、表1に示す仕上げ圧延終了温度の熱間圧延を施し、15mm厚の鋼板とした。熱間圧延終了後、表1に示す条件(冷却速度、冷却停止温度)で冷却した。
【0031】
【表1】
【0032】
これら鋼板から、試験片(5mm厚×50mm幅×100mm 長さ)を切り出し、図1に示す腐食試験装置にセットし、腐食試験を行った。腐食試験装置は、腐食試験槽2、恒温槽3の二重型の装置を用いた。
試験片1aは、実原油タンクにおける液相部で生じる腐食の模擬(すなわち液相試験)とし、腐食試験槽2の試験液6a内(液相部)へセットした。また、試験片1bは、実原油タンクにおける気相部で生じる腐食の模擬(すなわち気相試験)とし、腐食試験槽2の試験液6aに接する気相6b中(気相部)にセットした。使用した試験液6は、ASTM D 1141 に規定される人工海水を試験母液とし、試験母液に5%O2+10%H2S の分圧比に調整した混合ガス4を導入したものを使用した。混合ガスのバランス調整用不活性ガスはN2ガスを用いた。試験液6a の温度は、恒温槽3に入れた水7の温度を調整することにより、50℃に保持した。なお、試験期間は1ヶ月間とした。
【0033】
試験後、試験片表面に生成した錆を除去し、液相試験では腐食形態を目視で観察し、一方気相試験では試験片を秤量し、腐食量を求め、腐食速度に換算した。それらの結果を表2に示す。なお、気相試験の腐食速度は、比較例(鋼板No.1)の腐食速度を1としたときの比で示した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2から、本発明例はいずれも、液相試験では局部腐食の発生が認められず、また、気相試験では比較例(鋼板No.1)にくらべ腐食速度が小さく、耐食性(耐原油タンク腐食性)に優れていることがわかる。
一方、本発明の範囲を外れる比較例では、気相試験における腐食速度が比較例(鋼板No.1)の腐食速度よりやや小さい場合でも、液相試験では局部腐食の発生が見られる。また、(1)式の範囲を外れると液相試験では局部腐食が発生しない場合でも、気相試験では腐食速度が比較例(鋼板No.1)の腐食速度に近く、耐食性(耐原油タンク腐食性)の改善効果が認められるものの、(1)式を満たす場合に比べ、その効果は小さい。
【0036】
(実施例2)
表3に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法により鋼素材(スラブ)とした。これらスラブを、1200℃に加熱し、表3に示す仕上げ圧延終了温度の熱間圧延を施し、熱間圧延終了後、表3に示す条件(冷却速度、冷却停止温度)で冷却し、15mm厚の鋼板とした。
【0037】
【表3】
【0038】
これら鋼板から、試験片(5mm厚×50mm幅×100mm 長さ)を切り出し、実施例1と同様に、図1に示す腐食試験装置にセットし、腐食試験を行った。
得られた結果を表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
表4から、本発明例は、液相試験では局部腐食の発生が認められない。さらに、熱間圧延終了後の冷却速度を好適範囲内とすることにより、ベイナイトを含んだ組織となることがわかる。
【0041】
本発明の(1)式の範囲を外れる例(鋼板No.36 )では、局部腐食は発生しないものの気相試験での腐食速度が比較例(鋼板No.1)の腐食速度に近く、耐食性(耐原油タンク腐食性)の改善効果が小さい。
このように本発明鋼材は、原油の輸送タンクまたは原油の貯蔵タンク内の腐食環境下でも、優れた耐食性(耐原油タンク腐食性)を有する鋼材である。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、原油の輸送または原油の貯蔵タンク内の環境下で、優れた耐食性を有する鋼材を、安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で使用した腐食試験装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
1a、1b 試験片
2 腐食試験槽
3 恒温槽
4 混合ガス
5 ガス排出口
6a 試験液
6b 気相
7 水
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.001 〜0.20%、 Si:0.10〜0.40%、
Mn:0.50〜2.0 %、 P:0.020 %以下、
S:0.010 %以下、 Al:0.01〜0.10%、
Cu:0.5 〜1.5 %、 Ni:0.5 〜3.0 %、
Cr:0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする耐原油タンク腐食性に優れた鋼材。 - 組織がベイナイト単相またはベイナイトを含む組織であることを特徴とする請求項1に記載の鋼材。
- 前記組成が、下記(1)式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の鋼材。
記
1.0≦0.3 Ni+2.0 Cr−0.5 Cu≦3.8 ………(1)
ここに、Ni、Cr、Cu:各元素の含有量(質量%) - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.5 %以下、Ti:0.2 %以下、Nb:0.2 %以下、V:0.2 %以下、B:0.005 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鋼材。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Zr:0.2 %以下、Ca:0.006 %以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の鋼材。
- 質量%で、
C:0.001 〜0.20%、 Si:0.10〜0.40%、
Mn:0.50〜2.0 %、 P:0.020 %以下、
S:0.010 %以下、 Al:0.01〜0.10%、
Cu:0.5 〜1.5 %、 Ni:0.5 〜3.0 %、
Cr:0.5 〜2.0 %( 1.00 %以上を除く)
を含む組成を有する鋼素材に、所定形状の鋼材とする熱間圧延を施したのち、0.1 〜20℃/secの冷却速度で冷却することを特徴とする、耐原油タンク腐食性にすぐれた鋼材の製造方法。 - 前記組成が、下記(1)式を満足することを特徴とする請求項6に記載の鋼材の製造方法。
記
1.0≦0.3 Ni+2.0 Cr−0.5 Cu≦3.8 ………(1)
ここに、Ni、Cr、Cu:各元素の含有量(質量%)
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