JP4506029B2 - 防食性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、犠牲陽極を用いる流電陽極法によって鋼材の腐食を防止するにあたって、防食性に優れた厚鋼板,薄鋼板,形鋼,鋼管等の鋼材とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
海水中に鋼構造物を設置する場合は、その鋼構造物で使用される厚鋼板,薄鋼板,形鋼,鋼管等の鋼材の腐食を防止する必要がある。このような水中における鋼材の防食技術としては、従来から陰極防食技術等の種々の技術が知られている。
【0003】
陰極防食技術は、外部電源法と流電陽極法の2種類に分類される。これらのうちの外部電源法は、鋼材をマイナス極とし、その対極となる金属電極をプラス極として、直流電源から電流を流すことによって鋼材の腐食を防止するものである。したがって、直流電源として使用する発電機や電池の設備保全に要する労力と費用が増大する。
【0004】
一方、流電陽極法は、鋼材の対極として、水中で鋼材より卑な電位を持つ(すなわち鋼材より溶解しやすい)金属を貼り付けて、いわゆる犠牲電極として作用させる。つまり犠牲電極として作用する金属が水中で溶解することによって電流(以下、防食電流という)が発生して、鋼材の腐食を防止するものである。したがって直流電源を配置する必要はなく、比較的簡便な手段で鋼材の腐食を防止できるので、広く採用されている。なお犠牲電極としては、安価で入手しやすいAlやZnが使用されている。
【0005】
しかしながら流電陽極法における犠牲電極は水中で溶解することによって消耗し、10年程度で貼り替える必要がある。 そのため鋼構造物を数十年にわたって維持する間に、犠牲電極を数回貼り替えなければならない。
そこで、流電陽極法における犠牲電極の消耗を軽減する技術が種々提案されている。たとえば特開平9-176791号公報,特開平9-287083号公報,特開平10-306341 号公報には、鋼材の組成を規定して、防食電流を小さくする技術が開示されている。これらのうちの特開平9-176791号公報および特開平9-287083号公報に開示された技術は塗装を併用するので、これらの鋼材を用いた鋼構造物が水中に設置された後、塗装が剥離すると犠牲電極の消耗を抑制できないという問題があった。また特開平10-306341 号公報に開示された技術は鋼材の組成のみを規定するものであるため、犠牲電極の消耗を抑制する効果は十分ではなく、さらなる改善の余地があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記のような問題を解消し、海水中に設置される鋼構造物に使用される厚鋼板,薄鋼板,形鋼,鋼管等の鋼材の腐食を流電陽極法によって防止するにあたって、犠牲電極の消耗を抑制できる優れた防食性を有する鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、犠牲電極としてAlやZnを用いた流電陽極法における防食機構および鋼材特性について鋭意研究した。そして、海洋構造物の防食に流電陽極法を適用すると、鋼材の表面に白色の析出物が付着することを見出した。 この析出物を分析すると、CaCO3 とMg(OH)2 の混合物であった。 さらに、これらの析出物の生成過程を調査すると、海水中に含有されるCaやMgが、防食電流によって電気化学反応を起こして生成したものであることが分かった。
【0008】
次いで、CaCO3 とMg(OH)2 の防食作用について調査したところ、Mg(OH)2 は鋼材の表面に付着した後、水中で比較的溶解しやすいので、鋼材を保護する効果(すなわち鋼材の腐食を防止する効果)は小さかった。一方、CaCO3 は水中で安定しており、鋼材の表面に付着した後、鋼材を保護して腐食防止に効果があった。 つまり、流電陽極法を用いて鋼材の腐食を防止する際に防食効果を高めるためには、CaCO3 を効率良く析出させる必要がある。
【0009】
しかし流電陽極法ではCaCO3 とMg(OH)2 が同時に生成するので、Mg(OH)2 の生成を抑えて、CaCO3 のみを生成させることは困難である。そこで、防食電流の大きさとCaCO3 の生成量との関係を調査したところ、防食電流が大きいほど、CaCO3 およびMg(OH)2 の合計生成量が増加し、しかも合計生成量に対するCaCO3 生成量の比率が増大することが分かった。
【0010】
この特性を利用して、流電陽極法を用いて鋼材の腐食を防止する際の防食効果を向上できる。すなわち、流電陽極法による鋼材の防食を開始した後、CaCO3 およびMg(OH)2 からなる生成物が鋼材の表面に付着して、CaCO3 の保護効果が発揮される状態になるまで、大きな防食電流を発生させる。そしてCaCO3 生成量の比率が高い析出物が鋼材の表面に十分に付着して、CaCO3 の保護効果が発揮されるようになると、防食電流が小さくなる。
【0011】
つまり犠牲電極を用いる流電陽極法によって鋼材の腐食を防止するにあたって、防食開始後の初期の段階で大きな防食電流を発生させて、電気化学反応によって海水中のCaからCaCO3 を効率良く生成させると、CaCO3 が鋼材の表面に付着し、その後はCaCO3 の保護効果によって防食電流が小さくなる。その結果、犠牲電極の消耗を抑制できるのである。
【0012】
本発明は、Cを 0.001〜0.050 質量%,Siを0.10〜0.40質量%,Mnを0.50〜2.0 質量%,Pを 0.020質量%以下,Sを 0.010質量%以下,Alを0.01〜0.10質量%,Cuを 0.5〜1.5 質量%,Niを 0.5〜3.0 質量%,Crを 0.5〜2.0 質量%,Nbを 0.005〜0.20質量%,Bを0.0003〜0.0050質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイトの単相組織またはベイナイトを含む混合組織とを有する防食性に優れた鋼材である。
【0013】
前記した鋼材の発明においては、好適態様として、前記組成に加えて、Moを0.05〜0.50質量%,Vを 0.005〜0.20質量%およびTiを 0.005〜0.20質量%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
また本発明は、Cを 0.001〜0.050 質量%,Siを0.10〜0.40質量%,Mnを0.50〜2.0 質量%,Pを 0.020質量%以下,Sを 0.010質量%以下,Alを0.01〜0.10質量%,Cuを 0.5〜1.5 質量%,Niを 0.5〜3.0 質量%,Crを 0.5〜2.0 質量%,Nbを 0.005〜0.20質量%,Bを0.0003〜0.0050質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を熱間圧延した後、熱間圧延によって得られた鋼材を 0.1〜20℃/sec の範囲内を満足する冷却速度で冷却する防食性に優れた鋼材の製造方法である。
【0014】
前記した鋼材の製造方法の発明においては、好適態様として、前記鋼材が、Moを0.05〜0.50質量%,Vを 0.005〜0.20質量%およびTiを 0.005〜0.20質量%のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の鋼材の組成を限定した理由を説明する。
C: 0.001〜0.05質量%
Cは、鋼材の強度を確保するために必要な元素である。C含有量が 0.001質量%未満では、鋼構造物として使用するのに十分な強度が得られない。一方、0.05質量%を超えると、防食開始後の初期段階で防食電流が減少する。したがって、Cは 0.001〜0.05質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0016】
Si:0.10〜0.40質量%
Siは、脱酸作用を有するとともに鋼材の強度を向上させる元素である。Si含有量が0.10質量%未満では、鋼構造物として使用するのに十分な強度が得られない。一方、0.40質量%を超えると、鋼材の靭性が劣化する。したがって、Siは0.10〜0.40質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0017】
Mn:0.50〜2.0 質量%
Mnは、鋼材の強度を確保するために必要な元素である。Mn含有量が0.50質量%未満では、鋼構造物として使用するのに十分な強度が得られない。一方、 2.0質量%を超えると、鋼材の靭性が劣化するばかりでなく、溶接性が低下する。したがって、Mnは0.50〜2.0 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.5〜1.5 質量%であり、さらに好ましくは 0.8〜1.2 質量%である。
【0018】
P: 0.020質量%以下
Pは、粒界に偏析して鋼材の靭性を劣化させる元素であり、可能な限り低減する必要がある。 P含有量が 0.020質量%を超えると、鋼材の靭性が著しく劣化する。したがって、Pは 0.020質量%以下に限定した。
S: 0.010質量%以下
Sは、Mnと結合して非金属介在物のMnSを生成し、海水中での耐食性を低下する有害な元素であるから、可能な限り低減する必要がある。 S含有量が 0.010質量%を超えると、鋼材の耐食性が著しく低下する。したがって、Sは 0.010質量%以下に限定した。
【0019】
Al:0.01〜0.10質量%
Alは、脱酸剤として作用する元素である。Al含有量が0.01質量%未満では、十分な脱酸効果が得られない。一方、0.10質量%を超えると、鋼材の靭性が劣化する。したがって、Alは0.01〜0.10質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは0.02〜0.05質量%である。
【0020】
Cu: 0.5〜1.5 質量%
Cuは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する元素である。Cu含有量が 0.5質量%未満では、流電防食法の初期段階で十分な防食電流が得られない。一方、 1.5質量%を超えると、大きな防食電流を発生する効果が飽和する。したがって、Cuは 0.5〜1.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.8〜1.2 質量%である。
【0021】
Ni: 0.5〜3.0 質量%
Niは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する元素である。Ni含有量が 0.5質量%未満では、流電防食法の初期段階で十分な防食電流が得られない。一方、 3.0質量%を超えると、大きな防食電流を発生する効果が飽和する。したがって、Niは 0.5〜3.0 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.8〜2.0 質量%である。
【0022】
Cr: 0.5〜2.0 質量%
Crは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する元素である。Cr含有量が 0.5質量%未満では、流電防食法の初期段階で十分な防食電流が得られない。一方、 2.0質量%を超えると、大きな防食電流を発生する効果が飽和する。したがって、Crは 0.5〜2.0 質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.8〜1.5 質量%である。
【0023】
Nb: 0.005〜0.20質量%
Nbは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する元素である。Nb含有量が 0.005質量%未満では、流電防食法の初期段階で十分な防食電流が得られない。一方、0.20質量%を超えると、大きな防食電流を発生する効果が飽和する。したがって、Nbは 0.005〜0.20質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは0.01〜0.10質量%である。
【0024】
B:0.0003〜0.0050質量%
Bは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する元素である。B含有量が0.0003質量%未満では、流電防食法の初期段階で十分な防食電流が得られない。一方、0.0050質量%を超えると、大きな防食電流を発生する効果が飽和する。したがって、Bは0.0003〜0.0050質量%の範囲内を満足する必要がある。なお、好ましくは 0.001〜0.003 質量%である。
【0025】
Mo:0.05〜0.50質量%,V: 0.005〜0.20質量%,Ti: 0.005〜0.20質量%のうちの1種または2種以上
Mo,V,Tiは、いずれも鋼材の強度を向上させる元素であり、必要に応じて添加する。しかし添加量が不足すると、鋼構造物として使用するのに十分な強度が得られない。 一方、過剰に添加すると、鋼材の靭性が低下する。 したがって、これらの元素を添加する場合は、Mo:0.05〜0.50質量%,V: 0.005〜0.20質量%,Ti: 0.005〜0.20質量%の範囲内を満足するのが好ましい。
【0026】
次に、本発明の鋼材の組織について説明する。
ベイナイトは、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する作用を有する。したがって、本発明の鋼材の組織は、ベイナイトの単相組織またはベイナイトを含む混合組織とする。なお、ベイナイトの単相組織とは、鋼材全体がベイナイトからなる組織を指す。また、ベイナイトを含む混合組織とは、ベイナイトと他の相との混合組織を指す。
【0027】
本発明において、鋼材がベイナイトを含む混合組織(すなわちベイナイトと他の相との混合組織)を有する場合は、ベイナイトとパーライトとの混合組織であるのが好ましい。 その理由は、流電防食法による防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生する効果が、パーライト以外の相に比べて顕著に発揮されるからである。また、流電防食法による防食の初期段階で大きな防食電流を発生させるために、ベイナイトの面積率が、20%以上であるのが好ましい。 ベイナイトの面積率(%)は、 400倍の顕微鏡で観察される全視野面積に対するベイナイト組織面積の比として算出される値であり、面積率の上限値は 100%である。ベイナイトの面積率= 100%とは、ベイナイトの単相組織であることを意味する。なお、ベイナイトの面積率は、50%以上の範囲内を満足するのが、より一層好ましい。
【0028】
次に、本発明の鋼材の製造方法について説明する。
上記の組成を有する溶鋼を溶製し、さらに連続鋳造法や造塊法等の従来から知られている方法で溶鋼を凝固させて、鋼片を製造する。 本発明では、溶鋼を溶製する方法は、特定の技術に限定しない。上記の組成を有する溶鋼を溶製すれば良いのであるから、転炉,電気炉や真空脱ガス,取鍋精錬等の従来から知られている技術を単独で用いるか、あるいは種々組合せて溶鋼を溶製すれば良い。
【0029】
このようにして製造した鋼片に熱間圧延を施して、厚鋼板,薄鋼板,形鋼,鋼管等の鋼材を製造する。 熱間圧延に先立って、鋼片を加熱炉に装入して、熱間圧延が可能な温度に加熱する。本発明においては、加熱炉による鋼片の加熱温度は、特定の温度範囲に限定しない。ただし、鋼片の加熱温度が1050℃未満では、鋼片の変形抵抗が大きいので、熱間圧延の負荷が増大する。一方、1250℃を超えると、鋼片の結晶粒が粗大化して、機械的性質が劣化する。したがって、鋼片の加熱温度は1050〜1250℃の範囲内を満足するのが好ましい。
【0030】
なお、連続鋳造法や造塊法等によって溶鋼を凝固した後、熱間圧延設備に送給された鋼片の温度が上記したような熱間圧延の可能な温度であれば、鋼片を加熱炉に装入せず、熱間圧延を施しても良い。
また本発明においては、熱間圧延の仕上げ温度や圧下量は特定の設定範囲に限定しない。ただし、熱間圧延の仕上げ温度がAr3 変態点未満では、フェライトが容易に析出する。したがって、フェライトの析出を抑制するために、熱間圧延の仕上げ温度はAr3 変態点以上とするのが好ましい。
【0031】
熱間圧延が終了した後、鋼材を冷却する際の冷却速度が 0.1℃/sec 未満では、冷却中にフェライトのみが析出し、ベイナイトの単相組織またはベイナイトを含む混合組織が得られない。 一方、20℃/sec を超えると、防食電流を阻害するマルテンサイトが生成する。流電防食法によって鋼材の防食を開始した後の初期段階で、大きな防食電流を発生するためには、熱間圧延終了後の冷却速度が 0.1〜20℃/sec の範囲内を満足する必要がある。
【0032】
このように熱間圧延が終了した後、冷却速度を好適範囲に制御して冷却(以下、制御冷却という)する。制御冷却は、熱間圧延の終了後に開始する。そして制御冷却を停止する温度が 800℃を超えると、ベイナイト組織が全く得られない。一方、 500℃未満では、有害なマルテイサイト組織が発生する。したがって、制御冷却を停止する温度は 500〜800 ℃の範囲内を満足するのが好ましい。
【0033】
以上に説明したように、熱間圧延の条件(たとえば仕上げ温度)や熱間圧延後の冷却条件(たとえば冷却速度,制御冷却の停止温度)を好適範囲に制御して本発明の陰極防食特性に優れた鋼材を製造するにあたって、TMCP(Thermo Mechanical Control Process )と呼ばれる制御圧延と制御冷却を組合せた技術を用いるのが好ましい。
【0034】
【実施例】
転炉を用いて表1および表2に示す組成を有する溶鋼を溶製し、連続鋳造によってスラブを製造した。そのスラブを加熱炉に装入して1200℃に加熱した後、熱間圧延を行ない、厚鋼板(厚さ15mm,幅2000mm)を製造した。 熱間圧延の仕上げ温度は1000℃とした。熱間圧延が終了した後、冷却速度と制御冷却停止温度を表1および表2に示すように種々に組合せて冷却した。
【0035】
表1中の鋼材番号1〜9は、鋼材の組成が本発明の範囲を満足する例であり、同一の組成の鋼材をそれぞれ4種類の冷却条件(すなわち冷却速度と制御冷却停止温度との組合せ)で冷却した。各鋼材番号の冷却条件1〜3は冷却速度が本発明の範囲を満足する例であり、冷却条件4は冷却速度が本発明の範囲を外れる例である。
【0036】
また鋼材番号10〜16は、鋼材の組成が本発明の範囲を外れる例である。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
このようにして得られた鋼材(すなわち厚鋼板)から試験片(厚さ5mm,幅50mm,長さ100mm )を切り出して、ベイナイトの面積率(%)を測定した。
さらに試験片とアルミ板(厚さ5mm,幅50mm,長さ100mm )をリード線で電気的に短絡させて、ASTM規格D1141 に規定される25℃の人工海水中に半年間浸漬した。浸漬を開始した24時間後と半年後、無抵抗電流計を用いて防食電流を測定した。さらに人工海水中に半年間浸漬した試験片を目視で観察し、表面の白色析出物の付着状況を調査した。
【0040】
白色析出物の付着状況は、試験片の表面にCaCO3 比率の高い厚くて硬い析出物が付着したものと、試験片の表面にCaCO3 比率の低い薄くて柔らかい析出物が付着したものとに分類して評価した。 その結果を表3および表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
鋼材番号1〜9の冷却条件1〜3は、いずれもベイナイトの面積率が20%以上(すなわち20〜100 %)であり、試験片を人工海水中に浸漬した初期の段階(すなわち浸漬を開始した24時間後)で大きな防食電流が発生した。 その結果、試験片の表面に厚くて硬い白色析出物が付着して、犠牲陽極の消耗が抑制できた。
鋼材番号1〜9の冷却条件4は、いずれも鋼材の組成は本発明の範囲を満足するものの、熱間圧延の後の冷却速度が本発明の範囲を外れるので、試験片を人工海水中に浸漬した初期の段階で大きな防食電流が発生しなかった。 この条件では、ベイナイトの面積率が0%となり(すなわちベイナイトは生成せず)、試験片の表面に薄くて柔らかい白色析出物が付着したので、犠牲陽極の消耗を抑制できなかった。
【0044】
また鋼材番号10〜16は、鋼材の組成が本発明の範囲を外れるので、熱間圧延した後の冷却速度が本発明の範囲を満足するにも関わらず、試験片を人工海水中に浸漬した初期の段階で大きな防食電流が発生しなかった。 その結果、試験片の表面に薄くて柔らかい白色析出物が付着したので、犠牲陽極の消耗を抑制できなかった。
【0045】
つまり、本発明の組成を有する鋼材を熱間圧延した後、 0.1〜20℃/sec の冷却速度で冷却すると、ベイナイトの単相組織またはベイナイトを有する混合組織が得られるので、流電陽極法による犠牲電極の消耗を抑制できることが確かめられた。
【0046】
【発明の効果】
本発明では、流電陽極法を用いて鋼材の腐食を防止するにあたって、防食開始後の初期段階で大きな防食電流を発生させて鋼材表面に保護相を析出することによって、犠牲陽極の消耗を抑制できる。
Claims (4)
- Cを 0.001〜0.050 質量%、Siを0.10〜0.40質量%、Mnを0.50〜2.0 質量%、Pを 0.020質量%以下、Sを 0.010質量%以下、Alを0.01〜0.10質量%、Cuを 0.5〜1.5 質量%、Niを 0.5〜3.0 質量%、Crを 0.5〜2.0 質量%、Nbを 0.005〜0.20質量%、Bを0.0003〜0.0050質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイトの単相組織またはベイナイトを含む混合組織とを有することを特徴とする防食性に優れた鋼材。
- 前記組成に加えて、Moを0.05〜0.50質量%、Vを 0.005〜0.20質量%およびTiを 0.005〜0.20質量%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の防食性に優れた鋼材。
- Cを 0.001〜0.050 質量%、Siを0.10〜0.40質量%、Mnを0.50〜2.0 質量%、Pを 0.020質量%以下、Sを 0.010質量%以下、Alを0.01〜0.10質量%、Cuを 0.5〜1.5 質量%、Niを 0.5〜3.0 質量%、Crを 0.5〜2.0 質量%、Nbを 0.005〜0.20質量%、Bを0.0003〜0.0050質量%含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を熱間圧延した後、前記熱間圧延によって得られた鋼材を 0.1〜20℃/sec の範囲内を満足する冷却速度で冷却することを特徴とする防食性に優れた鋼材の製造方法。
- 前記鋼材が、Moを0.05〜0.50質量%、Vを 0.005〜0.20質量%およびTiを 0.005〜0.20質量%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の防食性に優れた鋼材の製造方法。
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