JP3567154B2 - 試料採取器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料中に含まれる有機成分をガスクロマトグラフィーにより分析するために試料採取する試料採取器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
液体または気体等の試料中に含まれる有機成分を分析する方法として、ガスクロマトグラフィーによる方法が知られている。
【0003】
例えば、赤ワインは、水とエタノールとを主成分として含む以外に、味覚に関わる有機成分を含んでいる。前記有機成分は、葡萄に由来する脂肪酸、そのエステル等、数十種類の有機化合物の混合物であり、ガスクロマトグラフィーはこのような混合物を気化させて、分離、分析する手段に適している。
【0004】
ところで、前記有機成分が微量である場合、ガスクロマトグラフィー等により分析するときには、前処理として、該有機成分を濃縮する必要がある。
【0005】
前記有機成分の濃縮は、古典的には溶媒抽出法により行うことができる。前記溶媒抽出法は、前記赤ワイン等の液体試料に、ヘキサン等の揮発性有機溶媒を添加して撹拌することにより、該液体試料中の有機成分を該揮発性有機溶媒中に移行させるものである。前記操作によれば、前記液体試料は、水相と、前記揮発性有機溶媒を含む有機相とに別れるので、該有機相を分離した後、該揮発性有機溶媒を蒸発させることにより、前記有機成分を濃縮することができる。
【0006】
しかし、前記溶媒抽出法は、操作に熟練を要するため、分析者による誤差が生じやすいとの問題がある。また、前記溶媒抽出法は、自動化が難しい。
【0007】
そこで、前記有機成分の濃縮を容易に行うことができ、自動化が可能な試料採取器が種々提案されている。
【0008】
例えば、特開平8−94597号公報には、シリンジの先端に取着された細径の中空ニードルの内表面に有機成分を吸着する固定相をコーティングした試料採取器が開示されている。前記公報記載の試料採取器は、ニードルを液体試料中に差し込んでプランジャーを操作し、該液体試料を吸引することにより、前記固定相に該液体試料中の有機成分を吸着させるものである。
【0009】
前記試料採取器によれば、簡単な操作で定量的な試料採取を行うことができる。しかし、前記固定相は、前記ニードルの内表面にコーティングされたものであり、吸着される有機成分の量が限定されるので、ガスクロマトグラフィーに十分な量の有機成分を採取することができないことがある。
【0010】
一方、特開2000−298121公報には、磁気攪拌機(マグネットスターラー)の撹拌子(スターラーバー)に有機成分を吸着する固定相をコーティングした試料採取器が開示されている。前記スターラーバーは、例えば、棒状の磁石の表面にガラスがコーティングされたものであり、前記公報記載の試料採取器は該スターラーバーのガラス層上にさらに前記固定相をコーティングしたものである。
【0011】
前記試料採取器は、前記マグネットスターラー上に載置された容器に液体試料を入れ、前記スターラーバーにより該液体試料を撹拌しながら、前記固定相に該液体試料中の有機成分を吸着させる。従って、前記試料採取器によれば、簡単な操作で定量的な試料採取を行うことができる上、ガスクロマトグラフィーに十分な量の有機成分を採取することも可能である。
【0012】
前記試料採取器は、前記液体試料中の有機成分を吸着して採取した後、ガスクロマトグラフ装置に付属する加熱炉中で200〜300℃の高温に加熱されることにより該有機成分が熱脱着される。そして、前記有機成分をガスクロマトグラフ装置に導入することにより、該有機成分を分析することができる。
【0013】
しかしながら、特開2000−298121公報記載の試料採取器は、前記磁石に前記ガラス層がコーティングされているために高価であり、しかも前記有機成分の熱脱着のために室温から高温に急熱されると、膨張係数の小さな該ガラス層が該磁石の加熱膨張に追随できず、破壊されやすいとの不都合がある。
【0014】
前記ガラス層の破壊を避けるためには、前記熱脱着の際に、50℃程度の比較的低い温度から200〜300℃の熱脱着温度まで、毎分10℃程度の速度で昇温しなければならないが、このようにすると熱脱着に長時間を要する上、分析精度、再現性が低くなる。また、一度の分析を行った後、次の分析を行うためには、加熱炉の温度を50℃程度まで下げる冷却操作を行わねばならないとの問題もある。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる不都合を解消して、簡単な操作でガスクロマトグラフィーに十分な量の試料を定量的に採取することができ、しかも安価で試料の熱脱着が容易な試料採取器を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明の試料採取器は、試料中に配置し、該試料に含まれる有機成分を固相吸着することにより濃縮して採取した後、該有機成分を熱脱着せしめてガスクロマトグラフィーにより分析する試料採取器において、表面が不活性化された金属管と、該金属管の外周面を被覆し該有機成分を吸着する試料吸着被覆層とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の試料採取器は、表面が不活性化された金属管の外周面に微量有機成分を吸着する試料吸着層が設けられているので、液体または気体の試料中に配置することにより、該試料吸着層に該試料中の有機成分を吸着させることができる。従って、本発明の試料採取器によれば、簡単な操作で定量的な試料採取を行うことができる上、前記試料吸着層によりガスクロマトグラフィーに十分な量の有機成分を採取することができる。
【0018】
また、本発明の試料採取器は、磁石の表面をガラスでコーテイングする必要がなく、表面が不活性化された金属管の外周面に単に前記試料吸着層が設けられているだけであるので、安価であり、ガスクロマトグラフ装置の加熱炉で急熱しても破壊されることがない。従って、本発明の試料採取器によれば、前記有機成分の熱脱着を容易に行うことができ、前記加熱炉を冷却することなく連続して複数の試料の分析を行うことができる。
【0019】
しかも、本発明の試料採取器では、前記熱脱着の際には、前記金属管の中空部に加熱された気体が流入するので、前記試料吸着層は伝熱効果に優れている該金属管により内面側から加熱されることになり、加熱が促進されて前記熱脱着が急速に行われる。この結果、前記微量有機成分の分析において、優れた再現性を得ることができる。
【0020】
前記試料吸着層は、有機シリコン系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリウレタン等のポリマー、二酸化珪素等の無機質被覆材からなる群から選択される少なくとも1種の材料により形成することができる。前記有機シリコン系ポリマーとしては、メチル基、フェニル基等を分子構造中に有するポリメチルシリコン、ポリフェニルシリコン、シリコーンオイル等を挙げることができる。また、前記試料吸着層を形成する材料は、対象となる前記微量有機成分に応じて適宜選択することができ、前記群から選択される材料を1種だけ用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の試料採取器の構成を示す斜視図、図2は本実施形態の試料採取器により採取された試料の分析例を示すクロマトグラムである。
【0022】
図1示のように、本実施形態の試料採取器1は、表面が不活性化された金属管2と、金属管2の外周面を被覆する試料吸着層3とからなる。金属管2は、表面に珪素膜を形成することにより不活性化されており、さらに該珪素膜の最表面を二酸化珪素(SiO)膜としている。また、試料吸着層3はポリメチルシリコン等の有機シリコン系ポリマーにより形成され、金属管2の表面に形成されている前記二酸化珪素膜と化学的に結合せしめられている。図示しないが、試料吸着層3は金属管2の両端面にも形成されている。
【0023】
また、試料吸着層3は金属管2の外周面を前記有機シリコン系ポリマー製のチューブで被覆することにより形成されていてもよい。試料吸着層3は、採取しようとする試料の成分に応じて、さらに、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリウレタン等の各種ポリマー、二酸化珪素等の無機質被覆材等の材料の1種または2種以上を組み合わせて形成されていてもよい。
【0024】
試料採取器1は、有機成分を含む液体試料中に浸漬され、該液体試料中で所定時間撹拌されることにより、前記有機成分が試料吸着層3に吸着される。前記有機成分を吸着した試料採取器1は、次いで、ガスクロマトグラフ装置に付属する加熱炉中で加熱されることにより、前記有機成分が熱脱着される。試料採取器1から熱脱着された前記有機成分は、ガスクロマトグラフ装置に導入され、分析が行われる。
【0025】
次に、実施例を示す。
【0026】
本実施例では、長さ10mm、内径0.8mm、外径1.2mmのチタン管の表面を二酸化珪素膜で不活性化した金属管2の外周面と両端面とにポリメチルシリコンからなる試料吸着層3を形成して試料採取器1とした。試料吸着層3は前記外周面では1mm、両端面では0.5mmの厚さを備え、前記二酸化珪素層と化学的に結合している。
【0027】
次に、赤ワイン10ミリリットルを収容した小型容器をマグネットスターラー上に載置し、該小型容器に本実施例の試料採取器1とスターラーバーとを投入して、15分間撹拌し、試料採取器1を十分に赤ワインに接触させ、赤ワイン中の微量有機成分を試料吸着層3に吸着させた。前記撹拌後、試料採取器1を取り出し、蒸留水で水洗した。
【0028】
次に、試料採取器1を水切りした後、ガスクロマトグラフ装置に接続されたパイロライザー(フロンティア・ラボ株式会社製)に収容した。前記パイロライザーは予め100℃に設定されており、試料採取器1の収容後、温度を250℃まで急激に上昇させる。この結果、試料吸着層3に吸着された前記微量有機成分が熱脱着され、瞬時に前記ガスクロマトグラフ装置に導入される。
【0029】
前記ガスクロマトグラフ装置は、長さ30m、内径0.25mmの金属キャピラリーカラムと、該金属キャピラリーカラムを収容する恒温槽と、該金属キャピラリーカラムの後端部に接続された検出器としての質量分析計とを備えている。前記金属キャピラリーカラムは、内面に化学結合された膜厚0.25mmのポリエチレングリコール被膜が形成されている。前記ガスクロマトグラフ装置では、前記金属キャピラリーカラムの先端部が液体窒素に浸漬されて冷却されており、前記熱脱着された前記微量有機成分はこの部分に導入されてトラップされる。
【0030】
本実施例では、前記熱脱着させた微量有機成分を、前記金属キャピラリーカラムの先端部にトラップさせた後、前記液体窒素による冷却を停止し、該金属キャピラリーカラムに毎分1ミリリットルのキャリヤガスを流通させながら、該金属キャピラリーカラムが収容されている恒温槽の温度を40℃から250℃まで毎分10℃の速度で昇温させた。そして、前記操作により分離された前記微量有機成分の各成分を、前記金属キャピラリーカラムの後端部に接続された質量分析計により検出した。
【0031】
得られたクロマトグラムを図2に、図2のクロマトグラムの各ピークに対応する化合物名を表1に示す。
【0032】
【表1】
Figure 0003567154
【0033】
図2と表1とから、本実施例の試料採取器1によれば、赤ワイン等の液体試料中の微量有機成分をガスクロマトグラフィーに十分な量で採取することができ、該微量有機成分をガスクロマトグラフ装置で分析することにより、各成分を分離することができることが明らかである。
【0034】
通常、赤ワインを直接、前記クロマトグラフ装置に導入して分析すると、主成分である水とエタノールとが検出されるだけであり、表1のエタノール以外の微量有機成分はほとんど検出されない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の試料採取器の構成を示す斜視図。
【図2】図1示の試料採取器により採取された試料の分析例を示すクロマトグラム。
【符号の説明】
1…試料採取器、 2…金属片、 3…試料吸収層。

Claims (2)

  1. 試料中に配置し、該試料に含まれる有機成分を固相吸着することにより濃縮して採取した後、該有機成分を熱脱着せしめてガスクロマトグラフィーにより分析する試料採取器において、表面が不活性化された金属管と、該金属管の外周面を被覆し該有機成分を吸着する試料吸着層とを備えることを特徴とする試料採取器。
  2. 前記試料吸着層は、有機シリコン系ポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリウレタン、二酸化珪素からなる群から選択される少なくとも1種の材料からなることを特徴とする請求項1記載の試料採取器。
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