JP3564165B2 - 窒化珪素反応焼結体の製造方法 - Google Patents

窒化珪素反応焼結体の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は窒化珪素反応焼結体の製造方法に関し、低圧射出成形により作製した成形体を反応焼結することで、良好な強度と寸法精度を有する窒化珪素反応焼結体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
窒化珪素系セラミック焼結体は、高強度、高耐熱性、高耐熱衝撃性、高耐摩耗性、耐酸化性などの点から、ガスタービン部材等、高温での使用条件が苛酷な構造用セラミックスとしての利用が期待されている。
【0003】
窒化珪素系セラミック焼結体は通常窒化珪素粉末及び焼結助剤を用いて所望の形状の成形体を作製し、これを焼結することにより製造されている。一般に、窒化珪素系セラミック焼結体は、成形体より幾分小さな外形に収縮しているが、収縮率は必ずしも均一でないので、そのままでは十分な寸法精度を有しない。そこで、十分な寸法精度を得るために焼結体の表面を加工しなければならない。
【0004】
ところが、このような焼結体の加工はコストがかかるとともに、複雑形状の焼結体には適用できないという問題がある。このような問題のない窒化珪素系セラミック焼結体の製造方法として、珪素粉末に焼結助剤を配合した粉末原料を用いて成形体を作製し、この成形体を窒化(成形体中の珪素を窒化)することにより焼結体とするいわゆる反応焼結法が知られている。この方法によれば、焼結時にみられる収縮を低く抑えることができ、比較的寸法精度の良い焼結体を得ることができる。また、原料コストが低いので、各種エンジニアリングセラミック部材を安価に製造することができるという利点がある。
【0005】
このような反応焼結体用の成形体は、射出成形により製造することもできる。この場合、珪素粉末+焼結助剤の混合物に熱可塑性樹脂またはワックス等のバインダー、及び分散性及び加熱流動性を向上させるための界面活性剤等を混合し、分散する。成形欠陥を少なくするためにはバインダーの選択は重要である。
【0006】
例えば、特開平1−261265号は、複雑な形状の成形体を射出成形する場合にカルボキシル基重合体を組成物100g当り4 ミリ当量以上含ませたバインダーが有用であると記載している。しかし、カルボキシル基重合体を含むバインダーを使用しても、成形固化時での体積変化は大きく、その結果、成形体内に密度むらが生じ脱脂割れ又は焼結割れが発生しやすいことが分った。また、上記射出成形用材料は、射出圧が100 〜2000kg/cmの通常の高圧射出成形では有用であるが、粘度が高いために射出圧が2 〜10kg/cmの低圧成形には適さない。
【0007】
したがって本発明の目的は、低圧射出成形で成形体を作製し、その成形体の反応焼結を行う方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
以上の目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者等は、射出成形法により作製した成形体から得られる焼結体の品質を悪化させる要因の主たるものは、▲1▼射出材料の粘性が高いために発生するウエルド、▲2▼成形直後のバインダーの急激な硬化によるウエルド、▲3▼射出成形後の固化時の大きな体積変化であることに注目した。そこで、本発明者等は、▲1▼を防止するには、粘性が高いと流動性が悪化してウエルドが発生するから、低粘度のバインダを選択することが有効であり、▲2▼を防止するには、徐々に硬化するバインダーを使用するのが有効であり、▲3▼を防止するには、体積変化の小さなバインダーを使用するのが有効であることを発見した。かかる知見から、各種のワックス素材を試したところ、マレイン化ワックスが良いことを発見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の窒化珪素反応焼結体の製造方法は、(a) 実質的に異なる粒径分布領域を有する2種類以上の珪素粉末を混合してなる平均粒径が5〜300μmの混合珪素粉末であって、平均粒径が20〜50μmの第一の珪素粉末と、平均粒径が2〜5μmの第二の珪素粉末と、必要に応じそれよりも小さい平均粒径の珪素粉末とを混合した混合珪素粉末Si 3 N 4 粉末と、焼結助剤粉末とワックス系バインダーとを前記バインダーが 50 20 vol %となるように混合し、(b) 射出圧2〜 10 kg cm 2 射出成形により成形体を作製し、(c) 前記成形体を脱脂し、(d) 脱脂した成形体を窒素含有雰囲気下で加熱して窒化し、さらに(e) 1700℃以上で焼結することを特徴とする。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔1〕材料
(a) 珪素粉末
粒径分布領域が実質的に異なる2種以上の珪素粉末を混合して用いる。たとえば、図1(a) 及び(b) に示すような粒径分布を有する珪素粉末を用いる。図1(a) においては、大きな粒径を有する分布1と、小さな粒径を有する分布2とからなり、分布1と分布2のカーブの裾は実質的に重ならないのが好ましい。分布1と分布2とが大きく重なり合うと(図中のVの領域に粒子が多量に存在すると)、グリーン密度が低下する。好ましい一実施例では、分布1の粒径は10〜80μmの範囲内で、平均粒径は20〜50μmであり、分布2の粒径は1〜20μmの範囲内で、平均粒径は2〜5μmである。
【0011】
このような2つの分布領域を有する珪素粉末を用いる場合、粒径が大きい分布1の珪素粉末と粒径が小さい分布2の珪素粉末との重量比は5:5〜9:1が好ましく、より好ましくは7:3〜8:2とする。好ましい一実施例では7:3程度である。
【0012】
また、図1(b) においては、3つの分布1、2、3を有する。この場合でも、各分布は実質的に重ならないのが好ましい。好ましい一実施例では、分布1の粒径は20〜80μmの範囲内で、平均粒径は30〜50μmであり、分布2の粒径は5〜20μmの範囲内で、平均粒径は10〜15μmであり、分布3の粒径は0.5〜5μmの範囲内で、平均粒径は1〜2μmである。粉末の混合比率は全体を100%として、分布1の珪素粉末を60〜80%、分布2の珪素粉末を10〜30%、分布3の珪素粉末を5〜20%とするのが好ましい。より好ましくは、分布1の珪素粉末を65〜75%、分布2の珪素粉末を15〜25%、分布3の珪素粉末を5〜15%とする。
【0013】
上記珪素粉末混合物の平均粒径は5〜300μmである必要がある。平均粒径が5μm未満となると成形体の密度が低下して焼結による収縮率が大きくなり、良好な寸法精度が得られない。また、得られる焼結体の強度及び靭性も低下する。一方、平均粒径が300μmを越す珪素粉末を用いると、窒化に時間を要するとともに、成形性も低下する。好ましくは、珪素粉末の平均粒径を5〜50μmとする。
【0014】
また、珪素粉末混合物の最大粒径は50〜600μmの範囲にあるのが好ましい。最大粒径が50μm未満の珪素粉末を用いると成形体の密度が低下しやすく、焼結による収縮が大きくなりやすい。一方、最大粒径が600μmを超すような珪素粉末を用いると、窒化しにくく、かつ成形性も劣るので好ましくない。珪素粉末の最大粒径のより好ましい範囲は50〜100μmである。
【0015】
また、珪素粉末混合物の成形性を良くするために、0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.5μmの平均粒径を有するα−Si粉末を添加してもよい。α−Si添加量は、前述の珪素粉末100重量部に対してα−Siを10〜30重量部とするのが好ましく、より好ましくは15〜20重量部とする。
【0016】
(b) 焼結助剤
珪素粉末に焼結助剤を添加することにより焼結性を良好にし、強度及び靭性に良好な焼結体とすることができる。焼結助剤としては、Al、Y、Yb、HfO、AlN、MgO、及び周期表のIIIa族元素の化合物等が挙げられる。これらの焼結助剤の平均粒径は0.1 〜5μmとするのが好ましく、特に0.1 〜3 μmとするのが好ましい。また焼結助剤の合計量は、用いる焼結助剤の種類によって多少変化するが、一般に、珪素粉末の量(Si換算値)に対して1 〜15重量%とするのが好ましい。焼結助剤の量が上記範囲の下限値未満であると焼結体の緻密化が進行せず、焼結体の強度及び靭性が低下する。一方上記の範囲の上限値を超す量の焼結助剤を添加すると、焼結体の高温強度が低下するので好ましくない。
【0017】
焼結助剤としてAl粉末及びY粉末を選択した場合には、珪素粉末の量(Si換算値)90〜98重量%に対して、Al粉末を5重量%以下、Y粉末を1〜10重量%とするのが好ましい。より好ましくは、Al粉末2重量%以下、及びY粉末2.5 〜7.5 重量%である。
また、別の好ましい実施例では、焼結助剤としてYと、MgO、CeO、BeO、Al、AlN、La、ZrO、Fe及びFeから選ばれた少なくとも1種との組み合わせを添加する。
【0018】
(c) バインダー
ワックス系バインダーを使用し、セラミック粉末50〜80vol %にバインダー20〜50vol %を混合する。ワックス系バインダーの例として、バインダー100 vol %中に、5 〜50vol %のマレイン化ワックスを含有したものが好ましい。マレイン化ワックスは、ポリオレフィンに無水マレイン酸を反応させてなる低分子量の共重合体に等量のパラフィンワックスを混合したものである。バインダー中のその他の成分は、パラフィンが50〜80vol %、ステアリン酸が5 〜30vol %、及び分散剤が2 〜20vol %であるのが好ましい。
【0019】
射出成形用セラミック混合物において、バインダーが50vol %を超えると脱脂性が低下して焼結体の密度が低くなる。また、バインダーが20vol %未満では材料の粘性が高すぎて成形性が悪い。好ましいバインダーの含有量は20〜40vol %である。
【0020】
〔2〕窒化珪素焼結体の製造方法
イ) 射出成形
まず、前記(a) 、(b) 及び(c) の成分を前記の配合比となるように混合する。これらの混合は、公知の方法、例えばボールミル、ニーダー等により行うことができる。
【0021】
射出成形法は、一般的には図2に示す工程で行うことができる。まず、常法に従って珪素粉末と焼結助剤とをボールミル混合し、乾燥後バインダーをブレンドする。バインダーが十分に流動化する温度に加熱した後、射出成形して成形体を得る。成形体からバインダーを除去した後、焼結により所望のセラミックス製品を得る。
【0022】
ロ) 窒化処理
次に、成形体を窒素含有雰囲気下で、成形体中の珪素粉末を窒化する。
【0023】
窒化処理では、成形体中の珪素の90%以上、好ましくは95%以上が窒化されて窒化珪素となるように、処理温度、窒素含有雰囲気の圧力及び処理時間を設定する。なお、本明細書において窒化の度合いは百分率で表すが、これは成形体の重量変化(成形体中のSiがSiに変化するのに伴う重量変化)から計算したものである。
【0024】
窒化処理の諸条件は、成形体の厚さ等により多少変更する必要があるが、処理温度は1250℃以上1500℃未満で行うことができる。また、窒素含有雰囲気の圧力は1kg/cm以上とするのが好ましい。温度が1250℃未満、又は窒素含有雰囲気の圧力が1kg/cm未満であると成形体中の珪素粉末の窒化が良好に進まない。一方、1500℃以上の加熱温度とすると、Siが溶出したり、Siの気化が起こったりするので好ましくない。窒化処理の時間は、成形体の厚さ、窒化処理温度等により多少変化するが、一般に1〜10時間程度とする。より好ましくは、窒化処理の温度は1350〜1450℃であり、窒素含有雰囲気の圧力は5〜2000kg/cmである。
【0025】
以上の条件で窒化処理を行うと、成形体中の珪素粒子は窒化されてα−Siを含むSiが生成される。珪素粒子が窒化され窒化珪素が生成されると成形体中の粒子は膨張し、これにより、成形体中に存在した空孔(粉末粒子間の空隙部)は大幅に減少する。
【0026】
ハ) 焼結
本発明においては、さらに、上述の窒化処理後の成形体を1700℃以上、好ましくは1800〜2000℃の温度で、さらに好ましくは1900〜2000℃の温度で焼結する。焼結温度が1500℃未満であると、焼結体の強度及び靭性が低下する。焼結は非酸化性雰囲気下、好ましくは窒素ガス雰囲気下で行う。このとき、雰囲気ガス圧は5〜2000kg/cm程度とするのが好ましい。また、焼結時間(1500℃以上に保持する時間)は1〜5時間程度とするのが好ましい。
【0027】
上述の温度範囲内で焼結を行うことにより、先の窒化処理により生成されたα−Si粒子が針状のβ−Si結晶粒子に変化する。このように針状のβ−Si結晶粒子が密に生成すると、焼結体の強度、靭性が大幅に向上することになる。
【0028】
以下、本発明を具体的実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
参考例1
射出成形材料の粘性が低いとウエルドの発生を抑えることを確認するために、各種のバインダーを添加したセラミックス材料の粘度を比較した。図3に結果を示す。横軸は剪断速度(1 /秒)、縦軸は剪断抵抗であり、図中、Aは15vol %のマレイン化ワックスを添加した場合、Bは5vol%のEVA (エチレン酢酸ビニル共重合体)を添加した場合、Cは10vol %のEVA (エチレン酢酸ビニル共重合体)を添加した場合、Dは無添加の場合を示す。図3から明らかなようにマレイン化ワックスを添加したセラミックス材料は粘度が低いので、流動性がよく、ウエルドの発生を抑えることができる。
【0029】
次に、ワックスW53vol %、ワックスW17vol %、マレイン化ワックスW15vol %、ステアリン酸W10vol %、分散剤W5vol%からなるバインダーについて、成形後の硬化状態を調べた。図4はバインダーのDSCデータを示す。図4に示す通り、成形後の冷却の段階で、W→W→W→Wの順で各ワックス成分が順に凝固し、硬化は緩やかであった。
各種バインダーの体積膨張率を測定し、結果を図5に示す。パラフィンは体積膨張率が大き過ぎ、一方EVA は体積膨張率が小さいが粘度が高すぎて好ましくない。マレイン化ワックスは体積膨張率がそれほど高くないので好ましい。
【0030】
実施例1
下記セラミック粉末を用いて、図2に示す射出成形プロセスを実施した。
珪素粉末(平均粒径30μm) 50.4重量%(1)
珪素粉末(平均粒径3.4 μm) 21.6重量%(1)
Si粉末(平均粒径0.3 μm) 13.3重量%
粉末 (平均粒径1.4 μm) 10.3重量%
AlN粉末 (平均粒径2.0 μm) 4.4 重量%
注(1) Si換算値。
得られた粉末混合物を80重量%のエタノールと混合し、18時間ボールミル混合した。得られた混合物をロータリーエバポレータにより乾燥し、次いで68重量%のパラフィン(Pa−135 )、16.5重量%の酸化ワックス(LUVAX )、10.5重量%のステアリン酸、及び5.0 重量%の分散剤からなるワックスバインダーを4時間加圧ニーダーによりブレンドした。得られたブレンドを6kg/cmで射出成形し、300℃の真空中で3時間次いで500 ℃の空気中で1時間脱脂した。脱脂後、成形体を図6に示す温度パターンに従って、80%の窒素と20%の水素からなる雰囲気中で9kg/cmで窒化し、次いで図7に示す温度パターンに従って焼結した。
【0031】
脱脂体は1.85〜2.0 g/cmの密度を有し、焼結体は95.2%(理論密度比)の密度を有していた。脱脂体から焼結体まで焼結収縮率は4.6 %であった。焼結体の曲げ強度は、室温で491 MPa であり、1300℃で479 MPa であった。
【0032】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の方法によれば、ワックス系のバインダーを用いることにより低圧で射出成形ができ、得られる焼結体の収縮率も小さいので、特に複雑な形状のセラミック部材に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成形体の製造に用いる珪素粉末混合物の粒度分布を概略的に示すグラフであり、(a) は二山分布を示し、(b) は三山分布を示す。
【図2】本発明の射出成形工程を含む焼結体の製造プロセスを示すフローチャートである。
【図3】種々のバインダーを使用した時の粘性を示すグラフである。
【図4】種々のバインダー用ワックスの融点を示すグラフである。
【図5】種々のバインダーの体積膨張率を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施例におけるセラミックス成形体を窒化処理する際の温度と時間との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施例におけるセラミックス成形体を焼結処理する際の温度と時間との関係を示すグラフである。

Claims (3)

  1. (a) 実質的に異なる粒径分布領域を有する2種類以上の珪素粉末を混合した平均粒径が5〜300μmの混合珪素粉末Si 3 N 4 粉末と、焼結助剤粉末とワックス系バインダーとを前記バインダーが 50 20 vol %となるように混合し、(b) 射出圧2〜 10 kg cm 2 射出成形により成形体を作製し、(c) 前記成形体を脱脂し、(d) 脱脂した成形体を窒素含有雰囲気下で加熱して窒化し、さらに(e) 1700℃以上で焼結することを特徴とする窒化珪素反応焼結体の製造方法。
  2. 請求項に記載の窒化珪素反応焼結体の製造方法において、前記バインダーがマレイン化ワックスを含んでいることを特徴とする窒化珪素反応焼結体の製造方法。
  3. 請求項1又は2に記載の窒化珪素反応焼結体の製造方法において、平均粒径が20〜50μmの第一の珪素粉末と、平均粒径が2〜5μmの第二の珪素粉末とを混合することを特徴とする窒化珪素反応焼結体の製造方法。
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