JP3562374B2 - 圧延方法及び圧延設備 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧延方法及び圧延設備とに係わり、特にストリップに付与される張力を、より高精度に制御する圧延方法及び圧延設備に関する。
【0002】
【従来の技術】
ストリップと呼ばれる板材を圧延する通常の圧延設備においては、ストリップを巻き出す巻出し機と、巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とが備えられている。また、圧延パスの方向で区別すると、タンデムミルの様に圧延方向が常に一方向であるワンウェイミルと、圧延方向がパス毎に逆転するレバースミルとがある。
【0003】
これらの圧延設備では、圧延操業上で、ストリップの蛇行防止,板厚精度向上,板平坦度向上,巻取りコイル姿安定化等の目的で、ストリップに張力が付与される。
【0004】
このような張力制御の例として、「我が国における最近のコールドストリップ設備及び製造技術の進歩」(財団法人,日本鉄鋼協会,特別報告書,No.26,昭和52年4月発行)があげられる。この73頁の図2・3・21に、圧延方向がパス毎に入れ替わるレバースミルでの制御結線図が示されている。この例では、圧延機(主ロール)の両サイドに、一台ずつ、巻き取りと巻き出しの両方の機能を持つリール(RL;reel)を圧延機の左右に設置し、これらの巻き取り・巻き出し機に、上記で述べた張力制御を適用している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような技術では、圧延操業時の種々の外乱に対し、出来る限り張力を一定に保つ必要がある。例えば、もし張力が変動すると、圧延後の板厚を一定に保つ機能を持つ自動板厚制御(AGC)への外乱となってしまい、板厚が変化して圧延製品としての品質が低下するからである。また、張力が変動すれば、巻き取り機に巻かれるコイルの巻き姿が崩れたり、表面性状が均一でなくなったりする危険がある。このため、従来より、ストリップに付与される張力を一定に保つための電気的制御が導入されている。
【0006】
その電気的張力系制御は、例えば、巻き取り機を駆動する電動機に負荷する電流を制御して(ACR)、出力トルクを制御して、張力を制御する方法、及び、巻き取り機を駆動する電動機の回転速度を制御して(ASR)、張力を制御する方法、の二つがあげられる。更に、これらの張力制御の精度や応答性を向上させる為、実際に付与されている張力を張力計(TMR)で実測し、もし、目標値に対して誤差が生じている場合は、ACRあるいはASRを修正制御する方法(ATR)があげられる。
【0007】
この時、いずれの制御方式を取るにせよ、巻き取り機と圧延機とは、ストリップによって繋がった、いわば、質点とバネ系をなしているから、余りにそれらの応答性を上げ過ぎると、逆に過制御となって、逆に張力系のハンティングを引き起こすので、電気的制御では、ある程度以上に応答性を上げる事は出来ないのが現実であった。
【0008】
例えば、従来、可逆圧延設備での右リールと左リールとには、全く同じ張力制御方式が適用されてきた。即ち、ある圧延パス方向で、巻き出し側となる巻き取り・巻き出し機と、巻き取り側になる巻き取り・巻き出し機とで、従来、同じ張力制御方式が採用されている。
【0009】
一方、従来のタンデムミルの様な一方向ミルでも、従来、入側と出側で、同様の張力制御を適用している。
【0010】
また、製品の板厚精度の点でも、圧延機入側,出側の張力精度は、共に重要であり、いずれの張力も、同様に制御すべきであると考えられてきた。
【0011】
このような従来の制御方式、例えば、可逆圧延設備では、巻き出し側,巻き取り側で、同様の張力制御方式で制御する場合、板厚精度を向上するために制御の応答性を速めようとすると、巻き取り側で張力系のハンチング等の不安定現象が生じる可能性があった。
【0012】
本発明の目的は、制御の応答性にかかわらず、張力系のハンチング等の不安定現象を抑制する圧延方法及び圧延設備を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の圧延方法は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性よりも速くなるように、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする
【0014】
或いは、本発明の圧延方法は、ストリップの巻き出し及び巻き取りを行う第1の巻出し・巻取り機と、ストリップの巻き出し及び巻き取りを行う第2の巻出し・巻取り機と、前記第1の巻出し・巻取り機或いは第2の巻出し・巻取り機から巻き出された夫々進行方向の異なるストリップを圧延する圧延機とを備えた圧延設備の圧延方法において、前記第1の巻出し・巻取り機或いは第2の巻出し・巻取り機から巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延されて前記第2の巻出し・巻取り機或いは第1の巻出し・巻取り機該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系とで、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御する工程を有し、巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする。
【0015】
或いは、本発明の圧延方法は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを板厚制御しながら圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系とで、前記巻出し機から巻き出されるストリップに付与される張力を制御する制御系の方が制御の応答性が速くなるようにして制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記板厚制御系への干渉を抑制し、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする。
【0016】
或いは、本発明の圧延方法は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを板厚制御しながら圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性よりも速くなるように、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記板厚制御系への干渉を抑制し、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする。
【0017】
或いは、本発明の圧延設備は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備え、 前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記第一及び第二の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする。
【0018】
或いは、本発明の圧延設備は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた可逆式の圧延設備であって、前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、圧延方向毎に前記第一及び第二の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする。
【0019】
或いは、本発明の圧延設備は、ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた一方向圧延する圧延設備であって、前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される入側張力を制御する入側制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される出側張力を制御する出側制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記入側及び出側の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明では、圧延機の入側と出側とで制御性能を異なるようにする。例えばレバースミルでは、パスが切り替わる毎に、そのパスの入側になる方の巻き取り・巻き出し機での張力制御性能を、出側のそれよりも高くするように切り替える。これにより、結果的に、入出側の実質張力変動は、同程度に抑える事が出来るようになる。
【0027】
また、一方向ミルでは、仮にもし従来、入出側で異なるべきと考えられたとしても、巻き取り側で応答性を上げるべきと考えたと思われるが、本発明ではそれとは反対に、巻き出し機の張力制御性能を、巻き取り機のそれよりも高くする。これにより、出側の過制御を防止しながら、入側の張力変動も抑える事が出来、従来より優れた板厚精度が達成できる。
【0028】
本願の発明者は、近年のより厳しい板厚精度や、より安定した圧延操業が、従来の張力制御では、実現出来ない事を見い出した。
【0029】
そして、その原因を究明した結果、巻き取り機や巻き出し機に負荷される張力制御方式やその性能とは異なる張力変動原因が、圧延現象に伴い存在し、実際の張力は、入側と出側とで、変動する状況が大きく異なる事を見い出した。
【0030】
より具体的には、圧延現象によって、入側の張力変動が、出側のそれよりはるかに大きく発生し、従って、入出側で同じ性能を持つ張力制御方式や、出側でより高い性能を有する張力制御方式では、入出側両方の張力を、共に同時に精度良く保持することが困難である事を見い出した。しかも、この時悪い事に、ストリップの板厚精度を、より大きく低下させるのは、入側の張力変動であり、従って、従来の方式では、今後の更なる板厚精度向上に、大きな支障となる事を見い出した。
【0031】
ここで、上記にある、圧延機出側に比して、入側での張力変動が、板厚精度をより大きく低下させてしまう理由を、圧延現象に伴う張力変動や板厚変動の関係で、理論的に証明する。
【0032】
図3は、圧下率rの変動による、先進率fと後進率bの変化を示した一例で、圧延理論計算により求めたものである。ここで、圧下率r=(入側板厚−出側板厚)/入側板厚であり、先進率f=(圧延機出側板速度−ロール周速度)/ロール周速度であり、後進率b=(ロール周速度−圧延機入側板速度)/ロール周速度である。また、計算に用いた主な条件は、出側板厚0.7mm ,板幅1000mm,作業ロール直径Dw100mm,入側,出側張力20kg/mmなどである。
【0033】
この図3の結果によれば、圧延中、通常入側板厚が変動し、出側の板厚を一定に保つべく、rが25%から30%まで変動すると、先進率fは、ほとんど変動していない。これに対して、後進率bは大きく変動することが分る。
【0034】
このことは上式によれば、圧下率rの変化で、出側板速度はほとんど変動しないのに対して、入側板速度は大きく変動する事を意味する。
【0035】
次に、出側張力Tfと、入側張力Tbは、理論的に次の式で与えられる。
【0036】
Tf∝∫(巻き取り機上の板速度−圧延機出側板速度)dt …(1)
Tb∝∫(圧延機入側板速度−巻き出し機上の板速度)dt …(2)
ここに、∫( )dtは、( )内の時間積分を示し、∝は以下の値に比例する事を示す。
【0037】
これらの式によれば、巻き取り機や巻き取り機上の板速度が変動しないでも、圧延機入出側の板速度が変化すれば、張力は変動する事が分る。
【0038】
さらに、図4は、入側張力Tbと出側張力Tfによる圧延荷重Pの変化を示すものである。圧延荷重Pは出側張力Tfが4kg/mm変わったのに対して5tonしか変動しない。これに対して、入側張力Tbが4kg/mm変化すると15tonと大きく変動することが分る。
【0039】
この事は、圧延中、入側張力Tbの変動の方が、より大きく圧延荷重Pを変動させ、従って自動板厚制御(AGC)に対し、より強い外乱となりうる事を示している。
【0040】
図5は、作業ロールの直径Dwによって、b/fの値がどう変わるかを示したものである。この結果によると、Dwが300mm以下になると、b/fの値が急激に大きくなり、したがって、小径の作業ロールを有する圧延機で、より大きくbが変動する事が分る。
【0041】
以上を纏めると、圧延中、入側板厚の変動により、圧下率が変わると、圧延機出側に比して、入側では、はるかに大きな板速度の変動が起こり、そこでより大き張力変動が起こり、より大きな圧延荷重変動を起こして、自動板厚制御への外乱となり結果として板厚精度を低下させてしまうことになる。
【0042】
しかもこの時、作業ロールの直径の小さな小径作業ロールを備えた圧延機ほど、上記の変動が起こる。
【0043】
上記したように、圧延機の出側では、圧延現象上、張力は比較的速い応答性を出せる状況にあり、電気的制御性能がたとえ劣っていても、全体として出側の張力保持が容易であり、逆に、余りに性能を上げ過ぎると、過制御となり、ハンティングを引き起こしかねない。
【0044】
これ対して入側では、圧延現象によって、張力制御の応答性を、大きく阻害する状況にあり、しかも、入側張力の変動は出側のそれに比して、はるかにおおきな板厚変動を引き起こすから、出来る限り高性能な張力制御を、入側に適用しなければならない。
【0045】
この結果、圧延機の入出側での張力制御の方式や性能は、出側の性能を抑えながら、入側の性能を高くするという、従来と全く異なる方法を取らなければならない。
【0046】
前記したように、張力を制御する方式としては、ACR(自動電流制御系あるいは自動トルク制御系),ASR(自動回転速度制御系),ATR(自動張力制御系)があり、更にそれらの詳細を見れば、制御理論によって、微分方式(微分制御要素),比例方式(比例制御要素),積分方式(積分制御要素)、あるいはその他の方式や、それらの組み合わせ方式等が考えられ、それぞれ、制御応答性には差があり得る。また同じ方式でも、その中に使われている制御ゲインの値によっても、制御の応答性は異なりうる。
【0047】
本発明の要点は、これらの制御方式を規定するのではなく、あくまで圧延機の入出側で、その応答性を異にする事にある。
【0048】
そして、圧延機の入出側で、その応答性を異にする事によって、自動板厚制御への外乱を抑制し、結果として、板厚精度の低下を抑制することができる。また、制御性能を上げても、過制御となることを抑制し、ハンティング現象等を抑制することができる。また、板厚制御系への干渉を抑制することができる。
【0049】
(実施例1)
図1に本発明による可逆式圧延設備の実施例を示す。
【0050】
圧延機1の両側に巻き取り・巻き出し機2,3が設置されており、ストリップ4は、巻き取り・巻き出し機2,3上に巻かれている。
【0051】
圧延機1は、巻き取り・巻き出し機2,3を利用して、右方向にも左方向にも圧延が可能である。圧延機1は電動機5により、巻き取り・巻き出し機2,3はそれぞれ電動機6,7により駆動されている。
【0052】
圧延速度は、圧延指令装置10から圧延速度指令信号12として指令され、電動機5の駆動速度を制御する。また、圧延指令装置10からは、巻き取り・巻き出し指令装置11へも圧延速度指令信号13が伝えられ、更に巻き取り・巻き出し指令装置11から、巻き取り・巻き出し機の電動機6,7へ、巻き出し、あるいは巻き取り速度や、負荷すべき張力の大きさの指令14,15が指示される。更に、圧延機1の左右にはストリップ4に負荷されている張力を実測する張力計9が設けられ、その実測値である張力信号16は巻き取り・巻き出し指令装置11に伝達され、そこからの指令14,15を修正するために使われる。
【0053】
そして本実施例において右行き圧延の例で見ると、巻き取り・巻き出し指令装置11から、右側の巻き取り・巻き出し機3に対して、巻き取り指令である速度・張力指令15が出され、巻き取り張力をある値一定に保つべく、ATR制御が行なわれる。一方、左側巻き取り・巻き出し機に対しては、巻き出し指令である速度・張力指令14が出るとともに、張力を一定に保つべく、ATR制御が行われる。
【0054】
さて、本実施例においては、巻き取り・巻き出し指令装置11に、右行きと左行きとで、電動機6,7へは異なる張力応答性のATRを指示する機能が持たれている。
【0055】
即ち、右行き圧延の時には、圧延速度は右側の方が速いにもかかわらず、本発明では、右へのATR制御指示である速度・指力指令15よりも、左側へのATR制御指示である速度・指力指令14の方が、より速い応答性を有するように、指示される。
【0056】
例えば、出側である右側の速度・張力指令15には、過応答性を防止しつつ張力制御精度を確保すべく、積分制御が用いられる。これに対して入側である左側の速度・張力指令14には、積分制御に加えて、更に制御応答性を高めるべく比例制御も適用される。
【0057】
次のパスになり、圧延方向が逆転すると、圧延指令装置10から、圧延方向逆転の圧延速度指令信号13が巻き取り・巻き出し指令装置11に届けられ、これにしたがって右行き時とは逆の指令が巻き取り・巻き出し指令装置11から、左右の巻き取り・巻き出し機2,3に指示される。
【0058】
なお、本実施例では、ATR制御を用いて説明したが、前述したように、ASR制御,ACR制御等を適用したり、これらを組み合わせたりしても良い。また、本実施例では応答性を異ならしめる要素として、比例制御を用いたが、微分制御や積分制御等を適用したり、それらを組み合わせたり、制御ゲインの値を変化させたりしても良い。
【0059】
ここで、ストリップ4の自動板厚制御は、板厚計21,22による実測値に基づき、自動板厚制御装置23からの圧下位置指令が、圧延機1の圧下装置24へ伝達される事によって行われる。
【0060】
この実施例では、スタンド数が2スタンド以上の可逆式圧延設備でもよいし、また張力制御の応答性を上下する方法であればどのような方式を組み合わせても構わない。
【0061】
本実施例によると、巻出し機から巻き出され、圧延機に導かれるストリップに付与される張力を制御する制御系と、圧延機で圧延され、巻取り機に巻き取られるストリップに付与される張力を制御する制御系とで、制御の応答性を異ならせてストリップの張力を制御して圧延機にてストリップを圧延するので、制御の応答性にかかわらず、張力系のハンチング等の不安定現象を抑制することができる。
【0062】
また、本実施例によると、巻出し機から巻き出され、圧延機に導かれるストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性が、圧延機で圧延され、巻取り機に巻き取られるストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性よりも速くなるように、制御の応答性を異ならせてストリップの張力を制御して圧延機にてストリップを圧延するので、制御の応答性にかかわらず、張力系のハンチング等の不安定現象を抑制することができる。
【0063】
(実施例2)
図2は本発明による他の実施例で、一方向圧延設備の例である。
【0064】
圧延機は1,1Aの2スタンドからなり、それぞれ電動機5,5Aにより駆動されている。また、その左側に巻き出し機2とそれを駆動する電動機6が設置されており、右側には巻き取り機3とその電動機7が配されている。更に、巻き出しき2,圧延機1,1A,巻き取り機3の間にはストリップ4の張力を実測する張力計8,8A,9が配されている。
【0065】
圧延速度指令信号12,12Aは、圧延指令装置10から電動機6,6Aへ伝えられる。また、圧延指令装置10からは、巻き取り・巻き出し指令装置11へも圧延速度信号13が伝えられ、更に巻き取り・巻き出し指令装置11から、巻き取り機3や巻き出し機2の電動機7へ、巻き出し、あるいは巻き取り速度や、負荷すべき張力の大きさの指令14,15として伝えられる。またこの時、張力計8,9から実測値である張力信号16が、指令装置11を経由して、巻き取り張力用のATR制御信号である速度・張力指令15と巻き出し用のATR制御信号である速度・張力指令14に使われる。
【0066】
なお、張力計8Aの信号17は、圧延指令装置10に伝えられ、更に圧延機電動機5,5Aの速度制御等に使われる。
【0067】
さて、この一方向圧延設備においても、本発明では、巻き取り・巻き出し指令装置11は、電動機6,7へ異なる張力応答性のATR指令である速度・張力指令14,15を指示する機能を持っている。
【0068】
即ち、圧延速度は右側の方が速いにもかかわらず、本発明では、右へのATR制御指示である速度・張力指令15よりも、左側へのATR制御指示である速度・張力指令14の方が、より速い応答性を有するように、指示される。
【0069】
例えば、出側である右側指令である速度・張力指令15には、過応答性を防止しつつ張力制御精度を確保すべく、積分制御が用いられる。これに対して入側である左側指令である速度・張力指令14には、積分制御に加えて、更に制御応答性を高めるべく比例制御も適用される。この実施例では、スタンド数が2スタンド以上の一方向圧延設備でもよい。
【0070】
このように本実施例によれば、圧延機入出側の張力をそれぞれ、従来より優れた精度で制御出来、圧延設備の安定した操業と、より優れたストリップ製品品質を提供出来る。
【0071】
なお、本発明は、圧延機のスタンド数や形式や、巻き取り,巻き出し機の台数などによらず成り立つ事は、自明である。
【0072】
また、圧延機の作業ロールが小径になるほど、先進率より後進率は大きくなるから、ますます入側張力変動が増加しやすくなる事を考えると、本実施例では、小径作業ロールを有する圧延機に適用することによりより顕著な効果が期待できる。
【0073】
なお、図示しないが、本実施例でも、図1に示したような自動板厚制御が適用される。
【0074】
(実施例3)
図6に本発明に用いられる巻き取り・巻き出し指令装置11が有するATR機能の実施例を示す。張力指令装置18は、張力目標値19を設定し、これと実測値である張力信号16との張力偏差値20を用いて、圧延速度指令信号13に基づき、最終的には、速度・張力指令14,15を決定する。Kp6,Ki6,
Kp7,Ki7はそのための制御ゲインであり、それらの値も、張力指令装置
18により設定される。
【0075】
Kp,Kiはそれぞれ比例制御,積分制御のゲインであり、1/sは積分要素を示す。また添え字6,7はそれぞれ 電動機6,7へ対応するものである。
【0076】
本実施例では、例えば、右行き圧延でも左行き圧延でも、応答性の遅い積分制御のゲインKi6とKi7は同じ値に設定されてもよいが、速い応答性を得られる比例制御の張力制御ゲインKp6,Kp7については、圧延の方向により異なる値が設定される。
【0077】
例えば、右行きの場合、出側張力の過制御を避けるとともに、入側張力はより高い応答性で制御すべく、Kp6は大きな値に、Kp7は0、あるいはほとんど0に近い値に設定される。
【0078】
レバースミル(可逆圧延機)では、圧延方向が逆転した場合は、速度指令13により、張力指令装置18から、上記右行きと反対のKp6,Kp7の値が指示される。
【0079】
以上のように、張力指令装置18によって異なる応答性に切換えることができる。即ち、この切換手段によって、圧延方向が変化しても、容易に、出側張力の制御応答性より入側張力の制御応答性を高くすることができる。即ち、圧延方向が変わるたびに張力指令装置18によって、出側張力の制御応答性より入側張力の制御応答性が高くなるように指令を送り、容易に、出側張力の制御応答性より入側張力の制御応答性を高くすることができる。つまり、可逆圧延設備で、容易に、張力系のハンチング現象等の不安定現象を抑制し、板厚精度向上を図ることができる。
【0080】
(実施例4)
図7は本発明により、圧延パス途中で張力制御の応答性を変更するタイミングを示した図である。図のごとく圧延作業のあるパスでは、通常、低速から圧延を開始し、次第に加速して最高速度となり、その後減速して1パスが完了する。レバースミルでは、その後圧延方向を逆転して後続の圧延を行い、一方向ミルでは、同じ方向の圧延が続行される。
【0081】
この時、前述の(1)と(2)式から明らかな様に、たとえば、高速圧延時ほど張力は変動しやすくなるから、圧延速度が高くなるほど、特に巻き出し側の張力制御の応答性を、より高くしなければならない。
【0082】
本実施例では、圧延速度指令信号13を基に、図7の時間Toになると、それ以降の高速圧延での張力制御に適した制御ゲインが、張力指令装置18により変更される。特に、巻き出し側の制御ゲインが適切に変更される。
【0083】
なお、張力制御の制御ゲインを変更しなければならない要因は、上記した圧延速度が挙げられるが、その外、例えば、巻き出し機上のコイルの大きさ、すなわち、慣性モーメントも刻々変化するから、これらの要因を考慮して、適切に制御ゲインが変更されなければならない事になる。
【0084】
【発明の効果】
本発明によると、制御の応答性にかかわらず、張力系のハンチング等の不安定現象を抑制する圧延方法及び圧延設備を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である可逆式圧延設備構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例である一方向圧延設備構成を示す図である。
【図3】圧下率rによる先進率fと後進率bの変化を示す図である。
【図4】作業ロール径Dwによるb/fの変化を示す図である。
【図5】入側張力Tbと出側張力Tfによる圧延荷重Pの変化を示す図である。
【図6】本発明による 巻き取り・巻き出し指令装置の機能の実施例を示す。
【図7】本発明を実施する圧延パス途中での張力制御の応答性を変更するタイミングの実施例である。
【符号の説明】
1…圧延機、2,3…巻き取り・巻き出し機、4…ストリップ、5…圧延機駆動電動機、6,7…巻き取り・巻き出し機駆動電動機、8,9…張力計、10…圧延指令装置、11…巻き取り・巻き出し指令装置、12,13…圧延速度指令信号、14,15…速度・張力指令、16,17…張力信号、18…張力指令装置、19…張力目標値、20…張力偏差値、21,22…板厚計、23…自動板厚制御装置、24…圧下装置、ACR…自動電流制御、ATR…自動張力制御、r…圧下率、f…先進率、b…後進率、Tf…出側張力、Tb…入側張力、P…圧延荷重、Dw…作業ロール径、Kp6,Ki6,Kp7,Ki7…張力制御ゲイン、To…張力制御の応答性を変更するタイミング。

Claims (15)

  1. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、
    前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性よりも速くなるように、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  2. ストリップの巻き出し及び巻き取りを行う第1の巻出し・巻取り機と、ストリップの巻き出し及び巻き取りを行う第2の巻出し・巻取り機と、前記第1の巻出し・巻取り機或いは第2の巻出し・巻取り機から巻き出された夫々進行方向の異なるストリップを圧延する圧延機とを備えた圧延設備の圧延方法において、
    前記第1の巻出し・巻取り機或いは第2の巻出し・巻取り機から巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延されて前記第2の巻出し・巻取り機或いは第1の巻出し・巻取り機該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系とで、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御する工程を有し、
    巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の圧延設備の圧延方法において、前記ストリップの張力を制御する制御系は、前記巻出し機、或いは、第1の巻出し・巻取り機を駆動する電動機の自動電流制御系、或いは自動トルク制御系を含んでいることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  4. 請求項1又は請求項2に記載の圧延設備の圧延方法において、前記ストリップの張力を制御する制御系の制御の応答性を異ならせるものとして、前記制御系のゲインの変更、又は、比例制御要素、或いは、積分制御要素、若しくは、微分制御要素を加算するものであることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  5. 請求項1又は請求項2に記載の圧延設備の圧延方法において、前記圧延機として少なくとも1基以上の圧延機にて前記ストリップを圧延するものであることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  6. 請求項1又は請求項2に記載の圧延設備の圧延方法において、
    巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延され、巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系のうち、巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系にストリップを自動速度制御する制御系を適用することにより、前記圧延機に導かれるストリップの張力を制御して前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  7. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを板厚制御しながら圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、
    前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系とで、前記巻出し機から巻き出されるストリップに付与される張力を制御する制御系の方が制御の応答性が速くなるようにして制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記板厚制御系への干渉を抑制し、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  8. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを板厚制御しながら圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた圧延設備の圧延方法において、
    前記巻出し機から巻き出され、該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され、該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系の制御の応答性よりも速くなるように、制御の応答性を異ならせて前記ストリップの張力を制御して前記板厚制御系への干渉を抑制し、前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  9. 請求項7又は請求項8に記載の圧延設備の圧延方法において、前記ストリップの張力を制御する制御系は、前記巻出し機、或いは、第1の巻出し・巻取り機を駆動する電動機の自動電流制御系、或いは、自動トルク制御系であることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  10. 請求項7又は請求項8に記載の圧延設備の圧延方法において、前記ストリップの張力を制御する制御系の制御の応答性を異ならせるものとして、前記制御系のゲインの変更、又は、比例制御要素、或いは、積分制御要素、若しくは、微分制御要素を加算するものであることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  11. 請求項7又は請求項8に記載の圧延設備の圧延方法において、前記圧延機として少なくとも1基以上の圧延機にて前記ストリップを圧延するものであることを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  12. 請求項7又は請求項8に記載の圧延設備の圧延方法において、
    巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系と、前記圧延機で圧延され、巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系のうち、巻き出されて該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する制御系にストリップを自動速度制御する制御系を適用することにより、前記圧延機に導かれるストリップの張力を制御して前記圧延機にてストリップを圧延することを特徴とする圧延設備の圧延方法。
  13. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備え、
    前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記第一及び第二の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする圧延設備。
  14. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた可逆式の圧延設備であって、
    前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される張力を制御する第一の制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される張力を制御する第二の制御系の制御の応答性よりも速くなるように、圧延方向毎に前記第一及び第二の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする圧延設備。
  15. ストリップを巻き出す巻出し機と、該巻出し機から巻き出されたストリップを圧延する圧延機と、該圧延機で圧延されたストリップを巻き取る巻取り機とを備えた一方向圧延する圧延設備であって、
    前記巻出し機から巻き出され該圧延機に導かれる前記ストリップに付与される入側張力を制御する入側制御系の制御の応答性が、前記圧延機で圧延され該巻取り機に巻き取られる前記ストリップに付与される出側張力を制御する出側制御系の制御の応答性よりも速くなるように、前記入側及び出側の制御系に指令を送る指令装置を設けたことを特徴とする圧延設備。
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